説明

車体前部構造

【課題】車体前方からの衝撃を吸収する性能を維持しながら、高さ方向の寸法を小さくできる車体前部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる車体前部構造100は、車体110の前端に設置されるフロントバンパー120を含む車体前部構造において、フロントバンパーの下部で車幅方向に沿って形成されたフランジ部126と、フランジ部の前面126aから前方に突出する車幅方向に沿って所定間隔で形成されたリブ128と、フランジ部の後面126bと接触する縦壁部132を有しリブを介して車体前方からの衝撃を吸収するアブソーバー130とを備え、フランジ部には、リブと車幅方向に並んで、別部品140が取付けられる取付部129が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前端に設置されるフロントバンパーを含む車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロントバンパーを含む車体前部構造では、例えば、フロントバンパーに歩行者の脚部が接触するような緊急事態を想定し、歩行者の脚部を保護するために衝撃吸収性能(歩行者脚部保護性能)を高めることが求められている。歩行者脚部保護性能は、例えば脚部を模したインパクターを車体前方からフロントバンパーに衝突させる歩行者保護脚部試験で評価される。
【0003】
特許文献1には、フロントバンパーの車内側かつ下側に衝撃吸収用のアブソーバーが設置された車体前部構造が開示されている。アブソーバーの後端側は車体を構成するクロスメンバの前面に取付けられていて、先端側はフロントバンパーの裏側に対向して配置されている。アブソーバーは、歩行者の脚部などの被衝突体がフロントバンパーに衝突した際に、フロントバンパーをその裏側から受け止め、自身が変形することで被衝突体への反力を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−91006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、歩行者脚部保護性能を満足させるためには、アブソーバーは車高方向(高さ方向)に一定以上の寸法を有する必要がある。
【0006】
また、フロントバンパーの下部には、スキッドプレートやスポイラーなどの別部品を組付ける場合がある。特許文献1に記載の車体前部構造では、フロントバンパーに別部品を取付けるための取付構造を形成している。この取付構造は、専ら別部品を取付ける機能しか有さず、衝撃吸収用のアブソーバーとして機能するものではない。
【0007】
このため、フロントバンパーの下部には、アブソーバーの先端の高さ方向の寸法に加え、衝撃吸収性能に寄与しない取付構造の高さ方向の寸法が必要となり、車体前部構造の高さ方向の寸法が大きくならざるを得なかった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、車体前方からの衝撃を吸収する性能を維持しながら、高さ方向の寸法を小さくできる車体前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体前部構造の代表的な構成は、車体の前端に設置されるフロントバンパーを含む車体前部構造において、フロントバンパーの下部で、車幅方向に沿って形成されたフランジ部と、フランジ部の前面から前方に突出する車幅方向に沿って所定間隔で形成されたリブと、フランジ部の後面と接触する縦壁部を有しリブを介して車体前方からの衝撃を吸収するアブソーバーとを備え、フランジ部には、リブと車幅方向に並んで、別部品が取付けられる取付部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、車体前方からの衝撃をアブソーバーに伝達するリブと、別部品を取付けるための取付部とが、フランジ部の車幅方向に並んで形成され互いに干渉しない。このため、衝撃を受けるために必要なリブを含む構造と、別部品を取付けるために必要な取付部を含む構造とが、左右方向で共存できる。これに対して、既存の車体前部構造では、双方の構造が上下方向に並んでいた。したがって、車体前方からの衝撃を吸収する性能を維持しながら、車体前部構造の高さ方向の寸法を小さくできる。
【0011】
リブと取付部とは、車幅方向に交互に並んでいるとよい。これにより、リブと取付部とがフランジ部の車幅方向に亘って所定間隔で形成される。よって、車体前方からの衝撃をフランジ部の車幅方向に亘るリブで均一に受けてアブソーバーに伝達できる。また、フランジ部の車幅方向に亘る取付部に別部品を安定して取付けられる。
【0012】
リブの硬さは、アブソーバーの硬さと同等以上であるとよい。これにより、衝突時にリブの形状が崩れることなく、車体前方からの衝撃がリブを介してアブソーバーに確実に伝達される。なお、リブは、厚みや寸法を調整することで剛性を高めることができる。
【0013】
リブの高さ方向の寸法は、アブソーバーの縦壁部の高さ方向の寸法とほぼ同一であるとよい。これにより、リブは、アブソーバーに衝撃を伝達するための剛性が不足することがなく、また、高さ方向の寸法を小さくすることに寄与する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車体前方からの衝撃を吸収する性能を維持しながら、高さ方向の寸法を小さくできる車体前部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態における車体前部構造を概略的に示す図である。
【図2】図1の車体前部構造を車体前方から見た状態を説明する図である。
【図3】図2の車体前部構造の断面図である。
【図4】図3の車体前部構造が衝撃を吸収する状態を示す図である。
【図5】比較例の車体前部構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態における車体前部構造を概略的に示す図である。図2は、図1の車体前部構造を車体前方から見た状態を説明する図である。車体前部構造100は、車体前方からの衝撃を吸収する性能を有していて、例えば、車体110の前端に設置されるフロントバンパー120と、フロントバンパー120の下部の車体後方側に配置される歩行者保護用ロアアブソーバー(以下、アブソーバー130)とを備える。なお、アブソーバー130の後端は、車体110の前端付近の骨組みであるバンパメンバ112の前面に車幅方向に延びるように設置される。
【0018】
フロントバンパー120の下部は、図1に示すように、車幅方向の中央部分が上方に窪んで形成された空間部122を有する。フロントバンパー120の空間部122には、スキッドプレートまたはスポイラーなどの別部品140が取付けられる。別部品140は、図2に示すようにフロントバンパー120に取付けられた状態で、前側部分がフロントバンパー120の下部を覆っていて、車体前部構造100の一部を成している。
【0019】
また、フロントバンパー120には、ロアグリル150を取付けるためのロアグリル取付部124が形成されている。ロアグリル150は、図1に示すように、格子状に形成された部材であり、フロントバンパー120の裏側から取り付けられ、不図示のラジエータに対する空気取入口として機能する。なお、ロアグリル150は、ここでは図示を省略するアッパグリルと共に、いわゆるフロントグリルと総称される。
【0020】
図3は、図2の車体前部構造100の断面図である。図3(a)は、図2の車体前部構造100のA−A断面図である。図3(b)は、図2の車体前部構造100のB−B断面図である。ここで、図3(a)および図3(b)に示される各構造は、フロントバンパー120の車幅方向に沿って交互に繰り返される。なお、図2ではロアグリル150を省略して示しているが、図3では便宜上、ロアグリル150の最も下方に位置する格子の車両前後方向に沿った断面も示している。
【0021】
フロントバンパー120は、楔形状のロアグリル取付部124を有する。また、ロアグリル150には、取付穴152が形成されている。フロントバンパー120では、図3(a)および図3(b)に示すように、ロアグリル取付部124をロアグリル150の取付穴152に差し込むことで、ロアグリル150が取付けられる。
【0022】
フロントバンパー120は、上下方向(高さ方向)に延びるフランジ部126を有する。フランジ部126は、図3(a)のA−A断面および図3(b)のB−B断面で存在していて、車幅方向に沿って形成されている。
【0023】
フロントバンパー120には、フランジ部126の前面126aから前方に突出した例えば樹脂製のリブ128が一体に形成されている(図3(a)参照)。リブ128は、図3(a)のA−A断面で存在し、図3(b)のB−B断面で存在せず、車幅方向に沿って所定間隔で形成されている。また、リブ128は、前端が別部品140の裏側に対向する位置にあり、車体前方からの衝撃を別部品140の裏側で受ける。
【0024】
フロントバンパー120には、図3(b)に示すように、フランジ部126の根本側に別部品140を取り付けるための取付穴(取付部129)が形成されている。また、別部品140には、楔形状の突起部分142が形成されている。フロントバンパー120では、図3(b)に示すように、別部品140の突起部分142が取付部129に差し込まれることで、別部品140が取付けられる。フロントバンパー120の取付部129は、図3(a)のA−A断面で存在せず、図3(b)のB−B断面で存在していて、車幅方向に沿って所定間隔で形成されている。
【0025】
つまり、フロントバンパー120では、車体前方からの衝撃を受けるリブ128と、別部品140を取付けるための取付部129とが、互いに干渉しないように、フランジ部126の車幅方向に亘って交互に並んで形成されている。よって、車体前部構造100では、衝撃を受けるために必要なリブ128を含む構造と、別部品140を取付けるために必要な取付部129を含む構造とが、上下方向ではなく左右方向で共存している。
【0026】
また、フランジ部126の後面126bには、リブ128を介して車体前方からの衝撃を吸収する例えば樹脂製のアブソーバー130が設置されている。リブ128は、その厚みや寸法を調整することで、アブソーバー130と同等以上の硬さを有している。
【0027】
アブソーバー130は、フランジ部126の後面126bと接触する縦壁部132を有する。縦壁部132は、図3(a)に示すように、リブ後端の合わせ面としてのフランジ部126の後面126bに対して、高さ方向の位置が同じになるように配置され、さらに、高さ方向の幅寸法Laとほぼ同一の寸法を有する。このため、アブソーバー130は、縦壁部132によって高さ方向の寸法が大きくならず、また、衝撃を吸収するための剛性が不足することもない。
【0028】
さらに、別部品140は、フロントバンパー120の取付部129に取付けられた状態で、アブソーバー130の縦壁部132の下方に位置するように形成され、例えば、車体前部構造100の最低地上高を規定する。別部品140は、図3(a)および図3(b)に示すように、リブ128やアブソーバー130の縦壁部132に近付けるように、例えば二点鎖線で示した別部品140Aよりも高い位置に形成されて、最低地上高を高くする。
【0029】
次に、図4を参照して、車体前部構造100に対して歩行者保護脚部試験を実施した場合について説明する。歩行者保護脚部試験は、例えばインパクター160を車体前方からフロントバンパー120に衝突させて、車体前部構造100の衝撃吸収性能(歩行者脚部保護性能)を評価するものである。図4は、図3の車体前部構造100が衝撃を吸収する状態を示す図である。
【0030】
歩行者保護脚部試験の実施時に、インパクター160から受けた衝撃は、図中矢印に示すように、別部品140からフロントバンパー120のリブ128に伝わる。リブ128の硬さは、上記したようにアブソーバー130と同等以上に設定されている。このため、リブ128の形状が崩れることなく、車体前方からの衝撃がリブ128を介してアブソーバー130に確実に伝達される。
【0031】
そして、アブソーバー130は、衝撃を吸収して、歩行者脚部保護性能を発揮する。よって、車体前部構造100では、緊急時に歩行者の脚部と接触した際であっても、車体前方からの衝撃を吸収することで、歩行者の脚部を保護する。
【0032】
図5は、比較例の車体前部構造100Aを説明する図である。なお、図5は、A−A断面である図3(a)に対応していて、上記した車体前部構造100と同一部材には同一符号を付し、説明を適宜省略する。
【0033】
車体前部構造100Aは、フロントバンパー120Aに別部品140Aを裏側から支持する上記リブ128が形成されず、補強用の肉厚部128Aが形成されている点、アブソーバー130Aの先端部132Aが別部品140Aの裏側に向かって延びている点で、上記車体前部構造100と異なる。
【0034】
ここで、別部品140Aとフロントバンパー120Aとの取付構造は、図示を省略するが、B−B断面である図3(b)と同様に、フロントバンパー120Aの根本部分に形成された取付穴に、別部品140Aの楔形状の突起部分を差し込むことで成る。この取付構造は、衝撃吸収性能を有さず、歩行者脚部保護性能に寄与しない。また、アブソーバー130Aは、上記リブ128に代わって先端部132Aが車体前方からの衝撃を受けて、衝撃を吸収し、歩行者脚部保護性能を発揮する。
【0035】
車体前部構造100Aでは、別部品140Aをフロントバンパー120Aに取付けるための取付構造と、歩行者脚部保護性能を得るために必要なアブソーバー130Aの先端部132Aを含む構造とが、図示のように、上下方向に並んで配置されている。一例として、取付構造には、高さ方向の寸法Lbが必要となる。また、アブソーバー130Aの先端部132Aを含む構造には、高さ方向の寸法Lcが必要となる。
【0036】
すなわち、車体前部構造100Aでは、歩行者脚部保護性能を得るために必要なアブソーバー130Aの先端部132Aを含む構造の寸法Lcに加えて、歩行者脚部保護性能に寄与しない取付構造の寸法Lbも必要となる。その結果、車体前部構造100Aでは、高さ方向の寸法が車体前部構造100に比べて大きくなり、それに合わせて別部品140Aもアブソーバー130Aの下方に位置することになる。つまり、別部品140Aは、図3(a)、図3(b)および図4に二点鎖線で示したように、実線で示した別部品140に比べて下方に配置される。
【0037】
これに対して本実施形態では、上記したように、衝撃を受けるために必要なリブ128を含む構造と、別部品140を取付けるために必要な取付部129を含む構造とが、フランジ部126の車幅方向に並んで形成され互いに干渉しない。このため、車体前部構造100では、双方の構造を含めた高さ方向の寸法がLaで済み(図3(a)参照)、高さ方向の寸法を小さくできる。
【0038】
また、アブソーバー130と同等以上の硬さに設定されたリブ128が、アブソーバー130の縦壁部132の前方に位置しているので、比較例のようにアブソーバー130Aの先端部132Aが別部品140Aの裏側付近まで延びている場合と比べても、ほぼ同等の歩行者保護性能を発揮できる。よって、車体前部構造100では、車体前方からの衝撃を吸収する性能を維持しながら、高さ方向の寸法を小さくできる。
【0039】
また、車体前部構造100は、リブ128の硬さを調整することで、車体前方から受けた際の初期の衝撃を調整してもよい。また、最低地上高を高くすることで、例えば、路面の段差などに別部品140が衝突する頻度を小さくできる。さらに、歩行者保護性能に寄与しない無駄な寸法を削減することで、車高の調節などの自由度が増すことから、例えば、意匠性やアプローチアングルだけでなく、いわゆるラッシング性能やトーイング性能にも悪影響を及ぼさない。なお、ロアグリル150の高さ方向の寸法を小さくする必要もなく、空気取入口としての開口が減少することも抑えられる。
【0040】
さらに、車体前部構造100では、リブ128と取付部129とが、フランジ部126の車幅方向に亘って交互に並んで形成されていることから、車体前方からの衝撃をフランジ部126の車幅方向に亘るリブ128で均一に受けてアブソーバー130に伝達できる。また、フランジ部126の車幅方向に亘る取付部129に別部品140を安定して取付けられる。
【0041】
なお、リブ128と取付部129とは、フランジ部126の車幅方向に並んで形成され互いに干渉しないのであれば、必ずしも交互に並んで形成されなくてもよい。このような場合であっても、車体前部構造100の高さ方向の寸法を小さくできる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、車体の前端に設置されるフロントバンパーを含む車体前部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
100…車体前部構造、110…車体、112…バンパメンバ、120…フロントバンパー、122…空間部、124…ロアグリル取付部、126…フランジ部、126a…フランジ部の前面、126b…フランジ部の後面、128…リブ、129…取付部、130…アブソーバー、132…縦壁部、140…別部品、142…突起部分、150…ロアグリル、152…取付穴、160…インパクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前端に設置されるフロントバンパーを含む車体前部構造において、
前記フロントバンパーの下部で車幅方向に沿って形成されたフランジ部と、
前記フランジ部の前面から前方に突出する車幅方向に沿って所定間隔で形成されたリブと、
前記フランジ部の後面と接触する縦壁部を有し前記リブを介して車体前方からの衝撃を吸収するアブソーバーとを備え、
前記フランジ部には、前記リブと車幅方向に並んで、別部品が取付けられる取付部が形成されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記リブと前記取付部とは、車幅方向に交互に並んでいることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記リブの硬さは、前記アブソーバーの硬さと同等以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記リブの高さ方向の寸法は、前記アブソーバーの前記縦壁部の高さ方向の寸法とほぼ同一であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236442(P2012−236442A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105122(P2011−105122)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)