説明

車体後部構造

【課題】ハッチバック形式のバックドアを備えた車両を小型化しつつ車体後部の剛性を向上でき、走行時の静粛性や安定性に優れた車体後部構造を提供する。
【解決手段】リアフロアパネルの下面に車幅方向に延在する第1閉断面10を形成したリアフロアリアクロスメンバー13と、その上方でホイールハウスインナーパネル22およびクォーターインナーパネル44の室内側に上下方向に延在する第2閉断面20を形成したクォーターインナーリンフォースメント24と、ルーフパネル後端部下面に車幅方向に延在する第3閉断面30を形成したルーフバックインナーメンバーと、前記クォーターインナーパネルと前記ルーフバックインナーメンバーとを連結するクォーターインナーアッパーエクステンションとを備え、前記第1〜第3閉断面によってクォーター部4に環状に連続する第1の環状閉断面構造と、前記第3閉断面30を含む第2の環状閉断面構造とが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハッチバック形式のバックドアを備えた車両の車体後部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
バックウインドウを含むハッチバック形式のバックドアは、乗車空間および荷室空間を確保しつつ車体を小型化する上で有利であるため、小型乗用車に多く採用されている(特許文献1参照)。小型乗用車では、通常、荷室床面を画成するリアフロアにはスペアタイヤを収容するスペアタイヤハウスが凹設され、そのスペース以上に荷室前後長を短縮することは困難である。そこで、スペアタイヤハウスの後壁をバックパネルで兼用する構造にして荷室前後長をさらに短縮することが検討されている。しかし、このような車体構造は、小型化と引替えにリアフロアおよび車体後部の剛性を低下させる虞があり、車体後部の剛性低下による走行時の静粛性や安定性の低下が懸念される。
【0003】
加えて、近年、リアコンビネーションランプを車体後面から車体側面に切れ長に拡張するデザインが多用されているが、このようなリアコンビネーションランプのデザインを上述したハッチバック形式の小型乗用車に適用すると、リアクォーターパネルの中間部が大きく切欠された形状となり、3DCGモデルを用いて応力解析を行なったところ、走行時の車体の捩れや後輪からの突き上げ荷重などにより発生する応力が、リアクォーターパネルの切欠部分に集中し、この部分に亀裂が発生し易いことが認められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−48051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、ハッチバック形式のバックドアを備えた車両を小型化しつつ車体後部の剛性を向上でき、走行時の静粛性や安定性に優れた車体後部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来技術の有する課題を解決するため、本発明は、
ハッチバック形式のバックドアを備えた車両の車体後部構造であって、
左右のリアフロアサイドメンバーと、
前記リアフロアサイドメンバー上に接合されたリアフロアパネルと、
前記左右のリアフロアサイドメンバー間に架設されかつ前記リアフロアパネルの下面に車幅方向に延在する第1閉断面を画成すべく接合されたリアフロアリアクロスメンバーと、
前記左右のリアフロアサイドメンバーおよび前記リアフロアパネルの左右両側縁に接合された左右のホイールハウスインナーパネルと、
下端部が前記左右のリアフロアサイドメンバー上にて前記リアフロアパネルに接合され、その上方で前記左右のホイールハウスインナーパネルおよびクォーターインナーパネルの室内側にそれぞれ上下方向に延在する第2閉断面を画成すべく接合された左右のクォーターインナーリンフォースメントと、
ルーフパネル後端部下面に車幅方向に延在する第3閉断面を画成すべく接合され、バックドア開口部の上辺を画成するルーフバックインナーメンバーと、
前記左右のクォーターインナーパネルの上端部と前記ルーフバックインナーメンバーの両端部とを連結する左右のクォーターインナーアッパーエクステンションと、
を備え、
前記左右のクォーターインナーリンフォースメントの上端部が、前記左右のクォーターインナーアッパーエクステンションおよび/またはクォーターインナーパネルに接合され、
前記第1閉断面、前記左右の第2閉断面、および前記第3閉断面によって車体後部のクォーター部に環状に連続する第1の環状閉断面構造が形成され、
前記バックドア開口部の周囲に、前記第3閉断面を含み環状に連続する第2の環状閉断面構造が形成されている、車体後部構造にある。
【0007】
本発明の好適な態様では、
上端部が前記ルーフバックインナーメンバーの左右の端部に接合され、その下方で前記左右のクォーターインナーアッパーエクステンションおよび前記クォーターインナーパネルの後縁部に接合されて前記バックドア開口部の左右両側縁部に沿って上下方向に延在する第4閉断面を画成する左右のサイドボディーアウターエクステンションと、
下端部が前記リアフロアパネルの後端部に接合され、上縁部が前記バックドア開口部の下辺を画成するリアパネルと、
前記バックドア開口部の下辺に沿った前記リアパネルの上縁部に車幅方向に延在する第6閉断面を画成すべく接合されたテールエンドパネルと、
前記リアパネルの左右両側縁と左右のクォーターパネル後縁部との間にそれぞれ接合され、前記バックドア開口部に沿った上端が、前記左右のサイドボディーアウターエクステンションの下端に接合された左右のリアランプハウスアウターエクステンションと、
前記第4閉断面と前記第6閉断面との間に前記バックドア開口部に沿った第5閉断面を画成すべく前記左右のリアランプハウスアウターエクステンションの室内側に接合され、前記左右のクォーターインナーパネル後縁部の下端と前記リアパネルの両側端部とにそれぞれ接合された左右のインナーエクステンションと、
をさらに備え、前記第3閉断面、前記左右の第4閉断面、前記左右の第5閉断面、および前記第6閉断面によって前記第2の環状閉断面構造が形成されている。
【0008】
本発明の他の好適な態様では、後輪サスペンションのショックアブソーバー取付け部が、前記ホイールハウスインナーパネルの、前記クォーターインナーリンフォースメントで補強された前記第2閉断面部に配設されている。また、前記リアフロアパネルの前記後端部に隣接してスペアタイヤハウスが形成され、該スペアタイヤハウスの後面が前記リアパネルによって画成されており、前記リアフロアリアクロスメンバーが、前記リアフロアパネルの前記スペアタイヤハウス部分の下面に接合されている。さらに、前記クォーターインナーパネルの下端部または該下端部と前記ホイールハウスインナーパネルとの間において、前記第1の環状閉断面構造と前記第2の環状閉断面構造とを連結する連結部材をさらに備えている。
【0009】
本発明のさらに好適な態様では、リアドア開口部の後縁部に沿った前記クォーターパネルの内側で上下方向に延在し、前記クォーターインナーアッパーエクステンションおよび前記クォーターインナーパネルに接合されるとともに、下端部がホイールハウスアウターパネルに接合されたクォーターインナーフロントリンフォースメントをさらに備え、該クォーターインナーフロントリンフォースメントの後縁部は、少なくとも前記クォーターインナーパネルとの接合区間および前記ホイールハウスアウターパネルの上方において、前記クォーターインナーリンフォースメントの前縁部と重合するとともに、前記連結部材の前端部と接合されている。また、前記クォーターインナーアッパーエクステンションと前記クォーターインナーパネルとが1つのパネルで構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車体後部構造は、以上述べた通り、車体後部のクォーター部に環状に連続する第1の環状閉断面構造が形成され、かつ、バックドア開口部の周囲に環状に連続し、バックドア開口部上辺の前記第3閉断面において前記第1の環状閉断面構造と共通の第2の環状閉断面構造が形成されているので、これら2つの環状閉断面構造により、ハッチバック形式のバックドアを備えた車両を小型化しつつ車体後部の剛性を向上でき、車両走行時における車体の捩じれや、後輪からの突き上げ荷重などによる車体変形を抑制でき、走行時の静粛性や安定性を向上できる。
【0011】
さらに、車体後部の変形が抑制されることで、リアコンビネーションランプに対応したリアクォーターパネルの切欠部分への応力集中が緩和され、この切欠部分における局所的な変形や亀裂の発生を防止できる。
【0012】
また、車体後部に後方からの衝撃荷重が作用した場合に、リアバンパーメンバーの変形と共に第2の環状閉断面構造を介して側面構造(クォーター部)およびルーフ構造にも衝撃荷重が伝達されることになり、小型化に伴う前後長の短い荷室空間でありながらも、車体後部の全体的な変形によって効果的に衝撃吸収できる。
【0013】
本発明において、後輪サスペンションのショックアブソーバー取付け部が、前記ホイールハウスインナーパネルの、前記クォーターインナーリンフォースメントで補強された前記第2閉断面部に配設されている態様では、ショックアブソーバーを介した後輪からの突き上げ荷重が、前記第1の環状閉断面構造を通じてクォーター部およびルーフ構造に分散され、走行時の静粛性や安定性を向上するうえで有利である。
【0014】
さらに、本発明において、リアフロアパネルの後端部に隣接してスペアタイヤハウスが形成され、その後面がリアパネルによって画成されており、前記リアフロアリアクロスメンバーが、スペアタイヤハウス部分の下面に接合されている態様では、荷室床面にスペアタイヤの収容スペースを確保しつつ荷室前後長を短縮でき、ハッチバック車両の小型化に有利でありながらも、上述した2つの環状閉断面構造による車体後部の全体的な剛性向上と、後部が切欠されたリアフロアパネルに対するリアフロアリアクロスメンバーによる直接的な補強によって、剛性低下が抑制される。
【0015】
また、本発明において、クォーターインナーパネルの下端部または該下端部と前記ホイールハウスインナーパネルとの間において、前記第1の環状閉断面構造と前記第2の環状閉断面構造とを連結する連結部材をさらに備えることにより、車体後部の剛性をさらに向上できる。特に、上述した車体後部に後方からの衝撃荷重が作用した場合に、連結部材を介して第2の環状閉断面構造から第1の環状閉断面構造にも衝撃荷重が伝達され、衝撃吸収効果がさらに向上する利点もある。
【0016】
また、リアドア開口部の後縁部に沿った前記クォーターパネルの内側で上下方向に延在し、前記クォーターインナーアッパーエクステンションおよび前記クォーターインナーパネルに接合されるとともに、下端部がホイールハウスアウターパネルに接合されたクォーターインナーフロントリンフォースメントをさらに備え、該クォーターインナーフロントリンフォースメントの後縁部は、少なくとも前記クォーターインナーパネルとの接合区間および前記ホイールハウスアウターパネルの上方において、前記クォーターインナーリンフォースメントの前縁部と重合するとともに、前記連結部材の前端部と接合されている構成を採用すれば、クォーター部の剛性がさらに向上することは勿論、上述した後方からの衝撃荷重の作用時に、連結部材およびクォーターインナーフロントリンフォースメントを介してクォーター部のより広い範囲に衝撃荷重が分散されることで、乗員室の変形を抑制しつつ衝撃吸収効果を向上するうえで有利である。
【0017】
また、本発明に係る車体後部構造は、クォーター部からルーフ部にかけての車体形状が比較的簡素な車両では、前記クォーターインナーアッパーエクステンションと前記クォーターインナーパネルとが1つのパネルで構成されている態様としても実施可能であり、その場合にも、上述したような効果が得られることに加えて、部品点数が削減される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施形態に係る車体後部構造を、アウターパネルを除いた状態で側後方から見た斜視図である。
【図2】本発明実施形態に係る車体後部構造を示すクォーター部における背断面図であって、図4のB−B断面図である。
【図3】本発明実施形態に係る車体後部構造を示す要部分解斜視図である。
【図4】本発明実施形態に係る車体後部構造を示す車幅方向中央における側断面図であって、図2のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1および図4に示すように、車両1は、車体後部にハッチバック形式のバックドア2を備えており、荷室と乗員室が一連となったいわゆる2ボックスタイプの自動車であり、不図示の後部座席を前方に折り畳んだスペースを利用して、荷室スペースを拡張可能となっている。
【0020】
荷室の左右両側は、サイドボディを構成するリアフェンダーとリアピラーが一連となったクォーター部4となっており、クォーター部4の上部はルーフ部(3)に連続している。荷室床面にはリアフロアパネル11が配設され、リアフロアパネル11より高い位置にあるバックドア開口部5の下方にはリアパネル6が配設されている。
【0021】
本発明は、図1、2および図4に示されるように、車体後部のクォーター部4に環状に連続する第1の環状閉断面構造100が形成され、かつ、バックドア開口部5の周囲に環状に連続する第2の環状閉断面構造200が形成されている点を特徴とし、第1の環状閉断面構造100は、第1閉断面10、第2閉断面20、および第3閉断面30で構成され、第2の環状閉断面構造200は、第3閉断面30、第4閉断面40、第5閉断面50、第6閉断面60で構成されており、ルーフ後端部(3a)の第3閉断面30、より厳密には第3閉断面30および第4閉断面40の上端側の一部が、各環状閉断面構造100,200に共通となっている。以下、各環状閉断面構造100,200を画成する車体後部のパネル構成について説明する。なお、以下の説明において、各部材の「接合」は基本的にスポット溶接などの溶接接合によるが、同等の接合強度が得られる他の接合方法による場合を排除するものではない。
【0022】
リアフロアパネル11は、その両側部において、左右のリアフロアサイドメンバー12,12の上側に接合され、Uチャンネル状のリアフロアサイドメンバー12,12との間に車両前後方向に延びる閉断面が画成されている。リアフロアパネル11の中央部から後端部にかけては、図3に示すように、スペアタイヤハウス11aが凹設され、その下面側には、左右のリアフロアサイドメンバー12,12間に架設されたリアフロアリアクロスメンバー13が接合されており、該リアフロアリアクロスメンバー13との間に、車幅方向に延在する第1閉断面10が画成されている。
【0023】
リアフロアパネル11の前端部は、図4に示すように、スペアタイヤハウス11aの前側で左右のリアフロアサイドメンバー12,12間に架設されたリアフロアセンタークロスメンバー14に接合される一方、リアフロアパネル11の後端部は、リアパネル6の下端部に接合されている。
【0024】
リアパネル6の下部中央には、スペアタイヤハウスの後壁を画成すべく下方に張出しかつ車体後方に膨出した膨出部6aが形成されており、リアパネル6は、この膨出部6aを避けて左右両側でリアフロアサイドメンバー12,12の後端部に接合され、各接合箇所の外面側にブラケット15,15を介してリアバンパーメンバー16が取付けられている。
【0025】
左右のリアフロアサイドメンバー12,12には、ホイールハウスインナーパネル22,22が接合され、該各ホイールハウスインナーパネル22,22と、その室外側に接合されたホイールハウスアウターパネル21,21とで、左右後輪のホイールハウスが構成され、このうち、左側のホイールハウスアウターパネル21には、フューエルボックス26が接合されている。
【0026】
ホイールハウスアウターパネル21のリアドア開口部7に沿ったフランジ部21aの上端には、クォーターフロントロアエクステンション45が接合され、該クォーターフロントロアエクステンション45の上端には、クォーターインナーパネル44が接合され、該クォーターインナーパネル44の上端は、クォーターインナーアッパーエクステンション43に接合されている。これらのパネル45,44,43の室外側には、クォーター部4のリアドア開口部7に隣接して上下方向に延在する断面ハット状のクォーターインナーフロントリンフォースメント23が接合され、該クォーターインナーフロントリンフォースメント23の下端は、ホイールハウスアウターパネル21の上面に接合される。
【0027】
一方、クォーターインナーフロントリンフォースメント23の後縁部に沿ったクォーター部4の車両前後方向中間部には、ホイールハウスインナーパネル22、クォーターインナーパネル44、およびクォーターインナーアッパーエクステンション43の室内側に、断面ハット状のクォーターインナーリンフォースメント24が接合されている。
【0028】
クォーターインナーリンフォースメント24が接合されたホイールハウスインナーパネル22には、図1および図4に示すように、後輪サスペンションのショックアブソーバー取付け部が配設されている。図示例では、ショックアブソーバー取付け部を避ける開口がクォーターインナーリンフォースメント24に設けられているが、取付け部の形態によっては開口を省略することもできる。ショックアブソーバー取付け部のホイールハウスインナーパネル22に面剛性を向上するためのリンフォースメントなどが配設される場合、クォーターインナーリンフォースメント24の接合部に重ねて接合されても良い。
【0029】
クォーターインナーリンフォースメント24の下端部は、先述したリアフロアリアクロスメンバー13の接合箇所に隣接したリアフロアサイドメンバー12,12上にてリアフロアパネル11に接合される一方、クォーターインナーリンフォースメント24の上部は、クォーターインナーパネル44およびクォーターインナーアッパーエクステンション43の段差形状(断面L字状)の後端部44a,43aの前方側に接合されており、クォーターインナーリンフォースメント24と各パネル22,44,43とにより、クォーター部4の略中間部に上下方向に延びる第2閉断面20が画成されている。
【0030】
クォーターインナーパネル44およびクォーターインナーアッパーエクステンション43の上記段差形状の後端部44a,43aの室外側には、サイドボディーアウターエクステンション42が接合され、それらの間に、バックドア開口部5に沿って上下方向に延在する第4閉断面が画成されている。
【0031】
クォーターインナーパネル44の下端部に沿った室外側には、車両前後方向に延びる断面ハット状の連結部材25が接合されている。連結部材25の前端はクォーターインナーフロントリンフォースメント23の後縁部に接合される一方、連結部材25の後端はサイドボディーアウターエクステンション42の下端部に接合されており、さらに、連結部材25の中間部の下側縁部は、クォーターインナーリンフォースメント24に接合されている。
【0032】
クォーター部4の最上部に位置したクォーターインナーアッパーエクステンション43の上端部には、ルーフパネル3の側縁部が接合されるが、クォーターインナーアッパーエクステンション43の段差形状の後端部43aの上端部は、ルーフバックインナーメンバー31の端部に接合される。ルーフバックインナーメンバー31は、車幅方向に略一様な断面ハット状をなしてルーフパネル後端部3aの下面側に接合され、ルーフパネル後端部3aの車幅方向両端部には、左右のサイドボディーアウターエクステンション42,42の上端部が接合されており、それらの間に、バックドア開口部5の上辺に沿って車幅方向に延びかつ両端部で前記第4閉断面に連続する第3閉断面30が画成されている。
【0033】
一方、クォーターインナーパネル44の段差形状の後端部44aの下端部は、同様に断面L字状をなすインナーエクステンション52を介してリアパネル6の左右両側上端部に接合されている。インナーエクステンション52の上端部の室外側には、サイドボディーアウターエクステンション42の下端部が接合され、インナーエクステンション52の室外側の残余の区間には、図3に示すように、リアランプハウスアウターエクステンション51の段差形状(断面L字状)の縁部51aが接合され、バックドア開口部5の左右両側下部に沿って斜めに延在する第5閉断面50が画成されている。
【0034】
リアパネル6の上部にはテールエンドパネル61が接合され、それらの間に、バックドア開口部5の下辺に沿って車幅方向に延在する第6閉断面60が画成されており、テールエンドパネル61の車幅方向両端部は、それぞれ、上記リアランプハウスアウターエクステンション51に接合され、第6閉断面60の車幅方向両端部は左右の第4閉断面40に連続している。
【0035】
クォーター部4の室外側には、車体側部の意匠面を構成するクォーターパネル41が配設される。クォーターパネル41は、リアドア開口部7に沿ったフランジ部において、クォーターインナーアッパーエクステンション43、クォーターインナーパネル44、クォーターフロントロアエクステンション45、および、ホイールハウスアウターパネル21のフランジ部21aに接合され、ホイールアーチ部においてホイールハウスアウターパネル21に接合され、後側縁部においてサイドボディーアウターエクステンション42およびリアランプハウスアウターエクステンション51に接合され、上端縁部においてクォーターインナーアッパーエクステンション43に接合される。
【0036】
実施形態の車両1は、図示しないリアコンビネーションランプが車体後部から車体側面の前方側に切れ長に拡張されたデザインを採用しており、これに対応して、クォーターパネル41には後縁部から前方に向けて鋭角的に湾入する切欠部41aが形成されている。リアコンビネーションランプの先端は、図3および図4に示されるように、切欠部41aを越えてさらに前方に拡張されているが、クォーターパネル41の強度低下を防止するために、切欠部41aは、意匠面上の前端部より後方で終端されている。
【0037】
さらに、左右のリアコンビネーションランプの下側となるクォーターパネル41の後下端部とリアランプハウスアウターエクステンション51の下半部からテールエンドパネル61を含むリアパネル6にかけての外面側およびリアバンパーメンバー16は、樹脂成形品で構成される不図示のバンパーフェイシアで覆われる。
【0038】
以上述べた通り、車両1は、車体後部のフロア部に車幅方向に延びる第1閉断面10が画成され、該第1閉断面10の左右両側に隣接した左右のクォーター部4,4に上下方向に延びる第2閉断面20,20が画成されており、該各第2閉断面20,20の上端部に第4閉断面40,40の一部を介して連続しルーフ後端部3aに沿って車幅方向に延びる第3閉断面30が画成されたことにより、車体後部の外周に沿って環状に連続する第1の環状閉断面構造100が形成されている。
【0039】
これにより、車体後部の剛性が高められ、後車軸のやや後方のフロア部からルーフ後端部に至る環状の補強構造によって、車両走行時における車体の捩じれや、後輪からの突き上げ荷重などによる車体変形を抑制でき、かつ、突き上げ荷重を、クォーター部4およびルーフ構造に分散させることで、走行時の静粛性や安定性を向上できる。
【0040】
さらに、上記第1の環状閉断面構造100と共通の第3閉断面30、その左右両側から下方向に延びる第4閉断面40,40および第5閉断面50,50、およびテールエンド部に車幅方向に延びる第6閉断面60によって、バックドア開口部5の周囲に環状に連続する第2の環状閉断面構造200が形成され、これら2つの環状閉断面構造100,200がルーフ後端部の第3閉断面30および第4閉断面40,40で一体化されかつ連結部材25で連結された構造により、スペアタイヤハウス11aに対応した膨出部6aの分だけ下方に拡張されたことによる車体後部の剛性低下が補填され、ハッチバック形式のバックドア2を備えた車両1を小型化しつつ車体後部の剛性を確保できる。
【0041】
また、車体後部に後方からの衝撃荷重が作用した場合に、リアバンパーメンバー16の変形と共に第2の環状閉断面構造200を介して車体後部の側面構造(クォーター部4)やルーフ構造にも衝撃荷重が伝達されることになり、上述した小型化により、リアフロアパネル11およびリアフロアサイドメンバー12の前後長が短縮され、前後長の短い荷室空間でありながらも、車体後部の全体的な変形によって効果的に衝撃吸収できる。
【0042】
さらに、上記のように車体後部の外周に沿って環状に連続する第1の環状閉断面構造100とバックドア開口部5の周囲に環状に連続する第2の環状閉断面構造200とがルーフ後端部で一体化されかつ連結部材25で連結された構造により、車体後部の変形が抑制され、かつクォーター部4自体の剛性も高められることで、リアコンビネーションランプに対応したクォーターパネル41の切欠部41aへの応力集中が緩和され、この切欠部41aにおける局所的な変形や亀裂の発生を防止できる。
【0043】
なお、上記実施形態では、バックドア開口部5の周囲に環状に連続する第2の環状閉断面構造200が、第3閉断面30、第4閉断面40、第5閉断面50、第6閉断面60で構成される場合を示したが、これらの閉断面30,40,50,60は相互に連通しており、第2の環状閉断面構造200を画成する各パネル、特に、バックドア開口部5の左右両側辺を画成するクォーター部4およびリアコンビネーションランプ部のパネル分割箇所は、必要に応じて適宜変更可能である。
【0044】
また、上記実施形態では、クォーター部4の上下方向に延びる第2閉断面20が、1つのクォーターインナーリンフォースメント24で画成される場合を示したが、連続した閉断面が画成される限り、第2閉断面20が上下長手方向に複数のパネルの接合体で画成されていても良い。
【0045】
さらに、上記実施形態では、第2閉断面20と第3閉断面30および第4閉断面40との接続部において、第2閉断面20の上端部はクォーターインナーアッパーエクステンション43およびクォーターインナーパネル44の各後端部44a,43aで閉鎖されているが、これらの接合部における形状を変更することで、第2閉断面20と第3閉断面30および/または第4閉断面40を相互に会合させることもできる。
【0046】
また、クォーター部4からルーフ部(3)にかけての車体形状が比較的簡素な車両では、クォーターインナーアッパーエクステンション43とクォーターインナーパネル44とが1つのパネル(クォーターインナーパネル)で構成されている場合があり、そのような車両に対しても、本発明に係る第1および第2の環状閉断面構造100,200を形成可能である。
【0047】
また、上記実施形態において、第1および第2の環状閉断面構造100,200の一部に、限定的な開口や開放部を含むこともできるが、そのような部分においても断面形状の連続性は維持される必要がある。図示例のクォーターインナーリンフォースメント24のように、開口部による剛性低下分が断面形状の拡大や他部材との接合によって補填されることが好ましい。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0049】
1 車両
2 バックドア
3 ルーフパネル
3a 後端部
4 クォーター部
5 バックドア開口部
6 リアパネル
7 リアドア開口部
10 第1閉断面
11 リアフロアパネル
11a スペアタイヤハウス
12 リアフロアサイドメンバー
13 リアフロアリアクロスメンバー
16 リアバンパーメンバー
20 第2閉断面
21 ホイールハウスアウターパネル
22 ホイールハウスインナーパネル
23 クォーターインナーフロントリンフォースメント
24 クォーターインナーリンフォースメント
25 連結部材
30 第3閉断面
31 ルーフバックインナーメンバー
40 第4閉断面
41 クォーターパネル
42 サイドボディーアウターエクステンション
43 クォーターインナーアッパーエクステンション
44 クォーターインナーパネル
45 クォーターフロントロアエクステンション
50 第5閉断面
51 リアランプハウスアウターエクステンション
52 インナーエクステンション
60 第6閉断面
61 テールエンドパネル
100 第1の環状閉断面構造
200 第2の環状閉断面構造


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハッチバック形式のバックドアを備えた車両の車体後部構造であって、
左右のリアフロアサイドメンバーと、
前記リアフロアサイドメンバー上に接合されたリアフロアパネルと、
前記左右のリアフロアサイドメンバー間に架設されかつ前記リアフロアパネルの下面に車幅方向に延在する第1閉断面を画成すべく接合されたリアフロアリアクロスメンバーと、
前記左右のリアフロアサイドメンバーおよび前記リアフロアパネルの左右両側縁に接合された左右のホイールハウスインナーパネルと、
下端部が前記左右のリアフロアサイドメンバー上にて前記リアフロアパネルに接合され、その上方で前記左右のホイールハウスインナーパネルおよびクォーターインナーパネルの室内側にそれぞれ上下方向に延在する第2閉断面を画成すべく接合された左右のクォーターインナーリンフォースメントと、
ルーフパネル後端部下面に車幅方向に延在する第3閉断面を画成すべく接合され、バックドア開口部の上辺を画成するルーフバックインナーメンバーと、
前記左右のクォーターインナーパネルの上端部と前記ルーフバックインナーメンバーの両端部とを連結する左右のクォーターインナーアッパーエクステンションと、
を備え、
前記左右のクォーターインナーリンフォースメントの上端部が、前記左右のクォーターインナーアッパーエクステンションおよび/またはクォーターインナーパネルに接合され、
前記第1閉断面、前記左右の第2閉断面、および前記第3閉断面によって車体後部のクォーター部に環状に連続する第1の環状閉断面構造が形成され、
前記バックドア開口部の周囲に、前記第3閉断面を含み環状に連続する第2の環状閉断面構造が形成されている、車体後部構造。
【請求項2】
下端部が前記リアフロアパネルの後端部に接合され、上縁部が前記バックドア開口部の下辺を画成するリアパネルと、
前記バックドア開口部の下辺に沿った前記リアパネルの上縁部に車幅方向に延在する第6閉断面を画成すべく接合されたテールエンドパネルと、
前記リアパネルの左右両側縁と左右のクォーターパネル後縁部との間にそれぞれ接合され、前記バックドア開口部に沿った上端が、前記左右のサイドボディーアウターエクステンションの下端に接合された左右のリアランプハウスアウターエクステンションと、
前記第4閉断面と前記第6閉断面との間に前記バックドア開口部に沿った第5閉断面を画成すべく前記左右のリアランプハウスアウターエクステンションの室内側に接合され、前記左右のクォーターインナーパネル後縁部の下端と前記リアパネルの両側端部とにそれぞれ接合された左右のインナーエクステンションと、
をさらに備え、前記第3閉断面、前記左右の第4閉断面、前記左右の第5閉断面、および前記第6閉断面によって前記第2の環状閉断面構造が形成されている、請求項1に記載の車体後部構造。
【請求項3】
後輪サスペンションのショックアブソーバー取付け部が、前記ホイールハウスインナーパネルの、前記クォーターインナーリンフォースメントで補強された前記第2閉断面部に配設されている、請求項1または2に記載の車体後部構造。
【請求項4】
前記リアフロアパネルの前記後端部に隣接してスペアタイヤハウスが形成され、該スペアタイヤハウスの後面が前記リアパネルによって画成されており、前記リアフロアリアクロスメンバーが、前記リアフロアパネルの前記スペアタイヤハウス部分の下面に接合されている、請求項2または3に記載の車体後部構造。
【請求項5】
前記クォーターインナーパネルの下端部または該下端部と前記ホイールハウスインナーパネルとの間において、前記第1の環状閉断面構造と前記第2の環状閉断面構造とを連結する連結部材をさらに備えた、請求項1〜4の何れか一項に記載の車体後部構造。
【請求項6】
リアドア開口部の後縁部に沿った前記クォーターパネルの内側で上下方向に延在し、前記クォーターインナーアッパーエクステンションおよび前記クォーターインナーパネルに接合されるとともに、下端部がホイールハウスアウターパネルに接合されたクォーターインナーフロントリンフォースメントをさらに備え、該クォーターインナーフロントリンフォースメントの後縁部は、少なくとも前記クォーターインナーパネルとの接合区間および前記ホイールハウスアウターパネルの上方において、前記クォーターインナーリンフォースメントの前縁部と重合するとともに、前記連結部材の前端部と接合されている、請求項5に記載の車体後部構造。
【請求項7】
前記クォーターインナーアッパーエクステンションと前記クォーターインナーパネルとが1つのパネルで構成されている、請求項1〜6の何れか一項に記載の車体後部構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−285019(P2010−285019A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139149(P2009−139149)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】