説明

車体側部構造

【課題】ルーフ側部のフレーム部材とフロア側部のフレーム部材に作用するせん断荷重をセンタピラーで有利に受け止め、しかも、センタピラーの強度を充分に高く維持することのできる車体側部構造を提供する。
【解決手段】略一定断面の金属管を三次元曲げ成形によって湾曲形成した前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bによってセンタピラー12を構成する。前部ピラー管30Aは上下の各端縁が車体前方側に湾曲し、後部ピラー管30Bは上下の各端縁が車体後方側に湾曲するように形成する。両ピラー管30A,30Bは上下方向中央領域の弓状に湾曲した凸部同士で相互に接合し、前後に分岐する上下の端縁を、トラス構造を成すように上部フレーム10とサイドシル11とに接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室側方にセンタピラーを備える車両の車体側部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体の側部構造として、車体前後方向に延出するルーフサイドレール(ルーフ側部のフレーム部材)とサイドシル(フロア側部のフレーム部材)の中央領域同士がセンタピラーによって結合されたものがある。
【0003】
また、この種の車両の車体側部構造として、センタピラーの上下の端部に、二股状に分岐して車体前方側と後方側に向かって斜めに延出する前方分岐部と後方分岐部が設けられ、各分岐部の端縁がルーフサイドレールとサイドシルに結合されたものが知られている(特許文献1参照)。
この車体側部構造は、センタピラーの上下の端部が車体前方側と後方側に向かって斜めに延出する一対の分岐部によってルーフサイドレールとサイドシルに結合されているため、ルーフサイドレールとサイドシルに対するセンタピラーの結合部がトラス構造を成し、ルーフサイドレールとサイドシルの間に作用するせん断荷重をそのトラス構造で有利に受け止めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5332281号明細書
【特許文献2】特開2007−83304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来の車体側部構造の場合、センタピラーの上下のトラス構造によってせん断荷重を有利に受け止められるようになるものの、センタピラーの断面形状が上下方向で大きく変化することから、車体がロールした場合等センタピラーに上下方向から大きな荷重が入力されたときに、センタピラーの中央領域の断面変化部に応力が生じ易くなる。
【0006】
そこでこの発明は、ルーフ側部のフレーム部材とフロア側部のフレーム部材に作用するせん断荷重をセンタピラーで有利に受け止め、しかも、センタピラーの強度を充分に高く維持することのできる車体側部構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る車体側部構造では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、ルーフ側部のフレーム部材(例えば、実施形態における上部フレーム10)とフロア側部のフレーム部材(例えば、実施形態におけるサイドシル11)がセンタピラー(例えば、実施形態におけるセンタピラー12)によって連結された車体側部構造において、前記センタピラーは、ロールフォーム成形等により成形した略一定断面の金属管を三次元曲げ成形によって湾曲形成した前部ピラー管(例えば、実施形態における前部ピラー管30A)と後部ピラー管(例えば、実施形態における後部ピラー管30B)を備えてなり、前記前部ピラー管は上下の各端縁が車体前方側に湾曲し、前記後部ピラー管は上下の各端縁が車体後方側に湾曲し、前記前部ピラー管と後部ピラー管は、上下方向中央領域の弓状に湾曲した凸部同士で相互に接合されるとともに、上下の各端縁がそれぞれ前後に分岐して、ルーフ側部とフロア側部の前記フレーム部材とトラス構造を成すように、前記各フレーム部材に接合されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る車体側部構造において、前記前部ピラー管と後部ピラー管のうちの、上下方向中央領域の接合箇所からオフセットした部位には、ドアヒンジ取付用ブラケット(例えば、実施形態におけるドアヒンジ取付用ブラケット36,37)が前記前部ピラー管と後部ピラー管に掛け渡されて取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、センタピラーが略一定断面の金属管を三次元曲げによって湾曲形成した前部ピラー管と後部ピラー管を備えた構成とされ、前部ピラー管と後部ピラー管が、上下方向の中央領域の弓状に湾曲した凸部同士で相互に接合されるとともに、上下の分岐した端縁がトラス構造を成すようにルーフ側部とフロア側部の各フレーム部材に接合されているため、ルーフ側部とフロア側部のフレーム部材に作用するせん断荷重をセンタピラーの上下のトラス構造で有利に受け止めることができ、しかも、各ピラー管の断面形状の変化が少ないことと、両ピラー管が弓状に湾曲した凸部同士で相互に接合されることから、略上下方向の荷重入力に対してセンタピラーの応力集中を抑制し、センタピラーの曲げ強度を充分に高く維持することができる。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、前部ピラー管と後部ピラー管の中央領域の接合部とオフセットした部位に、ドアヒンジ取付用ブラケットが両ピラー管に掛け渡されて取り付けられていることから、センタピラーの中央領域に作用する応力をより一層分散することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施形態の車両の骨格部を示す斜視図である。
【図2】この発明の一実施形態の車両の左側部の骨格部を示す斜視図である。
【図3】この発明の一実施形態の車両の図2のA−A断面に対応する断面図である。
【図4】この発明の一実施形態の車両の図2のB−B断面に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この実施形態に係る車両1の骨格部を示す斜視図であり、図2は、同車両の左側部の骨格部を拡大して示す斜視図である。
この実施形態の車両1はセダン型の車両であり、車室2の前後にエンジンルーム3とトランクルーム4が設けられ、車室2内には前席スペースと後席スペースが確保されている。
【0013】
車両1のルーフの車幅方向の両側には、車体前後方向に延出する閉断面構造の上部フレーム10(ルーフ側部のフレーム部材)が配置され、車室2の両側部の下方には、車体前後方向に延出する閉断面構造のサイドシル11(フロア側部のフレーム部材)が配置されている。上部フレーム10は、ルーフの側方だけでなく、さらに前部下方に延出して車両1のフロントピラーアッパを構成するとともに、後部下方にも同様に延出して車両1のリヤピラーを構成している。そして、車両左右の上部フレーム10とサイドシル11の車体前後方向の略中央領域同士は後述するセンタピラー12によって連結されている。
【0014】
左右の上部フレーム10のルーフ領域同士は、車幅方向に延出する複数のルーフレール13A,13B,13Cによって連結されており、左右のサイドシル11同士は、同様に車幅方向に延出する複数のフロアクロスメンバ14A,14B,14Cによって連結されている。また、左右の各上部フレーム10の前端部は、サイドシル11の前端部から上方に垂立する閉断面構造のフロントピラーロア18の上端部と、フロントピラーロア18の上端部から前部下方に向かって湾曲して延出するアッパメンバ19とに連結されている。
【0015】
エンジルーム3の車幅方向の両側には、車体前後方向に延出するフロントサイドフレーム15が配置され、トランクルーム4の車幅方向の両側には、車体前後方向に延出するリヤサイドフレーム16が配置されている。
左右のフロントサイドフレーム15の後端部は、車幅方向に延出して左右のフロントピラーロア18を連結するダッシュボードロア・クロスメンバ20と、車室2の下方で車体前後方向に延出するフロントフロアフレーム21の前縁部に結合されている。また、各フロントサイドフレーム15の後端部はアウトリガー22を介してサイドシル11の前端部にも結合されている。なお、図1中、23は、エンジンルーム3の前部上端側において左右のアッパメンバ19を連結する略コ字状のフロントバルクヘッドアッパであり、24は、フロントバルクヘッドアッパ23に結合されてラジエータ収納部を形成するフロントバルクヘッドロアである。また、車両1の前部下方まで延出した左右のアッパメンバ19の前端部は、連結部材25を介してフロントサイドフレーム15の前端部側面に結合されている。
【0016】
左右のリヤサイドフレーム16の前端部は、車幅方向外側に湾曲して左右のサイドシル11に結合されるとともに、複数のクロスメンバ26A,26Bを介して相互に連結されている。また、前述した上部フレーム10の後端部は、リヤサイドフレーム16の後端部に対し車体前後方向のほぼ同位置まで延出し、図示しない連結部材を介して対応するリヤサイドフレーム16の後端部側面に結合されている。なお、図中27は、リヤホイールハウス28が一体に設けられ、上部フレーム10の後縁部とサイドシル11とに結合されるリヤインナパネルである。
【0017】
ここで、上部フレーム10とサイドシル11の略中央領域同士を連結するセンタピラー12は、金属製の角筒状部材から成る前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bが結合させて構成されている。前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bは、ロールフォーム成形によって略一定断面形状に形成された後に、特開2007−83304号公報に示すような加工装置を用いて三次元曲げ成形によって所定の湾曲形状に造形されている。具体的には、前部ピラー管30Aは上下の端縁が前方側に湾曲し、後部ピラー管30Bは上下の端縁が後方側に湾曲しており、両者の上下方向の中央領域は車幅方向外側に向かって若干膨出している。
この実施形態の場合、前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bの側壁の少なくとも一面には、強度及び剛性を高めるための長手方向に沿うビード31(溝)がロールフォーム成形によって設けられている。また、前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bは、前述した三次元曲げ成形の際に、強度を高めたい必要箇所に焼き入れ処理が施されている。例えば、側面衝突時に相手車両が当たる上下方向中央から下端までの領域に対して焼き入れを施し、それによって当該領域の強度を上げることができる。
なお、前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bはロールフォーム成形に限らず、引き抜き成形や、押出し成形、UO成形等によって形成することも可能である。
【0018】
そして、上記のように形成された前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bは上下方向略中央の弓状に湾曲した凸部同士がMIG溶接等によって相互に接合されている(接合箇所は符号Xで示す)。こうして接合された前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bの上下の端縁はそれぞれ前後に分岐するかたちで湾曲し、分岐した各端部は上部フレーム10とサイドシル11とにMIG溶接等によって結合されている。したがって、前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bは上下の端部が上部フレーム10とサイドシル11に対してトラス構造を成すように結合されている。
【0019】
図3は、前部ピラー管30Aの上端部と上部フレーム10との結合部を示すものである。
上部フレーム10は、前部ピラー管30Aや後部ピラー管30Bと同様にロールフォーム成形等によって略一定断面形状に形成されているが、下縁部には接合フランジ32が突設されている。この接合フランジ32には、ドア開口を成す領域では図示しないボディサイドウェザーストリップが取り付けられる。前部ピラー管30の上端部には接合フランジ32を受容するための溝33が設けられており、前部ピラー管30Aの上端部は、その溝33に接合フランジ32を嵌合した状態において上部フレーム10の下面に溶接固定されている。なお、後部ピラー管30Bの上端部も前部ピラー管30Aと同様にして上部フレーム10に溶接固定されている。
【0020】
図4は、前部ピラー管30Aの下端部とサイドシル11との結合部を示すものである。
サイドシル11は、車外側のリインフォースメント11aと車内側のサイドシルインナ11bが接合されて閉断面構造を成しているが、車外側のリインフォースメント11aはロールフォーム成形によって外向きフランジを有する略コ字状断面に形成されるとともに、上下面と車外側面とに強度及び剛性を高めるための長手方向に沿うビード35(溝)が設けられている。前部ピラー管30Aの下端部はリインフォースメント11aの上面にビード35を閉じるように溶接固定されている。後部ピラー管30の下端部も同様にリインフォースメント11aの上面に溶接固定されている。
【0021】
また、前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bのうちの、上下方向略中央領域の接合箇所Xから上方側と下方側にオフセットした部位には、それぞれドアヒンジ取付用ブラケット36,37が前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bに掛け渡されて取り付けられている。これらのブラケット36,37には後部側のサイドドアのヒンジ部が取り付けられる。
【0022】
以上のように、この実施形態の車両1の車体側部構造においては、センタピラー12が金属管を三次元曲げによって湾曲形成した略一定断面の前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bによって構成され、上下の端縁が前方側に湾曲する前部ピラー管30Aと上下の端縁が後方側に湾曲する後部ピラー管30Bの中央領域の凸部同士が溶接固定されるとともに、両ピラー管30A,30Bの前後に分岐した上下の端部がトラス構造を成すようにして上部フレーム10とサイドシル11とに接合されているため、上部フレーム10とサイドシル11の間に作用するせん断荷重を前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bの上下の分岐部によるトラス構造で有利に受け止めることができる。
そして、この車体側部構造においては、前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bが略一定断面形状であることと、両ピラー管30A,30Bが弓状に湾曲した凸部同士で溶接固定されているため、上下方向の荷重入力に対してセンタピラー12の応力集中を抑制し、センタピラー12の曲げ強度を維持することができる。したがって、上下方向の入力荷重をセンタピラー12と前後のピラー部で効率良く分散支持することができる。
【0023】
また、この実施形態の車体側部構造においては、前部ピラー管30Aと後部ピラー管30Bの中央領域の接合部の上下にドアヒンジ取付用ブラケット36,37が両ピラー管30A,30Bに掛け渡されて取り付けられているため、専用部品を追加することなく、センタピラー12の中央領域の上下に作用する応力をさらに分散させることができる。
【0024】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
10…上部フレーム(ルーフ側部のフレーム部材)
11…サイドシル(フロア側部のフレーム部材)
12…センタピラー
30A…前部ピラー管
30B…後部ピラー管
36,37…ドアヒンジ取付用ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフ側部のフレーム部材とフロア側部のフレーム部材がセンタピラーによって連結された車体側部構造において、
前記センタピラーは、略一定断面の金属管を三次元曲げ成形によって湾曲形成した前部ピラー管と後部ピラー管を備えてなり、
前記前部ピラー管は上下の各端縁が車体前方側に湾曲し、前記後部ピラー管は上下の各端縁が車体後方側に湾曲し、
前記前部ピラー管と後部ピラー管は、上下方向中央領域の弓状に湾曲した凸部同士で相互に接合されるとともに、上下の各端縁がそれぞれ前後に分岐して、ルーフ側部とフロア側部の前記フレーム部材とトラス構造を成すように、前記各フレーム部材に接合されていることを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記前部ピラー管と後部ピラー管のうちの、上下方向中央領域の接合箇所からオフセットした部位には、ドアヒンジ取付用ブラケットが前記前部ピラー管と後部ピラー管に掛け渡されて取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の車体側部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−136621(P2011−136621A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297076(P2009−297076)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】