説明

車体部材の防錆処理方法

【課題】車体の要防錆箇所に湿り気があっても、耐久性が高い効果的な防錆皮膜を確実に形成できるようにする。
【解決手段】水と反応する湿気硬化型皮膜形成剤を、車体の要防錆箇所に供給し、該要防錆箇所に存する水との反応により防錆皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体部材の防錆処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の耐用年数を延ばすために、或いは車体の外観維持のために、その車体には適宜防錆処理を施すことが望ましい。特に寒冷地では、冬季に路面に散布される凍結防止用の岩塩によって車体の腐食を招き易いことから、その必要性が高い。従来、自動車のディーラーや修理工場では、防錆処理として、防錆ワックスを車体の要防錆箇所(例えば鋼板の合わせ部)に塗布ないしは充填して防錆皮膜を形成することが行われている。
【0003】
また、そのような防錆ワックスでは防錆効果が長続きせず、耐チッピング性も低い点に鑑み、耐チッピング性と防錆性を兼備した防錆塗料の開発も行われている。例えば、特許文献1には、石油スルフォネート、ラノリン脂肪酸、硬化ヒマシ油、リン片状充填材および繊維状充填材を含有してなる防錆塗料が記載されている。この防錆塗料は、電着塗装を施したあるいは施さない車両外板、車両部品表面に50μm〜200μm厚で塗布され、5〜30℃にて1〜2時間乾燥させることにより強化防錆皮膜を形成する。
【特許文献1】特開平11−222565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車の場合、その塗装は、車体の本体部分についてはパネルやフレーム等を組み立てた後に、ドア等の開閉部材についてもインナパネルとアウタパネルとを組み立てた後に行われている。従って、上述の如き防錆性能が高い塗料による塗装であっても、例えば鋼板周縁のヘミング加工された部分の表面側には塗膜が形成されるが、そのヘミング加工による折り返しによってその内側に生ずる隙間は、通常はシーラーで塞がれていて、塗料が行き渡らず、その内側面には塗膜が形成されない。
【0005】
そうして、そのようなヘミング加工やパネル同士の組み付け等によって車体を構成する部材間の合わせ部に生ずる隙間も、シーラーの劣化や、空気抜き孔等によって外部に通じていることがある。そのため、その隙間に水、外気或いは塩分が侵入し、その内側面が発錆することがある。或いは、車体の他の部分であっても、塗膜が損傷して発錆を招くことがある。
【0006】
このような発錆が見つかった場合の事後処理は、上述の防錆ワックスに頼らざるを得ないのが現状である。この防錆ワックスの場合、形成される皮膜の撥水性によって一時的な防錆効果は得られるものの、その皮膜は軟らかいため、洗車時の水圧等によって剥がれ易い。また、防錆ワックスは一般に粘度が高いことから、車体構成部材の合わせ部への浸透性は必ずしも良くない。しかも、車体の要防錆箇所に湿り気がある場合は、防錆ワックスによる皮膜を形成することができない。
【0007】
そこで、本発明は、車体の要防錆箇所に湿り気があっても、耐久性が高い防錆皮膜を確実に形成できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような課題に対して、車体の要望性箇所に存する水分によって防錆皮膜を形成するようにした。
【0009】
請求項1に係る発明は、水と反応する湿気硬化型皮膜形成剤を、車体を構成する部材の要防錆箇所に供給し、該要防錆箇所に存する水との反応により防錆皮膜を形成することを特徴とする車体部材の防錆処理方法である。
【0010】
従って、この防錆処理方法によれば、湿気硬化型皮膜形成剤が水との反応により防錆皮膜を形成するものであるから、車体の要防錆箇所に湿り気があっても、確実に防錆皮膜を形成することができる。もちろん、要防錆箇所の湿り気が少ない場合であっても、該得防錆箇所に存する空気中の水分によって防錆皮膜が形成される。
【0011】
水と反応する湿気硬化型皮膜形成剤としては、水と反応する官能基を有し、水との反応により重合して樹脂皮膜を形成するものが好ましい。例えば、1分子に2個以上のイソシアナト基を有するポリイソシアネート、末端にフリーのイソシアナト基を有するポリウレタン、加水分解可能なシリル基を有するシラン系樹脂等が挙げられる。このような湿気硬化型皮膜形成剤によって形成される樹脂皮膜は、洗車等による外力を受けても剥がれにくく、長期間にわたって防錆効果を発揮することになる。また、水和反応によって皮膜を形成するケイ酸カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、硫酸カルシウム等を湿気硬化型皮膜形成剤として採用することもできる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1において、
上記湿気硬化型皮膜形成剤は、水との反応により重合して防錆皮膜を形成するポリイソシアネートを主成分として含有することを特徴とする。
【0013】
すなわち、1分子にイソシアナト基を2個以上有するポリイソシアネートは、水との反応により重合して撥水性を有する樹脂皮膜を形成する。よって、高い防錆性能が得られる。また、溶剤の添加により、湿気硬化型皮膜形成剤の粘度を低くして、車体構成部材の合わせ部への注入性(浸透性)を高めることができ、防錆皮膜を確実に形成する上で有利になる。
【0014】
上記ポリイソシアネートとしては、イソシアヌレート型イソシアネート、ビウレット型イソシアネートのような、1分子にイソシアナト基を3個以上有するものがさらに好ましい。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2において、
上記湿気硬化型皮膜形成剤は、さらに上記防錆皮膜の硬化を促進する硬化促進剤を含有することを特徴とする。
【0016】
従って、防錆皮膜の硬化を早め、防錆処理に要する時間を短縮することができる。
【0017】
そのような硬化促進剤としては、ポリオールがあり、或いは重合触媒があり、或いは水との反応性が主成分であるポリイソシアネートよりも高い他のイソシアネートを硬化促進剤とすることもできる。
【0018】
ポリオールの場合、そのヒドロキシル基が主成分であるイソシアネートのイソシアナト基と反応し、防錆皮膜の硬化を促進する。また、ポリオールの導入により、得られる防錆皮膜の伸び率が大きくなり、自動車使用時の振動等によって防錆皮膜に割れを生ずることを避ける上で有利になる。但し、ポリオール量は、ポリオールの持つ水酸基(OH基)とイソシアネートの持つNCO基とが100%結合する化学量論比よりも少なくし、イソシアネートの一部は要防錆箇所に存する水との反応により重合するようにする。これにより、要防錆箇所の水を吸収しつつ、防錆皮膜を形成することができる。
【0019】
また、水との反応性が主成分であるポリイソシアネートよりも高いジイソシアネートを硬化促進剤とした場合も、防錆皮膜の伸び率を大きくすることが可能になる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3において、
上記湿気硬化型皮膜形成剤は、さらに吸湿剤を含有することを特徴とする。
【0021】
これにより、車体の要防錆箇所の湿り気が多い場合、或いは湿度が高い環境下で防錆処理を施す場合でも、余分な水分を吸湿剤によって除去し、期する防錆皮膜を形成することができる。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記湿気硬化型皮膜形成剤を、上記車体を構成する部材間の隙間に供給することを特徴とする。
【0023】
すなわち、車体を構成する部材間の隙間は、車体部材組立後の塗装工程による塗料が行き渡らず塗膜が形成され難い部位である。そこで、かかる部位に本発明にかかる防錆処理を施すことによって、車体の効果的な防錆を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、水と反応する湿気硬化型皮膜形成剤を、車体を構成する部材の要防錆箇所に供給し、該要防錆箇所に存する水との反応により防錆皮膜を形成するようにしたから、車体の要防錆箇所に湿り気があっても、確実に防錆皮膜を形成することができ、長期間にわたって防錆効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
図1は本発明に係る車体部材の防錆処理方法を適用する車体部材の要防錆箇所の一例を示す。すなわち、同図において、1は自動車のドアのアウタパネル、2はそのインナパネルである。アウタパネル1の周縁とインナパネル2の周縁との間にはシーラー4が介装されている。アウタパネル1の周縁のインナパネル2及びシーラ−3よりも外側へ出た部分は、インナパネル2の周縁を挟持するように、ヘミング加工により折り返され、その折返し部1aがインナパネル2の表面(車室側の面)に重ねられている。このヘミング加工により、アウタパネル1の周縁の折り返された部分とインナパネル2及びシーラー3の端面との間には、小さな空洞(隙間)4が形成されている。
【0027】
上記ドアは、アウタパネル1とインナパネル2とが組み立てられ、更にサッシが組み付けられた後に防錆塗装が行われている。このため、両パネル1,2各々の外部に露出した面及びドア内部空間に露出した面には塗膜5が形成されているが、上記空洞4の内面、アウタパネル1の折返し部1aとインナパネル2とが重なった部分、並びにシーラー3が介装されている部分には、防錆塗装による塗膜が形成されていない。
【0028】
従って、このドアの場合は、上記塗膜5が形成されていない部分が要防錆箇所となる。そこで、後述する液状の湿気硬化型皮膜形成剤を、スプレーガンにより、アウタパネル1とインナパネル2との間のシーラー3が介装されている部分(隙間)に沿って、図1に矢符で示すようにドア内部空間側から噴霧供給し、上記要防錆箇所に防錆皮膜を形成するものである。この場合、上記皮膜形成剤は、両パネル1,2間のシーラー3が介装されている部分から毛細管現象によって上記空洞4に浸透していき、さらにはアウタパネル1の折返し部1aとインナパネル2とが重なった部分に浸透していき、両パネル1,2のシーラー3が介装されている面、空洞4の内面、ひいてはアウタパネル1の折返し部1aとインナパネル2とが重なった面に防錆皮膜が形成される。
【0029】
<湿気硬化型皮膜形成剤について>
好ましい湿気硬化型皮膜形成剤は、ポリイソシアネートを主成分として含有することである。また、好ましいポリイソシアネートは、1分子にイソシアナト基を3個以上有する化1のイソシアヌレート型イソシアネート(HMDIイソシアヌレート)及び化2のビウレット型イソシアネートである。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
この場合、ポリイソシアネートと水との反応によってポリアミンと炭酸ガスとが生成し、そのポリアミンはさらにポリイソシアネートと反応してポリウレア樹脂の皮膜が得られることになる。
【0033】
湿気硬化型皮膜形成剤の浸透性を高めるために、ポリイソシアネートには有機溶剤を混合する。有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレンなど種々のものを採用することができる。
【0034】
湿気硬化型皮膜形成剤には、防錆皮膜の硬化促進剤として、ポリオール、主成分であるポリイソシアネートよりも反応性が高いジイソシアネート、又は重合触媒を添加することができ、さらに吸湿剤を添加することができる。
【0035】
ポリオールとしては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール等を採用することができ、なかでもアクリルポリオールが好ましい。この場合、ポリイソシアネートの一部はポリオールと反応してポリウレタン樹脂を生成することになる。
【0036】
ジイソシアネートとしては化3のMDIが好ましい。重合触媒としては、DBTL(ジブチル錫ジラウレート)のような有機錫系触媒が好ましい。吸湿剤としては、例えば、PTSI(p-トルエンスルフォニルイソシアネート)を採用すればよい。また、2種以上の硬化促進剤を併用することができ、さらに、硬化促進剤と吸湿剤の双方を添加することができる。
【0037】
【化3】

【0038】
<本発明方法と従来法との比較>
図1に示すヘミング構造のテストピースを作成し、本発明方法を施工した場合と従来の防錆ワックスを施工した場合との防錆効果を評価した。本発明方法では、化1のイソシアヌレート型イソシアネートに酢酸ブチルを混合してなる湿気硬化型皮膜形成剤を採用した。従来法では、市販の防錆ワックス(パーカー興産株式会社製「NOX RUST 712AM」)を採用した。
【0039】
評価テストは、テストピースの要防錆箇所に対して、サイクル腐食試験を10サイクル行った時点で本発明方法及び従来法をそれぞれ施工し、しかる後、そのサイクル腐食試験を続行する、というものである。サイクル腐食試験は、その1サイクルがJISK5600−7−9サイクルAの3サイクルに相当する。また、このサイクル腐食試験の10サイクルは自動車の1年間の使用に相当する。評価テストでは、5サイクル毎に、アウタパネル1の折返し部1aとインナパネル2とが合わさった板合わせ際(図1のA点)からインナパネル2の車室側の面に沿って進む塗膜の膨れ幅(ブリスター)を測定した。
【0040】
テスト結果を防錆施工なしのケースと共に図2に示す。防錆施工なしでは、10サイクル付近から塗膜の膨れが進行していく。従来法である防錆ワックス施工では、施工なしよりも塗膜の膨れの進行が遅れ、20サイクル目から始まっているが、その後は塗膜の膨れが急激に進み、30サイクル以上では施工なしと大差がなくなっている。
【0041】
これに対して、本発明のイソシアネート施工では、30サイクル目からやっと塗膜の膨れが見られ、50サイクル目でもその膨れ幅は3mm程度であって、防錆効果が高いことがわかる。これは、本発明方法の場合、要防錆箇所に湿気があっても、湿気硬化型皮膜形成剤が水との反応により重合して確実に防錆皮膜を形成すること、そして、その防錆皮膜は樹脂皮膜であって防錆効果が高いことによると認められる。
【0042】
<湿気硬化型皮膜形成剤へのポリオールの添加効果>
皮膜硬化促進用ポリオールとして、アクリルポリオール樹脂溶液とポリエステルジオール樹脂溶液とを57:5の質量比で混合しさらに有機溶剤を約20質量%添加したものを採用し、化1のイソシアネートと当該ポリオールとを混合した成分比が相異なる複数種の湿気硬化型皮膜形成剤を調製した。上記有機溶剤としては酢酸ブチルを用いた。ポリオールは、質量平均分子量Mwが4600、水酸基価が170、揮発分濃度NVが47%であり、イソシアネートは、NCO%が16.5%、揮発分濃度NVが75%である。
【0043】
そうして、この成分比が異なる各湿気硬化型皮膜形成剤を脱脂した冷延鋼板(平板)に塗布し、皮膜硬化時間及び防錆性能を調べるとともに、皮膜柔軟性を調べた。硬化時間は皮膜に垂れを生じなくなるまでの時間である。防錆性能は、上述のサイクル腐食試験の15サイクル時点で発錆している面積率を画像解析ソフトにより測定して評価した。皮膜柔軟性は、JISK5400により皮膜の伸び率を測定し(測定条件;23±2℃,50±10%RH,引張速度;5±1mm/min)、ポリオール成分比零のときの伸び率を基準とする伸び率の向上度で評価した。また、上記成分比が異なる各湿気硬化型皮膜形成剤を図1に示す構造のテストピースに施工し、サイクル腐食試験(70サイクル)後の板合わせ際A点からの膨れ幅を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
同表によれば、ポリオール比率が高くなるに従って、硬化時間が短くなり、また、皮膜の伸び率が向上している。但し、成分比「8:2」以上にポリオール比率が高くなっても硬化時間の短縮は見られない。防錆性能に関しては、ポリオール比率が高くなるに従って、発錆面積率は小さくなっているが、板合わせ際からの膨れ幅は、成分比「8:2」以上にポリオール比率が高くなると悪化している(膨れ幅が大きくなっている)。この悪化の原因は、ポリオール比率が高くなると、それだけ要防錆箇所(図1の空洞4等)に存する水と反応するイソシアナト基が少なくなり、防錆皮膜が形成され難くなることにあると考えられる。
【0046】
図3は表1の硬化時間と板合わせ際からの膨れ幅とをグラフにしたものである。防錆施工を速やかに行ない、且つ防錆効果の永続性を確保する観点から、硬化時間は4時間以下であることが好ましく、板合わせ際からの膨れ幅は7mm以下であることが好ましい。同図によれば、イソシアネート:ポリオールの成分比を「8:0.6」〜「8:4」の範囲にすると、当該両要求を満足できることがわかる。
【0047】
<湿気硬化型皮膜形成剤へのMDIの添加効果>
化1のイソシアネートと化3のMDI(皮膜硬化促進剤)とを混合した成分比が相異なる複数種の湿気硬化型皮膜形成剤を調製した。有機溶剤としては酢酸ブチルを用いた。この成分比が異なる各湿気硬化型皮膜形成剤を用いて、皮膜硬化時間、皮膜柔軟性(伸び率の向上)及び防錆性能を調べた。防錆性能は、各湿気硬化型皮膜形成剤を脱脂した冷延鋼板(平板)に塗布し、得られた防錆皮膜の発泡率を画像解析ソフトにより測定して評価した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
同表によれば、MDI比率が高くなるに従って、硬化時間が短くなり、また、皮膜の伸び率が向上している。但し、防錆性能に関しては、MDI比率が高くなるに従って、発泡率が大きくなっている。これは、MDIと水との反応によって発生する炭酸ガス量が多くなるためであり、気泡を含む皮膜となって防錆の面からは不利になる。
【0050】
図4は表2の硬化時間と発泡率とをグラフにしたものである。防錆施工を速やかに行ない、且つ防錆性能を確保する観点から、硬化時間は4時間以下であることが好ましく、発泡率は30%以下であることが好ましい。同図によれば、イソシアネート:MDIの成分比を「4:1」〜「4:2」の範囲にすると、当該両要求を満足できることがわかる。
【0051】
<湿気硬化型皮膜形成剤への触媒DBTLの添加効果>
化1のイソシアネートにDBTL(皮膜硬化促進剤)を添加した成分比が相異なる複数種の湿気硬化型皮膜形成剤を調製した。有機溶剤としては酢酸ブチルを用いた。この成分比が異なる各湿気硬化型皮膜形成剤を用いて、皮膜硬化時間及び皮膜発泡率を測定した。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
同表によれば、DBTL添加量が多くなるに従って、硬化時間が短くなっているが、皮膜の発泡率は大きくなっている。これはDBTLの添加によって炭酸ガス発生量が増大したためである。成分比を「イソシアネート:DBTL=100:5」としたケースでは、防錆皮膜にDBTLのブリードが見られた。
【0054】
図5は表3の硬化時間と発泡率とをグラフにしたものである。防錆施工を速やかに行ない、且つ防錆性能を確保する観点から、硬化時間は4時間以下であることが好ましく、発泡率は30%以下であることが好ましい。同図によれば、イソシアネート:DBTLの成分比を「100:0.4」〜「100:5」の範囲にすると、当該両要求を満足できることがわかる。
【0055】
<湿気硬化型皮膜形成剤への吸湿剤の添加効果>
化1のイソシアネートに吸湿剤としてPTSIを添加した成分比が相異なる複数種の湿気硬化型皮膜形成剤を調製した。有機溶剤としては酢酸ブチルを用いた。この成分比が異なる各湿気硬化型皮膜形成剤を用いて、50℃、95%RH雰囲気で施工したときの皮膜硬化時間、皮膜強度(引張強度)及び皮膜発泡率を測定した。引張強度はJISK5400により測定した。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
同表によれば、硬化時間にはPTSI添加量の影響が出ていないが、引張強度及び発泡率にはその影響が出ている。すなわち、PTSI添加量が多くなるに従って、引張強度が低下している一方、発泡率は小さくなっている。PTSIは1官能性イソシアネートゆえ、水分を除去して炭酸ガスの発生を抑制する(発泡率を低下させる)ものの、皮膜を形成せずに微粒子となってポリイソシアネートによる皮膜内に残留する。そのため、PTSI添加量が多くなると、皮膜の引張強度が低下しているものである。
【0058】
図6は表4の発泡率と引張強度をグラフにしたものである。皮膜強度を確保しつつ防錆性能を確保する観点から、引張強度は10MPa以上であることが好ましく、発泡率は30%以下であることが好ましい。同図によれば、イソシアネート:PTSIの成分比を「80:1」〜「80:3」の範囲にすると、当該両要求を満足できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】車体部材の要防錆箇所の一例を示す断面図である。
【図2】本発明のイソシアルート施工及び従来の防錆ワックス施工各々の防錆効果を、防錆施工なしと比較して示すグラフ図である。
【図3】イソシアネートとポリオールの成分比が皮膜硬化時間及び防錆効果に及ぼす影響を示すグラフ図である。
【図4】イソシアネートとMDIの成分比が皮膜硬化時間及び皮膜発泡率に及ぼす影響を示すグラフ図である。
【図5】イソシアネートとDBTLの成分比が皮膜硬化時間及び皮膜発泡率に及ぼす影響を示すグラフ図である。
【図6】イソシアネートとPTSIの成分比が皮膜発泡率及び引張強度に及ぼす影響を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0060】
1 アウタパネル
2 インナパネル
3 シーラー
4 空洞
5 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と反応する湿気硬化型皮膜形成剤を、車体を構成する部材の要防錆箇所に供給し、該要防錆箇所に存する水との反応により防錆皮膜を形成することを特徴とする車体部材の防錆処理方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記湿気硬化型皮膜形成剤は、水との反応により重合して防錆皮膜を形成するポリイソシアネートを主成分として含有することを特徴とする車体部材の防錆処理方法。
【請求項3】
請求項2において、
上記湿気硬化型皮膜形成剤は、さらに上記防錆皮膜の硬化を促進する硬化促進剤を含有することを特徴とする車体部材の防錆処理方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、
上記湿気硬化型皮膜形成剤は、さらに吸湿剤を含有することを特徴とする車体部材の防錆処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記湿気硬化型皮膜形成剤を、上記車体を構成する部材間の隙間に供給することを特徴とする車体部材の防錆処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−125667(P2009−125667A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303444(P2007−303444)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】