説明

車体前部構造

【課題】フロントフェンダで衝撃吸収するようにしても、フロントフェンダの配置の自由度が高く、構造が簡単な車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造11は、アッパメンバー33にフロントフェンダ14をそれぞれ設け、フード57を設けている。フロントフェンダ14の上フェンダ65を上昇させるフェンダ上昇装置71を備え、フェンダ上昇装置71は、上フェンダ65に接続されアッパメンバー33に配置されているロッド部材75と、ロッド部材75を車両12上方へ向け直動させる付勢機構76と、付勢機構76に抗してロッド部材75を原点位置Eにロックしているロック機構77と、ロック機構77のロックを車両12正面が障害物(歩行者)に接触することで入力される荷重によって解除するロック解除機構73と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両正面から車両に載った障害物(歩行者)を保護する車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造は、歩行者との衝突において、歩行者を保護するために、エンジンフードなどのフードの弱化が行われてきた。しかしながら、フードとフードの左右に設けられているフロントフェンダとの見切り位置やフロントピラーにおいては、部材の強度が高いため、エアバッグを用いてフロントフェンダやフロントピラーを覆い衝撃を低減するものがある(例えば、特許文献1(図1)参照、特許文献2(図4)参照)。
【0003】
しかし、従来技術(特許文献1、2)では、エアバッグを用いるために、エアバッグの搭載場所の確保が難しく、搭載場所の確保を優先すると、例えば、フロントフェンダの配置が限定されてしまうという問題がある。
また、エアバッグを用いるために、センサなどの機器が必要になり、構造が複雑になるという問題がある。
仮に、エアバッグを用いずに、フロントフェンダの弱化が行われると、予めフロントフェンダに変形代(ストローク代)を設ける必要があり、フロントフェンダの配置が限定されてしまう。さらに、フロントフェンダが大きくなり、つまり車体が大きくなるため、死角の増加や空気抵抗の増加という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−156749号公報
【特許文献2】特開2004−136813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、フロントフェンダで衝撃吸収するようにしても、フロントフェンダの配置の自由度が高く、障害物(例えば歩行者)の跳ね返りを防止し、衝撃を吸収するフロントフェンダの構造が簡単な車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、前輪の上方に車両前後方向へ延ばし車両正面近傍に一端を配置しているアッパメンバーにフロントフェンダをそれぞれ設け、これらのフロントフェンダ間に車両正面から車両後方へ延ばしたフードを設けている車体前部構造であって、フロントフェンダをアッパメンバーの近傍で上下に分割して上側とした上フェンダと、下側とし且つホイールハウスを支持している下フェンダと、上フェンダを上昇させるフェンダ上昇装置と、を備え、フェンダ上昇装置は、上フェンダに接続されアッパメンバーに配置されているロッド部材と、ロッド部材を車両上方へ向け直動させる付勢機構と、付勢機構に抗してロッド部材を原点位置にロックしているロック機構と、ロック機構のロックを車両正面が障害部に接触することで入力される荷重によって解除するロック解除機構と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、フェンダ上昇装置は、上フェンダの変形と下降で障害部の衝撃を吸収するときに、上フェンダとともに、付勢機構に抗して原点位置に向かって下降するロッド部材には係合せず、逆に付勢機構の力で上昇するロッド部材には係合するロッド戻り防止機構を備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、フロントフェンダは、アッパメンバーの他端に連続し上方へ延びているフロントピラーの下端部に重なるオーバーラップ部を有していることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、ロック解除機構に連動してフードの後部を上昇させるフード後部上昇装置を備えていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、フード後部上昇装置は、ロック機構を有し、ロック解除機構は、ロック機構のロック片に連結しているワイヤと、ワイヤを車両正面に含まれる前照灯の裏、フロントグリルの裏のうち少なくとも一つの裏に導いて張っている滑車と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、フロントフェンダを上下に分割して上側とした上フェンダと、下側とし且つホイールハウスを支持している下フェンダと、上フェンダを上昇させるフェンダ上昇装置と、を備え、フェンダ上昇装置は、上フェンダに接続されアッパメンバーに配置されているロッド部材と、ロッド部材を車両上方へ向け直動させる付勢機構と、付勢機構に抗してロッド部材を原点位置にロックしているロック機構と、ロック機構のロックを車両正面が障害部に接触することで入力される荷重によって解除するロック解除機構と、を備えているので、車両正面が障害物、例えば、歩行者に接触(衝突)して荷重が入力されると、アッパメンバー内に配置しているロック解除機構が作動し、上フェンダが上昇する。このようにアッパメンバー内に配置できる形態なので、従来のように、衝撃吸収用のエアバッグや衝撃吸収用のストロークをフロントフェンダの内方へ予め確保する必要がなく、フロントフェンダの配置の自由度が高まるという利点がある。
【0012】
また、車両正面が障害物、例えば、歩行者に接触(衝突)して荷重が入力されると、ロック解除機構が作動し、上フェンダが上昇する。続けて、歩行者が上フェンダの上部に倒れ込むと、上フェンダの上部は変形することで、歩行者などの障害物に対する衝撃を吸収する。すなわち、下フェンダにホイールハウスを支持させ、上フェンダのみを持ち上げるので、フロントフェンダの上昇を妨げない。従って、歩行者などの障害物の保護を省スペースで行えるという利点がある。
【0013】
請求項2に係る発明では、フェンダ上昇装置は、上フェンダの変形と下降で障害部の衝撃を吸収するときに、上フェンダとともに、付勢機構に抗して原点位置に向かって下降するロッド部材には係合せず、逆に付勢機構の力で上昇するロッド部材には係合するロッド戻り防止機構を備えているので、衝撃吸収後の上フェンダにスプリングバックが発生し始めると、ロッド部材はロッド戻り防止機構によって上昇を制止されて上昇せず、上フェンダのスプリングバックを防止することができる。従って、障害物、例えば歩行者の跳ね返りを防止することができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、フロントフェンダは、アッパメンバーの他端に連続し上方へ延びているフロントピラーの下端部に重なるオーバーラップ部を有しているので、歩行者がフロントピラーの下端部に向かって倒れ込むと、予め上昇しているオーバーラップ部が歩行者を受けて変形することで衝撃を吸収することができ、フロントピラーに高強度の鋼材を採用しても、障害物(歩行者)を保護することができる。従って、障害物(歩行者)保護領域をフロントピラーの下端部まで広げることができる。
【0015】
請求項4に係る発明では、ロック解除機構に連動してフードの後部を上昇させるフード後部上昇装置を備えているので、フードの中央、言い換えると車体前部の車幅方向の中央から左右までの広範囲で障害物(歩行者)を保護することができる。
【0016】
請求項5に係る発明では、フード後部上昇装置は、ロック機構を有し、ロック解除機構は、ロック機構のロック片に連結しているワイヤと、ワイヤを車両正面に含まれる前照灯の裏、フロントグリルの裏のうち少なくとも一つの裏に導いて張っている滑車と、を備えているので、車両正面が障害物(歩行者S)に接触する、具体的には前照灯やフロントグリルが歩行者に接触(衝突)すると、前照灯やフロントグリルは車両後方へ押し込まれてそれぞれの裏がワイヤを車両後方へ向け引っ張る。その結果、ワイヤからの入力によってロック片は回動してロックを解除するので、ロック片を回動させるために、専用のセンサやこのセンサの情報に基づいてロック片を回動させるアクチュエータを設ける必要がなく、構造は簡単になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係る車体前部構造の斜視図である。
【図2】実施例1に係る車体前部構造のフェンダ上昇装置の斜視図である。
【図3】実施例1に係る車体前部構造のフェンダ上昇装置の平面図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】実施例1に係る車体前部構造のフェンダ上昇装置の詳細断面図である。
【図7】実施例1に係る車体前部構造のフェンダ上昇装置の詳細図である。
【図8】実施例1に係る車体前部構造の衝撃を吸収する機構を説明する概要図である。
【図9】図8(b)までの作動の詳細を説明する図である。
【図10】図8(b)までのロッド戻り防止機構の作動の詳細を説明する図である。
【図11】図10に続く図である。
【図12】図8(c)〜図8(d)のロッド戻り防止機構の作動の詳細を説明する図である。
【図13】実施例2に係る車体前部構造の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、実施例1、実施例2で詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係る車体前部構造11は、図1に示すように、車両12の前部13に採用され、車両12正面が障害物、例えば歩行者Sに接触(衝突)して、歩行者Sが左のフロントフェンダ14又は右のフロントフェンダ15に載る場合、予め上昇するフロントフェンダ14、15で歩行者Sを保護する。以降で具体的に説明していく。
【0020】
車両12は、図1〜図3に示す車室17と、車室17の床、且つ車体18の床をなすアンダボデー21と、車室17の側壁をなすサイドボデー22と、車室17に連続するフロントボデー23と、フロントボデー23及びサイドボデー22に連続する前ガラス25と、フロントボデー23に支持されている前バンパ構造26、前照灯27、フロントグリル28、フロントグリル28の裏に配置しているラジエータ31、を備える。
【0021】
フロントグリル28及び前照灯27は、フロントボデー23の左のアッパメンバー33、右のアッパメンバー34の前端部35とこれらの前端部35に接合しているバルクヘッドサイド36に設けられている。
ラジエータ31は、少なくともフロントボデー23のバルクヘッドアッパ37に支持されている。
【0022】
アンダボデー21は、フロントボデー23のエンジンルーム41との隔壁をなすダッシュボードパネル42を備える。
サイドボデー22は、フロントピラー45を有し、フロントピラー45は前ガラス25の左・右端部44を支持しているフロントピラー上部46と、フロントピラー上部46から下方へ延びるフロントピラー下部47と、を備える。
【0023】
フロントボデー23は、ダッシュボードパネル42に連なり前ガラス25の下端部を支持しているウインドシールドロア51を含むカウル52と、フロントピラー下部47に連なり車両12前方へ向けて延びている閉断面形状の左のアッパメンバー33と、右のアッパメンバー34と、左右のアッパメンバー33、34にヒンジ54を介して後部56を前開き(矢印a1の方向)自在に支持しているフード57と、左のアッパメンバー33と右のアッパメンバー34との間に設けられているバルクヘッドアッパ37と、バルクヘッドアッパ37及び左のアッパメンバー33に連なり下方へ延びる左のバルクヘッドサイド36、ほぼ対称な右のバルクヘッドサイド36と、左のアッパメンバー33に設けられた左のフロントフェンダ14、右のアッパメンバー34に設けられた右のフロントフェンダ15と、を備える。
なお、フード57は、フード57の前部をフードロック装置61を介してバルクヘッドアッパ37にロックしている。
【0024】
次に、車体前部構造11を主体に説明する。
車体前部構造11では、図1〜図5に示しているように、左のフロントフェンダ14の上フェンダ65及び右の上フェンダ65を上昇させるフェンダ上昇装置71を備え、フェンダ上昇装置71は、上昇装置72と、上昇装置72を作動させるロック解除機構73と、を備える。
上昇装置72は、図4のロッド部材75と、付勢機構76と、ロック機構77と、ロッド戻り防止機構78と、を備え、図3に示す左のアッパメンバー33に6個、右のアッパメンバー34に6個配置されている。なお、上昇装置72を12個用いたが上昇装置72の数は任意である。
【0025】
車体前部構造11は、既に述べたように、前輪81の上方に車両12前後方向へ延ばし車両12正面近傍に一端(前端部35)を配置している左・右のアッパメンバー33、34に左・右のフロントフェンダ14、15をそれぞれ設け、これらの左・右のフロントフェンダ14、15間に車両12正面から車両12後方へ延ばしたフード57を設けている。そして、フロントフェンダ14を左のアッパメンバー33の近傍で上下に分割して上側とした上フェンダ65と、下側とし且つホイールハウス82を支持している下フェンダ83と、上フェンダ65を上昇させるフェンダ上昇装置71と、を備え、フェンダ上昇装置71は、上フェンダ65に接続され左のアッパメンバー33に配置されているロッド部材75と、ロッド部材75を車両12上方へ向け直動させる付勢機構76と、付勢機構76に抗してロッド部材75を原点位置Eにロックしているロック機構77と、ロック機構77のロックを車両12正面が障害物(歩行者S)に接触することで入力される荷重によって解除するロック解除機構73と、を備えている。
【0026】
フェンダ上昇装置71は、上フェンダ65の変形と下降で障害物(歩行者S)の衝撃を吸収するときに、上フェンダ65とともに、付勢機構76に抗して原点位置Eに向かって下降するロッド部材75には係合せず、逆に付勢機構76の力で上昇するロッド部材75には係合するロッド戻り防止機構78を備えている。
【0027】
フロントフェンダ14は、左・右のアッパメンバー33、34の他端85に連続し上方へ延びているフロントピラー45(詳しくはフロントピラー上部46)の下端部87に重なるオーバーラップ部91を有している。
【0028】
ロック解除機構73は、図4〜図7に示したように、ロック機構77のロック片93に連結しているワイヤ94と、ワイヤ94を車両12正面に含まれる前照灯27の裏、フロントグリル28の裏のうち少なくとも一つの裏に導いて張っている滑車97と、を備えている。
【0029】
次に、フロントフェンダ14を図1、図2、図4で、フェンダ上昇装置71を図5〜図7でより詳しく説明する。
図7(b)は図7(a)のb−b線断面図、(c)は図7(a)のc−c線断面図である。
【0030】
フロントフェンダ14は、左・右のアッパメンバー33、34の外側壁101の近傍で分割してフード57まで延びる上フェンダ65と、上フェンダ65の内側から下方に、左・右のアッパメンバー33、34に支持されて延びている下フェンダ83と、上フェンダ65の下縁102に嵌め下フェンダ83の上部103との間を封じているシール部材104と、上フェンダ65の上後部106から延ばしてフロントピラー上部46の下端部87の外面に重ねたオーバーラップ部91と、を備える。
【0031】
上フェンダ65は、図4の左・右のアッパメンバー33、34の天部108に重なってフェンダ上昇装置71のロッド部材75に取付けられているロッド取付けパネル部111が形成され、ロッド取付けパネル部111に直交させて車両12上方へ向け膨出させて、フード57の外面に対し段差のない外面112を形成した緩衝膨出部113が形成され、ロッド取付けパネル部111とフード57との間にロッド取付けパネル部111を上昇させたときに干渉を防止する空間部114を形成している。
【0032】
左・右のアッパメンバー33、34の天部108には、フェンダ上昇装置71のロッド部材75を貫通させているロッド用の孔116が開けられている。
下フェンダ83には、ホイールハウス82が取付けられている。
【0033】
上昇装置72はまた、左・右のアッパメンバー33、34に取付けたベース118と、ケース121を有し、ケース121は、ベース118に円板状の底部122を固定し、底部122の外周に連ねて周壁部123を形成し、周壁部123の縁に、底部122に対向するケース天部124を形成している。
【0034】
ロッド部材75は、図6、図7のケース121の底部122の中央及びケース天部124の中央にそれぞれ軸受け126を嵌合し、軸受け126にロッド本体127を嵌合させ、ロッド本体127の全長の中央に、円錐状の係止部128を複数形成した係止凸部131が形成され、ロッド本体127のキー溝132と底部122のキー部材133を嵌合している。
【0035】
付勢機構76は、ケース121の周壁部123の内周面に沿う弾性部材(例えば圧縮ばね)135の一端をケース121の底部122に当接し、弾性部材135の他端をロッド本体127に設けた弾性部材支持上フランジ136に当接して、弾性部材135が圧縮されてロック機構77で保持されている。
【0036】
ロック機構77は、ケース121の底部122に略Z字状の下ブラケット138を弾性部材135の内方へ配置した状態で立設し、下ブラケット138にロック片93を重ねて且つ回動自在にロック片93の中央に第1支点軸部材141を嵌合することで支持し、ロック片93の一端(ロック部)142に重なることで係止しているロックフランジ143をロッド本体127に且つ係止凸部131の下方に設け、ロック片93の他端に回転可能な把持部材144でロック解除機構73のワイヤ94を連結している。
【0037】
ロック解除機構73は、図2、図3、図5に示すように、ロック片93にそれぞれ第1ワイヤ94、第2ワイヤ94を連結して、第1ワイヤ94、第2ワイヤ94を連結して第3ワイヤ146(図5)とし、第3ワイヤ146を前照灯27の裏まで延ばして、左・右のアッパメンバー33、34に取付けられている滑車97で支持し、さらに第3ワイヤ146をフロントグリル28の裏に延ばしてバルクヘッドアッパ37又はバルクヘッドサイド36に取付けられている滑車97で支持している。
【0038】
なお、第3ワイヤ146はワイヤ94に含まれる。
第1ワイヤ94、第2ワイヤ94の端は、フロントピラー45の近傍に図に示していない部材で所定の引っ張り力で抜けるよう把持され、ロック片93の自由な回動を規制している。
【0039】
ロッド戻り防止機構78は、図6、図7、図10(a)に示しているように、ケース121の底部122に略Z字状の上ブラケット151を弾性部材135の内方へ配置した状態で立設し、上ブラケット151に戻り防止ロック片152を重ねて上ブラケット151から出した挟持ブラケット153で押さえ、つまり戻り防止ロック片152を上ブラケット151と挟持ブラケット153で回動自在に挟み、且つ、戻り防止ロック片152の中央に第2支点軸部材154を嵌合することで支持し、戻り防止ロック片152の一端156を回動方向(矢印a2)へ分力によって押す、略三角形の板状の戻り防止ロック片操作部材157をロックフランジ143に立設している。
【0040】
戻り防止ロック片152は、側面視(図6の視点)で、原点位置Eにおいて、係止凸部131(複数の係止部128)の上方に、且つ、係止凸部131(複数の係止部128)に近接して設けられ、図7の戻り防止ロック片操作部材157に接触して押される内縁に押し傾斜部161(図7(c))を形成し、他端には係止凸部131(複数の係止部128)に接触することで係止凸部131から離れる方向へ押される後退傾斜部162を形成し、中央には第2支点軸部材154を嵌めた支点孔163に連続させてスライド開口部164を開け、スライド開口部164の近傍にスライド溝165を、スライド開口部164の軸線に一致させて彫り込み、スライド開口部164の近傍に回動原点保持凹部166(図10(b))を形成している。
【0041】
そして、スライド開口部164と第2支点軸部材154の間に、戻り防止ロック片152をロッド部材75に向けて押し進める復帰弾性部材167を嵌め、スライド溝165に嵌る第1クリック部材171を上ブラケット151の挟持ブラケット153に取付け、回動原点保持凹部166に嵌る第2クリック部材172を挟持ブラケット153に取付けている。
第1クリック部材171は、図7(c)の半球部174を後退(矢印a3の方向)、前進(矢印a4の方向)自在に嵌合したもので、半球部174に接触する(力を加える)と半球部174がばねに抗して後退し、力を取り除くと半球部174が前進(復帰)する。
第2クリック部材172は第1クリック部材171と同様である。
【0042】
次に、本発明の実施例1に係る車体前部構造11の作用を図1〜図12、主に図8〜図12を用いて説明する。
図8(a)はフェンダ上昇装置71の作動前の状態(図1の状態)、(b)はフェンダ上昇装置71の作動した状態、(c)は衝撃を吸収する状態、(d)は衝撃を吸収した後の状態を示す図である。
図9は図8(a)から図8(b)までの過程の一部を示している。
図10〜図12は、上段に平面図、下段に側面図を示している。
なお、図11、図12は、片側のみを示している。
【0043】
図8(a):車体前部構造11(実施例1)は、通常は、フェンダ上昇装置71をロックしているので、上フェンダ65は保持されている。
図8(b):車両12正面が障害物(例えば歩行者S)に接触(衝突)すると、フェンダ上昇装置71の第3ワイヤ146が引かれるので、ロックが解除されて、弾性部材135(例えば圧縮ばね)が伸びることでロッド部材75が上昇(前進)して上フェンダ65を矢印a6のように上昇させる。
【0044】
図8(c):障害物(例えば歩行者S)が上フェンダ65に当接すると、上フェンダ65の緩衝膨出部113が変形するので、衝撃を吸収することができ、同時に、弾性部材135(例えば圧縮ばね)が圧縮されるので、より衝撃を吸収することができる。
その際、ロッド戻り防止機構78は、ロッド部材75の下降を規制せず、自由状態にしている。
【0045】
図8(d):ロッド部材75が下降(後退)し原点位置Eに達すると、ロッド戻り防止機構78が作動するので、ロッド部材75は拘束され、上昇しない。従って、障害物(例えば歩行者S)の跳ね返りを防止することができる。
【0046】
次に、この過程における機構を詳しく説明する。
車体前部構造11は、図2、図3のフロントグリル28や前照灯27が障害物(例えば歩行者S)に接触すると、図5の車両12後方へ押し込まれて第3ワイヤ146を矢印a7のように押す、つまり引くので、図5のロック片93が矢印a8のように回動して、ロックフランジ143との係止を解除する。つまりロックを解除するので、弾性部材135によって図9に示すようにロッド部材75が上フェンダ65を上昇させる。
【0047】
ロッド部材75が上昇を続けるので、図10(a)の直後に、戻り防止ロック片操作部材157が上昇しつつ戻り防止ロック片152を図10(a)、(b)の矢印a9ように回動させ、さらに図11のように回動限位置Mまで回動させる。戻り防止ロック片152は、回動限位置Mに達すると、スライド溝165に第1クリック部材171が嵌るので、回動を規制される。同時に、図8(b)の弾性部材支持上フランジ136がケース121に当接することでロッド部材75の上昇は停止する。
【0048】
続いて、図8(c)のように障害物(例えば歩行者S)に対する衝撃が吸収されつつ、ロッド部材75が押されると、弾性部材135に抗して下降し始めるので、ロッド部材75に配置した係止凸部131は図12(a)の戻り防止ロック片152に接触しつつ戻り防止ロック片152を復帰弾性部材167に抗して後退させる。その結果、係止凸部131は戻り防止ロック片152に干渉することなくロッド部材75の下降は自由状態となる。
【0049】
ロッド部材75が、引き続き下降し続け、原点位置Eまで戻る(下降)と、図12(b)に示すように、係止凸部131は戻り防止ロック片152より下方に位置し、係止凸部131の上端面(係止部128の上端面)176と戻り防止ロック片152とが係合可能状態となるので、図8(d)の弾性部材135が再び伸び始めると、戻り防止ロック片152に係止凸部131の上端面(係止部128の上端面)176が矢印b1のように干渉して、ロッド部材75は上昇を停止する。また、ロッド部材75は、多段の係止凸部131を持っているため、障害物(S)の運動エネルギーが小さい場合には、係止部128の上端面に至らなくても途中の係止凸部131に停止して上昇を抑えることができる。従って、上フェンダ65は上昇せず、上フェンダ65による跳ね返りは起きない。
【0050】
上フェンダ65は、図8(c)のように上昇すると、フロントピラー45の下端部87の上方にオーバーラップ部91が上昇するので、フロントピラー45の下端部87に向かう障害物(歩行者S)の衝撃をオーバーラップ部91の変形によって吸収することができる。
【0051】
このように、車体前部構造11は、上フェンダ65と、下フェンダ83と、上フェンダ65を上昇させるフェンダ上昇装置71と、を備えているので、従来のように、衝撃吸収用のストロークをフロントフェンダ14の内方へ予め確保する必要がなく、フロントフェンダ14の配置の自由度が高まるという利点がある。
また、上フェンダ65のみを上昇させるので、歩行者Sなどの障害物の保護を省スペースで行えるという利点がある。
さらに、障害物(歩行者S)保護領域をフロントピラー45の下端部87まで広げることができる。
【0052】
車体前部構造11は、車両12正面が障害物Sに接触する、具体的には前照灯27やフロントグリル28が歩行者Sに接触(衝突)すると、前照灯27やフロントグリル28は車両12後方へ押し込まれてそれぞれの裏が第3ワイヤ146を車両12後方へ向け引っ張る。その結果、第3ワイヤ146からの入力によってロック片93は回動してロックを解除するので、ロック片93を回動させるために、専用のセンサやこのセンサの情報に基づいてロック片93を回動させるアクチュエータを設ける必要がなく、構造は簡単になるという利点がある。
【0053】
車体前部構造11では、上下に分割して上側とした上フェンダ65と、下側とし且つホイールハウス82を支持している下フェンダ83とを備え、左・右のアッパメンバー33、34内から上フェンダ65を上昇させるので、左・右のフロントフェンダ14、15は、大きくならず、車体の小型化を図ることができる。
【実施例2】
【0054】
次に、実施例2に係る車体前部構造11Bを図13で説明する。上記図1〜図12に示す実施例1と同様の構成については、同一符号を付し説明を省略する。
【0055】
実施例2に係る車体前部構造11Bは、フェンダ上昇装置71と、ロック解除機構73に連動してフード57Bの後部56を二点鎖線で示すように上昇させるフード後部上昇装置181を備えていることを特徴とする。
フード後部上昇装置181は、カウル52に設けた上昇装置72と、上昇装置72のロック機構77を備え、フード後部上昇装置181のロック機構77のロック片93にロック解除機構73のワイヤ94を連結している。
【0056】
「ロック解除機構73に連動して」とは、フェンダ上昇装置71のロック解除機構73のロックを解除したタイミングと同じタイミングでフード後部上昇装置181でフード57Bの後部56を二点鎖線で示すように上昇させることである。
ここでは、ロック解除機構73のワイヤ94を直接連結したが、ロック解除機構73を直接連結しないで、例えば、ロック解除機構73のワイヤ94でセンサを作動させ、このセンサの情報に基づいてフード後部上昇装置のアクチュエータを駆動させることで、フード57Bの後部56を上昇させることも可能である。
【0057】
フード57Bは、ヒンジ54Bを有し、ヒンジ54Bはフード57Bの後部56を上昇させる際に延びるリンク機構(図に示していない)を備える。
【0058】
実施例2に係る車体前部構造11Bは、実施例1に係る車体前部構造11と同様の作用、効果を発揮する。
また、車体前部構造11Bは、フード57の中央、言い換えると車体18前部13の車幅方向の中央から左右までの広範囲で障害物(歩行者S)を保護することができる。
【0059】
さらに、車体前部構造11Bは、ロック片93を回動させるために、専用のセンサやこのセンサの情報に基づいてロック片93を回動させるアクチュエータを設ける必要がなく、構造は簡単になるという利点がある。
【0060】
尚、本発明の実施例1は、実施の形態ではロック片93をワイヤ94で引いて回動させたが、ワイヤ94を用いずに回動させることも可能である。例えば、電動モータやシリンダや火薬の爆発力をセンサとともに利用することも可能である。
フェンダ上昇装置71では、上昇装置72を左・右のアッパメンバー33、34内に設置しているが、上昇装置72を左・右のアッパメンバー33、34内から外にだして、左・右のアッパメンバー33、34の天部108に載せて固定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の車体前部構造は、車両の前部に好適である。
【符号の説明】
【0062】
11…車体前部構造、12…車両、14…左のフロントフェンダ、15…右のフロントフェンダ、27…前照灯、28…フロントグリル、33…左のアッパメンバー、34…右のアッパメンバー、35…アッパメンバーの一端(前端部)、45…フロントピラー、57…フード、65…上フェンダ、71…フェンダ上昇装置、72…上昇装置、73…ロック解除機構、75…ロッド部材、76…付勢機構、77…ロック機構、78…ロッド戻り防止機構、81…前輪、82…ホイールハウス、83…下フェンダ、85…アッパメンバーの他端、87…フロントピラーの下端部、91…オーバーラップ部、93…ロック片、94…ワイヤ、97…滑車、181…フード後部上昇装置、E…原点位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪の上方に車両前後方向へ延ばし車両正面近傍に一端を配置しているアッパメンバーにフロントフェンダをそれぞれ設け、これらのフロントフェンダ間に前記車両正面から車両後方へ延ばしたフードを設けている車体前部構造であって、
前記フロントフェンダを前記アッパメンバーの近傍で上下に分割して上側とした上フェンダと、下側とし且つホイールハウスを支持している下フェンダと、前記上フェンダを上昇させるフェンダ上昇装置と、を備え、
前記フェンダ上昇装置は、前記上フェンダに接続され前記アッパメンバーに配置されているロッド部材と、該ロッド部材を車両上方へ向け直動させる付勢機構と、該付勢機構に抗して前記ロッド部材を原点位置にロックしているロック機構と、該ロック機構のロックを前記車両正面が障害部に接触することで入力される荷重によって解除するロック解除機構と、を備えていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記フェンダ上昇装置は、前記上フェンダの変形と下降で前記障害部の衝撃を吸収するときに、前記上フェンダとともに、前記付勢機構に抗して前記原点位置に向かって下降する前記ロッド部材には係合せず、逆に前記付勢機構の力で上昇する前記ロッド部材には係合するロッド戻り防止機構を備えていることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記フロントフェンダは、前記アッパメンバーの他端に連続し上方へ延びているフロントピラーの下端部に重なるオーバーラップ部を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記ロック解除機構に連動して前記フードの後部を上昇させるフード後部上昇装置を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記フード後部上昇装置は、前記ロック機構を有し、
前記ロック解除機構は、前記ロック機構のロック片に連結しているワイヤと、該ワイヤを前記車両正面に含まれる前照灯の裏、フロントグリルの裏のうち少なくとも一つの裏に導いて張っている滑車と、を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−208484(P2010−208484A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56870(P2009−56870)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】