説明

車体前部構造

【課題】材料コストや重量を低減することができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】湾曲形成された湾曲部10aを有するダッシュボードロア10と、ダッシュボードロア10の湾曲部10aに対応する位置のキャビン側に接合される制振材固定パネル26とを備え、制振材固定パネル26に上下方向に沿って延びる上下ビード111,112を形成し、ビード111,112は、ダッシュボードロア10の湾曲部10aよりも緩やかになるように湾曲形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンルームとキャビン(車室)とを仕切るダッシュボードロア(ダッシュロアパネル)には、エンジンルーム内の騒音や振動によるキャビン側への影響を抑制するために、制振材(遮音材)が貼付される。制振材としては、例えばアスファルシート等の粘着性、および弾性を有する所謂メルシート(melting sheet)が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
制振材の固定方法としては、例えば、制振材を押さえるプレートを利用し、このプレートとダッシュボードロアとの間に制振材を挟み込んだ状態で、ダッシュボードロアにプレートをスポット溶接により固定する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−309253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の従来技術にあっては、ダッシュボードロア、制振材、およびこれを押さえるプレートの膜振動を抑制するために、制振材、およびプレートを厚肉に形成する必要がある。このため、制振材やこれを押さえるプレートの材料コストが増大すると共に、重量が増大してしまうという課題がある。
【0005】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、材料コストや重量を低減することができる車体前部構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、湾曲形成されたボード湾曲部(例えば、実施形態における湾曲部10a)を有するダッシュボードロア(例えば、実施形態におけるダッシュボードロア10)と、前記ダッシュボードロアの前記ボード湾曲部に対応する位置の車室(例えば、実施形態におけるキャビン3)側に接合される制振パネル(例えば、実施形態における制振パネル90)とを備え、前記制振パネルに上下方向に沿って延びるビード(例えば、実施形態における上下ビード111,112)を形成し、このビードは、前記ボード湾曲部よりも緩やかになるように湾曲形成されていることを特徴とする。
このように構成することで、ダッシュボードロアのボード湾曲部の折れ変形を、制振パネルのビードにより抑制することができる。また、ボード湾曲部の湾曲形状と制振パネルの湾曲形状との曲率の差により、これらボード湾曲部と制振パネルとの間に閉断面構造が形成される。このため、制振パネルを薄肉化した場合であっても十分膜振動を抑制可能な剛性構造を得ることができ、制振パネルの材料コストや重量を低減することが可能になる。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記ダッシュボードロアは、前記ボード湾曲部よりも上部に前後方向に沿って屈曲延出する屈曲部(例えば、実施形態における屈曲部27)を有し、前記ビードは、この上端が前記屈曲部に到達するまで延出していることを特徴とする。
このように構成することで、屈曲部の剛性を高めることができ、屈曲部の変形を抑制することが可能になる。
【0008】
請求項3に記載した発明は、前記制振パネルに、エアコン配管(例えば、実施形態におけるエアコン配管86a)を取り付けるための配管取付用開口部(例えば、実施形態における配管取付用開口部86)を有する取付面(例えば、実施形態における配管取付面103)を前記ダッシュボードロア側に向かって突出形成すると共に、前記配管取付用開口部の左右方向側方に、前記ビードを形成したことを特徴とする。
このように構成することで、ダッシュボードロアに配管取付用開口部を形成した場合であってもビードを上下方向に長く形成することができる。この長く形成できる分、さらにダッシュボードロアの剛性を高めることが可能になる。
【0009】
請求項4に記載した発明は、前記ビードの下方を、前記ダッシュボードロアとフロントサイドフレーム(例えば、実施形態におけるフロントサイドフレーム4a,4b)との接合部(例えば、実施形態におけるスポット溶接部M)として設定したことを特長とする。
このように構成することで、フロントサイドフレーム後端の支持剛性を高めることができる。
【0010】
請求項5に記載した発明は、前記ビードは、上部に形成され、かつ前記ボード湾曲部に対応する位置に形成された湾曲ビード(例えば、実施形態における湾曲ビード111b,112b)と、この湾曲ビードの下部に形成され上下方向に沿って延在する垂直ビード(例えば、実施形態における垂直ビード111a,112a)とにより構成され、前記湾曲ビードと、前記垂直ビードとが連続的に形成されていることを特徴とする。
このように構成することで、制振パネルによるダッシュボードロアの補強効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダッシュボードロアのボード湾曲部の折れ変形を、制振パネルのビードにより抑制することができる。また、ボード湾曲部の湾曲形状と制振パネルの湾曲形状との曲率の差により、これらボード湾曲部と制振パネルとの間に閉断面構造が形成される。このため、制振パネルを薄肉化した場合であっても十分膜振動を抑制可能な剛性構造を得ることができ、制振パネルの材料コストや重量を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをキャビン側からみた斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをキャビン側からみた平面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをエンジンルーム側からみた平面図である。
【図4】本発明の実施形態における制振パネルの要部斜視図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】図4のB−B線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(車体前部構造)
(ダッシュボードロア)
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、車両の進行方向前方を単に前方、進行方向後方を単に後方、車幅方向右方を単に右方、車幅方向左方を単に左方、重力方向上方を単に上方、重力方向下方を単に下方などと表現して説明する場合がある。
図1は、ダッシュボードロアをキャビン側からみた斜視図、図2は、ダッシュボードロアをキャビン側からみた平面図、図3は、ダッシュボードロアをエンジンルーム側からみた平面図である。
【0014】
図1〜図3に示すように、車体前部構造1は、前方に配置されてエンジンルーム2の左右枠部を構成するフロントサイドフレーム4a,4bと、これらフロントサイドフレーム4a,4bの後方であって、かつ左右外側に配置され、上下方向に延びるフロントピラー5a,5bと、両フロントサイドフレーム4a,4bの上方に配置され、各々前端がフロントサイドフレーム4a,4bの前端に接合されると共に、各々後端がフロントピラー5a,5bに接合されるアッパメンバ6a,6bと、エンジンルーム2とこの後方に配置されているキャビン3とを仕切り、フロントサイドフレーム4a,4b、フロントピラー5a,5b、およびアッパメンバ6a,6bに接合されるダッシュボードロア10と、ダッシュボードロア10の下縁に接合されているフロアパネル9とを備えている。
【0015】
ダッシュボードロア10は、平板状の金属部材にプレス加工等を施して形成されたものであって、上下方向に沿う縦壁11と、縦壁11の下部から後方に向けて下り勾配に延出する傾斜壁12とを有し、左右両側にそれぞれホイールハウス部16a,16bが設けられている。
【0016】
各ホイールハウス部16a,16bは、それぞれキャビン3側に向かって膨出形成されており、これらホイールハウス部16a,16bの上部に、それぞれガセット18a,18bが設けられている。
各ガセット18a,18bの車幅方向中央側端部には、ダッシュボードロア10を挟んで各フロントサイドフレーム4a,4bの後端がスポット溶接により接合されている。一方、各ガセット18a,18bの車幅方向外側端部には、それぞれフロントピラー5a,5bがスポット溶接により接合されている。
なお、図2中、Mは、ダッシュボードロア10と、各フロントサイドフレーム4a,4bの後端とのスポット溶接部を示している。
【0017】
ダッシュボードロア10における縦壁11の上縁には、後方に向かって屈曲延出する屈曲部27が形成されている。この屈曲部27には、上方に向かって突出し、かつ前後方向に沿うビード49が屈曲部27の長手方向に沿って複数形成されている。
一方、傾斜壁12の車幅方向中央には、上方に向かって膨出するトンネル部13が一体形成されている。このトンネル部13を挟んで左側を運転席側ステップ部14とし、右側を助手席側ステップ部15としている。
【0018】
また、縦壁11の屈曲部27とトンネル部13との間には、上下方向に沿って延在するセンタフレーム28が設けられている。このセンタフレーム28は、ダッシュボードロア10の剛性を高めるための補強部材である。
【0019】
運転席側ステップ部14における、縦壁11と傾斜壁12との境界部には、エンジンルーム2とキャビン3とを連通するステアリング用開口部20が形成されている。このステアリング用開口部20は、不図示のステアリングシャフトやステアリングシャフトに連結されているユニバーサルジョイントを挿通するためのものである。ステアリング用開口部20には、これを閉塞するステアリングジョイントカバー21がエンジンルーム2側から取り付けられている。ステアリングジョイントカバー21は、エンジンルーム2側に向かって膨出形成されたカップ状のものであって、不図示のステアリングシャフトやユニバーサルジョイントを挿通するためのジョイント挿入口22が形成されている。
【0020】
また、ダッシュボードロア10のエンジンルーム2側の面には、ステアリングジョイントカバー21に対応する位置に、ダッシュボードクロスメンバ23が設けられている。ダッシュボードクロスメンバ23は、ダッシュボードロア10の剛性を高めたり前突荷重を分散させたりするためのものであって、断面略ハット型形状に形成されている。そして、ダッシュボードクロスメンバ23の開口側をダッシュボードロア10側に向けてスポット溶接により接合し、閉断面構造を形成している。
【0021】
また、ダッシュボードクロスメンバ23は、ステアリングジョイントカバー21を挟んで左右に分割構成されている。すなわち、ダッシュボードクロスメンバ23は、左クロスメンバ23aと右クロスメンバ23bとにより構成されている。
そして、それぞれ左右のクロスメンバ23a,23bの一端がステアリングジョイントカバー21にスポット溶接により接合されている。換言すれば、左右のクロスメンバ23a,23bは、ステアリングジョイントカバー21を介して連結した状態になっている。一方、左クロスメンバ23aの他端は、左側に配置されている左フロントサイドフレーム4aにスポット溶接により接合されている。さらに、右クロスメンバ23bの他端は、右側に配置されている右フロントサイドフレーム4bにスポット溶接により接合されている。
【0022】
ここで、ダッシュボードロア10のキャビン3側の面には、右クロスメンバ23bに対応する部位に、左右方向に長くなるように凹部31が形成されている。凹部31は、ダッシュボードロア10をエンジンルーム2側に向かって膨出形成することにより形成される。これにより、ダッシュボードロア10のダッシュボードクロスメンバ23に対応する部位の剛性をさらに高めることができる。
【0023】
また、ダッシュボードロア10の縦壁11におけるキャビン3側の面には、ステアリング用開口部20よりも右上側に、不図示のアクセルペダルを取り付けるためのアクセルペダルブラケット32が設けられている。さらに、縦壁11には、ステアリング用開口部20よりも左上側に、不図示のブレーキマスタシリンダを取り付けるための取付孔33が形成されている。
【0024】
縦壁11のキャビン3側の面には、取付孔33に対応する位置に、マスタシリンダスチフナ25が設けられている。マスタシリンダスチフナ25は、平板状の金属部材にプレス加工等を施して凹凸が形成されているものであって、ここに不図示のブレーキマスタシリンダが取り付けられるようになっている。
【0025】
さらに、縦壁11の上部には、センタフレーム28よりも右側にエアコン用開口部82が形成され、さらにこのエアコン用開口部82よりも右側に配管取付用開口部86が形成されている。エアコン用開口部82は、不図示のエアコンユニットのエアコン配管を挿通するためのものである。ダッシュボードロア10のエアコン用開口部82が形成されている箇所の周辺はブーツ取付面81とされており、キャビン3側に向かって突出形成されている。ブーツ取付面81は、ブーツ取付面81は、エアコン用開口部82のシール性を確保するための不図示のエアコンブーツが取り付けられる面である。
【0026】
ブーツ取付面81と、ダッシュボードロア10の屈曲部27との間には、両者81,27に跨るようにダッシュボードビード83が形成されている。ダッシュボードビード83は、左右方向中央に向かうに従って段差により突出高さが高くなるように、2段構成のビードになっている。屈曲部27のビード49の稜線49aと、ダッシュボードビード83の稜線83aは、互いに連続するように形成されている。
また、縦壁11のキャビン3側の面には、センタフレーム28の右側に近接配置された制振パネル90が接合されている。
【0027】
(制振パネル)
(制振材固定パネル)
図4は、制振パネルの斜視図であって、配管取付用開口部近傍を示す。図5は、図4のA−A線に沿う断面図、図6は、図4のB−B線に沿う断面図である。
【0028】
図2、図4〜図6に示すように、制振パネル90は、ダッシュボードロア10の縦壁11に貼付されたメルシート76と、このメルシート76をダッシュボードロア10との間で挟み込む制振材固定パネル26とにより構成されている。
制振材固定パネル26は、平板状の金属部材にプレス加工等を施して凹凸が形成されたものであって、ダッシュボードロア10の縦壁11における配管取付用開口部86の周辺、およびその下方全体を覆うように形成されたパネル本体101と、パネル本体101の右側に一体形成されているビード部102とにより構成されている。
【0029】
(パネル本体)
パネル本体101の配管取付用開口部86に対応する部位には、エアコン配管86a(図4参照)を取り付けるための配管取付面103がダッシュボードロア10側(前側)に向かって僅かに突出するように形成されている。これにより、配管取付面103が配管取付用開口部86の周辺に当接するようになっている。
また、配管取付面103には、配管取付用開口部86よりも僅かに大きく形成された開口部104が形成されており、この開口部104を介して配管取付用開口部86が露出した状態になっている。
【0030】
パネル本体101の配管取付面103よりも左側には、ダッシュボードロア10のブーツ取付面81に対応する部位に、切り欠き部72が形成されている。この切り欠き部72を介してブーツ取付面81が露出した状態になっている。そして、ブーツ取付面81の下側は、パネル本体101の切り欠き部72の下縁と接合した状態になっている。
【0031】
また、パネル本体101の配管取付面103よりも上部には、ダッシュボードロア10の屈曲部27に沿うように、パネルフランジ部101aが形成されている。パネルフランジ部101aは、切り欠き部72側に向かうに従って、後方に屈曲延出するように形成されている。そして、パネルフランジ部101aの左側(切り欠き部72側)は、ダッシュボードロア10の屈曲部27に重ね合わさった状態になっている。
【0032】
この重ね合わさった部分の下部には、パネル本体101の補強用の小ビード115がダッシュボードロア10の縦壁11に沿って、かつ上下方向に沿って延在している。そして、小ビード115は、パネルフランジ部101aからパネル本体101の配管取付面103近傍に至る間に形成されている。
ここで、パネルフランジ部101aの左側(切り欠き部72側)と、ダッシュボードロア10の屈曲部27との重なり部は、互いにスポット溶接により接合されている。
【0033】
一方、パネル本体101の配管取付面103、および切り欠き部72よりも下側は、シート取付部105として設定されている。このシート取付部105とダッシュボードロア10との間に、メルシート76が挟み込まれている。
シート取付部105の中央部、および左上側には、それぞれセット用孔106,106が形成されている。これらセット用孔106は、メルシート76の位置を決定するためのものであって、ダッシュボードロア10側に向かって突出形成されている。一方、メルシート76には、セット用孔106に対応する位置に不図示の嵌合孔が形成されている。この嵌合孔とセット用孔106とが嵌合することにより、制振材固定パネル26にメルシート76が係合され、メルシート76の位置が決定される。
【0034】
また、シート取付部105の右側には、シート確認面107がキャビン3側に向かって突出形成されている。シート確認面107は、メルシート76の取付状態を確認するためのものである。シート確認面107には、シート有無確認用孔108と、シートずれ確認用孔109とが形成されており、これら確認用孔108,109が近接配置されている。
【0035】
シート有無確認用孔108は、ダッシュボードロア10と制振材固定パネル26のシート取付部105との間に、メルシート76が存在しているか否かを確認するためのものである。一方、シートずれ確認用孔109は、メルシート76が所定の位置に配置されているか否か、つまり、メルシート76がずれているか否かを確認するためのものである。メルシート76のシートずれ確認用孔109に対応する位置には、このシートずれ確認用孔109の孔径と略同一径の孔径に設定された不図示のシート孔が形成されている。
【0036】
(ビード部)
ビード部102は、制振材固定パネル26におけるパネル本体101の右側であって、かつ上下方向略中央からダッシュボードロア10の屈曲部27に至る間に延在するように形成されている。
ここで、図5に詳示するように、ビード部102は、ダッシュボードロア10のビード部102に対応する部位の湾曲部10aの形状よりも緩やかに形成された湾曲部102aを有している。このように、ダッシュボードロア10の湾曲部10aの曲率と、ビード部102の湾曲部102aの曲率との差により、両者10,102の間に空間が形成される。換言すればダッシュボードロア10とビード部102との間に閉断面構造112が形成される。
【0037】
また、ビード部102には、この全体に亘って上下方向に沿って延在する2つの上下ビード111,112が形成されている。すなわち、各上下ビード111,112は、ビード部102の下端から鉛直方向上方に向かって延出する垂直ビード111a,112aと、これら垂直ビード111a,112aの上端からビード部102の湾曲部102aに沿うように湾曲形成された湾曲ビード111b,112bとが一連に形成されたものである。そして、2つの上下ビード111,112は、ダッシュボードロア10に形成されている配管取付用開口部86の右側に形成されていることになる。
【0038】
各湾曲ビード111b,112bは、ビード部102の湾曲部102aに沿うように湾曲形成されているので、ダッシュボードロア10の湾曲部10aの形状よりも緩やかになっている。このように形成された湾曲ビード111b,112bのうち、パネル本体101側に形成されている湾曲ビード112bは、パネル本体101に形成されているパネルフランジ部101aと連結部113を介して滑らかに連結されている。
【0039】
さらに、ビード部102の連結部113よりも上部には、ダッシュボードロア10の屈曲部27に沿うように延出する平板状のビードフランジ部114が形成されている。このビードフランジ部114は、屈曲部27に重ね合わさっており、この屈曲部27にスポット溶接により接合されている。
なお、ビードフランジ部114は、平板状に延出形成されているが、上下ビード111,112の上端を、ビードフランジ部114の先端まで延出させてもよい。また、ビードフランジ部114に、上下ビード111,112とは別に、複数のビードを形成してもよい。
【0040】
このように制振材固定パネル26を形成することにより、ダッシュボードロア10における制振材固定パネル26のビード部102の下方に、右側のフロントサイドフレーム4bのスポット溶接部Mが設定された状態になる(図2、図5参照)。
また、ダッシュボードロア10のセンタフレーム28を挟んで制振材固定パネル26とは反対側に取り付けられているマスタシリンダスチフナ25の下方には、左側のフロントサイドフレーム4aのスポット溶接部Mが設定された状態になっている。
【0041】
(効果)
したがって、上述の実施形態によれば、制振材固定パネル26を構成するビード部102に形成されている各上下ビード111,112が、垂直ビード111a,112aと、湾曲ビード111b,112bとからなり、これら湾曲ビード111b,112bが、ダッシュボードロア10の湾曲部10aの形状よりも緩やかな湾曲形状になっているので、ダッシュボードロア10の湾曲部10aの折れ変形を、ビード部102により抑制することができる。また、ダッシュボードロア10の湾曲部10aの曲率と、ビード部102の湾曲部102aの曲率との差により、両者10,102の間に閉断面構造112が形成される。このため、制振材固定パネル26やメルシート76を薄肉化した場合であっても十分膜振動を抑制可能な剛性構造を得ることができ、制振材固定パネル26やメルシート76の材料コスト、および重量を低減することが可能になる。
【0042】
また、垂直ビード111a,112aと、湾曲ビード111b,112bとを一連に形成することにより、制振材固定パネル26によるダッシュボードロア10の補強効率を高めることができる。
さらに、ビード部102は、制振材固定パネル26におけるパネル本体101の右側であって、かつ上下方向略中央からダッシュボードロア10の屈曲部27に至る間に延在するように形成されている。このため、ダッシュボードロア10の屈曲部27自体、この屈曲部27と縦壁11との間の接続部近傍、および湾曲部10aの剛性を高めることができ、これらの変形を抑制することが可能になる。
【0043】
そして、制振材固定パネル26のパネル本体101には、配管取付用開口部86に対応する部位に、エアコン配管86aを取り付けるための配管取付面103が僅かにダッシュボードロア10側に向かって突出形成されていると共に、ダッシュボードロア10の配管取付用開口部86の右側に、上下ビード111,112が形成されている。このため、ダッシュボードロア10に配管取付用開口部86を形成した場合であっても上下ビード111,112を上下方向に長く形成することができる。この長く形成できる分、さらにダッシュボードロア10の剛性を高めることが可能になる。
【0044】
また、ダッシュボードロア10には、制振材固定パネル26のビード部102の下方に、右側のフロントサイドフレーム4bのスポット溶接部Mが設定されている。すなわち、ダッシュボードロア10のうち、制振材固定パネル26を接合することにより剛性が向上されている箇所に右側のフロントサイドフレーム4bの後端が接合されている。このため、右側のフロントサイドフレーム4bの後端の支持剛性を高めることができる。
一方、ダッシュボードロア10には、マスタシリンダスチフナ25の下方に、左側のフロントサイドフレーム4aのスポット溶接部Mが設定されている。このように、マスタシリンダスチフナ25を接合することにより、このマスタシリンダスチフナ25の下方、つまり、左側のフロントサイドフレーム4aの後端が接合される箇所の支持剛性も高めることができる。
【0045】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、制振材固定パネル26を構成するビード部102に2つの上下ビード111,112を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ビード部102に上下ビードを3つ以上形成してもよいし、1つだけ形成してもよい。
【0046】
また、上述の実施形態では、各部の金属接合をスポット溶接により行う場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、TIG(タングステン・イナート・ガス)溶接、MIG(メタル・イナート・ガス)溶接、プラズマ溶接のようなアーク溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接等の、従来公知の金属溶接方法を適宜採用することができる。
【0047】
さらに、上述の実施形態では、ダッシュボードロア10における縦壁11の上縁に、後方に向かって屈曲延出する屈曲部27が形成されている場合について説明した。しかしながら、屈曲部27は、前後方向に沿って屈曲延出されていればよく、縦壁11の上縁から前方に向かって屈曲延出されていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…車体前部構造 3…キャビン(車室) 4a,4b…フロントサイドフレーム 10…ダッシュボードロア 10a…湾曲部(ボード湾曲部) 26…制振材固定パネル(制振パネル) 27…屈曲部 76…メルシート(制振材) 86…配管取付用開口部 86a…エアコン配管 90…制振パネル 102…ビード部(ビード) 102a…湾曲部(ビード湾曲部) 103…配管取付面(取付面) 111,112…上下ビード(ビード) 111a,112a…垂直ビード 111b,112b…湾曲ビード 114…ビードフランジ部 M…スポット溶接部(接合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲形成されたボード湾曲部を有するダッシュボードロアと、
前記ダッシュボードロアの前記ボード湾曲部に対応する位置の車室側に接合される制振パネルとを備え、
前記制振パネルに上下方向に沿って延びるビードを形成し、
このビードは、前記ボード湾曲部よりも緩やかになるように湾曲形成されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記ダッシュボードロアは、前記ボード湾曲部よりも上部に前後方向に沿って屈曲延出する屈曲部を有し、
前記ビードは、この上端が前記屈曲部に到達するまで延出していることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記制振パネルに、エアコン配管を取り付けるための配管取付用開口部を有する取付面を前記ダッシュボードロア側に向かって突出形成すると共に、前記配管取付用開口部の左右方向側方に、前記ビードを形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記ビードの下方を、前記ダッシュボードロアとフロントサイドフレームとの接合部として設定したことを特長とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記ビードは、上部に形成され、かつ前記ボード湾曲部に対応する位置に形成された湾曲ビードと、この湾曲ビードの下部に形成され上下方向に沿って延在する垂直ビードとにより構成され、
前記湾曲ビードと、前記垂直ビードとが連続的に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−11958(P2012−11958A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152381(P2010−152381)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】