説明

車体前部構造

【課題】部品点数の増加や構造の複雑化を招くことなく、エプロンフロントエクステンションにかかった荷重を効率的に分散することが可能な車体前部構造を提供する。
【解決手段】 本発明にかかる車体前部構造100は、フェンダエプロンパネル(フェンダエプロン120)は、前面(前面部122)と車体内方側の側面(側面部124)との間の少なくとも下部において、車体前方から車体後方に向かって車体内方に傾斜する傾斜面(傾斜部126)を含み、エンジンマウント104aが取り付けられ、フェンダエプロンパネルの前面に接合されるエプロンフロントエクステンション(エプロンフロント130)には、フェンダエプロンパネルの傾斜面に沿うように車体後方に向かって後端を延長させたフランジ132が形成されていて、傾斜面とフランジとが更に接合されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンが配置されるエンジンルームが設けられた車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部にエンジンが配置される車両では、フロントフードの下方(内側)にエンジンルームが設けられている。エンジンルームには、内部において前輪のサスペンションを支持するストラットタワーも配置される。ストラットタワーは、スプリングサポートやフェンダエプロンパネル等によって側面が構成されていて、この側面に、車体前方に向かって延びるエプロンフロントエクステンション(エプロンフロントとも称される)が接合される。エプロンフロントエクステンションは車体構造部材にも接合されるため、エプロンフロントエクステンションによってストラットタワーと車体構造部材が連結され、サスペンションからストラットタワーにかかった荷重が車体構造部材に好適に分散される。
【0003】
またエプロンフロントエクステンションは、エンジンを支持するエンジンマウントが取り付けられ、かかるエンジンマウントを介してエンジンを支持することがある。例えば特許文献1では、サスペンションタワー(ストラットタワー)とフロントサイドフレーム(車体構造部材)とを覆うエプロン部(エプロンフロントエクステンション)に、エンジンマウント取付部を介してエンジンマウントを取り付ける構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−245864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようにエプロンフロントエクステンションにエンジンマウントが取り付けられる場合、エプロンフロントエクステンションには、ストラットタワーを介したサスペンションからの荷重だけでなく、エンジンマウントを介したエンジンからの荷重も負荷されることとなる。したがって、エプロンフロントエクステンションにかかった荷重のより効率的な分散が不可欠となる。
【0006】
荷重を効率的に分散させるために、特許文献1では、サスペンションタワーとエンジンマウント取付部とを連結するガゼット部材(補強部材)を設けている。これによれば、パワープラント(エンジン)からかかった後退エネルギー(荷重)を、サスペンションタワーやエプロンメンバを経由して車体上部に伝達(分散)することができるとしている。
【0007】
しかしながら、特許文献1のように補強部材を設ける構成であると、部品点数が増すため、コストや重量の増大を招いてしまう。また特許文献1のように、補強部材は概して嵩張った形状を有するため、占有体積が大きい。すると、補強部材が配置される領域に従来配置されていた部品やその周囲の部品において大幅な設計変更が必要になったり、構造が複雑化したりしてしまうおそれもある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、部品点数の増加や構造の複雑化を招くことなく、エプロンフロントエクステンションにかかった荷重を効率的に分散することが可能な車体前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体前部構造の代表的な構成は、エンジンが配置されるエンジンルームが設けられた車体前部構造であって、内部において前輪のサスペンションを支持するストラットタワーの前面および車体内方側の側面を構成するフェンダエプロンパネルと、エンジンを支持するエンジンマウントが取り付けられ、フェンダエプロンパネルの前面に接合されるエプロンフロントエクステンションとを備え、フェンダエプロンパネルは、前面と車体内方側の側面との間の少なくとも下部において、車体前方から車体後方に向かって車体内方に傾斜する傾斜面を含み、エプロンフロントエクステンションには、フェンダエプロンパネルの傾斜面に沿うように車体後方に向かって後端を延長させたフランジが形成されていて、フェンダエプロンパネルとエプロンフロントエクステンションは、傾斜面とフランジにおいて更に接合されることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、エプロンフロントエクステンションは、フェンダエプロンパネルの前面、およびかかる前面に対して傾斜している傾斜面の両方、すなわち角度が異なる2つの面においてフェンダエプロンパネルに接合される。これにより、エンジンマウントを介してエンジンからエプロンフロントエクステンションに負荷された荷重を、フェンダエプロンパネルに対して2方向に分散することができ、分散効率を高めることが可能である。このとき、分散効率の向上に必要な要素は、フェンダエプロンパネルの傾斜面およびエプロンフロントエクステンションのフランジのみであるため、構造は極めて簡素であり、且つ新たな部品の追加も不要である。したがって、コストや重量の増大を招くことがない。
【0011】
上記フェンダエプロンパネルは、エプロンフロントエクステンションのフランジとの接合部近傍に、車体後方に向かって窪んだ凹部を有するとよい。かかる構成によれば、エンジンマウントを介してエンジンから負荷された荷重がエプロンフロントエクステンションからフェンダエプロンパネルに伝達されると、その荷重により凹部が撓むように変形する。この変形により荷重をバランスよく吸収することができるため、分散効率の更なる向上が可能である。またストラットタワーを介したサスペンションからの荷重がフェンダエプロンパネルからエプロンフロントエクステンションに伝達される際にも、凹部が撓むように変形してその荷重を吸収することにより、エプロンフロントエクステンションに伝達される荷重の軽減を図ることができる。
【0012】
上記フェンダエプロンパネルの傾斜面には、エプロンフロントエクステンションに向かって突出した凸部が形成されているとよい。これにより、フェンダエプロンパネルの傾斜面(基本面)全体ではなく、凸部の寸法精度を高くすればよく、製造効率の向上が図られ、管理工程の煩雑さを軽減することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、部品点数の増加や構造の複雑化を招くことなく、エプロンフロントエクステンションにかかった荷重を効率的に分散することが可能な車体前部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態にかかる車体前部構造を示す図である。
【図2】図1の詳細図である。
【図3】図1の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態にかかる車体前部構造100を示す図であり、図2および図3は、図1の詳細図である。図2(a)は図1のA内拡大図であり、図2(b)は図2(a)のエンジン104およびエンジンマウント104aおよび104b等のエンジン系部品を不図示とした状態を示す図である。図3(a)は図2(b)のエプロンフロントエクステンション(エプロンフロント130)を不図示とした状態を示す図であり、図3(b)は図3(a)のB−B断面図であり、図3(c)は図3(a)のC−C断面図である。なお、理解を容易にするために、図1では、フロントフード102の一部を不図示とすることにより、かかるフロントフード102の下方(内部)に設けられた構造(車体前部構造100)を図示している。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の車体前部構造100では、フロントフード102の下方(内側)に、エンジン104が配置されるエンジンルーム106が設けられている。またエンジンルーム106には、内部において車体前輪108のサスペンション(不図示)を支持するストラットタワー110も配置されている。
【0018】
図2(a)に示すように、ストラットタワー110は、サスペンションアッパブラケット(以下、アッパブラケット112と称する)によって上面が構成され、このアッパブラケット112の周囲に接合されるフェンダエプロンパネル(以下、フェンダエプロン120と称する)によって前面および車体内方側の側面が構成されている。以下、フェンダエプロン120において、ストラットタワー110の前面となる部位を前面部122と称し、ストラットタワー110の車体内方側の側面となる部位を側面部124と称する(図2参照)。
【0019】
フェンダエプロン120は、周辺に配置される複数の車体構造部材と接合されている。具体的には、フェンダエプロン120の後方にはダッシュパネル152が配置されていて、フェンダエプロン120は車体後方側の側縁近傍においてそれと接合されている。フェンダエプロン120の車体外方にはダッシュサイドパネル154が配置されていて、フェンダエプロン120は車体外方側の側縁近傍においてそれと接合されている。フェンダエプロン120の下方にはエプロンサイドメンバ156が配置されていて、フェンダエプロン120は下縁近傍においてそれと接合されている。
【0020】
上記のようにフェンダエプロン120と複数の車体構造部材(ダッシュパネル152、ダッシュサイドパネル154、エプロンサイドメンバ156)とを接合することにより、サスペンションからフェンダエプロン120(ストラットタワー110)にかかる荷重を車体構造部材に好適に分散することができる。なお、本実施形態においては、フェンダエプロン120が接合される車体構造部材としてダッシュパネル152、ダッシュサイドパネル154、エプロンサイドメンバ156を例示したが、これに限定するものではなく、他の車体構造部材に接合することも当然にして可能である。
【0021】
更に、フェンダエプロン120の前面部122(ストラットタワー110の前面)には、スポット溶接によってエプロンフロントエクステンション(以下、エプロンフロント130と称する)が接合されている。エプロンフロント130は、フェンダエプロン120(ストラットタワー110)とともに車体前輪108のフェンダを形成し、エンジンルーム106を外部から仕切る泥除けとして機能する。
【0022】
上記のエプロンフロント130においても、車体内方側ではエプロンサイドメンバ156と接合されており、車体外方側では不図示の車体構造部材と接合されている。これにより、サスペンション(不図示)からの荷重がフェンダエプロン120からエプロンフロント130に伝達され、エプロンフロント130に伝達された荷重を車体構造部材に好適に分散することができる。
【0023】
また図2(a)に示すように、本実施形態では、エプロンフロント130には、エンジン104を支持するエンジンマウント104aが取り付けられる。更に、エプロンフロント130の車体内方側の側面には、図2(b)に示すように取付座面162aおよび162bを有するエンジンマウントブラケット(以下、ブラケット160と称する)が接合されている。ブラケット160は、その下縁近傍においてエプロンサイドメンバ156と接合されることにより高い支持剛性を確保している。このブラケット160の取付座面162aおよび162bにエンジンマウント104bが取り付けられることにより、図2(a)に示すように状態となる。
【0024】
すなわち、本実施形態のエプロンフロント130には、フェンダエプロン120(ストラットタワー110)を介したサスペンションからの荷重に加えて、エンジンマウント104a、およびエンジンマウント104bが取り付けられたブラケット160を介したエンジン104からの荷重も負荷されることとなる。故に、エプロンフロント130にかかった荷重をより効率的に分散させる必要があり、それを達成するために本実施形態の車体前部構造100は、以下に説明する特徴を有する。
【0025】
図2(b)に示すように、フェンダエプロン120の下部には、前面部122と側面部124との間に、車体前方から車体後方に向かって車体内方に傾斜する傾斜面である傾斜部126が設けられている。一方、エプロンフロント130には、フェンダエプロン120の傾斜部126に沿うように車体後方に向かって後端を延長させたフランジ132が形成されている。そして、このエプロンフロント130のフランジ132がフェンダエプロン120の傾斜部126にスポット溶接によって接合される。
【0026】
上記構成により、エプロンフロント130は、前面部122だけでなく、かかる前面部122に対して傾斜している傾斜部126においてもフェンダエプロン120に接合されることとなる。すなわち、エプロンフロント130は、角度が異なる2つの面(前面部122および傾斜部126)においてフェンダエプロン120に接合される。これにより、エンジンマウント104aやブラケット160を介してエンジン104からフェンダエプロン120に負荷された荷重が、エプロンフロント130に対して2方向で分散されるため、分散効率の向上を図ることができる。
【0027】
本実施形態において、荷重の分散効率の向上を図るために必要な要素は、上述したようにフェンダエプロン120の傾斜部126、およびエプロンフロント130のフランジ132のみであるため、構造は極めて簡素であり、車体前部構造100の複雑化を招くことがない。また本実施形態の車体前部構造100によれば新たな部品の追加も不要であるため、コストや重量の増大を回避することが可能となる。
【0028】
更に本実施形態では、図3(a)に示すように、フェンダエプロン120において、エプロンフロント130のフランジ132との接合部近傍、すなわち傾斜部126の近傍に凹部128を設けている。かかる凹部128は、図3(b)に示すように、車体後方に向かって窪んだ形状を有する。
【0029】
上記構成により、エンジンマウント104aやブラケット160を介してエンジン104から負荷された荷重がエプロンフロント130からフェンダエプロン120に伝達された際に、凹部128が撓むように変形してその荷重をバランスよく吸収する。したがって、分散効率の更なる向上が図れる。また凹部128は、フェンダエプロン120(ストラットタワー110)を介したサスペンションからの荷重がエプロンフロント130に伝達される際にも、撓むように変形してその荷重を吸収可能である。このため、エプロンフロント130に伝達される荷重の軽減を図ることもできる。
【0030】
上述した構成に加えて、本実施形態では更に、図3(a)に示すように、フェンダエプロン120の傾斜部126に凸部127aおよび127b(以下、これらをまとめて凸部127と称する)を形成している。図3(c)に示すように、凸部127は、エプロンフロント130(図3(c)では仮想線にて図示)に向かって傾斜部126(基本面)から突出した形状を有する。
【0031】
仮に、傾斜部126に凸部127が形成されていない場合、フェンダエプロン120の傾斜部126と、エプロンフロント130のフランジ132とが完全に重なり合った(当接した)状態で溶接作業を行わなくてはならないため、フェンダエプロン120およびエプロンフロント130には極めて高い寸法精度が要求されることとなり、製造工程における管理工程の煩雑化を招いてしまう。
【0032】
上記構成によれば、フェンダエプロン120の傾斜部126(基本面)全体ではなく凸部127の寸法精度を高くすればよい。したがって、製造効率の向上を図れ、管理工程の煩雑さを軽減することが可能である。
【0033】
以上説明したように、本実施形態にかかる車体前部構造100によれば、フェンダエプロン120に設けられた傾斜部126、およびエプロンフロント130に設けられたフランジ132によって、部品点数の増加や構造の複雑化を招くことなく、エプロンフロント130にかかった荷重を効率的に分散することが可能である。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、エンジンが配置されるエンジンルームが設けられた車体前部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
100…車体前部構造、102…フロントフード、104…エンジン、104a…エンジンマウント、104b…エンジンマウント、106…エンジンルーム、108…車体前輪、110…ストラットタワー、112…アッパブラケット、120…フェンダエプロン、122…前面部、124…側面部、126…傾斜部、127…凸部、127a…凸部、127b…凸部、128…凹部、130…エプロンフロント、132…フランジ、152…ダッシュパネル、154…ダッシュサイドパネル、156…エプロンサイドメンバ、162a…取付座面、162b…取付座面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが配置されるエンジンルームが設けられた車体前部構造であって、
内部において前輪のサスペンションを支持するストラットタワーの前面および車体内方側の側面を構成するフェンダエプロンパネルと、
前記エンジンを支持するエンジンマウントが取り付けられ、前記フェンダエプロンパネルの前面に接合されるエプロンフロントエクステンションとを備え、
前記フェンダエプロンパネルは、前記前面と車体内方側の側面との間の少なくとも下部において、車体前方から車体後方に向かって車体内方に傾斜する傾斜面を含み、
前記エプロンフロントエクステンションには、前記フェンダエプロンパネルの傾斜面に沿うように車体後方に向かって後端を延長させたフランジが形成されていて、
前記フェンダエプロンパネルと前記エプロンフロントエクステンションは、前記傾斜面と前記フランジにおいて更に接合されることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記フェンダエプロンパネルは、前記エプロンフロントエクステンションのフランジとの接合部近傍に、車体後方に向かって窪んだ凹部を有することを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記フェンダエプロンパネルの傾斜面には、前記エプロンフロントエクステンションに向かって突出した凸部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112138(P2013−112138A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259684(P2011−259684)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】