説明

車体構造

【課題】 車両の操縦安定性及び乗り心地を飛躍的に向上させる。
【解決手段】 車体における離間した2箇所のモジュール取付部位2a,8aに取り付けられ各モジュール取付部位2a,8aを互いに離隔する方向へ付勢する伸縮自在の付勢モジュール11を備え、車体を構成する各パネル間に予圧が加わり、この予圧により車体の各パネルが移動して各パネル間の「遊び」が軽減されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、車両走行時における車体パネルの変形、各部位の相対的な変位等を抑制するために車両用補強部材が利用される。この種の補強部材としては、車体パネル自体の剛性を向上させる樹脂製のシート状の補強部材、車体パネルの裏面側に溶着される金属製のパネル状の補強部材、車体の離間した2部位を連結する金属製の補強部材等が公知である。
【0003】
車体の離間した2部位を連結するものとして、2部位間に架設された棒状部材を2分割して、分割された一方にシリンダを設け、分割された他方にシリンダの内周面と摺接するピストンを設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。シリンダ内にはオイルが充填された2つの油室が形成され、の伸縮時にピストンがシリンダと摺動すると、ピストンリングに貫設されたオリフィスをオイルが流通して、減衰力が得られるようになっている。
【特許文献1】特開2002−211437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車体を構成する多数のパネル間には、その接続部分で少なからず「遊び」が存在する。すなわち、サスペンションからの入力により車体が捻られたり突き上げられたりすると、「遊び」がなくなるまで車体の各パネルが移動してから、車体の構造体でサスペンションからの入力を受け止めることとなる。この「遊び」による各パネルの移動は、サスペンションの入力による構造体の変位に比べれば小さなものであるが、入力に対して瞬間的に抗することができないために操縦安定性及び乗り心地が損なわれるという問題点がある。従って、各パネル間の「遊び」を解消しない限り、前記車両用補強部材を車体に設置したとしても、操縦安定性及び乗り心地の向上に限界がある。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両の操縦安定性及び乗り心地を飛躍的に向上させることのできる車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車体構造において、車体における離間した2箇所のモジュール取付部位に取り付けられ、各モジュール取付部位を互いに離隔する方向へ付勢する伸縮自在の付勢モジュールを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、付勢モジュールにより車体の各モジュール取付部位に付勢力が加わって、車体を構成する各パネル間に予圧が加わった状態となる。そして、この予圧により車体の各パネルが移動して、各パネル間の「遊び」が軽減された状態となる。これにより、車両走行時における路面からの入力に対する車体のレスポンスが向上し、車両の操縦安定性及び乗り心地を飛躍的に向上させることができる。
また、車両走行時の「遊び」による車体の変位が軽減されるので、車体の低級音、軋み音等を低減することができ、車両室内の騒音レベルを低下させることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の車体構造において、前記付勢モジュールは、各モジュール取付部位を付勢するばね部材を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の作用に加え、各モジュール取付部位にばね部材を介在させて付勢モジュールを構成することができる。また、ばね部材が伸縮自在であることから、付勢モジュールに伸縮機構を別途設ける必要もなく、実用に際して極めて有利である。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の車体構造において、前記付勢モジュールは、該付勢モジュールの伸縮動作を減衰する減衰機構を有することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2の作用に加え、車両走行時に路面からサスペンションへの振動が車体へ伝達すると、付勢モジュールに伸縮させる振動が作用するところ、減衰機構により付勢モジュールの伸縮動作が減衰されるので、路面から車体に伝達される振動を効果的に抑制することができる。従って、さらに車両の操縦安定性及び乗り心地を向上させることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項1から3のいずれか一項に記載の車体構造において、前記付勢モジュールは、前記車体のフレーム部同士を接続することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から3のいずれか一項の作用に加え、付勢モジュールにより車体の骨格をなすフレーム部同士で「遊び」が軽減されることから、効率良く操縦安定性及び乗り心地の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、車両の操縦安定性及び乗り心地を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1から図4は本発明の一実施形態を示すもので、図1は車体構造の概略説明斜視図、図2は車体構造の一部縦断面図、図3は付勢モジュールの正面図、図4は付勢モジュールの分解斜視図である。
【0016】
この車体構造はモノコック式であり、図1にセダンタイプの四輪自動車のものを図示する。この車体構造は、フロア側のフレーム部として、略逆ハット状に形成されフロアパネル1とともに閉断面を形成する略前後に延びる左右一対のサイドメンバ2と、各サイドメンバ2と同様の構造で略左右に延びる複数のクロスメンバ3を有する。
また、この車体構造は、側部のフレーム部として、アウタパネル及びインナパネルにより閉断面を形成して略上下に延びる複数のピラー部4を有する。また、ルーフ側のフレーム部として、ルーフパネル5の内側に配されアウタパネル及びインナパネルにより閉断面を形成して略前後に延びる左右一対のルーフサイドレール6と、各ルーフサイドレール6を連結し略左右に延びる複数のルーフブレース7と、を有する。
さらに、この車体構造は、車両後部のピラー部4に連結されるリヤパーセル8、車両前部で室内と室外とを仕切るバルクヘッド9、車両の最前部で略左右に延びるラジエータフレーム10等のフレーム部を有する。
【0017】
図1に示すように、各サイドメンバ2とリヤパーセル8は、それぞれ略上下に延びる付勢モジュール11により連結される。すなわち、付勢モジュール11は車体のフレーム部同士を接続している。図2に示すように、本実施形態においては、各サイドメンバ2はフロアパネル1とともに閉断面を形成し、付勢モジュール11はフロアパネル1の部分に固定されている。また、リヤパーセル8は上面と下面とを有する閉断面を形成し、付勢モジュール11は下面に固定されている。リヤパーセル8の左右一対のモジュール取付部位8aには、付勢モジュール11のアッパーマウント12を取り付けるためのボルト孔8b及び挿通孔8cが形成され、各サイドメンバ2の後部のモジュール取付部位2aには、付勢モジュール11のロアマウント13を取り付けるためのボルト孔2b及び挿通孔2cが形成される。
【0018】
図3に示すように、付勢モジュール11は、伸縮自在に構成され、車体における離間した2箇所のモジュール取付部位2a,8aに取り付けられる。付勢モジュール11は、サイドメンバ2とリヤパーセル8のモジュール取付部位2a,8aを互いに離隔する方向へ付勢するコイルばね14と、付勢モジュール11の伸縮動作を減衰するショックアブソーバ15と、を有する。減衰機構をなすショックアブソーバ15は、ばね部材としてのコイルばね14の軸方向中心を挿通するように配される。
【0019】
図4に示すように、ショックアブソーバ15は、下側に配されるアウタケース15aと、このアウタケース15aに対して軸方向へ移動自在で上側に配されるピストンロッド15bと、を有している。アウタケース15aには、コイルばね14の下端側を支持する上方に凹の皿状のロアシート16が形成される。また、アウタケース15aには、下方へ突出するボルト17が設けられる。このボルト17に、前述のロアマウント13がロックナット18により固定される。
【0020】
図4に示すように、ロアマウント13は、ショックアブソーバ15と同軸でボルト17が挿通する内筒部材13aと、内筒部材13aと同軸で車体に取り付けられる外筒部材13bと、内筒部材13aと外筒部材13bの間に介在するゴム部材13cと、を有する。外筒部材13bはサイドメンバ2の挿通孔2cを挿通する。外筒部材13bの上側には略径方向外側に延びる板部13dが形成され、板部13dにサイドメンバ2のボルト孔2bを挿通するボルト13eが下方へ突出形成される。すなわち、図2に示すように、板部13dとサイドメンバ2が当接して付勢モジュール11の下側が車体に対して位置決めされ、各ボルト13eにナット19を螺合させることにより付勢モジュール11の下側がサイドメンバ2に固定される。
【0021】
また、図4に示すように、ピストンロッド15bの上端には、前述のアッパマウント12がロックナット20により固定される。アッパマウント12の下側には、コイルばね14の上端側を支持する下方に凹の皿状のアッパシート21が配される。アッパマウント12は、ショックアブソーバ15と同軸でピストンロッド15bの上端側が挿通する内筒部材12aと、内筒部材12aと同軸で車体に取り付けられる外筒部材12bと、内筒部材12aと外筒部材12bの間に介在するゴム部材12cと、を有する。外筒部材12bはリヤパーセル8の挿通孔8cを挿通する。外筒部材12bの上側には略径方向外側に延びる板部12dが形成され、板部12dにリヤパーセル8のボルト孔8bを挿通するボルト12eが上方へ突出形成される。すなわち、図2に示すように、板部12dとリヤパーセル8が当接して付勢モジュール11の上側が車体に対して位置決めされ、各ボルト12eにナット22を螺合させることにより付勢モジュール11の上側がリヤパーセル8に固定される。
【0022】
以上のように構成された車体構造では、付勢モジュール11により車体の各モジュール取付部位2a,8aに付勢力が加わって、車体を構成する各パネル間に予圧が加わった状態となる。そして、この予圧により車体の各パネルが移動して、各パネル間の「遊び」が軽減された状態となる。これにより、車両走行時における路面からの入力に対する車体のレスポンスが向上し、車両の操縦安定性及び乗り心地を飛躍的に向上させることができる。
また、車両走行時の「遊び」による車体の変位が軽減されるので、車体の低級音、軋み音等を低減することができ、車両室内の騒音レベルを低下させることができる。
【0023】
また、本実施形態の車体構造によれば、各モジュール取付部位2a,8aにコイルばね14を介在させて付勢モジュール11が構成され、このコイルばね14が伸縮自在であることから、付勢モジュール11に伸縮機構を別途設ける必要もなく、実用に際して極めて有利である。
【0024】
また、本実施形態の車体構造によれば、車両走行時に路面からサスペンションへの振動が車体へ伝達すると、付勢モジュール11に伸縮させる振動が作用する。このとき、ショックアブソーバ15により付勢モジュール11の伸縮動作が減衰されるので、路面から車体に伝達される振動を効果的に抑制することができる。従って、さらに車両の操縦安定性及び乗り心地を向上させることができる。
【0025】
また、本実施形態の車体構造によれば、付勢モジュール11により車体の骨格をなすフレーム部同士で「遊び」が軽減されることから、効率良く操縦安定性及び乗り心地の向上を図ることができる。
【0026】
尚、前記実施形態においては、付勢モジュール11が各サイドメンバ2とリヤパーセル8を接続するものを示したが、他のフレーム部同士を接続するものであってもよい。すなわち、付勢モジュール11が、例えば、各サイドメンバ2同士や各クロスメンバ3同士、ピラー部4とルーフサイドレール5やルーフブレース7を接続するものであっても、フレーム部同士が連結されて「遊び」が軽減され、効率良く操縦安定性及び乗り心地の向上を図ることができる。また、フレーム部同士を連結せずに、車体のパネル部同士を連結することも可能である。
【0027】
また、前記実施形態においては、コイルばね14により各モジュール取付部位2a,8aを付勢するものを示したが、板ばね等の他のばね部材を用いても前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、ばね部材を用いずに、ゴム等の弾性体、ガスダンパー等により各モジュール取付部位2a,8aを付勢するようにしてもよい。
【0028】
また、前記実施形態においては、ショックアブソーバ15により減衰機構を構成したものを示したが、減衰機構は、例えば、摩擦板の組み合わせ等により伸縮動作を減衰するものであってもよい。さらに、減衰機構を省略した構成とすることも可能である。
【0029】
また、前記実施形態においては、付勢モジュール11の両端が車体に固着されたものを示したが、例えば、少なくとも一方の端部を回動自在としてモーメントが付勢モジュール11に加わらない構成としてもよいし、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態を示す車体構造の概略説明斜視図である。
【図2】車体構造の一部縦断面図である。
【図3】付勢モジュールの正面図である。
【図4】付勢モジュールの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
2 サイドメンバ
2a モジュール取付部位
3 クロスメンバ
4 ピラー部
6 ルーフサイドレール
7 ルーフブレース
8 リヤパーセル
8a モジュール取付部位
9 バルクヘッド
10 ラジエータフレーム
11 付勢モジュール
14 コイルばね
15 ショックアブソーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体における離間した2箇所のモジュール取付部位に取り付けられ、各モジュール取付部位を互いに離隔する方向へ付勢する伸縮自在の付勢モジュールを備えたことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記付勢モジュールは、各モジュール取付部位を付勢するばね部材を有することを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記付勢モジュールは、該付勢モジュールの伸縮動作を減衰する減衰機構を有することを特徴とする請求項1または2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記付勢モジュールは、前記車体のフレーム部同士を接続することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−182135(P2006−182135A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376639(P2004−376639)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】