説明

車体前部構造

【課題】キャブオーバ型車両のヘッドランプ周辺部における対前面衝突性能を向上した車体前部構造を提供する。
【解決手段】キャブオーバ型車両1の車体前部構造を、車体前面に設けられるヘッドランプユニット21と、車体に固定され、ヘッドランプユニットの後部を保持するヘッドランプブラケット22と、ヘッドランプブラケットに対し車両後方側に配置され、車体の側面に設けられるドア開口の前縁部に沿って形成されたフロントピラー15とを備え、ヘッドランプブラケットとフロントピラーとの間にわたして設けられた補剛部材30と、ヘッドランプブラケットに設けられ、ヘッドランプユニットがヘッドランプブラケットに対して後退した際にヘッドランプブラケットを側方へ移動させる斜面部25とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャブオーバ型車両の車体前部構造に関し、特にはヘッドランプ周辺部における対前面衝突性能を向上した車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
運転席が前輪の上部に設けられたキャブオーバ型の車両においては、車両の前面部から搭乗者の居住スペースまでの間が短いことから、前面衝突時に乗員を良好に保護するためには、短いクラッシャブルストロークを有効に使うことが求められる。
従来、キャブオーバ型車両の前面衝突荷重に対するフロントパネル部の抗力を向上させることを目的として、フロントパネルのリンホースメント固着部から前方にブラケットを突き出して、フロントグリルをブラケットに対して回動可能とし、フロントグリルの内側にエネルギ吸収部材としても機能する水タンクを配置した構成が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2000−203455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
キャブオーバ型車両の場合、ヘッドランプの直後が乗員の居住スペースとなっているため、車両の前面衝突時にヘッドランプユニットやこれを支持するブラケットの車室内側への後退を防止するとともに、ヘッドランプ周りにおいても衝突エネルギを効果的に吸収することが要望されている。
本発明の課題は、キャブオーバ型車両のヘッドランプ周辺部における対前面衝突性能を向上した車体前部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、運転席が前輪の上部に設けられたキャブオーバ型車両の車体前部構造であって、車体前面に設けられるヘッドランプユニットと、前記車体に固定され、前記ヘッドランプユニットの後部を支持するヘッドランプブラケットと、前記ヘッドランプブラケットに対し車両後方側に配置され、前記車体の側面に設けられるドア開口の前縁部に沿って形成されたフロントピラーと、前記ヘッドランプブラケットと前記フロントピラーとの間にわたして設けられた補剛部材と、前記ヘッドランプブラケットに設けられ、前記ヘッドランプユニットが該ヘッドランプブラケットに対して後退した際に該ヘッドランプユニットを側方へ移動させる斜面部とを有することを特徴とする車体前部構造である。
【0005】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車体前部構造において、前記ヘッドランプブラケットは、前記補剛部材との接続部に対して車両前方側に設けられるとともに車両の前後方向にほぼ沿って延びた壁部を有することを特徴とする車体前部構造である。
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車体前部構造において、左右の前記ヘッドランプブラケットの間にわたして設けられた梁状のクロスメンバを有することを特徴とする車体前部構造である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ヘッドランプブラケットとフロントピラーとを連結する補剛部材を設けることによって、前面衝突時におけるヘッドランプブラケットの後退を抑制し、車室内への侵入を防止することができる。また、ヘッドランプブラケットの変形を促進してエネルギ吸収を図ることができる。
また、ヘッドランプユニットがヘッドランプブラケットに対して後退した際にこれを側方へ移動させる斜面部を設けたことによって、前面衝突時にヘッドランプユニットを側方へ脱落させて、ヘッドランプブラケットの前後方向変形ストロークを大きくし、ヘッドランプブラケットの潰れ残りを少なくしてその車室内への侵入をより抑制できる。
さらに、ヘッドランプブラケットとピラーとの間の結合強度を高めることによって、キャビンの剛性を向上することができる。
(2)ヘッドランプブラケットは、補剛部材との接続部に対して車両前方側に設けられ、車両の前後方向にほぼ沿って延びた壁部を有することによって、前面衝突時にこの壁部が座屈等の変形をすることにより、ヘッドランプブラケットによるエネルギの吸収量を大きくできる。
(3)左右のヘッドランプブラケットの間にわたした梁状のクロスメンバを設けることによって、車幅方向中央部で衝突が生じた場合であっても、衝突による入力を左右のヘッドランプブラケットに伝達し、ヘッドランプブラケットの変形によってエネルギを吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、キャブオーバ型車両のヘッドランプ周辺部における対前面衝突性能を向上した車体前部構造を提供する課題を、ヘッドランプブラケットとピラーとを連結する補剛部材を設けるとともに、ヘッドランプブラケットの一部に、ヘッドランプユニットの後退時にこれを車幅方向外側へ脱落させる斜面部を形成したことによって解決した。
【実施例1】
【0008】
以下、本発明を適用した車体前部構造の実施例1について説明する。実施例1の車体前部構造は、前輪の上部に運転席が設けられたキャブオーバ型の軽貨物自動車に適用されるものである。
図1は、実施例1の車体前部構造が適用される車両の前面図である。
図2は、図1の車両の側面図である。
【0009】
車両1は、例えば、キャブオーバの1ボックスバン型の軽貨物自動車であって、前輪FWの上部に運転席を含むキャビン10が配置されている。キャビン10は、フロントパネル11、フロントグリル12、サイドアウタパネル13、フロントドア14等を備えて構成されている。
フロントパネル11は、車体の前面部に設けられた車体外板である。フロントパネル11は、フロントガラスFGの下端部からフロントバンパBまでの範囲にわたって配置されている。
フロントグリル12は、フロントパネル11の一部における前面に装着された装飾用の樹脂製パネルである。
サイドアウタパネル13は、フロントパネル11の側端部とフロントドア14の前端部との間に配置された車体外板である。
フロントパネル11及びサイドアウタパネル13は、例えば鋼板をプレス加工して形成されている。
【0010】
フロントドア14は、キャビン10の側方に設けられたドア開口に開閉可能に設けられ、運転席及び助手席への乗降に用いられるものである。フロントドア14は、例えば鋼板をプレス加工して形成されたドアアウタパネル、ドアインナパネル等を接合して形成され、前端部に設けられたヒンジによって後開き式に開閉する。
【0011】
また、キャビン10の前部には、ヘッドランプ部20が設けられている。ヘッドランプ部20は、図1、図2に示すように、車両前面の車幅方向における両端部に設けられている。
図3は、図1及び図2のIII−III部矢視断面図である。
図4は、図3のIV部矢視図である。
ヘッドランプ部20は、ヘッドランプユニット21、ヘッドランプブラケット22等を備えている。
また、キャビン10は、さらにフロントピラー15、サイドインナパネル16を備えている。
そして、ヘッドランプブラケット22とフロントピラー15との間には、補剛部材30が設けられている。
【0012】
ヘッドランプユニット21は、例えばバルブ、リフレクタ、レンズ等を樹脂製のハウジングに収容してなる異形ヘッドランプである。
ヘッドランプブラケット22は、キャビン10に対してヘッドランプユニット21を支持する部材である。ヘッドランプブラケット22は、車両の前面部を後方側へ凹ませたように形成された板金製のカップ状の部材であって、この凹部内にヘッドランプユニット21のハウジング部が収容され固定される。
【0013】
ヘッドランプブラケット22は、後面部23、縦壁部24、斜面部25等が一体的に形成されている。
後面部23は、ヘッドランプユニット21の車両後方側の面部と対向して配置された平板状の面部である。後面部23には、ヘッドランプユニット21に電力を供給するハーネスがキャビン10内から引き出される開口23aが形成されている。後面部23は、車幅方向外側の端部が内側の端部より車両後方側となるように、車幅方向に対して傾斜して配置されている。また、後面部23の車幅方向外側の端部は、サイドインナパネル16の前端部とスポット溶接等によって固定されている。
【0014】
縦壁部24は、後面部23の車幅方向内側の端部から、車両前方側へ延びて形成されている。縦壁部24は、ヘッドランプユニット21の車幅方向内側の面部と対向して配置されている。また、縦壁部24の前端部は、フロントパネル11とスポット溶接等によって固定されている。
【0015】
斜面部25は、後面部23と縦壁部24との接合箇所に設けられ、これらの各面部に対してそれぞれ傾斜して配置された平面部である。
斜面部25は、図3等に示すように、その法線方向が車両の斜め前方側に向くように配置され、車両の通常状態(衝突前の状態)において、ヘッドランプユニット21の後端部における車幅方向内側のコーナ部と微小な間隔を隔てて対向して配置されている。
また、図4に示すように、斜面部25は、ヘッドランプブラケット22の高さ方向における上端部、下端部にそれぞれ設けられる。この上端部、下端部以外の領域では、後面部23と縦壁部24とは直接接合されている。
【0016】
フロントピラー15は、図2に示すように、キャビン10のドア開口の前縁部に沿って上下方向に延びて配置された構造部材である。フロントピラー15は、図3に示すように、例えば1対の鋼板プレス部品をモナカ状に接合することによって、水平面で切って見た断面が閉断面となるように構成されている。
サイドインナパネル16は、ヘッドランプブラケット22とフロントピラー15の間に設けられ、車両の前後方向に延びて配置された部材である。サイドインナパネル16は、例えば鋼板をプレス加工して形成されている。
サイドインナパネル16の前端部は、ヘッドランプブラケット22の後面部23の車幅方向外側の端部と、スポット溶接等によって固定されている。また、サイドインナパネル16の後端部は、フロントピラー15の前端部とスポット溶接等によって固定されている。
【0017】
補剛部材30は、ヘッドランプブラケット22とフロントピラー15との間にわたして設けられている。補剛部材30は、図4に示すように、ヘッドランプブラケット22の上下2箇所に設けられている。図4においては、上下の補剛部材30にそれぞれ添え字U、Lを付して図示する。
補剛部材30は、例えば、ヘッドランプブラケット22の材料より板厚が大きい鋼板をプレス加工してステー状に形成されている。補剛部材30は、ほぼ水平に配置される平板状の本体部31、及び、この本体部31の両端を折り曲げて形成された固定面部(溶接しろ部)32、33を有する。
補剛部材30のヘッドランプブラケット22側の端部は、固定面部32が斜面部25の裏面(キャビン10内側の面)とスポット溶接等によって固定されている。一方、補剛部材30のフロントピラー15側の端部は、固定面部33がフロントピラー15の内面部(車幅方向内側に面した面部)とスポット溶接等によって固定されている。フロントピラー15と固定面部33との固定箇所は、斜面部25と固定面部32との固定箇所に対して、車両後方側でありかつ車幅方向外側に配置されている。
【0018】
次に、上述した実施例1の効果を、以下説明する本発明の比較例と対比して説明する。なお、比較例及び後述する実施例2において、上述した実施例1と実質的に同様の箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図5は、比較例の車体前部構造におけるヘッドランプ部の断面図であって、実施例1における図3に相当する断面を示している。なお、図5において、車両の前面衝突後における各部材を破線で図示している。
比較例の車体前部構造は、実施例1の車体前部構造から、ヘッドランプブラケット22の斜面部25、及び、補剛部材30を省いたものである。
図5に破線により示すように、比較例の場合、ヘッドランプブラケット22の前後方向における拘束が弱いため、車両の前面衝突時に、ヘッドランプブラケット22及びヘッドランプユニット21は、前方から受けた荷重によって、車体に対してほぼ平行移動的に後退し、キャビン10内へ侵入する。
【0019】
図6は、実施例1の車体前部構造における前面衝突時の車体変形等を示す図であって、図5と同様に前面衝突後の各部材を破線で図示している。
実施例1の場合には、ヘッドランプブラケット22の後方側に補剛部材30を設けたことによって、ヘッドランプブラケット22の車両前後方向における拘束が比較例に対して強化される。
そして、ヘッドランプユニット21に対して前方から荷重が負荷され、ヘッドランプユニット21がヘッドランプブラケット22に対して後退すると、ヘッドランプブラケット21は、その後端部がヘッドランプブラケット22の斜面部25に押し付けられることによって、車幅方向外側へ押圧される。これによって、ヘッドランプユニット21は、ヘッドランプブラケット22との固定箇所が破壊され、車幅方向外側へ脱落する。
【0020】
このように、実施例1によれば、後面部23の拘束を強化し、ヘッドランプユニット21が脱落することによって、縦壁部24を前後方向荷重によって座屈変形させ、エネルギを効果的に吸収することができる。これによって、ヘッドランプブラケット22の後面部23の後退を低減することができる。
また、ヘッドランプブラケット22に入力された荷重は、補剛部材30を介してフロントピラー15に伝達され、フロントピラー15に対してその後端部が車幅方向外側へ開く方向のねじりモーメントを作用させる。このねじりモーメントによってフロントピラー15がねじり変形を受けると、この変形によっても衝突のエネルギは吸収される。
さらに、補剛部材30を設けたことによって、キャビン10の剛性が向上する。
【実施例2】
【0021】
図7は、本発明を適用した車体前部構造の実施例2における断面図であって、上述した実施例1における図3に相当する断面を示している。
実施例2の車体前部構造は、左右のヘッドランプブラケット22の間にわたして、以下説明するクロスメンバ40を設けたものである。
クロスメンバ40は、フロントパネル11の内面(車両後方側の面)にほぼ沿わせて、車幅方向に延びて配置された梁状の部材である。クロスメンバ40の両端部は、車両の後方側へ向けて折り曲げられている。このクロスメンバ40の端部は、ヘッドランプブラケット22の縦壁部24の車幅方向内側の面に、スポット溶接等によって固定されている。
以上説明した実施例2によれば、上述した実施例1と同様の効果に加えて、車幅方向における中央部に衝突による荷重が作用した場合であっても、ヘッドランプブラケット22に荷重を伝達し、上述したエネルギ吸収効果を得ることができる。
【0022】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)ヘッドランプブラケット及び補剛部材の形状や構造は、上述した各実施例のものには限定されない。例えば、各実施例において単独の部品とした部分を、複数の部材によって構成したり、逆に各実施例で複数の部材により構成した部分を一体化してもよい。
(2)実施例2では、クロスメンバをヘッドランプブラケットの側面部間にわたしているが、これに限らず、ヘッドランプブラケットの上面部間、下面部間にわたしたり、直接固定するものに限らず、他の部品を介して装着するようにしてもよい。
(3)各実施例では、ヘッドランプブラケットの側面部である縦壁部を座屈させてエネルギ吸収を図っているが、これに限らず、例えばヘッドランプブラケットの上面部、下面部や、ヘッドランプブラケットの近傍に設けられた他部材の壁面部を変形させてエネルギの吸収を図る構成としてもよい。この場合、車両の前後方向にほぼ沿って延びた面部を用いると、座屈変形が生じエネルギの吸収効果が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用した車体前部構造の実施例1が適用される車両の前面図である。
【図2】図1の車両の側面図である。
【図3】図1及び図2のIII−III部矢視断面図である。
【図4】図3のIV部矢視図である。
【図5】本発明の比較例である車体前部構造におけるヘッドランプ部の断面図である。
【図6】実施例1の車体前部構造における前面衝突時の車体変形等を示す図である。
【図7】本発明を適用した車体前部構造の実施例2におけるヘッドランプ部の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 車両 10 キャビン
11 フロントパネル 12 フロントグリル
13 サイドアウタパネル 14 フロントドア
15 フロントピラー 16 サイドインナパネル
20 ヘッドランプ部 21 ヘッドランプユニット
22 ヘッドランプブラケット 23 後面部
24 縦壁部 25 斜面部
30 補剛部材 31 本体部
32,33 固定面部
FW 前輪 FG フロントガラス
B フロントバンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席が前輪の上部に設けられたキャブオーバ型車両の車体前部構造であって、
車体前面に設けられるヘッドランプユニットと、
前記車体に固定され、前記ヘッドランプユニットの後部を支持するヘッドランプブラケットと、
前記ヘッドランプブラケットに対し車両後方側に配置され、前記車体の側面に設けられるドア開口の前縁部に沿って形成されたフロントピラーと、
前記ヘッドランプブラケットと前記フロントピラーとの間にわたして設けられた補剛部材と、
前記ヘッドランプブラケットに設けられ、前記ヘッドランプユニットが該ヘッドランプブラケットに対して後退した際に該ヘッドランプユニットを側方へ移動させる斜面部と
を有することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車体前部構造において、
前記ヘッドランプブラケットは、前記補剛部材との接続部に対して車両前方側に設けられるとともに車両の前後方向にほぼ沿って延びた壁部を有すること
を特徴とする車体前部構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車体前部構造において、
左右の前記ヘッドランプブラケットの間にわたして設けられた梁状のクロスメンバを有すること
を特徴とする車体前部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−73332(P2009−73332A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243947(P2007−243947)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】