説明

車体下部構造

【課題】フロアパンとフロアサイドメンバとの間に水が入り込むことを防止できる車体下部構造を提供する。
【解決手段】車体下部構造をなす下部フレーム構体11は、車体10の床部を構成するフロアパン30と、車体10の骨格をなす左右一対のフロントサイドメンバ51,52と、左右一対のフロアサイドメンバ53,54などを有している。フロアパン30にサイドメンバ収容部41,42が形成されている。このサイドメンバ収容部41,42にフロアサイドメンバ53,54が収容され、スポット溶接等の固定手段によってフロアサイドメンバ53,54がフロアパン30とフロントサイドメンバ51,52に固定されている。このサイドメンバ収容部41,42によってフロアサイドメンバ53,54が車体10の下側から覆われることにより、サイドメンバ収容部41,42がフロアサイドメンバ53,54のための防水カバーとして機能するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車の車体下部構造に係り、特にフロアサイドメンバの防水対策に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の自動車の車体の床部には、例えば下記の特許文献1に開示されているようにフロアパンが設けられている。またフロアパンの下面に、強度部材として左右一対のフロアサイドメンバが設けられている。これらフロアサイドメンバは、互いにほぼ平行をなして車体の前後方向に延びている。フロアサイドメンバの上端にはフランジ部が形成されており、これらフランジ部がフロアパンの下面にスポット溶接等の溶接手段によって固定されている。
【0003】
また、走行中の路面からの水の跳ね上げ等によるフロアサイドメンバへの水の浸入を防ぐために、フロアパンとフロアサイドメンバとの間の防水対策としてシール材が設けられている。このシール材はフロアサイドメンバの前記フランジ部とフロアパンの下面との境界部分に塗布され、シール材がフランジ部の全長にわたって車体前後方向に延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−33183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記シール材は、左右一対のフロアサイドメンバの各フランジ部の全長にわたって設ける必要があるため、シール材を塗布する箇所が長く、1台の自動車で数メートル以上に及んでいる。このためシール材の使用量が多いばかりでなく、シール材を塗布する作業に時間がかかっている。またシール材の塗布が不完全であると、フロアパンとフロアサイドメンバとの間の僅かな隙間に水が毛細管現象等によって浸入し、錆が生じる原因となる。フロアサイドメンバ等の発錆を抑制するために防錆鋼板を用いることもあるが、コストが高いという問題がある。
【0006】
従ってこの発明は、フロアパンとフロアサイドメンバとの間にシール材を設けずとも車体下方からの水の浸入を確実に防止できる車体下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車体下部構造は、車体の床部を構成するフロアパンと、前記フロアパンの前方に配置された左右一対のフロントサイドメンバと、前記フロントサイドメンバの後方に配置されて車体の骨格をなす左右一対のフロアサイドメンバと、前記フロアパンに形成され、前記フロアサイドメンバに対応した形状をなしていて前記フロアサイドメンバを上方から挿入可能なサイドメンバ収容部とを有し、前記サイドメンバ収容部に前記フロアサイドメンバが収容され、かつ、前記フロアサイドメンバが前記フロアパンと前記フロントサイドメンバに固定されたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の1つの形態では、前記フロアサイドメンバが底壁と該底壁の両側から立上がる縦壁とを有するハット形断面を有し、該フロアサイドメンバの前端部には前記底壁から前側が高くなるように傾斜した前側の傾斜部が形成され、該フロアサイドメンバの前端部が前記フロントサイドメンバに固定されている。また、該フロアサイドメンバの後端部に、前記底壁から後側が高くなるように傾斜した後側の傾斜部が形成されていてもよい。さらにこの後側の傾斜部の水平面とのなす角度θ2が、前記前側の傾斜部の水平面とのなす角度θ1よりも小さくてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車体下部構造によれば、フロアパンに一体に形成された防水カバーを兼ねたサイドメンバ収容部によってフロアサイドメンバの防水をなすことができる。このためフロアサイドメンバとフロアパンとの間にシール材を設けなくても車体下方からの水の浸入を確実に防ぐことができ、フロアサイドメンバの防錆対策をさらに確実なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る車体下部構造を備えた自動車の一部の斜視図。
【図2】図1に示された車体下部構造の前後方向に沿う断面図。
【図3】図2中のF3−F3線に沿う断面図。
【図4】図2中のF4−F4線に沿う断面図。
【図5】図2中のF5−F5線に沿う断面図。
【図6】図2中のF6−F6線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の1つの実施形態に係る車体下部構造について、図1から図6を参照して説明する。
図1に示された車体10は、車体下部構造をなす下部フレーム構体11と、前側の車体上部構造をなす上部フレーム構体12などを備えている。上部フレーム構体12は、例えば左右一対のフェンダー部材20と、スプリングハウスパネル21と、カウルトップパネル22と、ヘッドランプサポート部材23と、ダッシュパネル24などの鋼板製のパネル部材を備えている。
【0012】
車体下部構造をなす下部フレーム構体11は、車体前側の床部を構成するフロント側のフロアパン30と、車体後側の床部を構成するリヤ側のフロアパン31を含んでいる。これらのフロアパン30,31は、例えば厚さが0.60〜0.65mm前後の鋼板をプレス成形することによって、所定の形状に成形されている。これ以降、フロント側のフロアパン30を単にフロアパンと称する。
【0013】
フロアパン30は、車体10の幅方向中央に形成された上に凸の形状のトンネル部40と、トンネル部40の左右両側に形成された下に凸の形状の防水カバーを兼ねたサイドメンバ収容部41,42とを有している。トンネル部40とサイドメンバ収容部41,42は、それぞれ車体10の前後方向に延びている。サイドメンバ収容部41,42は互いにほぼ平行をなし、後述するフロアサイドメンバ53,54を上方から挿入することができるようになっている。
【0014】
左右一対のサイドメンバ収容部41,42は互いに左右対称形状であって、実質的な構成が共通であるため、一方のサイドメンバ収容部41(図2〜図6に示す)を代表して以下に説明する。
【0015】
フロアパン30に形成されたサイドメンバ収容部41は、フロアパン30の上面側から見てフロアサイドメンバ53と対応した形状で下方に窪む凹部をなしている。このサイドメンバ収容部41は、左右一対の側壁41a,41bと、側壁41a,41bの下方に形成された底壁41cとを有している。
【0016】
図2に示すようにサイドメンバ収容部41の前端部には、底壁41cから前方に向って斜めに高くなる形状の前側の傾斜部41dと、この傾斜部41dから前方に延びる前側フランジ41eが形成されている。前側の傾斜部41dは水平面に対して角度θ1をなしている。
【0017】
サイドメンバ収容部41の後端部には、底壁41cから後方に向って斜めに高くなる形状の後側の傾斜部(スロープ面)41fと、この傾斜部41fから後方に延びる後側フランジ41gが形成されている。後側の傾斜部41fは水平面に対して角度θ2をなしている。後側の傾斜部41fの角度θ2は、前側の傾斜部41dの角度θ1よりも小さい。
【0018】
またこの下部フレーム構体11は、車体の骨格をなす左右一対のフロントサイドメンバ51,52と、フロントサイドメンバ51,52の後方に配置された左右一対のフロアサイドメンバ53,54と、フロアサイドメンバ53,54の後方に配置された左右一対のリヤサイドメンバ55,56などの鋼製の強度部材を含んでいる。
【0019】
これらフロントサイドメンバ51,52と、フロアサイドメンバ53,54と、リヤサイドメンバ55,56はいずれも車体の前後方向に延びている。フロアサイドメンバ53,54の上面側には、フロアサイドメンバ53,54の上面側開口を塞ぐために、鋼板などの金属板からなるカバープレート57,58が設けられている。
【0020】
左右一対のフロアサイドメンバ53,54は互いに左右対称形状であって、実質的な構成が共通であるため、一方のフロアサイドメンバ53を代表して以下に説明する。
図3〜図6に示すように、フロアサイドメンバ53は上面側が開口するハット形断面をなし、例えば厚さが1.4mm前後の厚手の鋼板をプレスすることによって所定の形状に成形されている。すなわちこのフロアサイドメンバ53は、底壁60と、底壁60の両側から上方に立上がる一対の縦壁61,62と、縦壁61,62の上端から水平方向に延びる一対のフランジ部63,64などを有している。
【0021】
図2に示すようにフロアサイドメンバ53の前端部には、底壁60から前方に向って斜めに高くなる形状の前側の傾斜部65と、この傾斜部65から前方に延びる前側フランジ66が形成されている。前側の傾斜部65は水平面に対して角度θ1をなしている。
【0022】
フロアサイドメンバ53の後端部には、底壁60から後方に向って斜めに高くなる形状の後側の傾斜部(スロープ面)67と、この傾斜部67から後方に延びる後側フランジ68が形成されている。後側の傾斜部67は水平面に対して角度θ2をなしている。後側の傾斜部67の角度θ2は、前側の傾斜部65の角度θ1よりも小さい。
【0023】
図2に示すようにフロントサイドメンバ51の前端部の上にダッシュパネル24が配置され、ダッシュパネル24の下壁部24aがフロントサイドメンバ51に溶接等によって固定されている。サイドメンバ収容部41の前側フランジ41eが、ダッシュパネル24の下壁部24aを間に挟んだ状態で、フロントサイドメンバ51の上面に溶接等によって固定されている。
【0024】
さらに詳しく説明すると、図3に示すように、フロントサイドメンバ51の底壁51aの上にサイドメンバ収容部41の底壁41cを重ね、さらにその上にフロアサイドメンバ53の底壁60を重ねる。カバープレート57はフロアサイドメンバ53のフランジ部63,64に予め溶接されている。カバープレート57にはスポット溶接のための作業孔70が形成されている。
【0025】
カバープレート57の作業孔70にスポット溶接のための溶接ガン71を上方から挿入し、下側の溶接ガン72との間で電流を流すことにより、フロントサイドメンバ51の底壁51aと、サイドメンバ収容部41の底壁41cと、フロアサイドメンバ53の底壁60とが互いにスポット溶接される。図2に示すようにフロントサイドメンバ51の後端とフロアパン30の下面との間にシール材80が設けられている。このシール材80によって、フロントサイドメンバ51の後端側から水が浸入することが防止される。
【0026】
図4は、フロアサイドメンバ53の長手方向中間部の溶接箇所を示している。図6は、フロアサイドメンバ53の後部の溶接箇所を示している。図4と図6に示す溶接箇所においては、カバープレート57をフロアサイドメンバ53のフランジ部63,64に固定する前に、溶接ガン71,72によって、サイドメンバ収容部41の底壁41cとフロアサイドメンバ53の底壁60とがスポット溶接される。そののち、カバープレート57をフロアサイドメンバ53のフランジ部63,64にスポット溶接等によって固定する。
【0027】
図2に示すようにフロアサイドメンバ53の後端部の後側フランジ68は、図示しない溶接部等を介してフロアパン30の後側フランジ41gとリヤサイドメンバ55などに固定される。このようにフロアサイドメンバ53の所定箇所がスポット溶接等によってフロアパン30とフロントサイドメンバ51およびリヤサイドメンバ55などに固定されている。
【0028】
前記したようにサイドメンバ収容部41の前側の傾斜部41dと、フロアサイドメンバ53の前側の傾斜部65は、それぞれ角度θ1をなして上向きに傾斜している。このためフロアサイドメンバ53の前端部の断面形状が車体前後方向に急激に変化することを回避でき、プレス成形性を確保できるとともに、前突等の衝突荷重による座屈を生じにくいものにすることができる。
【0029】
また、サイドメンバ収容部41の後側の傾斜部41fと、フロアサイドメンバ53の後側の傾斜部(スロープ面)67は、それぞれ角度θ2をなして上下方向に傾斜している。この角度θ2は、下部フレーム構体11を電着塗装する際に使用される塗料槽からの出槽角度よりも小さくしている。出槽角度とは、下部フレーム構体11が塗料槽から出る際に、下部フレーム構体11の前側が高く、後側が低くなるように傾斜した姿勢をとるが、その際に塗料槽の液面に対して下部フレーム構体11のなす角度のことである。
【0030】
本実施形態では、サイドメンバ収容部41の後側の傾斜部(スロープ面)41fと、フロアサイドメンバ53の後側の傾斜部(スロープ面)67がそれぞれ前記出槽角度よりも小さい角度θ2をなして傾いていることにより、下部フレーム構体11が塗料槽から出る際に、サイドメンバ収容部41とフロアサイドメンバ53内に入っている余分な塗料を速やかに排出することができる。また、フロアサイドメンバ53の後端部の断面形状が車体前後方向に急激に変化することを回避でき、プレス成形性を確保できるとともに、後突等の衝突荷重による座屈を生じにくいものにすることができる。
【0031】
図5に示す例では、フロアサイドメンバ53の底壁60に上下方向に貫通する孔90が形成されている。前記塗料槽から下部フレーム構体11が出槽する際に、サイドメンバ収容部41とフロアサイドメンバ53内に入っている余分な塗料をこの孔90から排出することができる。この孔90は電着塗装後にゴム等の弾性材からなるプラグ91によって塞がれる。なお、他方のサイドメンバ収容部42とフロアサイドメンバ54は前記サイドメンバ収容部41およびフロアサイドメンバ53と同様に構成されている。
【0032】
本実施形態の車体下部構造によれば、フロアサイドメンバ53,54の下面が、フロアパン30の一部に形成された防水カバーを兼ねるサイドメンバ収容部41,42によって下側から完全に覆われるため、車体10の下方から跳ね上げる水などがフロアサイドメンバ53,54に達するおそれが全くない。このためフロアパン30とフロアサイドメンバ53,54との間にシール材を設ける必要がない。しかもフロアサイドメンバ53,54が水に触れることを回避できるため、フロアサイドメンバ53,54の材料に防錆鋼板を用いずに一般鋼板を使用することも可能性である。その場合、シール材を省略できることとあいまって、防錆のためのコストを大幅に下げることができる。
【0033】
図2に示されるようにフロントサイドメンバ51,52の後端とフロアパン30の下面との間にはシール材80が必要であるが、このシール材80の使用量は、フロアサイドメンバ53,54のフランジ部63,64の全長にシール材を設ける場合と比較すると格段に少ないため、従来と比較してシール材80の使用量が少なくてすみ、シール材80を塗布する作業も簡単かつ確実に行うことができる。
【0034】
なお本発明を実施するに当たり、車体下部構造を構成するフロアパンやフロアサイドメンバをはじめとして、サイドメンバ収容部やフロントサイドメンバ等の形状や配置などを種々に変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0035】
10…車体
11…下部フレーム構体
30…フロアパン
41,42…サイドメンバ収容部
51,52…フロントサイドメンバ
53,54…フロアサイドメンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の床部を構成するフロアパンと、
前記フロアパンの前方に配置された左右一対のフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバの後方に配置されて車体の骨格をなす左右一対のフロアサイドメンバと、
前記フロアパンに形成され、前記フロアサイドメンバに対応した形状をなしていて前記フロアサイドメンバを上方から挿入可能なサイドメンバ収容部とを有し、
前記サイドメンバ収容部に前記フロアサイドメンバが収容され、かつ、
前記フロアサイドメンバが前記フロアパンと前記フロントサイドメンバに固定されたことを特徴とする車体下部構造。
【請求項2】
前記フロアサイドメンバが底壁と該底壁の両側から立上がる縦壁とを有するハット形断面を有し、該フロアサイドメンバの前端部には前記底壁から前側が高くなるように傾斜した前側の傾斜部が形成され、該フロアサイドメンバの前端部が前記フロントサイドメンバに固定されたことを特徴とする請求項1に記載の車体下部構造。
【請求項3】
前記フロアサイドメンバが底壁と該底壁の両側から立上がる縦壁とを有するハット形断面を有し、該フロアサイドメンバの後端部には前記底壁から後側が高くなるように傾斜した後側の傾斜部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車体下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−79385(P2011−79385A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231881(P2009−231881)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】