説明

車体ピラー部周辺構造

【課題】燃料注入口を設けた車体ピラー部周辺に対する車体側方から衝撃入力を効率よく吸収して衝撃吸収性能を高める。
【解決手段】車体ピラー部5の下部に設けた燃料注入部に燃料注入口部材17を設け、燃料注入口部材17の内部に燃料注入口を設ける。燃料注入口部材17と、その車体内側に位置する車体インナパネル下部25との間にはブラケット27を設ける。ブラケット27は、全体としてコ字形状を呈し、車室側取付面27aを、車体インナパネル下部25側にリトラクタ取付ブラケット31を間に挟んで接合固定部33にて接合固定し、側壁面27b,27cを燃料注入口部材17の外側面17b,17cに接合固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体ピラー部に燃料注入口を備えた車体ピラー部周辺構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体ピラー部に燃料注入口を設けたものとしては、例えば下記特許文献1に記載されたものが知られている。
【特許文献1】実公昭63−23216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記した従来の車体ピラー部に燃料注入口を設けた自動車にあっては、側面衝突など車体側方からの衝撃入力を受けた際の車体ピラー部の変形を抑える必要がある。
【0004】
そこで、本発明は、燃料注入口を設けた車体ピラー部周辺に対する車体側方から衝撃入力を効率よく吸収して衝撃吸収性能を高めることによりピラー部の変形を抑えることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、自動車の車体ピラー部に燃料注入部を設け、この燃料注入部は、前記車体ピラー部内に配置される燃料注入口部材を備え、この燃料注入口部材と、該燃料注入口部材の車体内側に位置する車体インナパネルとの間に、車体側方からの衝撃入力を前記燃料注入口部材から前記車体インナパネルに伝達する衝撃吸収部材を設け、この衝撃吸収部材は、前記車体インナパネルに取り付ける車室側取付部と、この車室側取付部から前記燃料注入口部材に向けて延びる側面部とをそれぞれ備え、この側面部の先端内面を前記燃料注入口部材の外側面に接合固定したことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車体側方からの衝撃荷重が燃料注入部周辺に入力すると、この衝撃入力は、車体ピラー部内に配置される燃料注入口部材から衝撃吸収部材に伝達されるが、この際、燃料注入口部材の外側面から衝撃吸収部材の側面部を経て車体インナパネルに衝撃入力が効率よく伝達されて衝撃吸収部材の座屈変形を抑え、車体ピラー部全体に衝撃入力が分散して車体ピラー部の変形を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態に係わる車体ピラー部周辺構造を備えた車両の前側部分を示す側面図で、この車両においては前部ドア1と後部ドア3との間の車体ピラー部5(図2参照)の下部に燃料注入部7を設けている。図2は、燃料注入部7に設定してあるフューエルリッド9を開放した状態を拡大して示している。フューエルリッド9の開放側の縁部にはロック孔11aを備えたロック片11を設けてあり、このロック片11はフューエルリッド9を閉じたときに、車体ピラー部5側に設定してあるロック用突起13がロック孔11aに挿入係止されてロック状態となる。
【0009】
上記した車体ピラー部5における車体アウタパネル15の燃料注入部7に対応する位置には、開口15aを設け、この開口15aの車体内側の車体ピラー部5内に、燃料注入口部材17を設けている。
【0010】
図3は、図2のA−A断面図である。なお、この図3では、図2に示したフューエルリッド9を省略している。図3に示すように、上記した燃料注入口部材17は、車体表面に対して凹部19を形成するものであり、この凹部19の底部19aに、図2に示すように図示しない燃料注入口を設け、該燃料注入口に対してフューエルキャップ21を開閉可能に装着している。なお、図3では、このフューエルキャップ21を省略している。
【0011】
また、燃料注入口部材17は、周縁のフランジ17aを、車体アウタパネル15の開口15aの裏面に接合固定している。
【0012】
図4は、図2の紙面裏側、すなわち車室23側(図3参照)から見た燃料注入口部材17周辺の一部部品を省略した、車体ピラー部5の内部構造を示す斜視図である。図4に示すように、燃料注入口部材17は、図4中で紙面表側に対応する車室23側に膨出しており、その車体前後方向両側に外側面17b,17cを備えている。
【0013】
このような燃料注入口部材17と車室23側にある車体インナパネル下部25との間に、衝撃吸収部材としてのブラケット27を設けている。ブラケット27は、車体インナパネル下部25に取り付ける車室側取付部となる車室側取付面27aと、この車室側取付面27aの車体前後方向両側縁から燃料注入口部材17に向けて延びる側面部としての側壁面27b,27cとをそれぞれ備えている。
【0014】
この側壁面27b,27cは、前記した燃料注入口部材17の外側面17b,17cとほぼ平行に設定してあり、その先端内面27d,27eを、燃料注入口部材17の外側面17b,17cに接合固定する。
【0015】
すなわち、ブラケット27は図3に示すように平面視でほぼコ字形状をなし、側壁面27b,27cの先端にて燃料注入口部材17の外側面17b,17cを両側から挟み込むようにして取り付けている。この際、燃料注入口部材17とブラケット27との間に空間28を形成する。
【0016】
また、図4に示すようにブラケット27と車体インナパネル下部25との間に、後述の図5に示すシートベルトリトラクタ29を取り付けるためのリトラクタ取付ブラケット31を設け、これら車体インナパネル下部25とブラケット27とリトラクタ取付ブラケット31の3部品を、接合固定部33にてスポット溶接により互いに接合固定する。
【0017】
図5は、図4に対してシートベルトリトラクタ29をリトラクタ取付ブラケット31に取り付けた状態を示しており、したがって図4は、図5に対し、このシートベルトリトラクタ29及び、車体インナパネル下部25の上部に位置する車体インナパネル上部35を省略していることになる。車体インナパネル下部25と車体インナパネル上部35とで車体インナパネルを構成している。
【0018】
図5に示すように、シートベルトリトラクタ29は、車体インナパネル上部35に設けた開口部35aに対応して配置してあり、この配置状態で下部取付部29aをリトラクタ取付ブラケット31の上部の開口部35aに向けて突出した取付部31aに取り付け、上部取付部29bを車体インナパネル上部35に取り付けている。また、シートベルトリトラクタ29からシートベルト36を上記した開口部35aを通して上方に向けて引き出し、ショルダアンカー38にて折り返す構成としている。ショルダアンカー38は、車体ピラー部5の車室23側の内壁に取り付けてある。
【0019】
車体インナパネル上部35は、図3に示すように、その下縁を車体インナパネル下部25の上縁のブラケット27側に差し込んだ状態とするとともに、前記した接合固定部33を設定するために車体前後方向ほぼ中央部に切欠部35bを形成している。この切欠部35bに対応する位置にてブラケット27の車室側取付面27aを、一部突出させて突出部27fを形成し、この突出部27fと車体インナパネル下部25との間にリトラクタ取付ブラケット31の車体前方側の縁部31bを介装して前記した接合固定部33を形成する。
【0020】
リトラクタ取付ブラケット31は、ブラケット27に対し、図3に示すように、接合固定部33における上記した縁部31bから車体後方(図3中で左方向)に突出させた状態としている。
【0021】
また、車体インナパネル上部35における切欠部35bの車体前後方向に位置する下縁35c,35dのうち、車体前方側の下縁35cは、図3に示すように車体インナパネル下部25とブラケット27の車室側取付面27aとの間に位置して接合固定し、車体後方側の下縁35dは、リトラクタ取付ブラケット31とブラケット27の車室側取付面27aとの間に介装し、リトラクタ取付ブラケット31側に接合固定している。
【0022】
ここで、上記したような車体ピラー部周辺構造を備えた自動車において、側面衝突などによって車体ピラー部5における特に下部の燃料注入部7周辺が、図1,2中で紙面表側から裏側に向かう車体内側に向けて(図3中で矢印B方向に相当)衝撃荷重を受けた場合を想定する。
【0023】
その場合、まず車体アウタパネル15及び燃料注入口部材17が衝撃荷重を受け、燃料注入口部材17は、周縁のフランジ17aから外側面17b,17cに衝撃荷重を伝達し、その後外側面17b,17cに接続してあるブラケット27に衝撃荷重を伝達させる。
【0024】
この際ブラケット27は、外側面17b,17cから、該外側面17b,17cとほぼ平行な状態で接合固定してある側壁面27b,27cに向けて図3中の矢印Cで示す方向に効率よく衝撃荷重の伝達を受ける。ブラケット27に伝達された衝撃荷重は、車室側取付面27aを経て車体インナパネル下部25及び車体インナパネル上部35に効率よく伝達されて車体ピラー部5のほぼ全体に分散し、車体ピラー部5の変形量を抑えることができる。
【0025】
上記したブラケット27は、側壁面27b,27cが燃料注入口部材17の外側面17b,17cを挟み込むようして接合しているので、例えば図3中の二点鎖線で示すように、側壁面27b,27cの先端Pを燃料注入口部材17の背面17fに接合固定するような構造に比較して、断面係数向上によりねじり強度が向上し、衝撃荷重を燃料注入口部材17から車体インナパネルに効率よく伝達できることになる。
【0026】
図3中の二点鎖線で示す構造では、矢印B方向に衝撃荷重を受けたときに、側壁面27b,27cの先端Pが、燃料注入口部材17の背面17fに押されることで座屈変形しやすく、先端Pとした場合のブラケット27が部分的に大きく変形してしまい、車体インナパネルへ効率よく衝撃荷重を伝達することが困難となる。
【0027】
また、燃料注入口部材17は、ブラケット27に衝撃荷重を伝達する際に、ブラケット27内に入り込むような状態となって衝撃を吸収するので、燃料注入口部材17自体の変形を抑えることができ、フューエルキャップ21や図示しないフューエルチューブの破損も抑えることができる。
【0028】
また、車室23内の乗員が図5に示すシートベルト36を装着している際に、シートベルト36が引き出されて矢印D方向に引っ張られると、この引っ張り方向は多少車室23側に傾いているので、この引っ張り力が作用するシートベルトリトラクタ29は、リトラクタ取付ブラケット31を車室23側(図5中で紙面表側)に変形させる方向に作用する。
【0029】
ところが、本実施形態では、リトラクタ取付ブラケット31を、接合固定部33において、車体インナパネル下部25とブラケット27の車室側取付面27aとで挟持した状態で接合固定しているので、車体インナパネル下部25にのみ接合固定した場合に比較して接合固定強度が高まり、リトラクタ取付ブラケット31の車室23側への変形や車体インナパネル下部25からの剥離を抑えることができる。
【0030】
以上より、本実施形態では、車体側方からの衝撃荷重吸収効果と、シートベルト36の引っ張り荷重に対するリトラクタ取付ブラケット31の変形抑制効果とを、一つのブラケット27によって達成させることができ、これら両効果を別々の部品で達成する場合に比較して製造コスト低減及び質量低減を図ることができる。
【0031】
このように、本実施形態によれば、燃料注入口部材17の外側面17b,17cと衝撃吸収部材であるブラケット27の側面部27b,27cとをほぼ平行に設定したので、車体側方から衝撃入力を、燃料注入口部材17からブラケット27を経て効率よく車体インナパネルに伝達することができる。
【0032】
また、本実施形態では、ブラケット27は、車室側取付面27aの両側縁から燃料注入口部材17に延びる側面部としての側壁面27b,27cを一対備え、この一対の側壁面27b,27cの先端内面27d,27eを燃料注入口部材17の両外側面17b,17cに接合固定しているので、ブラケット27が燃料注入口部材17を両側から挟みこむような形となり、車体側方からの衝撃荷重を燃料注入口部材17から車体インナパネルへより効率よく伝達することができる。
【0033】
さらに、本実施形態では、燃料注入口部材17は、車体表面に対して凹部19を形成しつつ該凹部17の底部19aに燃料注入口を備えているので、燃料注入口部材17自体の変形を抑えることで、燃料注入口に装着するフューエルキャップ21や図示しないフューエルチューブの破損を抑えることができる。
【0034】
また、シートベルトリトラクタ29を、車体インナパネル上部35に設けた開口部35aに対応して配置し、この開口部35aの縁部における車体インナパネル下部25とブラケット27の車室側取付面27aとの間から、リトラクタ取付ブラケット31のシートベルトリトラクタ29に対する取付部31aを開口部35aに向けて突出させているので、シートベルト36が引き出される際に、取付部31aが車室23側に引っ張られるが、リトラクタ取付ブラケット31は、ブラケット27の車室側取付面27aと車体インナパネル下部25との間に挟持されているので、車体インナパネル下部25からの剥離や変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係わる車体ピラー部周辺構造を備えた車両の前側部分を示す側面図である。
【図2】図1の車両の燃料注入部に設定してあるフューエルリッドを開放した状態を拡大して示す側面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2の紙面裏側から見た燃料注入口部材周辺の一部部品を省略した、車体ピラー部の内部構造を示す斜視図である。
【図5】図4に対してシートベルトリトラクタをリトラクタ取付ブラケットに取り付けた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
5 車体ピラー部
7 燃料注入部
17 燃料注入口部材
17b,17c 燃料注入口部材の外側面
19 燃料注入口部材の凹部
19a 凹部の底部
25 車体インナパネル下部(車体インナパネル)
27 ブラケット(衝撃吸収部材)
27a ブラケットの車室側取付面(車室側取付部)
27b,27c ブラケットの側壁面(側面部)
27d,27e 側壁面の先端内面
29 シートベルトリトラクタ
31 リトラクタ取付ブラケット
31a リトラクタ取付ブラケットのシートベルトリトラクタに対する取付部
35 車体インナパネル上部(車体インナパネル)
35a 車体インナパネル上部の開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体ピラー部に燃料注入部を設け、この燃料注入部は、前記車体ピラー部内に配置される燃料注入口部材を備え、この燃料注入口部材と、該燃料注入口部材の車体内側に位置する車体インナパネルとの間に、車体側方からの衝撃入力を前記燃料注入口部材から前記車体インナパネルに伝達する衝撃吸収部材を設け、この衝撃吸収部材は、前記車体インナパネルに取り付ける車室側取付部と、この車室側取付部から前記燃料注入口部材に向けて延びる側面部とをそれぞれ備え、この側面部の先端内面を前記燃料注入口部材の外側面に接合固定したことを特徴とする車体ピラー部周辺構造。
【請求項2】
前記燃料注入口部材の外側面と前記衝撃吸収部材の側面部とをほぼ平行に設定したことを特徴とする請求項1に記載の車体ピラー部周辺構造。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材は、前記車室側取付部の両側縁から前記燃料注入口部材に向けて延びる側面部を一対備え、この一対の側面部の先端内面を前記燃料注入口部材の両外側面にそれぞれ接合固定したことを特徴とする請求項1または2に記載の車体ピラー部周辺構造。
【請求項4】
前記燃料注入口部材は、車体表面に対して凹部を形成しつつ該凹部の底部に燃料注入口を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車体ピラー部周辺構造。
【請求項5】
シートベルトリトラクタを、リトラクタ取付ブラケットを介して前記車体インナパネルに取り付け、前記リトラクタ取付ブラケットを、前記衝撃吸収部材の車室側取付部と前記車体インナパネルとの間に挟持されるよう取り付けたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車体ピラー部周辺構造。
【請求項6】
前記シートベルトリトラクタを、前記車体インナパネルに設けた開口部に対応して配置し、この開口部の縁部における車体インナパネルと前記衝撃吸収部材の車室側取付部との間から、前記リトラクタ取付ブラケットの前記シートベルトリトラクタに対する取付部を前記開口部に向けて突出させたことを特徴とする請求項5に記載の車体ピラー部周辺構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−61967(P2009−61967A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232733(P2007−232733)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】