説明

車体構造

【課題】車体の大部分を繊維強化複合材料で構成する際、各部品の取り付け部分に要する金属部材の数を極力少なくし、車体構造の大幅な軽量化と、車体に大荷重を作用させる(応力集中が生じる)ことの防止との双方を達成する。
【解決手段】上部車体2と下部車体3が接合されてなる車体の一部または全体が、繊維強化複合材料にて構成される車体構造であって、上部車体2と下部車体3のそれぞれに金属部材7,7r,8,8rが挿入されており、それらの金属部材7,7r,8,8rが互いに締結されることにより接合部が形成され、更に、該接合部にドアまたはサスペンションが取り付けられている車体構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料で構成された車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体の軽量化を図るために、車体の一部分もしくは大部分を合成樹脂や繊維強化複合材料にて構成した車体構造が知られている。例えば、特許文献1では、車体を上部車体と下部車体とに二分割し、該上部車体の骨格を合成樹脂によって閉断面形状に形成しており、その閉断面内に骨格内部に亘って延びた補強用フレームを配設して、そのフレームと下部車体を結合する構造が提案されている。特許文献2では、小型車両の車体構造を簡略化するため、車体を上部車体、下部車体、フロントフード、リアバンパーで構成し、上部車体と下部車体の前方接合部にフロントフードを取り付けた構造が提案されている。特許文献3では、非金属製の高強度材料からなるフロントガラスフレームと乗員ボックスの壁構造部とを、フランジを介して接合した構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−103586号公報
【特許文献2】特開平9−309457号公報
【特許文献3】特許第4478409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車体構造の大幅な軽量化を図るためには、車体の大部分を繊維強化複合材料で構成する必要があり、車体を効率的に製造するためには、上記のように車体を少なくとも2つ以上の部位に分割して成形し、それらを接合する構造が有効である。しかしながら、車体にはサスペンションやドアなどの機能部品を取り付ける必要があり、これらの機能部品は自重や動作時の加速度によって車体に大荷重を作用させる(応力集中が生じる)ことになる。一般的に繊維強化複合材料にこれらの大荷重を作用させる(応力集中が生じる)部品を直接締結することは好ましくなく、各部品の取り付け部分毎にインサートプレートを挿入するなどの対応が必要となるため、重量増を招く結果となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、発明者らは鋭意検討の結果、本発明に到達した。本発明の要旨を以下に示す。
(1)上部車体と下部車体が接合されてなる車体の一部または全体が、繊維強化複合材料にて構成される車体構造であって、
上部車体と下部車体のそれぞれに金属部材が挿入されており、それらの金属部材が互いに締結されることにより接合部が形成され、
更に、該接合部にドアまたはサスペンションが取り付けられている車体構造。
(2)該繊維強化複合材料のマトリックスが熱可塑性樹脂であることを特徴とする(1)に記載の車体構造。
(3)該繊維強化複合材料が強化繊維として炭素繊維を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の車体構造。
(4)該繊維強化複合材料が、ランダムマットに積層された強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたものであることを特徴とする(2)または(3)に記載の車体構造。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上部車体と下部車体、および機能部品の接合に必要な金属部材の数を減らすことが可能となり、車体の軽量化が実現できる。また、接合に必要な金属部材を集中して配置し、金属部材同士を締結することが可能となり、接合部の信頼性を向上することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の車体構造の一例である、接合部にサスペンションが取り付けられた車体構造を含む乗用自動車の斜視図。
【図2】図1に示した乗用自動車の車体構造について、上部車体、下部車体、サスペンション、および金属ジョイントを分離して示す斜視図。
【図3】図1に示した、本発明に基づく車体構造を含む乗用自動車の前部側面図。
【図4】図3におけるA−A断面図。
【図5】本発明の車体構造の一例である、接合部にドアが取り付けられた車体構造を含む乗用自動車の斜視図。
【図6】図5に示した乗用自動車の車体構造について、上部車体、下部車体、ドア、および金属ジョイントを分離して示す斜視図。
【図7】図5に示した、本発明に基づく車体構造を含む乗用自動車の前部側面図。
【図8】図7におけるB−B断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、 上部車体と下部車体が接合されてなる車体の一部または全体が、繊維強化複合材料にて構成される車体構造であって、
上部車体と下部車体のそれぞれに金属部材が挿入されており、それらの金属部材が互いに締結されることにより接合部が形成され、
更に、該接合部にドアまたはサスペンションが取り付けられている車体構造である。
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について、図面にて具体例も示した上、順次説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
図1に、接合部にサスペンションが取り付けられた車体構造を含む乗用自動車1の車体(ボディー)を示してあり、図2を参照するとより明らかなように、上部車体2、下部車体3、サスペンション6、金属部材として、フロント上部車体用金属ジョイント7、リア上部車体用金属ジョイント7r、フロント下部車体用金属ジョイント8、リア下部車体用金属ジョイント8rを含んでいる。上部車体2、下部車体3は金属ではない高強度の材料である炭素繊維繊維強化複合材料(別名、炭素繊維強化プラスチック(略称 CFRP))から成っていて、各々に接合するための金属部材として金属ジョイントを有している。
【0010】
なお、本発明でいう“接合部”を、図1に関して具体的に言うと車体左右それぞれの、フロント上部車体用金属ジョイント7とフロント下部車体用金属ジョイント8を合わせた部分を指す。この接合部は、図1の例示のように車体前部にあるものだけでなく、車体後部にあるものであってもよい。つまり本発明の車体構造は、車体の前後左右の少なくとも1つの接合部にドアまたはサスペンションがついているものだが、代表的なものは、図1に示すように車体前部の左右の接合部それぞれにサスペンションがついているもの、車体前部の左右の接合部それぞれにドアがついているもの、車体後部の左右の接合部それぞれにドアがついているもの、または車体後部の左右の接合部それぞれにサスペンションがついているものである。
【0011】
図2は、図1に示した乗用自動車1について、上部車体2、下部車体3、サスペンション6、金属部材としてのフロント上部車体用金属ジョイント7、リア上部車体用金属ジョイント7r、フロント下部車体用金属ジョイント8、リア下部車体用金属ジョイント8rを分解して示す斜視図である。
【0012】
図3は乗用自動車1の前部側面図である。
図4には、図3におけるA−A断面図、つまり前記の乗用自動車1におけるホイール61から繋がるサスペンション6を固定する下部車体サスペンション用金属ジョイント82を示す。下部車体サスペンション用金属ジョイント82はフロント下部車体用金属ジョイント8とボルト、ナット、リベット、ビスなどによる機械的結合または接着などにより強固に結合されている。
【0013】
図5に、本発明の車体構造の別の例として、接合部にドアが取り付けられた車体構造を含む乗用自動車1’の車体(ボディー)を示してあり、図6を参照するとより明らかなように、上部車体2、下部車体3、ドア9、金属部材として、フロント上部車体用金属ジョイント7、リア上部車体用金属ジョイント7r、フロント下部車体用金属ジョイント8、リア下部車体用金属ジョイント8rを含んでいる。上部車体2、下部車体3はCFRPから成っていて、各々に接合するための金属部材として金属ジョイントを有している。
【0014】
図6は、図5に示した乗用自動車1’について、上部車体2、下部車体3、ドア9、金属部材として、フロント上部車体用金属ジョイント7、リア上部車体用金属ジョイント7r、フロント下部車体用金属ジョイント8を分解して示す斜視図である。
図7は、図5に示した乗用自動車1’の前部側面図である。
【0015】
図8は、図5に示した乗用自動車1’における、ドア9の取り付け構造を示しており、ドア9はドアヒンジ93を介してフロント下部車体用金属ジョイント8に締結されており、8にはドア締結用フランジ94が設けられている。ドア締結用フランジ94は溶接、ボルト、ナット、リベット、ビスなどによる機械的接合または接着などにより、フロント下部車体用金属ジョイント8に強固に接合されている。
【0016】
また、ドア9とドアヒンジ93の締結は、インナードア91にナットを取り付け、ドアヒンジ93からボルトで締結する。インナードア91が繊維強化複合材料にて構成されている際には、ナット付金属インサート95をインナードア91の内側から接着し、ドアヒンジ93側からボルト締めする構造が望ましい。
【0017】
次に、本発明を構成する各要素について述べる。
[繊維強化複合材料]
本発明の車体構造は、上部車体と下部車体が接合されてなる車体の一部または全体が、繊維強化複合材料にて構成されている。ただし、ここで「全体が繊維強化複合材料にて構成される」とは、該車体構造において、骨格など自動車の基本構成となるところが全て繊維強化複合材料で構成されているという意味であり、ボルトやナット、リベット、ビスに至るまで、一切、金属部品を含まないという意味ではない。また、「一部が繊維強化複合材料にて構成される」とは、上部車体と下部車体のいずれかの一部であっても、それぞれ両方の一部が繊維強化複合材料にて構成されているものであってもよい。
【0018】
繊維強化複合材料とは、樹脂などのマトリックス(成分)に強化繊維を添加したものである。本発明の車体構造には、公知の繊維強化複合材料を用いることができる。例えば、繊維強化複合材料の部分と樹脂のみの部分とが積層体になったものや、サンドイッチ構造になっている繊維強化複合材料を使用することもできる。サンドイッチ構造の場合は、コア部材が繊維強化複合材料であって表皮部材が樹脂であっても良く、逆にコア部材が樹脂のみの部分であって、表皮部材が繊維強化複合材料であっても良い。
【0019】
また、本発明の車体構造に用いられる繊維強化複合材料としては、ランダムマットに積層された強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたものが好ましい。
当然、本発明の車体構造において、上部車体と下部車体、そして、これら上部車体や下部車体の各部分において、用いられる繊維強化複合材料は同じでも異なっていても良い。
【0020】
本発明に用いられる、繊維強化複合材料のマトリックスは樹脂であるが、成形性、生産性、加工性に優れる点から熱可塑性樹脂が好ましい。また車体のマトリックスを熱可塑性樹脂とすることで、二軸の中間に位置する軸方向に引っ張った際の破断ひずみを20%前後まで増加させることが可能となる。熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、及びこれらの樹脂2種類以上の組成物などからなる群より選ばれる1種類以上が好ましいものとして挙げられる。この中でも、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂及びこれらの樹脂2種類以上の組成物などからなる群より選ばれる1種類以上がより好ましく、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂及びこれらの樹脂2種類以上の組成物などからなる群より選ばれる1種類以上が特に好ましいものとして挙げられる。
【0021】
本発明の車体構造に用いられる、繊維強化複合材料の強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、高密度ポリエチレン繊維、PBO(ポリベンゾオキサゾール)繊維、およびこれらの2種類以上の混合物等からなる群より選ばれる1種類以上を挙げることができ、なかでも炭素繊維が軽量で強度が優れていることから好ましい。炭素繊維としては公知のものを使用することができるが、一方向に引き揃えられた炭素繊維束、いわゆる一方向材とした炭素繊維か、またはランダムマットに積層された炭素繊維が好ましい。
【0022】
本発明に用いられる、繊維強化複合材料は、上記のようなマトリックス(樹脂)と強化繊維以外の成分(繊維状ではないフィラー類や、酸化防止剤などの各種添加剤など)も、本発明の目的に支障を与えるものでない限り含んでいてもよい。
【0023】
[金属部材]
本発明の車体構造において、上部車体と下部車体の接合部にはそれぞれ挿入されており、かつ、接合部で互いに締結されている「金属部材」としては、公知のものを用いることができ、代表的なものとして、図にて示した金属ジョイント、金属ジョイントインナー、および金属ジョイントアウターからなる群より選ばれる1種類以上を挙げることができる。
【0024】
[ドアまたはサスペンション]
本発明の車体構造において、金属部材が締結されている接合部に取り付けられるドアまたはサスペンションとしては、公知のものを使用することができる。なお、本発明の車体構造には、接合部にドアまたはサスペンション取り付けられているほかに、フロントフード、ステアリングサポート、クラッシャブルストラクチャといった機能部品が、前記の接合部以外のところに取り付けられている態様も含まれる。
【符号の説明】
【0025】
1、1’ 乗用自動車
2 上部車体
21 ピラーインナー
22 ピラーアウター
23 サイドシルアウター
24 サイドシルインナー、24f サイドシルインナーフランジ
25 クロスメンバー
3 下部車体
6 サスペンション
61 タイヤ
7 フロント上部車体用金属ジョイント、7r リア上部車体用金属ジョイント
71 上部車体用金属ジョイントインナー
8 フロント下部車体用金属ジョイント、8r リア下部車体用金属ジョイント
82 下部車体サスペンション用金属ジョイント
9 ドア
91 インナードア
92 アウタードア
93 ドアヒンジ
94 ドア締結用フランジ
95 ナット付き金属インサート
96 繊維強化複合材料製ダッシュパネル
102 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部車体と下部車体が接合されてなる車体の一部または全体が、繊維強化複合材料にて構成される車体構造であって、
上部車体と下部車体のそれぞれに金属部材が挿入されており、それらの金属部材が互いに締結されることにより接合部が形成され、
更に、該接合部にドアまたはサスペンションが取り付けられている車体構造。
【請求項2】
該繊維強化複合材料のマトリックスが熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
該繊維強化複合材料が強化繊維として炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車体構造。
【請求項4】
該繊維強化複合材料が、ランダムマットに積層された強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたものであることを特徴とする請求項2または3に記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−162098(P2012−162098A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21648(P2011−21648)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】