説明

車体へのプライマ焼付無しでの多層コーティングの形成方法

本発明は、プライマコーティング、ベースコーティング、およびクリアコート層をウェットオンウェットオンウェット方式で塗布するステップと、塗布された3層を一緒に1回の焼付ステップで同時に硬化するステップとを含む、車体への多層コーティングの形成方法に関する。プライマ層は、一方がカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーであり、および他方がカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーである2種のアクリルポリマーを含むフィルム形成性バインダーと、アミノプラスト樹脂、ブロックトポリイソシアネート、またはこれらの混合物から選択される架橋剤とを含み、ここで、組成物は、架橋非水性分散体樹脂粒子または架橋ミクロゲル樹脂粒子または両方を基本的に含まない。得られる多層コーティングは、3つのウェット層塗布方法で形成された場合であっても、優れた美的外観、ストライクイン耐性、耐チッピング性、サグ耐性、およびフィルム塗り厚を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年10月7日出願の米国仮特許出願第60/725,141号明細書からの、米国特許法第119条に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、車体またはその部品への多層コーティングの形成方法、特に、良好な仕上げの外観を、プライマ、ベースコート、およびクリアコート層を同時に焼付することにより得ることが可能である多層コーティングの形成方法、および上塗りでの界面にじみに対する優れた耐性を有し、前述の方法において用いられることが可能であるプライマ組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
自動車用コーティング系は、通常、スチール基材に塗布された複数のコーティングを含む。典型的には、スチールは、防錆リン酸層で処理され、次いで、追加的な防錆のための陰極電着塗装プライマが塗布される。プライマ−サーフェイサ(耐チッピングプライマ、プライマ、またはプライマ充填材としても知られている)が次いで用いられて、上塗りのために表面が平滑化され、およびコーティング系に、通常の運転中の石によるチッピングへの耐性がまた提供される。次いで、トップコート系が、時々、単一の有色層として、より頻繁には、現在では、ソリッドカラーでの、またはフレーク顔料を有するベースコートとして塗布され、その後、透明な保護クリアコートが塗布されて、車両の仕上げの魅力的な美的品質を、環境または屋外への長期の露出に対しても保護し、維持する。
【0004】
ベースコートおよびクリアコートのコーティングの形成は、通常、ウェットオンウェット塗布により達成される(すなわち、クリアコートの塗布前にベースコートを焼付せず(ベースコートは、クリアコートの塗布の前に室温で、短時間フラッシュ乾燥され得るが)にクリアコートをベースコートに塗布し、次いで、続いて、ベースコートおよびクリアコートを同時に焼付して乾燥したおよび硬化された仕上げを形成する)。多層コーティングを形成する従来の方法においては、しかしながら、下位のプライマサーフェイサ層は、ベースコートおよびクリアコートで上塗りされる前に焼付される。歴史的には、トップコートをその上に塗布するための平滑な表面を提供するためだけではなく、上位のベースコートとの界面にじみまたは混合をも防止すると共に、トップコート仕上げの全体の外観の破損を防止するために、焼付されたプライマが用いられてきた。混合に対する耐性(時々、「ストライクイン(strike−in)」耐性として称される)は、現今では自動車およびトラックで人気のある、魅力的なメタリック仕上げの外観に対して特に重要である。プライマ−サーフェイサ上への塗布後の、メタリックベースコートにおけるメタリック顔料フレーク配向のいかなる乱れも、仕上げのメタリック効果を低減させることとなる。従って、金属顔料フレークが塗布後に乱されないことを確実とするために注意をしなければならない。
【0005】
近年において、自動車組み立て工場の環境負荷または影響を、塗布ブースおよび焼付オーブンの操業で生じるVOC(揮発性有機化合物)排出およびCO(二酸化炭素)排出を低減させることにより低減させることも強く所望されている。これは、塗料における低い溶剤含有量の使用および、プライマサーフェイサ、ベースコートおよびクリアコートをウェットオンウェットで連続的に塗布して、すべてを一度に一回の焼付で硬化することを可能とする3層ウェット塗料系の開発をもたらした。この単純化された塗布プロセスでは、個別のプライマ塗布ブースおよびプライマオーブンを排除することが可能であり、自動車製造業者への相当の経費削減をもたらす。このプロセスの単純化の技術的な困難性は、しかしながら、顕著である。例えば、界面にじみおよび美的外観、ならびに耐チッピング性などの特性が、未だに顕著な問題である。
【0006】
プライマコーティング組成物の配合物を変性させることにより、前述の問題を解決するための試みがなされてきた。Watanabeらの米国特許第6,863,929号明細書には、3層ウェット塗装プロセス(「3ウェット」または「3−コート−1−焼付」プロセスとしても称される)を用いる多層自動車コーティングの形成方法が記載されており、ここでは、標準的なポリエステル−メラミン樹脂プライマコーティングは、アクリルポリマー粒子をも含有するよう、すなわち、内部的に架橋された非水性分散体(NAD)ポリマーまたは内部的に架橋されたミクロゲル粒子の形態で含有するよう配合されている。これらの粒子は、プライマサーフェイサとベースコーティングとの間の粘度および溶解度パラメータを高めて、コート層間の界面での混合を防止することを意図している。しかしながら、このような粒子充填系の使用はまた、いくつかの欠点を招く。
【0007】
例えば、微小粒子はまた、ベースコートが流れ込んで混合する可能性がある空隙をウェットプライマの表面に形成して、平滑性、光沢、正面輝度、および/またはメタリック効果の欠損などの美的外観における欠陥をもたらす傾向にある。特に、ドア、フェンダー、ロッカーパネル等などの垂直なパネルでの、これらのコーティングのサギングもまた問題である。これらの粒子充填系はまた、通常の商業レベルでの乾燥塗り厚を維持することができない。これらの塗り厚は、従って、NADまたはミクロゲル粒子を界面へ移動させるように減少されなければならない。さらに、薄いコーティングは、下位の防錆性電着塗装プライマ層を過剰なUV光透過および劣化に曝す傾向にあるため、障害がある。薄いコーティング、または薄いフィルムまたは薄いフィルム領域はまた、仕上げ全体の機械特性および視覚的外観が不適当である。
【0008】
従って、ウェットオンウェットオンウェット(すなわち、3ウェット)方式で塗布した場合に、プライマサーフェイサおよびベースコートおよびクリアコート層の混合を防止すると共に、プライマ焼付プロセスを排除し、コーティング系の環境への影響を低減し、その一方で、コーティングまたはフィルム塗り厚、高光沢およびイメージの明瞭性などの全体の外観、およびコーティング系のフィルム特性をも維持することを可能とする、より効果的な方法を見出す必要性が未だ存在する。
【0009】
本発明は、前述の望ましい特徴を有する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願明細書において開示されているのは、多層コーティングの形成方法であって、前記多層コーティングは、基材上に、順番に、プライマコーティング組成物の層を塗布し、ベースコーティング組成物の層およびクリアコーティング組成物の層を塗布するステップと、塗布した3層を焼付により同時に硬化するステップとを含み、ここで、プライマコーティング組成物は、フィルム形成性バインダーおよび有機液体キャリア、ならびに任意により、約1:100〜150:100の顔料対バインダー重量比で顔料を含み、バインダーは、
(a)バインダーの重量を基準にして約50〜90重量%の、2種のアクリルポリマーを含むフィルム形成性アクリルポリマー成分であって、一方がカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーであり、および他方がカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーであり、ポリマーは約5:95〜95:5の相対重量比で提供されるフィルム形成性アクリルポリマー成分と、
(b)バインダーの重量を基準にして約10〜50重量%の、アミノプラスト樹脂、ブロックトポリイソシアネート、またはこれらの混合物からなる群から選択される架橋剤と
を含有する。
【0011】
プライマサーフェイサと、着色ベースコートと、ベースコート上に塗布されたクリアコートとを含む多層コーティングもまた開示されており、ここで、プライマサーフェイサは、上記方法によって調製された多層コーティングである。
【0012】
さらなる開示は、フィルム形成性バインダーおよび有機液体キャリア、ならびに任意により、約1:100〜150:100の顔料対バインダー重量比で顔料を含み、バインダーは、
(a)バインダーの重量を基準にして約50〜90重量%の、2種のアクリルポリマーを含むフィルム形成性アクリルポリマー成分であって、一方がカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーであり、および他方がカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーであり、ポリマーは約5:95〜95:5の相対重量比で提供されるフィルム形成性アクリルポリマー成分と、
(b)バインダーの重量を基準にして約10〜50重量%の、アミノプラスト樹脂、ブロックトポリイソシアネート、またはこれらの混合物からなる群から選択される架橋剤と
を含有するプライマコーティング組成物である。
【0013】
本願明細書においてまた開示されているのは、特許請求の範囲の上記組成物の乾燥および硬化層でコートされた基材である。
【0014】
さらなる他の開示は、3層ウェット塗料系を用いて、プライマ焼付無しで、通常のフィルム塗り厚を自動車基材で得る方法であって、この方法は、(a)請求項9または17に記載のプライマ−サーフェイサ組成物を基材に塗布するステップと、(b)ベースコート組成物をウェットオンウェットで前記プライマ−サーフェイサ上に塗布するステップと、(c)クリアコート組成物を、ウェットオンウェットで前記ベースコート上に塗布するステップと、(d)塗布した3つの重量層を、一緒に1回の焼付で硬化するステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、プライマコーティング、ベースコーティング、およびクリアコーティングが、順番に、互いの上に、ウェットオンウェット(すなわち、ウェットオンウェットオンウェット)方式で、一緒での焼付前に基材上に塗布される場合に隣接する塗料層の混合、界面にじみ、および各コート層間の界面での転移を制御することが可能であり、その一方でなお、良好な外観、チッピング性能、およびフィルム塗り厚などの今日の性能要求を満たす、多層コーティングを形成するための方法およびプライマコーティング組成物を提供する。
【0016】
より特定的には、本発明は、基材上へ、プライマ焼付の必要性および通常の商業レベル未満にフィルム塗り厚を低減させる必要性なく、自動車品質および外観の多層コーティングを形成する方法を提供し、この方法は、プライマコーティング組成物の層、ベースコーティング組成物の層、およびクリアコーティング組成物の層を、ウェットオンウェット方式で、好ましくは電着塗装コートフィルムがその上に形成された、車体またはその部品全体上などの自動車基材上に順番に塗布するステップと、塗布した3層を焼付により同時に硬化するステップとを含み、ここで、プライマコーティング組成物は、フィルム形成性バインダーおよび有機液体キャリア、ならびに任意であるが好ましくは顔料を含み、バインダーは、
(a)バインダーの重量を基準にして約50〜90重量%の、界面制御ポリマーとして2種のアクリルポリマーを含むフィルム形成性アクリルポリマー成分であって、一方がカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーであり、および他方がカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーであり、ポリマーは約5:95〜95:5、好ましくは約75:25〜25:75の重量比で提供されるフィルム形成性アクリルポリマー成分と、
(b)バインダーの重量を基準にして約10〜50重量%の、アミノプラスト樹脂、ブロックトポリイソシアネート、またはこれらの混合物からなる群から選択される架橋剤と
を含有し、
ここで、組成物は、好ましくは、架橋NADまたは架橋ミクロゲル樹脂粒子または両方を「基本的に含まない」ないし「完全に含まない」。
【0017】
組成物はまた、塗布時に約40〜70重量%の総固形分含有量を有する低VOC、高固形分組成物として配合されることが好ましい。
【0018】
本発明は、共に界面制御ポリマーとして役立つ、一定の比較的高分子量のカプロラクトン変性直鎖および分岐アクリルポリマーのプライマ組成物中における使用は、続くベースコートがプライマ上にウェットオンウェット方式で塗布される場合に、組成物を、プライマとベースコーティング層との混合が効果的に防止されるようにし、その一方で、美的外観および耐チッピング性および固形分含有量および従来の焼付プライマのものと同等のフィルム塗り厚などのフィルム特性をも提供するという発見に基づいている。
【0019】
本発明はまた、多層コーティングを形成する前述の方法において用いるための、前述の成分(a)〜(b)を含む高固形分溶剤系プライマコーティング組成物を提供する。上記に定義されたプライマの挙動は、プライマ焼付の欠如にも関わらず、高フィルム塗り厚、高光沢、イメージの明瞭性、および所望の視覚効果(メタリックまたはパールなどの)などの優れた外観、および優れた耐チッピング性(SAE J−400を用いた5の最低等級)を可能にする。
【0020】
本発明の範囲にはまた、本願明細書に開示の方法によりおよびコーティング組成物でコートされた、車体またはその部品などの基材が含まれる。
【0021】
本発明は、自動車およびトラックの車体の外装のすべておよびそれらの部品の仕上げに特に有用である。
【0022】
この開示において、多数の用語および略語が用いられている。以下の定義を提供する。
【0023】
「ウェットオンウェット」とは、上位のコートを、下位のコートに、硬化(すなわち焼付)無しでまたは完全に下位のコートを乾燥させることなく塗布することを意味する。
【0024】
「ウェットオンウェットオンウェット」もまた、本願明細書において「3層ウェット」、「3ウェット」、および「3−コート−1−焼付」と同義に用いられ、プライマ層、ベースコート層、およびクリアコート層が、ウェットオンウェット方式で順番に塗布されることを意味する。
【0025】
プライマコーティングに関して、「基本的に含まない」とは、プライマコーティング組成物が、組成物の総重量を基準にして、1重量%未満、好ましくは0重量パーセントの特定された成分を含有することを意味することとする。
【0026】
「高固形分組成物」とは、組成物の総重量を基準にした重量パーセントで、塗布時に少なくとも40パーセント、好ましくは40〜70パーセントの範囲で総固形分含有量を有する低溶剤の溶剤系液体コーティング組成物を意味する。「総固形分」は、成分のいくつかは、室温で、非揮発性固形分ではなく非揮発性液体であり得るが、組成物中における非揮発性成分の総量を指すと理解されるべきである。
【0027】
「カプロラクトン変性アクリルポリマー」とは、ε−カプロラクトンなどのカプロラクトンで伸長されたポリエステル伸長化アクリルポリマーを意味する。ポリエステル鎖の伸長は鎖端部でなされ得、またはアクリル主鎖に沿ったいずれかの他の点でなされ得る。当然、他の環状ラクトンをカプロラクトンの代わりに用いることが可能であり、および他に示されていない限りにおいて、この定義に包含されることが意図されることを当業者は理解するであろう。
【0028】
分岐アクリルポリマーに関して「非ゲル化」または「実質的に非ゲル化」は、架橋を実質的に含まず、およびポリマーについて好適な溶剤に溶解したときに計測可能な固有粘度を有する反応生成物を指す。当該技術分野において周知であるとおり、ポリマーの固有粘度は、濃度に対する粘度の低減をプロットすると共に、ゼロ濃度まで外挿することにより判定される。ゲル化反応生成物は、基本的に、無限分子量のものであり、度々、高過ぎて計測できない固有粘度を有することとなる。
【0029】
「低VOC組成物」とは、ASTM D3960に提供されている手法で測定した際に、組成物1リットル当たり約0.6キログラム(5ポンド/ガロン)未満の有機溶剤、好ましくは、1リットル当たり約0.42キログラム(3.5ポンド/ガロン)未満の範囲の有機溶剤を有するコーティング組成物を意味する。
【0030】
本発明は、高分子量の、実質的に非ゲル化の分岐アクリルポリマーを生成するために、または実質的に非ゲル化のカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーを生成するために単純かつ効率的な手段を提供する。両方は、時々、本願明細書において、「高分岐」または「超分岐」または「分岐」アクリルポリマーとして称される。これらの分岐アクリルポリマーは、それらの直鎖類似体より低い粘度を有する。これらの分岐アクリルポリマーは、このように生成されたポリマーを溶剤でさらに希釈して粘度を実際的な制限内に維持する必要性なく、自動車組み立て工場において見出される従来の噴霧器具などの標準的な器具における実際の塗布について使用可能な粘度を室温でなお有する、高固形分(低VOC)、液体コーティング組成物、特に高品質の自動車用プライマまたは、ベースコートまたはクリアコートなどのトップコート仕上げの配合に特に有用である。
【0031】
プライマコート層
本多層コーティングの形成方法においては、その上にウェットオンウェットで塗布されたときに、トップコート層の混合を防止する性能を有する新規のプライマサーフェイサコーティング組成物が用いられる。このプライマサーフェイサ、プライマ充填材、または耐チッピングプライマ(本願明細書中、以下「プライマ」)は、本願明細書に記載の3層ウェット塗装方法において、良好な仕上げの外観および良好なチッピング性能および良好なフィルム塗り厚を犠牲にすることなく用いることが可能である。
【0032】
溶剤系プライマ組成物は、ウェットオンウェット塗布プロセスにおいて有用なだけではなく、低VOC含有量(揮発性有機含有量)を有するよう配合されることが可能であり、隠すことが容易である灰色のまたは着色組成物に配合されることが可能であり、硬質であるが可撓性でもある仕上げを形成し、冷間圧延スチール、リン酸塩化スチール、電着塗装により塗布された電着塗装プライマで下塗りされたリン酸塩化スチール、ポリエステル強化繊維ガラス、反応射出成形ウレタン、部分結晶性ポリアミドおよび他のプラスチック基材などの予め下塗りされていても下塗りされていなくてもよいプラスチック基材などの多様な基材に対して優れた接着性を有し、および従来のトップコートが接着するであろうような表面を提供する。
【0033】
プライマ組成物は、サーフェイサまたは充填材として用いられて、下塗りされた金属およびプラスチック基材の表面における欠陥をカバーすることが可能であるため、前述の基材に対して特に有用である。例えば、金属基材のプライマでの電着塗装は、度々、小さい欠陥を有する仕上げをもたらし、この組成物を塗布して、欠陥を有さない平滑な、光沢のある仕上げを形成することが可能である。また、繊維ガラスで強化されたポリエステルであるSMC(シート成形化合物)などのプラスチック基材は多くの表面欠陥を含有し、およびサーフェイサでコートされなければならない。
【0034】
本発明の新規のプライマ組成物は、一般的には、フィルム形成性バインダーおよび通常はバインダーについての溶剤である揮発性有機液体キャリアを含有する。組成物が低VOC組成物として配合されることが一般的には望ましい。従って、低VOC組成物については、プライマ組成物は、典型的には、約40〜85重量%のフィルム形成性バインダー含有量、および対応して約15〜60重量%の揮発性有機液体キャリアを有する。一般的には、組成物はまた、約1:100〜150:100の顔料対バインダー重量比で顔料を含有する。
【0035】
上に示したとおり、本発明のプライマ組成物のフィルム形成性部分は、「バインダー」または「バインダー固形分」として称される。バインダーは、一般的には、硬化組成物の固体有機部分に寄与するすべてのフィルム形成性成分を含む。一般的には、本願明細書中後述の触媒、顔料、および安定化剤などの非高分子化学添加剤は、バインダー固形分の一部としては見なされない。顔料以外の非バインダー固形分は、通常は、組成物の約5〜15重量%超には達しない。この開示において、用語「バインダー」または「バインダー固形分」は、さらに本願明細書中以下にさらに記載されるとおり、フィルム形成性カプロラクトン変性分岐アクリルポリマー、メラミン樹脂またはポリイソシアネート架橋剤、およびすべての他の任意選択のフィルム形成性成分を指す。
【0036】
好ましい実施形態において、組成物中に用いられるバインダーまたはフィルム形成性成分は、一般的には、約50〜90重量%の、一方がカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーであり、および他方がカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーである前述の2種のアクリルポリマーを含み、このポリマーは、約5:95〜95:5、好ましくは約75:25〜25:75、さらにより好ましくは50:50の相対重量比で、およびアミノプラスト樹脂架橋剤の約10〜50重量%で提供される。ブロックトポリイソシアネート架橋剤を用いて、所望の場合には、アミノプラストの一部またはすべてを置き換えることが可能であることが理解されるべきである。ブロックトポリイソシアネートは、しかしながら、組成物の全体的なコストを増加させることが知られており、従ってあまり望ましくない。ほとんどの使用については、組成物は、典型的には、約65〜75重量%の2種のアクリルポリマーおよび25〜35重量%のアミノプラスト樹脂架橋剤を含有する。第1および第2のポリマーは、各々、任意により、向上した架橋性のための追加の官能性モノマーを含有し得る。
【0037】
理論に束縛されることは望まないが、前述のアクリルポリマーは界面制御ポリマーとして作用すると考えられ、それゆえ、(1)にじみが防止されるが、なお、相当量の揮発性溶剤を用いる必要なく吹付けなどによる容易な塗布が可能であるよう、十分に低い粘度が維持されるよう、プライマの浸透性を十分に低減させることにより、および/または(2)好ましくは、ベースコート層である続く層と不混和性の化学、主にアクリル系化学を選択することにより、ウェットプライマおよびベースコーティング層の混合を防止する。直鎖ポリマーはまた、耐チッピング性およびコート間接着性などの、自動車仕上げについて所望される良好な物理特性を提供する一方で、分岐ポリマーは、良好な外観および自動車コーティングに必要な流動性を提供し、従って、高品質の仕上げは、先ずプライマの焼付の必要をもたらす可能性がある。
【0038】
本願明細書において用いられる第1のアクリルポリマーは、実質的に非ゲル化の、カプロラクトン変性分岐アクリルポリマーである。ポリマーは、約10,000〜150,000、より好ましくは約30,000〜120,000の範囲のMw(重量平均分子量)、約1〜65重量%のヒドロキシルおよび/またはカルボキシルモノマー含有量を有し、および混合物におけるヒドロキシルおよび/またはカルボキシルに対する、約0.25〜6のカプロラクトンモル/モルが重合され、好ましくは約2モルのカプロラクトン/モルのヒドロキシルが重合される。好ましい実施形態において、ポリマーは、基本的にカルボキシル官能基を含まない。
【0039】
本願明細書に記載のすべての分子量は、ポリスチレンを基準として用いるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される。
【0040】
所望の分岐カプロラクトン変性アクリルポリマーを形成するために、ポリマーは、好ましくは、カプロラクトンおよび少なくとも2種のタイプのエチレン性不飽和モノマー、すなわち1)少なくとも1種のモノアクリルモノマーおよび2)少なくとも1種のジアクリルまたはジメタクリルモノマーから組成される。任意によりポリマーは、3)少なくとも1種のモノメタクリルモノマー(ただし、総反応混合物の40重量%を超えない限りにおいて)をさらに含有し得る。好ましい実施形態において、モノマー混合物は、30重量%以下のジアクリルおよび/またはジメタクリルモノマーを合計で含有して、上述の反応条件下でのゲル形成を最低限に抑える。
【0041】
上述のエチレン性不飽和モノマー構造の部分はまた、ヒドロキシルおよび/またはカルボキシル基;またはポリマーをラクトンで鎖伸長し、また、架橋性官能基をポリマーに提供するために、カプロラクトンモノマーと反応することが可能である活性水素を含有する他の基を含有すべきである。ヒドロキシル基が一般的には好ましい。このようなヒドロキシル基を導入するために用いることが可能であるヒドロキシル含有モノエチレン性不飽和モノマーの例は、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、および4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどのヒドロキシアルキルアクリレートおよびヒドロキシアルキルメタクリレートである。本願明細書において有用であるヒドロキシル官能性(メタ)アクリレートモノマーの他の例は、1モルの2−ヒドロキシエチルアクリレートと2モルのε−カプロラクトンとの反応生成物である、Union Carbideの製品であるTone M−100(登録商標)などのカプロラクトンと既に反応されたものである。
【0042】
カルボキシル含有モノエチレン性不飽和モノマーの例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸である。ヒドロキシルおよび/またはカルボキシル官能基の量は、所望される最終特性に応じて異なり得る。好ましい実施形態において、モノマー混合物の65重量%以下、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは約10〜20重量%が、ヒドロキシルおよび/またはカルボキシル官能基を含有して、ポリマーを鎖伸長させると共に所望の架橋性官能基、高分子量および混合またはストライクイン耐性を有するが、十分に低い粘度をも有する。
【0043】
任意により、上述のヒドロキシルおよび/またはカルボキシル基のほかに、カプロラクトン変性アクリルポリマーは、アミノ、カルバメート、トリメトキシシランなどのアルコキシシラン、エポキシ等などの追加の官能基(モノマー混合物中約65重量%以下の官能性モノマー)を含有して、追加の架橋性官能基をポリマーに付与し、および硬化コーティングのフィルム完全性を増加し得る。当然、官能基の量は、所望される最終特性に応じて異なり得る。これらの官能基は、当業者に明らかであろうとおり、所望の基を含有する官能性モノマーを重合方法中に用いることによりまたは所望の追加の官能基を導入する本発明のポリマーの後反応により、導入されることが可能である。
【0044】
このような官能性モノマーの例は、シラン含有モノマー、特に、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Crompton製のシルクエスト(Silquest)(登録商標)A−174)、およびγ−メタクリロキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シランなどのアルコキシシランである。有用なアミン含有モノマーの例は、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(第三級アミン)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(第三級アミン)、N−t−ブチルアミノエチルメタクリレート(第二級アミン)、N−t−ブチルアミノエチルアクリレート(第二級アミン)、塩酸2−アミノエチルメタクリレート(第一級アミン)等である。有用なエポキシ含有モノマーの例は、エピクロロヒドリンと反応して、エポキシ基含有モノマーを生成することが可能であるヒドロキシル基を有する、グリシジルメタクリレートおよびグリシジルアクリレートおよびいずれかのアクリルモノマーである。有用なカルバメート含有モノマーの例としては、脂肪族アルコールと2−イソシアナトエチルメタクリレートとの付加物が挙げられる。カルバメート官能基化アクリルの調製方法は当該技術分野において周知であり、および、例えば、その記載が参照により本願明細書に援用される欧州特許第0 594 142 B1号明細書および欧州特許第0 719 795 B1号明細書に記載されている。
【0045】
典型的には、モノマー混合物中のエチレン性不飽和モノマーの残りは、カルボン酸基、ヒドロキシル基または他の反応性または架橋性官能基を含有しない非官能性モノマーであろう。
【0046】
非官能性モノアクリルおよびメタクリルモノマーの例は、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、アクリル酸ステアリル、シクロヘキシルアクリレート、イソデシルアクリレート、プロピルアクリレート、フェニルアクリレート、イソボルニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸ステアリル、シクロヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、プロピルメタクリレート、フェニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート等などのアルキルアクリレートおよびメタクリレート、またはスチレンまたはメチルスチレンなどの置換スチレン、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリル、アクリルアミド、およびメタクリルアミド等などの他の成分である。
【0047】
モノマー混合物中において分岐を付与するコモノマーとして用いられるジアクリルおよびメタクリルモノマーの例は、エチレングリコールジメタクリレートおよびジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートおよびジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレートおよびジアクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレートおよびジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2,2−ジメチルプロパンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレートおよびジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートおよびジアクリレートなどのアクリルおよびメタクリル酸のジエステルである。コーティング塗布において正確な比率で他の必須の成分と共に用いられればコーティング塗布において、硬化コーティング層への増加した柔軟性、および低減した脆性を付与するために、ウレタンジアクリレートおよびジメタクリレートもまた用いることが可能である。ウレタンモノマーは、当業者に公知であるいずれかの方法により生成されることが可能である。2つの典型的な方法は、1)ジイソシアネートを、2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのヒドロキシ含有アクリレートまたはヒドロキシ含有メタクリレートと反応させる方法;および2)イソシアナトアルキルアクリレートまたはイソシアナトメタクリレートを好適なジオールと反応させる方法である。ジエチレン性不飽和モノマーのいくつかはまた、これらのモノマーの上記リストから見ることが可能であるとおり、架橋性官能基をポリマーに付与するために上記に列挙したいずれかのものなどの官能基を含有し得る。
【0048】
上述のとおり、ポリマーはまた、いくつかのモノメタクリルモノマーを含有し得る。しかしながら、このようなモノマーがフリーラジカル重合反応において用いられる場合、モノメタクリルモノマーのモノマー混合物中の総量がおよそ40重量%を超えるべきではないことが望ましい。より多い量を用いることが可能であるが、40重量%を超える量では、このようなモノマーは分岐化メカニズム(または、本願明細書中後述のいわゆる「解裂(backbiting)」)に干渉し始め、それゆえ、望ましくない粘度の急な増加によって示されるとおり、低度の分岐のポリマーがもたらされる。このような濃度で形成される生成物は、かなり粘性であり、扱いが困難である。
【0049】
さらに、上記に列挙したモノアクリルおよびメタクリルモノマーの中から、一般的には、イソボルニル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート(すべての異性体)、エチルヘキシル(メタ)アクリレート(すべての異性体)、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、またはこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の嵩高いモノマーを、好ましくはコーティング組成物の、ウェットオンウェットでその上に塗布された上位のコーティング層との混合またはストライクイン耐性を高めるために、(モノマー混合物の約70重量%以下で)含むことが望ましい。
【0050】
また、分岐ポリマー生成物の意図される最終用途が高固形分プライマコーティング組成物にあるため、ジアクリルまたはジメタクリルモノマーの量は、一般的には、ゲル化を防止するために、用いられる特定のジアクリルまたはジメタクリルモノマー、ならびにモノマー混合物の組成に応じて異なり得るが、総モノマー混合物の30重量%以下であろう。
【0051】
好ましい実施形態において、分岐アクリルポリマーは、イソボルニルアクリレート、ブチルアクリレート(すべての異性体)、エチルヘキシルアクリレート(すべての異性体)、またはシクロヘキシルアクリレート、またはこれらのモノマーの混合物のいずれかである第1のアクリレートモノマーと、アルキル基中に1〜4個の炭素原子を有するヒドロキシアルキルメタクリレートまたはアクリレート、またはカルボキシル含有アクリルまたはメタクリルモノマーまたはこれらのモノマーの混合物、ジアクリレートまたはジメタクリレートモノマーまたはこれらのモノマーの混合物のいずれかである第2のメタクリレートまたはアクリレートモノマーと、これらにグラフト化された重合化カプロラクトンとの重合化モノマーから組成され、ここで、ヒドロキシルおよび/またはカルボキシル基のすべてまたは一部が、フリーラジカル重合の前、最中、または後に、カプロラクトンと反応してラクトングラフト鎖を分岐アクリルポリマー上に形成する。
【0052】
一つの特に好ましい分岐アクリルポリマーは、約40〜98重量%の第1のアクリレート、1〜30%の第2のアクリレートまたはメタクリレート、および1〜30重量%のジアクリレートまたはジメタクリレートを含有する。当然、ポリマー中のモノマーの総割合は100%に等しく、従って、最大量に等しいまたは近い量の一つの特定のモノマーが用いられる場合には、残りのモノマーの相対量は適宜低減されなければならない。
【0053】
一つの特に好ましい分岐アクリルポリマーは、以下の成分、すなわち、イソボルニルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、および1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを、上記の割合範囲で含有して、ラクトングラフトを分岐ポリマー上に形成し、ここで、ヒドロキシル基はカプロラクトン、好ましくはε−カプロラクトンと反応される。
【0054】
当然、他の環状ラクトンもまた、当業者に明らかであろうとおり用いることが可能である。ε−カプロラクトンの他には、いくつかの好適なラクトンとして、γ−カプロラクトン;γ−ブチロラクトン;γ−バレロラクトン;δ−バレロラクトン;γ−ブチロラクトン;およびグリコール酸などの関連するヒドロキシカルボン酸のラクトン;乳酸;例えば3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、およびヒドロキシピバリン酸といった3−ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。しかしながら、これらのうちε−カプロラクトンが最も好ましい。
【0055】
上述のカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーは、モノマーが、液体反応媒体、フリーラジカル重合開始剤、任意によりカプロラクトン、任意によりカプロラクトン変性モノマー、任意によりカプロラクトンのための重合触媒、および任意により連鎖移動剤とブレンドされ、および典型的には少なくとも130℃、好ましくは少なくとも150℃、より好ましくは少なくとも160℃の比較的高温に、十分な時間、当業者に明らかであるとおり、典型的には2〜8時間加熱されて、実質的に非ゲル化の分岐ポリマーが形成される多様な溶液重合法により調製されることが可能である。一般には、130℃未満の温度では、内部架橋の量が増加すると共に、副生成物の相対量もまた増加する。しかも、過度に低い反応温度では、反応混合物の粘度は、反応混合物が過度に粘性で攪拌できず、そのために反応を制御することが困難になり、および停止されなければならなくなるまでに急速に増加する。カプロラクトンがこのプロセスに含まれない場合には、カプロラクトンは、予め形成されたアクリルポリマーにカプロラクトンのための重合触媒と共に添加され、および75℃〜165℃に十分な時間、当業者に明らかであるとおり、典型的には2〜8時間加熱されて、ポリマーが形成される。
【0056】
上に示したとおり、本願明細書において、分岐アクリルポリマー構造を形成するために用いられるプロセスのフリーラジカル重合部分は、モノマーを開始剤および/または触媒および異なる溶剤の存在下で加熱するなどの従来の技術を利用して実施されることが可能である(ただし、ポリマーのゲル化を生じさせずに分岐化を誘引するためには、重合中の反応温度は十分に高温でなければならない(すなわち、一般的には130℃を超える))。
【0057】
いずれかの特定のメカニズムに限定されることは望ましくないが、本願明細書において用いられる高温フリーラジカル重合方法は、モノマー混合物のゲル化を防止する、いわゆる「解裂(backbiting)」を含むと考えられている。記載の重合方法においては、メチン主鎖水素の除去が第3級ラジカルを与えるために生じ、これが分岐点の形成をもたらしおよび最終的に、その後のモノマー付加を介して分岐ポリマーをもたらすと考えられている。水素の主鎖からの除去は、分子鎖間移動、またはいわゆる解裂により生じると考えられており、これが、ジアクリレートまたはジメタクリレートモノマーをわずかな量を超えて用いる古典的なフリーラジカル重合において通常生じると予期されるであろうゲル化ポリマーの形成とは対照的に、観察される分岐化を最も良く説明する。高温アクリレート重合におけるこのような解裂反応は、参照により本願明細書に援用されるPeckおよびGrady、「Polym.Preprints」、2002年、43(2)、154において、より完全に記載されている。
【0058】
本発明において、ジアクリルまたはジメタクリルモノマーの存在下においても、ゲル化ポリマーがほとんどまたは全く形成されず、より高い反応温度がこの解裂に有利であることが予想外にも観察された。過去においては、反応混合物中の多量のジアクリルまたはジメタクリルモノマーの存在は、反応混合物のゲル化を生じさせるであろうと考えられていた。開示のプロセスは、従って、かなり高い反応温度を用いて、主鎖水素除去の発生率を増加させると共に、分岐化の発生率を増加させる。ポリマー鎖上の分岐点の数の増加は、低粘度をもたらす。分岐ポリマーの内部粘度は、等しい分子量の対応する直鎖ポリマーのものより低く、これにより、このように形成された分岐ポリマーを、吹付けによるものなどの実際の適用について十分に低い粘度で、高固形分コーティングにおいて用いることが可能になることが周知である。
【0059】
アクリルポリマー主鎖および分岐構造の形成に用いられるプロセスのフリーラジカル重合部分は、好ましくは、フリーラジカル重合開始剤の存在下に実施され、典型的には、第3級ブチルパーベンゾエート、第3級ブチルパーオクトエート、クメンヒドロ過酸化物、ベンゾイルペルオキシド、ジ−第3級ブチルペルオキシド、ジクメンペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシドまたは類似の過酸化(peroxygen)化合物、またはアゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物が用いられる。フリーラジカル重合開始剤の量は、所望の分子量に応じて異なることが可能であるが、すべての重合性モノマーの重量を基準にして約0.05〜8重量%が典型的である。好ましい範囲は0.05〜4重量パーセントである。2種以上の開始剤の混合物を用い得る。
【0060】
溶剤は必須ではなく、液体反応媒体として好ましく用いられる。溶剤は、総反応混合物の0〜約75%として用いられることが可能である。従来の重合溶剤のいずれかは、高温プロセスの存在下に、分岐アクリルポリマーの調製に用いられ得る。分岐化の誘引に必要とされる高温でのそれらの低い蒸気圧のため、高沸点溶剤が好ましい。一般には、100℃を超える、特に150℃を超える沸点を有する溶剤が最も好ましい。このような高沸点溶剤の例としては、エステルおよび混合エーテルおよびエステル、Cellosolve(Union Carbide Corporationの登録商標)、ブチルCellosolve、Cellosolveアセテート、Carbitols(Union Carbide Corporationの登録商標)、(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。溶剤の官能基がモノマー官能基と干渉しない限りにおいて、いずれの溶剤も許容される。反応はまた、圧力下に行われ得、従って、低沸点溶剤の沸点を、本発明のポリマーの生成に望ましい温度まで高めることが可能である。
【0061】
さらに、種々の炭化水素画分が用いられ得るが、Solvesso150またはSolvesso100(Exxon Mobil Oil Companyの登録商標)が最も好ましい。例えば、トルエン、キシレン、クメン、およびエチルベンゼンといった芳香族溶剤もまた用いられることが可能である。官能性溶剤が所望される場合には、特別な注意がなされる。酸、アルコールおよびアミン官能性溶剤はカプロラクトンと反応する可能性があり、従って、カプロラクトンがアクリルポリマー上の所望の部位と反応し終わるまで導入されるべきではない。
【0062】
一旦、環状ラクトンと反応可能なモノマーまたはラクトンと予め反応されたモノマーが反応混合物中に包含されたら、数々の異なる処理方法を用いて、環状ラクトンを有する分岐アクリルポリマーの鎖伸長および最終カプロラクトン変性分岐アクリルポリマーの調製が可能である。主な差は、ラクトン、好ましくはカプロラクトンが反応プロセスに導入される特定の点を含む。
【0063】
本発明において有用である一方法は、所望のラクトンをカルボキシルまたはヒドロキシル官能性エチレン性不飽和モノマーと、好適な触媒の存在下で予め反応させて、エチレン性不飽和(好ましくはアクリルまたはメタクリル)二重結合およびヒドロキシルまたはカルボキシル側基を有する新たなラクトン伸長モノマーを形成することである。ラクトン対エチレン性不飽和カルボキシルまたはヒドロキシルモノマーのモル比は、約0.1〜20モル、好ましくは0.25〜6モル、最も好ましくは1〜3の範囲であることが可能である。このようなモノマーの典型的な例は、Union Carbideの製品である、1モルの2−ヒドロキシエチルアクリレートと2モルのε−カプロラクトンとの反応生成物であるTone M−100(登録商標)である。
【0064】
第2の方法においては、ラクトンが反応器に有機溶剤と共に充填される。これらの材料は反応温度に加熱され、およびエチレン性不飽和モノマーが、フリーラジカル触媒と共に添加されて、溶剤およびラクトンの存在下に反応される。ラクトン重合用触媒が、アクリルモノマーと同時に添加され得、またはこれらのモノマーの添加の前に添加され得る。温度が十分な時間維持されて、所望の鎖伸長分岐アクリルポリマーが形成される。
【0065】
第3の方法においては、分岐アクリルポリマーが、先ず、高温重合方法を介して形成される。このプロセスが完了したとき、所望のラクトンが、次いで、ラクトン重合用触媒と共に添加されおよび所望の生成物が形成される。
【0066】
すべての場合において、反応混合物に添加した、ラクトン対エチレン性不飽和カルボキシルまたはヒドロキシルモノマーのモル比は異なることが可能である。モル比は、典型的には、約0.1〜20、より好ましくは約0.25〜6の範囲である。当業者は、重合触媒の量、反応温度、および他の条件を変えて、ラクトン重合に影響させることが可能であろう。
【0067】
フリーラジカル重合触媒に追加して、重合媒体は、組成物においてカプロラクトンが用いられる場合、重合触媒を含むことが可能である。
【0068】
典型的には、このカプロラクトン触媒は、アルカリまたはアルカリ土類金属アルコキシド、例えばナトリウムまたはカルシウムメトキシド;アルミニウムイソプロポキシド、有機スズ化合物、例えばジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、オクタン酸第一スズ、およびジブチル酸化スズテトラアルキルチタネート、チタンキレートおよびアシレート、鉛塩および鉛オキシド、ホウ酸亜鉛、酸化アンチモン、オクタン酸第一スズ、有機酸、硫酸、塩酸、およびリン酸などの無機酸、およびホウ素三フッ化物などのルイス酸であり得る。好ましい触媒は、ジブチルスズジラウレートである。
【0069】
上述のプロセスのいずれかにおいて、重合は好ましくは、得られるフィルム形成性分岐ポリマーが、未だ、本発明のプライマコーティング組成物における使用のために低粘度を有するが、所望の分子量および必要な分岐化および架橋性官能基および所望の混合およびストライクイン耐性を有するまで継続される。
【0070】
第2のアクリルポリマーはカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーである。このポリマーは上述の分岐アクリルポリマーの組成において類似するが、僅かに異なる方式(ジアクリレートまたはジメタクリレートを用いずに)で調製され、従って、直鎖ポリマーが形成される。直鎖ポリマーは、約10,000〜150,000、好ましくは約15,000〜60,000のMw(重量平均分子量)、モノマー混合物の、約1〜90重量%、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは約30〜70重量%、最も好ましくは約40〜60重量%のヒドロキシルおよび/またはカルボキシルモノマー含有量、および約0.1〜20モル、好ましくは0.25〜6モル、最も好ましくは1〜3モルのカプロラクトン/モルのヒドロキシルおよび/またはカルボキシル基を有する。好ましい実施形態において、ポリマーはヒドロキシルおよびカルボキシル官能基の両方を含有する。
【0071】
所望のカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーを形成するために、ポリマーは、好ましくは、カプロラクトンおよび少なくとも2種のタイプのエチレン性不飽和モノマーから組成される。エチレン性不飽和モノマー構造の部分はまた、カルボキシルおよび/またはヒドロキシル基;またはポリマーをラクトンで鎖伸長し、また、架橋性官能基をポリマーに提供するために、カプロラクトンモノマーと反応することが可能である官能基を含有する他の基を含有すべきである。分岐アクリルポリマーにおける使用のために上に列挙したヒドロキシルおよび/またはカルボキシル官能性モノエチレン性不飽和アクリルモノマーのいずれかはまた、直鎖アクリルポリマーにおいて用いられ得る。
【0072】
任意により、上述のヒドロキシルおよび/またはカルボキシル基のほかに、カプロラクトン変性アクリルポリマーは、アミノ、カルバメート、トリメトキシシランなどのアルコキシシラン、エポキシ等などの追加の反応性官能基(モノマー混合物中約90重量%以下の官能性モノマー)を含有して、追加の架橋性官能基をポリマーに付与し、および硬化コーティングのフィルム完全性を増加し得る。これらの官能基は、分岐アクリルポリマーについて上述した方法と同様に導入されることが可能である。
【0073】
典型的には、エチレン性不飽和モノマーの残りは、カルボン酸基、ヒドロキシル基または他の反応性または架橋性官能基を含有しない非官能性モノマーであろう。このようなモノマーの例は、分岐アクリルポリマーにおける使用のために上記に列挙された非官能性モノエチレン性不飽和モノマーのいずれかである。
【0074】
好ましい実施形態において、直鎖アクリルポリマーは、スチレンと、イソボルニルメタクリレートまたはアクリレート、ブチルメタクリレートまたはアクリレート(すべての異性体)、エチルヘキシルメタクリレートまたはアクリレート(すべての異性体)、またはシクロヘキシルメタクリレートまたはアクリレート、またはこれらのモノマーの混合物のいずれかである第1のメタクリレートまたはアクリレートモノマー;アルキル基中に1〜4個の炭素原子を有するヒドロキシアルキルメタクリレートまたはアクリレート、またはカルボキシル含有アクリルまたはメタクリルモノマーまたはこれらのモノマーの混合物のいずれかである第2のメタクリレートまたはアクリレートモノマー;およびこれらにグラフト化された重合化カプロラクトンの重合化モノマーとから組成される。上記のヒドロキシルおよび/またはカルボキシル基と開環付加することが可能であるカプロラクトンを反応させることにより、重合化カプロラクトンがポリマー上に形成されて、直鎖アクリルポリマーにグラフト鎖が形成される。
【0075】
特に好ましい実施形態において上記で用いられるアクリレートまたはメタクリレートモノマーの第1の組は、本配合物において、ここで配合されるコーティング組成物において分子量を構築すると共に顕著な空間を占有するために選択される、比較的嵩高いモノマーである。この嵩は、フィルム収縮および、その上にウェットオンウェットで塗布された上位のコーティング層との混合を防止する傾向にあり、従って、特に望ましい。
【0076】
一つの特に好ましいアクリルポリマーは、約5〜20重量%スチレン、10〜40重量%の第1のメタクリレートまたはアクリレート、35〜60重量%のカプロラクトンによって変性されたヒドロキシアルキルメタクリレートまたはアクリレート、1〜3%のカルボキシル含有アクリルまたはメタクリルモノマーを含有する。当然、ポリマー中のモノマーの総割合は100%に等しく、従って、最大量に等しいまたは近い量の一つの特定のモノマーが用いられる場合には、残りのモノマーの相対量は適宜低減されなければならない。
【0077】
一つの特に好ましいアクリルポリマーは、以下の成分、すなわち、スチレン、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、アクリル酸、およびTone(登録商標)M100を上記の割合範囲で含有して、直鎖ポリマー上にラクトングラフトを形成するε−カプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーである。
【0078】
当然、多様な他の環状ラクトンもまた、当業者に明らかであろうとおり用いられることが可能である。ε−カプロラクトンの他、分岐アクリルポリマーと用いられるための上述の他のラクトンのいずれかが、直鎖アクリルポリマーの形成のために用いられることが可能である。しかしながら、これらのうち最も好ましいのはε−カプロラクトンである。
【0079】
カプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーはまた、モノマーを、液体反応媒体、フリーラジカル重合開始剤、任意によりカプロラクトン、任意によりカプロラクトン変性モノマー、任意によりカプロラクトンのための重合触媒、および任意により連鎖移動剤とブレンドし、および75℃〜165℃に、十分な時間、当業者に明らかであるとおり、典型的には2〜8時間加熱してポリマーを形成する、多様な溶液重合法により調製されることが可能である。カプロラクトンがこのプロセスに含まれない場合には、カプロラクトンは、予め形成されたアクリルポリマーにカプロラクトンのための重合触媒と共に添加され、および75℃〜165℃に十分な時間、当業者に明らかであるとおり、典型的には2〜8時間加熱されて、ポリマーが形成される。
【0080】
上記で分岐アクリルポリマーの形成のために用いられるフリーラジカル重合開始剤、溶剤、および触媒の同一のタイプおよび量はまた、直鎖アクリルポリマーの形成において用いられ得る。ラクトンを導入するための同一の3つの方法もまた用いることが可能である。
【0081】
任意により、連鎖移動剤が用いられて、カプロラクトン変性アクリルポリマー主鎖の長さが制御される。最も典型的な連鎖移動剤は、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等などの硫黄化合物である。連鎖移動剤は、固体ポリマーの重量で、約0.5〜6%レベルで用いられる。
【0082】
上述のプロセスのいずれかにおいて、重合は好ましくは、得られるフィルム形成性直鎖ポリマーが、未だ、本発明のプライマコーティング組成物における使用のために十分に低粘度を有するが、所望の分子量および必要な架橋性官能基および所望の混合およびストライクイン耐性を有するまで継続される。
【0083】
上記のフィルム形成性アクリルポリマー成分に追加して、プライマ組成物はまた、フィルム形成性バインダーの一部として、架橋剤を含有する。組成物において用いられる架橋剤は、アミノプラスト樹脂またはブロックトポリイソシアネート樹脂または2つの混合物である。メラミンホルムアルデヒド縮合物などのアミノプラスト樹脂が一般的には好ましい。一般には、アミノプラスト樹脂は、メラミン樹脂、尿素、ベンゾグアナミン、または類似の化合物のアルデヒド縮合物である。通常は、用いられるアルデヒドはホルムアルデヒドであるが、有用な生成物は、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、ベンズアルデヒド、フルフラール等などの他のアルデヒドから形成することが可能である。メラミン樹脂または尿素の縮合物が、最も一般的であると共に好ましいが、少なくとも1種のアミン基が存在する他のアミンおよびアミドの生成物もまた用いることが可能である。
【0084】
メラミン樹脂縮合物のうち、部分的にまたは完全にアルキル化されている、単量体または高分子メラミンホルムアルデヒド縮合物樹脂が一般的には好ましい。これらの好ましい樹脂は、有機溶剤に可溶であり、商品名Cymel(登録商標)でニュージャージー州ウェストパターソン(West Patterson,New Jersey)のCytec Industries,Inc.から市販されている。一つの好ましい架橋剤は、約1〜3の重合度を有する、メチル化およびブチル化またはイソブチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂である。一般的には、このメラミンホルムアルデヒド樹脂は、約50%ブチル化基またはイソブチル化基および50%メチル化基を含有する。特性の良好なバランスのための他の好ましいメラミン樹脂は、Cymel 1156(登録商標)として公知である完全にブチル化された樹脂である。
【0085】
尿素ホルムアルデヒド、ベンゾクアナミンホルムアルデヒドおよびブロックトポリイソシアネートまたは非ブロックトポリイソシアネートまたは前述の架橋剤のいずれかの適合する混合物などの、他の可能な架橋剤もまた、当然用いることが可能である。
【0086】
例えば、上述のアミノプラスト架橋剤は、フィルム特性の増強のために、または、従来のブロックトポリイソシアネート架橋剤のいずれかと、置き換えるまたは任意により組み合わせることが可能である。典型的な遮断剤は、アルコール、ケチミン、オキシム、ピラゾール等である。
【0087】
ポリイソシアネートの典型的な例は、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、テトラメチルキシリデンジイソシアネート等などの、2〜4個のイソシアネート基/分子を有するイソシアネート化合物である。商品名Desmodur N−3390(登録商標)で、ペンシルベニア州ピッツバーグ(Pittsburgh,Pennsylvania)のBayer Corporationから入手可能であるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、商品名Desmodur Z−4470(登録商標)でBayer Corporation等から入手可能であるイソホロンジイソシアネート(イソシアヌレート)のイソシアヌレートなどの、イソシアヌレート構造単位を有するポリイソシアネートもまた用いることが可能である。
【0088】
前述の有機ポリイソシアネートおよびポリオールのいずれかから形成される、ポリイソシアネート官能基付加物もまた用いることが可能である。トリメチロールプロパンまたはエタンのようなトリメチロールアルカンなどのポリオールを用いることが可能である。一つの有用な付加物は、テトラメチルキシリデンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの反応生成物であり、およびCythane3160(登録商標)の商品名で入手可能である。本発明の架橋性樹脂が外装コーティングに用いられる場合、耐候性および黄化耐性の観点から、脂肪族または脂環式イソシアネートの使用が、芳香族イソシアネートの使用に対して好ましい。本系において用いることが可能である好適なブロックトイソシアネートの例は、Bayer Corporationから入手可能である1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのピラゾールブロックトポリイソシアネートである。
【0089】
任意により、上記のフィルム形成性バインダー成分に追加して、組成物はまた、フィルム形成性バインダーの一部として、アクリル樹脂、アクリロウレタン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂等などの他のフィルム形成性バインダー樹脂および/または架橋性樹脂を含有し得る。しかしながら、上に示したとおり、組成物は、フィルム形成性バインダーの一部として、例えば、アクリルミクロゲル、および例えばアクリルNADベースの架橋NAD樹脂粒子ベースの、架橋ミクロゲル樹脂粒子を完全にまたは基本的に含むべきではない。上位のベースコーティング層がポリエステルベースのコーティング組成物(例えば、標準ポリエステル−メラミン樹脂ベースコーティング)から形成されている場合、プライマ組成物もまた、2つの層の間の溶解度パラメータをさらに高めるために、前述のポリエステルバインダー樹脂のいずれも含まないことが一般的に望ましい。
【0090】
フィルム形成性バインダー成分の他に、本発明のコーティング組成物はまた、少量の非バインダー固形分を含み得る。一般的には、触媒、顔料、または安定化剤などの化学添加剤は、バインダー固形分の一部としてはみなされない。顔料以外の非バインダー固形分は、上に示したとおり、通常は、組成物の約5〜15重量%を超えない。このような追加の添加剤は、当然、コーティング組成物の意図された使用に応じることとなる。
【0091】
例えば、硬化時の組成物の架橋速度を高めるために、触媒を組成物に添加することが可能である。一般的には、バインダーの重量を基準にして約0.1〜6重量%の触媒が用いられる。このような触媒の典型的なものはブロック酸触媒である。典型的には有用なブロック酸触媒は、アミノメチルプロパノールまたはジメチルオキサゾリンでブロックされた芳香族スルホン酸である。典型的には、有用な芳香族スルホン酸は、パラ−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸である。一つの好ましい触媒は、アミノメチルプロパノールでブロックされたドデシルベンゼンスルホン酸である。
【0092】
組成物の屋外耐候性を向上するために、およびコートされた基材を早期の劣化から保護するために、組成物は、典型的には、バインダーの重量を基準にして約0.01〜2重量%の紫外光安定化剤(この用語は、紫外光吸収剤、遮蔽剤および消光剤を含む)を含有する。典型的な紫外光安定化剤としては、ベンゾフェノン、トリアジン、トリアゾール、ベンゾエート、ヒンダードアミンおよびこれらのブレンドが挙げられる。
【0093】
組成物において用いることが可能である典型的な顔料は、タルク、カオリン、バライト、炭酸塩、ケイ酸塩などの充填材顔料、および二酸化チタン、酸化亜鉛および酸化鉄などの金属酸化物などの着色顔料、およびカーボンブラックおよび有機着色顔料および染料である。得られるプライマ組成物は、約1:100〜150:100の顔料対バインダー重量比を有する。
【0094】
顔料は、先ず、練り顔料を、アクリルコポリマー分散剤と共に、または他の適合するポリマーまたは分散剤と共に、サンドグラインド、ボールミルまたは磨砕グラインドなどの従来の技術により形成することにより、プライマ組成物に導入されることが可能である。練り顔料は、組成物において用いられる他の成分とブレンドされる。
【0095】
一般には、カーボンブラックおよび二酸化チタンを主な顔料として用いることにより調製される、灰色のプライマが典型的には用いられる。しかしながら、種々の着色顔料を用いて、例えば、後にその上に直接的に塗布される有色のベースコート層の色調と類似の色調を有する種々の色を提供し得る。これは、可能な限り最薄のフィルム塗り厚で、有色のベースコートの完全な隠蔽の達成を図るためになされる。さらに、少量のタルクを組成物中に含んで、コーティングの耐チッピング性を向上させることが、一般的には望ましい。
【0096】
液体キャリアに対して、従来の有機溶剤のいずれかまたは溶剤のブレンドを用いて、プライマ組成物を形成することが可能であるが、ただし、溶剤の選択は、高分子バインダー成分が適合性であり、かつ、高品質のプライマコーティングを付与するようになされる。以下は、組成物の調製に用いられることが可能である溶剤の例である:メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、アセトン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよび他のエステル、エーテル、ケトンおよび従来用いられている脂肪族および芳香族炭化水素溶剤。溶剤の比率は、これらは主に、固体材料をコートされるべき基材に運ぶ揮発性の展色剤として役立つため重要ではない。溶剤は、好ましくは、組み立て工場に運搬されることが可能であり、後に塗布の容易さのために溶剤で好適な噴霧粘度に希釈される、安定な濃縮物を提供する量で用いられる。
【0097】
上記の成分に追加して、組成物はまた、強化剤、および例えばResiflow(登録商標)S(ポリブチルアクリレート)、BYK(登録商標)320および325(高分子量ポリアクリレート)などの流動性制御剤などの他の従来の配合物添加剤を含み得る。このような追加の添加剤は、当然、当業者に明らかであろうとおり、コーティング組成物の所望の最終特性に応じるであろう。さらに、Garamite(登録商標)クレイなどの従来の流体力学的活性剤、ヒュームドシリカ、尿素サグ抑制剤等もまた、混合耐性の増加のために用いることが可能である。
【0098】
上に示したとおり、高固形分プライマ組成物が、一般的には、本発明の多層コーティングプロセスにおいて用いられるために好ましい。空気汚染を最低限のレベルに維持するために、プライマコーティング組成物は、好ましくは、コーティング組成物の総重量を基準にして、約40〜70重量%の総固形分含有量(%非揮発性)を塗布時に有し、および好ましくは50〜65重量%を有する。高固形分コーティングは低固形分液体コーティングのような挙動を示すが、より低い溶剤含有量および著しく低減された排出の追加の利益を有する。このような固形分での揮発性有機含有量またはVOCレベルは、典型的には、ASTM D3960に提供された手法で測定した際に、約3.5ポンド未満の有機溶剤/ガロンの硬化性組成物と言い換えられる。
【0099】
しかしながら、当業者に明らかであろうとおり、塗布時に、噴霧粘度を調節するため、およびコーティングの流動性およびレベリングを制御するため、および他の所望の特性を提供するために、追加の溶剤を必要に応じて追加し得ることが理解されるべきである。
【0100】
プライマ組成物は、プラスチックまたは金属基材に、吹付け、静電塗装、浸漬、ブラッシング、フローコーティング等などの従来の技術により塗布することが可能である。
【0101】
ベースコート層
本発明による多層コーティングの形成方法において、有色ベースコーティング組成物が、ベースコート層の形成に用いられる。ベースコート層は、後述されることとなるクリアコート層と共にトップコートフィルムを形成する。このベースコーティング組成物は、フィルム形成性樹脂、通常は硬化剤、着色顔料および任意により光輝材顔料を含有して、輝き、パール、蛍光、および/またはメタリック外観または硬化コーティング組成物への色の深度の増加などの特殊な視覚効果を付与する。
【0102】
従来公知のベースコート組成物のいずれかを、本発明の方法において用いることが可能である。一般には、ベースコートの組成は本発明によっては限定されない。ベースコーティング組成物は溶剤タイプまたは水系タイプであり得る。
【0103】
ベースコーティング組成物中に含まれるフィルム形成性樹脂の例としては、これらに限定されないが、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、および樹脂は単独でまたは組み合わせて用い得る。フィルム形成性樹脂は硬化剤と組み合わせて用いることが可能である。典型的な硬化剤の例としては、メラミンホルムアルデヒド縮合物および/またはブロックトイソシアネート樹脂などのアミノ樹脂が挙げられる。
【0104】
典型的な高固形分溶剤系ベースコートの例は、着色顔料、任意選択のアルミニウムフレーク、およびUV吸収器に追加して、組成物の重量で、約10%ミクロゲルを、レオロジー制御のために、21%メラミンホルムアルデヒド樹脂、15%分岐ポリエステル樹脂、5%ヒドロキシ官能性アクリル樹脂、1%ドデシルベンジルスルホン酸触媒、および上述のポリマーを分散および/または希釈するおよび噴霧塗布を促進する40%溶剤を含む。
【0105】
クリアコート層
クリアコート層を形成するために、クリアコーティング組成物が用いられる。クリアコーティング組成物は特に制限されず、およびフィルム形成性樹脂、硬化剤等を含有するクリアコーティング組成物であり得る。クリアコーティング組成物は、溶剤タイプ、水系タイプまたは粉末タイプであり得る。
【0106】
低VOC(揮発性有機含有量)を有すると共に、現在の汚染規制を満たす高固形分溶剤系クリアコートが一般的には好ましい。典型的には、有用な溶剤系クリアコートとしては、これらに限定されないが、イソシアネートと架橋したポリオールポリマーの2K(2成分)系およびメラミン樹脂と架橋したアクリルポリオールの1K系またはポリオールおよびメラミン樹脂と組み合わせた1Kアクリロシラン系が挙げられる。
【0107】
本発明のプロセスにおいて用いることが可能である好適な1K溶剤系アクリロシランクリアコート系が、参照により本願明細書に援用される米国特許第5,162,426号明細書に開示されている。好適な1K溶剤系アクリル/メラミン樹脂クリアコート系が、参照により本願明細書に援用される米国特許第4,591,533号明細書に開示されている。
【0108】
エポキシ酸系もまた用いることが可能である。このような仕上げは、高い光沢およびDOI(イメージの明瞭性)を含む魅力的な美的外観を有する鏡面状外装仕上げを備える自動車およびトラックを提供する。
【0109】
基材
本発明のコートフィルムの形成方法は、金属、プラスチックおよび発泡体、およびこれらの組み合わせなどの種々の基材に、好ましくは金属表面および成形体に、およびより好ましくはカチオン性電着塗装コートフィルムがその上に形成された金属製品に適用され得る。
【0110】
金属基材の例としては、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等およびスチールなどのこれらの金属を含有する合金が挙げられる。特定の製品としては、乗用車、トラック、自動二輪車およびバスなどの自動車の車体および部品が挙げられる。
【0111】
特に好ましい金属基材は、リン酸塩、クロム酸塩等での形成処理に予備的に供されたものである。
【0112】
基材は、形成処理に供した表面上に電着塗装コートフィルムを有し得る。電着塗装コートフィルムは、アニオン性またはカチオン性電着塗装コーティング組成物から形成され得る。しかしながら、優れた耐腐食性を提供するためカチオン性電着塗装コーティング組成物が好ましい。
【0113】
本発明の方法によりコートされることが可能であるプラスチック基材の例としては、ガラス繊維強化ポリエステル、反応−射出成形ウレタン、特に結晶性ポリアミド等またはこれらの混合物が挙げられ、これらは下塗りされていても下塗りされていなくてもよく、または本願明細書に記載のコーティング方法による処理の前に他に処理されていてもよい。これらのプラスチック基材は、度々、フェンダー、バンパー、および/またはトリム部品などの特定の車体部品の製造に用いられる。
【0114】
コーティングの形成方法
本発明の多層コーティングの形成方法によれば、図1に例示されているとおり、プライマコート層12がプライマコーティング組成物を用いて基材(図1に示されている車体10)上に形成され、次いで、ベースコート層14がベースコーティング組成物を用いて、およびクリアコート層16がクリアコーティング組成物を用いて、この順番で、ウェットオンウェット方式で形成される。
【0115】
本発明によれば、上述の3つのコーティング組成物が車体に塗布される場合、吹付け、静電塗装、高速回転静電ベル(high speed rotational electrostatic bells)等などの従来のコーティング方法を実施することが可能である。すべての3つのコーティングを塗布する好ましい技術は、典型的に最新の自動車およびトラック組み立て工場において利用されているため、静電増強有り、または無しにおいての空気噴霧吹付け、および高速回転噴霧静電ベルである。
【0116】
本発明によりプライマコーティング組成物が車体に塗布されるとき、上記技術のいずれかを用いることが可能である。
【0117】
プライマコーティング組成物は、通常は、0.3〜2.5ミル(7〜60μm)、好ましくは0.5〜1.5ミル(12〜36μm)の厚さを有する硬化層を形成するが、これは意図される使用に従って異なり得る。厚さが上限より厚い場合、イメージ鮮鋭性が悪化し得、または不均一性またはサギングなどのトラブルが塗布時に生じ得る。下限未満である場合、電着−下塗り基材を隠蔽することができず、およびフィルムの不連続性が生じ得、これは下位の電着塗装層を過剰なUV透過および劣化に曝す可能性がある。
【0118】
未硬化プライマコーティング組成物層上に、ベースコーティング組成物およびクリアコーティング組成物がウェットオンウェット方式で塗布されて、ベースコート層およびクリアコート層が形成される。
【0119】
ベースコーティング組成物は、プライマコーティング組成物のように、空気−静電吹付けコーティングまたは回転噴霧静電ベルを用いて、0.4〜1.2ミル(10〜30μm)の乾燥厚を有するように塗布され得る。
【0120】
クリアコート材料が、次いで、ベースコート層上に、平滑な粗度または光沢着色顔料の存在により生じる光沢を目的として、およびベースコート層の表面を保護するために塗布される。クリアコート材料は、ベースコーティング組成物のように、回転噴霧静電ベルを用いて塗布され得る。
【0121】
クリアコート層は、好ましくは、約1.0〜3.0ミル、(25〜75μm)の乾燥厚を有するよう形成される。
【0122】
上記で得られる多重コート層は、次いで、図1に示すとおり同時に硬化されて(すなわち焼付されて)、層状のコーティングを形成する。これが、「3−コート−1−焼付方法」と呼ばれるものである。この方法は、ベースコート化される前に、プライマコート層を乾燥させるためのオーブンを必要とせず(図2に示される従来のプロセスにおいては必要とされている)、および経済的および環境的観点から好ましい。
【0123】
三層化コートフィルムは、次いで、硬化オーブン中に、100〜180℃、好ましくは130〜160℃の範囲内の硬化温度で、高架橋密度を有する硬化コートフィルムが得られるよう硬化される。硬化時間は硬化温度に応じて異なり得るが、硬化温度が130℃〜160℃のときには10〜30分間の硬化時間が適切である。
【0124】
本発明のプロセスによれば、多層コーティングは、3〜5ミル(75〜120μm)の厚さを有するよう形成される。本発明の層の各々においては、薄いフィルム塗り厚は、外観、機械的特性、および下位の層へのUV透過量に影響することとなるため、適切なフィルム塗り厚を有することが重要である。過度に薄いフィルム塗り厚は、電着コート層へUV放射線を透過させる可能性がある。ほとんどの電着塗装層はUV吸収剤は配合されておらず、およびこれらは、UV劣化に対して極めて感受性である傾向にある。
【0125】
以下の実施例は本発明をさらに例示するが、これらは、本発明をそれらの詳細に限定するものと解釈されるべきではない。すべての部および割合は、他に示されていない限りにおいて重量基準である。本願明細書に開示のすべての分子量は、ポリスチレンを基準として用いるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されている。他に規定されていない限りにおいて、すべての薬品および試薬は、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI)のAldrich Chemical Companyから入手することが可能である。
【実施例】
【0126】
以下の分岐アクリルコポリマーを調製し、次いでそれを用いて、以下の本発明の3ウェットプライマコーティング組成物を形成した。
【0127】
実施例1
高Mwカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーの調製
12−リットルフラスコに、温度計、攪拌機、滴下漏斗、加熱マントル、還流凝縮器および反応体上に窒素雰囲気を維持する手段を取り付けた。フラスコを窒素正圧下に保持すると共に、以下の成分を用いた。
【0128】

【0129】
部分1混合物をフラスコに充填し、混合物を攪拌し、還流温度に加熱した。バッチを還流に維持しながら、部分2を予混合し、5時間の間かけてフラスコに供給し、反応混合物を添加の過程の間中、還流温度に保持した。還流をさらに60分間継続し、部分3を予混合し、30分の時間をかけて還流でフラスコに供給した。添加が完了した後、反応温度を150℃に昇温すると共に、さらに3時間保持した。次いで、溶液を室温に冷却して、調合した。得られるポリマー溶液の重量固形分は65.8%であり、および25℃で計測したガードナーホルト粘度(ASTM D1545−98)はXであった。GPCで測定したところ、ポリマーの重量平均分子量は37690であり、および多分散性は11であった。
【0130】
実施例2
高Mw直鎖カプロラクトン変性アクリルポリマーの調製、S/BMA/BA/TONE M−100/AA、15/10/23/50/2重量%
12−リットルフラスコに、温度計、攪拌機、滴下漏斗、加熱マントル、還流凝縮器および反応体上に窒素雰囲気を維持する手段を取り付けた。フラスコを窒素正圧下に保持すると共に、以下の成分を用いた。
【0131】

【0132】
部分1混合物をフラスコに充填し、混合物を還流温度に加熱し、約20分間還元した。部分2を4時間かけてフラスコに供給し、反応混合物を添加の過程の間中、還流温度に保持した。還流をさらに30分間継続し、部分3を予め混合し、20分間かけて還流でフラスコに供給した。還流をさらに2時間継続し、溶液を室温に冷却し、調合した。
【0133】
得られるポリマー溶液は清透なポリマー溶液であり、60%の固形分含有量および25℃で454センチポアズのブルックフィールド粘度を有していた。ポリマーは49,173Mw(重量平均分子量)および5,866Mn(数平均分子量)を有していた。
【0134】
実施例3
上記3ウェットプライマ含有ポリマーの調製
灰色のプライマサーフェイサ組成物を、以下の成分を好適な混合容器中に示す順番で一緒に混合することにより調製した。
【0135】

【0136】
表脚注
エステル溶剤中の19%固形分の顔料分散体剤中に分散された18%固形分のカーボンブラック顔料。
エステル溶剤中のアクリル樹脂中に分散された68%固形分の二酸化チタン顔料。
ブチルアセテート溶剤。
イソプロパノール溶剤。
48%のNacure(登録商標)XP−221、コネチカット州ノーウォーク(Norwalk,Connecticut)のKing Industriesにより供給された芳香族スルホン酸。
Cymel(登録商標)1168、ニュージャージー州ウェストパターソン(West Patterson,New Jersey)のCytec Industries Inc.により供給された完全アルキル化(50%メチル;50%イソブチル)単量体メラミンホルムアルデヒド樹脂。
アクリル樹脂溶液および芳香族炭化水素溶剤中の9%固形分のシリカ分散体。
実施例1からの超分岐アクリル。
アクリル樹脂溶液および芳香族炭化水素溶剤中の64%の硫酸バリウム。
10実施例2からの直鎖アクリル。
【0137】
得られた3ウェットプライマサーフェイサ組成物は、61%の理論的固体含有量を有し、吹付け固形分は58重量%であった。
【0138】
実施例4および比較例1〜2
従来の方法および3ウェット方法により塗布された従来の焼付プライマに比した上記で調製した3ウェットプライマを用いる3ウェットコーティング方法
リン酸化スチールパネルを、(1)上記で調製したプライマ(実施例3)での3ウェットコーティング方法を用いる;(2)標準的な焼付プライマ(比較例1)での3ウェットコーティング方法を用いる;および(3)対照として、標準的な焼付プライマ(比較例2)での従来のプライマ焼付プロセスを用いる、三つの異なる方法でコートした。
【0139】
実施例3において、実施例2のプライマサーフェイサを、プライマ−サーフェイサを吹付けることにより、硬化陰極エポキシ樹脂ベースの電着プライマ(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington,DE)のDuPont Company製のCormax(登録商標)6ED)でコートされた、3つの個別のリン酸塩化スチールパネル上に塗布して、12、29および49ミクロンのフィルム塗り厚を得た。プライマサーフェイサ層およびすべての続く層を、55鋸状ベルカップを用いてパネルに塗布した。プライマサーフェイサ塗布の後、パネルを室温で3分間空気フラッシュ乾燥させ、その後、プエブロゴールド溶剤系ベースコート(Du Pont Company製の商品コード(commercial code)647A01099)の塗布を、2コート、フラッシュオフ3分間で続け、乾燥最終ベースコートフィルム塗り厚18ミクロンを、この試験のために垂直および水平位置上に得、および続けて、アクリロシランクリアコート(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington,DE)のDuPont Company製のGen(登録商標)4ES)を塗布し、10分間フラッシュ乾燥し、および30分間140℃で焼付した。
【0140】
同一の上述の3ウェットプロセス(比較例1)を用いて塗布した、さらに、ベースコート塗布との間にプライマを焼付する従来のプロセスで塗布した(比較例2)、DuPont Company製の1回焼付プライマ708−DN079中の市販のTitanium Frost2との比較のために本発明の3ウェットプライマサーフェイサ組成物を上述のとおり塗布し、次いで、コートしたパネルを比較した。結果が図3〜6および以下の表に報告されている。
【0141】
図3および4は、3ウェットプライマ(実施例3から)は、標準的なプライマ焼付技術(比較例2)を用いて塗布された従来の焼付プライマと同様の自動車の高品質な外観を形成することを示す。図はまた、標準的な焼付プライマは、自動車品質で3ウェットコーティングライン(比較例1)上で実施されることができないことを示す。外観が自動車品質のものであるかの判定、すなわち、コーティングが自動車仕上げの規格を満たす美的外観を有していたかは、BYK Gardner製のWaveScan DOI機器からの計測値により決定した。この機器は、普通オレンジピールとして知られる状態を示す長波を見ると共に、いわゆる「イメージの明瞭性」またはDOIの定量化を補助する短波をも見ることにより、仕上げの視覚的外観を計測する。これらの組み合わせで得られるパラメータ(WaveScan CF読取値による)は、自動車仕上げの全体的な視覚的外観を定量化するために用いられることが可能である。最低で水平60および垂直50が自動車用に望ましい。
【0142】
図5は、試験した仕上げのメタリック効果またはフロップを示す。フロップ値を、各パネルの輝度特性を15°、45°、および110°の角度から計測するX−Rite Inc.製のX−Rite(登録商標)マシーンにより測定した計測値から算出した。3回の読取値の平均を各角度で取り、以下の式を用いてフロップが算出される。
フロップ=((L15°−L110°)10/L45°)。
【0143】
上記のように形成した多層コーティングについての耐チッピング性および接着性もまた試験した。以下の試験手法を用いた。
【0144】
接着性(0〜5の接着性を試験法ASTM D3359に従って測定した接着性)−少なくとも4Bの等級が許容される最低値である。
【0145】
耐チッピング性(通過する車の車輪によってこの車両に飛ばされる最も通常は石または砂利といった硬質材料による衝撃からの、または同一の車の車輪によってこの車両に飛ばされるロッカーパネルの場合の物理的損傷に耐えるコーティング系の性能を測る)を、グラベロメータを用いて、および試験法SAE J−400に記載の手法に従って測定する。少なくとも5の等級が許容される最低値である。
【0146】
試験結果が以下の表にまとめられている。
【0147】
表1
708ラインプライマ、従来のプロセスを用いたパネルの物理特性対3ウェットプライマおよび3ウェットプロセスを用いたパネルの物理特性

【0148】
図6A、6B、および6Cは、それぞれ、実施例4および比較例1および2において調製された、コートされたパネルの断面図であり、プライマおよびプロセス間の混合のレベルを示す。明らかに、従来の焼付プライマは、3ウェットプロセス塗布プロセス(比較例1;図6B)を用いては実施することはできず、一方で、本発明のプライマ(実施例3)は、3ウェットプロセス(実施例4;図6A)を用いて塗布されるとき、従来のプライマ焼付プロセス(比較例2;図6C)を用いて塗布された従来の焼付プライマのものと同様の結果をもたらした。
【0149】
要約すると、本発明のプライマコーティング組成物を3−コート−1−焼付(すなわち3ウェット)プロセスで用いて、自動車の高品質な外観を得ることが可能であることを結果は示した。
【0150】
本発明のプロセスおよび組成物の成分の種々の他の改良、変更、付加または置き換えは、本発明の思想および範囲から逸脱することなく当業者にとって明らかであろう。本発明は、本願明細書に規定の例示の実施形態によっては限定されず、特許請求の範囲によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明による3層ウェット塗料塗布プロセスの概略図である。
【図2】個別のプライマ噴霧ブースおよびプライマ焼付プロセスを必要とする従来の自動車コーティングプロセスの概略図である。
【図3】本発明のプロセスにより、水平に焼付されたパネルコートの外観を示すグラフである。
【図4】本発明のプロセスにより、垂直に焼付されたパネルコートの外観を示すグラフである。
【図5】本発明のプロセスにより水平に焼付されたパネルコートのフロップ(メタリック効果)を示すグラフである。
【図6A−6C】従来のプライマ焼付プロセスと比して、および本発明のものと類似しているが市販の焼付プライマを用いる3ウェットプロセスとも比して、本発明のプロセスによりコートされたパネルの断面図を示す100倍の倍率での顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層コーティングの形成方法であって、前記多層コーティングは、基材上に、順番に、プライマコーティング組成物の層を塗布し、ベースコーティング組成物の層およびクリアコーティング組成物の層を塗布するステップと、前記塗布した3層を焼付により同時に硬化するステップとを含み、前記プライマコーティング組成物は、フィルム形成性バインダーおよび有機液体キャリアを含み、ならびに任意により、約1:100〜150:100の顔料対バインダー重量比で顔料を含んでもよく、前記バインダーは、
(a)前記バインダーの重量を基準にして約50〜90重量%の、2種のアクリルポリマーを含むフィルム形成性アクリルポリマー成分であって、一方がカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーであり、および他方がカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーであり、前記ポリマーは約5:95〜95:5の相対重量比で提供されるフィルム形成性アクリルポリマー成分と、
(b)前記バインダーの重量を基準にして約10〜50重量%の、アミノプラスト樹脂、ブロックトポリイソシアネート、またはこれらの混合物からなる群から選択される架橋剤と
を含有する、前記方法。
【請求項2】
前記第1および第2のポリマーが、各々、そのすべてまたは一部が環状ラクトンと反応した、約1〜65重量%および1〜90重量%のヒドロキシルおよび/またはカルボキシルモノマー含有量をそれぞれ有し、共に約10,000〜150,000の重量平均分子量を有し、任意により向上した架橋性のための追加の官能性モノマーを含有してもよい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プライマコーティング組成物が、架橋非水性分散体樹脂および/または架橋ミクロゲル樹脂の粒子を完全に含まないかまたは基本的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基材が予め下塗りされた基材であり、前記基材は電着塗装コートフィルムを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基材が車体またはその部品である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
プライマサーフェイサと、
着色ベースコートと、
前記ベースコート上に塗布されたクリアコートと
を含み、
前記プライマサーフェイサが、請求項1に記載の多層コーティングである多層コーティング。
【請求項7】
前記プライマサーフェイサの下位が電着塗装プライマコーティングである、請求項6に記載の多層コーティング。
【請求項8】
前記コーティングが、自動車およびトラックの外装仕上げである、請求項6に記載の多層コーティング。
【請求項9】
フィルム形成性バインダーおよび有機液体キャリアを含み、ならびに任意により、約1:100〜150:100の顔料対バインダー重量比で顔料を含んでもよく、前記バインダーが、
(a)前記バインダーの重量を基準にして約50〜90重量%の、2種のアクリルポリマーを含むフィルム形成性アクリルポリマー成分であって、一方がカプロラクトン変性分岐アクリルポリマーであり、および他方がカプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーであり、前記ポリマーは約5:95〜95:5の相対重量比で提供されるフィルム形成性アクリルポリマー成分、および
(b)前記バインダーの重量を基準にして約10〜50重量%の、アミノプラスト樹脂、ブロックトポリイソシアネート、またはこれらの混合物からなる群から選択される架橋剤
を含有するプライマコーティング組成物。
【請求項10】
2種のアクリルポリマーの各々が、そのすべてまたは一部が環状ラクトンと反応した、約1〜65重量%および1〜90重量%のヒドロキシルおよび/またはカルボキシルモノマー含有量をそれぞれ有し、共に約10,000〜150,000の重量平均分子量を有し、任意により向上した架橋性のための追加の官能性モノマーを含有してもよい、請求項9に記載のプライマ組成物。
【請求項11】
前記カプロラクトン変性分岐アクリルポリマーが、カプロラクトンおよび少なくとも1種のモノアクリルモノマーおよび少なくとも1種のジアクリルまたはジメタクリルモノマーから組成され、および任意により、このポリマーは、少なくとも1種のモノメタクリルモノマーを、総反応混合物の30重量%を超えない限りにおいてさらに含有し得る、請求項10に記載のプライマ組成物。
【請求項12】
前記モノマー混合物が、合計で、30重量%以下のジアクリルおよび/またはジメタクリルモノマーを含有する、請求項11に記載のプライマ組成物。
【請求項13】
前記カプロラクトン変性分岐アクリルポリマーが、カプロラクトンと、イソボルニルアクリレート、ブチルアクリレート(すべての異性体)、エチルヘキシルアクリレート(すべての異性体)、またはシクロヘキシルアクリレート、またはこれらのモノマーの混合物のいずれかである第1のアクリレートモノマー;アルキル基中に1〜4個の炭素原子を有するヒドロキシアルキルメタクリレートまたはアクリレート、またはカルボキシル含有アクリルまたはメタクリルモノマーまたはこれらのモノマーの混合物、ジアクリレートまたはジメタクリレートモノマーまたはこれらのモノマーの混合物のいずれかである第2のメタクリレートまたはアクリレートモノマー;およびこれらにグラフト化された重合化カプロラクトンの重合化モノマーとから組成されている、請求項12に記載のプライマ組成物。
【請求項14】
前記カプロラクトン変性直鎖アクリルポリマーが、カプロラクトンと、スチレン;ブチルメタクリレートまたはアクリレート(すべての異性体)、エチルヘキシルメタクリレートまたはアクリレート(すべての異性体)、またはこれらのモノマーの混合物のいずれかである第1のメタクリレートまたはアクリレートモノマー;およびアルキル基中に1〜4個の炭素原子を有するヒドロキシアルキルメタクリレートまたはアクリレート、またはカルボキシル含有アクリルまたはメタクリルモノマーまたはこれらのモノマーの混合物のいずれかである第2のメタクリレートまたはアクリレートモノマーの重合化モノマーとから組成される、請求項10に記載のプライマ組成物。
【請求項15】
前記アミノプラスト樹脂が、部分的または完全アルキル化単量体または高分子メラミンホルムアルデヒド縮合物である、請求項9に記載のプライマ組成物。
【請求項16】
前記バインダーの重量を基準にして約0.1〜6重量%のブロック酸触媒をさらに含有する、請求項15に記載のプライマ組成物。
【請求項17】
架橋非水性分散体樹脂および/または架橋ミクロゲル樹脂の粒子を完全に含まないかまたは基本的に含まない、請求項9に記載のプライマ組成物。
【請求項18】
少なくとも40%の総固形分濃度を有する、請求項9に記載のプライマ組成物。
【請求項19】
前記組成物が、複合体ベースコート/クリアコート仕上げの下のプライマ−サーフェイサである、請求項9または17に記載のプライマ組成物。
【請求項20】
請求項9または17に記載の組成物の乾燥および硬化層でコートされた基材。
【請求項21】
前記基材が車体またはその部品である、請求項20に記載の基材。
【請求項22】
3層ウェット塗料系を用いて、プライマ焼付無しで、通常のフィルム塗り厚を自動車基材で得る方法であって、
(a)請求項9または17に記載のプライマ−サーフェイサ組成物を基材に塗布するステップと、
(b)ベースコート組成物をウェットオンウェットで前記プライマ−サーフェイサ上に塗布するステップと、
(c)クリアコート組成物を、ウェットオンウェットで前記ベースコート上に塗布するステップと、
(d)塗布した3つの重量層を、一緒に1回の焼付で硬化するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公表番号】特表2009−511251(P2009−511251A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534783(P2008−534783)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/039657
【国際公開番号】WO2007/044773
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】