説明

車体前部の導風構造

【課題】制動時にブレーキ冷却ダクトへより多く風を送ることで、より効率的に走行風でブレーキ冷却を行うことのできる車体前部の導風構造を提供する。
【解決手段】走行中の車体11において板状部材12が車体前方からの走行風18の、ラジエータ取風口14への流入を妨げない位置にある場合は、走行風18はラジエータ取風口14へ、また走行風19はラジエータ取風口14の車幅方向両脇に設けられたブレーキ取風口16へ導入される。乗員がブレーキを踏み車体11が減速すると、車体上下方向に移動可能に支持された板状部材12は車体下方へ移動し、ラジエータ取風口14を閉塞する。これにより車体前方からの走行風18はラジエータ取風口14に導入されにくくなりブレーキ取風口16へ導入されブレーキが冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車体前部から導入した空気をラジエータやブレーキ冷却ダクト等に案内するための車体前部の導風構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体前面に設けられた開閉式のグリルシャッタでエンジンルームへ導入される走行風量を制御し、空力性能とエンジン冷却性能を調節する構造が存在する。(例えば、特許文献1〜3参照)。また開閉式ブレーキ冷却ダクトで空力性能とブレーキによる制動性能の調節を行う構造が存在する。(例えば、特許文献4、5参照)。
【特許文献1】特開2007−1504号公報
【特許文献2】特開2003−518221号公報
【特許文献3】特開昭61−218713号公報
【特許文献4】実開平5−75034号公報
【特許文献5】実開平6−65045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1〜3の構成では高速走行時にグリルを閉鎖することで空力性能を向上させる一方、制動に関しては言及されていない。対して上記特許文献4、5の構成では、制動時にグリルを開放するなどで空力性能を意図的に低下させ、エアブレーキ効果を狙う構成は存在するが、制動時のブレーキ性能自体を向上させるものではない。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、制動時にブレーキ冷却ダクトへより多く風を送ることで、より効率的に走行風でブレーキ冷却を行うことのできる車体前部の導風構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明における車体前部の導風構造は、車体前端に垂直に設けられ、車体上下方向に可動に支持された板状部材と、車体前方の車幅方向中央に開口し、車体前部の上面を被覆するフード下の空間に連通する第1の空気流入口と、前記第1の空気流入口よりも側面視で車体後方に開口し、走行風を前輪ブレーキに送るブレーキ冷却ダクトに連通する一対の第2の空気流入口と、前記前輪ブレーキの作動と解除を検知するブレーキ検知手段と、前記板状部材を車体上下方向に移動させる移動手段と、を備え、前記前輪ブレーキの作動により前記移動手段は前記板状部材を移動させて前記第1の空気流入口の少なくとも一部を閉塞し、前記前輪ブレーキの解除により前記移動手段は前記板状部材を移動させて前記第1の空気流入口を開放することを特徴とする。
【0006】
上記構成によれば、制動時には第1の取風口を閉塞する板状部材により、走行風が後方の第2の取風口へ導かれるため、効率的にブレーキの冷却を行うことができる。
【0007】
請求項2に記載の本発明における車体前部の導風構造は、請求項1に記載の構成において、前記板状部材はフロントガーニッシュであることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、フロントガーニッシュを板状部材として用いることで、第1の空気流入口を閉塞する面積の設定を自由に設定することができる。
【0009】
請求項3に記載の本発明における車体前部の導風構造は、請求項1に記載の構成において、前記板状部材はライセンスプレートホルダであることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、ライセンスプレートホルダを板状部材として用いることで、フロントマスク部分の意匠をより自由にデザインすることができる。
【0011】
請求項4に記載の本発明における車体前部の導風構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の構成において、前記フード下の空間に設けられたラジエータの温度を検知するラジエータ温度検知手段と、車速を検知する車速検知手段とを備え、前記板状部材はラジエータ温度、車速および前記前輪ブレーキの作動と解除に応じて移動制御されることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、ラジエータ温度、車速、ブレーキ冷却について所定の優先順位に従った制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車体前部の導風構造は上記構成としたので、制動時にブレーキ冷却ダクトへより多く風を送ることで、より効率的に走行風でブレーキ冷却を行うことができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<構造の概要>
本発明に係る車体前部の導風構造の実施形態を図1〜図2に従って説明する。なお各図において、図中矢印FRは車体前方方向を、矢印REは車体後方方向を、矢印UPは車体上方方向を、矢印INは車体内側方向を、矢印OUTは車体外側方向を示す。
【0015】
図1〜図3には、本発明の実施形態に係る車体前部の導風構造が示されている。図1に示すように、車体前部の導風構造10は、車体11、フロントバンパ27に設けられた移動手段28、移動手段28で車体上下方向に移動可能に支持される板状部材12、車体11の前端部下側に設けられ、走行風18をエンジンルーム13に導入するラジエータ取風口14、ラジエータ取風口14の車幅方向両脇に設けられ、走行風19を図示しないフロントブレーキ近傍に導入するブレーキ取風口16から構成されている。
【0016】
図2に示すように、フロントバンパ27には移動手段28が設けられ、板状部材12を車体上下方向に移動可能に支持している。移動手段28は例えばモータにラックギアとピニオンギアを組み合わせた往復運動装置でも、あるいはギアで駆動されるタイミングベルト上に固定された移動ステージでもよく、または油圧装置を用いたアクチュエータでも、電磁石とスプリングを用いた駆動機構などでもよい。
【0017】
図2(A)、図3(A)に示すように、板状部材12が高い位置にあり、車体前方視でラジエータ取風口14に重ならないとき、車体前方からの走行風18はエンジンルーム13に導入される。エンジンルーム13に導入された走行風18はコンデンサ20、ラジエータ22等に吹き付けられる。
【0018】
図2(B)、図3(B)に示すように、板状部材12が低い位置にあり、車体前方視でラジエータ取風口14に重なるとき、車体前方からの走行風18は板状部材12により堰き止められ、高圧部分24が形成され、その結果としてエンジンルーム13へ導入される走行風18の風量は減少する。
【0019】
また図3に示すように、ブレーキ取風口16には走行風19が導入される。図3(B)に示すように、板状部材12が低い位置にあるときは、ラジエータ取風口14に導入されなかった走行風18の一部がブレーキ取風口16に導入される。
【0020】
このとき、板状部材12は図1に示されるようにライセンスプレートホルダであっても、また図3に示されるようにライセンスプレート12Aを保持するガーニッシュであってもよい。
【0021】
<作用効果>
次に本発明の実施形態の作用および効果について説明する。
【0022】
図2には本発明の実施形態に係る車体前部の導風構造の動作を示す断面図が、図3には平面図と正面図が示されている。
【0023】
図2(A)に示すように、走行中の車体11において板状部材12が車体上方にあり、ラジエータ取風口14と正面視で重なっていないとき、すなわち車体前方からの走行風18の、ラジエータ取風口14への流入を妨げない位置にある場合は、図3(A)に示されるように走行風18はラジエータ取風口14へ、また走行風19はラジエータ取風口14の車幅方向両脇に設けられたブレーキ取風口16へ導入される。
【0024】
このときエンジンルーム13内に設けられたラジエータ22には走行風18が十分に吹き付けられるので、ラジエータ22のエンジン冷却能力は最も効率よく発揮され、通常走行時すなわち定常速度での走行に適した状態となる。
【0025】
ここで乗員がブレーキを踏むことにより車体11が減速すると、図示しない保持部材で車体上下方向に移動可能に支持された板状部材12は、図2(B)に示すように車体下方へ移動し、ラジエータ取風口14を閉塞する。
【0026】
これにより車体前方からの走行風18はラジエータ取風口14に導入されにくくなり、板状部材12の車体前方には周囲よりも気圧の高い、高圧部分24が形成され、走行風18は車体上下方向あるいは車幅方向に流れる。
【0027】
このとき図3(B)に示すように、車幅方向に流れた走行風18の一部は走行風19とともにブレーキ取風口16へ導入される。このためフロントブレーキ30へ導入される走行風の風量が増加し、フロントブレーキ30はより強く冷却される。このため車体11を制動するブレーキの性能は効率よく発揮される。
【0028】
さらに、エンジンルーム13への走行風18の流入量が減少することで、車体前方のダウンフォースなど、車体11の車体前側の空力性能が向上し、操縦安定性を向上させることができる。
【0029】
図4〜図9には、本発明の実施形態に係る車体前部の導風構造の動作制御を示すフロー図が示されている。
【0030】
車速をV、ブレーキ踏力をβ、ラジエータ水温をtとし、それぞれ所定の閾値をV1、β1、t1としたとき、車体11の空力性能、ブレーキ冷却、エンジン冷却についての優先順位によって、板状部材12の位置を上(ラジエータ取風口14を開放)、下(ラジエータ取風口14を閉塞)のどちらとするかの制御フローが複数種類考えられる。図示しない車速センサ、ブレーキスイッチおよびラジエータ温度計により検出される車速V、ブレーキ踏力β、ラジエータ温度tより、空力性能、ブレーキ冷却、エンジン冷却の何れを優先させるかに従って図示しない制御装置が移動手段28を制御し、板状部材12の位置決定を行う。
【0031】
すなわち図4に示すように、空力性能、ブレーキ冷却、エンジン冷却の順に優先する制御としたときは、まず車速Vが閾値V1より速ければ定常速度での運転中と判断し、車体の空力性能が優先され、制御装置の判断に従い移動手段28は板状部材12を下(ラジエータ取風口14閉じ位置)に位置させる。
【0032】
車速Vが閾値V1より遅ければブレーキ踏力βについて、閾値β1との比較が行われる。ここでブレーキ踏力βが閾値β1より大きければ大きく減速中であり、板状部材12は下(ラジエータ取風口14閉じ位置)位置とされ、ブレーキ取風口16へ走行風18、19が導入され、より強くブレーキ冷却が行われることでフロントブレーキ30の制動能力が向上する。
【0033】
ブレーキ踏力βが閾値β1より低い場合、ラジエータ温度tについて閾値t1との比較が行われる。ラジエータ温度tが閾値t1よりも高い場合はエンジン冷却のため板状部材12の位置は上位置(ラジエータ取風口14開き位置)とされ、ラジエータ取風口14に走行風18が導入されることでラジエータ22がより冷却され、よりエンジン温度を下げることができる。
【0034】
同様に図5に示すように、空力性能、エンジン冷却、ブレーキ冷却の順に優先する制御としたときは、まず車速Vが閾値V1より速ければ定常速度での運転中と判断し、車体の空力性能が優先され板状部材12は下(ラジエータ取風口14閉じ位置)となる。次いでラジエータ温度tが閾値t1よりも高ければラジエータ22冷却のため板状部材12の位置は上(ラジエータ取風口14開き位置)とされ、更にブレーキ踏力βが閾値β1より高ければブレーキ冷却のため板状部材12は下(ラジエータ取風口14閉じ位置)となる。
【0035】
以下、同様に図6ではエンジン冷却、空力性能、ブレーキ冷却の順に優先する制御として制御手段が板状部材12の位置を決定し、図7ではエンジン冷却、ブレーキ冷却、空力性能の順に優先する制御として板状部材12の位置を決定し、図8ではブレーキ冷却、空力性能、エンジン冷却の順に優先する制御として板状部材12の位置を決定し、図9ではブレーキ冷却、エンジン冷却、空力性能の順に優先する制御として板状部材12の位置を決定する場合のフロー図が示されている。
【0036】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0037】
すなわち、上記各実施形態では車体前方にラジエータの存在する構造を例としたが、これに限定せずエンジンルーム13に代えて車体前方にトランクルームが設けられていてもよい。あるいは板状部材としてのガーニッシュやライセンスプレートホルダ以外にも、フロントグリル自体を開閉可能とする構造や、ラジエータ取風口がバンパ下に設けられた構造に応用してもよい。
【0038】
また、車室内より乗員が制御手段を通じて板状部材12の位置を決定し、例えば峠道の下り坂などエンジン冷却性能を抑えてもブレーキ冷却を重視したい場合に対応するような手動制御機構を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係る車体前部の導風構造を示す斜視図である。
【図2】図1に示される車体前部の導風構造を拡大し本発明の原理を示した断面図である。
【図3】図1に示される車体前部の導風構造を拡大し本発明の原理を示した平面図および正面図である。
【図4】車速V、ラジエータ温度t、ブレーキ踏力βの値によって板状部材の位置を制御するロジックの一例を示すフロー図である。
【図5】車速V、ラジエータ温度t、ブレーキ踏力βの値によって板状部材の位置を制御するロジックの一例を示すフロー図である。
【図6】車速V、ラジエータ温度t、ブレーキ踏力βの値によって板状部材の位置を制御するロジックの一例を示すフロー図である。
【図7】車速V、ラジエータ温度t、ブレーキ踏力βの値によって板状部材の位置を制御するロジックの一例を示すフロー図である。
【図8】車速V、ラジエータ温度t、ブレーキ踏力βの値によって板状部材の位置を制御するロジックの一例を示すフロー図である。
【図9】車速V、ラジエータ温度t、ブレーキ踏力βの値によって板状部材の位置を制御するロジックの一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0040】
10 導風構造
11 車体
12 板状部材
12A ライセンスプレート
13 エンジンルーム
14 ラジエータ取風口
16 ブレーキ取風口
18 走行風
19 走行風
20 コンデンサ
22 ラジエータ
24 エンジン
26 高圧部分
28 移動手段
30 フロントブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前端に垂直に設けられ、車体上下方向に可動に支持された板状部材と、
車体前方の車幅方向中央に開口し、車体前部の上面を被覆するフード下の空間に連通する第1の空気流入口と、
前記第1の空気流入口よりも側面視で車体後方に開口し、走行風を前輪ブレーキに送るブレーキ冷却ダクトに連通する一対の第2の空気流入口と、
前記前輪ブレーキの作動と解除を検知するブレーキ検知手段と、
前記板状部材を車体上下方向に移動させる移動手段と、
を備え、
前記前輪ブレーキの作動により前記移動手段は前記板状部材を移動させて前記第1の空気流入口の少なくとも一部を閉塞し、前記前輪ブレーキの解除により前記移動手段は前記板状部材を移動させて前記第1の空気流入口を開放することを特徴とする車体前部の導風構造。
【請求項2】
前記板状部材はフロントガーニッシュである請求項1に記載の車体前部の導風構造。
【請求項3】
前記板状部材はライセンスプレートホルダである請求項1に記載の車体前部の導風構造。
【請求項4】
前記フード下の空間に設けられたラジエータの温度を検知するラジエータ温度検知手段と、車速を検知する車速検知手段とを備え、前記板状部材はラジエータ温度、車速および前記前輪ブレーキの作動と解除に応じて移動制御されることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車体前部の導風構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−83429(P2010−83429A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257325(P2008−257325)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】