説明

車体上部構造

【課題】車体上部の質量増加を抑えながら、側面衝突時やロールオーバ時のルーフ剛性を向上させることができる車体上部構造を得る。
【解決手段】ルーフリインフォースメント26とルーフパネル14とで複数の閉断面28が形成されると共に、これらの閉断面28内には、ダイラタント特性を有する充填部材30が配設されている。充填部材30は、車両の側面衝突時やロールオーバ時に閉断面28内でダイラタント特性により衝撃を吸収して瞬時に硬化する。このため、側面衝突時やロールオーバ時の衝撃荷重に対するルーフ剛性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体上部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体上部構造においては、閉断面を成す左右一対のルーフサイドレールに、ピラーの上端及び車幅方向に延在する複数のルーフリィンフォースメントの外端を接続した構造がある(例えば、特許文献1参照)。このような構造では、側面衝突時やロールオーバ時のルーフ剛性を向上させるために、ルーフの板厚を厚くしたり、ルーフリィンフォースメントの本数を増やしたりする対策が採られる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−213694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの対策を採った場合には、車体上部の質量増加を招く不利がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、車体上部の質量増加を抑えながら、側面衝突時やロールオーバ時のルーフ剛性を向上させることができる車体上部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明の車体上部構造は、車両のルーフ構成部材にダイラタント特性を有する部材が配設されている。
【0007】
請求項1に記載する本発明の車体上部構造によれば、車両のルーフ構成部材にダイラタント特性を有する部材が配設されているので、車両の側面衝突時やロールオーバ時には、ダイラタント特性を有する部材がダイラタント特性により衝撃を吸収して瞬時に硬化する。このため、硬化したダイラタント特性を有する部材によってルーフ構成部材の変形が抑えられる。
【0008】
請求項2に記載する本発明の車体上部構造は、請求項1記載の構成において、前記ルーフ構成部材は、ルーフパネルの下面に沿って車幅方向に延在すると共に前記ルーフパネルとで閉断面を形成するルーフリインフォースメントであり、前記ダイラタント特性を有する部材は、前記ルーフリインフォースメントと前記ルーフパネルとで形成された閉断面内に配設されている。
【0009】
請求項2に記載する本発明の車体上部構造によれば、ダイラタント特性を有する部材は、ルーフ構成部材であるルーフリインフォースメントと、ルーフパネルとで形成された閉断面内に配設されているので、車両の側面衝突時やロールオーバ時には、ダイラタント特性を有する部材が前記閉断面内で衝撃を吸収して瞬時に硬化する。このため、硬化したダイラタント特性を有する部材によってルーフリインフォースメント及びルーフパネルの変形が抑えられる。すなわち、側面衝突時やロールオーバ時の衝撃荷重に対するルーフ剛性が効果的に高められる。
【0010】
その結果、ルーフ剛性を確保しながら、ルーフパネルの板厚を薄くすることが可能になり、また、例えば、ダイラタント特性を有する部材によって一本のルーフリインフォースメントの剛性を上げることで他のルーフリインフォースの本数を削減することもできる。これによって、従来構造と同等のルーフ剛性を確保しつつ、質量軽減を図ることが可能となる。
【0011】
また、ダイラタント特性を有する部材は、衝撃が加わっていない通常時には柔軟であるため、ルーフリインフォースメントの形状に沿わせて配設することが容易なことから成形用の型作製が不要となると共に、他車系にも流用可能なサイズとすれば、共用化も可能となる。
【0012】
請求項3に記載する本発明の車体上部構造は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記ルーフ構成部材はルーフパネルであり、前記ダイラタント特性を有する部材は、シート状を成して前記ルーフパネルの下面又は上面に接合されている。
【0013】
請求項3に記載する本発明の車体上部構造によれば、ダイラタント特性を有する部材は、シート状を成すと共にルーフ構成部材であるルーフパネルの下面又は上面に接合されているので、雨打ち時や高速走行時にルーフパネルに発生する微振動がダイラタント特性を有する部材によって吸収される。このため、雨打ち音や風切り音が低減される。また、車両の側面衝突時やロールオーバ時には、ダイラタント特性を有する部材がルーフパネルの下面又は上面で衝撃を吸収して瞬時に硬化し、硬化したダイラタント特性を有する部材によってルーフパネルの変形が抑えられる。すなわち、側面衝突時やロールオーバ時の衝撃荷重に対するルーフ剛性が向上する。その結果、例えば、ルーフパネルの板厚を薄くして質量軽減を図っても、従来構造と同等のルーフ剛性が確保される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車体上部構造によれば、車体上部の質量増加を抑えながら、側面衝突時やロールオーバ時のルーフ剛性を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0015】
請求項2に記載の車体上部構造によれば、車体上部の質量増加を抑えながら、側面衝突時やロールオーバ時のルーフ剛性を効果的に向上させることができるという優れた効果を有する。
【0016】
請求項3に記載の車体上部構造によれば、車内におけるNV(ノイズ・バイブレーション)性能の向上とルーフ剛性の確保とを実現しながら、車体上部の質量増加を抑えることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車体上部構造を車室内側から見た状態で示す底面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車体上部構造を示す側断面図(図1の2−2線に沿って切断した状態の断面図)である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る車体上部構造を示す図2に対応する側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る車体上部構造について図1及び図2を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示している。
【0019】
図1には、自動車(車両)の車体上部構造が車室内側から見た状態の底面図にて示され、図2には、図1の2−2線に沿って切断した状態の断面図が示されている。図2に示されるように、キャビン12の上端部を構成する車体上部10(ルーフ部)には、車体天井を構成するルーフパネル14(ルーフボデーパネル、ルーフ本体ということもある)が配設されている。ルーフパネル14の一般面は、本実施形態では車両上方側に僅かに凸となるように滑らかにラウンドした曲面状に形成されている。ルーフパネル14よりも車両下方側には、天井内装材22(内装天井、成形天井、内装トリム、又はルーフヘッドライニングということもある)が、ルーフパネル14に対して離間して略平行に配設されている。また、ルーフパネル14の前端部には、フロントウインドガラス16の上端部が近接配置され、ルーフパネル14の後端部には、リヤウインドガラス18の上端部が近接配置されている。
【0020】
図1に示されるように、ルーフパネル14の車幅方向の両サイドには、略車両前後方向に沿ってルーフサイドレール20が配設されている。なお、ルーフサイドレール20は、ルーフサイドレールアウタパネルとルーフサイドレールインナパネルとによって閉断面構造に構成されており、その車幅方向内側に位置するフランジ部にルーフパネル14の車幅方向外側の端末部がスポット溶接により接合されている。
【0021】
図2に示されるように、ルーフパネル14の下面側には、ルーフ構成部材としてのルーフリインフォースメント26が複数配設されている。これらのルーフリインフォースメント26は、長尺状の部材として構成され、ルーフパネル14の下面に沿って車幅方向に延在している(図1参照)。また、ルーフリインフォースメント26は、断面ハット形状に形成されており、前後のフランジ部がマスチックでルーフパネル14の下面に接着されることにより取り付けられている。これにより、ルーフリインフォースメント26は、ルーフパネル14とで閉断面28を形成し、ルーフパネル14を補強している。また、図1に示されるルーフリインフォースメント26における長手方向の端末部は、詳細図示を省略するが、ルーフサイドレール20にスポット溶接により接合されている。
【0022】
なお、図1及び図2に示される複数のルーフリインフォースメント26のうち、ルーフパネル14の車両前後方向の前端部に配置されたものは、ルーフパネルフロントリインフォースメント(26F)ということがあり、ルーフパネル14の車両前後方向の後端部に配置されたものは、ルーフパネルリヤリインフォースメント(26R)ということがあり、ルーフパネル14の車両前後方向の中央部付近に配置されたものは、ルーフパネルセンターリインフォースメント(26S)ということがある。また、図1に示されるように、ルーフパネルセンターリインフォースメント(26S)は、左右一対のセンタピラー24の上端部に対応した車両前後方向位置に設定されており、図2に示されるように、本実施形態では断面ハット形状が車両前後方向に二連続した屈曲形状とされている。
【0023】
ルーフリインフォースメント26とルーフパネル14とで形成された閉断面28内には、充填部材30が充填(挿入)された状態で配設されている。充填部材30は、ダイラタント特性を有する材料(例えば、英国のd3oTMlab社が製造する「d3oTM」)で構成されている。すなわち、充填部材30は、ダイラタント流体を成形することで形成されたものであり、衝撃が加えられたときにはこの衝撃を吸収して硬化し、衝撃がなくなると柔軟性を有する元の状態に戻る特性(ダイラタント特性)を有している。
【0024】
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0025】
図2に示されるように、本実施形態の車体上部構造では、ダイラタント特性を有する充填部材30がルーフリインフォースメント26とルーフパネル14とで形成された閉断面28内に配設されているので、車両の側面衝突時やロールオーバ時(横転時)には、充填部材30が閉断面28内で発生する応力に反応してダイラタント特性により衝撃を吸収して瞬時に硬化する。このため、硬化した充填部材30によってルーフリインフォースメント26及びルーフパネル14の変形が抑えられる。
【0026】
より具体的に説明すると、例えば、図1に示される側面衝突時の衝撃荷重F1がルーフサイドレール20側からルーフリインフォースメント26側に作用すると、ルーフリインフォース20にはその車幅方向中央部を車両上方側に凸とする方向の曲げモーメントが作用するが、ルーフリインフォースメント26の曲げ変形量は、硬化した充填部材30によって抑えられる。また、例えば、図2に示されるロールオーバ時(ルーフクラッシュ時)の衝撃荷重F2が衝突対象物(路面等)側からルーフパネル14側に作用すると、ルーフパネル14及びルーフリインフォース20はキャビン12側へ曲がろうとするが、これらの曲げ変形量は、硬化した充填部材30によって抑えられる。すなわち、図1に示される側面衝突時の衝撃荷重F1に対するルーフ剛性、及び図2に示されるロールオーバ時(ルーフクラッシュ時)の衝撃荷重F2に対するルーフ剛性が向上する。
【0027】
その結果、ルーフ剛性を確保しながら、ルーフパネル14の板厚を薄くすることが可能になり、また、例えば、一本のルーフリインフォースメント26の剛性を充填部材30によって上げることで他のルーフリインフォースの本数を削減することもできる。これによって、従来構造と同等のルーフ剛性を確保しつつ、質量軽減を図ることが可能となる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態に係る車体上部構造によれば、車体上部10の質量増加を抑えながら、側面衝突時やロールオーバ時のルーフ剛性を向上させることができる。
【0029】
また、ダイラタント特性を有する充填部材30は、衝撃が加わっていない通常時には柔軟であるため、ルーフリインフォースメント26の形状に沿わせて配設することが容易なことから成形用の型作製が不要で原価低減が図れる。また、充填部材30のサイズを他車系にも流用可能なサイズとすれば、充填部材30の共用化も可能となる。
【0030】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る車体上部構造について、図3を用いて説明する。図3には、本発明の第2の実施形態に係る車体上部構造が車幅方向から見た側断面図にて示されている。この図に示されるように、本実施形態に係る車体上部構造は、充填部材30(図2参照)に代えて、ダイラタント特性を有する部材としてのシート部材42を備える点で、第1の実施形態に係る車体上部構造とは異なる。他の構成は、第1の実施形態とほぼ同様の構成となっている。よって、第1の実施形態と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。
【0031】
図3に示されるように、車体上部40(ルーフ部)には、ルーフ構成部材としてのルーフパネル14の下面14Aにシート部材42が貼り付けられて(接合されて)いる。シート部材42は、シート状を成しており、本実施形態では、ルーフパネル14の下面14Aでルーフリインフォースメント26が配設されていない部位に敷き詰められた状態で配設されている。
【0032】
本実施形態によれば、前述した第1の実施形態とほぼ同様の作用及び効果が得られるうえに、雨天の際や高速走行時にルーフパネル14に発生する微振動がシート部材42によって応力として吸収されることで、雨打ち音や風切り音が低減され、車内におけるNV(ノイズ・バイブレーション)性能が向上する。なお、図3では、雨天の際における雨粒によるルーフパネル14への入力を模式的に符号fで示している。
【0033】
また、対比構造と対比して補足説明すると、例えば、ルーフ剛性を確保して雨打ち音や風切り音を低減させるためにルーフパネルの板厚を厚くすると共に、車内におけるNV性能をさらに向上させるために制振シートが天井内装材に貼られているような対比構造では、ルーフパネルの板厚増加分及び制振シートの貼り付け分が車体上部の質量増加に繋がる。これに対して、本実施形態では、ダイラタント特性を有するシート部材42の貼り付け分のみが車体上部の質量増加に繋がるに過ぎず、また、シート部材42の貼り付けに伴ってルーフリインフォースメント26の本数が減らせることで車体上部40の質量軽減が図れるので、前記対比構造に比べて車体上部40の質量増加を抑えることができる。
【0034】
[実施形態の補足説明]
なお、上記第2の実施形態では、ダイラタント特性を有するシート部材42がルーフパネル14の下面14Aに貼り付けられた(接合された)状態で配設されているが、例えば、シート状を成してダイラタント特性を有する部材が、ルーフパネル14(ルーフ構成部材)の上面14Bに貼り付けられた(接合された)状態で配設されると共に、その表面(上面)側に塗装が施されるような構成であってもよい。
【0035】
また、車体上部構造は、第1の実施形態における充填部材30(図2参照)と第2の実施形態におけるシート部材42(図3参照)との両者を備えた車体上部構造であってもよい。
【0036】
また、第1の実施形態では、図2等に示されるように、略角棒状の充填部材30が閉断面28内に配設されているが、閉断面28内に配設されるダイラタント特性を有する部材は、略角棒状の充填部材30に代えて、略角筒状の部材等のような他の部材であってもよい。
【0037】
また、第2の実施形態では、図3に示されるシート部材42は、ルーフパネル14の下面14Aに貼り付けられているが、シート状を成してダイラタント特性を有する部材は、ルーフパネル14の下面14Aに塗布されてもよい。
【0038】
また、第2の実施形態では、シート部材42は、ルーフパネル14の下面14Aにおいてルーフリインフォースメント26が配設されていない部位に敷き詰められた状態で配設されているが、シート状を成してダイラタント特性を有する部材は、ルーフパネル14の下面14Aでルーフリインフォースメント26が配設されていない部位に、間隔をおいて配設されてもよい。
【0039】
なお、上記実施形態及び上述の複数の変形例は、適宜組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 車体上部
14 ルーフパネル(ルーフ構成部材)
14A ルーフパネルの下面
14B ルーフパネルの上面
26 ルーフリインフォースメント(ルーフ構成部材)
28 閉断面
30 充填部材(ダイラタント特性を有する部材)
40 車体上部
42 シート部材(ダイラタント特性を有する部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のルーフ構成部材にダイラタント特性を有する部材が配設されている車体上部構造。
【請求項2】
前記ルーフ構成部材は、ルーフパネルの下面に沿って車幅方向に延在すると共に前記ルーフパネルとで閉断面を形成するルーフリインフォースメントであり、
前記ダイラタント特性を有する部材は、前記ルーフリインフォースメントと前記ルーフパネルとで形成された閉断面内に配設されている請求項1記載の車体上部構造。
【請求項3】
前記ルーフ構成部材はルーフパネルであり、
前記ダイラタント特性を有する部材は、シート状を成して前記ルーフパネルの下面又は上面に接合されている請求項1又は請求項2に記載の車体上部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−153186(P2012−153186A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11924(P2011−11924)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】