説明

車体構造

【課題】軽合金製の骨格部材と鋼製部材との境界部から閉断面内に水が浸入することを防止できる車体構造を提供する。
【解決手段】車体構造10は、車体骨格部材としてのエンドフレーム22を備えている。エンドフレーム22は、フレーム本体51の内外の開口端部51a,51bに接合ブラケット61の基部62が鋳ぐるみ成形され、接合ブラケット61の内外の接合部63,64が開口端部51a,51bから互いに離れる方向に張り出している。内外の接合部63,64にロアダッシュボード42を接合することで閉断面構造75が形成され、異種金属同士の接触界面入口である内外の境界部76,77に構造用接着剤81が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体骨格部材としての軽合金製の車体フレームに鋼製の被接合部材が設けられた車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の省燃費化を図るために、エンジンルームの骨格構造(以下、「エンジンルームモジュール」という)をアルミ合金で構成し、このエンジンルームモジュールに鋼製のアダプタ(以下、「鋼製の接合ブラケット」という)を設け、この接合ブラケットに鋼製のフロア構造を接合することで、アルミ合金製のエンジンルームモジュールに鋼製のフロア構造を設ける車体構造が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】欧州特許第1440870号明細書(EP1440870B1)
【0003】
この車体構造によれば、鋼製の接合ブラケットを介在させることで、この接合ブラケットに鋼製のフロア構造を溶接で接合することが可能である。
さらに、エンジンルームモジュールをアルミ合金製部材で構成することで、通常用いられている鋼製部材に比して車体の軽量化を図ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、アルミ合金製のエンジンルームモジュールのなかには、断面略U字状の骨格部材を用いることが考えられる。
この場合、断面略U字状の骨格部材に鋼製の接合ブラケットを設け、鋼製の接合ブラケットに鋼製部材(以下、「鋼製の被接合部材」という)を設けることで骨格部材の開口部を鋼製の被接合部材で塞ぎ、骨格部材および鋼製の被接合部材で閉断面構造が形成される。
【0005】
このように、アルミ合金製の骨格部材、鋼製の接合ブラケットおよび鋼製の被接合部材とで形成した閉断面構造は、閉断面構造の前後の開口部や、鋼製の接合ブラケットと鋼製の被接合部材との間から閉断面構造内に水が浸入する虞がある。
閉断面構造内に浸入した水は、アルミ合金製の骨格部材と鋼製の接合ブラケットとの異種金属同士の接触界面に浸入し、例えばアルミ合金製(軽合金製)の骨格部材に電蝕錆が発生することが考えられる。
【0006】
本発明は、軽合金製の骨格部材と鋼製の接合ブラケットとの異種金属同士の接触界面に水が浸入することを防止できる車体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、車体骨格部材としての車体フレームに鋼製の被接合部材が設けられた車体構造において、前記車体フレームは、断面略U字状に形成した軽合金製のフレーム本体と、前記フレーム本体の一対の開口端部に基部が鋳ぐるみ成形されることで、前記一対の開口端部から互いに離れる方向に一対の接合部が張り出された鋼製の接合ブラケットとを備え、前記張り出された一対の接合部に前記鋼製の被接合部材が接合されることで閉断面構造が形成され、前記閉断面構造の内側において、前記鋳ぐるみ成形された基部および前記開口端部の異種金属同士の接触界面入口である一対の境界部に構造用接着剤がそれぞれ塗布されたことを特徴とする。
【0008】
請求項2は、前記被接合部材は、前記閉断面構造の内側に向けて膨出させた膨出部が設けられ、前記膨出部の側壁が前記一対の境界部に対向するように配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明では、軽合金製のフレーム本体を断面略U字状に形成した。このフレーム本体の一対の開口端部に鋼製の接合ブラケットを鋳ぐるみ成形した。
よって、軽合金製のフレーム本体を成形する際に、一対の開口端部に鋼製の接合ブラケットを鋳ぐるみ成形することができるので、フレーム本体の開口端部に鋼製の接合ブラケットを容易に埋設することができる。
これにより、フレーム本体(軽合金製部材)に被接合部材(鋼製部材)を手間をかけないで容易に設けることができ、生産性を確保することができる。
【0010】
ここで、「鋳ぐるみ成形」とは、鋳型のなかに接合ブラケットの基部を配置(セット)し、軽合金製のフレーム本体を成形(鋳造、ダイキャスト)する際に、フレーム本体内に接合ブラケットの基部を包み込むように埋め込むように成形(いわゆる、インサート成形)することをいう。
【0011】
さらに、接合ブラケットの一対の接合部を開口端部から互いに離れる方向に張り出した。よって、フレーム本体および接合ブラケットで、車体フレームは接合用の鍔部(すなわち、一対の接合部)を備えた断面略ハット状に形成されている。
これにより、車体フレームに被接合部材を設ける際に、鋼製の接合部および鋼製の被接合部材同士を溶接で接合することが可能になる。
このように、鋼製の部材同士を接合することで、接合ブラケットおよび被接合部材の接合強度を容易に確保でき、フレーム本体(軽合金製部材)に被接合部材(鋼製部材)を強固に接合することができる。
【0012】
加えて、一対の接合部に被接合部材を接合することで、断面略ハット状の車体フレームおよび被接合部材で閉断面構造が形成される。そして、この閉断面構造の内側において、鋳ぐるみ成形された基部および開口端部の異種金属同士の接触界面入口である境界部に構造用接着剤を塗布した。
【0013】
この構造用接着剤は、異種金属同士の接触界面入口である境界部に連続的に塗布することが可能なので、境界部を構造用接着剤で確実にシールすることができる。
これにより、閉断面構造の内側に浸入した水が、境界部(接触界面入口)から接触界面に浸入することを構造用接着剤で防いで電蝕錆が発生することを防止できる。
【0014】
ここで、構造用接着剤とは、長時間大きな荷重がかかっても接着特性の低下が少なく、信頼性の高い接着剤をいう。
この構造用接着剤は、一例として、化学反応で硬化して接着力が発現する化学反応型接着剤(熱硬化型エポキシ系接着剤)のものが用いられる。
【0015】
なお、電蝕錆とは、軽合金と鋼材の2種の金属が接した状態で水分が介在することで、2種の金属間に電位差が発生し、一方の金属の電子が他方の金属に移動し、一方の金属がイオン化して水中に流れ出ることで腐食することをいう。
【0016】
請求項2に係る発明では、被接合部材に膨出部を備え、膨出部の側壁を一対の境界部に対向するように配置した。
よって、被接合部材を一対の接合部に接合する際に、境界部に塗布した構造用接着剤を膨出部の側壁で境界部に良好に保つことができる。
これにより、境界部(接触界面入口)から接触界面に浸入することを構造用接着剤で一層良好に防止できる。
また、膨出部の側壁を一対の境界部に対向させることで、境界部の接着面積を十分に確保することができ、構造用接着剤で車体フレームに被接合部材を強固に接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0018】
図1は本発明に係る車体構造(第1実施の形態)を示す斜視図、図2は図1の2−2線断面図である。
車体構造10は、車体前後方向に向けて延出された左右のフロントサイドフレーム(車体フレーム)11と、左右のフロントサイドフレーム11の上方にそれぞれ配置された左右のアッパメンバーユニット12と、左右のアッパメンバーユニット12の後端部間に設けられたダッシュボードユニット13と、左右のフロントサイドフレーム11の後端部11aにそれぞれ連結された左右のフロアフレーム(被接合部材)14と、左右のフロントサイドフレーム11の後端部11aおよび左右のフロアフレーム14(左フロアフレーム14のみを図示する)に載置されたフロアパネル(被接合部材)15とを備えている。
【0019】
左フロントサイドフレーム11は、車体前後方向に向けて略水平に延出されたアルミ合金製のサイドエクステンション21と、サイドエクステンション21の後部21aから車体後方に向けて下り勾配に延出されたエンドフレーム(車体フレームの略後半部を構成するフレーム)22と、エンドフレーム22から車体外側に延出された鋼製のサイドアウトリガー23とを備えている。
エンドフレーム22については図5〜図6で詳しく説明する。
右フロントサイドフレーム11は、左フロントサイドフレーム11と左右対称の部材なので、左フロントサイドフレーム11の各構成部材と同じ符号を付して説明を省略する。
【0020】
左アッパメンバーユニット12は、左フロントサイドフレーム11の上方に配置されて後端部が左ピラーサポート部25に設けられたアッパメンバー26と、アッパメンバー26の途中から左ピラーサポート部25まで下り勾配に延出されたロアメンバー27と、アッパメンバー26からフロントバルクヘッド31まで延出されたコネクチングメンバー28とを備えている。
【0021】
左ピラーサポート部25の上端部から車体後方に向けてフロントピラー(図示せず)が車体後方に向けてルーフまで上り勾配に延出されている。
アッパメンバー26およびサイドエクステンション21にホイールハウス32が設けられている。
右アッパメンバーユニット12は、左アッパメンバーユニット12と左右対称の部材なので、左アッパメンバーユニット12の構成部材と同じ符号を付して説明を省略する。
【0022】
フロントバルクヘッド31は、コネクチングメンバー28に連結されたアッパクロスメンバー34と、アッパクロスメンバー34の左右の端部から下方に垂下された左右のサイドサポート35を備えている。
左右のサイドサポート35は、サイドエクステンション21の前端部にそれぞれ連結されている。
【0023】
ダッシュボードユニット13は、左右のピラーサポート部25の上端部間に設けられた鋼製のアッパダッシュボード41と、アッパダッシュボード41の下方に設けられた鋼製のロアダッシュボード(被接合部材)42と、ロアダッシュボード42を支えるために左右のフロントサイドフレーム11に設けられた鋼製のクロスメンバー(被接合部材)43とを備えている。
【0024】
左右のフロアフレーム14は、一例として、鋼材でプレス形成された断面略ハット状の骨格部材である。
フロアパネル15は、一例として、鋼材で略平板状にプレス形成されることで床部を形成するパネルである。
【0025】
図3は第1実施の形態に係る車体構造を示す斜視図、図4は図3の車体構造を示す分解斜視図である。
サイドエクステンション21は、軽合金としてのアルミ合金を車体前後方向に直線状に押出し成形されたアルミ合金製のフレームである。
サイドエクステンション21の後端部に鋼製の取付ブラケット45が設けられている。また、サイドエクステンション21の後部21aにエンドフレーム22の前部22aが接合されている。
【0026】
エンドフレーム22の中央部に、鋼製のダッシュボードユニット13(具体的には、クロスメンバー43およびロアダッシュボード42)がスポット溶接や構造用接着剤81で設けられている。
クロスメンバー43は、前壁43aおよび上部43bがそれぞれ取付ブラケット45にスポット溶接で接合されている。
【0027】
エンドフレーム22の後部(サイドアウトリガー23を含む)に鋼製のフロアパネル15がスポット溶接や構造用接着剤81で設けられている。このフロアパネル15は鋼製の左フロアフレーム14にも設けられている(図2も参照)。
【0028】
図5は図4のエンドフレームを示す斜視図、図6は図5の6−6線断面図である。
なお、図5においてはエンドフレーム22の構成の理解を容易にするために補強用のリブ部55を除去した状態を示す。
エンドフレーム22は、断面略U字状に形成(鋳造、ダイキャスト)されたアルミ合金製(軽合金製)のフレーム本体51と、フレーム本体51の内外の開口端部(一対の開口端部)51a,51bに基部62が鋳ぐるみ成形された鋼製の接合ブラケット61とを備えている。
【0029】
フレーム本体51は、軽合金としてのアルミ合金で形成(鋳造)されたアルミ合金製の鋳物である。
このフレーム本体51は、断面略U字状を形成する底部52および内外の側壁部(一対の側壁部)53,54と、底部52に設けられた一対の補強用のリブ部55と、外側壁部54の略中央から車体外側に突出した突出部56とを有する。
【0030】
一対のリブ部55は、底部52から内外の開口端部51a,51b間の開口部58に向けて突出され、かつ、内外の側壁部53,54に沿って車体前後方向に向けて延出されている。
底部52に一対のリブ部55を設けることで、フレーム本体51を補強して、フレーム本体51の剛性・強度を高めることができる。
リブ部55は、フレーム本体51を成形(鋳造)する際に、フレーム本体51と一体に成形(鋳造)されている。
これにより、フレーム本体51の部品点数を増やすことなく、フレーム本体51の剛性・強度を高めることができる。
【0031】
突出部56は、突出底部および前後の突出側壁部で断面略U字状に形成(鋳造)されている。
この突出部56は、サイドアウトリガー23を支える部位である。
【0032】
フレーム本体51は、内外の側壁部53,54のうち各前端部53a,54aにサイドエクステンション21の後部21a(図3参照)が嵌合され、嵌合された後部21aに内外の前端部53a,54aがミグ溶接で接合されている。
これにより、サイドエクステンション21の後部21aにフレーム本体51の前端部(すなわち、エンドフレーム22の前部22a)が接合されている。
【0033】
接合ブラケット61は、フレーム本体51の内外の開口端部51a,51bに鋳ぐるみ成形された基部62と、内外の開口端部51a,51bから互いに離れる方向に張り出された内外の接合部(一対の接合部)63,64と、フレーム本体51の後端部51cに設けられて左フロアフレーム14(図4参照)を接合可能な鋼製の後接合部66と、突出部56に設けられてサイドアウトリガー23に接合可能な鋼製の外接合部67とを有している。
【0034】
フレーム本体51の内外の開口端部51a,51bに基部62を鋳ぐるみ成形することで、フレーム本体51に鋼製の接合ブラケット61を容易に、かつ強固に埋設することができる。
接合ブラケット61の基部62には複数のアンカ孔71が設けられている。複数のアンカ孔71は、アルミ合金製のフレーム本体51を形成(鋳造)する際に、アルミ合金が充填される孔である。
【0035】
複数のアンカ孔71にアルミ合金を充填させることで、充填したアルミ合金がアンカ部(錨部)72となり、フレーム本体51に鋼製の接合ブラケット61を強固に支持する役割を果たす。
よって、接合ブラケット61の基部62がフレーム本体51の内外の開口端部51a,51bに一層強固に埋設され、フレーム本体51および接合ブラケット61の接合強度をさらに高めることができる。
【0036】
フレーム本体51の内外の開口端部51a,51bから互いに離れる方向に内外の接合部63,64が張り出されている。
よって、エンドフレーム22は、断面略U字状のフレーム本体51と、内外の接合部(すなわち、接合用の鍔部)63,64とで断面略ハット状に形成されている。
【0037】
フレーム本体51から鋼製の接合部63,64を張り出すことで、それぞれの前端部63a,64aに、図4に示す鋼製のクロスメンバー43(詳しくは、クロスメンバー43の底部43c)がスポット溶接で接合されている。
【0038】
また、鋼製の接合部63,64のうち、それぞれの前端部近傍の部位63b,64bに、図4に示す鋼製のロアダッシュボード42(詳しくは、ロアダッシュボード42の下部42a)がスポット溶接で接合されている。
ここで、内外の接合部63,64にロアダッシュボード42を接合することで、図7に示すように、エンドフレーム22およびロアダッシュボード42で閉断面構造75が形成されている。
【0039】
さらに、内外の接合部63,64のうち、それぞれの後半部63c,64cに、図4に示す鋼製のフロアパネル15(詳しくは、フロアパネル15の前部)を設ける際に、内外の接合部63,64およびフロアパネル15同士をスポット溶接で接合することができる。
ここで、内外の接合部63,64にフロアパネル15を接合することで、エンドフレーム22およびフロアパネル15で閉断面構造75が形成されている。
【0040】
このように、鋼製の部材同士を接合することで、接合ブラケット61およびクロスメンバー43の接合強度、接合ブラケット61およびロアダッシュボード42の接合強度、接合ブラケット61およびフロアパネル15の接合強度をそれぞれスポット溶接で容易に確保できる。
これにより、軽合金製のフレーム本体51に、鋼製のクロスメンバー43、鋼製のロアダッシュボード42および鋼製のフロアパネル15を手間をかけないで容易に設けることができ、生産性を確保することができる。
【0041】
また、後接合部66は、一例として、基部62および内外の接合部63,64と一体に形成された断面略ハット状(すなわち、断面略U字状の両側壁部に鍔部を備えた形状)の鋼製の部位である。
後接合部66を断面略ハット状に形成することで、後接合部66に断面略ハット状の左フロアフレーム14(図4参照)が嵌合可能に形成されている。
この後接合部66は、基部62と同様に、前部66aがフレーム本体51の後端部51cに鋳ぐるみ成形されることで、フレーム本体51の後端部51cから車体後方に向けて突出されている。
【0042】
フレーム本体51の後端部51cに後接合部66の前部66aを鋳ぐるみ成形することで、フレーム本体51に鋼製の後接合部66を容易に、かつ強固に埋設することができる。
後接合部66の前部66aには、基部62と同様に、複数のアンカ孔71が設けられている。複数のアンカ孔71にアルミ合金を充填させることで、後接合部66の前部66aをフレーム本体51の後端部51cに一層強固に埋設されている。
【0043】
フレーム本体51の後端部51cから後接合部66を車体後方に向けて突出することで、後接合部66に鋼製の左フロアフレーム14(図3参照)をスポット溶接で容易に、かつ強固に接合することができる。
これにより、軽合金製のエンドフレーム22の後接合部66に、鋼製の左フロアフレーム14を手間をかけないで容易に設けることができ、生産性を確保することができる。
【0044】
さらに、鋳ぐるみ成形した後接合部66を用いることで、鋼製の左フロアフレーム14を強固に接合できるので、後接合部66および左フロアフレーム14の接合部を補強部材などで補強する必要がない。
これにより、補強部材などを不要にでき、部品点数を抑えて構成の簡素化や軽量化を図ることができる。
【0045】
加えて、補強部材などを不要にすることで、補強部材を設けるための空間を不要にできる。
これにより、エンドフレーム22と左フロアフレーム14との接合部位置を任意に選択することが可能になり、設計の自由度を高めることができる。
接合部位置を任意に選択する一例を図2に戻って説明する。
【0046】
図2に示すように、エンドフレーム22と左フロアフレーム14との接合部位置をP1(すなわち、後接合部66)にすることが可能になる。
接合部位置をP1に選択することにより、エンドフレーム22(アルミ合金製のフレーム本体51)が、鋼製のダッシュボードユニット13や鋼製のフロアパネル15が設けられる領域Eまで車体後方に延長される。
【0047】
ここで、エンドフレーム22は、フレーム本体51に鋼製の接合ブラケット61が鋳ぐるみ成形されている。
よって、エンドフレーム22が領域Eまで延長されても、鋼製の接合ブラケット61の接合部63,64に、鋼製のダッシュボードユニット13やフロアパネル15を接合することができる。
すなわち、鋼製のダッシュボードユニット13やフロアパネル15を、アルミ合金製のエンドフレーム22に強固に接合することができる。
【0048】
図5、図6に戻って、外接合部67は、一例として、基部62および内外の接合部63,64と一体に形成された断面略ハット状(すなわち、断面略U字状の両側壁部に鍔部を備えた形状)の鋼製の部位である。
外接合部67を断面略ハット状に形成することで、外接合部67に断面略ハット状のサイドアウトリガー23(図4参照)が嵌合可能に形成されている。
この外接合部67は、基部62と同様に、内部67aが突出部56に鋳ぐるみ成形されることで、突出部56から車体外方に向けて突出されている。
【0049】
突出部56に内部67aを鋳ぐるみ成形することで、突出部56に鋼製の外接合部67を容易に、かつ強固に埋設することができる。
外接合部67の内部67aには、基部62と同様に、複数のアンカ孔71が設けられている。複数のアンカ孔71にアルミ合金を充填させることで、外接合部67の内部67aが突出部56に一層強固に埋設されている。
【0050】
突出部56から外接合部67を車体外方に向けて突出することで、外接合部67に鋼製のサイドアウトリガー23(図3参照)をスポット溶接で容易に、かつ強固に接合することができる。
これにより、軽合金製のフレーム本体51に、鋼製のサイドアウトリガー23を手間をかけないで容易に設けることができ、生産性を確保することができる。
【0051】
図7は図3の7−7線断面図である。
前述したように、エンドフレーム22の内外の接合部63,64にロアダッシュボード42の下部42aが接合されることで、エンドフレーム22およびロアダッシュボード42で閉断面構造75が形成されている。
【0052】
閉断面構造75の内側において、内接合部63およびロアダッシュボード42の接合部近傍に内境界部(一対の境界部の一方)76が設けられている。
内境界部76は、鋼製の接合ブラケット61の基部62(内開口端部51aに鋳ぐるみ成形された基部62)と、アルミ合金製のフレーム本体51の内開口端部51aとの異種金属同士の内接触界面(接触界面)88の入口である。
【0053】
また、閉断面構造75の内側において、外接合部64およびロアダッシュボード42の接合部近傍に外境界部(一対の境界部の他方)77が設けられている。
外境界部77は、鋼製の接合ブラケット61の基部62(内開口端部51aに鋳ぐるみ成形された基部62)と、アルミ合金製のフレーム本体51の外開口端部51bとの異種金属同士の外接触界面(接触界面)89の入口である。
内境界部76に構造用接着剤81が塗布されるとともに、外境界部77に構造用接着剤81が塗布されている。
【0054】
ここで、構造用接着剤81は、内境界部76や外境界部77に連続的に塗布することが可能なので、内境界部76や外境界部77を構造用接着剤81で確実にシールすることができる。
これにより、閉断面構造75の内側に浸入した水が、内境界部76から内接触界面88に浸入することや、外境界部77から外接触界面89に浸入することを構造用接着剤81で防ぐことが可能になり、閉断面構造75の内側に電蝕錆が発生することを防止できる。
【0055】
構造用接着剤81は、長時間大きな荷重がかかっても接着特性の低下が少なく、信頼性の高い接着剤である。
この構造用接着剤81は、一例として、化学反応で硬化して接着力が発現する化学反応型接着剤(熱硬化型エポキシ系接着剤)が用いられる。
【0056】
構造用接着剤81として熱硬化型エポキシ系接着剤を用いることで、塗装工程において車体構造10に塗装を焼き付ける際に、塗装を焼き付ける熱で構造用接着剤81を熱硬化させることが可能になる。
これにより、構造用接着剤81を熱硬化させる設備を新たに設ける必要がないので、設備費を抑えることができる。
【0057】
なお、電蝕錆とは、アルミ合金と鋼材の2種の金属が接した状態で水分が介在することで、2種の金属間に電位差が発生し、例えばアルミ合金製金属の電子が他方の鋼製金属に移動し、アルミ合金製金属がイオン化して水中に流れ出ることで腐食することをいう。
【0058】
ロアダッシュボード42は、閉断面構造75の内側に向けて膨出させた膨出部85が設けられている。この膨出部85は、内外の膨出側壁(膨出部の側壁)86,87を有している。
内膨出側壁86は内境界部76に対向するように配置されている。また、外膨出側壁87は外境界部77に対向するように配置されている。
【0059】
よって、ロアダッシュボード42を内外の接合部63,64にスポット溶接で接合する際に、内膨出側壁86で構造用接着剤81を内境界部76および内境界部76近傍に良好に保つことができ、かつ、外膨出側壁87で構造用接着剤81を外境界部77および外境界部77近傍に良好に保つことができる。
【0060】
これにより、内外の境界部76,77から内外の接触界面88,89に水が浸入することを構造用接着剤81で一層良好に防止できる。
また、内外の膨出側壁86,87を内外の境界部76,77にそれぞれ対向させることで、内外の境界部76,77の接着面積を十分に確保することができ、エンドフレーム22にロアダッシュボード42を構造用接着剤81で強固に接着できる。
【0061】
つぎに、エンドフレーム22にロアダッシュボード42を接合する例を図8〜図9に基づいて説明する。
なお、エンドフレーム22にはクロスメンバー43、フロアパネル15(図4参照)、サイドアウトリガー23(図4参照)や左フロアフレーム14(図4参照)なども接合されるが、構成の理解を容易にするためにエンドフレーム22にロアダッシュボード42のみを接合する例を説明する。
【0062】
図8(a),(b)は本発明に係る車体フレームにロアダッシュボードを接合する例を説明する図である。
(a)において、エンドフレーム22の内外の境界部76,77(外境界部77は図6参照)に構造用接着剤81を塗布するとともに、エンドフレーム22の後端部51cおよび後接合部66に構造用接着剤81を塗布する。
同様に、突出部56の端部56aおよび外接合部67に構造用接着剤81を塗布する。
【0063】
構造用接着剤81の塗布工程後、エンドフレーム22の内外の接合部63,64のうち、それぞれの前端部近傍の部位63b,64bにロアダッシュボード42の下部42aを矢印Aの如く載置する。
【0064】
なお、フレーム本体51の後端部51cおよび突出部56に塗布された構造用接着剤81は、前述した内境界部76や外境界部77の構造用接着剤81と同様に、異種金属同士の接触界面への水の浸入を防止する接着剤である。
【0065】
(b)において、内外の接合部63,64(前端部近傍の部位63b,64b)にロアダッシュボード42の下部42aが載置される。
ロアダッシュボード42の内膨出側壁86が内境界部76に対向するように配置され、ロアダッシュボード42の外膨出側壁87が外境界部77に対向するように配置される。
【0066】
図9は本発明に係る車体フレームにロアダッシュボードを接合する例を説明する図である。
内膨出側壁86を内境界部76に対向させることで、内膨出側壁86で構造用接着剤81を内境界部76および内境界部76近傍に良好に保つことができる。
同様に、外膨出側壁87を外境界部77に対向させることで、外膨出側壁87で構造用接着剤81を外境界部77および外境界部77近傍に良好に保つことができる。
この状態で、エンドフレーム22の内外の接合部63,64のうち、それぞれの前端部近傍の部位63b,64bにロアダッシュボード42の下部42aをスポット溶接で接合する。
【0067】
構造用接着剤81を内外の境界部76,77やその近傍に良好に保つことで、内外の境界部76,77から内外の接触界面88,89に水が浸入することを構造用接着剤81で良好に防止できる。
また、内外の膨出側壁86,87を内外の境界部76,77にそれぞれ対向させることで、内外の境界部76,77の接着面積を十分に確保することができ、構造用接着剤81でエンドフレーム22にロアダッシュボード42を強固に接合することができる。
【0068】
つぎに、第2〜第3の実施の形態のエンドフレーム(車体フレーム)を図10〜図13に基づいて説明する。なお、第2〜第3の実施の形態において第1実施の形態のエンドフレーム22と同一類似部材については同じ符号を付して説明を省略する。
【0069】
(第2実施の形態)
図10は本発明に係るエンドフレーム(第2実施の形態)の要部を示す斜視図、図11は第2実施の形態に係るエンドフレームにロアダッシュボードを取り付けた状態を示す断面図である。
第2実施の形態のエンドフレーム100は、フレーム本体101の底部52に一対のリブ部55を備え、一対のリブ部55に複数のボス部102を設けたもので、他の構成は第1実施の形態のエンドフレーム22と同じである。
ボス部102は、底部52から内外の開口端部51a,51b間の開口部58に向けて突出され、上端部102aに上ねじ孔(締結孔)104が形成されている。
上ねじ孔は、ロアダッシュボード42の下部42aに対向するねじ孔である。
【0070】
上ねじ孔104に締結したボルト(締結部材)105でロアダッシュボード42の下部42aがボス部102に締結されている。
よって、フレーム本体51の内外の側壁部53,54間において、ロアダッシュボード42の下部42aをボス部102に締結することができる。
これにより、ロアダッシュボード42の下部42aやエンドフレーム(車体フレーム)100の剛性・強度を高めることができる。
【0071】
(第3実施の形態)
図12は本発明に係るエンドフレーム(第3実施の形態)の要部を示す斜視図、図13は第3実施の形態に係るエンドフレームにロアダッシュボードを取り付けた状態を示す断面図である。
第3実施の形態のエンドフレーム110は、フレーム本体111の底部52に底面ボス部112を備え、底部52のうち底面ボス部112が設けられた部位を補強する底面リブ部113を備え、底面ボス部112に底部52の外方に開口する底部ねじ孔(底部締結孔)115が設けられている。
底面リブ部113は、底部52に設けられ、かつ、車体幅方向に向けて内外の側壁部53,54に亘って設けられている。
【0072】
底部ねじ孔115に締結した底部ボルト(底部締結部材)117で、サスペンションなどを構成する足回り部材(被接合部材)118が底面ボス部112に締結されている。
この底面ボス部112や底面リブ部113は、フレーム本体111を成形(鋳造)する際に、フレーム本体111と一体に成形(鋳造)することができる。
これにより、フレーム本体111の底部52に、部品点数を増やすことなく、足回り部材118の取付構造を設けることができ、構成の簡素化を図ることができる。
【0073】
なお、本発明に係る車体構造は、前述した実施の形態に限定されるものではなく適宜変更、改良などが可能である。
例えば、前記第1〜第3の実施の形態では、車体フレームとして左右のフロントサイドフレーム11を例示し、被接合部材として左右のフロアフレーム14、フロアパネル15、ロアダッシュボード42、クロスメンバー43や足回り部材118を例示したが、車体フレームや被接合部材はこれらの部材に限定するものではなく任意に選択可能である。
【0074】
また、前記第1〜第3の実施の形態では、締結部材や底部締結部材としてボルトを例示し、締結孔や底部締結孔としてねじ孔を例示したが、これに限らないで、リベットなどの他の締結部材を用いることも可能である。
【0075】
さらに、前記第1〜第3の実施の形態では、車体フレームを車体前後方向に延びるフロントサイドフレーム11とすることで、一対の側壁部として内外の側壁部53,54を例示し、一対の接合部として内外の接合部63,64を例示したが、一対の側壁部や一対の接合部はこれに限定するものではない。
例えば、車体フレームを車体幅方向に延びる部材とした場合は、一対の側壁部が前後の側壁部、一対の接合部が前後の接合部となる。
【0076】
また、前記第1〜第3の実施の形態では、閉断面構造75の内側の境界部76,77に構造用接着剤81を塗布した例について説明したが、これに限らないで、例えば、閉断面構造75の内側の境界部76,77に加えて外側の境界部にも構造用接着剤81を塗布することも可能である。
【0077】
さらに、前記第1〜第3の実施の形態では、軽合金としてアルミ合金を例示したが、これに限らないで、例えばチタン合金などの他の軽合金を用いることも可能である。
【0078】
また、前記第1〜第3の実施の形態で例示した左右のフロントサイドフレーム11、左右のフロアフレーム14、フロアパネル15、エンドフレーム22、100,110、ロアダッシュボード42、クロスメンバー43、フレーム本体51,101,111、内外の開口端部51a,51b、底部52、内外の側壁部53,54、リブ部55、接合ブラケット61、基部62、内外の接合部63,64、閉断面構造75、内外の境界部76,77、膨出部85、内外の膨出側壁86,87、内外の接触界面88,89などの形状は適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、車体骨格部材としての軽合金製の車体フレームに鋼製の被接合部材が設けられた車体構造を備えた自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る車体構造(第1実施の形態)を示す斜視図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】第1実施の形態に係る車体構造を示す斜視図である。
【図4】図3の車体構造を示す分解斜視図である。
【図5】図4のエンドフレームを示す斜視図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】図3の7−7線断面図である。
【図8】本発明に係る車体フレームにロアダッシュボードを接合する例を説明する図である。
【図9】本発明に係る車体フレームにロアダッシュボードを接合する例を説明する図である。
【図10】本発明に係るエンドフレーム(第2実施の形態)の要部を示す斜視図である。
【図11】第2実施の形態に係るエンドフレームにロアダッシュボードを取り付けた状態を示す断面図である。
【図12】本発明に係るエンドフレーム(第3実施の形態)の要部を示す斜視図である。
【図13】第3実施の形態に係るエンドフレームにロアダッシュボードを取り付けた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0081】
10…車体構造、11…左右のフロントサイドフレーム(車体フレーム)、14…左右のフロアフレーム(被接合部材)、15…フロアパネル(被接合部材)、22、100,110…エンドフレーム、42…ロアダッシュボード(被接合部材)、43…クロスメンバー(被接合部材)、51,101,111…フレーム本体、51a,51b…内外の開口端部(一対の開口端部)、61…接合ブラケット、62…基部、63,64…内外の接合部(一対の接合部)、75…閉断面構造、76,77…内外の境界部(一対の境界部)、81…構造用接着剤、85…膨出部、86,87…内外の膨出側壁(膨出部の側壁)、88,89…内外の接触界面(接触界面)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体骨格部材としての車体フレームに鋼製の被接合部材が設けられた車体構造において、
前記車体フレームは、
断面略U字状に形成した軽合金製のフレーム本体と、
前記フレーム本体の一対の開口端部に基部が鋳ぐるみ成形されることで、前記一対の開口端部から互いに離れる方向に一対の接合部が張り出された鋼製の接合ブラケットとを備え、
前記張り出された一対の接合部に前記鋼製の被接合部材が接合されることで閉断面構造が形成され、
前記閉断面構造の内側において、前記鋳ぐるみ成形された基部および前記開口端部の異種金属同士の接触界面入口である一対の境界部に構造用接着剤がそれぞれ塗布されたことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記被接合部材は、
前記閉断面構造の内側に向けて膨出させた膨出部が設けられ、
前記膨出部の側壁が前記一対の境界部に対向するように配置されたことを特徴とする請求項1記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−132087(P2010−132087A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308928(P2008−308928)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】