説明

車体前部構造

【課題】設計自由度を高めつつ、アクセルペダルブラケットの支持剛性を効率よく高めることができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】ダッシュボードクロスメンバ23を左右に分割構成し、左側に位置する左クロスメンバ23aと、右側に位置する右クロスメンバ23bとをステアリングジョイントカバー21を介して接合し、これら左クロスメンバ23a、右クロスメンバ23b、およびステアリングジョイントカバー21を一体化すると共に、ダッシュボードロア10とステアリングジョイントカバー21との重なり部94に、アクセルペダルブラケット32を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンルームとキャビン(車室)とを仕切るダッシュボードロア(ダッシュパネル)には、アクセルペダル等が取り付けられている。ダッシュボードロアは、エンジンルームとキャビンとを仕切るだけの部品であるので、軽量化のために薄板で形成されている場合が多い。このような場合、ダッシュボードロアのみでアクセルペダルを支持することが困難なので、ダッシュボードロアにアクセルペダルブラケットを介してアクセルペダルを取り付けている。
【0003】
ここで、アクセルペダルブラケットは十分な支持剛性を必要とするが、この支持剛性を効率よく高めるためにさまざまな技術が開示されている。
例えば、ブレーキペダルブラケットと、その下方のアクセルペダルブラケットとの間にアクセルペダルストッパを配置し、その上方屈曲端部をブレーキペダルブラケットの幅広フランジに、下方屈曲端部をアクセルペダルブラケットの上面にそれぞれ固定した技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
これによれば、ブレーキペダルブラケットとアクセルペダルブラケットとの間に配置されたアクセルペダルストッパの両端部が、それぞれ両ペダルブラケットに固定されているので、車体に強固に支持されているブレーキペダルブラケットに対して、アクセルペダルストッパを介してアクセルペダルブラケットが支持される結果、アクセルペダルブラケットの剛性が増大し、さらに、アクセルペダルストッパの剛性も増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−24471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、ブレーキペダルブラケットとアクセルペダルブラケットとを近接配置する必要があるので、設計自由度が低下するという課題がある。
【0007】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、設計自由度を高めつつ、アクセルペダルブラケットの支持剛性を効率よく高めることができる車体前部構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、ダッシュボードロア(例えば、実施形態におけるダッシュボードロア10)のエンジンルーム(例えば、実施形態におけるエンジンルーム2)側の面に、ステアリングシャフト(例えば、実施形態におけるステアリングシャフト72)側とステアリングギヤボックス(例えば、実施形態におけるステアリングギヤボックス74)側とを接続するジョイント部材(例えば、実施形態におけるユニバーサルジョイント76)を囲繞するように形成されたステアリングジョイントカバー(例えば、実施形態におけるステアリングジョイントカバー21)を設けると共に、前記ダッシュボードロアの左右方向に沿って延在するダッシュボードクロスメンバ(例えば、実施形態におけるダッシュボードクロスメンバ23)を設けた車体前部構造(例えば、実施形態における車体前部構造1)であって、前記ダッシュボードクロスメンバを左右に分割構成し、左側に位置する左クロスメンバ(例えば、実施形態における左クロスメンバ23a)と、右側に位置する右クロスメンバ(例えば、実施形態における右クロスメンバ23b)とを前記ステアリングジョイントカバーを介して接合し、これら左クロスメンバ、右クロスメンバ、およびステアリングジョイントカバーを一体化すると共に、前記ダッシュボードロアと前記ステアリングジョイントカバーとの重なり部(例えば、実施形態における重なり部94)に、アクセルペダルブラケット(例えば、実施形態におけるアクセルペダルブラケット32)を設けたことを特徴とする。
【0009】
ダッシュボードロアとステアリングジョイントカバーとの重なり部は、両者が重なっている分、剛性が高くなる。そして、ここにアクセルペダルブラケットを固定することにより、アクセルペダルブラケットの支持剛性を効率よく高めることができる。
また、従来のように、アクセルペダルブラケットの近傍にブレーキペダルブラケットを配置することなく、アクセルペダルブラケットの支持剛性を高めることができる。このため、設計自由度を高めることが可能になる。
【0010】
請求項2に記載した発明は、前記ダッシュボードロアは、縦壁(例えば、実施形態における縦壁11)と、この縦壁の下部から後方に向けて下り勾配となるように延出する傾斜壁(例えば、実施形態における傾斜壁12)とを有し、前記ステアリングジョイントカバーは、前記縦壁と前記傾斜壁との境界部(例えば、実施形態における境界部71)近傍に配置されていることを特徴とする。
【0011】
縦壁と傾斜壁との境界部は屈曲しているので、ここにステアリングジョイントカバーを配置することにより、ダッシュボードロアとステアリングジョイントカバーとの間の空間を増大することができる。このため、ステアリングジョイントカバーを必要以上に大きくすることなく、確実にジョイント部材を囲繞することができる。
ここで、ステアリングジョイントカバー内のシール性を高めるために、ダッシュボードロアのステアリングジョイントカバーが取り付けられている面とは反対側の面に、ステアリンググロメットを取り付けることがある。このような場合、ダッシュボードロアにステアリンググロメットの取付クリップを差込むようにしてステアリンググロメットを固定することがある。ダッシュボードロアに取付クリップを差込むと、この取付クリップがステアリングジョイントカバー側に向かって突出することになるが、ダッシュボードロアとステアリングジョイントカバーとの間の空間が十分確保されるので、ステアリングジョイントカバーと取付クリップとの干渉を回避することができる。
【0012】
請求項3に記載した発明は、前記ステアリングジョイントカバーは、これと前記ダッシュボードロアとの間に、シール材(例えば、実施形態におけるシール材69)を介在させて取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
このように構成することで、ダッシュボードロアとステアリングジョイントカバーとの間から塵埃や水が浸入してしまうことを確実に防止できる。
【0014】
請求項4に記載した発明は、前記ダッシュボードクロスメンバは、前記縦壁と前記傾斜壁との境界部に沿って配置され、前記左クロスメンバは、前記ダッシュボードロアの左側に設けられている左フロントサイドフレーム(例えば、実施形態における左フロントサイドフレーム4a)に接合されていると共に、前記右クロスメンバは、前記ダッシュボードロアの右側に設けられている右フロントサイドフレーム(例えば、実施形態における右フロントサイドフレーム4b)に接合されていることを特徴とする。
【0015】
このように構成することで、ダッシュボードロアの剛性を高めることができる。
【0016】
請求項5に記載した発明は、前記ステアリングジョイントカバーの肉厚(例えば、実施形態における肉厚T1)は、前記ダッシュボードクロスメンバの肉厚(例えば、実施形態における肉厚T2)よりも厚肉に設定され、前記ダッシュボードクロスメンバを直線状に形成したことを特徴とする。
【0017】
このように構成することで、ジョイント部材を支持するための支持剛性を高めることができると共に、ダッシュボードロアの剛性をさらに高めることができる。
また、ステアリングジョイントカバーの剛性を高める結果、アクセルペダルブラケットの支持剛性をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダッシュボードロアとステアリングジョイントカバーとの重なり部は、両者が重なっている分、剛性が高くなるので、ここにアクセルペダルブラケットを固定することにより、アクセルペダルブラケットの支持剛性を効率よく高めることができる。
また、従来のように、アクセルペダルブラケットの近傍にブレーキペダルブラケットを配置することなく、アクセルペダルブラケットの支持剛性を高めることができる。このため、設計自由度を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをキャビン側からみた斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをキャビン側からみた平面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをエンジンルーム側からみた平面図である。
【図4】図2のA部拡大図である。
【図5】図4のB−B線に沿う断面図である。
【図6】図4のC−C線に沿う断面斜視図である。
【図7】本発明の実施形態におけるステアリンググロメットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(車体前部構造)
(ダッシュボードロア)
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、車両の進行方向前方を単に前方、進行方向後方を単に後方、車幅方向右方を単に右方、車幅方向左方を単に左方、重力方向上方を単に上方、重力方向下方を単に下方などと表現して説明する場合がある。
図1は、ダッシュボードロアをキャビン側からみた斜視図、図2は、ダッシュボードロアをキャビン側からみた平面図、図3は、ダッシュボードロアをエンジンルーム側からみた平面図である。
【0021】
図1〜図3に示すように、車体前部構造1は、前方に配置されてエンジンルーム2の左右枠部を構成するフロントサイドフレーム4a,4bと、これらフロントサイドフレーム4a,4bの後方であって、かつ左右外側に配置され、上下方向に延びるフロントピラー5a,5bと、両フロントサイドフレーム4a,4bの上方に配置され、各々前端がフロントサイドフレーム4a,4bの前端に接合されると共に、各々後端がフロントピラー5a,5bに接合されるアッパメンバ6a,6bと、エンジンルーム2とこの後方に配置されているキャビン3とを仕切り、フロントサイドフレーム4a,4b、フロントピラー5a,5b、およびアッパメンバ6a,6bに接合されるダッシュボードロア10と、ダッシュボードロア10の下縁に接合されているフロアパネル9とを備えている。
【0022】
ダッシュボードロア10は、平板状の金属部材にプレス加工等を施して形成されたものであって、上下方向に沿う縦壁11と、縦壁11の下部から後方に向けて下り勾配に延出する傾斜壁12とを有し、左右両側にそれぞれホイールハウス部16a,16bが設けられている。
【0023】
各ホイールハウス部16a,16bは、それぞれキャビン3側に向かって膨出形成されており、これらホイールハウス部16a,16bの上部に、それぞれガセット18a,18bが設けられている。
各ガセット18a,18bの車幅方向中央側端部には、ダッシュボードロア10を挟んで各フロントサイドフレーム4a,4bの後端がスポット溶接により接合されている。一方、各ガセット18a,18bの車幅方向外側端部には、それぞれフロントピラー5a,5bがスポット溶接により接合されている。
【0024】
ダッシュボードロア10における縦壁11の上縁には、後方に向かって屈曲延出する屈曲部27が形成されている。この屈曲部27には、上方に向かって突出し、かつ前後方向に沿うビード49が屈曲部27の長手方向に沿って複数形成されている。
一方、傾斜壁12の車幅方向中央には、上方に向かって膨出するトンネル部13が一体形成されている。このトンネル部13を挟んで左側を運転席側ステップ部14とし、右側を助手席側ステップ部15としている。
【0025】
また、縦壁11の屈曲部27とトンネル部13との間には、上下方向に沿って延在するセンタフレーム28が設けられている。このセンタフレーム28は、ダッシュボードロア10の剛性を高めるための補強部材である。
【0026】
運転席側ステップ部14における、縦壁11と傾斜壁12との境界部71には、エンジンルーム2とキャビン3とを連通するステアリング用開口部20が形成されている。このステアリング用開口部20は、後述のステアリングシャフト72やユニバーサルジョイント76を挿通するためのものである。ステアリング用開口部20には、これを閉塞するステアリングジョイントカバー21が取り付けられている。
【0027】
(ステアリングジョイントカバー)
図4は、図2のA部拡大図、図5は、図4のB−B線に沿う断面図、図6は、図4のC−C線に沿う断面斜視図である。
ここで、ステアリング用開口部20に挿通されているステアリングシャフト72について説明する。図3〜図6に示すように、ステアリングシャフト72は、キャビン3側に設けられているステアリングハンドル73の回転を、エンジンルーム2側に設けられているステアリングギヤボックス74まで伝達する機構である。
【0028】
ステアリングシャフト72は、ステアリングハンドル73の下端に連結されている第1シャフト75と、この第1シャフト75の下端にユニバーサルジョイント76を介して一端が屈曲可能に連結されている第2シャフト77とを有している。そして、この第2シャフト77の他端がステアリングギヤボックス74に連結されている。
【0029】
ダッシュボードロア10には、ステアリング用開口部20の周囲に、ステアリングジョイントカバー21がエンジンルーム2側から取り付けられている。ステアリングジョイントカバー21は、ステアリング用開口部20を閉塞するように形成されている。
より詳しくは、ステアリングジョイントカバー21は、エンジンルーム2側に向かって膨出形成されたカップ状のカバー本体78と、カバー本体78の開口縁に形成されている外フランジ部79とにより構成されている。
【0030】
カバー本体78は、この開口縁がダッシュボードロア10に形成されているステアリング用開口部20よりも外側に位置するように形成されている。また、カバー本体78の底壁78aには、ステアリングシャフト72やユニバーサルジョイント76を挿通するためのジョイント挿入口22が形成されている。
一方、外フランジ部79の上部には、フランジビード80が形成されている。外フランジ部79は、この外フランジ部79とダッシュボードロア10との間にシール材69を介在させた状態で、ダッシュボードロア10にスポット溶接により接合されている。
【0031】
ここで、ダッシュボードロア10には、フランジビード80に対応する位置にビード8が形成されている。すなわち、フランジビード80の稜線80aとビード8の稜線8aは、互いに重なり合った状態になっている。
また、ダッシュボードロア10の境界部71の近傍であって、かつステアリング用開口部20を挟んで両側には、ステアリングジョイントカバー21よりも内側に、1対のグロメット取付孔81,81が形成されている。これらグロメット取付孔81,81は、後述のステアリンググロメット82を取り付けるためのものである。
【0032】
(アクセルペダルブラケット)
また、図4、図5に示すように、ダッシュボードロア10のキャビン3側の面には、ステアリング用開口部20よりも右上に、アクセルペダルブラケット32が設けられている。アクセルペダルブラケット32は、不図示のアクセルペダルを取り付けるための金属製の補強板であって、上端部91から斜め右下の下端部92に向かうに従って漸次先細りとなるよう形成されている。
【0033】
そして、上端部91にスポット溶接部91aが3箇所等間隔に設定されていると共に、下端部92にスポット溶接部92aが1箇所設定されている。さらに、上端部91と下端部93との間の中央部93に、スポット溶接部93aが1箇所設定されている。
ここで、ダッシュボードロア10のエンジンルーム2側の面に設けられているステアリングジョイントカバー21は、このカバー本体78の開口縁がステアリング用開口部20よりも外側に位置するように形成されているので、ステアリングジョイントカバー21のダッシュボードロア10を挟んで反対側に、アクセルペダルブラケット32が位置した状態になる。
【0034】
さらに、アクセルペダルブラケット32における、上端部91のスポット溶接部91aのうち、左端に存在するスポット溶接部91aと、下端部92のスポット溶接部92aと、中央部93のスポット溶接部93aは、それぞれステアリングジョイントカバー21の外フランジ部79とダッシュボードロア10との重なり部94に位置している。すなわち、これらスポット溶接部91a,92a,93aにスポット溶接を行うことによって、ステアリングジョイントカバー21の外フランジ部79、ダッシュボードロア10、およびアクセルペダルブラケット32の3枚の金属板が纏めて溶接されることになる。
【0035】
また、アクセルペダルブラケット32には、上端部91と中央部93との間、および中央部93と下端部92との間に、それぞれキャビン3側に向かって隆起させた凸部95,96が形成されている。これら凸部95,96は、不図示のアクセルペダルを取り付ける座面として構成されている部位であって、複数のビス孔97が形成されている。これらビス孔97に、エンジンルーム2側から不図示のアクセルペダルを取り付けるためのビス98が挿入されている。
【0036】
このように取り付けられたアクセルペダルブラケット32との干渉を回避するように、ステアリング用開口部20のキャビン3側には、ステアリンググロメット82が取り付けられている(図7参照)。
【0037】
(ステアリンググロメット)
図7は、ステアリンググロメットの斜視図である。
同図に示すように、ステアリンググロメット82は樹脂により形成されたものであって、ダッシュボードロア10のキャビン3側の面に、ステアリング用開口部20を閉塞するように設けられている。ステアリンググロメット82は、ステアリング用開口部20を閉塞するフランジ部83と、フランジ部83の中央からキャビン3側に向かって隆起するグロメット本体84とにより構成されている。
【0038】
フランジ部83は、ステアリング用開口部20よりも大きく形成されていると共に、アクセルペダルブラケット32に対応する箇所に、切り欠き部83aが形成されている。この切り欠き部83aを形成することにより、ステアリンググロメット82とアクセルペダルブラケット32との干渉を回避できるようになっている。
また、フランジ部83の外周部とステアリング用開口部20の周囲とが重なり合う部位には、ダッシュボードロア10に形成されているグロメット取付孔81,81に対応する位置に、取付クリップ85,85がエンジンルーム側に向かって突設されている。
【0039】
グロメット取付孔81,81に、それぞれ取付クリップ85,85を挿入すると、これら取付クリップ85,85がダッシュボードロア10からエンジンルーム2側、つまり、ステアリングジョイントカバー21側に向かって突出した状態になり、両者81,85が係合される。これにより、ダッシュボードロア10にステアリンググロメット82が固定される。
【0040】
ここで、ステアリングジョイントカバー21は、ステアリング用開口部20を閉塞するように取り付けられていることから、ダッシュボードロア10の境界部71上に設けられていることになる。境界部71は、縦壁11と傾斜壁12との接続部分であるから屈曲しており、ここにステアリングジョイントカバー21が取り付けられているので、ダッシュボードロア10とステアリングジョイントカバー21のカバー本体78との間の距離L1(図6参照)が十分確保される。
【0041】
これに加え、ダッシュボードロア10の境界部71の近傍にグロメット取付孔81が形成されている。すなわち、ダッシュボードロア10とステアリングジョイントカバー21のカバー本体78との間の十分空間が確保されている箇所に、ステアリンググロメット82の取付クリップ85が突出するようになっている。このため、この取付クリップ85とステアリングジョイントカバー21との干渉を防止できる。
【0042】
一方、グロメット本体84は、ステアリングシャフト72の周囲を取り囲むように形成された筒状部材の一部が、ステアリングシャフト72(第1シャフト75)の軸方向に沿うように斜めに配置されてフランジ部83から隆起したものである。すなわち、グロメット本体84は、この先端に形成されているシャフト挿入口86が斜め上方に向かうように形成されている。また、グロメット本体84の先端には、先窄み部88が形成されている。
【0043】
さらに、シャフト挿入口86の周縁には、上下方向に1対のスリット87a,87bが形成されている。これらスリット87a,87bにより、グロメット本体84の先窄み部88が可撓可能に形成される。1対のスリット87a,87bのうち、上方に形成されているスリット87aは、シャフト挿入口86の周縁からフランジ部83の外周縁に至る間に形成されている。これにより、ステアリングシャフト72にステアリンググロメット82を容易に装着することができる。
【0044】
(ダッシュボードクロスメンバ)
図3に戻り、ダッシュボードロア10のエンジンルーム2側の面には、ステアリングジョイントカバー21に対応する位置に、左右のフロントサイドフレーム4a,4bに跨るダッシュボードクロスメンバ23が直線状に設けられている。ステアリングジョイントカバー21は、ダッシュボードロア10の境界部71上に設けられていることから、この境界部71に沿ってダッシュボードクロスメンバ23が配置されていることになる。
【0045】
ダッシュボードクロスメンバ23は、ダッシュボードロア10の剛性を高めたり前突荷重を分散させたりするためのものであって、断面略ハット型形状に形成されている。そして、ダッシュボードクロスメンバ23の開口側をダッシュボードロア10側に向けてスポット溶接により接合し、閉断面構造部を形成している。
【0046】
また、ダッシュボードクロスメンバ23は、ステアリングジョイントカバー21を挟んで左右に分割構成されている。すなわち、ダッシュボードクロスメンバ23は、左クロスメンバ23aと右クロスメンバ23bとにより構成されている。
そして、それぞれ左右のクロスメンバ23a,23bの一端がステアリングジョイントカバー21にスポット溶接により接合されている。すなわち、左右のクロスメンバ23a,23bは、ステアリングジョイントカバー21を介して連結した状態になっている。一方、左クロスメンバ23aの他端は、左側に配置されている左フロントサイドフレーム4aにスポット溶接により接合されている。さらに、右クロスメンバ23bの他端は、右側に配置されている右フロントサイドフレーム4bにスポット溶接により接合されている。
【0047】
なお、図3、図4中、Mは、ダッシュボードロア10と、ステアリングジョイントカバー21、ダッシュボードクロスメンバ23、マスタシリンダスチフナ25、制振材固定パネル26(後述する)、およびセンタフレーム28とのスポット溶接部を示している。
【0048】
ここで、ステアリングジョイントカバー21の肉厚T1は、ダッシュボードクロスメンバ23の肉厚T2よりも厚肉に設定されている(図6参照)。これにより、ステアリングジョイントカバー21によるステアリングシャフト72やユニバーサルジョイント76の支持剛性を高めることができるようになっている。
【0049】
また、ダッシュボードロア10のキャビン3側の面には、右クロスメンバ23bに対応する部位に、左右方向に長くなるように凹部31が形成されている。凹部31は、ダッシュボードロア10をエンジンルーム2側に向かって膨出形成することにより形成される。これにより、ダッシュボードロア10のダッシュボードクロスメンバ23に対応する部位の剛性をさらに高めることができる。
【0050】
この他に、ダッシュボードロア10を構成する縦壁11のキャビン3側の面には、ステアリング用開口部20よりも左上側に、不図示のブレーキマスタシリンダを取り付けるための取付孔33が形成されている。
この取付孔33の周囲には、マスタシリンダスチフナ25が設けられている。マスタシリンダスチフナ25は、平板状の金属部材にプレス加工等を施して凹凸が形成されているものであって、ここに不図示のブレーキマスタシリンダが取り付けられるようになっている。
【0051】
さらに、縦壁11には、トンネル部13よりも右側の上部に、制振材固定パネル26が設けられている。制振材固定パネル26は、ダッシュボードロア10の制振材として貼付された不図示のメルシートを固定するためのものであって、平板状の金属部材にプレス加工等を施して凹凸が形成されている。
【0052】
(効果)
したがって、上述の実施形態によれば、アクセルペダルブラケット32における、上端部91のスポット溶接部91aのうち、左端に存在するスポット溶接部91aの位置と、下端部92のスポット溶接部92aの位置と、中央部93のスポット溶接部93aの位置とを、それぞれステアリングジョイントカバー21の外フランジ部79とダッシュボードロア10との重なり部94に対応する位置に設定しているので、アクセルペダルブラケット32の支持剛性を効率よく高めることができる。
【0053】
換言すれば、ステアリングジョイントカバー21の外フランジ部79、ダッシュボードロア10、およびアクセルペダルブラケット32の3枚の金属板を纏めて溶接しているので、纏めて溶接する分、アクセルペダルブラケット32の支持剛性を高めることができる。
また、ステアリングジョイントカバー21を利用してアクセルペダルブラケット32の支持剛性を高めているので、不図示のブレーキペダルの設計自由度を高めることができる。
【0054】
さらに、ダッシュボードロア10の縦壁11と傾斜壁12との境界部71にステアリングジョイントカバー21を設けることにより、ダッシュボードロア10とステアリングジョイントカバー21のカバー本体78との間に十分空間を確保することができる。そして、この空間にステアリンググロメット82の取付クリップ85が突出するように構成されているので、この取付クリップ85とステアリングジョイントカバー21との干渉を防止できる。また、ステアリングジョイントカバー21を必要以上に大きくすることなく、確実にユニバーサルジョイント76周辺を囲繞することができる。
【0055】
そして、ダッシュボードロア10とステアリングジョイントカバー21の外フランジ部79との間にシール材69を介在させている。このため、ダッシュボードロア10とステアリングジョイントカバー21との間から、塵埃や水が浸入してしまうことを確実に防止できる。
【0056】
また、ダッシュボードロア10の境界部71に沿ってダッシュボードクロスメンバ23を配置し、左右のクロスメンバ23a,23bの一端をステアリングジョイントカバー21にスポット溶接により接合する一方、他端を対応する左右のフロントサイドフレーム4a,4bにスポット溶接により接合している。このため、ダッシュボードクロスメンバ23を強固に固着することができ、この結果ダッシュボードロア10の剛性を高めることができる。
【0057】
さらに、ステアリングジョイントカバー21の肉厚T1を、ダッシュボードクロスメンバ23の肉厚T2よりも厚肉に設定している(図6参照)。このため、ステアリングジョイントカバー21によるステアリングシャフト72やユニバーサルジョイント76の支持剛性を高めることができる。
【0058】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、ステアリングシャフト72の第1シャフト75と第2シャフト77とをユニバーサルジョイント76を介して連結した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、第1シャフト75と第2シャフト77とを連結可能で、かつ設計上のレイアウトを満足できるものであればよい。
【0059】
また、上述の実施形態では、各部の金属接合をスポット溶接により行う場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、TIG(タングステン・イナート・ガス)溶接、MIG(メタル・イナート・ガス)溶接、プラズマ溶接のようなアーク溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接等の、従来公知の金属溶接方法を適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…車体前部構造 2…エンジンルーム 4a…左フロントサイドフレーム 4b…右フロントサイドフレーム 10…ダッシュボードロア 11…縦壁 12…傾斜壁 21…ステアリングジョイントカバー 23…ダッシュボードクロスメンバ 23a…左クロスメンバ 23b…右クロスメンバ 32…アクセルペダルブラケット 69…シール材 71…境界部 72…ステアリングシャフト 74…ステアリングギヤボックス 75…第1シャフト 76…ユニバーサルジョイント(ジョイント部材) 77…第2シャフト 91…上端部 91a,92a,93a…スポット溶接部 92…下端部 93…中央部 94…重なり部 L1…距離 T1,T2…肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュボードロアのエンジンルーム側の面に、ステアリングシャフト側とステアリングギヤボックス側とを接続するジョイント部材を囲繞するように形成されたステアリングジョイントカバーを設けると共に、前記ダッシュボードロアの左右方向に沿って延在するダッシュボードクロスメンバを設けた車体前部構造であって、
前記ダッシュボードクロスメンバを左右に分割構成し、左側に位置する左クロスメンバと、右側に位置する右クロスメンバとを前記ステアリングジョイントカバーを介して接合し、これら左クロスメンバ、右クロスメンバ、およびステアリングジョイントカバーを一体化すると共に、
前記ダッシュボードロアと前記ステアリングジョイントカバーとの重なり部に、アクセルペダルブラケットを設けたことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記ダッシュボードロアは、縦壁と、この縦壁の下部から後方に向けて下り勾配となるように延出する傾斜壁とを有し、
前記ステアリングジョイントカバーは、前記縦壁と前記傾斜壁との境界部近傍に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記ステアリングジョイントカバーは、これと前記ダッシュボードロアとの間に、シール材を介在させて取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記ダッシュボードクロスメンバは、前記縦壁と前記傾斜壁との境界部に沿って配置され、
前記左クロスメンバは、前記ダッシュボードロアの左側に設けられている左フロントサイドフレームに接合されていると共に、前記右クロスメンバは、前記ダッシュボードロアの右側に設けられている右フロントサイドフレームに接合されていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記ステアリングジョイントカバーの肉厚は、前記ダッシュボードクロスメンバの肉厚よりも厚肉に設定され、前記ダッシュボードクロスメンバを直線状に形成したことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−11957(P2012−11957A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152380(P2010−152380)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】