説明

車体前部構造

【課題】ダッシュボードロアの前突荷重に対する強度を高めることができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】ダッシュボードロア10の傾斜壁12に、フロアフレーム91の延在方向に沿うビード101,102を形成すると共に、これらビード101,102の上端部101a,102aをダッシュボードロア10の縦壁11に接続する一方、下端部101b,102bをダッシュボードロア10の水平壁7に接続し、ビード101は、この稜線101cがフロアフレーム91の稜線91aと上下方向で重なるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体は、乗員が乗車するキャビン(車室)と、このキャビンの前方に配置されエンジン等を収納するエンジンルームとを備え、キャビンの下面にフロアパネルが設けられている。エンジンルームには、この左右枠部を構成する一対のフロントサイドフレームが前後方向に延在している。また、フロアパネルは、この下方に前後方向に沿って延在するフロアフレームに支持されている。
【0003】
さらに、キャビンの前部車幅方向両角部には、一対のフロントピラー、および一対のサイドシルが連続的に形成されていると共に、両フロントピラーの上部間に、車幅方向に延びる閉断面構造のカウルが架け渡されている。さらに、フロアパネルとカウルとで囲われた部分に、エンジンルームとキャビンとを仕切るダッシュボードロア(ダッシュパネル)が設けられている。そして、一対のフロントサイドフレームの後端は、ダッシュボードロアに接続されている。
【0004】
ここで、ダッシュボードロアは、エンジンルームとキャビンとを仕切るだけの部品であるので、軽量化のために薄板で形成されている場合が多い。このため、走行時などにダッシュボードロアが膜振動してしまう虞があるので、ダッシュボードロアに複数のビードを形成し、ダッシュボードロアの剛性を高めようとする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−175429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前突荷重をフロントサイドフレームで吸収するために、このフロントサイドフレームの前後方向の途中を上方向に向かって曲折変形可能に構成する場合がある。この場合、フロントサイドフレームにより前突荷重を完全に吸収することは困難で、この荷重がダッシュボードロアに伝達される。このため、ダッシュボードロアには、前突荷重に対する強度を高めることも要求される。
【0007】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、キャビンのスペースの関係上、ダッシュボードロアの前突荷重に対する強度を高めるために、効率よくビードを形成しにくいという課題がある。また、ダッシュボードロアの前突荷重に対する強度を高めるために、フロアフレームを有効利用していないという課題がある。
【0008】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、ダッシュボードロアの前突荷重に対する強度を高めることができる車体前部構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、ダッシュボードロア(例えば、実施形態におけるダッシュボードロア10)を、鉛直方向に沿って延在する縦壁(例えば、実施形態における縦壁11)と、この縦壁の下部から後方に向けて下り勾配となるように延出する傾斜壁(例えば、実施形態における傾斜壁12)と、この傾斜壁の下部から水平方向後方に向かって延出する水平壁(例えば、実施形態における水平壁7)とにより構成し、前記ダッシュボードロアの下方に、前後方向に沿って延在するフロアフレーム(例えば、実施形態におけるフロアフレーム91)を設けた車体前部構造(例えば、実施形態における車体前部構造1)において、前記傾斜壁に、前記フロアフレームの延在方向に沿う縦ビード(例えば、実施形態におけるビード101,102)を少なくとも1つ形成すると共に、この縦ビードの上端部(例えば、実施形態における上端部101a,102a)を前記縦壁に接続する一方、下端部(例えば、実施形態における下端部101b,102b)を前記水平壁に接続し、前記縦ビードは、少なくとも1つの稜線(例えば、実施形態における稜線101c)が前記フロアフレームの稜線(例えば、実施形態における稜線91a)と上下方向で重なるように形成されていることを特徴とする。
【0010】
ここで、前突荷重を受けて、フロントサイドフレームの前後方向途中が上方向に向かって曲折変形することは、フロントサイドフレームの後端を中心にして前部が上方に向かって反り上がることになる。この結果、ダッシュボードロアに上下方向、つまり圧縮方向に荷重がかかる。
このような荷重がかかる状況において、ダッシュボードロアの傾斜壁には、フロアフレームの延在方向に沿うように縦ビードが形成されており、この縦ビードの上端部が縦壁に接続されていると共に、下端部が水平壁に接続されている。このため、ダッシュボードロアは、圧縮方向にかかる荷重に対して、高い強度を得ることができる。
これに加え、縦ビードは、フロアフレームの稜線と上下方向で重なる位置に形成されている。このため、縦ビードが受ける荷重をフロアフレームに効率よく伝達することができるので、ダッシュボードロアの前突荷重に対する強度を高めることができる。
【0011】
請求項2に記載した発明は、前記ダッシュボードロアに、前記縦ビードを複数形成し、各縦ビードの左右方向の幅(例えば、実施形態における幅W1,W2)は、前記フロアフレームの左右方向の幅(例えば、実施形態における幅W3)よりも狭く設定されていることを特徴とする。
このように構成することで、縦ビードの隆起高さを抑え、車室内空間の減少を抑えつつ、ダッシュボードロアにかかる前突荷重に対する強度をさらに高めることができる。
【0012】
請求項3に記載した発明は、前記ダッシュボードロアのエンジンルーム(例えば、実施形態におけるエンジンルーム2)側に配置されているフロントサイドフレーム(例えば、実施形態におけるフロントサイドフレーム4a,4b)の後端に分岐部(例えば、実施形態における分岐部90)を設け、この分岐部は、前記フロントサイドフレームの後端から前記ダッシュボードロアの下部中央に形成されているトンネル部(例えば、実施形態におけるトンネル部13)に向かって延出する第1延出部(例えば、実施形態におけるフロントサイドフレームブラケット92)と、前記フロントサイドフレームの後端から前記ダッシュボードロアの左右側部に設けられているサイドシル(例えば、実施形態におけるサイドシル8a,8b)に向かって延出する第2延出部(例えば、実施形態におけるサイドシルフロントエクステンション93)とにより構成され、前記分岐部の第1延出部と第2延出部とにより形成される三角領域(例えば、実施形態における三角領域T)に対応する位置に、前記縦ビードを形成したことを特徴とする。
【0013】
このように構成することで、三角領域にかかる前突荷重を剛性の高い縦ビードで受けるようにすることができる。このため、ダッシュボードロアの前突荷重に対する強度をさらに高めることが可能になる。
【0014】
請求項4に記載した発明は、前記三角領域に前記フロアフレームを設け、このフロアフレームと前記フロントサイドフレームとが同一直線(例えば、実施形態における中央線L1)上に位置していることを特徴とする。
このように構成することで、縦ビードによりフロアフレームを補強することができるので、フロアフレームの剛性を高めるために、フロアフレームを大型化したり、厚肉形成したりすることを抑制できる。このため、フロアフレームを軽量化できる。
【0015】
請求項5に記載した発明は、前記分岐部を介して下側に固定連結されたサブフレーム(例えば、実施形態におけるサブフレーム98)を有し、前記ダッシュボードロアに、前記サブフレームを固定連結する固定手段(例えば、実施形態におけるボルト99)を逃げるための逃げビード(例えば、実施形態における逃げビード103)を形成し、この逃げビードと前記固定手段とをつき合わせることにより、前記縦ビードの位置が前記フロアフレームに対応する位置に決定されることを特徴とする。
【0016】
このように構成することで、複数のビードを容易に形成することができると共に、組み立て精度、組み立て作業性を向上することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ダッシュボードロアは、圧縮方向にかかる荷重に対して、高い強度を得ることができる。
これに加え、縦ビードは、フロアフレームの稜線と上下方向で重なる位置に形成されている。このため、縦ビードが受ける荷重をフロアフレームに効率よく伝達することができるので、ダッシュボードロアの前突荷重に対する強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをキャビン側からみた斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをキャビン側からみた平面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるダッシュボードロアをエンジンルーム側からみた平面図である。
【図4】図1のA部拡大斜視図である。
【図5】図4の正面図である。
【図6】図3のB矢視図である。
【図7】図4のC−C線に沿う断面斜視図である。
【図8】図4のC−C線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(車体前部構造)
(ダッシュボードロア)
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、車両の進行方向前方を単に前方、進行方向後方を単に後方、車幅方向右方を単に右方、車幅方向左方を単に左方、重力方向上方を単に上方、重力方向下方を単に下方などと表現して説明する場合がある。
図1は、ダッシュボードロアをキャビン側からみた斜視図、図2は、ダッシュボードロアをキャビン側からみた平面図、図3は、ダッシュボードロアをエンジンルーム側からみた平面図である。
【0020】
図1〜図3に示すように、車体前部構造1は、前方に配置されてエンジンルーム2の左右枠部を構成するフロントサイドフレーム4a,4bと、これらフロントサイドフレーム4a,4bの後方であって、かつ左右外側に配置され、上下方向に延びるフロントピラー5a,5bと、両フロントサイドフレーム4a,4bの上方に配置され、各々前端がフロントサイドフレーム4a,4bの前端に接合されると共に、各々後端がフロントピラー5a,5bに接合されるアッパメンバ6a,6bと、エンジンルーム2とこの後方に配置されているキャビン3とを仕切り、フロントサイドフレーム4a,4b、フロントピラー5a,5b、およびアッパメンバ6a,6bに接合されるダッシュボードロア10とを備えている。
【0021】
ダッシュボードロア10は、平板状の金属部材にプレス加工等を施して形成されたものであって、上下方向に沿う縦壁11と、縦壁11の下部から後方に向けて下り勾配に延出する傾斜壁12と、傾斜壁12の後縁から水平方向後方に向かって延出する水平壁7とを有している。水平壁7の後側縁には、左右方向に延びるフランジ部57が延出形成されている。フランジ部57には、上方に向かって突出するビード57aが複数形成されている。
【0022】
また、フランジ部57には、フロアパネル9が接合されている。さらに、フロアパネル9は、この左右両側に配置され、それぞれ前後方向に延びるサイドシル8a,8bに接合されている。また、フロアパネル9は、この下方に配置され、前後方向に延びる後述のフロアフレーム91に支持されている。
【0023】
ダッシュボードロア10における縦壁11と傾斜壁12との境界部71には、左右両側にそれぞれホイールハウス部16a,16bが設けられている。各ホイールハウス部16a,16bは、それぞれキャビン3側に向かって膨出形成されており、これらホイールハウス部16a,16bの上部に、それぞれガセット18a,18bが設けられている。
各ガセット18a,18bの車幅方向中央側端部には、ダッシュボードロア10を挟んで各フロントサイドフレーム4a,4bの後端がスポット溶接により接合されている。一方、各ガセット18a,18bの車幅方向外側端部には、それぞれフロントピラー5a,5bがスポット溶接により接合されている。
【0024】
ダッシュボードロア10における縦壁11の上縁には、後方に向かって屈曲延出する屈曲部27が形成されている。この屈曲部27には、上方に向かって突出し、かつ前後方向に沿うビード49が屈曲部27の長手方向に沿って複数形成されている。
一方、傾斜壁12、および水平壁7の車幅方向中央には、上方に向かって膨出するトンネル部13が一体形成されている。このトンネル部13を挟んで左側を運転席側ステップ部14とし、右側を助手席側ステップ部15としている。
【0025】
また、縦壁11の屈曲部27とトンネル部13との間には、上下方向に沿って延在するセンタフレーム28が設けられている。このセンタフレーム28は、ダッシュボードロア10の剛性を高めるための補強部材であって、断面略ハット型形状に形成されている。そして、センタフレーム28の開口側をダッシュボードロア10側に向けてスポット溶接により接合し、閉断面構造を形成している。
【0026】
運転席側ステップ部14における、縦壁11と傾斜壁12との境界部71には、エンジンルーム2とキャビン3とを連通するステアリング用開口部20が形成されている。ステアリング用開口部20には、不図示のステアリングシャフトが挿通される。
また、縦壁11のキャビン3側の面には、ステアリング用開口部20よりも右上側に、不図示のアクセルペダルを取り付けるためのアクセルペダルブラケット32が設けられている。さらに、縦壁11には、ステアリング用開口部20よりも左上側に、不図示のブレーキマスタシリンダを取り付けるための取付孔33が形成されている。
【0027】
縦壁11の取付孔33に対応する位置には、キャビン3側の面にマスタシリンダスチフナ25が設けられている。マスタシリンダスチフナ25は、平板状の金属部材にプレス加工等を施して凹凸が形成されているものであって、ここに不図示のブレーキマスタシリンダが取り付けられるようになっている。
また、縦壁11には、トンネル部13よりも右側の上部に、制振材固定パネル26が設けられている。制振材固定パネル26は、ダッシュボードロア10の制振材として貼付された不図示のメルシートを固定するためのものであって、平板状の金属部材にプレス加工等を施して凹凸が形成されている。
【0028】
ここで、縦壁11と傾斜壁12との境界部71に形成されたステアリング用開口部20には、これを閉塞するステアリングジョイントカバー21がエンジンルーム2側から取り付けられている。
ステアリングジョイントカバー21は、エンジンルーム2側に向かって膨出形成されたカップ状のものであって、不図示のステアリングシャフトやこれに連結されたユニバーサルジョイントを挿通するためのジョイント挿入口22が形成されている。
【0029】
また、ダッシュボードロア10のエンジンルーム2側の面には、ステアリングジョイントカバー21に対応する位置に、左右のフロントサイドフレーム4a,4bに跨るダッシュボードクロスメンバ23が設けられている。ダッシュボードクロスメンバ23は、ダッシュボードロア10の剛性を高めたり前突荷重を分散させたりするためのものであって、断面略ハット型形状に形成されている。そして、ダッシュボードクロスメンバ23の開口側をダッシュボードロア10側に向けてスポット溶接により接合し、閉断面構造を形成している。
【0030】
また、ダッシュボードクロスメンバ23は、ステアリングジョイントカバー21を挟んで左右に分割構成されている。すなわち、ダッシュボードクロスメンバ23は、左クロスメンバ23aと右クロスメンバ23bとにより構成されている。
そして、それぞれ左右のクロスメンバ23a,23bの一端がステアリングジョイントカバー21にスポット溶接により接合されている。すなわち、左右のクロスメンバ23a,23bは、ステアリングジョイントカバー21を介して連結した状態になっている。一方、各々他端がそれぞれ対応する左右のフロントサイドフレーム4a,4bにスポット溶接により接合されている。
【0031】
なお、ダッシュボードロア10のキャビン3側の面には、右クロスメンバ23bに対応する部位に、左右方向に長くなるように凹部31が形成されている。凹部31は、ダッシュボードロア10をエンジンルーム2側に向かって膨出形成することにより形成される。これにより、ダッシュボードロア10のダッシュボードクロスメンバ23に対応する部位の剛性をさらに高めることができる。
【0032】
図4は、図1のA部拡大斜視図、図5は、図4の正面図、図6は、図3のB矢視図、図7は、図4のC−C線に沿う断面斜視図、図8は、図4のC−C線に沿う断面図である。
図3〜図8に示すように、各フロントサイドフレーム4a,4bの後端には、ダッシュボードロア10を挟んで各ガセット18a,18bが接続されている他、ダッシュボードロア10のエンジンルーム2側の裏面に沿うように設けられた分岐部90,90がレインフォース89を介して接合されている。
なお、各フロントサイドフレーム4a,4bに接合されている分岐部90,90は、それぞれ構造が同一であるので、図4〜図8において、図面を見易くするために、左側のフロントサイドフレーム4a、および右側のフロントサイドフレーム4bの何れか一方を適宜選択して図示している。
【0033】
分岐部90は、フロントサイドフレーム4a,4bの後端からダッシュボードロア10のトンネル部13側に向かって延出するフロントサイドフレームブラケット92と、フロントサイドフレーム4a,4bの後端から対応する左右のサイドシル8a,8b側に向かって延出するサイドシルフロントエクステンション93とにより構成されている。
【0034】
また、フロントサイドフレームブラケット92とサイドシルフロントエクステンション93とにより形成される三角領域Tには、フロントサイドフレーム4a,4bの後端側の頂点P1を通る中央線L1上に、フロアフレーム91が延設されている。
すなわち、フロントサイドフレームブラケット92、およびサイドシルフロントエクステンション93の基端から、前後方向後方に向かってフロアフレーム91が延設されている。そして、各々フロアフレーム91,91、およびフロントサイドフレーム4a,4bは、互いに同一直線(中央線L1)上に位置した状態になっている。
【0035】
フロアフレーム91は断面略ハット型形状に形成されており、開口側を上方に向けた状態で配置されている。つまり、フロアフレーム91は、断面略コの字状に形成されたフレーム本体94と、フレーム本体94の両側縁から外側に向かって屈曲延出するフランジ部95とが一体成形されたものである。そして、フロントサイドフレームブラケット92、およびサイドシルフロントエクステンション93の基端にフレーム本体94の前端がスポット溶接により接合されていると共に、ダッシュボードロア10の水平壁7、およびフロアパネル9にフランジ部95がスポット溶接により接合されている。
【0036】
このような構成のもと、ダッシュボードロア10の水平壁7、およびフロアパネル9と、フロアフレーム91との間に閉断面構造が形成される。
また、フロアフレーム91のフランジ部95には、複数のビード96が長手方向に沿って形成されており、フロアフレーム91の剛性が高まるようになっている。
【0037】
さらに、フロントサイドフレームブラケット92とサイドシルフロントエクステンション93とにより形成される三角領域Tには、フロントサイドフレーム4a,4bの後端側の頂点P1の近傍に、サブフレーム取付用ブラケット97が設けられている。サブフレーム取付用ブラケット97は、ダッシュボードロア10の下方にサブフレーム98を取り付けるためのブラケットである。
サブフレーム98は、サブフレーム取付用ブラケット97にボルト99により固定されている。ボルト99はサブフレーム取付用ブラケット97に螺入され、その先端がレインフォース89よりも上方に突出した状態になっている。
【0038】
ここで、図4、図5に詳示するように、ダッシュボードロア10の傾斜壁12には、フロアフレーム91の上方に位置するように、2つのビード101,102がキャビン3側に向かって突出形成されている。また、ビード101,102は、上下方向に沿うように、かつ傾斜壁12の全体に亘って延在するように形成されている。
すなわち、ビード101,102の上端部101a,102aは、縦壁11と傾斜壁12との境界部71に至るまで延在しており、縦壁11に接続した状態になっている。一方、ビード101,102の下端部101b,102bは、水平壁7に接続した状態になっている。
【0039】
また、2つのビード101,102のうち、左右方向中央寄りのビード101は、この稜線101cがフロアフレーム91の稜線91aと上下方向で重なるように形成されている(図5における直線L2参照)。ここで、フロアフレーム91は、フロントサイドフレームブラケット92とサイドシルフロントエクステンション93とにより形成される三角領域Tに延設されているので、ダッシュボードロア10の傾斜壁12における三角領域Tに対応する位置に、ビード101が形成されていることになる。
さらに、ビード101の左右方向の幅W1、およびビード102の左右方向の幅W2は、それぞれフロアフレーム91の左右方向の幅W3よりも狭く設定されている。
【0040】
また、傾斜壁12には、サブフレーム取付用ブラケット97に挿通されているボルト99に対応する箇所に、このボルト99を避けるように逃げビード103がキャビン3側に向かって膨出形成されている。逃げビード103は、ボルト99に対応する位置に形成されていることから、逃げビード103の一部と、2つのビード101,102のうち、左右方向外側のビード102の一部とが重なった状態になっている。
【0041】
さらに、逃げビード103は、ボルト99を避けるように膨出しているので、上下方向略中央よりもやや下側が最も突出しており、縦壁11に向かうに従って突出高さが低くなっている。したがって、逃げビード103は、左右幅方向中央に、上下方向に延びる稜線103aが形成され、かつ縦壁11側に向かうに従って先細りとなるように非直線状に形成されている。
【0042】
このような構成のもと、車体前部構造1を組み立てるにあたって、サブフレーム取付用ブラケット97に挿通されるボルト99の先端に、ダッシュボードロア10の逃げビード103の裏面(下面)をつき合わせる。これにより、サブフレーム取付用ブラケット97とダッシュボードロア10との相対位置が決定する。また、サブフレーム取付用ブラケット97が取り付けられている分岐部90と、ダッシュボードロア10との相対位置が決定する。さらに、ダッシュボードロア10とフロアフレーム91との相対位置が決定する。
すなわち、ボルト99の先端にダッシュボードロア10の逃げビード103をつき合わせることにより、ダッシュボードロア10とフロアフレーム91との位置決めが行われる。
【0043】
次に、図5、図8に基づいて、ダッシュボードロア10にかかる前突荷重と、この前突荷重に対するビード101,102、およびフロアフレーム91の作用について説明する。
ここで、フロントサイドフレーム4a,4bは、前突荷重を吸収するように、前後方向の途中で上方に向かって曲折変形するように構成されている。
すなわち、前突した際、フロントサイドフレーム4a,4bは、後端を中心にして、これよりも前方が反り上がるように変形する(図8における二点鎖線、矢印Y1参照)。そして、ダッシュボードロア10の傾斜壁12に、斜め下方に向かう荷重、つまり、圧縮方向の荷重がかかる(図5、図8における矢印Y2参照)。
【0044】
ここで、図5に詳示するように、ダッシュボードロア10の傾斜壁12には、2つのビード101,102が上下方向に沿うように、かつ傾斜壁12の全体に亘って延在するように形成されている。つまり、ダッシュボードロア10にかかる荷重の方向(圧縮方向)に沿って2つのビード101,102が形成されている。このため、ダッシュボードロア10は、圧縮方向の荷重に対して高い強度が得られ、曲折変形が抑制される。
【0045】
とりわけ、フロントサイドフレームブラケット92とサイドシルフロントエクステンション93とにより形成される三角領域Tは、前突荷重により曲折変形し易い。しかしながら、ビード101が傾斜壁12の三角領域Tに対応する位置に形成されているので、三角領域Tの曲折変形が抑制される。
【0046】
また、ダッシュボードロア10にかかる荷重は、このダッシュボードロア10(フロアパネル9)の下方に配置されたフロアフレーム91に伝達される(図5、図8における矢印Y3参照)。このとき、ダッシュボードロア10の傾斜壁12に形成されている2つのビード101,102のうち、左右方向中央寄りのビード101は、この稜線101cがフロアフレーム91の稜線91aと上下方向で重なるように形成されている(図5における直線L2参照)。
【0047】
各稜線101c,91aは荷重を受ける方向(圧縮方向)に沿って延在した状態になっている。すなわち、両者101c,91aが重なることによって圧縮方向の荷重に対して高い強度が得られる。このため、前突荷重をビード101を介してフロアフレーム91で十分受けることができる。
【0048】
(効果)
したがって、上述の実施形態によれば、ダッシュボードロア10の傾斜壁12に2つのビード101,102を形成し、これらビード101,102のうち、左右方向中央寄りのビード101の稜線101cとフロアフレーム91の稜線91aとが上下方向で重なることにより、ダッシュボードロア10の耐衝突性を向上させることができる。
また、ビード101,102の左右方向の幅W1,W2を、フロアフレーム91の左右方向の幅W3よりも狭く設定しているので、各ビード101,102の隆起高さを抑え、キャビン3内空間の減少を抑えつつ、ダッシュボードロア10にかかる圧縮方向の荷重に対する強度を高めることができる。
【0049】
さらに、傾斜壁12の三角領域Tに対応する位置にビード101が形成されているので、三角領域Tの曲折変形が抑制される。このため、さらにダッシュボードロア10の耐衝突性を向上させることができる。
そして、各フロアフレーム91,91、およびフロントサイドフレーム4a,4bは、互いに同一直線(中央線L1)上に位置した状態になっている(図6参照)。このため、直線L2上に形成されているビード101によりフロアフレーム91を補強することができる。よって、フロアフレーム91の剛性を高めるために、フロアフレーム91を大型化したり、厚肉形成したりすることを抑制でき、フロアフレーム91を軽量化できる。
【0050】
また、車体前部構造1を組み立てるにあたって、サブフレーム取付用ブラケット97に挿通されるボルト99の先端に、ダッシュボードロア10の逃げビード103の裏面(下面)をつき合わせることにより、ダッシュボードロア10とフロアフレーム91との位置決めを行うことができる。このため、組み立て精度、組み立て作業性を向上することができると共に、複数のビード101,102を容易に形成することが可能になる。
【0051】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、ダッシュボードロア10の傾斜壁12に、2つのビード101,102を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、傾斜壁12に、フロアフレーム91の延在方向に沿うビードを少なくとも1つ形成すればよい。
【0052】
また、上述の実施形態では、各部の金属接合をスポット溶接により行う場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、TIG(タングステン・イナート・ガス)溶接、MIG(メタル・イナート・ガス)溶接、プラズマ溶接のようなアーク溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接等の、従来公知の金属溶接方法を適宜採用することができる。
【0053】
さらに、上述の実施形態では、フロントサイドフレームブラケット92とサイドシルフロントエクステンション93とにより形成される三角領域Tにサブフレーム取付用ブラケット97を設け、このサブフレーム取付用ブラケット97に、ボルト99によってサブフレーム98を固定した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、サブフレーム98を固定できるものであればよい。例えば、ボルト99に代わって、ピンを用いてもよい。この場合、ピンの先端をレインフォース89よりも上方に突出した状態にすることにより、ダッシュボードロア10の位置決めが可能になる。
【0054】
そして、上述の実施形態では、2つのビード101,102のうち、左右方向中央寄りのビード101の稜線101cがフロアフレーム91の稜線91aと上下方向で重なるように形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ビード102も、この稜線がフロアフレーム91の稜線91aと上下方向で重なるように形成してもよい。このように構成することで、さらにダッシュボードロア10の圧縮方向にかかる荷重に対する強度を高めることが可能になる。
【符号の説明】
【0055】
1…車体前部構造 2…エンジンルーム 3…キャビン 4a,4b…フロントサイドフレーム 7…水平壁 8a,8b…サイドシル 9…フロアパネル 10…ダッシュボードロア 11…縦壁 12…傾斜壁 13…トンネル部 90…分岐部 91…フロアフレーム 91a,101c,103a…稜線 92…フロントサイドフレームブラケット(第1延出部) 93…サイドシルフロントエクステンション(第2延出部) 97…サブフレーム取付用ブラケット 98…サブフレーム 99…ボルト(固定手段) 101,102…ビード(縦ビード) 101a,102a…上端部 101b,102b…下端部 103…逃げビード L1…中心線 L2…直線 T…三角領域 W1,W2…幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュボードロアを、鉛直方向に沿って延在する縦壁と、この縦壁の下部から後方に向けて下り勾配となるように延出する傾斜壁と、この傾斜壁の下部から水平方向後方に向かって延出する水平壁とにより構成し、
前記ダッシュボードロアの下方に、前後方向に沿って延在するフロアフレームを設けた車体前部構造において、
前記傾斜壁に、前記フロアフレームの延在方向に沿う縦ビードを少なくとも1つ形成すると共に、この縦ビードの上端部を前記縦壁に接続する一方、下端部を前記水平壁に接続し、
前記縦ビードは、少なくとも1つの稜線が前記フロアフレームの稜線と上下方向で重なるように形成されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記ダッシュボードロアに、前記縦ビードを複数形成し、
各縦ビードの左右方向の幅は、前記フロアフレームの左右方向の幅よりも狭く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記ダッシュボードロアのエンジンルーム側に配置されているフロントサイドフレームの後端に分岐部を設け、
この分岐部は、
前記フロントサイドフレームの後端から前記ダッシュボードロアの下部中央に形成されているトンネル部に向かって延出する第1延出部と、
前記フロントサイドフレームの後端から前記ダッシュボードロアの左右側部に設けられているサイドシルに向かって延出する第2延出部とにより構成され、
前記分岐部の第1延出部と第2延出部とにより形成される三角領域に対応する位置に、前記縦ビードを形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記三角領域に前記フロアフレームを設け、このフロアフレームと前記フロントサイドフレームとが同一直線上に位置していることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記分岐部を介して下側に固定連結されたサブフレームを有し、
前記ダッシュボードロアに、前記サブフレームを固定連結する固定手段を逃げるための逃げビードを形成し、この逃げビードと前記固定手段とをつき合わせることにより、前記縦ビードの位置が前記フロアフレームに対応する位置に決定されることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の車体前部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−11959(P2012−11959A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152382(P2010−152382)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】