説明

車体前部構造

【課題】前突時のノーズダイブ挙動を低減する。
【解決手段】カウル部3下方のダッシュパネル4から前方に延出する左右一対のフロントサイドフレーム9と、当該フロントサイドフレームに連結された左右のサスペンションサポート14とを備える車体前部構造であって、前記フロントサイドフレームの前端部近傍に車体前方から見て矩形状の矩形フレーム部13が設けられ、前記矩形フレーム部は左右一対の鉛直に延びる縦メンバ13aと、上下一対の水平に延びる横メンバ13bとが連結されて構成されており、前記縦メンバが前記フロントサイドフレームに連結されており、左右両側の夫々において、前記サスペンションサポートの上部14aと前記縦メンバの上端部とを第1メンバ15で連結し、当該サスペンションサポートの上部と前記縦メンバの中間部とを第2メンバ16で連結して、前記縦メンバ、第1メンバ、及び第2メンバにより三角形状フレーム部を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前突時の衝突エネルギーを吸収する車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車体前部構造として、特許文献1には、車体前部の車幅方向から前方に延びるエプロンレイン前方を大きく垂下させることにより、車体前方からの衝突エネルギーを上下に亘って受け止めるようにした構造が記載されている。
【0003】
また、一般に車体前部には車幅方向の両側から前方にフロントサイドフレームが延びており、これにより車体前方からの衝突エネルギーを吸収するように構成されている。
【特許文献1】特開2003−40142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の構造では、前突時に入力される衝突エネルギーにより、フロントサイドフレームがその基部である車室前端の仕切壁となるダッシュパネル付近から上方に折れ曲がり、車室前端部のダッシュパネル(特に、乗員の足付近)が後方且つ上方に変位する、所謂ノーズダイブ挙動が発生し、このノーズダイブ挙動を低減することが課題となっている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1は、車体前方からの衝突エネルギーは吸収するものの、車体前部に入力される衝突エネルギーによるノーズダイブ挙動を低減することはできない。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされ、その目的は、前突時のノーズダイブ挙動を低減できる技術を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る第1の形態は、カウル部下方のダッシュパネルから前方に延出する左右一対のフロントサイドフレームと、当該フロントサイドフレームに連結された左右のサスペンションサポートとを備える車体前部構造であって、前記フロントサイドフレームの前端部近傍に車体前方から見て矩形状の矩形フレーム部が設けられ、前記矩形フレーム部は左右一対の鉛直に延びる縦メンバと、上下一対の水平に延びる横メンバとが連結されて構成されており、前記縦メンバが前記フロントサイドフレームに連結されており、左右両側の夫々において、前記サスペンションサポートの上部と前記縦メンバの上端部とを第1メンバで連結し、当該サスペンションサポートの上部と前記縦メンバの中間部とを第2メンバで連結して、前記縦メンバ、第1メンバ、及び第2メンバにより三角形状フレーム部を形成した。
【0008】
この第1の形態によれば、前突時に車体前面の矩形フレーム部に入力される衝突エネルギーが、縦メンバを含む三角形状フレーム部を通じてサスペンションサポート及び車体上部に伝達されるため、フロントサイドフレームに入力される衝突エネルギーを低減し、ノーズダイブ挙動を低減することができる。
【0009】
また、第2の形態では、前記第1及び第2メンバは、車体前方に向けて下方に傾斜するように配置されている。この形態よれば、三角形状フレーム部が、よりフロントサイドフレームに近い部位の衝突エネルギーを吸収するので、フロントサイドフレームへの前突荷重の入力を効果的に低減できる。
【0010】
また、第3の形態では、前記第2メンバは前記第1メンバより長く、前記第1メンバは前記三角形状フレーム部を構成する縦メンバ部分より長い。この形態によれば、三角形状フレーム部の前端部分(縦メンバ)より第1メンバと第2メンバとの連結部の位置が高くなり、三角形状フレーム部が前突荷重の入力時に車体左側から見て反時計方向(右側から見て時計方向)に回動してサスペンションサポート上部及びカウル部を上昇させるように作用するため、ノーズダイブ挙動の低減効果を高めることができる。
【0011】
また、第4の形態では、前記第2メンバの前端部は、前記縦メンバと前記フロントサイドフレームとの連結部に連結されている。この形態によれば、衝突エネルギーがフロントサイドフレームへ入力されると同時に三角形状フレーム部に入力されるため、フロントサイドフレームの折れ曲がりを前突の初期段階から低減できる。また、矩形フレーム部とサスペンションサポート上部との間にトラスが形成されるので、車体の剛性を高めることができる。
【0012】
また、第5の形態では、前記第1及び第2メンバと前記サスペンションサポートの上部との連結部に、車体前方からの衝撃によって前記三角形状フレームが当該連結部を中心として回動することを許容する脆弱部を形成した。この形態によれば、前突時の三角形状フレーム部の回動挙動を促進し、第1メンバや第2メンバが座屈等して狙いの回動挙動が阻害されるのを防止できる。
【0013】
また、第6の形態では、前記サスペンションサポートの上部と前記ダッシュパネルとを連結する左右一対の第3メンバを更に備える。この形態によれば、三角形状フレーム部に入力された衝突エネルギーを直接車体上部に伝達するための伝達経路ができるので、フロントサイドフレームへの前突荷重の入力を効果的に低減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前突時にフロントサイドフレームに入力される衝突エネルギーを低減し、ノーズダイブ挙動を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
尚、以下に説明する実施の形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で下記実施形態を修正又は変形したものに適用可能である。
【0017】
[全体構造の説明]
図1は本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す斜視図、図2は本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す平面(上面)図、図3は本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す正面図、図4は本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す底面図、図5は本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す左側面図である。なお、本実施形態の車体前部は車幅方向の中心を車体前後方向に延びる中心線に対して左右対称な構造であるので、図5とは反対の右側面図は省略する。
【0018】
図1乃至図5において、車室1の前部は、フロントガラスの下縁部に位置し左右のAピラー(ウインドウピラー)2を車幅方向に連結するカウル部3、車室1とエンジン室とを仕切る隔壁となるダッシュパネル4、左右のAピラー2から下方に延びるヒンジタワー5を主な要素として画成されている。ダッシュパネル4はカウル部3の下部に設けられ、その左右の側縁部が左右のヒンジタワー5に夫々連結されている。ヒンジタワー5には、左右のフロントサイドドア(不図示)を開閉自在に支持するドアヒンジが設けられる。また、ヒンジタワー5の下端部は車室1の底面部に配設されるフロアフレーム6に連結される。
【0019】
エンジン室の左右の側部には、上記左右のAピラー2とヒンジタワー5の夫々の連結部から車体前方に延びる左右のエプロンレインフォースメント7、エプロンレインフォースメント7の下部のホイールハウス(スプラッシュシールド)8、不図示のシャシーフレームから車体前方に延びる左右のフロントサイドフレーム9が設けられる。左右のエプロンレインフォースメント7の上記連結部からの長さはエンジン室の前後方向の長さの1/3程度で、通常より短く形成されて軽量化が図られている。
【0020】
フロントサイドフレーム9はカウル部3下方のダッシュパネル4から前方に延出しており、このフロントサイドフレーム9には左右のサスペンションタワー(サスペンションサポート)14の下部が連結され支持されている。なお、Xはサスペンションダンパー及びコイルスプリングの中心線である。
【0021】
エンジン室の底部には、フロアフレーム6から車体前方に延びるフロントサブフレーム(フロントクロスメンバに代替されるペリメータフレーム)10が設けられている。このフロントサブフレーム10の左右の端部はフロントサスペンションを構成するロアアーム21を支持する。フロントサブフレーム10はフロントクロスメンバより小型化及び軽量化された構成となっている。
【0022】
上記左右のフロントサイドフレーム9の前端部にはクラッシュ管11を介して車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント12が連結されている。クラッシュ管11には、側面部に複数の長穴部11aが形成されており、前突時にクラッシュ管11が軸方向に潰れ易く構成して衝突エネルギーを吸収する。このバンパレインフォースメント12に対して不図示のバンパが取り付けられる。クラッシュ管11は前突時にバンパレインフォースメント12を通じて入力される衝突エネルギーを吸収する。
【0023】
上記バンパーレインフォースメント12より後方には、不図示のラジエータユニット(ラジエータや電動ファン等)を支持するラジエータシュラウド13が配設されている。このラジエータシュラウド13は、車体前部から見たときに略矩形状(長方形状)の枠体(矩形フレーム部)で構成されている。ラジエータシュラウド13は、左右一対の鉛直に延びる直線状の縦メンバ13aと、上下一対の車幅方向に水平に延びる直線状の横メンバ13bとを有し、縦メンバ13aの各下端部と下側横メンバ13bの両端部とを連結すると共に、縦メンバ13aの各上端部と上側横メンバ13bの両端部とを連結して全体として横長の長方形の矩形状に構成され、前突時に広い面積範囲で車両等の衝突物体を受けることができる。
【0024】
ラジエータシュラウド13は、左右両側において、縦メンバ13aがフロントサイドフレーム9に連結されている。
【0025】
上記ダッシュパネル4、左右のフロントサイドフレーム9、及びラジエータシュラウド13で囲まれる空間がエンジン室となり、一点鎖線で仮想的に示すエンジンEG、トランスミッションTM及び差動機構(デファレンシャル)DIFを含むパワートレインPTが横置き(クランク軸やエキセントリック軸が車幅方向に延びるように配置)された状態で不図示のエンジンマウントを介してフロントサイドフレーム9に支持される。
【0026】
車体の左右両側の夫々において、サスペンションタワー14の上部14aには、前輪を軸支するサスペンションストラット等のフロントサスペンションの上端部が取り付けられる。また、サスペンションストラットの下端部はロアアーム21に支持される。
【0027】
更に、上記サスペンションタワー上部14aと左右の縦メンバ13aの上端部とが直線状の第1メンバ15で連結されると共に、サスペンションタワー上部14aと左右の縦メンバ13aの略中間部とが直線状の第2メンバ16で連結されている。そして、エンジン室の左右両側において、縦メンバ13a、第1メンバ15、及び第2メンバ16により三角形状のフレーム構造体(三角形状フレーム部)を形成している。
【0028】
上記第1メンバ15及び第2メンバ16は車体前方に向けて下方に傾斜するように配置されている。第2メンバ16は第1メンバ15より長軸とされ、第1メンバ15は上記三角形状フレーム部の一部(一辺)を構成する縦メンバ13a部分より長軸とされる。即ち、第2メンバ16は第1メンバ15より下方に配置される。第2メンバ16の前端部16aは、縦メンバ13aとフロントサイドフレーム9との連結部に連結されている。
【0029】
また、左右のサスペンションタワー上部14aが直線状のタワーバー18により連結されている。そして、ラジエータシュラウド13の上側横メンバ13bと、タワーバー18と、左右の第1メンバ15により平面視(上面から見て)で車体前方に向けて先細りする台形状アッパフレームを形成している。即ち、上側横メンバ13bがタワーバー18より長軸とされ、上側横メンバ13bの両端部と左右のサスペンションタワー上部14aとを左右の第1メンバ15により連結し、全体として台形状に構成されている。
【0030】
また、左右両側において、サスペンションタワー上部14aとカウル部3の側端部3aとが直線状の第3メンバ19で連結され、タワーバー18の略中間部とカウル部3の側端部3aとが左右一対の直線状の第4メンバ20で連結されている。
【0031】
第1メンバ15及び第2メンバ16とサスペンションタワー上部14aとの連結部には、後述するように、車体前方からの衝撃によって上記三角形状フレーム部が当該連結部を中心として回動することを許容する脆弱部が形成されている。
【0032】
更に、サスペンションタワー上部14aとダッシュパネル4とが左右一対の直線状の第3メンバ19により連結されている。
【0033】
なお、本実施形態の車体前部を構成する各要素は主に金属材料で構成されている。
【0034】
[断面形状及び接続構造の説明]
図6は本実施形態のサスペンションタワー上部の接続構造を示す図、図7は本実施形態のフロントサイドフレームに連結されるラジエータシュラウドの縦メンバ、クラッシュ管、及び第2メンバの接続構造を示す図、図8は本実施形態のラジエータシュラウド及び第1メンバの接続構造を示す図、図9は本実施形態の第1メンバの構造を示す図、図10は本実施形態のタワーバーと第4メンバとの接続構造を示す図、図11は本実施形態のカウル部及びダッシュパネルの構造を示す断面図である。
【0035】
先ず、図6を参照して、本実施形態のサスペンションタワーの上部の接続構造について説明する。
【0036】
図6に示すように、サスペンションタワー14は、上端部が閉じた中空円筒状の本体部14bを有する。この本体部14bの内部にはフロントサスペンションを構成するコイルスプリングSPを保持する受部31が形成され、略中央部にはゴムブッシュ32等を介して不図示のダンパー軸が配される貫通孔33が形成されている。この本体部14bの上端部に、外縁部が起立した円盤状の補強部材14cがボルト34等で固定されることにより、サスペンションタワー上部14aが構成される。本体部14bと補助部材14cとに挟まれた空間36は平面視(上方から見て)で略リング状の閉断面を構成し、剛性を高めている。補助部材14cの側面部には上記第1メンバ15及び第2メンバ16の後端部がボルト35等で固定される。また、補助部材14cの外面には、一部を平面状に削除した部分37が形成されており、この削除部分37に第3メンバ19の前端部がボルト35等で固定される。
【0037】
次に、図7を参照して、本実施形態のフロントサイドフレームに連結されるラジエータシュラウドの縦メンバ、クラッシュ管、及び第2メンバの接続構造について説明する。
【0038】
図7に示すように、フロントサイドフレーム9は略凸状の断面を有する2枚の板材9aの凹部が対向するように重ね合わせ、重なり合う側縁部9bを溶接等で接合した剛性の高い閉断面構造を有している。また、ラジエータシュラウド13の縦メンバ13aと第1メンバ15とは略コの字状の断面を有している。そして、縦メンバ13aの中間部に第2メンバ16の前端部を嵌め込み共通のボルト孔41を介してフロントサイドフレーム9に対してボルト42等で固定される。また、フロントサイドフレーム9の前端部にはクラッシュ管11の取付プレート44が溶接等で固定され、この取付プレート44に対してクラッシュ管11のフランジ部11bがボルト45等で固定される。なお、フロントサイドフレーム9と第2メンバ16とが接触する部分に窪み等の逃げ部43が形成され、フロントサイドレーム9と第2メンバ16とが干渉しないように構成されている。
【0039】
次に、図8を参照して、本実施形態のラジエータシュラウド及び第1メンバの接続構造について説明する。
【0040】
図8に示すように、ラジエータシュラウド13における縦メンバ13aと横メンバ13bは、コの字状断面を有する横メンバ13bの両端部において、その下側(下側横メンバの場合は上側)の壁部を一部削除した部位に縦メンバ13aの端部を係合させると共に、夫々の端部の一部を折り曲げて接合代13cを形成しておき、これら接合代13cをスポット溶接等で接合する。
【0041】
また、第1メンバ15の前端部は、断面を構成する3つの壁部に取付代15a〜15cが形成され、各取付代15a〜15cには貫通孔が形成されている。また、上記縦メンバ13aと横メンバ13bの連結部には、上記貫通孔に合致する貫通孔が形成されている。そして、上記縦メンバ13aと横メンバ13bの連結部の内面側に両側の取付代15a,15cを挿入すると共に、当該連結部の外面側に中央の取付代15bを重ね合わせ、この状態で各取付代15a〜15cの貫通孔と上記縦メンバ13aと横メンバ13bの連結部に形成された貫通孔とを合致させ、ボルト46等で固定する。
【0042】
次に、図9を参照して、本実施形態の第1メンバの構造について説明する。
【0043】
図9に示すように、第1メンバ15の後端部には取付フランジ47が形成され、この取付フランジ47が上述したサスペンションタワー上部14aの補強部材14cに連結される。第1メンバ15における取付フランジ47近傍には、コの字状断面を有し軸方向の断面積は一定であるが、断面の上下の長さhが上記フランジ47に近づくほど短く(h1>h2)且つ横の長さdが長く(d1<d2)なるように断面積が滑らかに変化する脆弱部48が形成されている。この脆弱部48は、軸方向の断面積が一定であるので軸力に対する剛性は変化しないが、軸方向と交差する下方(コの字状断面の開いた部分の方向)に曲がりやすくなっている。この脆弱部48は、車体前方からの衝撃によって上述した三角形状フレーム部が当該脆弱部48を中心として回動することを許容し、前突時の三角形状フレーム部の回動挙動を促進し、第1メンバ15や第2メンバ16が座屈等して狙いの回動挙動が阻害されるのを防止する機能を有する。
【0044】
なお、第2メンバの対応する部位に同様の脆弱部を形成してもよい。
【0045】
次に、図10を参照して、本実施形態のタワーバーと第4メンバとの接続構造について説明する。
【0046】
タワーバー18は、下方に開いた略コの字状断面を有する。第4メンバ20は、中空円形の断面を有するパイプ材である。左右の第4メンバ20の各後端部はタワーバー18の車幅方向の中間部付近で互いに隣接するように、タワーバー18の外形に合致するようなひと回り大きいコの字状断面を有する接合部材50に溶接等で接合される。接合部材50は、タワーバー18の軸方向の中間部付近にボルト51等で固定される。
【0047】
最後に、図11を参照して、本実施形態のカウル部及びダッシュパネルの構造について説明する。
【0048】
図11に示すように、カウル部3は板材を折り曲げて構成された前側のフロントパネル3aと後側のリヤパネル3bとを重ね合わせ、重なり合う側縁部を溶接等で接合した剛性の高い閉断面構造を有している。また、ダッシュパネル4は、上部のアッパパネル4aと下部のロアパネル4bとで構成され、アッパパネル4aとロアパネル4bとがボルト等で連結される。そして、アッパパネル4aの上縁部がカウル部3の下縁部にボルト等で連結される。更に、カウル部3のフロントパネル3aに第3メンバ19の後端部が連結される。
【0049】
[前突時の車体前部の挙動]
図12乃至図15は本実施形態の車体前部構造による前突時の挙動を従来の構造と比較して示す図である。なお、図示の挙動は、本実施形態と従来例の夫々において車体前部をバリヤーに衝突させたときのシミュレーション結果である。
【0050】
なお、図12(b)乃至図15(b)に示す従来の構造において、本実施形態の構成と同一又は類似する要素には符号に「’」を付して示している。また、各図において、Tは前輪タイヤ、Wはタイヤホイール、Bはバリヤー、Gはタイヤがパンクしないと仮定した場合の地面線(タイヤTの接地面)、G’はタイヤがパンクしたと仮定した場合の地面線(ホイールWの接地面)である。
【0051】
前突初期から前突中期において、従来の構造(図13(b),図14(b))では、クラッシュ管11’、バンパーレインフォースメント12’、及びラジエータシュラウド13’が変形して衝突エネルギーを吸収するものの、衝撃エネルギーが車体上部に分散せずにフロントサイドフレーム9’に集中するため、フロントサイドフレーム9’がその基部であるダッシュパネル4’付近から上方に折れ曲がり始め、エンジン室内のパワートレインPT’が後方且つ上方に変位するノーズダイブ挙動が発生する。また、タイヤホイールWが硬質のためホイールハウス8’に衝突しダッシュパネル4’の後退を助長する。
【0052】
これに対して、本実施形態の構造(図13(a),図14(a))では、クラッシュ管11、バンパーレインフォースメント12、及びラジエータシュラウド13が変形して衝突エネルギーを吸収し、更に衝撃エネルギーが三角形状フレーム13a、15,16を通じて車体上部(サスペンションタワー上部14a及び第3メンバ19)に分散して伝達されるため、フロントサイドフレーム9は折れ曲がらずに軸方向に圧縮されていく。更に、三角形状フレーム13a,15,16が(図示の車体左側から見て)反時計方向に回動してパワーとレインPTを斜め下方に変位しノーズダイブ挙動が抑制される。
【0053】
上記前突中期から更に前突が進むと、従来の構造(図15(b))では、フロントサイドフレーム9’が逆への字状に大きく上方に折れ曲がりノーズダイブ挙動が更に大きくなり、エプロンレインフォースメント7’も潰れる。
【0054】
これに対して、本実施形態の構造(図15(a))では、フロントサイドフレーム9が更に圧縮されて軸方向に潰れていくと共に、三角形状フレーム13a,15,16が(図示の車体左側から見て)反時計方向に回動してサスペンションタワー上部14a及びカウル部3を上昇させるように、ノーズダイブ挙動とは反対方向に作用し、結果としてノーズダイブ挙動が抑制される。
【0055】
[効果の説明]
以下に、本実施形態の奏する効果について説明する。
(1)前突時にラジエータシュラウド13に入力される衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム9と、三角形状フレーム部を通じたサスペンションタワー14やエプロンレインフォースメント7等の車体上部とに分散して伝達される。このため、フロントサイドフレーム9に入力される衝突エネルギーを低減でき、ノーズダイブ挙動を低減することができる。
【0056】
また、フロントサイドフレーム9に入力される衝突エネルギーが低減されるので、必要な剛性を維持しながら従来よりフロントサイドフレームを細い形状として小型化及び軽量化を実現することができる。
【0057】
また、第1乃至第3メンバ15,16,19が直線状であるため、折れ曲がったりせずにサスペンションタワー上部14aを通じて衝突荷重を車体上部に確実に伝達することができる。
【0058】
更に、ラジエータシュラウド13の縦メンバ13aを、フロントサイドフレーム9と第1メンバ15とに連結したので、左右両側のエプロンレインフォースメント7を従来より短縮して軽量化を図ると共に、前突時における車体前部の剛性を確保できる。
(2)三角形状フレーム部がラジエータシュラウド13の縦メンバ13aを構成要素として含み、第1及び第2メンバ15,16が車体前方に向けて下方に傾斜するように配置されているので、よりフロントサイドフレーム9に近い部位の衝突エネルギーを吸収でき、フロントサイドフレーム9への衝突エネルギーの集中を低減できる。また、三角形状フレーム部によってラジエータシュラウド13の衝突エネルギーの多くをサスペンションタワー上部14aに集中させることができる。
(3)第2メンバ16が第1メンバ15より長軸とし、第1メンバ15が三角形状フレーム部を構成する縦メンバ13a部分より長軸としたので、三角形状フレーム部の縦メンバ13aより第1メンバ15と第2メンバ16との連結部の位置が高くなり、三角形状フレーム部が前突時に車体左側から見て反時計方向に回動してサスペンションタワー上部14a及びカウル部3を上昇させるように作用する。よって、ノーズダイブ挙動の低減効果を高めることができる。
(4)第2メンバ16の前端部が縦メンバ13aとフロントサイドフレーム9との連結部に連結されているので、衝突エネルギーがフロントサイドフレーム9へ入力されると同時に三角形状フレーム部に分散され、フロントサイドフレーム9の折れ曲がりを前突初期段階から低減できる。また、第2メンバ16がラジエータシュラウド13とサスペンションタワー上部14aとの間にトラスとなるので、車体前部の剛性を高めることができる。
(5)サスペンションタワー上部14aとダッシュパネル4とを直線状の第3メンバ19で連結したことで、三角形状フレーム部に入力された衝突エネルギーを直接車体上部に伝達するための伝達経路が形成されるので、フロントサイドフレーム9への衝突エネルギーの入力を効果的に低減できる。また、車体前部の上方及び下方にそれぞれ衝突エネルギーの伝達経路が形成されるので、従来のエプロンレインフォースメントに対する代替技術として有用となる。
(6)左右のサスペンションタワー上部14aを直線状のタワーバー18により連結し、ラジエータシュラウド13の上側横メンバ13bと、タワーバー18と、左右の第1メンバ15により平面視で車体前方に向けて先細りする台形状アッパフレームを形成したことにより、前突時の衝突エネルギーが左右の第1メンバ15の後端部に対して車幅方向に広がる方向に作用し、タワーバー18を左右に引っ張る応力に変換される(つまり、前後方向の荷重が左右方向に変換される。)。従って、台形状アッパフレーム後方の車体に伝達される衝突エネルギーをタワーバー18で吸収でき、車室1の変形を小さくできる。
(7)タワーバー18の中間部とカウル部3の側端部3aとを左右一対の直線状の第4メンバ20で連結したことにより、タワーバー18の引張強度を増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す平面図である。
【図3】本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す正面図である。
【図4】本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す底面図である。
【図5】本発明に係る実施形態の車体前部構造を示す左側面図である。
【図6】本実施形態のサスペンションタワー上部の接続構造を示す図である。
【図7】本実施形態のフロントサイドフレームに連結されるラジエータシュラウドの縦メンバ、クラッシュ管、及び第2メンバの接続構造を示す図である。
【図8】本実施形態のラジエータシュラウド及び第1メンバの接続構造を示す図である。
【図9】本実施形態の第1メンバの構造を示す図である。
【図10】本実施形態のタワーバーと第4メンバとの接続構造を示す図である。
【図11】本実施形態のカウル部及びダッシュパネルの構造を示す断面図である。
【図12】本実施形態の車体前部構造による前突時の挙動を従来の構造と比較して示す図である。
【図13】本実施形態の車体前部構造による前突時の挙動を従来の構造と比較して示す図である。
【図14】本実施形態の車体前部構造による前突時の挙動を従来の構造と比較して示す図である。
【図15】本実施形態の車体前部構造による前突時の挙動を従来の構造と比較して示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 車室
2 Aピラー(ウインドウピラー)
3 カウル部
4 ダッシュパネル
5 ヒンジタワー
6 フロアフレーム
7 エプロンレインフォースメント
8 ホイールハウス
9 フロントサイドフレーム
10 フロントサブフレーム(ペリメータフレーム)
11 クラッシュ管
12 バンパーレインフォースメント
13 ラジエータシュラウド
14 サスペンションタワー
15 第1メンバ
16 第2メンバ
18 タワーバー
19 第3メンバ
20 第4メンバ
21 ロアアーム
EG エンジン
TM トランスミッション
DIF 差動機構
PT パワートレイン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カウル部下方のダッシュパネルから前方に延出する左右一対のフロントサイドフレームと、当該フロントサイドフレームに連結された左右のサスペンションサポートとを備える車体前部構造であって、
前記フロントサイドフレームの前端部近傍に車体前方から見て矩形状の矩形フレーム部が設けられ、
前記矩形フレーム部は左右一対の鉛直に延びる縦メンバと、上下一対の水平に延びる横メンバとが連結されて構成されており、
前記縦メンバが前記フロントサイドフレームに連結されており、
左右両側の夫々において、前記サスペンションサポートの上部と前記縦メンバの上端部とを第1メンバで連結し、当該サスペンションサポートの上部と前記縦メンバの中間部とを第2メンバで連結して、前記縦メンバ、第1メンバ、及び第2メンバにより三角形状フレーム部を形成したことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記第1及び第2メンバは、車体前方に向けて下方に傾斜するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記第2メンバは前記第1メンバより長く、前記第1メンバは前記三角形状フレーム部を構成する縦メンバ部分より長いことを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記第2メンバの前端部は、前記縦メンバと前記フロントサイドフレームとの連結部に連結されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記第1及び第2メンバと前記サスペンションサポートの上部との連結部に、車体前方からの衝撃によって前記三角形状フレームが当該連結部を中心として回動することを許容する脆弱部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記サスペンションサポートの上部と前記ダッシュパネルとを連結する左右一対の第3メンバを更に備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−145128(P2007−145128A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340782(P2005−340782)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】