説明

車体前部構造

【課題】フルラップ前面衝突及びオフセット前面衝突において、衝撃荷重を有効的に吸収できる車体前部構造を提供する。
【解決手段】サイドフレーム10の前端間にラジエータパネルロア20を架設し、サイドフレーム10の各前端にクラッシュボックス30を取り付け、クラッシュボックス30の前端間にバンパビーム31を架設すると共に、ラジエータパネルロア20はサイドフレーム10より車幅方向内方にオフセットWしたブラケット35を備える。オフセット前面衝突では、一方のクラッシュボックス30の軸圧縮変形及びサイドフレーム10の抗力等によって衝撃荷重を吸収する。フルラップ前面衝突では左右のクラッシュボックス30が軸圧縮変形すると共に、ブラケット35に衝撃荷重が入力されてサイドフレーム10を折曲し、クラッシュボックス30の軸圧縮変形量を確保すると共にサイドフレーム10の抗力低下によって衝撃荷重を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関し、特に車体前後方向に延在する左右のサイドフレームの前端間に車幅方向に延在するラジエータパネルロアが架設されると共に、左右のサイドフレームの前端に衝撃吸収部材を介在して車幅方向に延在するバンパが配設された車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体強度及び剛性は、車両の衝突時に備えて乗員の安全を確保するために、乗員の居住空間となる車室の変形を最小限に抑えることが課題になっている。例えば、前面衝突の場合、車両の前部をクラッシュゾーンとして変形して衝撃荷重を吸収することにより、その後方に位置する車室に作用する衝撃を減少させて乗員に及ぼす障害値の低減を図っている。
【0003】
この種の車体前部構造として、左右のサイドフレームの前端間にラジエータパネルロアが架設されると共に、左右のサイドフレームの前端に所定値以上の衝撃荷重が入力されるとその荷重により軸圧縮塑性変形する衝撃吸収部材を取り付け、この左右の衝撃吸収部材の前端部間にバンパを架設するものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、図5に側面図を示すように、車体前後方向に延在する左右のサイドフレーム101の前端間に車幅方向に延在するラジエータパネルロア102が架設されると共に、この左右のサイドフレーム101の前端に所定値以上の衝撃荷重が入力されることにより軸圧縮塑性変形する衝撃吸収部材として機能するクラッシュボックス103が同軸上に取り付けられ、この左右のクラッシュボックス103の前端部間に車幅方向に延在するフロントバンパリインフォース104が設けられる。
【0005】
更に、左右のサイドフレーム101の下側には、前後方向に延在して後端がサブフレーム105の前端に結合された左右の第2メンバ106が配置され、第2メンバ106の前端がフロントバンパリインフォース104に沿って略平行に配置されたバンパリインフォース107によって互いに連結されている。また、これら第2メンバ106は、ラジエータパネル108の縦柱109の下端とラジエータパネルロア102との間に挟まれた状態で縦柱109及びラジエータパネル102に結合される。
【0006】
そして、車体前部が相手の車両の側面に衝突すると、相手車両のサイドシルにバンパリインフォース107が当接し、バンパリインフォース107を介して第2メンバ106へ衝突荷重が入力されると第2メンバ106が軸圧縮変形して衝突荷重を吸収する。一方、サイドフレーム101側においても、フロントバンパリインフォース104から衝撃荷重が入力されると、クラッシュボックス103が軸圧縮変形して衝撃荷重を吸収する。
【0007】
また、特許文献2には、図6に斜視図を示すように、車体前後に延在する左右のサイドフレーム111の下方に、車体前後に延びる左右一対の縦メンバ116と、車幅方向に延在して各縦メンバ116の前端間及び後端間を連結する前部横メンバ117と後部横メンバ118とで構成される枠状のサブフレーム115が配置される。このサブフレーム115は、左右の両前端部がサイドフレーム111の前端部下面から下方に突出する左右一対の連結部材112に支持され、左右後端部がサイドフレーム111の後部において下方に屈曲するキックアップ部に支持される。
【0008】
サブフレーム115の前部横メンバ117から車体前方に突設してラジエータの下部を支持する左右一対の下部ラジエータ支持ブラケット119を設ける。また、サイドフレーム111の前端に突設したラジエータサイドステー120の上端間にラジエータの上部を支持するラジエータアッパーステー121を設ける。
【0009】
これにより、車両が前面衝突した際に、下部ラジエータ支持ブラケット119に入力された衝突荷重を前部横メンバ117から直接サブフレーム115に伝達してサブフレーム115による衝撃吸収効率を高めると共に、大型のラジエータを搭載することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−76455号公報
【特許文献2】特開2008−195094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1によると、車体前部が相手の車両の側面に衝突した際には、相手車両のサイドシルにバンパリインフォース107が当接し、バンパリインフォース107を介して第2メンバ106へ衝突荷重が入力されると、第2メンバ106が軸圧縮変形して衝突荷重を吸収する。一方、サイドフレーム101側においても、フロントバンパリインフォース104から衝撃荷重が入力されるとクラッシュボックス103が軸圧縮変形して衝撃荷重を吸収する。
【0012】
ところで、車体前部の全面がコンクリートバリヤ等に略直角に衝突するフルラップ前面衝突の場合には、フロントバンパリインフォース104を介して左右のクラッシュボックス103及びバンパリインフォース107を介して左右の第2メンバ106に分散して衝撃荷重が伝達され、左右のクラッシュボックス103及び左右の第2メンバ106の軸圧縮変形によって衝撃荷重を吸収する。
【0013】
一方、車体前部の一部だけがコンクリートバリヤ等に衝突するオフセット前面衝突の場合には、フロントバンパリインフォース104を介して一方側のクラッシュボックス103及びバンパリインフォース107を介して一方側の第2メンバ106に衝撃荷重が伝達され、フルラップ衝突の場合に想定した以上の衝撃荷重がクラッシュボックス103及び第2メンバ106に伝達され、フルラップ前面衝突時よりも大きなクラッシュボックス103及び第2メンバ106の軸圧縮変形がもたらされる。
【0014】
このため、オフセット前面衝突を基準にしてクラッシュボックス103及び第2メンバ106の剛性強度を最適にするには、左右のクラッシュボックス103及び第2メンバ106の剛性強度を著しく高めに設定することが必要である。つまり、オフセット前面衝突を基準として設定したクラッシュボックス103及び第2メンバ106を備えた車両でオフセット前面衝突を起こした場合、主に片側だけのクラッシュボックス103及び第2メンバ106の軸圧縮変形で衝撃荷重を効率よく吸収することができる。
【0015】
ところが、オフセット前面衝突で設定された剛性強度のクラッシュボックス103及び第2メンバ106を備えた車両がフルラップ前面衝突すると、衝撃荷重が左右のクラッシュボックス103及び左右の第2メンバ106に分散して伝達されるため、剛性強度が高く設定されているクラッシュボックス103及び第2メンバ106では変形量が小さく、十分に衝撃荷重が吸収されずに残存する衝撃荷重が増大することが懸念される。
【0016】
上記特許文献2においても同様に、フルラップ前面衝突の場合は、左右の下部ラジエータ支持ブラケット119に分散して前部横メンバ117から衝撃荷重がサブフレーム115に伝達して衝撃荷重を吸収する。
【0017】
一方、オフセット前面衝突の場合には、一方の下部ラジエータ支持ブラケット119から前部横メンバ117を介してサブフレーム115に衝撃荷重が伝達され、フルラップ前面衝突の場合に想定した以上の衝撃荷重が一方の下部ラジエータ支持ブラケット119からサブフレーム115に伝達され、フルラップ前面衝突時より大きな変形がもたらされる。
【0018】
このため、オフセット前面衝突を基準に剛性強度を最適にするには、サブフレーム115等の剛性強度を著しく高めた設定することが必要である。つまり、オフセット前面衝突で設定した車両でオフセット前面衝突を起こした場合、サブフレーム115の変形で衝撃荷重を効率よく吸収することができる。
【0019】
ところが、オフセット前面衝突を基準に設定された車両でフルラップ前面衝突すると、衝撃荷重が左右の下部ラジエータ支持ブラケット119に分散して前部横メンバ117を介してサブフレーム115に衝撃荷重が伝達されるため、オフセット前面衝突を基準に設定された剛性強度が高いサブフレーム115の変形量は小さくなり、衝撃荷重が十分に吸収されずに残存することが懸念される。
【0020】
従って、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、フルラップ前面衝突及びオフセット前面衝突において、車体前部で衝撃荷重を有効的に吸収できる車体前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成する請求項1の車体前部構造の発明は、車体前後方向に延在する左右のサイドフレームの前端間にラジエータパネルロアが架設されると共に、該左右のサイドフレームの各前端に所定値以上の衝撃荷重が入力されると軸圧縮変形する衝撃吸収部材を取り付け、該左右の衝撃吸収部材の前端部間にバンパビームを架設した車体前部構造において、上記ラジエータパネルロアにおける上記サイドフレームのフレーム中心軸より車幅方向内方にオフセットすると共に上記バンパビームより下方の位置に、該ラジエータパネルロアから車体前方に向けて突出する衝撃荷重入力部を備えたことを特徴とする。
【0022】
これによると、左右のサイドフレームの前端間にラジエータパネルロアを架設し、各サイドフレームの各前端に軸圧縮変形する衝撃吸収部材を取り付け、衝撃吸収部材の前端部間にバンパビームを架設し、ラジエータパネルロアにおけるサイドフレームのフレーム中心軸より車幅方向内方にオフセットすると共にバンパビームより下方の位置にラジエータパネルロアから車体前方に向けて突出する衝撃荷重入部を備えることで、車体前部が所定値以上で衝突すると、バンパビームを介して衝撃吸収部材へ衝撃荷重が入力されて衝撃吸収部材の軸圧縮変形により衝撃荷重を吸収する。
【0023】
仮に衝撃荷重入力部を備えない車両においては、フルラップ前面衝突の場合には、その衝撃荷重がバンパビームを介して左右の衝撃吸収部材に分散して伝達される。一方、オフセット前面衝突の場合には衝撃荷重がバンパビームを介して対応する一方側の衝撃吸収部材に入力され、フルラップ衝突の場合より大きな衝撃荷重が衝撃吸収部材及びサイドフレームに伝達される。
【0024】
ここで、衝撃荷重入力部を備えた請求項1の車両前部構造にあっては、例えば衝撃吸収部材としてオフセット前面衝突に対応すべく剛性強度が比較的大きい衝撃吸収部材を設定することで、車体前部の一部だけが衝突するオフセット前面衝突の場合には、一方側の衝撃吸収部材の軸圧縮変形及びサイドフレームの抗力等によって衝撃荷重を効率よく吸収することができる。一方、フルラップ前面衝突に場合には、バンパビームを介して左右の衝撃吸収部材に分散して衝撃荷重が伝達されて、左右の衝撃吸収部材が軸圧縮変形すると共に、ラジエータパネルに突設された左右の衝撃荷重入部に前方から衝撃荷重が入力されてラジエータパネルロアを介してサイドフレームが折曲する。これにより剛性強度が比較的高い衝撃吸収部材であっても、その十分な軸圧縮変形量が確保されると共にサイドフレームの抗力の低下等によって、有効的な衝撃荷重の吸収特性が得られる。即ち、フルラップ前面衝突及びオフセット前面衝突において、車体前部で衝撃荷重を有効的に吸収できる。
【0025】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車体前部構造においいて、上記ラジエータパネルロアは、上記左右のサイドフレームの前端部下面に両端が結合されて車幅方向延在する前面、上面、後面、下面を有する閉断面形構造のラジエータパネルロア本体及び該ラジエータパネルロア本体の両端に結合されて左右のサイドフレームの前端に結合される取付基部を有し、上記衝撃荷重入力部は、上記ラジエータパネルロア本体の前面で上記サイドフレームのフレーム中心軸より車幅方向内方にオフセットした位置に後端が固定されて前方に向かう柱状体であることを特徴とする。
【0026】
これにより、サイドフレームのフレーム中心軸に対して車幅方向内方にオフセットしてラジエータパネルロア本体の前面に衝撃荷重入部となる柱状体を配設することで、前方から所定以上の衝撃荷重が柱状体に入力されると、有効的にラジエータパネル本体に荷重伝達されてラジエータパネルロア本体及び取付基部を介してサイドフレームの前端部を折曲することはできる。
【0027】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の車体前部構造においいて、上記ラジエータパネルロアは、上記左右のサイドフレームの前端部下面に両端が結合されて車幅方向延在する前面、上面、後面、下面を有する閉断面形構造のラジエータパネルロア本体及び該ラジエータパネルロア本体の両端に結合されて左右のサイドフレームの前端に結合される取付基部を有し、上記衝撃荷重入力部は、上記ラジエータパネルロア本体の前面で上記サイドフレームのフレーム中心軸より車幅方向内方にオフセットした位置に後端が固定されて前方に向かう上面及び両側の折り線において折り曲げられた側面が形成されたアッパ部材と、後端がラジエータパネル本体の前面に固定されて両側がアッパ部材の両側縁に結合されると共に前端に折曲して上記アッパ部材の前端を覆う当接部が形成されたロア部材とによって中空柱状に形成されたブラケットであることを特徴とする。
【0028】
これによると、サイドフレームのフレーム中心軸に対して車幅方向内方にオフセットしてラジエータパネルロア本体の前面に衝撃荷重入部となるブラケットを配設することで、前方から所定以上の衝撃荷重がブラケットに入力されると、有効的にラジエータパネル本体に荷重伝達されてラジエータパネルロア本体及び取付基部を介してサイドフレームの前端部を折曲することはできる。更に、ブラケットがラジエータパネルロア本体の前面に後端が固定されて前方に向かう上面及び両側縁の折り線において下向きに折り曲げられた側面が形成されるアッパ部材と、後端がラジエータパネル本体の前面に固定される板状で両側がアッパ部材に結合されると共に前端に当接部が形成されたロア部材とによって軽量でかつ軸方向の剛性が確保される。
【0029】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車体前部構造において、上記サイドフレームの前端部近傍に脆弱部が形成されたことを特徴とする。
【0030】
これによると、サイドフレームの前端部近傍に脆弱部を形成することで、サイドフレームの安定した折曲が得られる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、オフセット前面衝突の場合には、一方側の衝撃吸収部材の軸圧縮変形及びサイドフレームの抗力等によって衝撃荷重を効率よく吸収することができる。一方、フルラップ前面衝突に場合には、バンパビームを介して左右の衝撃吸収部材に分散して衝撃荷重が伝達され、左右の衝撃吸収部材が軸圧縮変形すると共に、左右の衝撃荷重入力部に前方から衝撃荷重が入力されてサイドフレームを折曲して、衝撃吸収部材の十分な軸圧縮変形量が確保されると共にサイドフレームの抗力の低下等によって、有効的な衝撃荷重の吸収特性が得られる。即ち、フルラップ前面衝突及びオフセット前面衝突において、車体前部で衝撃荷重を有効的に吸収できる
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態の概要を示す車体前部構造の斜視図である。
【図2】ラジエータパネルアッパを省略した図1の平面図である。
【図3】図1のIII矢視図である。
【図4】図1のIV部拡大図である。
【図5】従来の車体前部構造の概要を示す側面図である。
【図6】従来の車体前部構造の概要を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明による車体前部構造の一実施の形態を図1乃至図4を参照して説明する。
【0034】
図1は、車体前部構造の概略を示す斜視図、図2はラジエータパネルアッパの一部を省略した図1の平面図、図3は図1のIII矢視図、図4は図1のIV部拡大図である。なお、図中矢印Fは車体前方方向を示す。
【0035】
車体前部において車体前後方向に延在する左右のサイドフレーム10が配置され、サイドフレーム10の後端がエンジンルームEと図示しない車室とに区画するトーボード乃至フロントピラに結合される。また、左右のフロントピラの前端部から車体前方に延在するアッパフレーム16を備え、左右のアッパフレーム16の前端が車幅方向中央範囲において車幅方向に延在する前部17a及び前部17aの両端から側部17bが車体後方に移行するに従って互いに離反するように湾曲状に形成されたラジエータパネルアッパ17によって連結される。また、サイドフレーム10の前端近傍とアッパフレーム16の前端が連結部材18によって連結される。
【0036】
左右のサイドフレーム10は、車幅方向内側の内側面12、内側面12の上縁及び下縁に沿って車幅方向外方に折曲形成された上面13及び下面14を有する断面略コ字状で車体前後方向に延在するインナパネル11と、このインナパネル11の上面13及び下面14の端縁に折曲形成されたフランジに上縁及び下縁が結合されるアウタパネル15とによって略矩形閉断面形状で車体前後方向に沿って延在する。
【0037】
この左右のサイドフレーム10は、車室側となる後端側から前端側に移行するに従って、互い徐々に離間するように車体前後方向、いわゆる車体軸線方向に対して若干車幅方向に傾斜した前広がり状態に配置され、かつ前端部近傍にインナパネル11の内側面12に形成された上下方向に延在する変形発生誘発用のビード11b及びアウタパネル15に形成された上下方向に延在する変形発生誘発用のビード15bによって該部に曲げ方向の剛性が抑制された脆弱部が形成される。
【0038】
各左右のサイドフレーム10の前端間に車幅方向に延在するラジエータパネルロア20が架設される。ラジエータパネルロア20は、左右のサイドフレーム10の前端部下面に両端がそれぞれ結合されて車幅方向延在する前面22、上面23、後面24、下面25を有する閉断面形構造のラジエータパネルロア本体21及びラジエータパネルロア本体21の両端に結合されて左右のサイドフレーム10の前端全周に亘って結合される取付基部26を有する。ラジエータパネルロア20の側端部にタイダウンフック29が設けられるが、タイダウンフック29は、本発明と直接的な関係を有しないので説明を省略する。
【0039】
左右のサイドフレーム10の前端にラジエータパネルロア20の取付基部26を介在してサイドフレーム10と同軸上に配置され、前方から所定値以上の衝撃荷重の入力によって軸圧縮塑性変形して衝撃荷重を吸収する略矩形筒体形状のクラッシュボックス30が取り付けられる。これら左右の衝撃荷重吸収部材となるクラッシュボックス30の前端部は、車幅方向に延在するバンパビーム31によって互いに連結される。バンパビーム31は、フロントバンパの一部を構成する強度部材であり、その前方側に衝撃緩和部材及び樹脂製の表皮材であるバンパフェイスが配設される。
【0040】
ラジエータパネルロア本体21の前面22の両端近傍でサイドフレーム10のフレーム中心軸10Lより車幅方向内方にオフセットWした位置に、車体前方方向に突出する衝撃荷重入力用のブラケット35が設けられる。ブラケット35は、図4に示すようにラジエータパネルロア本体21の前面22に後端が固定されて前方に向かう矩形板状に形成された上面36A及び両側縁の折り線36aにおいて下向きに折り曲げられた側面36Bが形成されると共に両側縁にフランジ36bが折曲形成された断面ハット状で前方に延在するアッパ部材36と、後端がラジエータパネル本体21の前面22に固定される板状で両側がアッパ部材36のフランジ36bに結合されると共に前端が上方に折曲してアッパ部材36の前端を覆う当接部37Aが形成されたロア部材37とによって中空柱状体に形成され、軽量でかつ軸方向の剛性が確保される。このブラケット35の当接部37Aは、バンパビーム31より車体後方でかつバンパビーム31より下方に設定される。具体的には、オフセット正面衝突用のコンクリートバリヤに接触しない高さ位置に保持される。
【0041】
これにより、サイドフレーム10のフレーム中心軸10Lに対して車幅方向内方にオフセットWしてラジエータパネルロア本体21の前面22に衝撃荷重入力部となる中空柱状のブラケット35を配設することで、図2に示すようにブラケット35の先端となる当接部37Aに前方から所定以上の衝撃荷重、即ちブラケット35の軸方向に軸力Pが入力されると、ラジエータパネル本体21の前面22に荷重伝達されてラジエータパネルロア本体21が中折れ状に折曲乃至湾曲すると共に、ラジエータパネルロア本体21を介してラジエータパネルロア20が結合されたサイドフレーム10の前端部にモーメント荷重Mが付与され、サイドフレーム10を仮想線10aで示すようにビード11b、15bによって形成された脆弱部が車幅方向外方に突出するように折曲する外折れとなる、いわゆる外折れモードに制御される。
【0042】
ラジエータ40が、バンパビーム31の後面に沿って車幅方向に延在すると共に左右のクラッシュボックス30の間でかつラジエータパネルアッパ17の前部17aとラジエータパネルロア20のラジエータパネルロア本体21との間に配置され、ラジエータ40の上部がラジエータパネルアッパ17に支持され、下部がラジエータパネルロア20に支持される。
【0043】
次に、このように構成された車体前部構造の作用及び効果について説明する。
【0044】
例えばコンクリートバリヤ等に車体前部が所定値以上で衝突、即ちバンパがコンクリートバリヤに当接すると、バンパビーム31を介してクラッシュボックス30へ衝撃荷重が入力され、クラッシュボックス30が軸圧縮変形して衝撃荷重を吸収する。
【0045】
ここで、車体前部の一部だけがコンクリートバリヤ等に衝突するオフセット前面衝突の場合には、その衝撃荷重がバンパビーム31を介して対応する一方側のクラッシュボックス30に入力され、クラッシュボックス30を介して一方側のサイドフレーム10に衝撃荷重が伝達されて、フルラップ衝突の場合に想定した衝撃荷重に比べ著しく大きな衝撃荷重が一方側のクラッシュボックス30及びサイドフレーム10に伝達される。このためオフセット前面衝突を基準にクラッシュボックス30の剛性強度を最適にするには、左右のクラッシュボックス30の剛性強度をフルラップ前面衝突を基準にした場合に比べ著しく高めに設定することが必要である。つまり、オフセット前面衝突を基準に設定したクラッシュボックス30を備えた車両でオフセット前面衝突を起こした場合、主に片側だけのクラッシュボックス30の軸圧縮変形及びサイドフレーム10の抗力によって衝撃荷重を効率よく吸収することができる。即ち、クラッシュボックス30の剛性強度をオフセット前面衝突で設定した剛性強度に設定すると共にサイドフレーム10の抗力を設定することで、車両の減速加速度Gを低減させて乗員に及ぼす障害値を低減させることができる。
【0046】
一方、車体前部の全面がコンクリートバリヤ等に略直角に衝突するフルラップ前面衝突の場合には、バンパビーム31を介して左右のクラッシュボックス30に分散して衝撃荷重が伝達され、左右のクラッシュボックス30が共に軸圧縮変形する。更にコンクリートバリヤ等にラジエータパネルロア本体21に突設された左右のブラケット35の当接部37Aが当接して、各当接部37Aに前方から衝撃荷重が入力され、ラジエータパネルロア本体21が中折れ状に折曲乃至湾曲変形すると共にラジエータパネルロア本体21及び取付基部26を介してサイドフレーム10の前端部にモーメント荷重Mが付与される。このモーメント荷重Mによりサイドフレーム10の前端部がビード11b、15bによって形成された脆弱部が車幅方向外方に突出するように折曲する。
【0047】
このサイドフレーム10の前端部の折曲によって、クラッシュボックス30の軸中心方向とバンパビーム31から入力される荷重入力方向及びサイドフレーム10の効力方向の同軸性が崩れ、サイドフレーム10の抗力によるクラッシュボックス30の均衡した保持が崩れ、フルラップ前面衝突を基準とした比較的小さな衝撃荷重の付与であってもオフセット前面衝突を基準に剛性強度を設定したクラッシュボックス30の軸圧縮変形が可能になる。これにより、クラッシュボックス30の十分な軸圧縮変形量が確保されると共にサイドフレーム10の抗力の低下によって、クラッシュボックス30の軸圧縮変形及びサイドフレーム10の抗力により有効的な衝撃荷重の吸収特性が得られ、車両の減速加速度Gが低減すると共に、後方の車室側に伝達される衝撃を緩和しながら衝撃荷重を吸収する。即ち、車両の減速加速度Gを低減させて乗員に及ぼす障害値を低減させることができる。
【0048】
従って、本実施の形態によると、サイドフレーム10の前端部を折曲させることでオフセット前面衝突を基準に剛性強度を設定したクラッシュボックス30であってもフルラップ前面衝突を基準にした比較的小さな衝撃荷重によってクラッシュボックス30の軸圧縮変形による衝撃荷重の有効的な吸収が可能になる。これにより、車体前部の一部だけがコンクリートバリヤ等に衝突するオフセット前面衝突の場合には、そのオフセット前面衝突を基準に剛性強度を最適に設定したクラッシュボックス30の軸圧縮変形及びサイドフレーム10の抗力等によって衝撃荷重を効率よく吸収することができると共に、フルラップ前面衝突のときには、その衝撃荷重によってサイドフレーム10を折曲変形させることで、クラッシュボックス30の軸圧縮変形量及びサイドフレーム10の抗力低減等によって衝撃荷重を有効的に吸収することができる。
【0049】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では変形発生誘発用のビード11b、15b等によってメインフレーム10に脆弱部を形成したが、ビード11b、15bの形状や個数、設定箇所を適宜変形するができる。また、ラジエータパネルロア本体21の前面22に配接される衝撃荷重入部としてアッパ部材36とロア部材37とからなる中空柱状のブラケット35によって構成したが、先端が閉じた筒状体や柱状体等の樹脂材等種々の構成部材で構成することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 サイドフレーム
11 インナパネル
11b ビード(脆弱部)
15 アウタパネル
15b ビード(脆弱部)
20 ラジエータパネルロア
21 ラジエータパネルロア本体
22 前面
23 上面
24 後面
25 下面
26 取付基部
30 クラッシュボックス(衝撃吸収部材)
31 バンパビーム(バンパ)
35 ブラケット(衝撃荷重入力部)
36 アッパ部材
36A 上面
36B 側面
36a 折り線
36b フランジ
37 ロア部材
37A 当接部
40 ラジエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延在する左右のサイドフレームの前端間にラジエータパネルロアが架設されると共に、該左右のサイドフレームの各前端に所定値以上の衝撃荷重が入力されると軸圧縮変形する衝撃吸収部材を取り付け、該左右の衝撃吸収部材の前端部間にバンパビームを架設した車体前部構造において、
上記ラジエータパネルロアにおける上記サイドフレームのフレーム中心軸より車幅方向内方にオフセットすると共に上記バンパビームより下方の位置に、該ラジエータパネルロアから車体前方に向けて突出する衝撃荷重入力部を備えた、ことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
上記ラジエータパネルロアは、
上記左右のサイドフレームの前端部下面に両端が結合されて車幅方向延在する前面、上面、後面、下面を有する閉断面形構造のラジエータパネルロア本体及び該ラジエータパネルロア本体の両端に結合されて左右のサイドフレームの前端に結合される取付基部を有し、
上記衝撃荷重入力部は、
上記ラジエータパネルロア本体の前面で上記サイドフレームのフレーム中心軸より車幅方向内方にオフセットした位置に後端が固定されて前方に向かう柱状体である、ことを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
上記ラジエータパネルロアは、
上記左右のサイドフレームの前端部下面に両端が結合されて車幅方向延在する前面、上面、後面、下面を有する閉断面形構造のラジエータパネルロア本体及び該ラジエータパネルロア本体の両端に結合されて左右のサイドフレームの前端に結合される取付基部を有し、
上記衝撃荷重入力部は、
上記ラジエータパネルロア本体の前面で上記サイドフレームのフレーム中心軸より車幅方向内方にオフセットした位置に後端が固定されて前方に向かう上面及び両側の折り線において折り曲げられた側面が形成されたアッパ部材と、後端がラジエータパネル本体の前面に固定されて両側がアッパ部材の両側縁に結合されると共に前端に折曲して上記アッパ部材の前端を覆う当接部が形成されたロア部材とによって中空柱状に形成されたブラケットであることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項4】
上記サイドフレームの前端近傍に脆弱部が形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−206639(P2012−206639A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74462(P2011−74462)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】