説明

車体の取付構造

【課題】重量、剛性、歩行者頭部保護性能に優れ、かつ優れた外観意匠面を安価にて達成する繊維強化樹脂製自動車ボンネット部品を搭載した自動車を提供することにある。
【解決手段】車体にボンネットを取り付ける車体の取付構造であって、アウター部材とインナー部材からなる炭素繊維強化樹脂製ボンネットを車体に対して剛接合する箇所を有することを特徴とする車体の取付構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコストに優れ、必要な剛性を持ち、かつ軽量性を両立することを実現する自動車用ボンネットを用いた自動車の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物、輸送機器や情報機器等のあらゆる構造体において、高い外観品位、剛性、強度の他にも軽量であることが強く求められている。特に輸送機器においては、軽量化によって大幅なエネルギー消費量および二酸化炭素排出量の削減が見込まれることから、剛性、強度を満足すると共に軽量化を達成することが大きなメリットとなってきている。
【0003】
輸送機器分野の中でも特に自動車においては、軽量化により燃料消費率を低減することが、経済性及び二酸化炭素排出等の環境負荷の両面から強く求められているとともに、外観品位や強度を満足しつつ、かつ必要な剛性および軽量化を達成することが求められており、これらの性能を獲得するために、種々研究開発がなされている。
【0004】
これらの要求に対して、例えば特許文献1では、自動車外板部品として、ボンネットを炭素繊維強化樹脂(以降、「CFRP」と称することもある)製とする手段が開示されている。本技術では、外表面を形成するアウターと、主に構造剛性を司るインナーがCFRP製で構成されており、高い剛性および強度を持ち、さらに優れた軽量性を獲得することが出来るとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、自動車用パネル、特にボンネットの締結構造については言及していない。一般に、自動車用ボンネットは前後に開閉機能を備えている。前部分はフック機構およびストッパーゴムによる固定手段を用いているので、車両前後並進方向と座標3軸の回転に関しては、ほぼ拘束されない固定方法となっている。また、後部分の固定手段はヒンジ回転機構に取り付けられており、車両幅方向の回転は拘束されていない。さらに、後部分はヒンジ部品自身の変形もあることから、上述の前部分の固定条件と相まって、ボンネットの車両への取付剛性は低いものとなっている。したがって、CFRP製ボンネットは、ボンネット自身の剛性、軽量化としては利点を持つものの、車両構造メンバーとしては扱われていないことから、自動車全体への剛性寄与、更には剛性寄与による自動車構造の最適化、軽量化には貢献していない。
【0006】
また、特許文献2においては、ボンネット周縁部を取り外し可能な締結手段により取付けることを特徴とする車体のボンネット取付構造が開示されている。ボンネットによる補剛効果を実現するためには、剛接合となる締結手段が必要であり、取り外し可能な締結手段だけでは補剛効果としては十分とは言えない。また、アウターとインナーに分割可能なボンネットによる取付構造についても言及がなされているが、補剛効果を高めるためには、アウターとインナーは剛結合もしくは一体構造とするほうが、剛性を司る断面2次係数が飛躍的に上昇することから望ましく、分割構造は十分に補剛効果を発現させることが困難である。
【0007】
また近年、自動車用ボンネットとしては、軽量化を目的としてアルミ製が採用されることもあるが、固定方法は前述と同様な前部分・後部分で構成されており、車両剛性への寄与は特許文献1と同様に極めて少ない。またボンネット自体についても、金属製の場合には、アウターが外周ヘミング曲げおよび内側部のマスチック弾性接着剤によってインナーに取り付けられており、アウターのボンネット剛性/強度への寄与度は低く、インナー構造剛性に強く依存している。
【特許文献1】特開2002−284038号公報
【特許文献2】特開2002−37126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、ボンネットに要求される剛性、強度等と共に、高い外観品位、軽量性、低コストであることを満たすことができるボンネットを用いて、車両剛性に寄与できる車体の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に関わる自動車用ボンネット部品は、以下の構成からなる。すなわち
(1)車体にボンネットを取り付ける車体の取付構造であって、アウター部材とインナー部材からなる炭素繊維強化樹脂製ボンネットを車体に対して剛接合する箇所を有することを特徴とする車体の取付構造。
【0010】
(2)前記ボンネットは、前記アウター部材と前記インナー部材とが一体成形されてなることを特徴とする(1)に記載の車体の取付構造。
【0011】
(3)ボンネット左右の外縁部に少なくとも1箇所以上ずつ剛接合する箇所を含めて、前記車体に剛接合箇所が少なくとも2箇所有すること特徴とする(1)または(2)に記載の車体の取付構造。
【0012】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載された車体の取付構造を備えた自動車。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ボンネットに要求される剛性、強度等と共に、高い外観品位、軽量性、低コストであることを満たすことができるボンネットを用いて、車両剛性に寄与できる車体の取付構造を提供することができる。
【0014】
具体的には、本発明に係わる自動車は、ボンネット部材を車両構造メンバーとして用いることができるようになり、自動車の構造剛性を向上させることができる。また従来、自動車前側部分の剛性向上手段として、タワーバー等の金属製やCFRP製の棒状部材にて左右前車輪の懸架装置取付部分等を接続して補剛効果を実現していたが、本発明によれば、これらを不要として軽量化に貢献し、更に従来は棒または板状であった補剛効果をボンネットの面状部材で発現することにより、飛躍的に補剛効果が増大する。これらは剛結合とする締結部分を増すことで更に高めることができ、左右前車輪の懸架装置間の剛性向上にとどまらず、ボンネット前後の斜め方向への締結箇所を設けることで特に車両前側の捻り剛性を向上させることが可能になり、これらボンネットの補剛効果による他周辺部品の剛性/重量の最適化によって、自動車の軽量化にも貢献することが可能である。
【0015】
また、これら自動車用ボンネットはCFRP製とすることでボンネット重量を低減し、車両軽量化への寄与を更に高めることが可能である。またインナー構造をハット型断面やL型/I型断面を持つスティフナ構造とすることで剛性を高め、更にアウターとインナーを接着することで構造材として強固に接合することにより、よりボンネットとしての剛性を高めることが出来ることから、より効果的に自動車の剛性/軽量性を発現させることができる。インナー構造においては、前述のスティフナ構造を剛接合箇所を繋ぐ様に配設することが、最も効果的であり、さらに繊維強化樹脂の繊維配向特性を生かし、剛接合箇所を繋ぐ方向へ繊維を配設することで、よりボンネットの補剛効果を高めることが可能になる。
【0016】
更には、CFRP製においては、アウターとインナーを一体成形とすることにより、ボンネットを一部材構成として簡素化しつつも、かつ車両の補剛効果を発現させることができることから、車両剛性および重量の最適化を更に進められ、剛性および軽量性に優れた自動車を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1、2は本発明の一実施態様に係わる車体の取付構造を示している。図1は自動車用ボンネット4の分解斜視図であり、外観面を形成するアウター部材1、アウター部材1の内側に位置するインナー部材2、インナー部材2の内側に設置される締結用金属部材3から構成されている。締結用金属部材3には締結用穴6が設けられている。図2は自動車用ボンネット4を車両5に取付けた斜視図である。
【0019】
本発明において剛接合とは、3次元座標系の移動3方向と回転3方向の全てを拘束することを意味しており、具体的にはボルト締結構造、リベット締結構造、接着構造、溶接/溶着構造などが挙げられる。
【0020】
本発明に係る車体の取付構造は、アウター部材1とインナー部材2からなるCFRP製の自動車用ボンネット4が剛結合されている箇所を有することを特徴とする。自動車用ボンネット4に剛結合されている箇所を設けることで、自動車用ボンネット4を介して車体の結合箇所間に強力な拘束力が働く。すなわち、自動車用ボンネット4が車両5の変形を抑制することができるようになり、自動車補剛部品として種々用いられているタワーバーやスタビライザーと呼ばれる部品と同様に、車体に対する補剛効果を発揮させることができる。
【0021】
アウター部材1およびインナー部材2は、共にCFRP製とすることが好ましく、繊維長が少なくとも20mm以上となる長繊維を用いたCFRPであることがより好ましい。より好ましくは、繊維長が十分に長い場合の材料強度値のおおよそ8割程度を確保するために50mm以上とするのが良い。なお製品生産性を良好に保つことと、製造コストの上昇を抑制するという観点を考慮すると、アウター部材1及びインナー部材2のいずれか一方が長繊維を用いたCFRPであり、他方が短繊維または樹脂からなる構造としても良い。
【0022】
炭素繊維の種類は必要に応じて選択して使用すれば良く、例えば糸弾性率が230GPa程度の汎用糸で構成されても良いし、より高弾性な糸を部分的もしくは全体に使用しても良い。また、炭素繊維の形態としては、同方向に引き揃えられた一方向材や、0度方向と90度方向に繊維が配設された平織りまたは綾織りや、種々方向に配設された一方向織物を重ね合わせた多層積層織物や、NCFと呼ばれるノンクリンプドファブリック等が挙げられる。
【0023】
ここで、自動車用ボンネット4に用いられる樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熟硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフイン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熟可塑性樹脂が挙げられるが、これらの中で、生産性と材料の強度、剛性特性に優れるという点で、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0024】
本発明における車体の取付構造に用いられる自動車用ボンネット4は、アウター部材1とインナー部材2が一体成形されていることが望ましい。これは、前述したように、一体成形することによって剛性を司る断面2次係数を上昇または維持しつつ、より軽量なボンネットを構成することが可能となるため、自動車用ボンネット4は車両剛性を担う部材(ストレスメンバー)として車体の補剛効果と軽量化を十分に発現することが可能となる。あわせて、アウター部材1もインナー部材2もCFRP製であるため、自動車全体の軽量化と剛性向上を更に両立することが可能となる。
【0025】
本実施態様におけるアウター部材1とインナー部材2は接着剤によって接着接合されており、アウター部材1の裏側外周部とそれに接するインナー部材2の面は全て接着されている。アウター部材1とインナー部材2の接合構成は、接着剤を用いることが好ましく、その中でも構造用接着剤もしくは弾性接着剤と呼ばれる物がより好ましく、例えば、ネオプレン−フェノリック、ビニル−フェノリック、ニトリル−エポキシ、エポキシ−フェノリック、ナイロン−エポキシ、変性エポキシ、ポリウレタン、アクリル、シリコーン、ポリサルファイド、弾性エポキシ、ビスマレイミド、ポリイミド、ポリベンズイミタゾール、セメント系、低融点ガラス、アルカリ金属シソケート、ホスフェート、エチレン酢酸ビニル、エチレンエチルアクリレート等が挙げられ、アウター部材とインナー部材の間の応力伝達がなされる構成が好ましい。
【0026】
本発明における車体の取付構造に用いられる自動車用ボンネット4は、剛接合箇所を少なくとも2箇所有し、ボンネットの左右辺の両方を少なくとも1箇所以上剛接合することが望ましい。これは、剛接合箇所を増やすことにより、より強固な締結となることから、車体の補剛効果がより増大するためである。車体全体の捻れ剛性を強化するためにも、締結箇所はボンネット左右辺の両方に設けることが適切である。その他にも例えば、自動車用ボンネット4の四隅固定、更にボンネット外周4辺の中間部分の固定を加えて8箇所固定とすること等が考えられる。剛接合箇所は車両特性に応じて、様々な構成が考えられるが、剛性と重量のバランスを考慮して、適時配置すれば良い。
【0027】
図3,4は本発明の別の実施態様に係わる車体の取付構造を示している。図3は本発明の別の実施態様における自動車用ボンネット4の斜視図を示しており、図4の(A)〜(E)は自動車用ボンネット4を構成するインナー部材2のスティフナ構造の種々実施例を示している。
【0028】
本実施態様における自動車用ボンネット4は、アウター部材1とインナー部材2が一体成形された構造からなり、ボンネット外表面12とその内部に構成されるスティフナ構造11から構成されている。また、剛接合箇所の締結用穴6は6箇所設けられており、本箇所を用いて車両へ取り付けられている。接合箇所の場所及び数については、それぞれの車両に要求される強度、剛性等を勘案して選択すれば良く、同様にスティフナ構造11の配置についても、図4の(A)〜(E)に示したように、それぞれの車両に要求される強度、剛性等を勘案して選択すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施態様に係る自動車用ボンネットの組立斜視図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る自動車の斜視図である。
【図3】本発明の別の実施態様に係る自動車用ボンネットの組立斜視図である。
【図4】本発明の実施態様に係るインナー部材に好適なスティフナ構造の一例(A)〜(E)を示す概略図である。
【符号の説明】
【0030】
1 アウター部材
2 インナー部材
3 締結用金属部材
4 自動車用ボンネット
5 車両
6 締結用穴
11 スティフナ構造
12 ボンネット外表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体にボンネットを取り付ける車体の取付構造であって、アウター部材とインナー部材からなる炭素繊維強化樹脂製ボンネットを車体に対して剛接合する箇所を有することを特徴とする車体の取付構造。
【請求項2】
前記ボンネットは、前記アウター部材と前記インナー部材とが一体成形されてなることを特徴とする請求項1に記載の車体の取付構造。
【請求項3】
ボンネット左右の外縁部に少なくとも1箇所以上ずつ剛接合する箇所を含めて、前記車体に剛接合箇所が少なくとも2箇所有すること特徴とする請求項1または2に記載の車体の取付構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された車体の取付構造を備えた自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−83252(P2010−83252A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252830(P2008−252830)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】