説明

車体前部構造

【課題】オフセット衝突時のエネルギ吸収性能を向上する。
【解決手段】車体前部の下部にFRPから成るアンダメンバ20が配設されており、FRPから成る左右のフロントサイドメンバ12は、連結部20Hによって互いに連結されたアンダメンバ20の車幅方向両端部20Aにそれぞれ結合されている。アンダメンバ20を構成する連続した繊維S1は、フロントバンパリインフォースメント16に結合されたバンパリインフォースエクステンション34と、左右のフロントサイドメンバ12とを車体前後方向に対して斜めに繋ぐように配向されており、オフセット衝突時に車幅方向への荷重成分を伝達可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂と繊維との複合材を用いた車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチック(以下、FRPという)で形成されたフロントサイドメンバを有する車体前部構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このフロントサイドメンバは、軸方向からの入力荷重により入力端側から逐次圧壊を起こす筒状断面のFRP製エネルギー吸収部と、このエネルギー吸収部に連なりFRPで形成されて車体部品と接合される支持部と、からなり、エネルギー吸収部はフロントサイドメンバの長手方向とそれに直角な方向とに等分に強化繊維が配向され、支持部は等方性を持って強化繊維が配向されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−271875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成のような車体前部構造では、エネルギ吸収部の軸に対して車体斜め側方から衝突荷重が入力される斜め衝突時には、エネルギ吸収部の曲げ方向への入力が左右連結部材を介して他方のエネルギ吸収部にも分散して支持されるようになっているが、左右何れか一方のフロントサイドメンバのみに車体前方から車体後方に向かって衝突荷重が入力されるオフセット衝突時のエネルギ吸収に対しては改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、オフセット衝突時のエネルギ吸収性能を向上できる車体前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明の車体前部構造は、繊維と樹脂との複合材より成り、車体前部の車幅方向外側部に車体前後方向に延在された左右のフロントサイドメンバと、前記左右のフロントサイドメンバの前部を互いに連結すると共に、車幅方向への荷重成分を伝達可能とした配向の繊維と樹脂との複合材より成る荷重分散手段と、を有する。
【0007】
車体がオフセット衝突した場合には、繊維と樹脂との複合材より成り、車体前部の車幅方向外側部に車体前後方向に延在された左右のフロントサイドメンバのうち衝突側のフロントサイドメンバが車体後方へ押される。これと同時に、左右のフロントサイドメンバを連結する荷重分散手段の衝突側も車体後方へ押される。この際、荷重分散手段は自身の圧壊と同時に、車幅方向への荷重成分を伝達可能とした配向の繊維によって、荷重を反衝突側のフロントサイドメンバに伝達することができる。この結果、左右のフロントサイドメンバと荷重分散手段とで衝突エネルギーを吸収することができるため、オフセット衝突時にエネルギ吸収性能が向上する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明の請求項1に係る車体前部構造では、オフセット衝突時のエネルギ吸収性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車体前部構造を示す車体斜め前方から見た斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る車体前部構造を示す車体斜め前方から見た分解斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る車体前部構造における繊維の配向の関係を示す説明図ある。
【図4】図1の4−4断面線に沿った拡大断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る車体前部構造における繊維の配向を示す説明図ある。
【図6】本発明の第1実施形態に係る車体前部構造の図5に対応する作用説明図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る車体前部構造を示す図4に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
【0011】
以下、図1〜図6を用いて、本発明に係る車体前部構造の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印UPは車体上方方向を示し、矢印FRは車体前方方向を示し、矢印INは車幅内側方向を示している。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の車体前部構造10は、車体前部の車幅方向外側部に車体前後方向に延在された骨格部材としての左右一対のフロントサイドメンバ12を備えており、これらのフロントサイドメンバ12は繊維と樹脂との複合材としてのFRPで構成されている。また、各フロントサイドメンバ12の後部12Aには、ダッシュパネル14が架設されている。
【0013】
図4に示すように、フロントサイドメンバ12の車体前後方向から見た断面形状は略矩形筒状とされている。
【0014】
図2に示すように、フロントサイドメンバ12の前部12Bの上下方向幅H1は、後部12Aの上下方向幅H2に比べて小さくなっており、フロントサイドメンバ12の前部12Bにおける下壁部12Cの後部は車体下方へ向かって湾曲している。
【0015】
また、各フロントサイドメンバ12の前端12Dは、車体前端部に車幅方向に延在するフロントバンパリインフォースメント16に図示を省略した締結部材によって連結されており、フロントバンパリインフォースメント16は鉄等の金属で構成されている。
【0016】
図1に示すように、車体前部の下部には荷重分散手段としてのアンダメンバ20が配設されており、アンダメンバ20は繊維と樹脂との複合材としてのFRPで構成されている。また、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aは、各フロントサイドメンバ12の前部12Bの下方に車体前後方向に延在している。
【0017】
図4に示すように、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aの車体前後方向から見た断面形状は平板状の縦壁部20Bと、この縦壁部20Bの上端から車幅方向外側へ延設された上壁部20Cとを備えている。
【0018】
図2に示すように、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aにおける前部20Dの上下方向幅H3は、後部20Eの上下方向幅H4に比べて大きくなっている。
【0019】
図4に示すように、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aの前部20Dでは上壁部20Cが、フロントサイドメンバ12の前部12Bの下壁部12Cに接着等により結合されている。
【0020】
図1に示すように、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aにおける後部20Eはフロントサイドメンバ12の前部12Bと離間しており、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aにおける後部20Eとフロントサイドメンバ12の前部12Bとの間には隙間21が形成されている。また、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aにおける上壁部20Cの後端には車体下方へ向かって延びる後壁部20Fが形成されており、この後壁部20Fがフロントサイドメンバ12の前部12Bにおける下壁部12Cの後端部12Eに接着等により結合されている。
【0021】
また、各フロントサイドメンバ12の前端12Dとアンダメンバ20の車幅方向両端部20Aの前壁部20Gとは面一となっている。また、左右のアンダメンバ20の車幅方向両端部20Aにおける縦壁部20Bの下端縁部は、連結部20Hによって互いに連結され一体化している。アンダメンバ20の連結部20Hは車体前部の下方を覆う平板状のアンダーカバーとなっており、連結部20Hの車体後方側の車幅方向中間部には、車体後方側から車体前方側に向かって切欠30が形成されている。
【0022】
フロントバンパリインフォースメント16の下方側には、バンパリインフォースエクステンション34が車幅方向に沿って延在しており、バンパリインフォースエクステンション34は鉄等の金属で構成されている。また、バンパリインフォースエクステンション34は車体前後方向から見て開口部を上方へ向けたコ字状に屈曲されており、車幅方向に延びる基部34Aと、基部34Aの車幅方向両端部から上方に延びる左右の延長部34Bとを備えている。また、バンパリインフォースエクステンション34の後壁部34Cは、アンダメンバ20の連結部20Hの前端20Jと、左右の車幅方向両端部20Aの前壁部20Gとに当接している。
【0023】
バンパリインフォースエクステンション34の左右の延長部34Bの上端34Dはフロントバンパリインフォースメント16の下面16Aの車幅方向両端部に溶接等により結合されている。
【0024】
図5には、アンダメンバ20を構成するFRPの繊維の配向とバンパリインフォースエクステンション34及びフロントサイドメンバ12との関係が車体上方から見た模式図で示されている。図5に示すように、アンダメンバ20を構成するFRPの連続した繊維S1の配向は、バンパリインフォースエクステンション34と、アンダメンバ20の車幅方向両端部20A及び左右のフロントサイドメンバ12とを車体前後方向に対して斜めに繋ぐように配向されている。
【0025】
図3には、図4におけるフロントサイドメンバ12とアンダメンバ20との接合部P1における、フロントサイドメンバ12を構成するFRPの繊維の配向とアンダメンバ20を構成するFRPの繊維の配向との関係が車体上方から見た模式図で示されている。図3に示すように、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aにおける前部20Dの上壁部20Cと、フロントサイドメンバ12の前部12Bの下壁部12Cとの接合部においては、アンダメンバ20を構成するFRPの連続した繊維S1の配向が、車体前後方向に対して斜めに配向されており、フロントサイドメンバ12を構成する連続した繊維S2の配向が車体前後方向に配向されている。
【0026】
なお、バンパリインフォースエクステンション34の左右の延長部34Bは、アンダメンバ20の車幅方向両端部20Aにおける前部20Dの上壁部20Cと、フロントサイドメンバ12の前部12Bの下壁部12Cとの接合部(P1)の車体前方側に配設されており、車体前部が衝突した場合には、バンパリインフォースエクステンション34が接合部P1を直接車体後方へ押圧するようになっている。
【0027】
従って、車体がオフセット衝突して、図6に二点鎖線で示すように、車体右前端部に車体前方から車体後方へ向かって荷重F1が作用し、フロントバンパリインフォースメント16とバンパリインフォースエクステンション34との右側部が車体後方側に変形した場合には、衝突側のフロントサイドメンバ12が車体後方へ押されると同時に、アンダメンバ20の衝突側の車幅方向両端部20Aも車体後方へ押されるようになっている。この際、アンダメンバ20の連結部20Hは自身の圧壊と同時に、車幅方向への荷重成分を伝達可能とした配向の繊維S1によって、荷重F1の一部F2をアンダメンバ20の反衝突側の車幅方向両端部20Aと反衝突側のフロントサイドメンバ12とに伝達することができるようになっている。
【0028】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0029】
上記構成の車体前部構造10が適用された自動車等の車体がオフセット衝突した場合、例えば、図6に示すように、車体右前端部に車体前方から車体後方へ向かって衝突荷重F1が作用した場合には、フロントバンパリインフォースメント16とバンパリインフォースエクステンション34との右側部が車体後方側に変形し、衝突側のフロントサイドメンバ12が荷重F1の一部F3によって車体後方へ押される。このため、衝突側のフロントサイドメンバ12に車体前後方向に沿った軸圧縮荷重が作用する。この軸圧縮荷重が所定値以上である場合、衝突側のフロントサイドメンバ12は、衝突荷重F1の一部F3を支持しつつ前端側から逐次破壊(圧縮を受けて粉砕)される。これにより、オフセット衝突に伴う衝撃エネルギの一部が吸収され車体に伝達(支持)される荷重が緩和される。
【0030】
また、これと同時に、アンダメンバ20の衝突側の車幅方向両端部20Aと連結部20Hの衝突側とが車体後方へ押され、アンダメンバ20の衝突側の車幅方向両端部20Aと連結部20Hの衝突側とに車体前後方向に沿った軸圧縮荷重が作用する。この軸圧縮荷重が所定値以上である場合、衝突側の車幅方向両端部20Aと連結部20Hの衝突側は、衝突荷重F1の一部を支持しつつ前端側から逐次破壊(圧縮を受けて粉砕)される。これにより、オフセット衝突に伴う衝撃エネルギの一部が吸収され、車体に伝達(支持)される荷重が緩和される。
【0031】
また、アンダメンバ20の連結部20Hは、自身の粉砕(圧壊)と同時に、車幅方向への荷重成分を伝達可能とした配向の繊維S1によって、荷重F1の一部F2を反衝突側のフロントサイドメンバ12に伝達する。
【0032】
さらに、バンパリインフォースエクステンション34によっても、荷重F1の一部F4が反衝突側のフロントサイドメンバ12に伝達される。
【0033】
この結果、反衝突側のフロントサイドメンバ12も車体後方へ押され、車体前後方向に沿った軸圧縮荷重が作用する。この軸圧縮荷重が所定値以上である場合、反衝突側のフロントサイドメンバ12は、衝突荷重F1の一部F4を支持しつつ前端側から逐次破壊(圧縮を受けて粉砕)される。これにより、オフセット衝突に伴う衝撃エネルギの一部が吸収され、車体に伝達(支持)される荷重が緩和される。
【0034】
従って、本実施形態では、オフセット衝突時のエネルギ吸収性能を向上できる。なお、車体左前端部に車体前方から車体後方へ向かって荷重が作用した場合にも同様にオフセット衝突時のエネルギ吸収性能を向上できる。
【0035】
また、本実施形態では、アンダメンバ20の連結部20Hが車体前部の下方を覆う平板状のアンダーカバーとなっているため、連結部20Hが空力カバーとして作用することで車体の空力性能を向上できる。さらに、アンダメンバ20の連結部20Hは剛性及び強度が高いため、高速走行時の垂れ下がりも少ない。
【0036】
(第2の実施形態)
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態に係る車体前部構造50について、図7に従って説明する。なお、第1実施形態と同一部材に付いては、同一符号を付してその説明を省略する。
【0038】
図7には、本実施形態における第1実施形態の図4に対応する断面図が示されている。図7に示すように、本実施形態の車体前部構造50では、アンダメンバ20における左右の車幅方向両端部20Aと連結部20Hとがそれぞれ別部材で構成されており、こららの部材を互いに接着等によって結合することで、アンダメンバ20を構成している。
【0039】
従って、本実施形態に係る車体前部構造50によっても、第1実施形態と同様にオフセット衝突時のエネルギ吸収性能を向上できる。
【0040】
〔上記実施形態の補足説明〕
【0041】
以上に於いては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0042】
10 車体前部構造
12 フロントサイドメンバ
16 フロントバンパリインフォースメント
20 アンダメンバ(荷重分散手段)
34 バンパリインフォースエクステンション
50 車体前部構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と樹脂との複合材より成り、車体前部の車幅方向外側部に車体前後方向に延在された左右のフロントサイドメンバと、
前記左右のフロントサイドメンバの前部を互いに連結すると共に、車幅方向への荷重成分を伝達可能とした配向の繊維と樹脂との複合材より成る荷重分散手段と、
を有する車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−208605(P2010−208605A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60079(P2009−60079)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】