説明

車体部材の接合方法及び接合構造

【課題】第一フランジ及び第二フランジにおける溶接箇所の品質を確保する。
【解決手段】先ず、第一フランジ24と隣接パネル部44とを対向させて突出部74の頂部を第一フランジ24に当接させると共に、隣接パネル部44における突出部74に対する第二フランジ34と反対側の部分44Aと第一フランジ24との間に第一フランジ24の延びる方向(X方向)の一端側から他端側に亘って接着剤50を介在させる(第一工程)。続いて、第二パネル部材14をY1側にスライドさせて、接着剤50のうち第二フランジ34の被溶接部55とX方向にオーバラップする部分50Aを突出部74によって削ぎ取る。そして、その後、第一フランジ24の接着部52と第二フランジ34の被接着部53とを接着剤50のうちの残余部50Bにより接着する(第二工程)。そして、最後に、第一フランジ24の溶接部54と第二フランジ34の被溶接部55とを溶接する(第三工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体部材の接合方法及び接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第一パネル材のフランジと、第二パネル材のフランジとを接着及び溶接によって接合したパネル接合構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−22262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この接合構造において、一対のフランジにおける溶接箇所に接着剤が介在された場合、この溶接箇所の品質が低下する虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、第一フランジ及び第二フランジにおける溶接箇所の品質を確保することができる車体部材の接合方法及び接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の車体部材の接合構造は、第一パネル部材に形成された本体パネル部の端部から突出すると共に前記本体パネル部の端部に沿って延びる第一フランジと、前記第一パネル部材と共に車体部材を構成する第二パネル部材に前記第一フランジと対向して形成されると共に、前記第一フランジの接着部と接着された被接着部と、前記第一フランジの延びる方向に前記接着部と並んで形成され前記第一フランジの溶接部と溶接された被溶接部とを有する第二フランジと、前記第二パネル部材において前記第一フランジの突出する方向に前記第二フランジと並んで形成された隣接パネル部に形成されると共に、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向における前記第一フランジ側に突出し、且つ、前記被溶接部と前記第一フランジの延びる方向にオーバラップする突出部と、を備えている。
【0007】
この車体部材の接合構造によれば、上記構成により、例えば、次の要領で第一フランジと第二フランジとを接合することができる。すなわち、先ず、第一フランジと隣接パネル部とを対向させて突出部の頂部を第一フランジに当接させると共に、隣接パネル部における突出部に対する第二フランジと反対側の部分と第一フランジとの間に第一フランジの延びる方向の一端側から他端側に亘って接着剤を介在させる(第一工程)。
【0008】
続いて、第一フランジと第二フランジとが対向するように、第二パネル部材を第一パネル部材に対して第一フランジの突出する方向に沿ってスライドさせて、上述の接着剤のうち被溶接部と第一フランジの延びる方向にオーバラップする部分を突出部によって削ぎ取る。その後、第一フランジの接着部と第二フランジの被接着部とを接着剤のうち残余の部分で接着する(第二工程)。
【0009】
そして、第一フランジの溶接部と第二フランジの被溶接部とを溶接する(第三工程)。以上の要領で、第一フランジと第二フランジとを接合することができる。
【0010】
ここで、この車体部材の接合構造によれば、第一工程において塗布した接着剤のうち、被溶接部と第一フランジの延びる方向にオーバラップする部分は、突出部によって削ぎ取られる。従って、その後、第三工程において溶接部と被溶接部とを溶接する際には、この溶接部と被溶接部との間に接着剤が介在されることを抑制することができる。これにより、第一フランジ及び第二フランジにおける溶接箇所の品質(つまり、溶接部及び被溶接部における溶接品質)を確保することができる。
【0011】
請求項2に記載の車体部材の接合構造は、請求項1に記載の車体部材の接合構造において、前記隣接パネル部が、前記第二フランジの先端部と連続して形成され、前記本体パネル部には、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向に貫通する貫通孔が形成され、前記第二パネル部材のうち、前記本体パネル部における前記貫通孔が形成された部分と対向する対向パネル部には、前記貫通孔と同軸上に形成された同軸部と、前記同軸部から前記第二フランジ側に延長して形成された延長部とを有する長孔が形成され、前記貫通孔における前記第一フランジ側の端部から前記第一フランジの基端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL1、前記貫通孔における前記第一フランジ側の端部から前記第一フランジの先端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さL2、前記長孔における前記第二フランジ側の端部から前記突出部の頂部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL3、前記貫通孔における前記第一フランジと反対側の端部から前記第一フランジの先端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL4、前記長孔における前記第二フランジと反対側の端部から前記突出部における前記第二フランジ側の端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL5、前記長孔における前記第二フランジと反対側の端部から前記第二フランジの基端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL6とした場合に、L2>L3>L1、且つ、L5≧L4>L6を満足する構成とされている。
【0012】
この車体部材の接合構造によれば、上記構成により、例えば、次の要領で、第一フランジと第二フランジとを位置決めすることができる。すなわち、先ず、第一工程において、貫通孔と、長孔とに直線棒状の治具を挿入する。そして、この治具を、貫通孔における第一フランジ側の端部、及び、長孔における第二フランジ側の端部にそれぞれ当接させる。これにより、第一フランジが隣接パネル部と対向され、突出部の頂部が第一フランジと当接される。
【0013】
続いて、第二工程において、長孔における第二フランジと反対側の端部が治具と当接するまで、第二パネル部材を第一パネル部材及び治具に対して第一フランジの突出する方向に沿ってスライドさせる。そして、長孔における第二フランジと反対側の端部が治具と当接すると、第一フランジが突出部を乗り越えて第二フランジと位置決めされた状態で対向される。
【0014】
このように、この車体部材の接合構造によれば、治具を用いると共に、貫通孔及び長孔を基準孔として利用することで、第二工程において第一フランジ及び第二フランジを容易に位置決めすることができる。
【0015】
請求項3に記載の車体部材の接合構造は、請求項1に記載の車体部材の接合構造において、前記隣接パネル部が、前記第二フランジの基端部と連続して形成され、前記本体パネル部には、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向に貫通する貫通孔が形成され、前記第二パネル部材のうち、前記本体パネル部における前記貫通孔が形成された部分と対向する対向パネル部には、前記貫通孔と同軸上に形成された同軸部と、前記同軸部から前記第二フランジと反対側に延長して形成された延長部とを有する長孔が形成され、前記貫通孔における前記第一フランジと反対側の端部から前記第一フランジの基端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL1’、前記貫通孔における前記第一フランジと反対側の端部から前記第一フランジの先端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さL2’、前記長孔における前記第二フランジと反対側の端部から前記突出部の頂部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL3’、前記貫通孔における前記第一フランジ側の端部から前記第一フランジの基端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL4’、前記長孔における前記第二フランジ側の端部から前記突出部における前記第二フランジ側の端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL5’、前記長孔における前記第二フランジ側の端部から前記第二フランジの先端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL6’とした場合に、L1’<L3’<L2’、且つ、L5’≦L4’<L6’を満足する構成とされている。
【0016】
この車体部材の接合構造によれば、上記構成により、例えば、次の要領で、第一フランジと第二フランジとを位置決めすることができる。すなわち、先ず、第一工程において、貫通孔と、長孔とに直線棒状の治具を挿入する。そして、この治具を、貫通孔における第一フランジと反対側の端部、及び、長孔における第二フランジと反対側の端部に当接させる。これにより、突出部の頂部が第一フランジと当接し、第一フランジが隣接パネル部と対向される。
【0017】
続いて、第二工程において、長孔における第二フランジ側の端部が治具と当接するまで、第二パネル部材を第一パネル部材及び治具に対して第一フランジの突出する方向に沿ってスライドさせる。そして、長孔における第二フランジ側の端部が治具と当接すると、第一フランジが突出部を乗り越えて第二フランジと位置決めされた状態で対向される。
【0018】
このように、この車体部材の接合構造によれば、治具を用いると共に、貫通孔及び長孔を基準孔として利用することで、第二工程において第一フランジ及び第二フランジを容易に位置決めすることができる。
【0019】
請求項4に記載の車体部材の接合構造は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車体部材の接合構造において、前記突出部が、前記第一フランジにおける前記突出部側の端部と当接又は近接された構成とされている。
【0020】
この車体部材の接合構造によれば、上述の第二工程において、突出部を第一フランジにおける突出部側の端部と当接又は近接させることで、第一フランジ及び第二フランジを位置決めすることができる。
【0021】
請求項5に記載の車体部材の接合構造は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の車体部材の接合構造において、前記突出部における前記第二フランジと反対側の壁面が、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向に延びる構成とされている。
【0022】
この車体部材の接合構造によれば、突出部における第二フランジと反対側の壁面は、第一フランジ及び第二フランジの対向する方向に延びている。従って、例えば、上述の第二工程において、第二パネル部材を第一パネル部材に対して第一フランジの突出する方向に沿ってスライドさせた際には、突出部上に接着剤が乗り上がることが抑制されるので、この突出部における第二フランジと反対側の壁面によって接着剤をより効果的に削ぎ取ることができる。これにより、第一フランジ及び第二フランジにおける溶接箇所の品質を向上させることができる。
【0023】
請求項6に記載の車体部材の接合構造は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の車体部材の接合構造において、前記突出部が、前記第一フランジにおける前記突出部側の端部と当接又は近接され、前記突出部における前記第二フランジ側の壁面が、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向に延びる構成とされている。
【0024】
この車体部材の接合構造によれば、突出部における第二フランジ側の壁面は、第一フランジ及び第二フランジの対向する方向に延びている。従って、上述の第二工程において、突出部における第二フランジ側の壁面を、第一フランジにおける突出部側の端部と当接又は近接させた場合に、突出部上を第一フランジが乗り上げることを抑制することができるので、第一フランジ及び第二フランジをより効果的に位置決めすることができる。
【0025】
また、前記課題を解決するために、請求項7に記載の車体部材の接合方法は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の車体部材の接合構造が適用された車体部材の接合方法であって、前記第一フランジと前記隣接パネル部とを対向させて前記突出部の頂部を前記第一フランジに当接させると共に、前記隣接パネル部における前記突出部に対する前記第二フランジと反対側の部分と前記第一フランジとの間に前記第一フランジの延びる方向の一端側から他端側に亘って接着剤を介在させる第一工程と、前記第一フランジと前記第二フランジとが対向するように、前記第二パネル部材を前記第一パネル部材に対して前記第一フランジの突出する方向に沿ってスライドさせて、前記接着剤のうち前記被溶接部と前記第一フランジの延びる方向にオーバラップする部分を前記突出部によって削ぎ取った後、前記接着部と前記被接着部とを前記接着剤のうち残余の部分で接着する第二工程と、前記溶接部と前記被溶接部とを溶接する第三工程と、を備えている。
【0026】
この車体部材の接合方法によれば、第一工程において塗布した接着剤のうち、被溶接部と第一フランジの延びる方向にオーバラップする部分は、突出部によって削ぎ取られる。従って、その後、第三工程において溶接部と被溶接部とを溶接する際には、この溶接部と被溶接部との間に接着剤が介在されることを抑制することができる。これにより、第一フランジ及び第二フランジにおける溶接箇所の品質(つまり、溶接部及び被溶接部における溶接品質)を確保することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上詳述したように、本発明によれば、第一フランジ及び第二フランジにおける溶接箇所の品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る車体部材の接合構造が適用された車体部材の斜視図である。
【図2】図1の2−2線断面図(接着部及び被接着部で切断した断面図)である。
【図3】図1の3−3線断面図(溶接部及び被溶接部で切断した断面図)である。
【図4】図1に示される第二車体パネル部材の要部拡大平面図である。
【図5】図1に示される車体部材の接合方法を断面図にて説明する図である。
【図6】図1に示される車体部材の接合方法を平面図にて説明する図である。
【図7】図1に示される突出部の第一変形例を示す図である。
【図8】図1に示される突出部の第二変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0030】
図1〜図3に示される車体部材10は、本発明の一実施形態に係る車体部材の接合構造Sが適用されたものであり、車体の一部を構成する骨格部材とされている。この車体部材10は、断面ハット状の第一パネル部材12と、平板状の第二パネル部材14とを有しており、閉断面16を構成している。また、この車体部材10は、閉断面16と直交する方向(すなわち、X方向)を長手方向とする長尺状に形成されている。
【0031】
第一パネル部材12は、一対の側壁部18,20と、この一対の側壁部18,20における第二パネル部材14と反対側の端部を連結する連結壁部22と、一対の側壁部18,20における第二パネル部材14側の端部からそれぞれ突出する一対の第一フランジ24,26とを有している。
【0032】
一対の第一フランジ24,26は、一対の側壁部18,20における第二パネル部材14側の端部に沿ってX方向に長尺状に延びている。なお、この第一パネル部材12に形成された一対の側壁部18,20及び連結壁部22は、本発明における「本体パネル部」に相当し、X方向は、本発明における「第一フランジの延びる方向」に相当する。
【0033】
第二パネル部材14は、連結壁部22と対向する対向パネル部32と、一対の第一フランジ24,26の各々と対向する一対の第二フランジ34,36とを有している。また、上述の第一フランジ24,26が側壁部18,20における第二パネル部材14側の端部からそれぞれ突出する方向をY方向とした場合に、この第二パネル部材14において、第二フランジ34とY方向に並び、且つ、この第二フランジ34を挟んだ対向パネル部32と反対側に位置する部分は、隣接パネル部44とされている。この隣接パネル部44は、第二フランジ34の先端部(対向パネル部32と反対側の端部)と連続して形成されている。
【0034】
一方、この第二パネル部材14において、第二フランジ36とY方向に並び、第二フランジ36と対向パネル部32との間に位置する部分は、隣接パネル部46とされている。この隣接パネル部46は、第二フランジ36の基端部(対向パネル部32側の端部)と連続して形成されている。
【0035】
そして、図2,図3に示されるように、上述の第一フランジ24と第二フランジ34とは、後述する接着剤50のうちの残余部50B、及び、スポット溶接による溶接点51により互いに接合されている。この第一フランジ24及び第二フランジ34において、接着剤50の残余部50Bにより接合された部分は、接着部52及び被接着部53とされており、後述するスポット溶接による溶接点51により接合された部分は、溶接部54及び被溶接部55とされている。この接着部52及び被接着部53と、溶接部54及び被溶接部55とは、上述のX方向(図1,図3参照)に並んで形成されている。
【0036】
同様に、上述の第一フランジ26と第二フランジ36とは、後述する接着剤60のうちの残余部60B、及び、スポット溶接による溶接点61により互いに接合されている。この第一フランジ26及び第二フランジ36において、接着剤60の残余部60Bにより接合された部分は、接着部62及び被接着部63とされており、後述するスポット溶接による溶接点61により接合された部分は、溶接部64及び被溶接部65とされている。この接着部62及び被接着部63と、溶接部64及び被溶接部65とは、上述のX方向(図1,図3参照)に並んで形成されている。
【0037】
また、図3に示されるように、上述の隣接パネル部44には、ビード状の突出部74が形成されている。この突出部74は、第一フランジ24及び第二フランジ34の対向する方向(すなわち、Z方向)における第一フランジ24側(Z1側)に突出しており、第一フランジ24の先端部(突出部74側の端部)と当接されている。また、図4に示されるように、この突出部74は、X方向に間隔を空けて複数形成されており、各突出部74は、被溶接部55とX方向にオーバラップしている。
【0038】
同様に、図3に示されるように、上述の隣接パネル部46には、ビード状の突出部76が形成されている。この突出部76は、第一フランジ26及び第二フランジ36の対向する方向(すなわち、Z方向)における第一フランジ26側(Z1側)に突出しており、第一フランジ26の基端部(突出部76側の端部)と当接されている。また、図4に示されるように、この突出部76は、X方向に間隔を空けて複数形成されており、各突出部76は、被溶接部65とX方向にオーバラップしている。
【0039】
また、図3に示されるように、上述の連結壁部22には、上述のZ方向に貫通する貫通孔80が形成されている。この貫通孔80は、円孔とされている。なお、この貫通孔80が形成された連結壁部22は、本発明における「本体パネル部における貫通孔が形成された部分」に相当する。
【0040】
一方、この連結壁部22と対向する対向パネル部32には、上述のY方向に延びる長孔82が形成されている。この長孔82は、貫通孔80と同軸上に形成された同軸部84と、この同軸部84から第二フランジ34側(第二フランジ36と反対側)に延長して形成された延長部86とを有している。
【0041】
そして、図5に示されるように、この貫通孔80及び長孔82と、上述の第一フランジ24、第二フランジ34、及び、突出部74との各部の長さL1〜L6は、後述する車体部材の接合方法との関係から、次のように設定されている。
【0042】
なお、L1は、貫通孔80における第一フランジ24側の端部から第一フランジ24の基端部までのY方向に沿った長さであり、L2は、貫通孔80における第一フランジ24側の端部から第一フランジ24の先端部までのY方向に沿った長さである。
【0043】
また、L3は、長孔82における第二フランジ34側の端部から突出部74の頂部までのY方向に沿った長さであり、L4は、貫通孔80における第一フランジ24と反対側の端部から第一フランジ24の先端部までのY方向に沿った長さである。
【0044】
また、L5は、長孔82における第二フランジ34と反対側の端部から突出部74における第二フランジ34側の端部までのY方向に沿った長さであり、L6は、長孔82における第二フランジ34と反対側の端部から第二フランジ34の基端部までのY方向に沿った長さである。
【0045】
そして、この車体部材10では、L2>L3>L1、且つ、L5≧L4>L6を満足するように、L1〜L6が設定されている。
【0046】
同様に、上述の貫通孔80及び長孔82と、第一フランジ26、第二フランジ36、及び、突出部76との各部の長さL1’〜L6’は、後述する車体部材の接合方法との関係から、次のように設定されている。
【0047】
なお、L1’は、貫通孔80における第一フランジ26と反対側の端部から第一フランジ26の基端部までのY方向に沿った長さであり、L2’は、貫通孔80における第一フランジ26と反対側の端部から第一フランジ26の先端部までのY方向に沿った長さである。
【0048】
また、L3’は、長孔82における第二フランジ36と反対側の端部から突出部76の頂部までのY方向に沿った長さであり、L4’は、貫通孔80における第一フランジ26側の端部から第一フランジ26の基端部までのY方向に沿った長さである。
【0049】
また、L5’は、長孔82における第二フランジ36側の端部から突出部76における第二フランジ36側の端部までのY方向に沿った長さであり、L6’は、長孔82における第二フランジ36側の端部から第二フランジ36の先端部までのY方向に沿った長さである。
【0050】
そして、この車体部材10では、L1’<L3’<L2’、且つ、L5’≦L4’<L6’を満足するように、L1’〜L6’が設定されている。
【0051】
次に、本発明の一実施形態に係る車体部材の接合方法について説明する。
【0052】
先ず、図5の上図に示されるように、第一工程において、貫通孔80と、長孔82とに直線棒状の治具90を挿入する。この治具90の外径は、貫通孔80の内径とほぼ同一(厳密には貫通孔80の内径よりも僅かに小径)とされている。
【0053】
そして、治具90を、貫通孔80に嵌合させた状態、すなわち、少なくとも貫通孔80における第一フランジ24側(第一フランジ26と反対側)の端部に当接させた状態で、この治具90を、長孔82における第二フランジ34側(第二フランジ36と反対側)の端部に当接させる。これにより、第一フランジ24,26が隣接パネル部44,46とそれぞれ対向され、突出部74,76の頂部が第一フランジ24,26とそれぞれ当接される。
【0054】
また、このとき、第一フランジ24及び第二フランジ34の少なくとも一方に、その延びる方向(X方向)の一端側から他端側に亘って接着剤50を予め塗布しておく(図6の上図参照)。そして、隣接パネル部44における突出部74に対する第二フランジ34と反対側の部分44Aと第一フランジ24との間に第一フランジ24の延びる方向の一端側から他端側に亘って接着剤50を介在させる。
【0055】
同様に、第一フランジ26及び第二フランジ36の少なくとも一方に、その延びる方向(X方向)の一端側から他端側に亘って接着剤60を予め塗布しておく(図6の上図参照)。そして、隣接パネル部46における突出部76に対する第二フランジ36と反対側の部分46Aと第一フランジ26との間に第一フランジ26の延びる方向の一端側から他端側に亘って接着剤60を介在させる。
【0056】
続いて、図5の下図に示されるように、第二工程において、長孔82における第二フランジ34と反対側(第二フランジ36側)の端部が治具90と当接するまで、第二パネル部材14を第一パネル部材12及び治具90に対してY方向に沿ってスライド(Y1側にスライド)させる。
【0057】
そして、上述の接着剤50のうち被溶接部55とX方向にオーバラップする部分50A(図5,図6の上図参照)を突出部74によって削ぎ取る。同様に、上述の接着剤60のうち被溶接部65とX方向にオーバラップする部分60Aを突出部76によって削ぎ取る。
【0058】
また、図5,図6の下図に示されるように、長孔82における第二フランジ34と反対側(第二フランジ36側)の端部が治具90と当接すると、第一フランジ24が突出部74を乗り越えて第二フランジ34と位置決めされた状態で対向される。また同様に、第一フランジ26が突出部76を乗り越えて第二フランジ36と位置決めされた状態で対向される。
【0059】
そして、これにより、第一フランジ24の接着部52と第二フランジ34の被接着部53とが接着剤50のうち残余の部分である残余部50Bにより接着される(図2参照)。同様に、第一フランジ26の接着部62と第二フランジ36の被接着部63とが接着剤60のうち残余の部分である残余部60Bにより接着される。
【0060】
そして、最後に、図5の下図に示されるように、第三工程において、第一フランジ24の溶接部54と第二フランジ34の被溶接部55とをスポット溶接し、溶接点51を形成する。また同様に、第一フランジ26の溶接部64と第二フランジ36の被溶接部65とをスポット溶接し、溶接点61を形成する。以上の要領で、第一フランジ24と第二フランジ34、及び、第一フランジ26と第二フランジ36とがそれぞれ接合される。
【0061】
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0062】
以上詳述したように、本発明の一実施形態によれば、第一工程において塗布した接着剤50のうち、被溶接部55とX方向にオーバラップする部分50Aは、突出部74によって削ぎ取られる(図5,図6の上図参照)。従って、その後、第三工程において溶接部54と被溶接部55とを溶接する際には、この溶接部54と被溶接部55との間に接着剤が介在されることを抑制することができる。これにより、第一フランジ24及び第二フランジ34における溶接箇所の品質(つまり、溶接部54及び被溶接部55における溶接品質)を確保することができる。
【0063】
同様に、第一工程において塗布した接着剤60のうち、被溶接部65とX方向にオーバラップする部分60Aは、突出部76によって削ぎ取られる(図5,図6の上図参照)。従って、その後、第三工程において溶接部64と被溶接部65とを溶接する際には、この溶接部64と被溶接部65との間に接着剤が介在されることを抑制することができる。これにより、第一フランジ26及び第二フランジ36における溶接箇所の品質(つまり、溶接部64及び被溶接部65における溶接品質)を確保することができる。
【0064】
しかも、治具90を用いると共に、貫通孔80及び長孔82を基準孔として利用することで、第二工程において、第一フランジ24と第二フランジ34、及び、第一フランジ26と第二フランジ36とをそれぞれ容易に位置決めすることができる。
【0065】
また、この第二工程では、突出部74を第一フランジ24の先端部と当接させることによっても、第一フランジ24及び第二フランジ34を位置決めすることができる。同様に、突出部76を第一フランジ26の基端部と当接させることによっても、第一フランジ26及び第二フランジ36を位置決めすることができる。
【0066】
次に、本発明の一実施形態の変形例について説明する。
【0067】
上述の本発明の一実施形態において、突出部74は、図3に示されるように、第一フランジ24の先端部と当接されていたが、第一フランジ24の先端部と近接されていても良い。また、突出部76は、第一フランジ26の基端部と当接されていたが、第一フランジ26の基端部と近接されていても良い。このように構成されていても、第一フランジ24と第二フランジ34、及び、第一フランジ26と第二フランジ36とをそれぞれ位置決めすることができる。
【0068】
また、本発明の一実施形態において、突出部74は、図7に示されるように、断面直角三角形状に形成され、その第二フランジ34と反対側の壁面74Aが上述のZ方向に延びていても良い。同様に、突出部76も、断面直角三角形状に形成され、その第二フランジ36と反対側の壁面76Aが上述のZ方向に延びていても良い。
【0069】
このように構成されていると、上述の第二工程において、第二パネル部材14を第一パネル部材12に対してY方向に沿ってスライド(Y1側にスライド)させた際には、突出部74上に接着剤50が乗り上がることが抑制されるので、突出部74における第二フランジ34と反対側の壁面74Aによって接着剤50をより効果的に削ぎ取ることができる。
【0070】
同様に、接着剤60については、突出部76上に接着剤56が乗り上がることが抑制されるので、突出部76における第二フランジ36と反対側の壁面76Aによってより効果的に削ぎ取ることができる。これにより、第一フランジ24及び第二フランジ34における溶接箇所の品質、及び、第一フランジ26及び第二フランジ36における溶接箇所の品質をそれぞれ向上させることができる。
【0071】
また、本発明の一実施形態において、突出部74は、図8に示されるように、その第二フランジ34側の壁面74Bが上述のZ方向に延びていても良い。同様に、突出部76における第二フランジ36側の壁面76Bも上述のZ方向に延びていても良い。
【0072】
このように構成されていると、上述の第二工程において、突出部74における第二フランジ36側の壁面74Bを、第一フランジ24の先端部と当接又は近接させた場合に、突出部74上を第一フランジ24が乗り上げることを抑制することができるので、第一フランジ24及び第二フランジ34をより効果的に位置決めすることができる。同様に、突出部76における第二フランジ36側の壁面76Bを、第一フランジ26の基端部と当接又は近接させた場合に、突出部76上を第一フランジ26が乗り上げることを抑制することができるので、第一フランジ26及び第二フランジ34をより効果的に位置決めすることができる。
【0073】
なお、この図8に示される変形例において、突出部74は、断面矩形状に形成されており、その第二フランジ34と反対側の壁面74Aも、上述のZ方向に延びている。同様に、突出部76も、断面矩形状に形成されており、その第二フランジ36と反対側の壁面76Aは、上述のZ方向に延びている。このように構成されていると、上述の図7に示される変形例と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0074】
また、図1に示されるように、本発明の一実施形態において、車体部材10は、第一フランジ24及び第二フランジ36と、第一フランジ26及び第二フランジ36とを有していたが、第一フランジ24及び第二フランジ34と、第一フランジ26及び第二フランジ36とのうちいずれかの組み合わせのみを有する構成とされていても良い。
【0075】
また、車体部材10は、閉断面16を構成する骨格部材とされていたが、骨格部材以外の部材とされていても良い。
【0076】
また、溶接部54及び被溶接部55は、スポット溶接により接合されていたが、スポット溶接以外の溶接により接合されていても良い。同様に、溶接部64及び被溶接部65についても、スポット溶接以外の溶接により接合されていても良い。
【0077】
また、接着剤50,60の一部を削ぎ取るために、突出部74,76がビード状とされていたが、突出部74,76は、ビード状でなくても良い。
【0078】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0079】
S 車体部材の接合構造
10 車体部材
12 第一パネル部材
14 第二パネル部材
18,20 側壁部(本体パネル部の一部)
22 連結壁部(本体パネル部における貫通孔が形成された部分)
24,26 第一フランジ
32 対向パネル部
34,36 第二フランジ
44,46 隣接パネル部
44A,46A 隣接パネル部における突出部に対する第二フランジと反対側の部分
50,60 接着剤
50A,60A オーバラップする部分
50B,60B 残余部(残余の部分)
52,62 接着部
53,63 被接着部
54,64 溶接部
55,65 被溶接部
74,76 突出部
74A,76A 突出部における第二フランジと反対側の壁面
74B,76B 突出部における第二フランジ側の壁面
80 貫通孔
82 長孔
84 同軸部
86 延長部
90 治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一パネル部材に形成された本体パネル部の端部から突出すると共に前記本体パネル部の端部に沿って延びる第一フランジと、
前記第一パネル部材と共に車体部材を構成する第二パネル部材に前記第一フランジと対向して形成されると共に、前記第一フランジの接着部と接着された被接着部と、前記第一フランジの延びる方向に前記接着部と並んで形成され前記第一フランジの溶接部と溶接された被溶接部とを有する第二フランジと、
前記第二パネル部材において前記第一フランジの突出する方向に前記第二フランジと並んで形成された隣接パネル部に形成されると共に、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向における前記第一フランジ側に突出し、且つ、前記被溶接部と前記第一フランジの延びる方向にオーバラップする突出部と、
を備えた車体部材の接合構造。
【請求項2】
前記隣接パネル部は、前記第二フランジの先端部と連続して形成され、
前記本体パネル部には、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記第二パネル部材のうち、前記本体パネル部における前記貫通孔が形成された部分と対向する対向パネル部には、前記貫通孔と同軸上に形成された同軸部と、前記同軸部から前記第二フランジ側に延長して形成された延長部とを有する長孔が形成され、
前記貫通孔における前記第一フランジ側の端部から前記第一フランジの基端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL1、
前記貫通孔における前記第一フランジ側の端部から前記第一フランジの先端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さL2、
前記長孔における前記第二フランジ側の端部から前記突出部の頂部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL3、
前記貫通孔における前記第一フランジと反対側の端部から前記第一フランジの先端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL4、
前記長孔における前記第二フランジと反対側の端部から前記突出部における前記第二フランジ側の端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL5、
前記長孔における前記第二フランジと反対側の端部から前記第二フランジの基端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL6とした場合に、
L2>L3>L1、且つ、L5≧L4>L6を満足している、
請求項1に記載の車体部材の接合構造。
【請求項3】
前記隣接パネル部は、前記第二フランジの基端部と連続して形成され、
前記本体パネル部には、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記第二パネル部材のうち、前記本体パネル部における前記貫通孔が形成された部分と対向する対向パネル部には、前記貫通孔と同軸上に形成された同軸部と、前記同軸部から前記第二フランジと反対側に延長して形成された延長部とを有する長孔が形成され、
前記貫通孔における前記第一フランジと反対側の端部から前記第一フランジの基端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL1’、
前記貫通孔における前記第一フランジと反対側の端部から前記第一フランジの先端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さL2’、
前記長孔における前記第二フランジと反対側の端部から前記突出部の頂部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL3’、
前記貫通孔における前記第一フランジ側の端部から前記第一フランジの基端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL4’、
前記長孔における前記第二フランジ側の端部から前記突出部における前記第二フランジ側の端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL5’、
前記長孔における前記第二フランジ側の端部から前記第二フランジの先端部までの前記第一フランジの突出する方向に沿った長さをL6’とした場合に、
L1’<L3’<L2’、且つ、L5’≦L4’<L6’を満足している、
請求項1に記載の車体部材の接合構造。
【請求項4】
前記突出部は、前記第一フランジにおける前記突出部側の端部と当接又は近接されている、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車体部材の接合構造。
【請求項5】
前記突出部における前記第二フランジと反対側の壁面は、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向に延びている、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の車体部材の接合構造。
【請求項6】
前記突出部は、前記第一フランジにおける前記突出部側の端部と当接又は近接され、
前記突出部における前記第二フランジ側の壁面は、前記第一フランジ及び前記第二フランジの対向する方向に延びている、
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の車体部材の接合構造。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の車体部材の接合構造が適用された車体部材の接合方法であって、
前記第一フランジと前記隣接パネル部とを対向させて前記突出部の頂部を前記第一フランジに当接させると共に、前記隣接パネル部における前記突出部に対する前記第二フランジと反対側の部分と前記第一フランジとの間に前記第一フランジの延びる方向の一端側から他端側に亘って接着剤を介在させる第一工程と、
前記第一フランジと前記第二フランジとが対向するように、前記第二パネル部材を前記第一パネル部材に対して前記第一フランジの突出する方向に沿ってスライドさせて、前記接着剤のうち前記被溶接部と前記第一フランジの延びる方向にオーバラップする部分を前記突出部によって削ぎ取った後、前記接着部と前記被接着部とを前記接着剤のうち残余の部分で接着する第二工程と、
前記溶接部と前記被溶接部とを溶接する第三工程と、
を備えた車体部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−52423(P2013−52423A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192900(P2011−192900)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】