説明

車体前部構造

【課題】熱交換器が、フロントバンパレインフォースメントの後方において走行風が導入されにくい位置に配置されている場合でも、該熱交換器へ冷却用空気を良好に供給することができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】フロントバンパレインフォースメント6の前面側における正面視で空気導入開口部8aと重なる位置に該レインフォースメント6の閉断面空間内に走行風を導入する導入開口部6c,6cを設けると共に、該フロントバンパレインフォースメント6の後面側における熱交換器(ラジエータ14)の略前方となる位置に、該レインフォースメント6内を通過した走行風を排出する排出開口部6dを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車体前部に配設された熱交換器へ走行風を導風するための構造に関し、自動車の車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の車体前部にはエンジンルームが設けられて、該エンジンルームにはエンジン冷却水を冷却するためのラジエータ(熱交換器)が配設されると共に、ラジエータを冷却するための走行風(冷却用空気)を導入する空気導入開口部が車体前端部に設けられる。このように空気導入開口部を設けた場合、例えば特許文献1に開示されているように、車体前端部を構成するフロントバンパの補強部材である中空閉断面構造のフロントバンパレインが、空気導入開口部の後方でかつラジエータの前方に該開口部を車幅方向に横切るように配設されることとなる場合がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−249816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フロントバンパレインの前方における正面視で熱交換器と重なる位置には、例えばライセンスプレートが配設される場合があり、この場合、該ライセンスプレートによりその後方に位置する熱交換器への走行風の流通が遮られてしまう。また、例えばターボチャージャ付きのエンジンにおいては吸気の冷却のためのための熱交換器としてインタークーラが備えられることがあるが、エンジンルーム内における配置スペース等の制約により正面視で空気導入開口部が設けられている以外の部分に設置しなければならない場合があり、この場合、インタークーラに如何に空気を供給するべきかという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、熱交換器が、フロントバンパレインの後方において走行風が導入されにくい位置に配置されている場合でも、該熱交換器へ走行風を良好に導くことができる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0007】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、車体前端部の車幅方向中央に空気導入開口部が設けられていると共に、該空気導入開口部の後方において該開口部を車幅方向に横切って中空閉断面構造のフロントバンパレインフォースメントが配設されており、かつ、熱交換器が、フロントバンパレインフォースメントの後方において、走行風の導入が制限される車幅方向位置に配置された車体前部構造であって、前記フロントバンパレインフォースメントの前面側における正面視で前記空気導入開口部と重なる位置に該レインフォースメントの閉断面空間内に走行風を導入する導入開口部が設けられていると共に、該フロントバンパレインフォースメントの後面側における前記熱交換器の略前方となる位置に、該レインフォースメント内を通過した走行風を排出する排出開口部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車体前部構造において、前記熱交換器は正面視で前記空気導入開口部の側方に配設されていることを特徴とする。
【0009】
そして、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の車体前部構造において、車体前端部は、車幅方向中央部が両端部に対して車両前方側に円弧状に膨出する形状とされていると共に、前記熱交換器は、車幅方向一端部側に寄せて配設されており、かつ、前記導入開口部は、車幅方向において前記排出開口部よりも中央寄りに設けられていることを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1に記載の車体前部構造において、前記熱交換器は正面視で前記空気導入開口部の車幅方向ほぼ中央に配設されていると共に、該熱交換器の前方には、ライセンスプレートが配設されており、前記導入開口部は、前記フロントバンパレインフォースメントの前面側におけるライセンスプレートの側方に設けられていると共に、前記排出開口部は、前記フロントバンパレインフォースメントの後面側におけるライセンスプレートと正面視で重なる位置に設けられていることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれかに記載の車体前部構造において、前記フロントバンパレインフォースメントの閉断面空間における導入開口部から排出開口部に至る部分とそれ以外の部分とを仕切る節部材が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
次に、本発明の効果について説明する。
【0013】
まず、請求項1に記載の発明によれば、フロントバンパレインフォースメントの前面側における正面視で前記空気導入開口部と重なる位置に該レインフォースメントの閉断面空間内に走行風を導入する導入開口部が設けられていると共に、該フロントバンパレインフォースメントの後面側における前記熱交換器の略前方となる位置に、該レイン内を通過した走行風を排出する排出開口部が設けられているので、導入開口部からフロントバンパレインフォースメントの閉断面空間内に流入した空気が、該空間内を通って、排出開口部からその後方に排出され、この空気により、熱交換器が冷却されることとなる。つまり、閉断面構造のフロントバンパレインフォースメントを通気管として利用するものであり、これにより、熱交換器が、フロントバンパレインフォースメントの後方において走行風の導入が制限される車幅方向位置に配置されている場合でも、走行風を熱交換器まで良好に導くことができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記熱交換器が正面視で前記空気導入開口部の側方に配設されているような場合、つまり熱交換器の前方に空気導入開口部が存在せず、走行風の導入が制限されるような場合でも、フロントバンパレインフォースメントにより走行風を熱交換器にまで良好に導くことができる。
【0015】
ところで、車体前端部が、車幅方向中央部が車幅方向両端部に対して車両前方側に円弧状に膨出する形状とされていると、両端部側ほど車体外面に作用する走行風の圧力が小さくなる。つまり、熱交換器の配設位置が、種々の理由により車幅方向一端部側に寄って配設されるような場合、熱交換器の前方に走行風取り入れ用の開口部が存在している場合でも、導入される走行風量が少なくなり熱交換器の冷却能力を十分に発揮させるのが困難な場合がある。
【0016】
しかし、請求項3に記載の発明によれば、フロントバンパレインフォースメントの導入開口部は、車幅方向において排出開口部よりも中央寄りに設けられている、つまり、導入開口部が設けられた位置における車体外面に作用する走行風の圧力は、排出開口部が設けられた位置における同圧力よりも大きい。したがって、熱交換器が、車幅方向において車体外面に作用する走行風の圧力が小さい位置に配設されるような場合でも、走行風の圧力の高い中央寄りの導入開口部から走行風をフロントバンパレインフォースメント内に導入し、車幅方向一端部側まで導くことにより、熱交換器に十分な量の走行風を供給することができる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明によれば、熱交換器が正面視で空気導入開口部の車幅方向ほぼ中央に配設されていると共に、該熱交換器の前方に、ライセンスプレートが配設されており、その結果、ライセンスプレートにより走行風の導入が制限されるような場合でも、導入開口部を、前記フロントバンパレインフォースメントの前面側におけるライセンスプレートの側方に設けると共に、前記排出開口部を、前記フロントバンパレインフォースメントの後面側におけるライセンスプレートと正面視で重なる位置に設けることにより、走行風をフロントバンパレインフォースメントにより熱交換器まで良好に導くことができる。
【0018】
そして、請求項5に記載の発明によれば、前記フロントバンパレインフォースメントの閉断面空間における導入開口部から排出開口部に至る部分とそれ以外の部分とを仕切る節部材が設けられているから、導入開口部からフロントバンパレインフォースメントの閉断面空間内に流入した走行風が、該空間内で迷走したりよどんだりしにくくなる。つまり、高い圧力の空気を前記空間内で圧力低下させることなく、熱交換器に導くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る車体前部構造について説明する。
【0020】
図1は本発明の実施の形態に係る自動車の前部を上方から見た斜視図、図2は図1と同状態においてバンパフェイシャを分離した状態で車体前部内部を透視した図、図3は同自動車の前部を下方から見た斜視図、図4は同自動車の正面図、図5は図4のA−A断面図、図6は図5のB−B端面図、図7は図5のC−C端面図である。
【0021】
図2に示すように、この自動車1の車体前部構造は、主たる構造体として、車体前部の左右の側部において前後に延びるフロントサイドフレーム2,2と(図5参照)、左右のサスタワー3,3の上部から前方に延びるエプロンレイン4,4と、左右のフロントサイドフレーム2,2の前端部にクラッシュカン5,5(図5参照)を介して固定され、フロントバンパ30の骨格を構成するフロントバンパレインフォースメント6(以下、適宜、フロントバンパレイン6という)とを有すると共に、図1に示すように、車体前部の外表面を構成する部材として、車体前部の上面を構成するボンネットフード7と、車体前端部の外表面でかつフロントバンパ30の外表面を構成するフロントバンパフェイシャ8と、車体の左右の側部の外表面を構成するフロントフェンダパネル9,9(図1においては一方のみ図示されている)とを有しており、これらの外表面を構成する部材の内側の空間が、エンジン10等を収容するエンジンルーム11として構成されている(図2参照)。
【0022】
エンジンルーム11には、エンジン10以外に、図3にも示すように、変速機12や、エンジン補機13等が収容されていると共に、エンジン10の前方に、図5〜図7に示すように、エンジン10の冷却水を冷却するためのラジエータ14が配設されている。ラジエータ14は、コンデンサ14a、ラジエータ本体14b、ラジエータファン14c、ファンカバー14d等で構成され、シュラウド15に固定されている。
【0023】
シュラウド15は、図2、図5〜図7に示すように、ラジエータ14の左右の端部が固定される左右の縦辺部15a,15aと、下端部が固定される下辺部15bと、上端部が固定される上辺部15cとを有し、正面視で略四角形の枠状とされている。また、上辺部15cの左右両端部から外方後方に延びる固定アーム部15d,15dを有し、該固定アーム部15d,15dの先端部が、前記エプロンレイン4,4の前端部に固定されている。なお、図示しないが、左右の縦辺部15a,15aもフロントバンパレイン6に対して固定されている。上辺部15cには、エンジン10の吸気ダクト10aが挿通される孔部15eが形成されている。
【0024】
エンジン10は、ターボチャージャ付きのエンジンであり、ターボチャージャにより圧縮されて高温となった吸気を冷却するためのインタークーラ16が、エンジンルーム11における車幅方向一端側に配設されている(図2、図5参照)。インタークーラ16は、種々の取付方法が可能であるが、本実施の形態においては、図示しない取付部材を介してフロントサイドフレーム2,2に固定されている。なお、本発明は、ターボチャージャを有さないエンジンに対しても適用可能である。
【0025】
バンパ30は、前述のフロントバンパフェイシャ8及びフロントバンパレイン6以外にも、衝撃吸収部材17と、前記フロントバンパレイン6の前面側を覆うバンパレインカバー18とを有している。
【0026】
フロントバンパレイン6は、断面ハット状の前面側部材6aと板状の後面側部材6bとを接合してなる車幅方向に延びる閉断面体であり、安全基準等において定められた前突時の衝撃に耐え得る強度を達成可能なように上下方向に所定の幅を有している。
【0027】
衝撃吸収部材17は、前突時に歩行者等の被衝突体へ加わる衝撃を和らげるためのものであり、例えば発泡樹脂材で構成され、フロントバンパフェイシャ8の内面とフロントバンパレイン6の前面側部材6aとの間に配され、フロントバンパレイン6の前面側部材6aに固定されている。また、衝撃吸収部材17は、断面略矩形状とされており、高さ方向(上下)幅がフロントバンパレイン6の前面側部材6aの高さ方向幅よりも小さくされている。
【0028】
フロントバンパフェイシャ8は、車体の前端部外表面の比較的広い範囲を構成している。そして、該フェイシャ8の車幅方向中央部には、エンジンルーム11内に走行風を導入する横長の開口部8a(以後、適宜、中央開口部8aという)が形成されており、前記ラジエータ14が車両正面視で該中央開口部8aの車幅方向ほぼ中央に配設されている。なお、この中央開口部8aが、特許請求の範囲における空気導入開口部に相当する。また、フロントバンパフェイシャ8には、中央開口部8aの左右側方にも、開口部8b,8bが形成されている(以後、適宜、側方開口部8b,8bという)。この側方開口部8bは、図4に示すように、車両正面視で、インタークーラ16に重なる位置に設けられており、主としてインタークーラ16に走行風を供給するために設けられている。なお、デザイン上、インタークーラ16が設けられていない車幅方向で対称な位置にも、側方開口部8bが設けられている。
【0029】
ここで、本実施の形態に係る自動車1においては、図4に明確にあらわれているように、フロントバンパレイン6が、フロントバンパフェイシャ8の中央開口部8aを車幅方向に横切っており、その結果、中央開口部8aの有効開口面積が減少し、ラジエータ14への冷却用空気の供給量が少なくなるという問題がある。そこで、本実施の形態においては、フロントバンパフェイシャ8の中央開口部8aから導入した走行風をラジエータ14へ効果的に導くための導風構造を設けている。
【0030】
この導風構造は、後端部がシュラウド15の左右の縦辺部15a,15aに固定され、前端部が車両前後方向においてフロントバンパレイン6の前面近傍に位置する左右の側方仕切り板20,20と、後端部がシュラウド15の下辺部15bに固定され、前端部がフロントバンパフェイシャ8の下端部に固定され、いわゆる足払い部材(車体前部に衝突した歩行者の脚部保護のための部材)を兼ねたほぼ水平な下方仕切り板21とを有している。また、シュラウド15には、フロントバンパフェイシャ8の中央開口部8aの上縁部とほぼ同じ高さ位置で上辺部15cから前方に延び、平面視で扇形状の上方仕切り板部15fが設けられていると共に、フロントバンパフェイシャ8には、中央開口部8aの上縁部から後方に延び、後縁部が前記仕切り板部15fの前縁部に対応する形状とされて該前縁部に突き当てられた横面部8cが設けられており、該横面部8cの後端部と上方仕切り板部22の前端部とが突き合わされている。そして、これらの仕切り板20,20,21,及び仕切り板部15f,並びに横面部8cにより中央開口部8aとラジエータ14とを前後に連結するダクト状の導風構造が構成されている。
【0031】
また、バンパレインカバー18は、図6、図7に示すように、概ね前方を向いた前面部18aと、該前面部18aの上端から後方に延びる上面部18bと、前面部18aの下端から後方に延びる下面部18cとを有し、衝撃吸収部材17とバンパレイン6との間に生じた段差Xを覆っている。その場合に、上面部18bは後方側ほど高くなっており、一方フロントバンパフェイシャ8の横面部8c及びシュラウド15の上方仕切り板部15fはほぼ水平であるので、これにより、上部流路F1の上下幅が後方側ほど狭まっている。また、下面部18cは後方側ほど低くなっており、一方下方仕切り板21はほぼ水平であるので、下部流路F2の上下幅が後方側ほど狭まっている。つまり、上部流路F1及び下部流路F2の流路断面積が後方側ほど小さくなっている。
【0032】
ここで、各図に示されているように、フロントバンパレイン6の車幅方向中央には、ライセンスプレートLが取り付けられている。その結果、図4に最もよくあらわれているように、フロントバンパレイン6だけでなく、ライセンスプレートPによってもラジエータ14への走行風の流通が遮られてしまう。そこで、本実施の形態においては、ライセンスプレートLにより遮られる走行風の分を補填するための導風構造が設けられている。
【0033】
すなわち、バンパレインカバー18の前面部18a、衝撃吸収部材17、及びバンパレイン6の前面側部材6aには、ライセンスプレートLの左右側方において、車幅方向における同位置にそれぞれ前後に貫通する導入開口部18d,18d,17a,17a,6c,6cが設けられていると共に、フロントバンパレイン6の後面側部材6bには、ライセンスプレートLと車両正面視で重なる位置に、すなわち車幅方向ほほぼ中央に排出開口部6d,6dが設けられている。
【0034】
また、フロントバンパレイン6の閉断面空間における車幅方向ほぼ中央及び、前記導入開口部6c,6cの車幅方向外側近傍には、導入開口部6c,6cから排出開口部6d,6dに至る部分とそれ以外の部分とを仕切る複数の節部材6e…6eが設けられている。
【0035】
次に、本実施の形態に係る車体前部構造の作用効果について説明する。
【0036】
まず、フロントバンパレイン6の前面側部材6aにおける正面視で中央開口部8aと重なる位置に該レイン6の閉断面空間内に走行風を導入する導入開口部6c,6cが設けられていると共に、該バンパレイン6の後面側部材6bにおけるラジエータ14の略前方となる位置に、該レイン6内を通過した走行風を排出する排出開口部6dが設けられているので、バンパレインカバー18及び衝撃吸収部材17の導入開口部18d,18d,17a,17a,車両走行中に、バンパレイン6の導入開口部6c,6cからバンパレイン6の閉断面空間内に流入した走行風(冷却用空気)が、図5に矢印で示すように該空間内を通って、該レイン6の排出開口部6dからその後方に排出され、この空気により、ラジエータ14が冷却されることとなる。
【0037】
したがって、ラジエータ14が正面視で中央開口部8aの車幅方向ほぼ中央に配設されていると共に、該ラジエータ14の前方に、ライセンスプレートLが配設されており、その結果、ライセンスプレートLにより走行風の導入が制限されるような場合でも、すなわちラジエータ14がフロントバンパレイン6の後方において走行風が導入されにくい位置に配置されている場合でも、走行風をラジエータ14まで良好に導いて、ラジエータ14の冷却能力を十二分に発揮させることができる。
【0038】
また、フロントバンパレイン6の閉断面空間における導入開口部6c,6cから排出開口部6dに至る部分とそれ以外の部分とを仕切る節部材6e…6eが設けられているから、導入開口部6c,6cからフロントバンパレイン6の閉断面空間内に流入した空気が、該空間内で迷走したりよどんだりしにくくなる。つまり、高い圧力の空気を前記空間内で圧力低下させることなく、ラジエータ14に導くことができ、前記効果が一層確実なものとなる。
【0039】
なお、本実施の形態に係る車体前部構造においては、以下のような作用効果も得られる。
【0040】
すなわち、フロントバンパフェイシャ8の横面部8c及びシュラウド15の上方仕切り板部15f(フェイシャ側上面部)、下方仕切り板21(フェイシャ側下面部)、バンパレインカバー18の上面部18b及び下面部18c(カバー側上面部及び下面部)は、上部流路F1及び下部流路F2の上下幅がそれぞれ後方側ほど狭まるように形成されている、つまり流路断面積が後方側ほど小さくなるように形成されているから、中央開口部8aから流入する走行風の流速が上部流路F1及び下部流路F2を通過することにより上昇することとなる。(なお、この効果は、主として正面視でライセンスプレートLが存在していない部分で発揮される)。
【0041】
ここで、ラジエータ14は走行風にとって通気抵抗体であるため走行風がラジエータ14を通過しにくく、またラジエータ14の周囲は前記ダクト状構造により囲まれているので、ラジエータ14の前方には、エア溜りが生じる。その場合に、エア溜りは、周囲と比べて圧力が高いので、開口部8aから走行風が導入されにくくなっている。したがって、例えばフロントバンパフェイシャ8の開口部8aの開口面積を大きくしても、エア溜りに作用する走行風の圧力、すなわちエア溜りへの空気の押し込み能力が同じである限り、冷却能力の向上幅は限られる。また、フロントバンパフェイシャ8の開口部8aの開口面積を広くするということは、理想とするデザインから遠ざかることを意味する。
【0042】
そこで、本実施の形態においては、前記エア溜りに流入するときの走行風の流速を、前述のように、バンパフェイシャ8前面における走行風の流速よりも速くさせて、その動圧によりエア溜りへ走行風を押し込むようにしたものであり、これにより、バンパフェイシャ8の開口部8aの開口面積を大きくすることなく、熱交換能力の向上が達成されるものである。また、デザインの自由度が担保され、理想とするデザインが実現可能となるものである。
【0043】
加えて、このような効果をフロントバンパレイン6がフロントバンパフェイシャ8の中央開口部8aを通して前方から丸見えとなるのを防止するためのバンパレインカバー18を利用して達成することができる。
【0044】
また、図6に示すように、衝撃吸収部材17とフロントバンパレイン6との間に段差Xが生じているが、本実施の形態においては、該段差Xがバンパレインカバー18の上面部18b及び下面部18cにより覆われるので、該段差Xにより走行風の流れが乱されることがない。つまり、走行風がよどんだり流速が低下したりしにくくなる。
【0045】
なお、上部流路F1及び下部流路F2の両方について流路の上下幅が後方側ほど狭まるように形成したが、一方の流路の上下幅のみについて後方側ほど狭まるように形成した場合においても、この効果を得ることができる。
【0046】
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0047】
第2の実施の形態においては、第1の実施の形態とはフロントバンパレイン6の閉断面空間内の節部材の配設位置が変更されている。すなわち、図8に示すように、節部材6e′…6e′は、車幅方向反インタークーラ16側の導入開口部6cの車幅方向反インタークーラ16側近傍、排出開口部6dの車幅方向インタークーラ16側近傍、及び車幅方向インタクーラ16側の導入開口部6cの車幅方向中央側に設けられている。なお、節部材6e′…6e′以外については、第1の実施の形態と同様の構成であり、説明は省略すると共に、以後の説明において他の構成物を引用する必要があるときは、同一の符号を用いて説明する。
【0048】
このような構成によれば、反インタークーラ16側の導入開口部6cから導入された走行風は、図8に矢印アで示すように、フロントバンパレイン6の閉空間内を通って、車幅方向中央に導かれ、排出開口部6dから後方に排出されることとなる。一方、インタークーラ16側の導入開口部6cから導入された走行風は、図8に矢印イで示すように、フロントバンパレイン6の閉空間内を通って、車幅方向においてインタークーラ16側に導かれ、フロントバンパレイン6の車幅方向インタークーラ16側の端部開口6fから排出されることとなる。
【0049】
ここで、本実施の形態のように車体前端部を構成するフロントバンパフェイシャ8が、車幅方向中央部が車幅方向両端部に対して車両前方側に円弧状に膨出する形状とされていると、図9に示すように、両端部側ほど車体外面に作用する走行風の圧力が小さくなる。なお、数値は参考値であるが、プラスの値が大きいほど押し込む圧力が強いことを示し、マイナスの値は逆に負圧であることを示している。つまり、インタークーラ16の配設位置が、種々の理由により車幅方向一端部側に寄って配設されるような場合、側方開口部8b…8bから導入される走行風量がインタークーラ16の能力に比較して十分でなく、インタークーラ16の冷却能力が十分に発揮されない虞がある。
【0050】
しかし、第2の実施の形態においては、導入開口部6cは、車幅方向において排出開口部6fよりも中央寄りに設けられている、つまり、導入開口部6cが設けられた位置における車体外面に作用する走行風の圧力は、排出開口部6fが設けられた位置における同圧力よりも大きくなる。したがって、インタークーラ16が、車幅方向において車体外面に作用する走行風の圧力が小さい位置に配設されるような場合でも、該熱交換器に良好に走行風を供給することができる。
【0051】
なお、インタークーラ16が正面視で前記中央開口部8aの側方に配設されておらず、かつ側方開口部8bが設けられていないような場合、つまりインタークーラ16の前方に空気導入開口部が存在せず、走行風の導入が制限されるような場合においても、本発明を適用してフロントバンパレイン6を通気管として用いることにより走行風をインタークーラ16にまで良好に導くことができる。
【0052】
なお、第1、第2の実施の形態においては、特許請求の範囲の熱交換器としてラジエータ14及びインタークーラ16を対象としたが、これ以外にも空冷タイプの熱交換器に対して広く適用可能である。また、第1、第2の実施の形態においては、車体前端部(フロントバンパフェイシャ8)が、車幅方向中央部が車幅方向両端部に対して車両前方側に円弧状に膨出する形状とされているが、これに限定されるものでなく、車体前端部が車幅方向に直線的に延びるようなものに対しても適用可能である。また、請求項1に記載の発明は、請求項2〜請求項4に記載されているような構成のものだけでなく、熱交換器が、フロントバンパレインフォースメントの後方において、車体前端部の空気導入開口部の形状や位置の制約や、走行風の導入に対する遮蔽物等の存在や、走行風圧力等の理由により、走行風の導入が制限される、すなわち走行風が導入されにくい車幅方向位置に配置されたものに対して広く適用可能である。
【0053】
また、第1、第2の実施の形態においては、流路F1,F2の通路幅が後方側ほど狭まるものについて説明したが、本願の特許請求の範囲に記載の発明は、通路幅が狭まらないものに対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、車体前端部の車幅方向中央に空気導入開口部が設けられていると共に、該空気導入開口部の後方において該開口部を車幅方向に横切って中空閉断面構造のフロントバンパレインフォースメントが配設されており、かつ、熱交換器が、フロントバンパレインフォースメントの後方において、走行風の導入が制限される車幅方向位置に配置された車体前部構造に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動車の前部を上方から見た斜視図である。
【図2】同自動車の前部を下方から見た斜視図である。
【図3】図1と同状態においてバンパフェイシャを分離した状態で車体前部内部を透視した図である。
【図4】同自動車の正面図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】図5のB−B端面図である。
【図7】図5のC−C端面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る自動車の図5相当の図である。
【図9】車体前部に加わる風圧の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 自動車
6 フロントバンパレイン(フロントバンパレインフォースメント)
6e 節部材
8 フロントバンパフェイシャ
8a 中央開口部(空気導入開口部)
6c 導入開口部(導入開口部)
6d 排出開口部(排出開口部)
14 ラジエータ(熱交換器)
16 インタークーラ(熱交換器)
17 衝撃吸収部材
L ライセンスプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前端部の車幅方向中央に空気導入開口部が設けられていると共に、該空気導入開口部の後方において該開口部を車幅方向に横切って中空閉断面構造のフロントバンパレインフォースメントが配設されており、かつ、熱交換器が、フロントバンパレインフォースメントの後方において、走行風の導入が制限される車幅方向位置に配置された車体前部構造であって、
前記フロントバンパレインフォースメントの前面側における正面視で前記空気導入開口部と重なる位置に該レインフォースメントの閉断面空間内に走行風を導入する導入開口部が設けられていると共に、
該フロントバンパレインフォースメントの後面側における前記熱交換器の略前方となる位置に、該レインフォースメント内を通過した走行風を排出する排出開口部が設けられていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の車体前部構造において、
前記熱交換器は正面視で前記空気導入開口部の側方に配設されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の車体前部構造において、
車体前端部は、車幅方向中央部が両端部に対して車両前方側に円弧状に膨出する形状とされていると共に、
前記熱交換器は、車幅方向一端部側に寄せて配設されており、
かつ、前記導入開口部は、車幅方向において前記排出開口部よりも中央寄りに設けられていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項4】
前記請求項1に記載の車体前部構造において、
前記熱交換器は正面視で前記空気導入開口部の車幅方向ほぼ中央に配設されていると共に、
該熱交換器の前方には、ライセンスプレートが配設されており、
前記導入開口部は、前記フロントバンパレインフォースメントの前面側におけるライセンスプレートの側方に設けられていると共に、
前記排出開口部は、前記フロントバンパレインフォースメントの後面側におけるライセンスプレートと正面視で重なる位置に設けられていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項5】
前記請求項1から請求項4のいずれかに記載の車体前部構造において、
前記フロントバンパレインフォースメントの閉断面空間における導入開口部から排出開口部に至る部分とそれ以外の部分とを仕切る節部材が設けられていることを特徴とする車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−49735(P2008−49735A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225304(P2006−225304)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】