説明

車体構造

【課題】衝撃を受けた際のエネルギー吸収部材をの変形を予め規定した範囲内のものとすることで、確実に乗員の膝を保護可能な車体構造を提供すること。
【解決手段】車室1内前部に車幅方向へ配設され両端部が車室1側部の車体強度部材に連結されるインパネフレーム10と、インパネフレーム10の乗員側端部に乗員の右膝RH,左膝LHに向かって突出して配置されるエネルギー吸収部材30とを備え、インパネフレーム10のエネルギー吸収部材30が取り付けられる固着部32に補強ビード40が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内に設けられたインストルメントパネルを補強するとともに車体に支持するインパネフレームを有する車体構造に係り、詳しくは、車両の衝突時において乗員保護のための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車室内には、乗員の前方に位置して種々の計器類や操作装置を配したインストルメントパネルが設けられている。このインストルメントパネルの背面には、インストルメントパネルを補強するとともにこのインストルメントパネルを車体に固定するインパネフレームが設けられている。
【0003】
車両が前面衝突したときには、インストルメントパネルがインパネフレームとともに乗員側に押し下げられる虞がある。このようにインストルメントパネルが乗員側に押されると、乗員の膝がインストルメントパネルに強く押圧されるという問題がある。
【0004】
そこで、インパネフレームの室内側端縁にエネルギー吸収部材を装着し、さらに同エネルギー吸収部材装着部のインパネフレーム部にはエネルギー吸収を期待して切欠部や開口部を設けて、インパネフレームを部分的に剛性を落とすことで乗員の膝に強い衝撃が加わらないようにした形状が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−170863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した車体構造では、次のような問題があった。すなわち、インストルメントパネルから膝保護手段を突出させたものは見栄えが悪くデザインの制約を受けるとともに、またインストルメントパネルの製造コストが上昇するという問題があった。
【0006】
一方、エネルギー吸収部材は、本来車両前後方向と平行方向に衝撃荷重が作用するのを前提にエネルギ吸収量を設定し設計しているが、エネルギー吸収部材が変形を始めると、インパネフレームの部分的に剛性を落とした部分も同時に変形を始める。その結果、エネルギー吸収部材は車両前後方向に対し傾斜して装着された状態となり、衝撃荷重は座屈によるエネルギー吸収から曲げモーメントによるエネルギー吸収となり、本来のエネルギー吸収量を得ることができないという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、衝撃を受けた際のエネルギー吸収部材をの変形を予め規定した範囲内のものとすることで、確実に乗員の膝を保護可能な車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車室内前部に車幅方向へ配設され両端部が上記車室側部の車体強度部材に連結されるインパネフレームと、このインパネフレームの乗員側端部に乗員の膝部に向かって突出して配置されるエネルギー吸収部材とを備え、上記インパネフレームの上記エネルギー吸収部材が取り付けられる部分に補強部材を配設した。
【0009】
この発明の1つの形態では、上記エネルギー吸収部材は略U字形をなし、その開口側端部を上記インパネフレームに固着し、上記補強部材は、上記固着した部分から車両前方方向に補強用ビードを配設したものである。
【0010】
例えば、上記インパネフレームには開口部が形成されるようにしてもよい。
【0011】
また、上記インパネフレームは板金製であり、上記補強部材とは一体に形成されるようにしてもよい。
【0012】
さらに、上記インパネフレームは、車両装備品のコントロール用電気配線が配置されるようにしてもよい。
【0013】
さらにまた、上記エネルギー吸収部材は、平板を波型に変形して形成され、縁部には上下方向に延設されたフランジ部が形成されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エネルギー吸収部材の取り付け剛性を上げたので、エネルギー吸収が始まってもエネルギー吸収部材の取り付け部位が変形しないので、所望通りのエネルギー吸収を得ることが可能となり、効果的な衝撃吸収が行える。
【0015】
また、剛性の高いインパネフレームの両端部が車体強度部材に連結されているので、車体前面部の剛性が高くなり、車両衝突時、車体前面部が運転席側へ容易に移動するのを防止し、運転席空間の確保がし易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る車両構造の要部を模式的に示す側面図、図2は車両構造であるインパネフレームと車体との位置関係を示す分解斜視図、図3はインパネフレームと乗員の膝の位置を示す斜視図、図4はエネルギー吸収部材を示す斜視図、図5は図4におけるP−P線で切断し矢印方向に見た断面図、図6は補強部材がある場合における衝撃力を示すグラフ、図7は補強部材が無い場合における衝撃力を示すグラフである。
【0017】
なお、これらの図中Hは乗員、LHは左膝、RHは右膝を示している。また、矢印XYZは相互に直交する三方向を示しており、矢印Xは車両の進行方向、矢印Yは車幅方向、矢印Zは上方向を示している。
【0018】
図1及び図2中1は、車室を示している。車室1の座席前方にはインストルメントパネル2が設けられている。インストルメントパネル2は、各種計器類や操作装置が配設されるとともに、例えば樹脂製の表皮の裏面に所定肉厚のウレタンフォームを配して一体成形されている。
【0019】
インストルメントパネル2の背面側には、図1に示すように、インストルメントパネル2を補強すべくプレス成形された鋼板製のインパネフレーム10が取り付けられている。インパネフレーム10の両端は、車体骨格1にボルト等により固定されており、これによりインストルメントパネル2が車体に固定されている。
【0020】
インパネフレーム10は、断面ハット状に形成されたフレーム本体20と、このフレーム本体20から、運転席に座した乗員の右膝RH及び左膝LHに対向する位置にエネルギー吸収部材30が一体に突出形成されている。
【0021】
フレーム本体20であって、エネルギー吸収部材30の前方側には、例えばメータ類及び電気的コントロール用ハーネス類を通すための開口部21,22が設けられている。これら開口部21,22により強度が車両前後方向で低くされている。
【0022】
エネルギー吸収部材30は、平面視で略U字形をなした部材本体31と、この部材本体31の開口側端部をフレーム本体20に固着する固着部32とを備えている。
【0023】
部材本体31は、前後方向に衝撃が加わると容易に変形する波型板材31aと、この波型板材31aの外側縁部に対して上下方向に設けられたフランジ部31bとを備えている(図5参照)。
【0024】
フレーム本体20側からエネルギー吸収部材30の固着部32にかけて、補強用ビード(補強部材)40が形成されている。補強用ビード40は、車両の前後方向に延設されており、開口部21,22の車両前後方向の強度低下を補っている。
【0025】
このように構成された車両構造は、次のように作用する。すなわち、車両が例えば前面衝突して、車室内前部が車両前後方向で変形した場合に、インパネフレーム10、即ちインストルメントパネル2が運転席側に押し下げられて後退する。
【0026】
このようにインストルメントパネル2が運転席側に押し下げられると、乗員の座席とインストルメントパネル2との距離が狭まり、乗員の膝RH、LHがインストルメントパネル2に当たることになる。
【0027】
上述したように、インパネフレーム10には右膝RH及び左膝LHと対峙するようにエネルギー吸収部材30が形成されているので、インストルメントパネル2が後退すると、右膝RH及び左膝LHはインストルメントパネル2を介してエネルギー吸収部材30の部材本体31に当たることになる。
【0028】
さらに、インストルメントパネル2が後退すると、波型板材31aが容易に変形する。つまり、乗員の膝RH、LHがインストルメントパネル2を介してエネルギー吸収部材30に当たると、当該乗員の右膝RH及び左膝LHとエネルギー吸収部材30との衝突により発生する衝撃エネルギーが、強度の低い波型板材31aの変形により良好に吸収されることになる。これにより、膝RH、LHの受ける衝撃荷重が大幅に低減されることになり、乗員の膝RH、LHが傷害なく確実に保護される。
【0029】
一方、補強ビード40によって固着部32が補強されているため、波型板材31aに回転モーメントがかかっても回転することがないため、上述した波型板材31aを所望の形状に変形させることができ、確実に衝撃を吸収することができる。
【0030】
図6は補強ビード40が組み込まれた場合における衝撃力を示すグラフ、図7は補強ビード40が組み込まれていない場合における衝撃力を示すグラフである。これらの図からわかるように、補強ビード40が組み込まれた場合の方が膝RH、LHの受ける衝撃荷重が大幅に低減されることがわかる。
【0031】
なお、開口部21,22は、エネルギー吸収部材30と右膝RH及び左膝LHとが当接することによる衝撃力により、その開口面積を縮小するように潰れ、容易に変形することになる。
【0032】
このように、上述した車体構造では、衝突時に乗員の右膝RH及び左膝LHがインストルメントパネル2を介してインパネフレーム10に設けられたエネルギー吸収部材30に当接させるとともに、エネルギー吸収部材30に確実に衝撃力を吸収させることで、乗員の膝RH、LHの保護し安全性を向上させることができる。
【0033】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、車室内前部に車幅方向へ配設され両端部が上記車室側部の車体強度部材に連結されるインパネフレームと、このインパネフレームの乗員側端部に乗員の膝部に向かって突出して配置されるエネルギー吸収部材とを備え、上記インパネフレームの上記エネルギー吸収部材が取り付けられる部分に補強部材を配設するようにしたので、エネルギー吸収部材の取り付け剛性が向上し、エネルギー吸収が始まってもエネルギー吸収部材の取り付け部位が変形しないので、所望通りのエネルギー吸収を得ることが可能となり、効果的な衝撃吸収が行える。
【0034】
また、インパネフレームの両端を車体強度部材に連結しているので、車体前部の剛性が高くなり、車体前面部が運転席側へ容易に移動するのを防止し、運転席空間の確保がし易い。
【0035】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態に係る車両構造の要部を模式的に示す側面図である。
【図2】車両構造であるインパネフレームと車体との位置関係を示す分解斜視図である。
【図3】同インパネフレームと乗員の膝の位置を示す斜視図である。
【図4】同インパネフレームに組み込まれたエネルギー吸収部材を示す斜視図である。
【図5】図4におけるP−P線で切断し矢印方向に見た断面図である。
【図6】同インパネフレームに補強部材が組み込まれた場合における衝撃力を示すグラフである。
【図7】同インパネフレームに補強部材が組み込まれ無い場合における衝撃力を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1…車室
2…インストルメントパネル
10…インパネフレーム
20…フレーム本体
21,22…開口部
30…エネルギー吸収部材
31…部材本体
31a…波型板材
31b…フランジ部
32…固着部
40…補強用ビード(補強部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内前部に車幅方向へ配設され両端部が上記車室側部の車体強度部材に連結されるインパネフレームと、
このインパネフレームの乗員側端部に乗員の膝部に向かって突出して配置されるエネルギー吸収部材とを備え、
上記インパネフレームの上記エネルギー吸収部材が取り付けられる部分に補強部材を配設したことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
上記エネルギー吸収部材は略U字形をなし、その開口側端部を上記インパネフレームに固着し、上記補強部材は、上記固着した部分から車両前方方向に補強用ビードを配設したものであることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
上記インパネフレームには開口部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項4】
上記インパネフレームは板金製であり、上記補強部材とは一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項5】
上記インパネフレームは、車両装備品のコントロール用電気配線が配置されることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項6】
上記エネルギー吸収部材は、平板を波型に変形して形成され、縁部には上下方向に延設されたフランジ部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−308043(P2008−308043A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157893(P2007−157893)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】