説明

車体の接着部構造

【課題】 簡単な構造で車体パネルの接着部からはみ出した低粘度接着剤の飛散を防止する。
【解決手段】 アッッパーパル15、ロアパネル16およびホイールハウス13を低粘度接着剤17を介して重ね合わせた状態でスポット溶接Wにより一体に結合すると、低粘度接着剤17を挟むロアパネル16およびホイールハウス13の端縁から低粘度接着剤17がはみ出すため、組み立てを完了した車体に水を噴射して洗浄する際に前記はみ出した低粘度接着剤17が飛散して車体表面に付着する虞がある。しかしながら、ロアパネル16およびホイールハウス13の端縁からはみ出した低粘度接着剤17を覆うように高粘度接着剤18を塗布したので、洗浄時に車体に噴射された水を高粘度接着剤18で遮って低粘度接着剤17の飛散を防止することができ、極めて簡単で低コストな構造で車体表面への低粘度接着剤17の付着を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の車体パネルを低粘度接着剤を介して重ね合わせた状態で結合手段により一体に結合する車体の接着部構造後に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体パネルをスポット溶接等で組み立てる場合に、結合される車体パネル間にエポキシ系樹脂よりなる熱硬化性接着剤を介在させることで、スポット溶接の溶接ピッチを拡大しながら充分な車体強度を得るようにしたものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開平9−309458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図5は上記車体パネルの結合手順を示すもので、ハット型断面を有する第1部材01の一対の結合フランジ01a,01bと、同じくハット型断面を有する第2部材02の一対の結合フランジ02a,02bとを低粘度接着剤03を介して重ね合わせ、第1部材01の結合フランジ01aと第2部材02の結合フランジ02aとをスポット溶接04するとともに、第1部材01の結合フランジ01bと第2部材02の結合フランジ02bとをスポット溶接05するようになっている。この場合、未硬化の低粘度接着剤03が結合フランジ01a,02aの結合面や結合フランジ01b,02bの結合面からはみ出してしまい。この状態で化成工程(塗装工程)前の車体洗浄を行うべく車体に洗浄水を噴射すると、はみ出した低粘度接着剤03が飛散して車体表面に付着し、塗装の品質を低下させる問題があった。
【0004】
従来、この問題を解決するために、以下のような方法が採用されていた。
(1) はみ出した低粘度接着剤を人手で拭き取る
(2) 洗浄水を噴射しても飛散しない高粘度接着剤を採用する
(3) 化成区の前に「プリキュア」と呼ばれる接着剤の仮硬化工程を設ける
(4) 低粘度接着剤の使用量を少なくしてはみ出しを防止する。
(5) 飛散して車体に付着した低粘度接着剤を化成区で人手により除去する
しかしながら上記(1) の方法は、はみ出した低粘度接着剤を人手で拭き取る作業に多くの時間と労力が必要であり、コストおよび作業者の負担が増加するだけでなく、はみ出した低粘度接着剤を完全に拭き取ることが困難であった。
【0005】
また上記(2) の方法は、高粘度接着剤の使い勝手が悪く、塗布する前に加熱して粘度を低下させる処理や、塗布後に時間を置かずにパネルを結合する必要があり、取り扱いが難しかった。
【0006】
また上記(3) の方法は、「プリキュア」の設備を設ける必要があるために設備費が増加するだけでなく、生産ラインが長くなったり加熱のための熱エネルギーのコストが増加する問題があった。
【0007】
また上記(4) の方法は、低粘度接着剤の使用量が少なくなることで接着強度の低下が懸念される問題があった。
【0008】
また上記(5) の方法は、車体に付着した低粘度接着剤を人手により除去する作業に多くの時間と労力が必要であり、コストおよび作業者の負担が増加するだけでなく、作業時にパネルの電着層を傷つけてしまって妨錆性能を損なう可能性があった。
【0009】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、簡単な構造で車体パネルの結合部からはみ出した低粘度接着剤の飛散を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、複数枚の車体パネルを低粘度接着剤を介して重ね合わせた状態で結合手段により一体に結合する車体の接着部構造後において、前記車体パネルの端縁からはみ出した前記低粘度接着剤を覆うように高粘度接着剤を塗布することで、組み立てを完了した車体に水を噴射して洗浄する際に、前記高粘度接着剤で水を遮って前記はみ出した低粘度接着剤の飛散を防止することを特徴とする車体の接着部構造が提案される。
【0011】
尚、実施の形態のホイールハウス13、アッパーパネル15およびロアパネル16は本発明の車体パネルに対応し、実施の形態のスポット溶接Wは本発明の結合手段に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、複数枚の車体パネルを低粘度接着剤を介して重ね合わせた状態で結合手段により一体に結合すると、低粘度接着剤を挟む二枚の車体パネルの端縁から低粘度接着剤がはみ出すため、組み立てを完了した車体に水を噴射して洗浄する際に前記はみ出した低粘度接着剤が飛散して車体表面に付着する虞がある。しかしながら、車体パネルの端縁からはみ出した低粘度接着剤を覆うように高粘度接着剤を塗布するので、洗浄時に車体に噴射された水を飛散し難い高粘度接着剤で遮って低粘度接着剤の飛散を防止することができ、極めて簡単で低コストな構造で車体表面への低粘度接着剤の付着を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0014】
図1〜図4は本発明の実施の形態を示すもので、図1は自動車の車体後部の斜視図、図2は図1の2−2線拡大断面図、図3は図2の3方向矢視図、図4は図2の4部拡大図である。
【0015】
図1および図2に示すように、5ドア車両は、後部ドア11およびリヤフェンダー12の下方に、後輪を収納するホイールハウス13を備えている。
【0016】
ホイールハウス13を通って車幅方向に沿う鉛直断面において、リヤサイドフレーム14を構成するアッパーパネル15およびロアパネル16のフランジ15a,16aと、前記ホイールハウス13とが、3枚重ねでスポット溶接Wされている。このとき、リヤサイドフレーム14の車体外側に位置するロアパネル16のフランジ16aとホイールハウス13との間に、例えば熱硬化性エポキシ樹脂よりなる低粘度接着剤17が予め塗布される。この低粘度接着剤17はスポット溶接Wによりロアパネル16のフランジ16aおよびホイールハウス13が密着したとき、それらの端縁から押し出されてはみ出すことになる。この低粘度接着剤17は、後工程である化成工程(塗装工程)で車体の加熱が行われるまでは、完全に硬化することなく流動性を保っている。
【0017】
図3および図4に拡大して示すように、ホイールハウス13の端縁13aからリヤサイドフレーム14のロアパネル16の表面にはみ出した低粘度接着剤17を覆うように、熱硬化性エポキシ樹脂よりなる高粘度接着剤18が塗布される。高粘度接着剤18は低粘度接着剤17よりも粘度が高く、未硬化の低粘度接着剤17が水撃を受けると飛散してしまうのに対し、高粘度接着剤は未硬化の状態で水撃を受けても飛散しないだけの粘度を有している。しかしなが、粘度が高いために常温では塗布できず、加熱して粘度を低下させてから塗布する必要がある。この加熱により、高粘度接着剤18は低粘度接着剤17に比べて塗布後に短時間で硬化することができる。
【0018】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0019】
図4に示すように、化成工程の前に車体を洗浄すべくノズル19から洗浄水を噴射したとき、図6に示すように、はみ出した低粘度接着剤17を高粘度接着剤18で覆っていない従来例では、低粘度接着剤17が水撃によって飛散して車体に付着してしまい、塗装の品質を低下させる可能性があった。
【0020】
それに対し本実施の形態では、図4に示すように、はみ出した低粘度接着剤17を高粘度接着剤18で覆ったことで、ノズル19からの水撃を受けた高粘度接着剤18が未硬化の低粘度接着剤17を保護して飛散を防止し、飛散した低粘度接着剤17が車体に付着するのを確実に防止することができる。
【0021】
これにより、主たる接着剤として取り扱い難い高粘度接着剤18を使用したり、高価な設備を必要とするプリキュアを行ったりする必要がなくなり、しかもはみ出した低粘度接着剤17を除去する前処理や、飛散して車体に付着した低粘度接着剤17を除去する後処理が不要になって労力およびコストの削減に寄与することができる。
【0022】
尚、本実施の形態では高粘度接着剤18の使用量は低粘度接着剤17の使用量に比べて極く僅かであるため、高粘度接着剤18の取り扱いが多少不便であっても、大きな障害になることはない。
【0023】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0024】
例えば、実施の形態では本発明を自動車のホイールハウス13の部分に適用した例を説明したが、本発明は自動車の他の任意の部分に適用することができる。
【0025】
またリヤサイドフレーム14のロアパネル16の端縁とホイールハウス13との間からも低粘度接着剤17がはみ出すが(図4参照)、そのはみ出し部分には水撃が直接作用することがないため、高粘度接着剤18による被覆は特に不要である。勿論、その部分を念のために高粘度接着剤18で被覆することも可能である。
【0026】
また本発明では結合手段としてスポット溶接Wを例示したが、リベットやボルトのような他の結合手段を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】自動車の車体後部の斜視図
【図2】図1の2−2線拡大断面図
【図3】図2の3方向矢視図
【図4】図2の5部拡大図
【図5】低粘度接着剤およびスポット溶接を併用したパネルの結合方法の説明図
【図6】従来例に係る前記図4に対応する図
【符号の説明】
【0028】
13 ホイールハウス(車体パネル)
15 アッパーパネル(車体パネル)
16 ロアパネル(車体パネル)
17 低粘度接着剤
18 高粘度接着剤
W スポット溶接(結合手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の車体パネル(13,15,16)を低粘度接着剤(17)を介して重ね合わせた状態で結合手段(W)により一体に結合する車体の接着部構造後において、
前記車体パネル(13,15,16)の端縁からはみ出した前記低粘度接着剤(17)を覆うように高粘度接着剤(18)を塗布することで、組み立てを完了した車体に水を噴射して洗浄する際に、前記高粘度接着剤(18)で水を遮って前記はみ出した低粘度接着剤(17)の飛散を防止することを特徴とする車体の接着部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate