説明

車体前部構造

【課題】一つの衝突センサによって正面衝突はもとより、左右いずれか一方の側のみが衝突するオフセット衝突も検出することを保証した上で、衝突センサに手や物が当たることによって衝突センサが衝突を誤って検出することを回避すること。
【解決手段】車体前部において車幅方向に延在するバルクヘッドアッパフレーム10を、略矩形の閉断面形状部分12と閉断面形状部分12より下方へ延出した下フランジ部11とにより構成し、閉断面形状部分13には閉断面形状部分13より垂下されて下フランジ11より車体後方に位置するセンサ取付用ブラケット30を固定装着し、下フランジ11の車体後方位置に配置されるように衝突センサ40をセンサ取付用ブラケット30に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関し、特に、車体前部に衝突センサを配置される車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、車両の減速度によって前方衝突を検出し、車室内に設けられている乗員保護用のエアバックを展開させるために、車体前部に衝突センサ(加速度センサ)が配置されている。
【0003】
この衝突センサの取付配置としては、車体前部配置のラジエータを取り囲むよう配置されたラジエータシュラウドより車体前方位置に、車幅方向に延在するバンバレインフォースメントを配置し、ラジエータシュラウドのアッパメンバ(バルクヘッドアッパフレーム)の車幅方向中央部に高剛性部材を取り付け、高剛性部材とバンバレインフォースメントとを連結部材によって連結し、連結部材の前記高剛性部材に対する取付フランジにするに衝突センサを取り付けたものがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
この衝突センサの取付配置によれば、一つの衝突センサによって、低位、高位の何れの正面衝突は勿論のこと、左右いずれか一方の側のみが衝突するオフセット衝突も検出することができる利点がある。
【特許文献1】特許第4045760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術では、バルクヘッドアッパフレーム前部に開放された空間に衝突センサが存在するので、保守点検時等に、外部から手や物が誤って衝突センサに当たる虞がある。衝突センサに手や物が当たると、衝突センサが衝突を誤検出し、エアバックが不必要に展開する虞がある。このため、従来は、衝突センサを保護する別体のカバーを設けることが行われている。
【0006】
また、フロントバンパからバルクヘッドアッパフレームまでの車体前後方向の距離が短い車両では、エアバックが展開する必要がない低速衝突(軽衝突)時に、衝突センサが衝突を検出し、エアバックが不必要に展開する虞がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、一つの衝突センサによって正面衝突はもとより、左右いずれか一方の側のみが衝突するオフセット衝突も検出することを保証した上で、衝突センサに手や物が当たることによって衝突センサが衝突を誤って検出することを回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による車体前部構造は、車体前部において車幅方向に延在するバルクヘッドアッパフレームが略矩形の閉断面形状部分と当該閉断面形状部分より下方へ延出した下フランジ部とにより構成され、前記閉断面形状部分には当該閉断面形状部分より垂下されて前記下フランジより車体後方に位置するセンサ取付用ブラケットが固定装着されており、前記下フランジの車体後方位置に配置されるように衝突センサが前記センサ取付用ブラケットに取り付けられている。
【0009】
この車体前部構造によれば、衝突センサが下フランジの車体後方位置にあり、車体前方から後方を視て、衝突センサが下フランジによって隠され、下フランジがバリアとなって外部(車体前方)から手や物が衝突センサに当たらない。これにより、衝突センサの保護カバーを設ける必要がなくなる。
【0010】
本発明による車体前部構造は、好ましくは、前記バルクヘッドアッパフレームが、当該バルクヘッドアッパフレームの車幅方向の両端より下方に垂下したサイドステーによって、車体前後方向に延在するフロントサイドフレームの車体前方側の先端部より所定量車体後方の部位に結合(連結)されている。
【0011】
この車体前部構造によれば、フロントバンパからバルクヘッドアッパフレームまでの車体前後方向の距離が短い車両でも、低速衝突(軽衝突)時には、フロントサイドフレームの先端のみが潰れ、衝突エネルギが衝突センサに伝達されず、衝突センサが衝突を検出しない。これにより、低速衝突(軽衝突)時にエアバックが不必要に展開動作することがない。
【0012】
本発明による車体前部構造によれば、好ましくは、前記衝突センサが車幅方向の中央部位に配置されている。
【0013】
この車体前部構造によれば、一つの衝突センサによって、センタステー等を必要とすることなく、正面衝突、左右のオフセット衝突を検出する所望のセンシング性能を満たすことができる。
【0014】
本発明による車体前部構造は、好ましくは、更に、前記バルクヘッドアッパフレームの前壁部にエネルギ吸収部材が設置されている。
【0015】
この車体前部構造によれば、前突荷重をエネルギ吸収部材によって受け、エネルギ吸収部材が衝突エネルギを吸収するので、衝突センサに入力する減速度(G)をコントロールすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明による車体前部構造によれば、衝突センサが下フランジの車体後方位置にあり、車体前方から後方を視て、衝突センサが下フランジによって隠され、下フランジがバリアとなって外部(車体前方)から手や物が衝突センサに当たらない。これにより、一つの衝突センサによって、正面衝突はもとより、左右いずれか一方の側のみが衝突するオフセット衝突も検出することを保証した上で、衝突センサが衝突を誤って検出することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明による車体前部構造の一つの実施形態を、図1〜図5を参照して説明する。
【0018】
車体前部構造体として、車体前部において車幅方向に略水平に延在するバルクヘッドアッパフレーム10が設けられている。バルクヘッドアッパフレーム10は、図4に示されているように、プレス鋼板製の上メンバ10Aと下メンバ10Bとを、互いの下フランジ11、後フランジ12の各々にてスポット溶接したものであり、略矩形の閉断面形状部分13を有する。下フランジ部11は、閉断面形状部分13の前部より下方へ延出(垂下)され、カーテン状をなしている。
【0019】
図5に示されているように、バルクヘッドアッパフレーム10の閉断面形状部分13の車幅方向の両端部には左右のサイドステー14の上端部が溶接により接合されている。左右のサイドステー14は、各々、溝形にプレス成形された鋼板製のものであり、略鉛直配置で、閉断面形状部分13の車幅方向の両端より下方に垂下し、下端部にて車幅方向に略水平に延在するパイプ鋼によるバルクヘッドロアフレーム15と溶接によって結合されている。
【0020】
バルクヘッドロアフレーム15の車幅方向の端部は、サイドステー14との結合部より車幅方向外方に延出し、上側にて左右のフロントピラー17(図1参照)に繋がるプレス鋼板製の左右のフロントロアメンバ16の先端部に溶接によって結合されている。
【0021】
左右のサイドステー14は、上下方向中間部において車体前後方向に延在するプレス鋼板製の左右のフロントサイドフレーム18に溶接によって結合されている。サイドステー14とフロントサイドフレーム18との結合位置は、フロントサイドフレーム18の車体前方側の先端部18Aより所定量車体後方の部位にあり、フロントサイドフレーム18の先端部18Aがサイドステー14の前壁部14Aより車体前方に位置している。
【0022】
左右のサイドステー14は、各々、上端近傍部をコネクティングメンバ20によってフロントロアメンバ16の中間部に溶接によって結合されている。
【0023】
左右のフロントサイドフレーム18の先端部18Aには、左右のフロントサイドフレーム18を互いに連結するようにプレス鋼板製のフロントバンパビーム19の車幅方向の端部が溶接によって結合されている。フロントバンパビーム19は、車幅方向に略水平に延在しており、前部にエラストマ製のフロントバンパフェース21(図1参照)を取り付けられる。
【0024】
図1〜図3に示されているように、バルクヘッドアッパフレーム10の車幅方向の略中央部には、フードロック解除レバー23を回動可能に取り付けられたレバー取付ブラケット24がねじ22によって固定装着されている。
【0025】
図2〜図4に示されているように、バルクヘッドアッパフレーム10の閉断面形状部分13の車幅方向の略中央部の下底壁(下メンバ10Bの下底部外壁)にはプレス鋼板製の上下反転L字形のセンサ取付用ブラケット30の上片30Aが溶接によって固定装着されている。センサ取付用ブラケット30は、上片30Aより折曲して閉断面形状部分13より下方に垂下された垂下片30Bを有し、その全体が下フランジ11より車体後方にある。センサ取付用ブラケット30の垂下片30Bは、下フランジ11より車体後方にあって下フランジ11と略水平に延在し、下端部30Cは下フランジ11の下端部11Aより下方にある。
【0026】
垂下片30Bの車体方向前側の面には衝突センサ40が取り付けられている。この衝突センサ40が取付構造の詳細を以下に説明する。
【0027】
衝突センサ40は、図示されていないセンサ本体を内蔵し電気コネクタ41を有する本体ケーシング部42と、本体ケーシング部42の下部に連続し取付ねじ通し孔43を貫通形成された取付座部44とを有する。電気コネクタ41には車体幅方向より接続ケーブル側コネクタ25が抜き差し可能に接続される。
【0028】
センサ取付用ブラケット30の垂下片30Bの下端近傍、詳細には、下フランジ11の下端部11Aより下方に位置する部位には、ねじ通し孔31が貫通形成されており、その裏面にナット32が溶接されている。
【0029】
衝突センサ40は、取付座部44の取付ねじ通し孔43と垂下片30Bのセンサ取付用ブラケット30のねじ通し孔31とに通され、ナット32にねじ係合する取付ねじ33によってセンサ取付用ブラケット30にねじ止め固定されている。ねじ通し孔31が下フランジ11の下端部11Aより下方にあることにより、取付ねじ33を、取付ねじ通し孔43、31に通し、ナット32にねじ締結する作業は、バルクヘッドアッパフレーム10の前方より障害なく行うことができる。
【0030】
衝突センサ40は下フランジ11の車体後方位置にあり、車体前方から後方を視て、衝突セン40、特に本体ケーシング部42が下フランジ11によって隠される。これにより、下フランジ11がバリアとなって外部(車体前方)から手や物が、衝突センサ40の特に本体ケーシング部42に当たらない。これにより、衝突センサ40の保護カバーを別途設ける必要がなくなる。
【0031】
上述したように、衝突センサ40がバルクヘッドアッパフレーム10の車幅方向の略中央部(レバー取付ブラケット24のバルクヘッドアッパフレーム10に対する取付部に隣接する部位)に配置されていることにより、一つの衝突センサ40によって、正面衝突はもとより、左右いずれか一方の側のみが衝突するオフセット衝突も検出することを保証した上で、衝突センサ40の特に本体ケーシング部42に、手や物が当たることに起因して衝突センサ40が衝突を誤って検出することが未然に回避される。
【0032】
左右のオフセット衝突のG伝達は左右のサイドステー14よりバルクヘッドアッパフレーム10へ行われ、衝突センサ40がバルクヘッドアッパフレーム10の車幅方向の中央部位に配置されているから、一つの衝突センサ40によって、センタステー等を必要とすることなく、正面衝突、左右のオフセット衝突を検出する所望のセンシング性能を満たすことができる。
【0033】
また、衝突センサ40を取り付けられているバルクヘッドアッパフレーム10がサイドステー14によってフロントサイドフレーム18に結合される結合点がフロントサイドフレーム18の車体前方側の先端部18Aより所定量車体後方の部位にあることにより、フロントバンパビーム19からバルクヘッドアッパフレーム10までの車体前後方向の距離が短い車両でも、低速衝突(軽衝突)時には、フロントサイドフレーム18の先端のみが潰れ、衝突エネルギがそのまま衝突センサ40に伝達されることがない。これにより、低速衝突(軽衝突)時には、衝突センサ40が衝突を検出することがなく、低速衝突(軽衝突)時にエアバックが不必要に展開動作することがない。
【0034】
また、衝突センサ40の車両後方のクリアランス(ストロークエリア)は、本実施形態では、図4に示されているように、センサ取付用ブラケット30の垂下片30Bとエンジンルーム内配管25との車体前後方向のストロークSにより決まり、エンジンルーム内配管25の配置の選定により、エアバック展開の減速度が衝突センサ40に適切に作用することを阻害しないよう、ストロークSを適正値に設定することができる。
【0035】
衝突時に、衝突センサ40が後方配置の剛体に干渉すると、衝突センサ40に作用する衝突Gが減少するが、上述のストロークSを適正値にすることにより、衝突Gを適正に上げることができ、エアバックの正常な展開を保証することができる。
【0036】
他の実施形態として、図6に示されているように、バルクヘッドアッパフレーム10、サイドステー14の前壁部に、箱形をした樹脂製あるいは板金製のエネルギ吸収部材50が設置されてよい。
【0037】
この実施形態によれば、前突荷重をエネルギ吸収部材50によって受け、エネルギ吸収部材50が衝突エネルギの一部を吸収するので、衝突センサ40に入力する減速度(G)をコントロールすることができ、衝突センサ40が衝突検出する衝突の度合いを、衝突センサ40の感度に依存することなく要求値に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による車体前部構造の一つの実施形態を示す正面図である。
【図2】本実施形態による車体前部構造の要部の拡大正面図である。
【図3】本実施形態による車体前部構造の要部を下方より見上げた拡大正面図である。
【図4】図2の線A−Aに沿った拡大断面図である。
【図5】本実施形態による車体前部構造の斜視図である。
【図6】他の実施形態による車体前部構造の斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
10 バルクヘッドアッパフレーム
11 下フランジ
12 後フランジ
13 閉断面形状部分
14 サイドステー
15 バルクヘッドロアフレーム
16 フロントロアメンバ
17 フロントピラー
18 フロントサイドフレーム
19 フロントバンパビーム
20 コネクティングメンバ
21 フロントバンパフェース
23 フードロック解除レバー
24 レバー取付ブラケット
30 センサ取付用ブラケット
31 取付ねじ通し孔
40 衝突センサ
41 電気コネクタ
42 本体ケーシング部
43 取付ねじ通し孔
44 取付座部
50 エネルギ吸収部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部において車幅方向に延在するバルクヘッドアッパフレームが略矩形の閉断面形状部分と当該閉断面形状部分より下方へ延出した下フランジ部とにより構成され、
前記閉断面形状部分には当該閉断面形状部分より垂下されて前記下フランジより車体後方に位置するセンサ取付用ブラケットが固定装着されており、前記下フランジの車体後方位置に配置されるように衝突センサが前記センサ取付用ブラケットに取り付けられている車体前部構造。
【請求項2】
前記バルクヘッドアッパフレームが、当該バルクヘッドアッパフレームの車幅方向の両端より下方に垂下したサイドステーによって、車体前後方向に延在するフロントサイドフレームの車体前方側の先端部より所定量車体後方の部位に結合されている請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記衝突センサは車幅方向の中央部位に配置されている請求項1または2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記バルクヘッドアッパフレームの前壁部にエネルギ吸収部材が設置されている請求項1から3の何れか一項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−30420(P2010−30420A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194537(P2008−194537)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】