説明

車体後部構造

【課題】ハッチバック型車両の空力特性を効果的に改善し、走行安定性や車体の視認性も維持可能な車体後部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる車体後部構造100aは、車体のルーフ110、下面120および側面130それぞれの後部であって、車体後方に向かって内側に傾斜する、クォーターパネル130a等の後部と、それぞれの後部に、絶壁形状を有する境界部150a、150b、150c、150d、150eを介して接する背面140と、を備え、境界部150a〜150eは環状に連続していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハッチバック型車両の車体後部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両走行時の空気抵抗を減少させるためには、車両前方からの空気抵抗を減少させるより、むしろ、車体背面に生じる負圧を減少させることが重要である。負圧によって車体が後方に引っ張られ、空力特性の悪化の大きな要因となるからである。また負圧領域には周囲から気流が流れ込んで対流し、振動の原因ともなるため、車体前方からの気流が負圧領域へ流入しないよう、車体から確実に剥離する必要もある。
【0003】
上記の問題を解決するため、従来から、車体後方のルーフエンド、リヤバンパ下面、車両側面の気流をコントロールして空力特性を向上させる技術が知られている。例えば特許文献1の車体後部構造によれば、バックドアと車体側面部とを仕切るパーティングラインに垂直な方向に段差を設け、これによって、気流を車体から剥離し、車体後部の空力性能を安定化させ、走行安定性が向上するとしている。
【0004】
また特許文献2の車体構造によれば、車体下面の地上高が車体前方から車体後方へ向かって階段状に高くなっている等の構造により、気流を車体から剥離し、空力特性を大幅に向上させるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−247218号公報
【特許文献2】特開2002−120769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1および2に記載の技術では、車体を後方から見た輪郭(以下本文にて「キャラクタライン」と呼ぶ)のうち、車体背面付近に気流が吹き込んでしまう部分が依然として残っている。車体からの剥離が不完全な気流が吹き込むと、周囲の空気も一緒に引き込む性質があるため、車体から剥離した気流の一部をも引き込んでしまい、空力特性が十分に改善されないおそれがある。
【0007】
また、車体からの剥離が不完全なために吹き込んでしまう気流によって、車体後方にカルマン渦を生じ、負圧ポイントも不規則に変化する。これが車体振動の原因となり、空力抵抗や揚力も変化して、走行安定性を損なうおそれもある。
【0008】
さらに、吹き込んだ気流に乗って入り込む泥や雨水などは車体背面に付着する。これによって、リヤウインドウに付着した場合は運転者の後方への視認性を損なってしまうし、リヤコンビネーションランプなどのランプ類に付着した場合は後続車からのランプ類への視認性を低下させることになってしまう。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、ハッチバック型車両の空力特性を効果的に改善し、走行安定性や車体の視認性も維持可能な車体後部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体後部構造の代表的な構成は、車体の上面、下面および側面それぞれの後部であって、車体後方に向かって内側に傾斜する後部と、それぞれの後部に、絶壁形状を有する境界部を介して接する背面と、を備え、境界部は環状に連続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、車体後部は、車体後方に向かって全体が先細る(絞られる)形状を有する。かかる形状によって内側に方向付けられた気流は、さらに、その先の絶壁形状を有する境界部にて、車体から剥離される。その結果、気流は、車体後方に錐体を形成するように流れ、錐体の頂点に相当する位置に向かって流れる。このように負圧領域を先細りの錐体として減少させ、しかも気流は絶壁形状によって車体から確実に剥離されるため、負圧領域に流入しない。
【0012】
上記のように車体後方における負圧領域が減少すれば、後方へ車体が引っ張られる力が弱まり、空力特性が向上し、燃費も良好になる。
【0013】
また、この錐体の底面の周囲に相当する境界部は、環状に連続している。すなわち車体の背面の全周にわたって境界部が設けられている。したがって、境界部には、気流の車体からの剥離が不完全な部分はなく、車体後方にカルマン渦等が発生するおそれも少なく、空気抵抗や揚力も変化しないため、走行安定性が維持される。
【0014】
さらに、境界部から車体背面付近には気流が吹き込まないため、境界部の内側、すなわち背面の内側に存在するリヤウインドウ、ランプ類、ナンバープレートなどの要素の汚れが防止され、これらの要素に対する後続車からの視認性が向上する。
【0015】
また境界部は後方から見た車体の輪郭(キャラクタライン)に相当するため、キャラクタラインが明確になり、後続車から見た車両の形状や当該車両までの車間距離を視認しやすく、事故防止にも役立つ。
【0016】
当該車体後部構造は、側面、境界部および背面にまたがるリヤコンビネーションランプをさらに備えてよい。このように、リヤコンビネーションランプの位置は、環状の境界部の内側に限定されるものではない。境界部が通過する場所にリヤコンビネーションランプを配置し、リヤコンビネーションランプ自体に絶壁形状を形成することにより、境界部の一部を構成させることが可能である。これにより境界部の連続性を保つことができるし、ランプの配置やデザインの自由度も担保される。
【0017】
上記の背面は、上面および側面に、境界部を介して接するリヤウインドウを含んでよい。このように、背面のうち、境界部に接しているのは、バックドアパネルに限られるものではなく、リヤウインドウが境界部に接していてもよい。例えば上面を構成するルーフエンドに絶壁形状を持たせて境界部としたとき、これに隣接してリヤウインドウが位置していてもよい。
【0018】
当該車体後部構造は、境界部と重なるリヤバンパをさらに備えてよい。この場合、リヤバンパコーナの側面に絶壁形状を設け、リヤバンパ下面に絶壁形状を設けることとなる。
【0019】
当該車体後部構造は、環状に連続している境界部の外側に位置する導風部をさらに備えてよい。導風部とは、例えば排気管または整流ダクト等である。導風部を境界部の外側に配置することで、排ガスは、気流と同様に、車体から剥離され、車体背面に吹き込まない。
【0020】
仮に排気管から出た排ガスが車体後方で対流すると、車体背面の換気用の穴から車室内に排気ガスを吸い込んでしまう可能性がある。とりわけディーゼル車のように排ガスが多い場合には被害が大きく、健康被害はもとより、車室内の汚染や悪臭の原因にもなる。しかし上記の構成を有する本発明では、排気ガスが車体背面に吹き込まないため、かかる事態には至らない。
【0021】
本発明によれば、ハッチバック型車両の空力特性を効果的に改善し、走行安定性や車体の視認性も維持可能な車体後部構造を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による車体後部構造の実施形態が適用されるハッチバック型車両の概略図である。
【図2】図1のハッチバック式車両の車体後部構造を示す図である。
【図3】図2の車体後部構造の部分拡大図と、比較例である車体後部とを示す図である。
【図4】車体後部構造を上方から見た外形図である。
【図5】図2の車体後部構造によって車体後方に形成される気流の概略形状を示す図である。
【図6】図2の車体後部構造を側面方向から見た拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0024】
(車体後部構造)
図1は、本発明による車体後部構造の実施形態が適用されるハッチバック型車両の概略図である。ハッチバック型車両100(以下「車両100」と略称する)は、上面であるルーフ110と、下面120と、側面130とを有する。
【0025】
図2は図1のハッチバック式車両100の車体後部構造100aを示す図である。図2に示すように、ルーフ後部110aと、下面120の後部であるリヤバンパ120aと、側面130の後部であるクォーターパネル130aは、それぞれ、車体後方に向かって内側に傾斜している。これについては後述する。
【0026】
(境界部)
一方、車体後部構造100aの背面140(バックドア等から成る)は、ルーフ後部110a、リヤバンパ120aおよびクォーターパネル130aのそれぞれに、絶壁形状を有する境界部150a、150b、150c、150d、150eを介して接する(境界部150b、150c、150dは左右対称)。これら境界部150a〜150eは、図1にも示したように、背面140の周囲で環状に連続している。
【0027】
(リヤウインドウ)
図3は図2の車体後部構造100aの部分拡大図(図3(a))と、比較例である車体後部とを示す図(図3(b))である。図2で示した境界部150a〜150eが有する「絶壁形状」を、ルーフ後部110aと背面140を構成するリヤウインドウ140aとの境界部150aを例として説明すると、この境界部150aの切り立った角の形状が絶壁形状である。この絶壁形状において、ルーフ後部110aの面が途切れるため、ルーフ後部110aに沿って流れてきた気流は、案内されてきた面を失い、車体から剥離されることとなる。
【0028】
このように本実施形態ではリヤスポイラなどを用いず、ルーフ110の後端部(ルーフエンド)に絶壁形状を持たせて境界部150aとしている。
【0029】
一方、図3(b)の比較例の車体では、ルーフ10は、ルールエンドにおいてリヤスポイラ14を有している。リヤスポイラ14は車体から気流を剥離し、リヤウインドウ12(車体背面)に気流が吹き込ませない効果を得ている。しかし本実施形態と比較すると、剥離効果を得るために大掛かりなリヤスポイラ14やガーニッシュ等を要するため、部品点数が増加し、コスト増となってしまう。
【0030】
図2を再び参照すると、背面140のリヤウインドウ140aは、クォーターパネル130aとも、境界部150bを介して接している。この境界部150bでは、クォーターパネル130aの端部に絶壁形状を形成している。
【0031】
このように、背面140のうち、境界部150a〜150eに接しているのは、バックドアパネルに限られるものではなく、リヤウインドウ140aが直接に接していてもよい。
【0032】
(車体後方に向かう傾斜)
図4は、車体後部構造を上方から見た外形図であり、図4(a)は図2の車体後部構造100aを示し、図4(b)は比較例としての車体後部構造を示す。図4(b)に示すように、比較例の車体後部構造20では、リヤオーバフェンダ22の後ろの凹み24により、気流26が対流して淀んでしまう。
【0033】
一方、図4(a)に示す本実施形態では、リヤオーバフェンダ170の後ろの凹みをなくし、既に述べたように、クォーターパネル130aを、車体後方に向かって内側に傾斜させている。クォーターパネル130aは、気流180の言わば滑走路であり、この滑走路は可能な限り長く延ばし、背面140の手前の境界部150c、150dの絶壁形状において、急に失われる。これにより、気流180が車体から剥離される。
【0034】
図5は図4(a)の気流180の形状を別の方向から見た図である。図5(a)(b)はそれぞれ、車体後部を側方および上方から見ている。上記構成によれば、車体後部は、車体後方に向かって全体が先細る(絞られる)形状を有する。かかる形状によって内側に方向付けられた気流180は、さらに、その先の絶壁形状を有する境界部150a〜150eにて、車体から剥離される。その結果、気流は、図5に示すように、車体後方に錐体を形成するように流れ、錐体の頂点(図5では車体後方に離れていて見えていない)に相当する位置に向かって流れる。このように負圧領域を先細りの錐体として減少させ、しかも気流は絶壁形状によって車体から確実に剥離されるため、負圧領域(車体背面140付近)に流入しない。
【0035】
上記のようにして、車体後方における負圧領域が減少すれば、後方へ車体が引っ張られる力が弱まり、空力特性が向上し、燃費も良好になる。とりわけ、車両の速度が60km/h程度以上になると、効果が顕著になる。
【0036】
また、この錐体の底面の周囲に相当する境界部150a〜150eは、図1等に示すように、環状に連続している。すなわち車体の背面140の全周にわたって境界部150a〜150eが設けられている。したがって、境界部150a〜150eには、気流180の車体からの剥離が不完全な部分はなく、車体後方にカルマン渦等が発生するおそれも少なく、空気抵抗や揚力も変化しないため、走行安定性が維持される。
【0037】
さらに、境界部150a〜150eから車体背面140付近には気流180が吹き込まないため、境界部150a〜150eの内側、すなわち背面140の内側に存在するリヤウインドウ140a、リヤコンビネーションランプ190などのランプ類、ナンバープレート200などの要素の汚れが防止され、これらの要素に対する後続車からの視認性が向上する。
【0038】
また境界部150a〜150eは後方から見た車体の輪郭(キャラクタライン)に相当するため、キャラクタラインが明確になり、後続車から見た車両100の形状や当該車両100までの車間距離を視認しやすく、事故防止にも役立つ。
【0039】
(リヤコンビネーションランプ)
図6は、図2の車体後部構造100aを側面方向から見た拡大図である。当該車体後部構造100aは、クォーターパネル130a、境界部150cおよび背面140にまたがるリヤコンビネーションランプ(ブレーキランプ・ウインカランプ・バックランプ・テールランプが組み合わされたランプ)190が備えられている。このように、リヤコンビネーションランプ190の位置は、環状の境界部150a〜150eの内側に限定されるものではない。境界部150a〜150e(図6の場合は境界部150c)が通過する場所にリヤコンビネーションランプ190を配置し、リヤコンビネーションランプ190自体に絶壁形状を形成することにより、境界部150a〜150eの一部を構成させることが可能である。これにより境界部150a〜150eの連続性を保つことができるし、リヤコンビネーションランプ190の配置やデザインの自由度も担保される。
【0040】
(リヤバンパ)
図6に示すように、車体後部構造100aには、境界部150dと重なるリヤバンパ120aが備えられている。すなわち、リヤバンパ120aのコーナの側面には、境界部150dの一部を構成する絶壁形状が形成されている。また、図6に示すように、リヤバンパ120aの下面にも、境界部150eを構成する絶壁形状が形成されている。
【0041】
(導風部)
再び図1を参照すると、車体後部構造100aは、環状に連続している境界部150a〜150eの外側に位置する導風部(本実施形態では排気管210)を備えている。排気管210を境界部150a〜150eの外側に配置することで、排気管210から排出される排ガスは、気流と同様に、車体から剥離され、車体背面に吹き込まない。
【0042】
仮に排気管210から出た排ガスが車体後方で対流すると、車体背面の換気用の穴(図示省略)から車室内に排気ガスを吸い込んでしまう可能性がある。とりわけディーゼル車のように排ガスが多い場合には悪臭の原因にもなる。しかし本実施形態では、排気ガスが車体背面に吹き込まないため、かかる事態には至らない。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ハッチバック型車両の車体後部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
100 …ハッチバック式車両
100a …車体後部構造
110 …ルーフ
110a …ルーフ後部
120 …下面
120a …リヤバンパ
130 …側面
130a …クォーターパネル
140 …背面
140a …リヤウインドウ
150a、150b、150c、150d、150e …境界部
170 …リヤオーバフェンダ
180 …気流
190 …リヤコンビネーションランプ
200 …ナンバープレート
210 …排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の上面、下面および側面それぞれの後部であって、車体後方に向かって内側に傾斜する後部と、
前記それぞれの後部に、絶壁形状を有する境界部を介して接する背面と、
を備え、
前記境界部は環状に連続していることを特徴とする車体後部構造。
【請求項2】
前記側面、境界部および背面にまたがるリヤコンビネーションランプをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の車体後部構造。
【請求項3】
前記背面は、前記上面および側面に、前記境界部を介して接するリヤウインドウを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車体後部構造。
【請求項4】
前記境界部と重なるリヤバンパをさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車体後部構造。
【請求項5】
前記環状に連続している境界部の外側に位置する導風部をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車体後部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−254193(P2010−254193A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108310(P2009−108310)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】