説明

車体前部構造

【課題】サブフレームに入力する牽引荷重の影響がアーム支持部に及ぶことを抑制でき、衝突荷重をサスペンションアーム部材に伝達できる車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部にフロントエンドクロスメンバ14と、サスペンションクロスメンバ20と、サスペンションアーム部材35,36と、サブフレーム21,22が設けらる。サブフレーム21,22の後端は、ブラケット部材55,56を介してサスペンションクロスメンバ20に連結し、ブラケット部材55,56は、連結部70と、延長壁部73と、側壁部74とを備える。延長壁部73は、アーム支持部40よりも車幅方向外側に延設され、サスペンションアーム部材35,36の前面と隙間Gを存して対向する。連結部70は、延長壁部73の前方にてサブフレーム21,22の後端と連結される。側壁部74は、連結部70に対し車両幅方向にオフセットしサスペンションクロスメンバ20に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体前端部とサスペンションクロスメンバとを車両前後方向に連結するサブフレームを有する車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両の車体前部構造において、車両の前端部下方で車幅方向に延びるフロントエンドクロスメンバと、フロントエンドクロスメンバの後方で車両の幅方向に延びてサスペンションアーム部材を支持するサスペンションクロスメンバとの間に、車両の前後方向に延びる左右一対のサブフレームを設け、サブフレームの前端をそれぞれフロントエンドクロスメンバ等の骨格部材に連結し、かつ、サブフレームの後端をサスペンションクロスメンバに連結したものが知られている。このような構成とすることで、車両の衝突時における衝突荷重をサブフレームを介して車両後方側へ効率よく分散して伝達できるようにしている。
【0003】
ところで、特許文献1に開示されている車体前部構造のように、車両の前後方向に延びる左右一対のサブフレームの後端が、サスペンションクロスメンバ(サスペンションフレーム)の左右両端にあるアーム支持部に溶接等によって固定されているものがある。これは、車両前方からサブフレームを介して入力される衝突荷重をサスペンションクロスメンバだけでなく、より剛性の高いサスペンションアーム部材で受けることができるようにしたものである。すなわち、剛性の高いサスペンションアーム部材を荷重伝達部材として活用することで、より効率よく衝突荷重を分担させることができる構成となっている。なお、このようなサブフレームは、前方から入力される大きな衝突荷重を支えて確実に車両後方側の部材に伝達できるように強い剛性や強度を有している。
【0004】
一方、車両の前部には、車両の牽引時あるいは船積み時等にタイダウン用ワイヤロープ等の車両固定部材を掛けることができるように、フック等の牽引支持部材が設けられている。車両の状況によっては、この牽引支持部材に大きな牽引荷重(引張りの荷重)が入力することが想定されるため、例えば、特許文献2のように牽引支持部材をサブフレームの前端付近に配置したものがある。このような構成とすることにより、牽引支持部材に入力する荷重をサブフレームを介してサスペンションクロスメンバ等の車体骨格部材でも分担して支持できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−51440号公報
【特許文献2】特許第3610933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のようにサブフレームの後端がサスペンションクロスメンバの両端のアーム支持部に溶接された構造において、サブフレームの前端部付近に牽引支持部材を設けた場合、車両を牽引する際などにサブフレームに入力する引っ張りの荷重がサスペンションクロスメンバのアーム支持部に入力されることとなる。このため、過大な引っ張り荷重が入力されたりするとアーム支持部が変形したり、取付けが弛んだりする可能性があり、場合によっては、サスペンション機能に影響を与える恐れが懸念される。
【0007】
もちろん、牽引支持部材を別の部位に配置することで、アーム支持部への影響を少なくする構成をとることもできるが、そのような場合は、牽引支持部材の取付け部を補強するなどの対策が必要となり、コストや重量が増加してしまうという問題があった。
【0008】
また従来から、サブフレームは、強い剛性や強度を維持するために構造や部材が大きくなる傾向にあった。そのため特許文献1に開示された車体前部構造を採用するには、コストや重量の点で不利となるため、改善の余地があった。
【0009】
従ってこの発明は、サブフレームを介して入力される牽引荷重がクロスメンバのアーム支持部に影響を与えることを抑制でき、かつ、簡単な構成で剛性を小さくしたサブフレームであっても万一の衝突の際にはサブフレームを介して確実に衝突荷重をサスペンションアーム部材側に伝えることができる車体前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車両の前端部下方に配置されて車幅方向に延びるフロントエンドクロスメンバと、前記フロントエンドクロスメンバより車両後方側に配置されて車両の幅方向に延びるサスペンションクロスメンバと、前記サスペンションクロスメンバの車幅方向両端部に形成されたアーム支持部にブッシュ部材を介して取付けられたサスペンションアーム部材と、前記フロントエンドクロスメンバとサスペンションクロスメンバとの間で車両の前後方向に延びて両者に連結されるサブフレームとを有する車体前部構造において、前記サブフレームがブラケット部材を介して前記サスペンションクロスメンバのアーム支持部近傍に連結される。前記ブラケット部材は、延長壁部と連結部と側壁部とを具備している。前記延長壁部は、前記アーム支持部よりも車幅方向外側に延設されるとともに前記サスペンションアーム部材の前面と隙間を存して対向するよう配置され、車両前方からの衝突荷重により変形した状態において前記サスペンションアーム部材に当接する。前記連結部は、前記延長壁部の前方で前記サブフレームの後端と連結され、前記延長壁部が前記サスペンションアーム部材に当接した状態で下方側に変形される。前記側壁部は、前記連結部に対し車両幅方向にオフセットした位置において前記サスペンションクロスメンバに固定されて当該ブラケットを片持ち支持する。
【0011】
本発明の1つの実施形態のブラケット部材は、前記アーム支持部の前記ブッシュ部材の前方に間隔を空けて縦壁状に配置される前壁部と、該前壁部から車幅方向外側に延設されて前記サスペンションアーム部材の前面と隙間を存して対向する前記延長壁部と、該延長壁部の下縁部から前方に延設されて前記サブフレームの後端と連結される前記連結部と、前記前壁部から車幅方向内側に延設されて前記サスペンションクロスメンバに溶接により固定される前記側壁部とを具備している。
【0012】
本発明の実施形態において、前記前壁部の下方に、前記連結部と連続して車両前側に突出するフランジ部が設けられ、該フランジ部の先端が下方に傾斜した形状をなしていてもよい。また前記前壁部に、前記ブッシュ部材の軸の前端と対向する位置に開口が形成されていてもよい。また、前記サブフレームの前端付近に牽引支持部材が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の牽引時等に牽引支持部材からサブフレームに入力する引っ張りの荷重がブラケット部材の延長壁部を介して弾性的にサスペンションクロスメンバに伝達されるため、牽引荷重によってアーム支持部が変形したり取付けが弛んだりするなどの影響を受けることが抑制される。
【0014】
また、万一の衝突の際には、サブフレームに入力する衝突荷重によってブラケット部材の延長壁部がサスペンションアーム部材に当接することにより、サブフレームを介して入力する衝突荷重をサスペンションアーム部材側に伝達することができる。しかも前記ブラケット部材は、サブフレームからの衝突荷重の入力により、延長壁部がサスペンションアーム部材に当接した後、前記連結部が下方側に折れ曲がるとともに後方側に移動するように変形されるので、サスペンションクロスメンバおよびサスペンションアーム部材側への荷重の伝達が「押し」から「引っ張り」へと変化する。そのため、サブフレームが中間部分で折れるのを抑制することができる。したがって、従来のものよりも剛性を小さくしたサブフレームを採用したとしても確実に衝突荷重をサスペンションアーム部材側に伝達できるので、コストや重量の低下に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1つの実施形態に係る車両の車体前部の斜視図。
【図2】図1に示された車体前部のクロスメンバとサブフレーム等の平面図。
【図3】図1に示された車体前部の一部を上方から見た斜視図。
【図4】図2中のF4−F4線に沿う車体前部の断面図。
【図5】図1に示された車体前部に使用されるブラケット部材の斜視図。
【図6】(A)〜(B)は、それぞれ図1に示された車体前部に衝突荷重が入力したときの変形の進行状態を模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の1つの実施形態に係る車体前部構造について、図1から図6を参照して説明する。
図1は、車両の車体前部10を下側から見た斜視図である。図2は車体前部10の下部構造を上方から見た平面図である。図2において、矢印Xで示す方向が車両の前後方向であり、矢印Yで示す方向が車両の幅方向(車幅方向)である。
【0017】
図1,図2に示すように、この車体前部10は、車両の前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ11,12と、車両の幅方向に延びるバンパビーム13およびフロントエンドクロスメンバ14と、車両の幅方向に延びるサスペンションクロスメンバ(サスペンションフレーム)20と、車両の前後方向に延びてフロントエンドクロスメンバ14とサスペンションクロスメンバ20とを連結する左右一対のサブフレーム21,22などを含んでいる。
【0018】
フロントエンドクロスメンバ14は、車両の前端部下方において車幅方向に延設され、その両端部がそれぞれブラケット23(図1に示す)を介して左右のサイドメンバ11,12に結合されている。
【0019】
サブフレーム21,22は、フロントエンドクロスメンバ14とサスペンションクロスメンバ20との間で車両の前後方向に延びる長尺な板状の部材である。これらサブフレーム21,22は、車両前側に位置する前端21a,22aが、フロントエンドクロスメンバ14に連なるブラケット23に固定され、車両後側に位置する後端21b,22bがサスペンションクロスメンバ20にブラケット部材55,56を介して固定されている。前記ブラケット23のサブフレーム21,22の前端21a,22aが固定される付近には牽引支持部材24が設けられている。
【0020】
サスペンションクロスメンバ20は、車両の上方に延びる一対の支持部材30,31によって、サイドメンバ11,12(図1に示す)に支持されている。サスペンションクロスメンバ20の左右両端部には、フロントサスペンションの一部をなすサスペンションアーム部材(ロアアーム)35,36が設けられている。
【0021】
サスペンションクロスメンバ20は、車両の幅方向に延びるクロスメンバ本体20aと、クロスメンバ本体20aの左右両側から一体で延設された前側のアーム支持部40と、後側のアーム支持部41とを備える。前側のアーム支持部40は、車幅方向外側斜め前方に延設され、後側のアーム支持部41は、車幅方向外側斜め後方に延設されている。
【0022】
サスペンションアーム部材35,36は、これら、前側のアーム支持部40と後側のアーム支持部41とによって、上下方向に回動可能に支持されている。サスペンションアーム部材35,36のそれぞれの先端部35a,36aには図示しないナックル部材が設けられ、ナックル部材を介して前輪45(図1に一方のみ示す)が支持されるようになっている。
【0023】
クロスメンバ本体20aの左右両側にある前側のアーム支持部40には、ブッシュ取付部材50,51が設けられている。そして、アーム支持部40のブッシュ取付部材50,51の近傍に、サブフレーム21,22がそれぞれ結合されるブラケット部材55,56が設けられている。ブッシュ取付部材50,51およびブラケット部材55,56は、いずれも溶接によりサスペンションクロスメンバ20に結合されている。
【0024】
図3と図4は、サスペンションクロスメンバ20の一方の端部とサブフレーム21との連結部を示している。図5は、ブラケット部材55の斜視図である。サスペンションクロスメンバ20の他方の端部とサブフレーム22との連結部も同様の構成であるため、これ以降はサスペンションクロスメンバ20の一方の端部にあるアーム支持部40とサブフレーム21との連結部を代表して説明する。
【0025】
図3,図4に示すように、ブッシュ取付部材50がクロスメンバ本体20aのアーム支持部40に溶接されている。符号W1,W2はその溶接部を示している。ブッシュ取付部材50の内側には、サスペンションアーム部材35に設けられたブッシュ部材60(図4に示す)が回動可能に取付けられている。ブッシュ部材60は、ブッシュ取付部材50に軸方向(軸64)が車両の前後方向を向くように取付けられている。ブッシュ部材60は、軸64が挿通される内筒61と、サスペンションアーム部材35に連結された外筒62と、内筒61と外筒62の間で両者に接合された弾性部材63などを有している。ブッシュ取付部材50にナット65が固定されている。ブッシュ部材60は、ボルトの形態をとる軸64が内筒61の内側に挿入されてナット65に螺合されることにより、ブッシュ取付部材50に取付けられる。
【0026】
図3,図5に示すように、サスペンションクロスメンバ20のアーム支持部40にブラケット部材55が設けられている。ブラケット部材55は、中央部に円形の開口90が形成された前壁部71と、前壁部71から車両の幅方向内側に位置する側壁部74と、前壁部71の上側に位置する上壁部72と、前壁部71の車幅方向外側に位置する延長壁部73と、延長壁部73の前方に位置してサブフレーム21の後端21bが固定される連結部70などを含んでいる。
【0027】
前壁部71は、アーム支持部40のブッシュ取付部材50の前方に間隔を空けて縦壁状に配置されている。具体的には、この前壁部71はブッシュ部材60の軸方向前方に縦壁状に配置され、開口90がブッシュ部材60の軸64の前端64a(図4に示す)に対して車両前方に対向する位置となるよう形成されている。そして、この開口90から、レンチ等の回転用工具91(図3に示す)を挿入することにより、ボルトの形態をとる軸64を回転させることができるようになっている。
【0028】
延長壁部73は、前壁部71から車幅方向外側に延びて、サスペンションアーム部材35の前方に配置されている。すなわち、延長壁部73は、アーム支持部40に対して車幅方向外側にずれた(変位した)位置とされている。この延長壁部73は連結部70の車両後側に位置し、サスペンションアーム部材35の前面35bに対して隙間Gを存して向かい合っている。
【0029】
連結部70は、延長壁部73の下縁部から車両前方に向ってフランジ状に延設されている。連結部70には、締結部材85を挿入する孔86(図5に示す)が形成されており、この連結部70に、サブフレーム21の後端21bがボルトとナット等の締結部材85によって固定されている。
【0030】
すなわち、ブラケット部材55は、アーム支持部40より車幅方向外側で、サスペンションアーム部材35の前面と隙間Gだけ空けた前方の位置においてサブフレーム21と連結されている。
【0031】
上壁部72は、前壁部71の上縁部から車両後方側に延びてブッシュ取付部材50の上方に配置されている。
側壁部74は、前壁部71からアーム支持部40(クロスメンバ本体20a)の前面に沿って前記ブッシュ取付部材50およびブッシュ部材60よりも車幅方向内側に延設されている。
【0032】
そして上壁部72と側壁部74が、それぞれ第1の溶接部81と第2の溶接部82とでサスペンションクロスメンバ20側に溶接により固定されている。第1の溶接部81は上壁部72の車両後側の端縁に設けられ、ブッシュ取付部材50に溶接されている。第2の溶接部82は側壁部74の車両内側の端縁に設けられ、クロスメンバ本体20aの前面に溶接されている。
【0033】
これら溶接部81,82は、図2に示すように車両の上方から見て、連結部70を通る車両前後方向の線分Mに対し、車両の幅方向の内側に外れた位置(オフセットした位置)に設けられている。このように、ブラケット部材55は、車幅方向内側に位置する上壁部72と側壁部74とでクロスメンバ本体20aに片持ち状態で支持されており、車幅方向外側に位置する連結部70と延長壁部73とがサブフレーム21からの入力に対してある程度弾性変形できるように構成されている。
【0034】
さらにこのブラケット部材55の前壁部71には、開口90の下方に連結部70に連なるフランジ部95が形成されている。図4に示されるようにフランジ部95は、前壁部71の下端縁から車両前側に突出し、その先端95aが下方に傾斜した形状をなしている。フランジ部95をこのような形状にすることにより、連結部70の前方から衝突荷重が入力したときに、フランジ部95により、連結部70が下方(図4に矢印Rで示す方向)に曲がるよう導かれる。すなわち、連結部70と連続するフランジ部95を下方側に傾斜させた形状とすることで、衝突荷重が入力された際に連結部70が下方側に変形するようにしてサブフレーム21の後端21bが下方側に変位するよう積極的に導く構成としている。ブラケット部材55の側壁部74には、ブッシュ取付部材50の溶接部W2(図3に示す)との干渉を避けるための縦長の開口96が形成されている。
【0035】
以下に、前記構成の車体前部構造の作用について説明する。
車両の牽引時などに、牽引支持部材24に車両前後方向の荷重が入力すると、サブフレーム21に引っ張りの荷重が入力する。このためブラケット部材55の連結部70には、サブフレーム21を介して引っ張りの荷重(牽引荷重)が入力する。この荷重は連結部70を介してブラケット部材55の延長壁部73に入力する。
【0036】
図2に示すように、ブラケット部材55の溶接部81,82は、連結部70を通る車両前後方向の線分Mに対して車体幅方向にオフセットした位置にてサスペンションクロスメンバ20側に溶接されている。このため延長壁部73は、いわば片持ちの状態でサスペンションクロスメンバ20側に支持されている。
【0037】
このためサブフレーム21を介してブラケット部材55に牽引荷重が入力されると、ブラケット部材55の延長壁部73側が弾性変形することで、サスペンションクロスメンバ20のアーム支持部40への入力を緩衝する。したがってアーム支持部40やブッシュ取付部材50およびボルト締結部等への影響を抑制することができる。仮に、過剰な牽引荷重が入力された場合は、ブラケット部材55が大きく変形することで荷重を減少させることができるので、アーム支持部40に過大な荷重が入力されるのを防止することができる。したがって、アーム支持部40やブッシュ取付部材50が変形してサスペンション機能に悪影響を及ぼすこともない。
【0038】
図6の(A)〜(D)は、万一、車両前方から衝突荷重が入力したときにサブフレーム21とブラケット部材55とが変形する様子を模式的に示している。図6の(A)は、衝突前のサブフレーム21と、サスペンションアーム部材35と、ブラケット部材55を示している。ブラケット部材55の延長壁部73とサスペンションアーム部材35の前面35bとの間に、隙間Gが存在している。
【0039】
図6の(B)に示すように、車両前方から衝突荷重が加わると、比較的曲げ剛性の小さい延長壁部73が車両後方に曲がることにより、延長壁部73がサスペンションアーム部材35の前面35bに衝突する。すなわちこのブラケット部材55は、車両前方からの衝突荷重が入力した初期の状態においてサスペンションアーム部材35に当接して荷重を伝達している。
【0040】
図6の(C)に示すように衝突が進むと、ブラケット部材55の連結部70が車両下方側に変形した後、車両後側に折り返された状態となる。同時にサブフレーム21は、その後端21bが連結部70とともに車両下方側に変位されつつ後方側に移動し、その後端21bが車両前側に折り返された状態に屈折される。つまりブラケット部材55は、延長壁部73がサスペンションアーム部材35に当接した状態において連結部70が車両後側に折り返されるよう構成され、サブフレーム21は、その後端21bが連結部70に追従して屈曲変形されるよう構成されている。
【0041】
なお、前記したようにブラケット部材55のフランジ部95は、先端95aが斜め下方を向いた形状となっているため、前方からの衝突荷重が入力したときに、フランジ部95が矢印R(図4に示す)方向に曲がりやすくなっている。このためブラケット部材55が所望の方向(矢印Rで示す方向)に安定して曲がることができ、図6の(C)に示すようにブラケット部材55を所望の形状に変形させることができる。
【0042】
このように連結部70とサブフレーム21の後端21bとが変形されることで、サブフレーム21から入力される衝突荷重のサスペンションアーム部材35への伝達を圧縮による伝達から引っ張りによる伝達に変えることができる。これにより、衝突途中で早期にサブフレーム21が中間部分で折れ曲がることを抑制することができる。
【0043】
そして、図6の(D)に示すように衝突がさらに進むと、サブフレーム21の長手方向の一部104が下に凸の形状に曲がった状態となる。
【0044】
以上説明したように本実施形態の車体前部構造によれば、車両の牽引時等にサブフレーム21から入力される引っ張りの荷重をブラケット部材55を介して弾性的にサスペンションクロスメンバ20(アーム支持部40)に伝達することができるため、牽引荷重によってアーム支持部40やブッシュ取付部材50が変形したりブッシュ部材60の取付け(軸64)が弛んだりするなどサスペンション機能に与える影響を抑制することができる。したがって、サブフレーム21がアーム支持部40近傍に結合される場合であっても、牽引支持部材24に入力する引っ張りの荷重を問題なくサブフレーム21を介してサスペンションクロスメンバ20に分担させることができるため、フロントエンドクロスメンバ14等に設ける牽引支持部材24のための補強部品の数を減らすことができる。さらに、サスペンションクロスメンバ20に対するサブフレーム21の取付け剛性が低減されることで、サスペンションクロスメンバ20から車体側への振動伝達が減り、車室内への振動の影響を小さくすることができる。
【0045】
また、万一の衝突時には、サブフレーム21の長手方向に加わる圧縮の荷重がサブフレーム21とブラケット部材55を介してサスペンションアーム部材35に入力することにより、衝突荷重を車体側に伝えることができる。しかもブラケット部材55が変形して、サブフレーム21を下方側に変位させ、サスペンションクロスメンバ20およびサスペンションアーム部材35側への荷重の伝達を圧縮から引っ張りへと変化させるので、サブフレーム21が衝突途中で図6(D)の状態のように折れるのを抑制することができる。したがって、従来よりも剛性を小さくしたサブフレーム21を採用したとしても確実に衝突荷重をサスペンションアーム部材35側に伝達できるので、コストや重量の低下に貢献することができる。
【0046】
なお本発明を実施するに当たり、フロントエンドクロスメンバやサスペンションクロスメンバ、サスペンションアーム部材、サブフレーム、ブラケット部材などの具体的な形状をはじめとして、車体前部構造を構成する各要素の形状や配置等の具体的な態様を種々に変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
10…車体前部、14…フロントエンドクロスメンバ、20…サスペンションクロスメンバ、21,22…サブフレーム、24…牽引支持部材、35,36…サスペンションアーム部材、40…アーム支持部、50,51…ブッシュ取付部材、55,56…ブラケット部材、60…ブッシュ部材、70…連結部、71…前壁部、73…延長壁部、74…側壁部、G…隙間、81,82…溶接部、90…開口、95…フランジ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前端部下方に配置されて車幅方向に延びるフロントエンドクロスメンバと、
前記フロントエンドクロスメンバより車両後方側に配置されて車両の幅方向に延びるサスペンションクロスメンバと、
前記サスペンションクロスメンバの車幅方向両端部に形成されたアーム支持部にブッシュ部材を介して取付けられたサスペンションアーム部材と、
前記フロントエンドクロスメンバと前記サスペンションクロスメンバとの間で車両の前後方向に延びて両者に連結されるサブフレームとを有する車体前部構造において、
前記サブフレームがブラケット部材を介して前記サスペンションクロスメンバのアーム支持部近傍に連結され、
前記ブラケット部材は、
前記アーム支持部よりも車幅方向外側に延設されるとともに前記サスペンションアーム部材の前面と隙間を存して対向するよう配置され、車両前方からの衝突荷重により変形した状態において前記サスペンションアーム部材に当接する延長壁部と、
前記延長壁部の前方で前記サブフレームの後端と連結され、前記延長壁部が前記サスペンションアーム部材に当接した状態で下方側に変形される連結部と、
前記連結部に対し車両幅方向にオフセットした位置において前記サスペンションクロスメンバに固定されて当該ブラケットを片持ち支持する側壁部と、
を具備したことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記ブラケット部材は、前記アーム支持部の前記ブッシュ部材の前方に間隔を空けて縦壁状に配置される前壁部と、該前壁部から車幅方向外側に延設されて前記サスペンションアーム部材の前面と隙間を存して対向する前記延長壁部と、該延長壁部の下縁部から前方に延設されて前記サブフレームの後端と連結される前記連結部と、前記前壁部から車幅方向内側に延設されて前記サスペンションクロスメンバに溶接により固定される前記側壁部とを具備したことを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記前壁部の下方に、前記連結部と連続して車両前側に突出するフランジ部が設けられ、該フランジ部の先端が下方に傾斜した形状をなしていることを特徴とする請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記前壁部には、前記ブッシュ部材の軸の前端と対向する位置に開口が形成されたことを特徴とする請求項2または3に記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記サブフレームの前端付近に牽引支持部材が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−6518(P2013−6518A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140462(P2011−140462)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】