説明

車内非常通報装置

【課題】新規に敷設する必要がなく、低コストで、かつ配線するスペースを必要とせず、映像伝送に必要な伝送周波数帯域の映像信号を十分伝送可能で、音声以外の通信者側の情報を入手可能とし、非常通報に対しより詳細に対応することが可能な車内非常通報装置を提供する。
【解決手段】非常通報ボタンの近傍に、非常通報ボタンを押す人(乗客若しくは乗務員)の顔が映るようカメラを設置する。カメラが撮像した映像は、PLC装置を介して列車の低圧電力線に送信される。乗務員側では、通報者の映像を映し出すための表示モニタを設置し低圧電力線より非常通報ボタンに連動して映像出力オンし、ボタンが押された場所に設置されているネットワーク映像を表示モニタに選択出力するように動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像伝送する車内非常通報装置に関わり、特に列車の非常通報発信用の非常通報装置近傍にネットワークカメラ等のカメラを設置し、PLC(Power Line Communication)方式またはPLT(Power Line Telecommunication)方式等の電力線を通信回線として用いる通信方式を用いて乗務員室に設置された非常通報応答用の非常通報装置の画像表示モニタに通報者(乗客若しくは乗務員)の映像を映し出す車内非常通報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の列車車内における車内非常通報装置は、通報者と車掌間の音声による会話のみで行われている。なお、本書では、以降で、従来の車内非常通報装置を単に非常通報装置と称する。
また、このような音声の車両内伝送には、高周波帯域を必要としないので、2本の一般的な低圧電線系が用いられている。即ち、音声は、映像に比べ情報量が少ないため、低周波(数kHz程度)の周波数帯域で伝送することが可能であり、車両を10両程度連結した列車の場合には、一般的な低圧電線(若しくは、低圧電力線等)で全車両の通信が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−056921号公報
【特許文献2】特開2006−197164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車内非常通報装置(非常通報装置)において、映像を伝送しようとした場合には、従来の鉄道車両(車両を数両〜10両以上連結)に敷設されている低圧電力線では、映像伝送に必要な最低数MHzの周波数帯域の映像信号は、数10m程度で減衰してしまい、全車両から伝送される映像すべてを乗務員室に伝送することは困難である。そこで、特殊な線材(映像伝送に必要な高周波特性を有する同軸ケーブルや光ファイバケーブル)を用いれば、映像信号を伝送することは可能である。しかし、既存車両には通常配線されていない線材であり、新しく敷設するには、コストがかかり、かつ配線するスペースを必要とするといった問題が発生する。
【0005】
特許文献1には、鉄道車両用の非常通報装置が開示され、鉄道車両の客室に設置され、非常通報ボタン、マイク、スピーカ、第1のカメラで構成された非常通報器と、第2のカメラと、非常通報受報器と、表示器から構成されている。そして、非常通報ボタンが通報者によりオンされると、客室および乗務員室間で音声回線を介して双方向に通話可能な状態となると共に、第1のカメラで通報者を、第2のカメラで客室内全体を撮像して取得した映像を、映像用回線を介して表示器に表示することにより、通報者の音声と映像とで、現場に即したきめ細かい非常通報連絡を行うことができるとしている。ただし、特許文献1には、音声映像信号の伝送方法に関する記載はない。
【0006】
特許文献2には、複数の鉄道車両間に映像音声のデータ信号を伝送するシステムであって、各車両に電力を供給する電力線に代表される引き通し線は、各連結部付近に配置された中継器を介して接続されている。引き通し線には、PLCモデムが配設されている。そして、各車両間の音声、カメラ映像などのデータ信号が電力線通信されることにより、高速広帯域通信網を構築することにより、放送・通話、非常通話、案内表示機能を容易に取得できる。ただし、本公知例には、データ伝送の具体例としての非常通話に関する具体例の記載はない。
【0007】
本発明の目的は、上記の問題に鑑み、新規に敷設する必要がなく、低コストで、かつ配線するスペースを必要とせず、映像伝送に必要な伝送周波数帯域の映像信号を十分伝送可能で、音声以外の通信者側の情報を入手可能とし、非常通報に対しより詳細に対応することを可能な車内非常通報装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の車内非常通報装置は、非常通報を第2の非常通報装置に通報する非常通報入力手段を備えた第1の非常通報装置と、前記非常通報入力手段を使用するユーザとその周辺を撮像するカメラと、低圧電力線に接続し該低圧電力線をネットワーク回線として使用して前記カメラが撮像した映像を送信する第1のPLC装置とを、鉄道車両のそれぞれの客車に備えた非常通報発信用の非常通報装置、および、前記非常通報を受信し制御装置に出力する前記第2のPLC装置と、前記カメラが撮像した映像を、前記低圧電力線をネットワーク回線として使用して、前記第1のPLC装置が送信した前記映像を受信し、前記制御装置に出力する第2のPLC装置と、前記非常通報を受信した場合に、受信した非常通報を通報した前記第1の非常通報装置を特定し、前記特定された第1の非常通報装置の前記非常通報入力手段を使用するユーザとその周辺を撮像するカメラからの映像を選択して表示モニタに出力する前記制御装置と、前記映像を表示する前記表示モニタとを、前記乗務員室の車両に備えた非常通報応答用の非常通報装置を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、列車内に設置された車内非常通報装置において、通報者の映像を確認しながら通話することで、音声以外の通信者側の情報を入手し、より詳細な非常通報の情報を伝達することをが可能な車内非常通信方式を確立できる。
その結果、客室(非常通報発信用)の非常通報装置の非常通報ボタンが押された場合には、音声の他に、通報者の顔や非常通報ボタンの周囲の状況が視覚的に乗務員に提供されるので、その場の緊急性や対処方法等を、さらに正確に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の車内非常通報装置の一実施例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の車内非常通報装置は、乗客が乗る客室等の車両に設置される乗客側の装置と、乗務員がいる先頭車両若しくは最後尾車両等の乗務員室の車両に設置される乗務員側の装置とを有する。
乗客側の装置では、通報者の顔の表情や周りの背景の情報を入手するため、非常通報ボタンの近傍にネットワークカメラ等のカメラを、非常通報ボタンを押す人(乗客若しくは乗務員)の顔が映るよう設置する。カメラが撮像した映像は、PLC装置を介して列車の低圧電力線に送信される。
乗務員側の装置では、通報者の映像を映し出すための表示モニタを設置しネットワークが接続されている低圧電力線よりPLC装置および制御装置を介して表示モニタに接続する。制御装置は、非常通報ボタンに連動して映像出力オンし、ボタンが押された場所に設置されているネットワーク映像を表示モニタに選択出力するように動作する。
【0012】
以下に本発明の一実施形態を図面等を用いて説明する。
なお、以下の説明は、本発明の一実施形態を説明するためのものであり、本願発明の範囲を制限するものではない。従って、当業者であればこれらの各要素若しくは全要素をこれと均等なものに置換した実施形態を採用することが可能であり、これらの実施形態も本願発明の範囲に含まれる。
【0013】
図1によって、本発明の車内非常通報装置の一実施例を説明する。図1は、本発明の車内非常通報装置の一実施例の構成を示すブロック図である。
100は列車、1は列車100の1号車、8は列車100の2号車、・・・、12は列車100のN号車である。ここで、Nは2以上の自然数であり、列車100を構成する車両の数である。従って、1号車1は先頭車両であり、N号車12は最後尾の車両である。また、2は表示モニタ、3、11および15はPLC装置、4は制御装置、5は低圧電力線B、6は低圧電力線A、7は非常通報の信号応答用の非常通報装置、9および13は非常通報の信号発信用の非常通報装置、10および14はネットワークカメラ、16はデジタル映像記録装置である。
【0014】
一般的な車両装備として、1号車1の室内(例えば、乗務員室)には、非常通報の信号応答用の非常通報装置7が設置されている。また、2号車8、・・・、およびN号車12には、通報者が乗務員に非常を知らせるボタンとマイクを具備する非常通報の信号発信用の非常通報装置9、・・・、および非常通報装置13が設置されている。なお、破線で示す非常通報装置7、9、・・・、および13、並びにそれらの間の信号線は、非常通報装置に従来から設けられている。
図1では図示していないが、3号車からN−1号車までも、図1と同様の非常通報発信用の非常通報装置を設置した車両が連結されている。
【0015】
低圧電力線A6および低圧電力線B5は、それぞれ、1号車1からN号車12までの各車両に設置されたPLC装置3、11、・・・、15と接続される。また、従来から設けられる非常通報装置7、9、・・・、13とは、それぞれ列車間で敷設されたケーブルで接続されている。
1号車1において、PLC装置3は、制御装置4とLAN(Local Area Network)接続され、制御装置4と表示モニタ2は、同軸ケーブルで接続される。また、制御装置4は、従来から設けられる非常通報応答用の非常通報装置7と接続する。そして、PLC装置3は、全車両間に敷設された既存の低圧電力線A6およびB5に接続される。
2号車8において、PLC装置11は、ネットワーク10とLAN接続される。・・・N号車12において、PLC装置15は、ネットワーク14とLAN接続される。
【0016】
1号車1の室内には、表示モニタ2、PLC装置3、制御装置4、デジタル映像記録装置16、および非常通報応答用の非常通報装置7で構成された非常通報応答用の車内非常通報装置が設置される。
PLC装置(親機)3は、低圧電力線A6および低圧電力線B5を介して、ネットワークカメラ10および14からの映像を受信する。PLC装置(親機)3は、制御装置4に、低圧電力線A6および低圧電力線B5から送信されたネットワークカメラ10および14からの映像を、制御装置4に出力している。ネットワークカメラ10および14は、所定の撮像フレームレートで画角内を撮像し、所定の送信フレームレートでPLC装置11および15を介してPLC装置3に送信している。
PLC装置3は、受信した映像をデジタル映像記録装置16と制御装置4に、カメラを識別可能な情報(例えば、カメラID)等を付加して出力する。なお、カメラの識別は、ネットワークにおけるIP付与に基づいて容易に実現可能である。
デジタル映像記録装置16は、入力された映像を高レート録画で保存している。
制御装置4は、それぞれのネットワークカメラが撮像して送信する映像および非常通報の信号を制御している。
制御装置4は、非常通報応答用の非常通報装置7から出力される通報を受信し、受信した通報がどの車両からの通報かを認識し、その通報に基づいて、表示するネットワーク映像を選択出力する。制御装置4が受信する非常通報装置7から出力される通報は、例えば、どの車両の非常通報発信用の非常通報装置の非常通信装置ボタンが押されたかの情報である。
【0017】
客車である2号車8には、ネットワークカメラ10が非常通報発信用の非常通報装置9の近傍に設置され、非常通報装置9の非常通報ボタンを押した人の顔や周囲を映し出すように画角調整されている。また、N号車12には、ネットワークカメラ14が非常通報発信用の非常通報装置13の近傍に設置され、非常通報装置13の非常通報ボタンを押した人の顔や周囲を映し出すように画角調整されている。2号車8以降N号車12までの間の車両も、2号車8およびN号車12と同様に、ネットワークが非常通報装置の近傍に設置され、当該非常通報装置の非常通報ボタンを押した人の顔や周囲を映し出すように画角調整されている。
【0018】
PLC装置11および15は、全車両間に敷設された既存の低圧電力線A6およびB5にそれぞれ接続され、他のPLC装置(例えば、親機のPLC装置3)と相互に通信可能である。
ネットワークカメラ10は、LANケーブルでPLC装置13に接続され、低圧電力線A6および低圧電力線B5を介して、撮像した映像をPLC装置11に送信する。ネットワークカメラ14は、LANケーブルでPLC装置15に接続され、低圧電力線A6および低圧電力線B5を介して、撮像した映像をPLC装置13に送信する。2号車8以降N号車12までの間の車両も、同様に、当該ネットワークは、LANケーブルでPLC装置11に接続され、低圧電力線A6および低圧電力線B5を介して、撮像した映像をPLC装置13に送信する。
【0019】
客車に設置された非常通報装置のボタンが押された場合の動作を、N号車12の非常通報装置13のボタンが押された場合として、以下に説明する。
上述したように、本発明の図1の車内非常通報装置においては、従来の列車内非常通報システム(破線表示)が既に設置されている。従って、乗務員は、非常通報装置7の受話器にて、2号車乃至N号車の通報者と、当該社内の非常通報装置を介して通話を開始することが可能となる。
【0020】
図1の列車100において、2〜N号車のいずれかの非常通報発信用の非常通報装置の非常通報ボタンが乗客によって押された場合には、非常通報ボタンが押された情報が非常通報応答用の非常通報装置7を介して制御装置4に配信される。
制御装置4は、PLC装置3から入力されるネットワークカメラの映像を選択し表示モニタ2に出力する。即ち、制御装置4は、非常通報装置7を介して配信された非常ボタンが押された情報から、非常ボタンが押された非常通報装置を特定し、当該非常通報装置の近傍に設置されたネットワークカメラの映像を選択する。映像には、既に述べたように、非常ボタンを押した人の顔やその周囲を映し出すように画角調整がなされているため、乗務員は、通話中に、通話相手の乗客若しくは乗務員等のユーザを見ることができる。
また、乗務員は、制御装置4を図示しない操作部で操作し、必要に応じて、デジタル映像記録装置16から、関連する過去(数分前、若しくは数秒前)の映像を読み出し、表示モニタ2に表示させることができる。この結果、現場へのさらに正確な対応が可能となる。
【0021】
図1の実施例におけるPLC装置間の低圧電力線A6若しくはB5の通信には、例えば、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重方式)が用いられる。このOFDM方式の通信により、長い銅線による高周波成分の減衰や、悪い伝送路環境(他機器からのノイズ)に強く、列車内の悪環境に対応可能となる。
また、既に配線されている電力線を用いることが可能なため、既存車両に対しても導入が容易で、新たに高級なLAN配線を敷設する必要も、コストも不要となる。
【0022】
図1の実施例によれば、既存の車両内の壁や床、天井、更には車両間接続ケーブルとして新たに映像伝送専用のケーブルを敷設することなく、既存配線を用いて、N号車の通報者の顔やその周囲の映像情報を1号車の室内で視認することができるため、より正確に非常情報を得ることが可能となる。
PLC装置は、低圧電力線に複数台の接続が可能なので、車両内に既に存在する予備ケーブルを用いて、既存車両への対応が簡易に可能である。予備ケーブルとは、例えば、車両製作時に低圧電力線を余分に配線して、空(未使用)となっている電線である。
また、表示モニタ2は、非常通報時以外は使用されないため、他への流用も可能で、例えば、既存の運行情報表示用モニタがあれば、そのモニタを流用することで、さらにコストパフォーマンスを追及することが可能である。この場合、本来の使用目的を阻害しない方法として、ピクチャ・イン・ピクチャまたはマルチ画面表示するという方法でも良い。
【0023】
図1の実施例では、ネットワークを使用したが、通常のネットワークにWebエンコーダを接続するようにしても良い。
また、1車両に複数台の非常通報発信用の非常通報装置を設置しても良い。また、1台の非常通報発信用の非常通報装置に複数台のネットワークを設置し、通報者の顔やその周囲の映像情報の外に、車両内を撮像するようにしても良い。さらに、1台目の車両に客室がある場合には、当該客室に乗客が非常通報するための非常通報発信用の非常通報装置が設置されていても良いことは勿論である。
【0024】
上記実施例によれば、列車内に設置された車内非常通報装置において、通報者の映像を確認しながら通話することで、より詳細な非常通報のやりとりすることが可能な車内非常通信方式を確立できる。
その結果、客室の非常通報発信用の非常通報装置の非常通報ボタンが押された場合には、音声の他に、通報者の顔や非常通報ボタンの周囲の状況が視覚的に乗務員に提供されるので、その場の緊急性や対処方法等を、さらに正確に判断することができる。
【符号の説明】
【0025】
1:列車1号車、 2:表示モニタ、 3:PLC装置、 4:制御装置、 5:低電圧電力線A、 6:低電圧電力線B、 7:非常通報装置(乗務員室)、 8:列車2号車、 9:非常通報装置、 10:ネットワークカメラ、 11:PLC装置(子機1)、 12:列車N号車、 13:非常通報装置、 14:ネットワークカメラ、 15:PLC装置、 16:デジタル映像記録装置、 100:列車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常通報を第2の非常通報装置に通報する非常通報入力手段を備えた第1の非常通報装置と、前記非常通報入力手段を使用するユーザとその周辺を撮像するカメラと、低圧電力線に接続し該低圧電力線をネットワーク回線として使用して前記カメラが撮像した映像を送信する第1のPLC装置とを、鉄道車両のそれぞれの客車に備えた非常通報発信用の非常通報装置、および、前記非常通報を受信し制御装置に出力する前記第2のPLC装置と、前記カメラが撮像した映像を、前記低圧電力線をネットワーク回線として使用して、前記第1のPLC装置が送信した前記映像を受信し、前記制御装置に出力する第2のPLC装置と、前記非常通報を受信した場合に、受信した非常通報を通報した前記第1の非常通報装置を特定し、前記特定された第1の非常通報装置の前記非常通報入力手段を使用するユーザとその周辺を撮像するカメラからの映像を選択して表示モニタに出力する前記制御装置と、前記映像を表示する前記表示モニタとを、前記乗務員室の車両に備えた非常通報応答用の非常通報装置を有することを特徴とする車内非常通報装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−45189(P2013−45189A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181031(P2011−181031)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】