説明

車体前部構造

【課題】フードリッジメンバに前部から後方に向かう大きな衝撃入力荷重が作用しても、フロントピラー全体を厚肉にしたり太くしたりすることなく、フロントピラーが後方に後退する量を少なくできる車体前部構造を提供すること。
【解決手段】左右・上下に延びるダッシュパネル15の車幅方向両端部に左右のフロントピラー20の下部がそれぞれ接合され、前記左右のフロントピラー20の前側に前後に延びるフードリッジメンバ21がそれぞれ接合され、前記両フードリッジメンバ21間のエンジンルーム24側に膨出するストラットハウジング26が前記各フードリッジメンバ21の対向面にそれぞれ設けられていると共に、前記フードリッジメンバ21の近傍に前後に延びるフロントサイドメンバ18が配設されている。しかも、前記ストラットハウジング26の後部に補強メンバ27の前端部が固定され、前記補強メンバ27の後端部が前記フロントサイドメンバ18のダッシュパネル15近傍の部分に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体のフロントピラーの前側にフードリッジメンバが接合された車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体補強構造としては、例えば左右のリヤサイドメンバ間にリヤクロスメンバの両端部を溶接固定し、この各リヤサイドメンバとリヤクロスメンバとの間にこれらの接合部を跨いで筋交い状に補強メンバを配設して、この補強メンバの両端部をリヤサイドメンバとリヤクロスメンバの接合部近傍の部分に溶接固定すると共に、このリヤサイドメンバ,リヤクロスメンバ及び補強メンバに跨ってリヤホイールハウスを取り付けた車体後部構造が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この構造において、リヤサイドメンバに後部から前側への衝撃入力荷重が作用した場合、リヤサイドメンバ,リヤクロスメンバ及び補強メンバに荷重を分散負担させることができる。
【0004】
ところで、この構造においては、リヤサイドメンバに後部から前側への衝撃入力荷重が作用した場合、リヤサイドメンバとリヤクロスメンバには接合部を中心とするモーメントが作用するため、筋交い状に配設接合された補強メンバのみでリヤサイドメンバとリヤクロスメンバの接合構造を補強するには、補強メンバの板厚を上げる等の対策が必要であった。この構造では、重量が増大する傾向にある。
【0005】
また、自動車の車体前部構造としては、例えば図5に示したように、車体1のダッシュパネル2の車幅方向両端部に左右のフロントピラー3,3の下部ピラー3bを接合し、この各フロントピラー3の前側に前後に延びるフードリッジメンバ4を接合すると共に、前後に延びる左右の各フロントサイドメンバ5にフードリッジメンバ4のフードリッジインナパネル6の下端部を接合した構造が知られている。
【0006】
尚、フロントピラー3は、斜め前方に傾斜する上部ピラー3aと、上部ピラー3aの下端から下方に延びる下部ピラー3bを有する。そして、下部ピラー3bは、上端部がダッシュパネル2に接合され、下端部が車体1のサイドシル7の前端部に接合されている。
【0007】
この構造では、車体1に前部から後方に向かう衝撃入力荷重が作用すると、フロントサイドメンバ5及びフードリッジメンバ4により衝撃入力荷重のエネルギーを吸収するようになっている。このフードリッジメンバ4で吸収させるエネルギーは増大する傾向にある。
【0008】
また、車体1の車室(居室)8の拡大に伴い、ダッシュパネル2とフロントピラー3の下端部の前後方向の差が少なくなり、ダッシュパネル2とフロントピラー3の下端部は車幅方向に略直線状に配置される車両がある。
【特許文献1】特開平10−129533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような車両では、上部ピラー3aは視界を確保するために太くすることができないと共に、下部ピラー3bの下端部はサイドシル7に接合固定されている。このため、フードリッジメンバ4に前部から後方に向かう大きな衝撃入力荷重が作用した場合、フードリッジメンバ4が下部ピラー3bの上端部を強く押して、下部ピラー3bの上端部が下端部のサイドシルへの接合部を中心に後方に回動して後退し、好ましくないものであった。
【0010】
これを防止するにはフロントピラー3全体を厚肉にしたり太くしたりして補強する必要があるが、重量が増大するという問題がある。
【0011】
そこで、この発明は、フードリッジメンバに前部から後方に向かう大きな衝撃入力荷重が作用しても、フロントピラー全体を厚肉にしたり太くしたりすることなく、フロントピラーが後方に後退する量を少なくできる車体前部構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するため、請求項1の発明は、左右・上下に延びるダッシュパネルの車幅方向両端部に左右のフロントピラーの下部がそれぞれ接合され、前記左右のフロントピラーの前側に前後に延びるフードリッジメンバがそれぞれ接合され、前記両フードリッジメンバ間のエンジンルーム側に膨出するストラットハウジングが前記各フードリッジメンバの対向面にそれぞれ設けられていると共に、前記フードリッジメンバの近傍に前後に延びるフロントサイドメンバが配設された車体前部構造であって、前記ストラットハウジングの後部に補強メンバの前端部が固定され、前記補強メンバの後端部が前記フロントサイドメンバのダッシュパネル近傍の部分に固定されている車体前部構造としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この構成によれば、フードリッジメンバに前側から後方に向けて入力される衝撃荷重は補強部材に分散されてフロントサイドメンバに入力されるので、フロントピラーへの荷重の入力を少なくできる。これにより、フードリッジメンバに前側から後方に向けて衝撃荷重が入力されても、フロントピラーの後方への後退(変形)を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は自動車の車体10の前部構造を示した斜視図である。この車体10のフロアパネル11とルーフパネル12との間に車室13が形成され、このフロアパネル11の車幅方向両側部にはシル14がそれぞれ溶接固定されている。このフロアパネル11の前縁部には上下・左右に延びるダッシュパネル15が連設されている。
【0016】
尚、12aはルーフパネル12の側部に設けられたルーフサイドレール、12bはルーフパネル12の前縁部に設けられフロントルーフレール、12cはルーフサイドレール12aの前端部とフロントルーフレール12bの結合部である。
【0017】
また、ダッシュパネル15の前面下部(下端部)には図1〜図3に示したように車幅方向両端部近傍まで延びる第1ダッシュクロスメンバ16が固定され、ダッシュパネル15の後面(車室13側の面)には第1ダッシュクロスメンバ16に対応させた第2ダッシュクロスメンバ17が固定されている。
【0018】
更に、ダッシュパネル15の車幅方向側部の前側には前後に延びるフロントサイドメンバ18,18が配設されている。このフロントサイドメンバ18,18の後端部は第1ダッシュクロスメンバ16の両端部に固定されている。尚、このフロントサイドメンバ18,18の後端部にはフロアパネル11の下方に延設されるエクステンションメンバ(図示せず)の前端部が溶接固定される。
【0019】
また、ダッシュパネル15の上縁部には車幅方向(左右)に延びるエアボックス(カウルボックス)19が設けられている。このダッシュパネル15の車幅方向両側部にはフロントピラー20,20が配設されている。
【0020】
このフロントピラー20は、レール12a,12bの結合部12cから前斜め下方に向けてダッシュパネル15の車幅方向両側上部まで延びる上部ピラー20aと、この上部ピラー20aからシル14の前端部まで下方に向けて延びる下部ピラー20bを有する。
【0021】
しかも、フロントピラー20,20の下部ピラー20b,20bとダッシュパネル15は図1に示したように車幅方向に略直線状に配列されている。この下部ピラー20b,20bは、ダッシュパネル15の側部に固定されていると共に、下端部がシル14の前端部に固定されている。
【0022】
また、下部ピラー20b,20bの上端部には前側に延びるフードリッジメンバ21,21が溶接固定されている。この各フードリッジメンバ21は、フロントサイドメンバ18に下縁部が溶接固定されたフードリッジパネル22と、フードリッジパネル22の上縁部を補強しているフードリッジレインフォース23を有する。しかも、左右のフードリッジパネル22,22間にはエンジンルーム24が形成されている。
【0023】
そして、フロントサイドメンバ18,18の前端部間にはラジエータコアサポート25の下部の両端部が固定され、フードリッジメンバ21,21の前端部にはラジエータコアサポート25の上部の両端部が固定されている。
【0024】
また、フードリッジパネル22,22には、エンジンルーム24側に膨出するストラットハウジング26,26がそれぞれ一体に設けられている。このストラットハウジング26の後側上部とフロントサイドメンバ18の後端部との間には、補強メンバ27が後斜め下方且つ車幅方向の中央側に向けて配設されている。
【0025】
この補強メンバ27の前端部は、ストラットハウジング26の後側上部に溶接固定されている。また、補強メンバ27の後端部27aは、フロントサイドメンバ18の第1ダッシュクロスメンバ16への取付部(接合部)、即ちフロントサイドメンバ18の後端部18aに溶接固定されている。
【0026】
また、フードリッジレインフォース23には、図1,図3に示したようにストラットハウジング26と下部ピラー20bとの間に位置させて上下に延びるビード(脆弱部)28が複数形成されている。
【0027】
次に、このような構成の車体前部構造の作用を説明する。
【0028】
このような構成において、図3に示すようにフロントサイドメンバ18に前端から後方に向かう衝撃入力荷重F1が入力された場合、この衝撃入力荷重F1はフロントサイドメンバ18を介してフードリッジパネル22及び第1ダッシュクロスメンバ16に分散して作用する。
【0029】
また、フードリッジメンバ21に前端から後方に向かう衝撃入力荷重F2が入力された場合、衝撃入力荷重F2の一部は補強メンバ27を介してフロントサイドメンバ18の後端部に分散入力される。
【0030】
このフロントサイドメンバ18のダッシュパネル15への取付部(後端部18a)は、フロントサイドメンバ18からの衝撃入力荷重F1を受けるために第1,2ダッシュクロスメンバ16,17により他の部分よりも補強されている。これにより衝撃入力荷重F2は補強メンバ27を介してフロントサイドメンバ18を介して受け止めることができる。この結果、衝撃入力荷重F2がフードリッジメンバ21に入力されても、フロントピラー20の上部ピラー20aを太くしたり、上部ピラー20aの肉厚を厚くしたりするような補強をすることなく、下部ピラー20bの上端部が車室13側に後退する量を充分に抑制できる。
【0031】
また、衝撃入力荷重F2が過大な場合において、補強メンバ27のフロントサイドメンバ18への取付部(後端部27a)を中心とする大きなモーメントが補強メンバ27に作用して、この補強メンバ27の前端部が取付部(後端部27a)を中心に後方に回動移動すると、衝撃入力荷重F2はフードリッジメンバ21の後端部を介して下部ピラー20bの上端部を後方に押圧変形させようとする。
【0032】
しかし、この際、フードリッジレインフォース23の後部(ストラットハウジング26と下部ピラー20bとの間の部分)は、複数のビード28により変形させられて、この下部ピラー20bの上端部が後方に後退するのを抑制する。
【0033】
以上説明したように、この発明の実施の形態の車体前部構造においては、左右・上下に延びるダッシュパネル15の車幅方向両端部に左右のフロントピラー20の下部がそれぞれ接合され、前記左右のフロントピラー20の前側に前後に延びるフードリッジメンバ21がそれぞれ接合され、前記両フードリッジメンバ21間のエンジンルーム24側に膨出するストラットハウジング26が前記各フードリッジメンバ21の対向面にそれぞれ設けられていると共に、前記フードリッジメンバ21の近傍に前後に延びるフロントサイドメンバ18が配設されている。しかも、前記ストラットハウジング26の後部に補強メンバ27の前端部が固定され、前記補強メンバ27の後端部27aが前記フロントサイドメンバ18のダッシュパネル15近傍の部分に固定されている。
【0034】
この構成によれば、フードリッジメンバ21に前側から後方に向けて入力される衝撃荷重は補強メンバ27に分散されてフロントサイドメンバ18に入力されるので、フロントピラー20への荷重の入力を少なくできる。これにより、フードリッジメンバ21に前側から後方に向けて衝撃荷重が入力されても、フロントピラー20の後方への後退(変形)を抑制できる。
【0035】
また、この発明の実施の形態の車体前部構造においては、前記ダッシュパネルの前側下部に車幅方向両端部まで延びるダッシュクロスメンバ(16,17)が固定され、前記ダッシュクロスメンバ(16)の車幅方向両端部近傍の部分に前後に延びるフロントサイドメンバ18が固定されている。しかも、前記ストラットハウジング26の後部に補強メンバ27の前端部が固定され、前記補強メンバ27の後端部27aが前記フロントサイドメンバ18のダッシュクロスメンバ(16)への取付部に固定されている。
【0036】
この構成によれば、フロントサイドメンバ18とダッシュクロスメンバ(16)の取付部は強固となっていると共に、フードリッジメンバ21に前側から後方に向けて入力される衝撃荷重は補強メンバ27に分散されてフロントサイドメンバ18とダッシュクロスメンバ(16)の強固な取付部に入力されるので、フロントピラー20への荷重の入力を少なくできる。これにより、フードリッジメンバ21に前側から後方に向けて衝撃荷重が入力されても、フロントピラー20の後方への後退(変形)を抑制できる。
【0037】
また、この発明の実施の形態の車体前部構造においては、前記フードリッジメンバ18の前記ストラットハウジング26とフロントピラー20の間の部分には脆弱部(ビード28)が設けられている。
【0038】
この構成によれば、フードリッジメンバ21に前側から後方に向けて入力される衝撃荷重は補強メンバ27に分散されてフロントサイドメンバ18とダッシュクロスメンバ(16)の強固な取付部に入力されるが、補強メンバ27に分散しきれない大きな衝撃荷重がフードリッジメンバ21に前側から後方に向けて入力された場合に、フードリッジメンバ18及び補強メンバ27は補強メンバ27のフロントサイドメンバ18への取付部を中心とする後方へのモーメントを受けて回転する。しかし、フードリッジメンバ21のストラットハウジング26とフロントピラー20との間の部分には脆弱部(ビード28)があるので、補強メンバ27に分散しきれない大きな衝撃荷重がフードリッジメンバ21に前側から後方に向けて入力された場合には、脆弱部(ビード28)が変形して、フロントピラー20の後方への後退量を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明にかかる自動車の車体の前部を概略的に示した斜視図である。
【図2】図1の要部を矢印A1方向から見た要部拡大斜視図である。
【図3】図1,図2の補強メンバの部分に沿う断面図である。
【図4】図3のA2−A2線に沿う断面図である。
【図5】従来の自動車の車体の一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
15…ダッシュパネル
16…第1ダッシュクロスメンバ
18…フロントサイドメンバ
20…フロントピラー
21…フードリッジメンバ
24…エンジンルーム
26…ストラットハウジング
27…補強メンバ
28…ビード(脆弱部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右・上下に延びるダッシュパネルの車幅方向両端部に左右のフロントピラーの下部がそれぞれ接合され、前記左右のフロントピラーの前側に前後に延びるフードリッジメンバがそれぞれ接合され、前記両フードリッジメンバ間のエンジンルーム側に膨出するストラットハウジングが前記各フードリッジメンバの対向面にそれぞれ設けられていると共に、前記フードリッジメンバの近傍に前後に延びるフロントサイドメンバが配設された車体前部構造であって、
前記ストラットハウジングの後部に補強メンバの前端部が固定され、前記補強メンバの後端部が前記フロントサイドメンバのダッシュパネル近傍の部分に固定されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記フードリッジメンバの前記ストラットハウジングとフロントピラーの間の部分には脆弱部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−88949(P2006−88949A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278714(P2004−278714)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】