説明

車体前部構造

【課題】サブフレームのエンジンレイアウトの自由度を確保し、車両の下部でより確実にエネルギーを吸収する車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造11は、前輪やエンジンを支持して車体下部に取付けられている矩形枠状のサブフレーム14を備える。サブフレーム14は、左前角部64、右前角部67、左後角部71、右後角部73の内側に、外方から加わるエネルギーを吸収するエネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74)を取付けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体下部に取付けられて、エンジンを支持している矩形枠状のサブフレームを備えた車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造には、エンジンルームの下部に略十字形の補強部材を配置しているものがある。補強部材は、左右の前輪に向かって伸びているエンジンクロスメンバを左右のフロントフレームに取付け、エンジンクロスメンバの中央から前方へU字型フレームの両端を向けてラジエータパネルに接合し、エンジンクロスメンバの中央から後方へV字型フレームの両端を向けて左右のフロントフレームに接合したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−157468号公報(第7頁、図1)
【0003】
しかし、特許文献1のフロント部車体構造では、エンジン下のスペースをエンジンクロスメンバ、U字型フレーム及びV字型フレームで塞いでしまい、エンジンルームのレイアウトが制限されるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、サブフレームのエンジンレイアウトの自由度を確保し、サブフレームの強度を高め、車両の下部でより確実にエネルギーを吸収する車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明では、前輪やエンジンを支持して車体下部に取付けられている矩形枠状のサブフレームを備える車体前部構造において、サブフレームは、各角部の内側に、外方から加わるエネルギーを吸収するエネルギー吸収バー部材を取付けていることを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明では、サブフレームは、前輪の近傍に位置する左ビーム部材と、右ビーム部材と、角部に含まれる左ビーム部材の一端部に形成した脆弱部と、右ビーム部材の一端部に形成した脆弱部と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明では、車体前部構造のサブフレームは、各角部の内側に、外方から加わるエネルギーを吸収するエネルギー吸収バー部材を取付けているので、サブフレームの中央にエンジンを配置してサブフレームでエンジンを支持しても、エンジンとエネルギー吸収バー部材は干渉しない。従って、サブフレームのエンジンレイアウトの自由度を確保することができるという利点がある。
【0008】
また、サブフレームは、荷重が伝わると、エネルギー吸収バー部材によって荷重を伝えて分散することができ、サブフレームの強度を高めることができる。
【0009】
さらに、サブフレームは、荷重が伝わると、エネルギー吸収バー部材によって荷重を伝えることができ、車両の下部でより確実にエネルギーを吸収することができる。
【0010】
その上、サブフレームは、前面オフセットで且つ荷重が大きい場合、例えば、左のみに大荷重が加わると、車体の左側及びサブフレームの左は後方へ変形し、一方の車体の右側は、車体の左側へ曲がるが、サブフレームの右のエネルギー吸収バー部材によって右の強度も高められているので、車体の右側の曲がりの抵抗力を高めたこととなり、車体の右側の曲がりを抑制することができる。従って、車室内方への変形を抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、サブフレームは、前輪の近傍に位置する左ビーム部材と、右ビーム部材と、角部に含まれる左ビーム部材の一端部に形成した脆弱部と、右ビーム部材の一端部に形成した脆弱部と、を備えているので、車両前面に加わる荷重を脆弱部の変形で吸収し、脆弱部の変形に伴いエネルギー吸収バー部材に加わる荷重が増加すると、さらにエネルギー吸収バー部材の変形によってエネルギーをより吸収することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明の車体前部構造の側面図である。
図2は、本発明の車体前部構造の斜視図であり、下方から見上げた状態を示している。
【0013】
車体前部構造11は、車両12の車体13に含まれ、下部にサブフレーム14を有し、サブフレーム14にエネルギー吸収機構15が取付けられている。
【0014】
サブフレーム14は、既存のものと同じ目的で用いられ、エンジン21や前サスペンション22(図5参照)を支持している。そして、車体13のフロントボデー23の下方から矢印a1のように上昇させて、左のフロントサイドフレーム25、右のフロントサイドフレーム26の下部(車体下部94)に組み付けられている。具体的には後述する。
前サスペンション22(図5参照)には、前輪27が支持されている。
【0015】
車体13は、車室28の床をなすアンダボデー31、アンダボデー31の左に設けた左サイドボデー32、右に設けた右サイドボデー33、前に設けたエンジンルーム34を有するフロントボデー23と、を備えている。
【0016】
アンダボデー31は、左端をなす左サイドシル36、左サイドシル36に沿っている左フロントフロアフレーム37、右端をなす右サイドシル38、右サイドシル38に沿っている右フロントフロアフレーム41を備える。
【0017】
フロントボデー23は、左のフロントサイドフレーム25、右のフロントサイドフレーム26、左のフロントサイドフレーム25の前端、右のフロントサイドフレーム26の前端にエクステンション42を介して取付けた前バンパビーム44と、左のフロントサイドフレーム25の下部、右のフロントサイドフレーム26の下部に取付けているサブフレーム14と、を備える。
【0018】
図3は、本発明の車体前部構造が備えるサブフレームの斜視図である。図2を併用して説明する。
サブフレーム14は、具体的には、左のフロントサイドフレーム25の下方に配置され接続している左ビーム部材51と、右のフロントサイドフレーム26の下方に配置され接続している右ビーム部材52と、左ビーム部材51の一端部53並びに右ビーム部材52の一端部54に接続している前ビーム部材55と、左のフロントサイドフレーム25の左後端部25a並びに右のフロントサイドフレーム26の右後端部26aに接続している左ビーム部材51の他端部56並びに右ビーム部材52の他端部57に接続している後ビーム部材58と、を備える。
【0019】
また、サブフレーム14は、自身の角部61の内側62に接合されたエネルギー吸収機構15を有する。
エネルギー吸収機構15は、サブフレーム14の左前角部64にボルト65で接合しているエネルギー吸収バー部材であるところの左前第1バー部材66と、右前角部67にボルト65で接合しているエネルギー吸収バー部材であるところの右前第1バー部材68と、左後角部71にボルト65で接合しているエネルギー吸収バー部材であるところの左後第2バー部材72と、右後角部73にボルト65で接合しているエネルギー吸収バー部材であるところの右後第2バー部材74と、からなる。
【0020】
左前角部64は、角から所定の範囲である。
右前角部67、左後角部71、右後角部73も、左前角部64と同様に角から所定の範囲である。
【0021】
左前第1バー部材66は、角管状に本体76を形成し、本体76に連ねて板状に締結端部77が形成されている。
右前第1バー部材68は左前第1バー部材66と同様である。
左後第2バー部材72及び右後第2バー部材74は左前第1バー部材66と同様である。
なお、左前第1バー部材66〜右後第2バー部材74は、ボルト65で締結されているが、ボルト65を使用しない構造で、左ビーム部材51や右ビーム部材52と力の伝達が行われるようにしてもよい。
【0022】
左ビーム部材51は、中央に、左前第1バー部材66の締結端部77を締結している第1締結部81が形成され、左後第2バー部材72の締結端部77を締結している第2締結部82が形成されている。そして、一端部53には、脆弱部であるところの左脆弱部83が形成されている。
左脆弱部83は、他の部位より強度が弱い(応力集中が起きやすい)形態で、第1締結部81と角との間の中央に、例えば、肉厚を薄くしたり、溝を形成したものである。
【0023】
右ビーム部材52は、中央に、右前第1バー部材68の締結端部77を締結している第3締結部84が形成され、右後第2バー部材74の締結端部77を締結している第4締結部85が形成されている。そして、一端部54には、脆弱部であるところの右脆弱部86が形成されている。
右脆弱部86は、他の部位より強度が弱い(応力集中が起きやすい)形態で、第3締結部84と角との間の中央に、例えば、肉厚を薄くしたり、溝を形成したものである。
【0024】
次に、本発明の車体前部構造の作用を説明する。
図2、図3に示している車体前部構造11は、矩形枠状のサブフレーム14の角部61の内側62にエネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74)を取付けたので、サブフレーム14の中央にエンジン21を配置して、サブフレーム14でエンジン21を支持しても、エンジン21とエネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74)は干渉しない。従って、サブフレーム14のエンジンレイアウトの自由度を確保することができる。
【0025】
図4は、本発明の車体前部構造の荷重伝達機構を説明する図である。
車体前部構造11は、車両12の前面88に荷重が矢印b1のように加わると、前バンパビーム44からエクステンション42を介して左のフロントサイドフレーム25、右のフロントサイドフレーム26に荷重が矢印b2のように伝わる。その際、左のフロントサイドフレーム25、右のフロントサイドフレーム26に伝わった荷重は、サブフレーム14にも伝わるので、左ビーム部材51、右ビーム部材52に矢印b3のように伝える。
【0026】
サブフレーム14に伝わった荷重はさらに、左前第1バー部材66、右前第1バー部材68に矢印b4、b5のように伝わり、左ビーム部材51、右ビーム部材52に矢印b6のように伝わる。
【0027】
左ビーム部材51では、中央から荷重が左後第2バー部材72に矢印b7のように伝わり、後ビーム部材58を矢印b8のように介して、左ビーム部材51の後端91へ矢印b9の如く伝わる。
【0028】
右ビーム部材52では、中央から荷重が右後第2バー部材74に矢印c1のように伝わり、後ビーム部材58を矢印c2のように介して、右ビーム部材52の後端92へ矢印c3の如く伝わる。従って、サブフレーム14の強度を高めることができる。
【0029】
このように、エネルギー吸収バー部材であるところの左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72及び右後第2バー部材74によって、前面88に加わる荷重を伝えるので、車両12の車体下部94でエネルギーを吸収することができ、より確実にエネルギーを吸収することができる。
【0030】
左ビーム部材51の後端91に達した荷重(矢印b9)とともに、左のフロントサイドフレーム25に伝わった荷重は、アンダボデー31の左フロントフロアフレーム37、左サイドシル36に伝わる。
【0031】
右ビーム部材52の後端92に達した荷重(矢印c3)とともに、右のフロントサイドフレーム26に伝わった荷重は、右フロントフロアフレーム41、右サイドシル38に伝わる。
【0032】
図5(a)、(b)は、本発明の車体前部構造のエネルギー吸収機構を説明する概念図で、車両12の下方から見上げた図である。(a)は荷重が小さいときの機構、(b)は荷重が大きいときの機構を示している。そして、(a)、(b)共に、車両12の前面88の中央から左にオフセットした位置に荷重が加わるときの条件下である。図1〜図3を併用して説明する。
【0033】
(a)に示した車体前部構造11は、オフセットで且つ荷重が小さいと、小さい荷重がサブフレーム14に形成したエネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74)、特に左前第1バー部材66に伝わることで、サブフレーム14の左ビーム部材51に加わる力(応力)は小さくなる。
その結果、サブフレーム14の変形を抑制し、サブフレーム14の前方の前バンパビーム44やエクステンション42のみが変形するので、変形した前バンパビーム44やエクステンション42のみを修理すると、修理は完了し、修理費を軽減することができる。
【0034】
(b)に示した車体前部構造11は、オフセットで且つ荷重が大きいと、まず、サブフレーム14の左前角部64が同時に変形することで、エネルギーの吸収を行う。さらに、荷重が大きいと、左ビーム部材51に設けた左脆弱部83が変形や亀裂を起こして、左ビーム部材51が矢印d1のように曲がることで、続けて、エネルギーの吸収を行うことができる。
結果的に、フロントボデー23の車室28内方への変形を防止することができる。
【0035】
さらに荷重が大きいと、続けて、左前第1バー部材66に加わっている圧縮荷重が増加して左前第1バー部材66の変形によって、さらにエネルギーの吸収(第2段階エネルギー吸収)を行うことができる。
その際、右前第1バー部材68にも荷重が伝わることで、右前第1バー部材68も変形してエネルギーの吸収(第2段階エネルギー吸収)を行うことができる。
【0036】
残りのエネルギーは、左ビーム部材51の後端91を経由して、左フロントフロアフレーム37、左サイドシル36に矢印d2の如く伝わる。
また、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74に荷重が伝わることで、サブフレーム14のサブフレーム後部95の強度を向上させることができ、フロントボデー23の車室28内方への変形を防止することができる。
【0037】
この挙動のときに、荷重が直接加わらない右のフロントサイドフレーム26には、引っ張り荷重が矢印d3のように発生しているが、右のエネルギー吸収バー部材(右前第1バー部材68、右後第2バー部材74)に荷重が伝わることによって、サブフレーム14の強度が向上し、右のフロントサイドフレーム26に加わる引っ張り力(応力)を小さくすることができる。従って、フロントボデー23の車室28内方への変形をより確実に防止することができる。
【0038】
エネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74)は、サブフレームを有する車両であれば、自身の長さを調節することで、既存のサブフレームに取付けることができる。
【0039】
エネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74)は、板厚、断面形状、材質を変えることにより、自身の強度のコントロールを行うことができるので、結果的に、サブフレーム14の強度のコントロールは容易になる。
【0040】
エネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74)は、板厚、断面形状、材質を変えることにより、自身の強度のコントロールを行うことができるので、サブフレーム14の肉厚や断面などサブフレーム14の形態の変更が可能となり、エネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材66、右前第1バー部材68、左後第2バー部材72、右後第2バー部材74)を含めた総合的なサブフレーム14の重量の軽量化を図ることができる。
【0041】
尚、本発明の車体前部構造は、実施の形態では車両の前部に採用したが、車両の後部にサブフレームを用いたものであれば車体後部にも採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の車体前部構造は、車両の前部に採用したサブフレームに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の車体前部構造の側面図である。
【図2】本発明の車体前部構造の斜視図である。
【図3】本発明の車体前部構造が備えるサブフレームの斜視図である。
【図4】本発明の車体前部構造の荷重伝達機構を説明する図である。
【図5】本発明の車体前部構造のエネルギー吸収機構を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0044】
11…車体前部構造、14…サブフレーム、21…エンジン、27…前輪、51…左ビーム部材、52…右ビーム部材、53…左ビーム部材の一端部、54…右ビーム部材の一端部、61…角部、62…内側、64…左前角部、66…エネルギー吸収バー部材(左前第1バー部材)、67…右前角部、68…右前第1バー部材、71…左後角部、72…左後第2バー部材、73…右後角部、74…右後第2バー部材、83…脆弱部(左脆弱部)、86…脆弱部(右脆弱部)、94…車体下部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪やエンジンを支持して車体下部に取付けられている矩形枠状のサブフレームを備える車体前部構造において、
前記サブフレームは、各角部の内側に、外方から加わるエネルギーを吸収するエネルギー吸収バー部材を取付けていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記サブフレームは、前記前輪の近傍に位置する左ビーム部材と、右ビーム部材と、前記角部に含まれる前記左ビーム部材の一端部に形成した脆弱部と、前記右ビーム部材の一端部に形成した脆弱部と、を備えていることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−137543(P2009−137543A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318752(P2007−318752)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】