説明

車体後部構造

【課題】車体側部パネルにベンチレータを取り付ける場合であっても、重量やコストの増大を招くことなく車室内への浸水を防ぐことができ且つ高い剛性を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる車体後部構造100は、ベンチレータ190が取り付けられる開口部110aが設けられているサイドボディアウタパネル(アウタパネル110)とフロアパネル120とを含み、リアホイールハウス130と、バックパネル140と、車幅方向ではサイドボディアウタパネルとフロアパネルとの間に配置され、車長方向では開口部に重なる位置に配置されるパネル部材150とを更に含み、パネル部材は、上端近傍にてサイドボディアウタパネルに接合され、下端近傍にてサイドボディアウタパネルおよびフロアパネルと接合され、それらとの接合部に車室内側からシーリングが施されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の換気を行うベンチレータが取り付けられる開口部が設けられているサイドボディアウタパネルおよびフロアパネルを含む車体後部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車室内の換気を促進するために、車両には換気装置であるベンチレータが設けられている。例えば特許文献1では、リヤバンパ内側に配置される車体側部パネルであるクォータパネルに取付孔(開口部)を形成し、そこにベントダクト(ベンチレータ)を取り付けている。これにより、車室内の空気がベンチレータを通じて車室外へ排出される。
【0003】
ところで、ベンチレータやそれが取り付けられている開口部には外部から水が浸入することがある。このため、リヤバンパ内側の車体側部パネルにベンチレータを取り付ける構成では、浸入した水が、車体側部パネルおよびそれに接合されているフロアパネルを伝って車室内に流れ込むおそれがある。この浸水への対策としては、特許文献1のようにフロアパネルにおいて、フロア面となる面(上面)よりも下方に車体側部パネル(クォータパネル)との接合部を配置する構成が考えられる。これにより、フロア面と、車体側部パネルへの接合部とに高低差が設けられるため、浸入した水はフロアパネルのフロア面すなわち車室内に至ることなく接合部に到達して排水される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−254923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこの構成であると、接合部となる車体側部パネルの下端およびフロアパネルの側縁をフロア面よりも下方に大幅に延長しなければならない。このため、重量やコストの著しい増大を招いてしまう。
【0006】
また他の課題として、車体側部パネルにベンチレータを取り付ける開口部を設けると、車体側部パネルの剛性、ひいては車体後部の強度が低下する傾向がある。故に、車体側部パネルに開口部を設ける場合、それに伴って低下しがちな剛性を補うための対策を施す必要がある。特に、例えばノッチバック車等のリアオーバーハングが長い車両は、他の車種に比してリアホイールハウスからバックパネルまでの距離が長いため、それらの間に配置され且つそれらに接合される車体側部パネルにはより高い剛性が求められる。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、車体側部パネルに開口部を設けてベンチレータを取り付ける場合であっても、重量やコストの増大を招くことなく車室内への浸水を防ぐことができ且つ高い剛性を得ることが可能な車体後部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体後部構造の代表的な構成は、車体側部を構成するサイドボディアウタパネルと、サイドボディアウタパネルの下部の内側に接合され車体床面を構成するフロアパネルとを含み、サイドボディアウタパネルには車室内の換気を行うベンチレータが取り付けられる開口部が設けられている車体後部構造であって、車幅方向ではサイドボディアウタパネルとフロアパネルとの間に配置され、車長方向ではサイドボディアウタパネルの開口部に重なる位置に配置されるパネル部材を更に含み、パネル部材は、上部が車体外方に向かって傾斜していて上端近傍にてサイドボディアウタパネルに接合され、下端近傍にてサイドボディアウタパネルの下端近傍およびフロアパネルの側縁近傍と接合され、サイドボディアウタパネルおよびフロアパネルとの接合部に車室内側からシーリングが施されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、車体側部パネルであるサイドボディアウタパネルとフロアパネルとの間がパネル部材によって遮られるため、サイドボディアウタパネルの開口部やベンチレータから浸入した水のフロアパネル(車室内)への流れ込みを防ぐことができる。そして、浸入した水は、サイドボディアウタパネルを伝ってパネル部材との接合部に至り、そこから外部に排出される。このように本発明では、サイドボディアウタパネルやフロアパネルを延長することなく車室内への浸水を防ぐことができるため、重量やコストの増大を招くことがない。また、サイドボディアウタパネル、パネル部材およびフロアパネルの接合部には車室内側からシーリングが施されている、換言すればパネル部材とフロアパネルとの接合部にシーリングが施されているため、車室内への浸水をより効果的に防ぐことが可能となる。
【0010】
更に、上記構成ではサイドボディアウタパネルにパネル部材が接合されているため、開口部の形成によって低下しがちなサイドボディアウタパネルの剛性をパネル部材によって補うことができる。したがって、サイドボディアウタパネルにおいて十分な剛性が得られ、車体後部の強度向上を図ることが可能となる。特に、リアオーバーハングが長い車両は、上述したように高い剛性が求められるため本発明が有効である。
【0011】
当該車体後部構造は、車体後輪の収容空間を構成するリアホイールハウスと、サイドボディアウタパネルの後方に配置され車体後部を構成するバックパネルとを更に含み、パネル部材は、前端近傍にてリアホイールハウスに接合され、後端近傍にてバックパネルに接合されるとよい。これにより、リアホイールハウスおよびバックパネルの接合強度を高めることができ、車体後部の強度(剛性)の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車体側部パネルに開口部を設けてベンチレータを取り付ける場合であっても、重量やコストの増大を招くことなく車室内への浸水を防ぐことができ且つ高い剛性を得ることが可能な車体後部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態にかかる車体後部構造の斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態にかかる車体後部構造の斜視図である。図2は、図1のA−A断面図である。なお、図示の都合上、図1では、サイドボディアウタパネルの車体内方側に配置されるクオータインナトリム180(図2参照)を省略している。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の車体後部構造100は、車体側部を構成するサイドボディアウタパネル(以下、アウタパネル110と称する。)を、リヤバンパ170(図2参照)の内側に備える。図2に示すように、アウタパネル110には開口部110aが形成されていて、この開口部110aに車室内の換気を行うベンチレータ190が取り付けられている。
【0017】
アウタパネル110の下部の内側(車体内方側)には、車体床面を構成するフロアパネル120が配置されている。またサイドドア開口部の後方には、車体後輪(不図示)の収容空間を構成するリアホイールハウス130が配置されている。一方、アウタパネル110の後方には、車体後部を構成するバックパネル140が配置されている。本実施形態では、これらのフロアパネル120、リアホイールハウス130およびバックパネル140がアウタパネル110に接合されることにより車体後部構造100が構成されている。
【0018】
本実施形態の特徴として、車幅方向ではアウタパネル110とフロアパネル120との間に、車長方向ではアウタパネル110の開口部110aに重なる位置に、パネル部材150が配置される。図2に示すように、パネル部材150は、下端近傍にてアウタパネル110の下端近傍およびフロアパネル120の側縁近傍と接合される。詳細には、本実施形態では、アウタパネル110にフランジ部112を、フロアパネル120にもフランジ部122を設け、それらのフランジ部112および122と、パネル部材150の下端とをスポット溶接によって接合している。
【0019】
上記構成により、車体側部パネルであるアウタパネル110と、車室フロアとなるフロアパネル120とが、それらの間に介在するパネル部材150によって遮られる。したがって、アウタパネル110の開口部110aやベンチレータ190から浸入した水のフロアパネル120側すなわち車室内への流れ込みを防ぐことができる。このように本実施形態の構成であれば、アウタパネル110、フロアパネル120およびパネル部材150の接合部(以下、単に接合部と称する。)と、フロアパネル120の上面(フロア面)とが車高方向において近い位置にあっても車室内への浸水を防ぐことができる。故に、従来のようにアウタパネルやフロアパネルを下方に大幅に延長する必要がないため、重量やコストの増大を抑制可能である。
【0020】
接合部では車室内側からシーリング材102が塗布されることにより、シーリングが施される。すなわち、接合部では、パネル部材150とフロアパネル120との間にシーリングが施される。これにより、アウタパネル110およびパネル部材150側と、フロアパネル120側との水の行き来を遮断することができ、車室内への浸水をより効果的に防ぐことが可能となる。
【0021】
また上記のように車長方向においてアウタパネル110の開口部110aに重なる位置にパネル部材150が配置されていることにより、ベンチレータ190から進入した外部音(騒音)は、車室内への直進が防がれる。これにより、外部音が車室内に伝わりづらくなるため、快適性を高めることが可能となる。
【0022】
本実施形態では、アウタパネル110の開口部110aおよびベンチレータ190から浸入した水は、白抜き矢印方向に下方に落下した後に接合部に至り、アウタパネル110とパネル部材150の間から黒塗り矢印方向に外部に排出される。ここで、アウタパネル110とパネル部材150の間に水が長時間滞留すると錆の発生要因となるため好ましくない。故に、接合部には高い排水性が求められる。
【0023】
図3は、図1の拡大図であり、図3(a)は図1の破線内拡大図であり、図3(b)は図3(a)のC−C断面図であり、図3(c)は図3(a)のD−D断面図である。なお、理解を容易にするために、図3(a)ではアウタパネル110およびパネル部材150以外の図示を省略し、図3(b)および図3(c)では、図3(a)に示していないフロアパネル120を図示している。
【0024】
図3(a)に示すように、本実施形態のパネル部材150は、接合部の車長方向において、その下端の位置が異なる短部領域132aと長部領域132bとを有する。図3(b)に示すように、長部領域132bでは、パネル部材150の下端は、アウタパネル110の下端およびフロアパネル120の下端と同じ位置にある。これに対し、短部領域132aにおけるパネル部材150の下端は、長部領域132bのそれよりも上方に位置し(図3(a)参照)、図3(c)に示すように、アウタパネル110の下端およびフロアパネル120の下端よりも上方に位置する。
【0025】
長部領域132bでは、パネル部材150、アウタパネル110およびフロアパネル120の接触面積を稼ぐことができる。これにより、それらの接合(スポット溶接)を良好に行うことができ、且つ高い接合強度を得ることが可能となる。また、軽量化のため溶接部以外の短部領域132aのフランジを短縮する。なお、本実施形態では長部領域132bにおけるパネル部材150の下端は、アウタパネル110の下端およびフロアパネル120の下端と同じ位置にあるが、これに限定するものではない。
【0026】
すなわち、図3(c)ではアウタパネル110の下端およびフロアパネル120の下端は同じ位置になるが、それらは必ずしも同じ位置にあるとは限らず、一方の下端が他方の下端よりも上方に位置することも想定される。このような場合、長部領域132bにおけるパネル部材150の下端は、少なくとも、アウタパネル110の下端またはフロアパネル120の下端のうち上方に位置する方と同じ位置まで延びていればよい。
【0027】
上述したように、パネル部材150は、下端近傍においてアウタパネル110およびフロアパネル120と接合される一方、上端近傍ではアウタパネル110に接合される。図2に示すように、本実施形態では、パネル部材150の上部は、車体外方に向かって傾斜していて(屈折していて)、その傾斜の延長上にフランジ部152が形成されている。そして、フランジ部152においてパネル部材150がアウタパネル110に接合される。
【0028】
上記のようにパネル部材150を上端近傍および下端近傍でアウタパネル110に接合することにより、開口部110aを形成することによって低下しがちなアウタパネル110の剛性を向上させることができる。したがって、アウタパネル110において十分な剛性が得られ、車体後部の強度向上を図ることが可能となる。
【0029】
更に本実施形態では、パネル部材150を、上端近傍および下端近傍に加えて、前端近傍にてリアホイールハウス130に、後端近傍にてバックパネル140に接合している。(図1参照)これにより、リアホイールハウス130と、バックドア開口の一部を構成するバックパネル140の接合強度を高め、車体後部の強度(剛性)の更なる向上を図ることができる。
【0030】
また上記のようにパネル部材150がリアホイールハウス130とバックパネル140との間に配置されていることにより、かかるリアホイールハウス130とバックパネル140の間に配置されることが多いバックドアオープナーケーブルやハーネス(ともに不図示)をパネル部材150に取付可能になる。したがって、それらの固定が容易になり、固定強度を向上させることができる。
【0031】
更に、本実施形態では、パネル部材150の車室内側の面(縦壁)にジャッキブラケット160(図1参照)を取り付けている。これにより、図2に示すようにジャッキブラケット160内にジャッキ162を固定可能になり、アウタパネル110とクオータインナトリム180との間の空間にジャッキ162を収納することができる。したがって、その空間を有効活用することができ、荷室スペースの拡大が図られる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態にかかる車体後部構造100によれば、パネル部材150によって、アウタパネル110の開口部110aやベンチレータ190から浸入した水のフロアパネル120(車室内)への流れ込みを防ぐことができる。したがって、車室内への浸水防止のためのアウタパネル110やフロアパネル120の延長が必要ないため、重量やコストの増大を抑制することが可能である。またパネル部材150がアウタパネル110に接合されていることによって、アウタパネル110の剛性を補うことができる。これにより、開口部110aを形成してもアウタパネル110の十分な剛性を確保することができ、車体後部の強度向上を図ることが可能となる。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、車室内の換気を行うベンチレータが取り付けられる開口部が設けられているサイドボディアウタパネルおよびフロアパネルを含む車体後部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
100…車体後部構造、102…シーリング材、110…アウタパネル、110a…開口部、112…フランジ部、120…フロアパネル、122…フランジ部、130…リアホイールハウス、132a…短部領域、132b…長部領域、140…バックパネル、150…パネル部材、152…フランジ部、160…ジャッキブラケット、162…ジャッキ、170…リヤバンパ、180…クオータインナトリム、190…ベンチレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部を構成するサイドボディアウタパネルと、該サイドボディアウタパネルの下部の内側に接合され車体床面を構成するフロアパネルとを含み、該サイドボディアウタパネルには車室内の換気を行うベンチレータが取り付けられる開口部が設けられている車体後部構造であって、
車幅方向では前記サイドボディアウタパネルと前記フロアパネルとの間に配置され、車長方向では前記サイドボディアウタパネルの開口部に重なる位置に配置されるパネル部材を更に含み、
前記パネル部材は、
上部が車体外方に向かって傾斜していて上端近傍にて前記サイドボディアウタパネルに接合され、下端近傍にて前記サイドボディアウタパネルの下端近傍および該フロアパネルの側縁近傍と接合され、
前記サイドボディアウタパネルおよび前記フロアパネルとの接合部に車室内側からシーリングが施されていることを特徴とする車体後部構造。
【請求項2】
車体後輪の収容空間を構成するリアホイールハウスと、前記サイドボディアウタパネルの後方に配置され車体後部を構成するバックパネルとを更に含み、
前記パネル部材は、前端近傍にて前記リアホイールハウスに接合され、後端近傍にて前記バックパネルに接合されることを特徴とする請求項1に記載の車体後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−18380(P2013−18380A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153525(P2011−153525)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】