説明

車体構造

【課題】繊維強化樹脂材料でフロア部が構成された車両において、入力された荷重を効率よくフロア部に伝達させるようにする。
【解決手段】繊維強化樹脂材料で構成されるとともに、車体後方側における立壁56に、互いに車幅方向内側を向くように、平面視で車体前後方向及び車幅方向に対して斜めに傾斜された一対の傾斜壁57が形成され、一対の傾斜壁57間の立壁56Aにおける繊維Tの配向が車幅方向に沿った方向とされたフロア部22と、フロア部22の車体後方側に設けられ、一対の傾斜壁57にそれぞれ対向して配置された一対の傾斜部77を備えたリアサスペンションメンバ70と、を有する車体構造10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロア部が繊維強化樹脂材料で構成された車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前面衝突時等、車両前方側から入力された荷重により、バンパリインフォースメントが車両後方側に向かって変形することで、その荷重をバンパリインフォースメントの長手方向の圧縮荷重として吸収するようにした構造は、従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−297857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている構造では、入力された荷重を充分に吸収できるとは言えず、このようなエネルギー吸収手段には改善の余地がある。特に、フロア部がCFRP等の繊維強化プラスチックで構成されている車体構造の場合には、そのフロア部を潰すことなく、そのフロア部に効率良く荷重を伝達させる(エネルギー吸収させる)ようにすることが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、繊維強化樹脂材料でフロア部が構成された車両において、入力された荷重を効率よくフロア部に伝達させることができる車体構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載の車体構造は、繊維強化樹脂材料で構成されるとともに、車体後方側における立壁に、互いに車幅方向内側を向くように、平面視で車体前後方向及び車幅方向に対して斜めに傾斜された一対の傾斜壁が形成され、前記一対の傾斜壁間の前記立壁における前記繊維の配向が車幅方向に沿った方向とされたフロア部と、前記フロア部の車体後方側に設けられ、前記一対の傾斜壁にそれぞれ対向して配置された一対の傾斜部を備えたリアサスペンションメンバと、を有することを特徴としている。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、繊維強化樹脂材料で構成されたフロア部の車体後方側における立壁に、互いに車幅方向内側を向く一対の傾斜壁が形成され、リアサスペンションメンバには、その傾斜壁に対向して配置された一対の傾斜部が備えられている。したがって、リアサスペンションメンバに車体前方側へ向かう荷重が作用したときには、一対の傾斜部が一対の傾斜壁にそれぞれ面接触し、その一対の傾斜部から一対の傾斜壁へ荷重が伝達される。
【0008】
ここで、その一対の傾斜壁が互いに車幅方向内側を向いているので、その荷重の一部は、車幅方向外側へ向かう分力に変換される。よって、その一対の傾斜壁間の立壁には、車幅方向外側へ向かう引張力が作用するが、一対の傾斜壁間の立壁における繊維強化樹脂材料の繊維の配向は、車幅方向に沿った方向とされている。したがって、その立壁により引張力を効率よく受け止めることができる。つまり、これによれば、車両に入力された荷重を効率よくフロア部に伝達させることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の車体構造は、請求項1に記載の車体構造であって、前記リアサスペンションメンバに、少なくとも電池が収容された矩形箱状の筐体が支持されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、電池が収容された矩形箱状の筐体が、リアサスペンションメンバに支持されている。したがって、車両の前面衝突時、その筐体が慣性力で車体前方側へ移動すると、リアサスペンションメンバに車体前方側へ向かう荷重が作用し、その荷重が一対の傾斜部から一対の傾斜壁へ伝達される。したがって、上記と同様に、その荷重は効率よくフロア部に伝達される。
【0011】
また、このとき、一対の傾斜部が一対の傾斜壁をそれぞれ車体前方側へ押圧することになるので、一対の傾斜壁間の立壁が、車体後方側へ膨らむように撓み変形するおそれがある。しかしながら、その一対の傾斜壁間の立壁には、電池が収容された筐体が対向配置される構成となっているため、その立壁の車体後方側への撓み変形を、その筐体によって抑えることができる。これにより、フロア部の破損(割れ)を防止することができる。
【0012】
また、本発明に係る請求項3に記載の車体構造は、繊維強化樹脂材料で構成されるとともに、車体前方側における立壁に、互いに車幅方向内側を向くように、平面視で車体前後方向及び車幅方向に対して斜めに傾斜された一対の傾斜壁が形成され、前記一対の傾斜壁間の前記立壁における前記繊維の配向が車幅方向に沿った方向とされたフロア部と、前記フロア部の車体前方側に設けられ、前記一対の傾斜壁にそれぞれ対向して配置された一対の傾斜部を備えたフロントサスペンションメンバと、を有することを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、繊維強化樹脂材料で構成されたフロア部の車体前方側における立壁に、互いに車幅方向内側を向く一対の傾斜壁が形成され、フロントサスペンションメンバには、その傾斜壁に対向して配置された一対の傾斜部が備えられている。したがって、フロントサスペンションメンバに車体後方側へ向かう荷重が作用したときには、一対の傾斜部が一対の傾斜壁にそれぞれ面接触し、その一対の傾斜部から一対の傾斜壁へ荷重が伝達される。
【0014】
ここで、その一対の傾斜壁が互いに車幅方向内側を向いているので、その荷重の一部は、車幅方向外側へ向かう分力に変換される。よって、その一対の傾斜壁間の立壁には、車幅方向外側に向かう引張力が作用するが、一対の傾斜壁間の立壁における繊維強化樹脂材料の繊維の配向は、車幅方向に沿った方向とされている。したがって、その立壁により引張力を効率よく受け止めることができる。つまり、これによれば、車両に入力された荷重を効率よくフロア部に伝達させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、繊維強化樹脂材料でフロア部が構成された車両において、入力された荷重を効率よくフロア部に伝達させることができる車体構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る車体構造が適用された自動車の概略構成を示す側断面図である。
【図2】本実施形態に係る車体構造を構成するフロア部とリアサスペンションメンバの概略構成を示す斜視図である。
【図3】本実施形態に係る車体構造を構成するフロア部の後壁側を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係る車体構造を構成するフロア部とリアサスペンションメンバの概略構成を示す平面図である。
【図5】(A)本実施形態に係る車体構造の前面衝突前の状態を示す平断面図である。(B)本実施形態に係る車体構造の前面衝突後の状態を示す平断面図である。
【図6】(A)本実施形態に係る車体構造の後面衝突前の状態を示す平断面図である。(B)本実施形態に係る車体構造の後面衝突後の状態を示す平断面図である。
【図7】本実施形態に係る車体構造を構成するフロア部とフロントサスペンションメンバの概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、各図において、矢印FRは車両前方向を示し、矢印UPは車両上方向を示し、矢印RHは車両右方向を示し、矢印LHは車両左方向を示す。また、図2、図3、図4では、後述するアッパーパネル12Uの一部分のみが示されている。
【0018】
図1で示すように、車両としての自動車Vに適用された本実施形態に係る車体構造としての樹脂ボディ構造10は、アンダーボディ12と、フロントサスペンションモジュール14と、フロントエネルギー吸収部材(以下「フロントEA部材」という)16と、リアサスペンションモジュール18と、リアエネルギー吸収部材(以下「リアEA部材」という)20と、を主要部として構成されている。
【0019】
アンダーボディ12は、アッパーパネル12Uとロアパネル12Lとを上下に重ね合わせて接合することで構成されている。そして、このアンダーボディ12は、平面視で略矩形状を成すフロア部22と、フロア部22の前端から上向きに立設された立壁部としてのダッシュロア部24と、フロア部22の後端から上向きに立設された立壁部としてのロアバック部26と、を含んで構成されている。
【0020】
ダッシュロア部24及びロアバック部26は、フロア部22の略全幅に亘る長さを有しており、正面視で車幅方向が長手方向とされた略矩形状を成している。また、図2、図3で示すように、ダッシュロア部24の車幅方向両端からは、後向きに前側壁28が延設されており、ロアバック部26の車幅方向両端からは、前向きに後側壁30が延設されている。
【0021】
前側壁28及び後側壁30は、それぞれの下端がフロア部22(後述するロッカ36)の車幅方向外端部に連続しており、かつ互いに前後に離間している。以上により、アンダーボディ12は、全体としてバスタブ状(側壁の一部が切り欠かれたバスタブ状)に形成されている。
【0022】
更に、図1で示すように、フロア部22は、略水平面に沿って平坦(フラット)な下壁32を有している。そして、図2、図3で示すように、下壁32の車幅方向両側からは、上向きに外側壁34が立設されている。そして、下壁32の上側には、それぞれ前後方向が長手方向とされた骨格構造としての左右一対のロッカ36と、センター骨格形成部38とが形成されている。
【0023】
左右のロッカ36は、図1〜図3で示すように、下壁32と、その下壁32と上下に対向する上壁40と、外側壁34と、その外側壁34と車幅方向に対向する内側壁42とで、正面断面視で矩形枠状となる閉断面構造を成している。そして、センター骨格形成部38は、下壁32と、その下壁32と上下に対向する上壁44と、互いに対向する一対のセンター側壁46とで、正面断面視で矩形枠状となる閉断面構造を成している。
【0024】
なお、本実施形態では、上壁40と上壁44とは、下壁32との対向間隔が略同じ(略面一)とされている。すなわち、ロッカ36とセンター骨格形成部38とで、上下方向の高さが同等とされている。
【0025】
また、図1〜図3で示すように、ダッシュロア部24は、閉断面構造とされて、左右のロッカ36及びセンター骨格形成部38の前端部に架け渡されている。そして、ロアバック部26は、閉断面構造とされて、左右のロッカ36及びセンター骨格形成部38の後端部に架け渡されている。
【0026】
詳細には、ダッシュロア部24は、前後に対向する前壁48及び後壁50と、下壁32に対向する上壁52とを有して構成されている。すなわち、ダッシュロア部24は、側断面視で、下壁32と、前壁48と、後壁50と、上壁52とで閉断面構造を成している。そして、本実施形態では、ダッシュロア部24を構成する後壁50の下部は、傾斜壁50Sとされている。
【0027】
傾斜壁50Sは、前端側より後端側が下方に位置するように、前後(水平)方向に対して傾斜(前傾)されており、その前上端は、後壁50の上下方向に略沿った上下壁50Uの下端に連続している。なお、傾斜壁50Sの前上端(上下壁50Uとの境界部)の上下方向の位置は、側面視において、フロントEA部材16の中心線(図心を通る線)CLの上下方向の位置に略一致されている。
【0028】
一方、傾斜壁50Sの後下端は、ロッカ36及びセンター骨格形成部38の形成部位において、下壁32と対向する上壁40、44に連続している。また、傾斜壁50Sの後下端は、フロア部22におけるロッカ36及びセンター骨格形成部38の非形成部位において、フランジ51(図3参照)に連続している。
【0029】
また、ロアバック部26は、前後に対向する前壁54及び後壁56と、下壁32に対向する上壁58とを有して構成されている。すなわち、ロアバック部26は、下壁32と、前壁54と、後壁56と、上壁58とで、側断面視で閉断面構造を成している。前壁54は、前端側が後端側よりも下方に位置するように、全体として前後(水平)方向に対して傾斜(後傾)されている。
【0030】
更に、図2〜図4で示すように、立壁としての後壁56の車幅方向両側には、互いに略車幅方向内側を向くように、平面視で車体前後方向及び車幅方向に対して斜めに傾斜された左右一対の傾斜壁57が一体に、かつ連続して形成されている。そして、このロアパネル12L(アンダーボディ12)は、後述する繊維強化樹脂材料で構成されており、少なくとも左右一対の傾斜壁57間の後壁56Aにおける繊維Tの配向が車幅方向に沿った方向となるように成形されている。
【0031】
また、図2、図3で示すように、このフロア部22は、左右のロッカ36とセンター骨格形成部38とを前後方向の略中央部で架け渡すセンタークロス部60を有している。センタークロス部60は、下壁32と、下壁32と上下に対向する上壁62と、前後に対向する前壁64及び後壁66とで、側断面視で矩形枠状の閉断面構造を成している。
【0032】
以上のような構成のアンダーボディ12は、繊維強化樹脂材料で構成されている。具体的には、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維を含有する繊維強化プラスチックによって、ロアパネル12L及びアッパーパネル12Uが構成されている。そして、アンダーボディ12は、ロアパネル12Lとアッパーパネル12Uとが接着や溶着等によって固着されることで、上記各閉断面構造を構成するようになっている。
【0033】
図1で示すように、フロントサスペンションモジュール14は、支持部材としてのフロントサスペンションメンバ68と、図示しない左右一対のフロントサスペンションと、を少なくとも含んで構成されている。フロントサスペンションメンバ68は、車幅方向が長手方向とされるとともに、図1で示す側断面視で閉断面構造とされている。
【0034】
また、フロントサスペンションメンバ68は、フロントサスペンションを介して前輪Wfを転舵可能に支持するようになっている。そして、このフロントサスペンションメンバ68には、左右のフロントサスペンションが全体的に組み付けられている。すなわち、各フロントサスペンションは、自動車Vの車体を構成する他の部分に頼ることなく独立して機能するように、フロントサスペンションメンバ68に支持されている。
【0035】
そして、フロントサスペンションメンバ68は、ダッシュロア部24に締結によって固定されるとともに、下壁32に締結によって固定されている。詳細には、フロントサスペンションメンバ68は、その後壁部68Aが車幅方向の複数箇所でダッシュロア部24の前壁48に、図示しないボルト・ナット等の締結具によって固定されている。
【0036】
また、フロントサスペンションメンバ68は、後壁部68Aの下端部から車体後方側へ向かって延設されたフランジ68Bが、下壁32の下面に重ね合わされた状態で、車幅方向の複数箇所で、その下壁32(のダッシュロア部24を構成する部分)に、図示しないボルト・ナット等の締結具によって固定されている。
【0037】
一方、図1、図2、図4で示すように、リアサスペンションモジュール18は、支持部材としてのリアサスペンションメンバ70と、リアサスペンションメンバ70に支持された図示しない左右一対のリアサスペンションと、を少なくとも含んで構成されている。
【0038】
リアサスペンションメンバ70は、リアサスペンションモジュール18における車体前上方側に車幅方向を長手方向として配置された平板状の支持レール72と、支持レール72の車幅方向両端部下側に前端部が取り付けられ、後端部が車体後方側へ向かって延在された左右一対のサイドレール74とを有している。各サイドレール74は閉断面形状(角筒状)に形成されており、サイドレール74間には、図示しない支持部材が車体前後方向に間隔を隔てて複数本(例えば2本)架設されている。
【0039】
リアサスペンションメンバ70は、リアサスペンションを介して後輪Wrを回転可能に支持するようになっている。そして、このリアサスペンションメンバ70には、左右のリアサスペンションが全体的に組み付けられている。すなわち、各リアサスペンションは、自動車Vの車体を構成する他の部分に頼ることなく独立して機能するように、リアサスペンションメンバ70に支持されている。
【0040】
更に、後輪Wrには、ホイルインモーターが内蔵されている。そして、左右一対のサイドレール74間に架設された支持部材上に、ホイルインモーターを駆動するためのバッテリー(電池)及び制御装置であるPCU(パワーコントロールユニット)が収容された筐体78が搭載されて固定されている。
【0041】
つまり、この筐体78は、リアサスペンションメンバ70によって支持されている。したがって、リアサスペンションモジュール18は、自動車Vの駆動ユニットとして捉えることもできる。なお、バッテリー(電池)は、筐体78の前部(支持レール72の直下)に配置されるようになっている。また、その筐体78の前部の幅(車幅方向の長さ)は、後壁56Aの幅(車幅方向の長さ)よりも若干小さくされている(図4参照)。
【0042】
また、リアサスペンションメンバ70(リアサスペンションモジュール18)は、左右一対のサイドレール74の車体前方側端部に、それぞれ車体上下方向を長手方向として設けられた(取り付けられた)略平板状の接続プレート76によって、ロアバック部26の後壁56に締結固定されるようになっている。
【0043】
詳細には、図4〜図6で示すように、各サイドレール74の車体前方側端部には、少なくとも車幅方向両側に張り出すフランジ75が形成されており、各フランジ75に、各接続プレート76の後述するフランジ77Aが溶接等によって取り付けられる(固定される)ようになっている。
【0044】
この左右一対の接続プレート76は、ロアバック部26の後壁56における各傾斜壁57とほぼ同じ大きさ(形状)に形成され、各傾斜壁57に対向して(隙間Sを空けて)配置される傾斜部としての傾斜壁77をそれぞれ有している。つまり、各傾斜壁77は、互いに略車幅方向外側を向くように、平面視で車体前後方向及び車幅方向に対して斜めに、即ち各傾斜壁57と同じ角度(平行)となるように傾斜されている。
【0045】
また、各接続プレート76は、各傾斜壁77からそれぞれ車幅方向両側へ延設され、各サイドレール74のフランジ75が後面に溶着されるフランジ77Aと、各傾斜壁77の下端部からそれぞれ車体前方側へ延設され、下壁32の下面に重ね合わせる(面接触させる)フランジ77Bとを有している。
【0046】
そして、フランジ77Aのフランジ75との溶接部位よりも車幅方向外側の適宜箇所と、フランジ77Bの適宜箇所には、後壁56の適宜箇所と、下壁32のロアバック部26を構成する部分の適宜箇所に、それぞれ形成されている複数のボルト挿通孔(図示省略)と連通する複数のボルト挿通孔(図示省略)が形成されている。
【0047】
したがって、フランジ77Aが、ロアバック部26の後壁56における各傾斜壁57の車幅方向両側に、図示しないボルト・ナット等の締結具により複数箇所で固定され、フランジ77Bが、下壁32のロアバック部26を構成する部分に、図示しないボルト・ナット等の締結具により複数箇所で固定されることで、リアサスペンションメンバ70(リアサスペンションモジュール18)が、ロアバック部26の後壁56に取り付けられるようになっている。
【0048】
そして、各サイドレール74に車体前方側へ向かう荷重が入力されたときには、各接続プレート76の各傾斜壁77が、各傾斜壁57に面接触(圧接)するようになっており、それに伴って、各フランジ77Aも、各傾斜壁57の車幅方向両側の後壁56に面接触(圧接)するようになっている。
【0049】
また、フロントEA部材16は、車幅方向が長手方向とされた大型部品とされている。詳細には、フロントEA部材16は、フロントサスペンションメンバ68の前壁部68Cの車幅方向の長さ、即ち左右のフロントサスペンションの間隔と略同等の車幅方向に沿った長さを有している。
【0050】
そして、このフロントEA部材16は、図1で示すように、車体後方側が開口されたボックス形状(略矩形箱状)に形成されており、その後端から張り出されたフランジ16Aにおいて、フロントサスペンションメンバ68の前壁部68Cに締結固定されている。なお、フロントEA部材16は、フロントサスペンションメンバ68と共にダッシュロア部24に締結固定(共締め)されてもよい。
【0051】
同様に、リアEA部材20は、車幅方向が長手方向とされた大型部品とされている。詳細には、リアEA部材20は、リアサスペンションメンバ70の車幅方向の長さ、即ち左右一対のサイドレール74の間隔と略同等の車幅方向に沿った長さを有している。そして、このリアEA部材20は、車体前方側が開口されたボックス形状(略矩形箱状)に形成されており、その前端から張り出されたフランジ(図示省略)において、筐体78の車体後方側下部に締結固定されている。
【0052】
以上のような構成のフロントEA部材16及びリアEA部材20は、樹脂材料にて各部が一体に形成されている。フロントEA部材16及びリアEA部材20を構成する樹脂材料としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維を含有する繊維強化樹脂材料等が挙げられる。また、フロントEA部材16及びリアEA部材20は、アルミニウムや、その合金などの金属材料で構成してもよい。
【0053】
以上のような構成の樹脂ボディ構造10において、次にその作用について、主に図5、図6を基に説明する。
【0054】
本実施形態に係る樹脂ボディ構造10が適用された自動車Vは、リアサスペンションメンバ70に支持された筐体78に内蔵されたPCUにより、バッテリー(電池)からホイルインモーターへ電力が供給され、そのホイルインモーターの駆動力により走行する。
【0055】
この自動車Vにおいて、前面衝突が生じると、フロントEA部材16に衝突荷重が入力される。この荷重によりフロントEA部材16は圧縮変形され、衝撃エネルギー(動荷重)を吸収しつつ、フロントサスペンションメンバ68に荷重(支持反力)を伝達する。
【0056】
なお、このとき、フロントEA部材16に入力された衝突荷重は、フロントサスペンションメンバ68の広い面(車幅方向に長い前壁部68C)で受け止められ、フロントEA部材16は、安定して軸圧縮変形される。そして、フロントサスペンションメンバ68に伝達された荷重は、ダッシュロア部24を介してフロア部22に伝達される。
【0057】
ここで、ダッシュロア部24を構成する後壁50の下部が傾斜壁50Sとされているため、前面衝突時の荷重を効率よくフロア部22に伝達することができる。すなわち、傾斜壁50Sの前上端の上下方向位置が、側面視でフロントEA部材16の中心線CLの上下方向位置に略一致されるとともに、傾斜壁50Sの後下端が上壁40、44に連続されている。
【0058】
このため、フロントEA部材16からダッシュロア部24に入力された荷重は、フロア部22のロッカ36及びセンター骨格形成部38に効率よく伝達される。すなわち、上記荷重(ダッシュロア部24を後方に倒す向きのモーメント)を、傾斜壁50Sの軸力として効率よくロッカ36及びセンター骨格形成部38に伝達することができる。
【0059】
更に、下壁32の上側にロッカ36及びセンター骨格形成部38が形成されているフロア部22では、前面衝突の際に、下壁32が引張側、上壁40、44側が圧縮側となるように、車幅方向に沿った軸回りの曲げ変形力を受ける。
【0060】
ここで、圧縮側には、上壁40と内側壁42との稜線、上壁44とセンター側壁46との稜線が形成されているので、フロア部22の上下を逆にした構成と比較して、上記の曲げ変形力に対する強度が高い(耐力が大きい)。つまり、前面衝突に対しては、下壁32をフラットにする構成が有効となる。
【0061】
一方、リアサスペンションモジュール18側では、前面衝突時の慣性力により、図5で示すように、筐体78(リアサスペンションモジュール18)が車体前方側へ移動しようとする。すると、その筐体78は、リアサスペンションメンバ70の左右一対のサイドレール74間に搭載されて支持されているので、その左右一対のサイドレール74がそれぞれ車体前方側へ移動しようとする。
【0062】
ここで、各サイドレール74の車体前方側端部には、それぞれ接続プレート76が取り付けられており、各接続プレート76が、図示しない締結具によって、それぞれ後壁56及び下壁32のロアバック部26を構成する部分に締結(固定)されている。すなわち、各接続プレート76の各傾斜壁77が、それぞれ各傾斜壁57に隙間Sを空けた状態で対向配置されている。
【0063】
したがって、各サイドレール74に車体前方側へ向かう荷重Fが入力されると、各接続プレート76の各傾斜壁77が、各傾斜壁57に面接触(圧接)し、その荷重Fが、各傾斜壁77から各傾斜壁57へ伝達される。そして、その荷重Fは、各傾斜壁57により、それぞれ車体前方側へ向かう分力F1と、車幅方向外側へ向かう分力F2とに変換される。
【0064】
ここで、少なくとも左右の傾斜壁57間の後壁56Aでは、繊維強化樹脂材料の繊維Tの配向が、車幅方向に沿った方向とされている。したがって、その車幅方向外側への引張力となる分力F2を、後壁56Aによって効率よく受け止めることができる。つまり、これにより、自動車Vに入力された荷重を効率よくフロア部22に伝達させることができる。
【0065】
また、その車体前方側へ向かう分力F1や、後面衝突によって、各サイドレール74から各接続プレート76(各傾斜壁77)を介して各傾斜壁57に車体前方側へ向かう荷重が入力されると、図6で示すように、左右の傾斜壁57間における後壁56Aが、平面視で車体後方側へ向かって円弧状に膨らむように、撓み変形するおそれがある。
【0066】
しかしながら、左右の傾斜壁57間の後壁56Aの車体後方側には、重量物であるバッテリー(電池)が収容されている部分である筐体78の前部が対向配置されているので、その撓み変形を、その筐体78で抑えることができる。つまり、これにより、アンダーボディ12(ロアパネル12L)の破損(割れ)を防止することができる。
【0067】
なお、上記実施形態では、リアサスペンションメンバ70及びロアバック部26に対して適用された樹脂ボディ構造10について説明したが、本実施形態に係る樹脂ボディ構造10は、フロントサスペンションメンバ68及びダッシュロア部24に対しても適用することができる。
【0068】
すなわち、図7で示すように、ダッシュロア部24の前壁48の左右両側に、後壁56と同様に略車幅方向内側を向く傾斜壁49を形成し、少なくとも左右の傾斜壁49間の前壁48Aの繊維強化樹脂材料の繊維Tの配向を車幅方向に沿った方向とする。そして、フロントサスペンションメンバ68の後壁部68Aに、その傾斜壁49と隙間Sを空けて対向配置される傾斜部としての左右一対の傾斜壁69を形成する。
【0069】
これによれば、前面衝突によってフロントEA部材16に荷重が入力されると、その荷重により、フロントサスペンションメンバ68の各傾斜壁69が各傾斜壁49に面接触(圧接)し、その荷重が、各傾斜壁69から各傾斜壁49へ伝達される。すると、その荷重は、各傾斜壁49により、それぞれ車体後方側へ向かう分力と、車幅方向外側へ向かう分力とに変換される。
【0070】
ここで、少なくとも左右の傾斜壁49間の前壁48Aでは、繊維強化樹脂材料の繊維Tの配向が、車幅方向に沿った方向とされている。したがって、その車幅方向外側への引張力となる分力を、前壁48Aによって効率よく受け止めることができる。つまり、これにより、自動車Vに入力された荷重を効率よくフロア部22に伝達させることができる。
【0071】
以上、本実施形態に係る車体構造(樹脂ボディ構造10)について、図面を基に説明したが、本実施形態に係る車体構造(樹脂ボディ構造10)は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。また、後壁56A及び前壁48Aにおける繊維強化樹脂材料の車幅方向に沿って配向される繊維Tの長さは、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0072】
10 樹脂ボディ構造(車体構造)
12 アンダーボディ
22 フロア部
48 前壁(立壁)
49 傾斜壁
56 後壁(立壁)
57 傾斜壁
68 フロントサスペンションメンバ
69 傾斜壁(傾斜部)
70 リアサスペンションメンバ
76 接続プレート
77 傾斜壁(傾斜部)
78 筐体
T 繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂材料で構成されるとともに、車体後方側における立壁に、互いに車幅方向内側を向くように、平面視で車体前後方向及び車幅方向に対して斜めに傾斜された一対の傾斜壁が形成され、前記一対の傾斜壁間の前記立壁における前記繊維の配向が車幅方向に沿った方向とされたフロア部と、
前記フロア部の車体後方側に設けられ、前記一対の傾斜壁にそれぞれ対向して配置された一対の傾斜部を備えたリアサスペンションメンバと、
を有することを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記リアサスペンションメンバに、少なくとも電池が収容された矩形箱状の筐体が支持されていることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
繊維強化樹脂材料で構成されるとともに、車体前方側における立壁に、互いに車幅方向内側を向くように、平面視で車体前後方向及び車幅方向に対して斜めに傾斜された一対の傾斜壁が形成され、前記一対の傾斜壁間の前記立壁における前記繊維の配向が車幅方向に沿った方向とされたフロア部と、
前記フロア部の車体前方側に設けられ、前記一対の傾斜壁にそれぞれ対向して配置された一対の傾斜部を備えたフロントサスペンションメンバと、
を有することを特徴とする車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−224281(P2012−224281A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95319(P2011−95319)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】