説明

車内情報提供装置および方法

【課題】情報に対するユーザの価値観を反映させて提供する情報を適切に選択する。
【解決手段】車内情報提供装置は、情報が乗員に与える影響度を複数の属性について定義した影響度情報を、提供する情報と関連づけて記憶する情報定義記憶手段と、乗員が前記複数の属性をそれぞれどの程度重要視するかを表す重み係数を記憶する選好性定義記憶手段と、提供すべき候補の情報のうち、前記情報定義記憶手段に記憶された各属性についての情報の影響度と前記選好性定義記憶手段に記憶された各属性についての乗員の重み係数とに基づいて算出される評価値が所定の閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する情報出力判定手段と、前記情報出力判定手段によって選択された情報を乗員に提供する情報出力手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内で情報を提供する技術に関し、特に、乗員の主観に適合した情報を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両内の乗員に対して種々の情報提供を行う装置の開発が行われている。情報の提供は、乗員の嗜好や乗員の置かれている状況などに応じて選択することが好ましい。例えば、乗員にとって興味がないような情報を提供しても役に立たず、また、興味がある情報であっても運転操作が忙しいときに提供しては運転の妨げになってしまう。したがって、情報提供の対象者や提供時の状況などに基づいて、適切な情報を選択して提供することが望まれる。
【0003】
特許文献1は、適切な情報提供を行うために、どのような状況において情報が提供されるべきかを表す状況条件を情報と関連づけて記憶する。状況条件は、5W1Hで表され、情報提供が有効な人の集合(性別・年齢・職業など)(Who)、情報提供が何を行っている人向けか(運転をしている人、Aさんと話している人など)(What)、情報提供が有効な位置(Where)、情報提供が有効な時間(When)、情報提供方法(How)、どのような目的・動機付けで行動している人を情報提供の対象とするか(Why)からなる。そして、情報と関連づけて定められた状況条件と現在の状況とがどの程度一致するかを判定し、一致度が十分大きければその情報を提供すると判断する。このような構成を採用することで、特許文献1によれば現在の状況に適合した情報提供が行われるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/019225号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、5W1Hに依存しない形でのデータ記述が難しく、ユーザの主観(情報に対する価値観)を適切に反映させることは困難である。また、状況依存するパラメータと状況依存しないパラメータを区別して定義できないので、複数のアプリケーションからのデータの共有やデータのメンテナンスが効率的にできないという問題もある。
【0006】
本発明は、ユーザの情報に対する価値観を反映させて提供情報を適切に選択することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の第一の態様は車両内で情報を提供する車内情報提供装置であって、情報が乗員に与える影響度を複数の属性について定義した影響度情報を、提供する情報と関連づけて記憶する情報定義記憶手段と、乗員が前記複数の属性をそれぞれどの程度重要視するかを表す重み係数を記憶する選好性定義記憶手段と、提供すべき候補の情報のうち、前記情報定義記憶手段に記憶された各属性についての情報の影響度と前記選好性定義記憶手段に記憶された各属性についての乗員の重み係数とに基づいて算出される評価値が所定の閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する情報出力判定手段と、前記情報出力判定手段によって選択された情報を乗員に提供する情報出力手段と、を備える。
【0008】
ここで、複数の属性には、情報を受けることによって得られる安心感、情報利用に際して必要な金銭的なコスト、情報利用に際して必要な時間的なコストの少なくともいずれかが含まれることが好ましい。
【0009】
このように、提供すべき情報について複数の属性に関する影響度を定義するとともに、乗員がどの属性をどの程度重要視するかという選好性を定義することで、提供すべき情報が乗員の価値観(主観)とどの程度合致するかを判別できる。したがって、乗員の価値観にあった適切な情報を提供することができる。
【0010】
また、本発明は、車両の内部または外部の情報を取得するセンサと、前記センサから得られる情報に基づいて、車両が置かれている状況が乗員に与える負荷を算出する車両状況判定手段と、を有することも好ましい。そして、現在の車両状況における乗員の負荷は、安全に対してマイナスの影響を与えるとみなして、上記の評価値から、乗員の負荷に安心感に関する重み係数を乗じた値を減じた値を評価値として算出することが好ましい。
【0011】
このような構成により、車両の置かれている状況が乗員に与える負荷、すなわち乗員の安心感に与える影響を考慮に入れて、乗員の主観に適合した情報を提供できる。
【0012】
また本発明において、提供すべき情報を選択する基準は、乗員の主観のみである必要はない。例えば、情報に対して、いつ、どこで、誰に対して提供すべきか等を定義しておき、それがセンサ情報などから得られる現在の状況とどの程度一致するかという点も提供する情報を選択する際に考慮することが好ましい。このような客観的な状況に依存する情報選択は、乗員に提供すべき情報の候補を選択する際の基準として用いることが好ましい。具体的には、情報提供すべき状況と現在の状況とが一致するものを提供する情報の候補として選択した上で、その中から乗員の主観に基づく評価を行って実際に提供する情報を選択することなどが好ましい。
【0013】
このような構成により、車両が置かれている状況を考慮して情報を提供できる。
【0014】
また本発明において、乗員に提供すべき情報の候補は上記とは異なる方法によって求められても良い。例えば、車両外部の通信装置から提供すべき候補となる情報が車両に対して送られても良い。この場合、車内情報提供装置は、このように外部の通信装置から得られる情報の中から、乗員の主観に適合した情報を選択して提供する。このようにしても上記と同様の効果が得られる。
【0015】
また本発明において、上記の評価値は運転者のみを対象として計算しても良いし、運転者を含む複数の乗員を対象として計算しても良い。
【0016】
複数の乗員に対して評価値を計算する場合には、例えば、次のような条件を満たすときに情報を提供すると判断する。すなわち、全員一致で評価値が閾値以上のとき、過半数以上の評価値が閾値以上のとき、各乗員に優先度を定義しておき最も優先度の高い乗員の評価値が閾値以上のとき、各乗員の評価値に優先度に応じた重みを付けて足しあわせてその結果が閾値以上となるとき、などを例としてあげることができる。
【0017】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する車内情報提供装置として捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む車内情報提供方法、およびこの方法を実行するプログラムとして捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ユーザの情報に対する価値観を反映させて、提供する情報を適切に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車内情報提供装置の構成を示す図である。
【図2】車内情報管理部の機能構成を示す図である。
【図3】乗員の選好性モデルを説明する図である。
【図4】情報イベント定義モデルを説明する図である。
【図5】提供情報を選択する処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】情報選択優先度を含む乗員役割モデルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
〈装置構成〉
図1は、本実施形態にかかる車内情報提供装置1の構成を示す。車内情報提供装置1は、車両に搭載され、ドライバーの主観(価値観)に適合した情報を適切に選択して提供する装置である。図1に示すように、車内情報提供装置1は、環境状態認識ECU10、車両状態認識ECU20、ドライバー状態認識ECU30、車内情報管理ECU40および情報提供ECU50を備える。
【0022】
環境情報認識ECU10は、車両が置かれている環境がどのような状態であるかを認識するためのECUであり、GPS11、車載通信機12、前方・側方センサ13およびナビゲーションシステム14など車両外部の情報を取得するためのセンサを有している。GPS(Global Positioning System)11は、GPS衛星からGPS信号を受信して、自
車両の位置を測位する。車載通信装置12は、他の車両との間の車車間通信や、路側機との間の路車間通信を行うための通信装置である。前方・側方センサ13は、ミリ波レーダや超音波ソナーなどであり、自車両周囲の車両・歩行者・店舗・障害物などの物体の位置及び移動速度を検出する。ナビゲーションシステム14は、GPS11から得られる位置情報と、不図示の地図データベースとから、自車両の位置を地図上で表示したり目的地までの経路を案内する。ここでは、車両が置かれている環境を認識するためのセンサを具体例を挙げて説明したが、ここで説明した以外にも車載カメラなどの種々のセンサを用いて環境状態を認識することができる。
【0023】
車両状態認識ECU20は、車両がどのような動作を行っているかを認識するためのECUであり、舵角センサ21,車速センサ22、ウィンカーセンサ23およびライトセンサ24などの車両内部の情報を取得するためのセンサを有している。舵角センサ21は、自車両のステアリング角を検出するセンサである。車速センサ22は、自車両の走行速度を検出するセンサである。ウィンカーセンサ23は、自車両の方向指示器の指示方向を検出するセンサである。ライトセンサ24は、自車両のライトのオン・オフを検出するセンサである。この他にも、ブレーキやギアやワイパーなど、車両の操作状態を検出するための任意のセンサを利用しても良い。
【0024】
ドライバー状態認識ECU30は、ドライバーの状態を検出するためのECUである。ドライバーの状態には、例えば、眠気があるか、脇見運転をしている、興奮している・冷静である、などの状態がある。ドライバー状態認識ECU30は、車内カメラ31を有しており、画像認識により、視線や顔の向き、眼球や顔の動きなどを検出することによって、ドライバーの状態を検出する。なお、カメラ以外にも、車内の音声を取得する集音マイ
ク、ハンドルに設けられた生体センサ、脳波センサなどを用いて、ドライバーの状態を検出しても良い。
【0025】
車内情報管理ECU40は、車両内において乗員に提供する情報を管理し、乗員に対して提供する情報を適切に決定するためのECUである。詳細は後述するが、乗員に提供する可能性のある情報は、車内情報管理ECU40が管理している。また、車内情報管理ECU40は、乗員の情報に対する選好性(好み)を定義した選好性モデル41aと、情報が提供された場合に乗員に与える影響度を定義した情報イベント定義41bを有している。そして、例えば、提供すべき情報の候補のうち、乗員の選好性に合致した情報を選択して提供する。
【0026】
情報提供ECU50は、車内情報管理ECU40からの指令に基づいて、ディスプレイ51による映像や、スピーカー52による音声によって、乗員に対して情報の提供を行う。
【0027】
〈車内情報管理ECU〉
以下、車内情報管理ECU40について詳しく説明する。ECUは、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM、センサ・アクチュエータ等との入出力インタフェースを備える電子制御ユニット(コンピュータ)である。車内情報管理ECU40は、ROMに格納されたプログラムをCPUが実行することで、図2に示すように、データモデル記憶部41、提供情報選択部43、乗員プロファイル記憶部48、出力情報記憶部49などの各機能部として動作する。
【0028】
[出力情報記憶部]
出力情報記憶部49には、出力すべき情報の内容と、出力形態と、どのような状況において情報が提供されるべきかという定義が記憶されている。出力すべき情報の内容は任意であってかまわないが、例えば、店舗案内、セール情報の案内、観光案内、交通情報案内などが含まれる。出力形態は、例えば、ディスプレイ51を用いて映像で出力する、スピーカー52を用いて音声で出力するなどが含まれる。さらに、ディスプレイ51を用いる場合であっても、情報量を抑えた簡潔な表示形態や、情報量を多く含む詳細な表示形態などを区別してもかまわない。情報をどのような状況において提供すべきかは、例えば、情報提供が有効な人の集合(性別・年齢・職業など)(Who)、情報提供が何を行っている人向けか(What)、情報提供が有効な時間(When)、情報提供方法(How)、どのような目的・動機付けで行動している人を情報提供の対象とするか(Why)などの、5W1Hと関連づけて定義することができる。
【0029】
[乗員プロファイル記憶部]
乗員プロファイル記憶部48には、車両に搭乗する人物に関する情報が記憶される。例えば、乗員の、性別・年齢・職業・運転スキル・金銭や時間コストに対する感覚などを含めることができる。乗員プロファイル記憶部48には任意の情報が定義することができるが、本実施形態においては、情報に対する選好性を定義したモデル(後述する選好性モデル41a)のいずれに乗員が該当するかが判別可能なように、運転スキルと金銭・時間コストに対する価値観を含める。
【0030】
[データモデル記憶部]
データモデル記憶部41には、乗員の情報に対する選好性を定義した選好性モデル41aと情報の持つ影響度を定義した情報イベント定義41bがオントロジーとしてモデル化されている。オントロジーは、データ(概念)間の論理的な関係性を記述したものである。なお、選好性モデル41aが選好性定義記憶手段に相当し、情報イベント定義41bが情報定義記憶手段に相当する。
【0031】
・選好性モデル
選好性モデル41aには、どのような属性(特徴・性質)を持つ情報が提供されることを乗員が好むかということが定義される。このような属性の例として、情報が提供されることによって得られる安全や安心感、情報利用に際して必要な金銭コスト、情報利用に際して必要な時間コストなどを挙げることができる。選好性モデル41aには、このような各属性のそれぞれについて、それをどの程度重要視するかを表す重み係数が定義される。
【0032】
なお、本実施形態においては、乗員個別に選好性モデルを定義するのではなく、乗員をいくつかのタイプに分けてその選好性モデルを定義する。ここで言うタイプとは、例えば、「運転初心者であり、情報利用にコストを支払うことを厭わない」、「運転初心者であり、情報利用にコストを支払うことを嫌う」、「運転上級者であり、情報利用にコストを支払うことを厭わない」、「運転上級者であり、情報利用にコストを支払うことを嫌う」などである。もちろん、上記とは異なる分類をしてもかまわない。
【0033】
図3には、オントロジーによって定義した乗員の選好性モデルの例を示す。なお、オントロジーの表記には種々の方法が提案されており、本明細書において提示するものは一例に過ぎない。また、オントロジーは具体的にはXMLやその他のフォーマットによって保持される。図3に示す例では、「運転初級者(金銭・時間払える)」が定義されている。「運転初級者(金銭・時間払える)」は、そのrole属性として「判断」を有することが示されている。また、「判断」のpreference属性として「判断基準:運転初級者(金銭・時間払える)」を有することが示されている。また、「判断基準:運転初級者(金銭・時間払える)」の運転技量属性として「運転技量低い」、運転で重視する属性として「安心・安全」「金銭コスト」「時間コスト」を有することが示される。そして、「安心・安全」については優先度属性として「必須」を有し、その値は「1」であることが示されている。また、「金銭コスト」および「時間コスト」について優先度属性として「優先度中」を有し、その値は「0.55」であることが示されている。なお本実施形態においては、優先度値は「0」から「1」の間の値をとるものとする。この優先度値が属性に対する重み係数に該当する。そして、「安心・安全」に関しては、優先度値が高いほど、情報を受けることで得られる安心・安全が高いような情報を好むことを意味する。「金銭コスト」「時間コスト」については、優先度値が高いほど、情報利用に際して金銭コストや時間コストがかかるような情報を嫌うことを意味する。「運転初級者(金銭・時間払える)」の判断基準は、「安心・安全」は最大限に重要視し、「金銭コスト」「時間コスト」についてはそれほど頓着していないと言える。
【0034】
以上のようなオントロジーによる定義によって、「運転初級者(金銭・時間払える)」のタイプは、提供情報を選択する際の判断基準として、「安心・安全」を必須(優先度値「1」)、「金銭コスト」「時間コスト」については優先度中(優先度値「0.55」)という主観(選好性)を有することが規定される。
【0035】
図3では、1つのタイプについてのみの定義を示したが、選好性モデル41aには種々のタイプについての選好性モデルがオントロジーによって定義されている。
【0036】
・情報イベント定義
情報イベント定義41bには、情報が乗員に与える影響度を複数の属性について定義している(影響度情報)。より詳細には、影響度情報は、情報が乗員に提供された場合または提供された情報にしたがった行動を乗員が取った場合に、乗員に対して与える影響度を複数の属性について定義したものである。ここで、情報イベント定義記憶部41bにおいて定義される属性は、乗員選好性モデル41aにおける属性と少なくとも一部において一致することが好ましく、全てにおいて一致することがより好ましい。
【0037】
図4に、情報が乗員に与える影響度をオントロジーによって定義した情報イベント定義41bの例を示す。ここでは、「購買行動に関する情報」の下位概念として、「セール情報」と「飲食店情報」の2つが定義例が示されている。「セール情報」は属性「ラベル」として「Bargain」、属性「情報が与える安心感」として「0」、属性「情報利用行為に必要な金銭コスト」として「100」、属性「情報利用行為に必要な時間コスト」として「0」が定義されている。飲食店情報についても、これらの属性の属性値が定義されている。ここで、「ラベル」は提供情報がどの情報に分類されるかを示す識別子の役割を果たす。出力情報記憶部49に記憶されている提供すべき情報にこのラベルを含ませることで、情報イベント定義との関連づけができ、提供すべき情報の影響度が抽出可能となる。属性「情報が与える安心感」の属性値は0から100の値をとり、値が大きいほど、情報を得ることで大きな安心感が得られることを意味する。この属性値は、情報が乗員に提供された場合に乗員が受ける影響度に該当する。また、属性「情報利用行為に必要な金銭コスト」および「情報利用行為に必要な時間コスト」の属性値も0から100の値をとり、値が大きいほど情報を利用するために必要な金銭的なコストや時間的なコストが大きいことを意味する。これらの属性値は、情報にしたがった行動を乗員が取った場合に乗員が受ける影響度に該当する。図4には2つのみの情報タイプの例を示したが、実際にはより多くの情報タイプについて上記のような属性が定義される。
【0038】
[提供情報選択部]
提供情報選択部43は、出力情報記憶部49に格納されている種々の情報のうちから、現在の状況および乗員の主観に合致した情報を、提供すべきものとして選択する。提供情報選択部43は、センサ情報取得部44、データ管理部45、評価値算出部46、情報出力判定部47を有する。また、図5に情報提供選択部43が行う処理の流れを示してある。以下では、図5のフローチャートを参照しながら情報選択部43の詳細について説明する。
【0039】
センサ情報取得部44は、環境状態認識ECU10や車両状態認識ECU20やドライバ状態認識ECU30からセンサ情報を取得する(S10)。そして、現在の車両が置かれている状況や乗員が置かれている状況を求める(S12)。
【0040】
データ管理部45は、まず出力情報記憶部49に格納されている情報のうち、現在の状況において提供すべき候補となる情報を選択する(S14)。前述したように、出力情報記憶部49には情報をどのような状況において提供すべきであるかが定義されているので、この定義と現在の状況を比較することで提供すべき情報を選択することができる。
【0041】
また、データ管理部45、乗員プロファイル記憶部48に定義されているドライバーのプロファイルから、ドライバーが該当する選好性モデルを取得する。そして、選好性モデル41aから、ドライバーの情報の各属性に対する重み係数を取得し、評価値算出部46へ出力する。なお、ドライバーのプロファイルを特定するためにはドライバーを個人認証する必要があるが、個人認証は、顔認証や指紋認証などの生体認証、ICカード等による認証など任意の従来の手法を用いて実現することができる。
【0042】
また、データ管理部45は、現在の状況において提供すべき候補として選択された情報について、情報イベント定義41bを参照して、その情報が乗員に提供された場合または提供された情報にしたがった行動を乗員が取った場合の乗員に対する影響度を取得する。データ管理部45は、このようにして取得した影響度を、評価値算出部46へ出力する。
【0043】
評価値算出部46は、データ管理部45から受け取った各属性についてのドライバーの重み係数と、情報が有する影響度に基づいて、各情報がドライバーの主観にどの程度合致
するかを表す評価値を算出する(S16)。
【0044】
評価値の算出方法は、上記の目的を達成できる範囲で任意の方法で行って良いが、一例として以下の式1によって算出することができる。
評価値 = w1×<安心>+(100−w2×<金銭コスト>)+(100−w3×<時間コスト>) ・・(式1)
【0045】
ここで、w1、w2、w3は、ドライバーの各属性に対する嗜好(主観)を表す重み係数であり、w1は安全・安心に対する重み係数、w2は情報利用に必要な金銭コストに対する重み係数、w3は情報利用に必要な時間コストに対する重み係数である。また、<安心>、<金銭コスト>、<時間コスト>はそれぞれ、情報提供によりドライバーに与えられる影響度である。
【0046】
この算出方法によれば、ドライバーの「安全・安心」に対する重み係数が大きいほど、および情報が与える「安全・安心」の影響度が大きいほど、評価値は大きくなる。また、ドライバーの「金銭コスト」や「時間コスト」に対する重み係数が小さいほど、および情報が与える「金銭コスト」や「時間コスト」の影響度が小さいほど、評価値は大きくなる。
【0047】
評価値算出の別の例として、以下の式2によって評価値を算出しても良い。
評価値 = w1×<安心>+(100−w2×<金銭コスト>)+(100−w3×<時間コスト>)−w1×<道路状況> ・・(式2)
ここで、<道路状況>は、現在の状況においてドライバーにかかる負荷を表す。なお、ドライバーに係る負荷は、車両及びドライバーが現在おかれている状況から求めることが可能である。
【0048】
この算出方法によれば、現在の状況におけるドライバーに対する負荷を考慮に入れ、大きな負荷がかかっている場合には、情報提供により運転の安全や安心が損なわれることを考慮に入れることができる。したがって、状況によって変わりうる安全・安心の主観をより適切に反映させて、情報の提供がドライバーの主観に合致するか判断できる。
【0049】
なお、評価値の算出方法はこれ以外の方法によってもかまわない。例えば、情報を提供すべき状況と現在の状況との一致度に基づいて提供すべき情報の候補を抽出することを述べたが、この状況との一致度も評価式に反映させるようにしても良い。このような評価式を用いることで、客観的な状況および主観的な価値観の両方に一致する情報を適切に提供することができる。
【0050】
情報出力判定部47は、評価値算出部46が算出した評価値が所定の閾値(例えば、「100」)以上となる情報を乗員に提供すると判断し(S18:YES−S20)、閾値未満の情報は乗員には提供しないと判断する(S18:NO)。情報出力判定部47は、提供すると判断した情報の提供形態に応じて、ディスプレイ51やスピーカー52などの情報出力部50に対して、選択された情報を提供するように指示する。
【0051】
〈本実施形態の作用・効果〉
本実施形態によれば、5W1H等で判断可能な状況には依存しないような、ドライバーの価値観(主観)に合致した情報を提供することができる。また、情報が与える影響度およびドライバーの価値観(重み係数)を定義ファイルとして制御ロジックと分離して設けているため、情報提供の選択基準を変更する場合に、ロジック自体を変更することなく情報の影響度やドライバーの価値観を変更するだけで済む。
【0052】
また、情報が与える影響度やドライバーの価値観をオントロジーにより定義しているため、可読性およびメンテナンス性が向上する。また、オントロジーを利用することで、乗員の主観を情報提供以外のアプリケーションに利用したり、情報の持つ影響度を情報提供以外のアプリケーションに利用したりという、データの共通利用性が向上する。
【0053】
(第1の実施形態の変形)
上記の説明では、乗員のタイプをいくつかに分類し、タイプ毎に情報に対する選好性を選好性モデル41aとして定義している。そして、乗員プロファイルからドライバーがどのタイプに属するかを判断して、該当する選好性モデルを情報選択の際に利用している。しかしながら、このような方法は必須ではなく、たとえば、乗員の各個人に対して情報に対する選好性を定義してもかまわない。同様に、提供情報もいくつかのタイプに分類し、タイプ毎に影響度を情報イベント定義41bに定義しているが、個別の情報に対して影響度を定義してもかまわない。
【0054】
また、本実施形態では、車内情報管理部において状況にあった情報を提供すべき候補として選択し、その中から乗員の主観にあった情報を選択して提供している。この点について、前段部分についての処理は本発明において必須ではない。すなわち、提供すべき情報の候補は任意の方法で取得されてかまわない。例えば、現在の状況に合致した情報の候補が外部の通信装置(情報配信サーバ)からプッシュ通信などの通信によって送信されてもかまわない。このように外部の通信装置から配信される情報の中から、上記のようにして乗員の主観に合致した情報のみを提供するようにしても良い。
【0055】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、ドライバーのみを対象として提供する情報が主観と合致するかを判定したが、第2の実施形態では、ドライバーを含む複数の乗員を対象として情報の選択を行う。
【0056】
本実施形態における基本的な構成は、第1の実施形態(図1,図2)と同様である。以下、主に異なる点について説明する。
【0057】
本実施形態においては、オントロジーによるデータモデル41の一つとして、自動車乗員の役割と情報選択優先度の概念が定義される。図6に、乗員役割をオントロジーとして定義した例を示す。ここでは、「車運転」の属性として、「運転者」「助手席乗員」「後部座席乗員」が定義され、それぞれについて「情報選択時優先度」が定義されている。ここでは、「情報選択時優先度」は「運転者」が「1」(最優先)、「助手席乗員」が「2」(2番目に優先)、「後部座席乗員」が「3」(3番目に優先)であると定義されている。もちろん優先度の定義はこの順番に限られない。
【0058】
本実施形態においては、車両の乗員がどの役割(運転者、助手席乗員、後部座席乗員)に該当するかを判断するための手段、すなわち、誰がどの座席に座っているかを判断するための手段が設けられる。この手段は任意の従来技術によって達成することができる。例えば、車内カメラを使った顔認識技術を用いれば、各座席に座っている個人を特定することができる。また、各乗員がICカードを保有し座席に設けられた受信機との間で通信(人体通信や近接通信など)を行うことでも、誰がどの座席に座っているかを特定することができる。
【0059】
本実施形態では、評価値算出部46は、提供すべき情報の候補について、各乗員を対象として、乗員の主観にどの程度合致するかを表す評価値を算出する。各乗員についての評価値の算出方法自体は、第1の実施形態と同様の方法による。そして、情報出力判定部47は、全乗員の評価値が閾値を超える場合は、その情報を出力するものとして判定する。
一方、乗員毎に閾値を超えるか超えないか分かれた場合には、情報選択時優先度が最も高い乗員の評価値が閾値を超えるかこないかにしたがって、情報を出力するか否かを判断する。
【0060】
本実施形態によれば、情報選択時優先度を適切に定義しておくことによって、車の乗員全員に対して付加価値のある情報提供を行いつつ、情報選択に際して優先すべき乗員の判断を強く反映させることができる。例えば、ドライバーを最優先にすれば、普段は乗員向けの娯楽情報なども提供しつつ、ドライバーの妨げになる情報については出力が抑制されるので、運転の娯楽性を保ちつつ安全運転を妨げない情報提供が可能となる。
【0061】
(第2の実施形態の変形例)
上記の説明では、情報選択時優先度が最も高い乗員の評価値のみを参照しているが、その他の方法を採用することも考えられる。例えば、情報選択時優先度に基づく重み付けをして全乗員の評価値を平均し、重み付け平均した評価値(重み付け平均値)が閾値以上となる場合に情報を提供すると判断しても良い。このような判断によっても上記と同様の効果を得ることができる。
【0062】
また第2の実施形態では、複数の乗員がいる場合に情報選択時優先度を用いて、情報を提供するか否かを判断しているが、情報選択時優先度を用いずにその他の方法によって判断しても良い。
【0063】
例えば、全ての乗員について評価値が閾値以上となる場合のみ情報を提供し、閾値以上とならない評価値が一つでもあれば情報を提供しないと判断することができる(全員一致)。また、全乗員のうち過半数以上についての評価値が閾値以上となる場合に情報を提供し、損でない場合に情報を提供しないと判断することもできる(多数決)。このような手法によっても複数の乗員の主観を、提供情報の選択に反映させることができる。
【符号の説明】
【0064】
10 環境状態認識ECU
20 車両状態認識ECU
30 ドライバー状態認識ECU
40 車内情報管理ECU
41 データモデル
43 提供情報選択部
44 センサ情報取得部
45 データ管理部
46 評価値算出部
47 情報出力判定部
48 乗員プロファイル
49 出力情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内で情報を提供する車内情報提供装置であって、
情報が乗員に与える影響度を複数の属性について定義した影響度情報を、提供する情報と関連づけて記憶する情報定義記憶手段と、
乗員が前記複数の属性をそれぞれどの程度重要視するかを表す重み係数を記憶する選好性定義記憶手段と、
提供すべき候補の情報のうち、前記情報定義記憶手段に記憶された各属性についての情報の影響度と前記選好性定義記憶手段に記憶された各属性についての乗員の重み係数とに基づいて算出される評価値が所定の閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する情報出力判定手段と、
前記情報出力判定手段によって選択された情報を乗員に提供する情報出力手段と、
を備える車内情報提供装置。
【請求項2】
前記複数の属性は、情報により得られる安心感、情報利用に際して必要な金銭コスト、情報利用に際して必要な時間コストの少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載の車内情報提供装置。
【請求項3】
車両の内部または外部の情報を取得するセンサと、
前記センサから得られる情報に基づいて、車両が置かれている状況が乗員に与える負荷を算出する車両状況判定手段と、
を更に有し、
前記複数の属性は、情報により得られる安心感を含み、
前記情報出力判定手段は、各属性についての情報の影響度と各属性についての乗員の重み係数とに基づいて算出される値から、前記車両状況判定手段が算出した負荷に安心感に関する重み付け係数を乗じた値を減算した値を、前記評価値として算出する、
請求項1または2に記載の車内情報提供装置。
【請求項4】
前記情報出力判定手段は、運転者一人のみを対象として評価値を算出して、提供する情報を選択する、
請求項1から3のいずれかに記載の車内情報提供装置。
【請求項5】
前記情報出力判定手段は、運転者を含む複数人を対象として評価値を算出して、提供する情報を選択する、
請求項1から3のいずれかに記載の車内情報提供装置。
【請求項6】
複数の乗員について、情報選択に関する優先度を定義した情報選択優先度記憶手段を更に有し、
前記情報出力判定手段は、前記優先度が最も高い乗員の評価値が前記閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する、
請求項5に記載の車内情報提供装置。
【請求項7】
前記情報出力判定手段は、複数の乗員について前記評価値を算出し、過半数以上の乗員の評価値が前記閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する、
請求項5に記載の車内情報提供装置。
【請求項8】
前記情報出力判定手段は、複数の乗員について前記評価値を算出し、乗員に応じた重み付けをした平均値が前記閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する、
請求項5に記載の車内情報提供装置。
【請求項9】
前記情報出力判定手段は、複数の乗員について前記評価値を算出し、全ての乗員についての評価値が前記閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する、
請求項5に記載の車内情報提供装置。
【請求項10】
車両内で情報を提供する車内情報提供方法であって、
情報が乗員に与える影響度を複数の属性について定義した影響度情報を、提供する情報と関連づけて記憶する情報定義記憶ステップと、
乗員が前記複数の属性をそれぞれどの程度重要視するかを表す重み係数を記憶する選好性定義記憶ステップと、
乗員に提供すべき候補の情報を取得するステップと、
提供すべき候補の情報のうち、各属性についての情報の影響度と各属性についての乗員の重み係数とに基づいて算出される評価値が所定の閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する情報出力判定ステップと、
前記情報出力判定ステップにおいて選択された情報を乗員に提供する情報出力ステップと、
を含む車内情報提供方法。
【請求項11】
車両内で情報を提供するための車内情報提供プログラムであって、
コンピュータに、
情報が乗員に与える影響度を複数の属性について定義した影響度情報を、提供する情報と関連づけて記憶する情報定義記憶ステップと、
乗員が前記複数の属性をそれぞれどの程度重要視するかを表す重み係数を記憶する選好性定義記憶ステップと、
乗員に提供すべき候補の情報を取得するステップと、
提供すべき候補の情報のうち、各属性についての情報の影響度と各属性についての乗員の重み係数とに基づいて算出される評価値が所定の閾値以上である情報を、乗員に提供するものとして選択する情報出力判定ステップと、
前記情報出力判定ステップにおいて選択された情報を乗員に提供する情報出力ステップと、
を実行させる車内情報提供プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−114603(P2013−114603A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262618(P2011−262618)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ホームページのアドレス https://kaigi.org/jsai/webprogram/2011/pdf/239.pdf http://www.ai−gakkai.or.jp/jsai/conf/2011/proceedings 掲載日 平成23年6月1日
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】