説明

車体の衝突エネルギー吸収体構造

【課題】衝突時に車体フロアに生じる曲げモーメントを低減できる車体の衝突エネルギー吸収体構造を得る。
【解決手段】衝突エネルギー吸収体20Aは、車両幅方向を長手として車両前後方向及び車幅方向に延在する底壁部22Aと、当該底壁部22Aの車両幅方向右側の端部から車両上方向及び車両前後方向に延在する右側縦壁部24Aと、車両幅方向左側の端部から車両上方向及び車両前後方向に延在する左側縦壁部26Aと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突時に車体に加わる衝突エネルギーを吸収する車体の衝突エネルギー吸収体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キャビンの車体前方に衝突エネルギー吸収体を設けて、前面衝突時に車体に加わる衝突エネルギーを吸収する構造が知られている。例えば、下記特許文献1には、サイドフレームの前方に衝突エネルギー吸収体を設けて、サイドフレームからフロアフレームに伝わる衝突エネルギーを吸収する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−120755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の構造では、サイドフレーム前方に設けられた衝突エネルギー吸収体の車両上下方向の高さとフロアフレームの車両上下方向の高さとの差が大きく、衝突時に該サイドフレームと該フロアフレームとを繋ぐ部分(キック部)に生じる曲げモーメントが大きくなるという課題があった。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、衝突時に車体フロアに生じる曲げモーメントを低減できる車体の衝突エネルギー吸収体構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造は、バンパカバーの内側に配設され、車幅方向を長手として車両前後方向及び車幅方向に延在する底壁部と、前記底壁部の車幅方向の一方の端部から車両上方向及び車両前後方向に延在する第1縦壁部と、前記底壁部の車幅方向の他方の端部から車両上方向及び車両前後方向に延在する第2縦壁部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項1に係る本発明では、上記構成の底壁部と、第1縦壁部と、第2縦壁部とを備えている。そのため、車両前方又は後方から見た衝突エネルギー吸収体の断面は車両上方向に開口したU字状断面となり、当該断面の図心を車両下側に下げることができる。その結果、当該図心が乗員室の床面を形成する車体フロアのフロア部の高さに近づく。換言すると、当該図心とフロア部の高さとの差が小さくなり、その結果、衝突時に車体フロアに生じる曲げモーメントを低減できる。
【0008】
請求項2記載の本発明に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造は、請求項1記載の車体の衝突エネルギー吸収体構造において、前記底壁部が、キャビンの床面を形成する車体フロアのフロア部の車両前後方向の延長上に配設されたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る本発明では、底壁部がフロア部の車両前後方向の延長上に配設されているため、衝突時に車体前方又は後方から加わる荷重を効率よくフロア部に流すことができる。
【0010】
請求項3記載の本発明に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造は、請求項1又は請求項2記載の車体の衝突エネルギー吸収体構造において、前記底壁部、前記第1縦壁部及び前記第2縦壁部は車両前後方向に延びる複数の湾曲部を含んだ形状にそれぞれ形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る本発明では、底壁部、第1縦壁部及び第2縦壁部には、車両前後方向に延びる複数の湾曲部が形成されているため、当該湾曲部が形成されていない衝突エネルギー吸収体と比べて、各々の部材を伝わる荷重をより均一な荷重とすることが可能となる。従って、衝突時に車体前方又は後方から加わる荷重をより均一に車体フロアに流すことができる。
【0012】
請求項4記載の本発明に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造は、請求項1乃至請求項3いずれか1項に記載の車体の衝突エネルギー吸収体構造において、前記第1縦壁部と前記第2縦壁部とを車幅方向に繋ぐ横壁を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る本発明では、第1縦壁部と第2縦壁部とを繋ぐ横壁を備えるため、第1縦壁部の上端部と第2縦壁部の上端部とが成形時の残留応力や熱変形などにより開いてしまうことを抑制できる。そのため、寸法精度の良い車体の衝突エネルギー吸収体を得ることができ、衝突エネルギー吸収体が有する性能を狙い通りに発揮させることができる。

【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造は、衝突時に車体フロアに生じる曲げモーメントを低減できる、という優れた効果を有する。
【0015】
請求項2記載の本発明に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造は、衝突時に車体前方又は後方から加わる荷重を効率よくフロア部に流すことができる、という優れた効果を有する。
【0016】
請求項3記載の本発明に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造は、衝突時に車体前方又は後方から加わる荷重をより均一に車体フロアに流すことができる、という優れた効果を有する。
【0017】
請求項4記載の本発明に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造は、寸法精度の良い車体の衝突エネルギー吸収体を得ることができ、衝突エネルギー吸収体が有する性能を狙い通りに発揮させることができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す斜視図である。
【図2】(A)は第1実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す側面図であり、(B)は図2(A)におけるA−A線に沿った断面図である。なお、(B)において衝突エネルギー吸収体の断面以外の図示は省略してある。
【図3】(A)は第1実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す側面図であり、(B)は対比例に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す側面図である。
【図4】第2実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す斜視図である。
【図5】(A)は第2実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す側面図であり、(B)は図5(A)におけるA−A線に沿った断面図である。なお、(B)において衝突エネルギー吸収体の断面以外の図示は省略してある。
【図6】(A)は複数の湾曲部が適用された衝突エネルギー吸収体に加わる衝突荷重を模式的に表した平面図であり、(B)は複数の湾曲部が適用されていない衝突エネルギー吸収体に加わる衝突荷重を模式的に表した平面図である。
【図7】第3実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す斜視図である。
【図8】(A)は第3実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す側面図であり、(B)は図8(A)におけるA−A線に沿った断面図である。なお、(B)において衝突エネルギー吸収体の断面以外の図示は省略してある。
【図9】(A)は複数の閉断面が形成された衝突エネルギー吸収体の断面図であり、(B)は(A)に示された衝突エネルギー吸収体と同じ断面積であり、かつ閉断面Cを備えない衝突エネルギー吸収体を示す断面図である。なお、衝突エネルギー吸収体の断面以外の図示は省略してある。
【図10】第4実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す斜視図である。
【図11】(A)は第4実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体が適用された車体フロア前部を示す側面図であり、(B)は図11(A)におけるA−A線に沿った断面図である。なお、(B)において衝突エネルギー吸収体の断面以外の図示は省略してある。
【図12】(A)は第4実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体の図心を示す断面図であり、(B)は板厚がTである車体の衝突エネルギー吸収体の図心を示す断面図である。なお、衝突エネルギー吸収体の断面以外の図示は省略してある。
【図13】キャビンの後方に本発明の車体の衝突エネルギー吸収体を適用した例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1〜図3を用いて、本発明の第1実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造について説明する。なお、車両前後方向前方側を矢印FRで示し、車幅方向外側を矢印OUTで示し、車両上下方向上側を矢印UPで示す。
【0020】
図1には、本実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体20Aが適用された車体フロア10の左側前方から見た斜視図が示されている。この図に示されるように、車体フロア10の前端部には左右一対のフロントサスペンションユニット12等を保持したフロントサスペンションメンバモジュール14が取り付けられている。また、フロントサスペンションメンバモジュール14の前端部には、本実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体20Aが取り付けられている。また、図2(A)に示されるように、衝突エネルギー吸収体20Aはバンパカバー36F内側に配設され、衝突エネルギー吸収体20Aの前部にはバンパリインフォース38が取り付けられている。さらに、バンパリインフォース38の車両後側には、図示しないラジエタや冷暖房装置のコンデンサ等が取り付けられている。
【0021】
まず、車体フロア10について説明すると、車体フロア10はバスタブ状に形成されており、キャビン11の主要部を構成している。具体的には、図2(A)に示されるように、車体フロア10の底部には車両前後方向及び車幅方向に延在しキャビン11の床面を構成するフロア部10Aを備えている。フロア部10Aには図示しないシートやセンタコンソール、その他内装意匠材が取り付けられている。また、フロア部10Aの前端部から車両上方及び車幅方向に延在するダッシュ部10Bを備えている。ダッシュ部10Bには、図示しないインストルメントパネルやステアリングホイール等が取り付けられている。
【0022】
次に、車体フロア10の前端部に取り付けられた、サスペンションメンバモジュール14について説明すると、図1に示されるように、複数の足回り部品がサスペンションメンバ13に取り付けられることにより、サスペンションメンバモジュール14が構成されている。本実施形態では、サスペンションユニット12、タイヤ19等を保持している図示しないアッパーアーム及びロアアーム等がフロントサスペンションメンバ13に取り付けられることにより、フロントサスペンションメンバモジュール14が構成されている。また、図2(A)に示されるように、フロントサスペンションメンバ13の車両下側の端部には、車幅方向を長手として延在する荷重伝達部材60が設けられている。なお、荷重伝達部材60の詳細な構成についての図示は省略するが、当該荷重伝達部材には所要の剛性が確保された部材が用いられていれば良く、例えばサスペンションメンバ13を補強するための部材と兼用しても良い。
【0023】
次に、本発明の要部である衝突エネルギー吸収体について説明する。
【0024】
図1に示されるように、衝突エネルギー吸収体20Aは、車両幅方向を長手として車両前後方向及び車幅方向に延在する底壁部22Aと、当該底壁部22Aの車両幅方向右側の端部から車両上方向及び車両前後方向に延在する右側縦壁部24Aと、車両幅方向左側の端部から車両上方向及び車両前後方向に延在する左側縦壁部26Aとが一体に成形されることにより構成されている。従って、図2(B)に示されるように、当該衝突エネルギー吸収体20Aを車両前方から見た断面は、車両上方向に開口部を有するU字状の断面を形成している。また、これらの衝突エネルギー吸収体20Aを構成する部材には繊維強化樹脂が用いられている。
【0025】
右側縦壁部24A及び左側縦壁部26Aの車両後方側の端部には、ステアリングギヤボックス16の車幅方向両端に設けられたタイロッド18を逃がすための切り欠き30が設けられている。また、右側縦壁部24A及び左側縦壁部26Aの車両後方側の端部の上端及び下端には、それぞれ衝突エネルギー吸収体20Aとフロントサスペンションメンバモジュール14とを接合するためのフランジ部32が設けられている。当該フランジ部32に設けられた図示しない貫通孔にボルト34を通し、当該ボルト34をフロントサスペンションメンバモジュール14に設けられた図示しない螺子孔に締付けることにより衝突エネルギー吸収体20Aとフロントサスペンションメンバモジュール14とが接合されている。なお、繊維強化樹脂を挿んでボルトで締め上げて接合する場合、当該締め上げられた繊維強化樹脂がクリープ変形を起こすことにより、ボルトの軸力が低下することが考えられる。そのため、本実施形態ではフランジ部32に図示しないカラーが挿入されることにより、繊維強化樹脂材自体がボルトで締め上げられることが抑制されている。
【0026】
また、衝突エネルギー吸収体20Aの底壁部22Aはフロア部10Aの車両前後方向の延長上に配設されている。なお、図2(A)における2点鎖線で囲まれた部分はフロア部10Aの車両前後方向の延長上を示す。
【0027】
さらに、本実施形態では右側縦壁部24Aの上端の一部と左側縦壁部26Aの上端の一部とを繋ぐ横壁28を備える。横壁28の車幅方向両端部には図示しない螺子孔が形成されており、当該螺子孔に右側縦壁部24A及び左側縦壁部26Aの車幅方向外側から図示しないボルトを締めこむことにより、横壁28が衝突エネルギー吸収体20Aに取り付けられている
【0028】
(本実施形態の作用/効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0029】
衝突荷重が車体前方から加わると、先ずバンパカバー36Fが変形し、バンパカバー36Fとバンパリインフォース38とが接触する。バンパカバー36Fとバンパリインフォース38とが接触することにより、衝突荷重がバンパカバー36Fからバンパリインフォース38に入力される。次いで、衝突荷重はバンパリインフォース38から衝突エネルギー吸収体20Aに伝達される。この場合、衝突エネルギー吸収体20Aが変形することによって衝突エネルギーが吸収される共に、吸収しきれなかった荷重は衝突エネルギー吸収体20Aからサスペンションメンバモジュール14に流れる。そして更に、サスペンションメンバモジュール14に入力された衝突荷重は、車体フロア10へ流れる。
【0030】
ここで、図2(B)に示されるように、衝突エネルギー吸収体20Aの車両前方向から見た断面は、車両上側に開口部を有するU字状の断面を形成している。そのため、断面の図心を車両下側に下げることができる。即ち、図3(A)に示されるように、衝突エネルギー吸収体20Aの断面の図心G1の車両上下方向の高さとフロア部10Aの車両上下方向の高さGfとの差を小さくできるため、前面衝突時に車体フロア10に生じる曲げモーメントを小さくできる。例えば、図3(A)に示された本実施形態の衝突エネルギー吸収体20Aの断面の図心G1と、図3(B)に示された対比例に係る矩形断面の衝突エネルギー吸収体20Eの断面の図心G2とを比べると、本実施形態では、その断面の図心G1が(L−l)の長さだけフロア部10Aの高さGfに近づく。その結果、車体フロア10に生じる曲げモーメントをMからm(M>m)に低減することができる。
【0031】
さらに、本実施形態では、衝突エネルギー吸収体20Aの底壁部22Aがフロアロア10Lの車両前後方向の延長上に配設されているので、底壁部22Aを伝わる衝突荷重をフロア部10Aに効率良く流すことができる。また、本実施形態では荷重伝達部材60がフロントサスペンションメンバモジュール14の車両下側に設けられているため、衝突エネルギー吸収体からフロントサスペンションメンバモジュール14に入力された荷重をさらに効率良くフロア部10Aに流すことができる。
【0032】
また、本実施形態の衝突エネルギー吸収体20Aは、底壁部が車幅方向を長手として配設されているため、電柱やポールなどに衝突した場合等の局所的な入力に対しても効果的に衝突エネルギーを吸収できる。
【0033】
さらに、本実施形態の衝突エネルギー吸収体20Aには、右側縦壁部24Aの一部と左側縦壁部26Aの一部とを繋ぐ横壁28が設けられている。そのため、右側縦壁部24Aの上端と左側縦壁部26Aの上端との間の開きを抑制できる。その結果、寸法精度の良い車体の衝突エネルギー吸収体を得ることができ、衝突エネルギー吸収体が有する性能を狙い通りに発揮させることができる。
【0034】
<第2実施形態>
次に、図4〜図6を用いて、本発明の第2実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造について説明する。なお、第1実施形態と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0035】
この第2実施形態では、上記第1実施形態における底壁部22A、右側縦壁部24A及び左側縦壁部26Aに相当する、底壁部22B、右側縦壁部24B及び左側縦壁部26Bが所謂波板形状となっている点に特徴がある。具体的には、図4及び図5(B)に示されるように、底壁部22Bには、車両前後方向に延びる11個の湾曲部50が形成されている。また、右側縦壁部24B及び左側縦壁部26Bには、車両前後方向に延びる5個の湾曲部50がそれぞれ形成されている。
【0036】
(本実施形態の作用/効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0037】
本実施形態では、第1実施形態で説明した衝突エネルギー吸収体20Aの構成に加え、底壁部22B、右側縦壁部24B及び左側縦壁部26Bが所謂波板形状となっているため、第1実施形態で得られた効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0038】
ここで、図6(A)及び(B)には、衝突エネルギー吸収体の前端部から後端部に掛けて伝達される衝突荷重の分布が模式的に表されている。図6(B)に示されるように湾曲部50を備えていない衝突エネルギー吸収体では、各壁部の中央付近での変形が大きくなり、衝突荷重に対する反力を得られない部分が生じる。即ち、衝突荷重を車両前後方向に効率よく伝達できない部分が生じる。
【0039】
これに対し、図6(A)に示された湾曲部50を備えている衝突エネルギー吸収体では、湾曲部50により変形が抑制されるため、衝突荷重に対する反力を得ることができる。即ち、上述した湾曲部50を備えていない衝突エネルギー吸収体のように、衝突荷重を車両前後方向に効率よく伝達できない部分が生じることがない。その結果、車体前方から入力された衝突荷重をフロントサスペンションメンバモジュール14に均一に流すことができ、ひいては衝突荷重を車体フロア10に均一に流すことができる。
【0040】
なお、本実施形態では湾曲部50を設けた例について説明したが、湾曲部50に代えて以下の第3実施形態で説明する屈曲部52を設けても良い。
【0041】
<第3実施形態>
次に、図7〜図9を用いて、本発明の第3実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造について説明する。なお、第1実施形態等と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0042】
この第3実施形態の車体の衝突エネルギー吸収体20Cは、上記第1実施形態の衝突エネルギー吸収体と略同形状の第1部材21の上方から、複数の屈曲部を供えたパネル状の第2部材23を重ねて接合することによって複数の閉断面Cが形成されることに特徴がある。
【0043】
具体的には、図7及び図8(B)に示されるように、第1部材21は、車両幅方向を長手として車両前後方向及び車幅方向に延在する底壁部21Aと、当該底壁部21Aの車両幅方向右側の端部から車両上下方向及び車両前後方向に延在する右側縦壁部21B及び車両幅方向左側の端部から車両上下方向及び車両前後方向に延在する左側縦壁部21Cとを備えている。また、右側縦壁部21B及び左側縦壁部21Cの上端部は、それぞれ第2部材と重ねあわされて接合されるフランジ部21Dとされている。
【0044】
第2部材23は、車両幅方向を長手として車両前後方向及び車幅方向に延在する底壁部23Aと、当該底壁部23Aの車両幅方向右側の端部から車両上下方向及び車両前後方向に延在する右側縦壁部23B及び車両幅方向左側の端部から車両上下方向及び車両前後方向に延在する左側縦壁部23Cとを備えている。更に、当該底壁部23A、右側縦壁部23B及び左側縦壁部23Cには、車両前後方向に延びる複数の屈曲部52がそれぞれ形成されている。底壁部23Aの車両上側の面には3つの屈曲部52が形成され、また、右側縦壁部23Bの車幅方向内側の面には2つの屈曲部52が形成され、さらに、左側縦壁部23Cの車幅方向内側の面には2つの屈曲部52が形成されている。
【0045】
上述した第1部材21の底壁部21Aの車両上側の面に第2部材23の底壁部23Aの車両下側の面が重ね合わされることにより、底壁部21Aと底壁部23Aとの間に3つの閉断面Cが形成されている。ここで、接触部Jに熱溶着を施すことにより、第1部材21と第2部材23とが接合され、衝突エネルギー吸収体20Cの底壁部22Cが構成されている。なお、熱溶着とは熱可塑性樹脂同士を接合する技術であり、超音波溶着や高周波溶着等も広く熱溶着に含まれるものとする。
【0046】
また、第1部材21の右側縦壁部21Bの車両幅方向内側の面に第2部材23の右側縦壁部23Bの車両幅方向外側の面が重ね合わされることにより、右側縦壁部21Bと右側縦壁部23Bとの間に2つの閉断面Cが形成されている。ここで、接触部Jに熱溶着を施すことにより、第1部材21と第2部材23とが接合され、衝突エネルギー吸収体20Cの右側縦壁部24Cが構成されている。
【0047】
さらに、第1部材21の左側縦壁部21Cの車両幅方向内側の面に第2部材23の左側縦壁部23Cの車両幅方向外側の面が重ね合わされることにより、左側縦壁部21Cと左側縦壁部23Cとの間に2つの閉断面Cが形成されている。ここで、接触部Jに熱溶着を施すことにより、第1部材21と第2部材23とが接合され、衝突エネルギー吸収体20Cの左側縦壁部26Cが構成されている。
【0048】
このように、第1部材21と第2部材23とが接合されることにより、衝突エネルギー吸収体20Cが構成されている。
【0049】
(本実施形態の作用/効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0050】
本実施形態では、第1実施形態で説明した衝突エネルギー吸収体20Aの構成に加え、
上記第1部材21と第2部材23とが重ねて合わされて接合されることによって、複数の閉断面Cが形成されている。従って、第1実施形態で得られた効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0051】
図9(A)には、閉断面Cを備える衝突エネルギー吸収体20Cの断面が示されており、(B)には(A)に示された衝突エネルギー吸収体20Cと同じ断面積であり、かつ閉断面を備えない衝突エネルギー吸収体20Fの断面が示されている。これらの図に示されるように、本実施形態では閉断面Cが設けられているため、閉断面を備えない衝突エネルギー吸収体20Fと比較して、底壁部22C、右側縦壁部24C及び左側縦壁部26CのL1、L2及びL3軸に対する断面2次モーメントを上げることができる。その結果、閉断面を備えていない衝突エネルギー吸収体20Fと比較して、底壁部22C、右側縦壁部24C及び左側縦壁部26Cが折れ曲がることを抑制することができ、衝突エネルギー吸収体を伝わる衝突荷重をより安定的に車体フロア10に流すことができる。
【0052】
また、本実施形態では、複数の屈曲部52を備えるため、当該屈曲部52が上記第2実施形態で説明した湾曲部50と同様の効果を奏し、車体前方から入力された衝突荷重をフロントサスペンションメンバモジュール14に均一に流すことができ、ひいては衝突荷重を車体フロア10に均一に流すことができる。
【0053】
さらに、本実施形態の衝突エネルギー吸収体20Cでは、第1部材21と第2部材23とを別々に成形しているため、各々の板厚や形状を変えることにより、衝突エネルギー吸収体20Cに生じる荷重の分布をより厳密にコントロールすることが可能となる。
【0054】
なお、本実施形態では屈曲部52を設けた例について説明したが、屈曲部52に代えて上述した湾曲部50を設けても良い。
【0055】
<第4実施形態>
次に、図10〜12を用いて、本発明の第4実施形態に係る車体の衝突エネルギー吸収体構造について説明する。なお、第1実施形態等と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
この第4実施形態の衝突エネルギー吸収体20Dは、上記第1実施形態の衝突エネルギー吸収体において、底壁部の板厚が右側縦壁部及び左側縦壁部の板厚と比較して厚くなっている点が特徴である。具体的には、図10及び図11(B)示されるように、底壁部22Dの板厚Tが、右側縦壁部24D及び左側縦壁部26Dの板厚tと比較して厚くなっている。なお、本実施形態の衝突エネルギー吸収体20Dは、底壁部22D、右側縦壁部24D及び左側縦壁部26Dにより構成される分割構造となっているが、各構成部材を一体で成形しても良い。
【0057】
(本実施形態の作用/効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0058】
本実施形態では、第1実施形態で説明した衝突エネルギー吸収体20Aの構成に加え、底壁部の板厚が右側縦壁部及び左側縦壁部の板厚と比較して厚くなっているため、第1実施形態で得られた効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0059】
本実施形態では、図12(A)に示されるように、底壁部22Dの板厚Tが、右側縦壁部24D及び左側縦壁部26Dの板厚tと比較して厚くなっている。そのため、図12(B)に示された、底壁部22G、右側縦壁部24G及び左側縦壁部26Gの板厚がTである衝突エネルギー吸収体20Gの断面の図心G4と比較して、断面の図心G3を車両下側に下げることができる。本実施形態では、断面の図心をH−h(H>h)だけ車両下側に下げることができる。その結果、衝突エネルギー吸収体20Dの断面の図心G3の車両上下方向の高さとフロア部10Aの車両上下方向の高さとの差をより一層小さくでき、前面衝突時に車体フロア10に生じる曲げモーメントをより一層低減できる。
【0060】
また、本実施形態では、底壁部22Dの板厚Tが右側縦壁部24D及び左側縦壁部26Dの板厚tよりも厚く設定されているため、底壁部22Dの強度が右側縦壁部24D及び左側縦壁部26Dの強度よりも高くなる。従って、本実施形態に係る衝突エネルギー吸収体構造では、底壁部22Dからフロア部10Aに荷重を効率よく流すことが可能となる。
【0061】
なお、本実施形体では、衝突エネルギー吸収体20Dを構成する底壁部22D、右側縦壁部24D及び左側縦壁部26Dの材料として、同一の繊維強化樹脂が用いられている例を説明したが、各構成部材の材料を変更することにより衝突エネルギー吸収体20Dの強度バランスを調整しても良い。例えば、底壁部22Dの材料強度が、右側縦壁部24D及び左側縦壁部26Dの材料強度と比較して高くなっている構成とすることで、上記の底壁部22Dからフロア部10Aに荷重を効率よく流すことができる、という効果を得られる。
【0062】
以上、第1乃至第4実施形態では車両の前方に衝突エネルギー吸収体を設けた例について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、車両の後方に本発明の車両の衝突エネルギー吸収体構造を適用することもできる。例えば、図13に示されるように、本発明の衝突エネルギー吸収体20Hをバンパカバー36Rの内側に配設することもできる。
【符号の説明】
【0063】
10 車体フロア
10A フロア部
11 キャビン
14 フロントサスペンションメンバモジュール
20A 衝突エネルギー吸収体(第1実施形態)
20B 衝突エネルギー吸収体(第2実施形態)
20C 衝突エネルギー吸収体(第3実施形態)
20D 衝突エネルギー吸収体(第4実施形態)
20H 衝突エネルギー吸収体
22A 底壁部(第1実施形態)
22B 底壁部(第2実施形態)
22C 底壁部(第3実施形態)
22D 底壁部(第4実施形態)
24A 右側縦壁部(第1実施形態の第1縦壁部)
24B 右側縦壁部(第2実施形態の第1縦壁部)
24C 右側縦壁部(第3実施形態の第1縦壁部)
24D 右側縦壁部(第4実施形態の第1縦壁部)
26A 左側縦壁部(第1実施形態の第2縦壁部)
26B 左側縦壁部(第2実施形態の第2縦壁部)
26C 左側縦壁部(第3実施形態の第2縦壁部)
26D 左側縦壁部(第4実施形態の第2縦壁部)
28 横壁
36F バンパカバー
36R バンパカバー
50 湾曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパカバーの内側に配設され、車幅方向を長手として車両前後方向及び車幅方向に延在する底壁部と、
前記底壁部の車幅方向の一方の端部から車両上方向及び車両前後方向に延在する第1縦壁部と、
前記底壁部の車幅方向の他方の端部から車両上方向及び車両前後方向に延在する第2縦壁部と、
を備える車体の衝突エネルギー吸収体構造。
【請求項2】
前記底壁部が、キャビンの床面を形成する車体フロアのフロア部の車両前後方向の延長上に配設された請求項1記載の車体の衝突エネルギー吸収体構造。
【請求項3】
前記底壁部、前記第1縦壁部及び前記第2縦壁部は車両前後方向に延びる複数の湾曲部を含んだ形状にそれぞれ形成されている請求項1又は請求項2記載の車体の衝突エネルギー吸収体構造。
【請求項4】
前記第1縦壁部と前記第2縦壁部とを車幅方向に繋ぐ横壁を備える請求項1乃至請求項3いずれか1項に記載の車体の衝突エネルギー吸収体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−23162(P2013−23162A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162612(P2011−162612)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】