説明

車室内暖房システム及び車室内暖房方法

【課題】燃料電池を備えた車両において、暖房時の燃費を向上させる。
【解決手段】車室内暖房システムは、水素ガス及び空気を燃料ガスとして用いる燃料電池を有する車両の車室内を暖房する車室内暖房システムであって、水素と酸素とを用いた触媒燃焼により熱を発生させる触媒燃焼装置と、触媒燃焼装置において発生した熱を用いて車室内を暖める暖房部と、燃料電池のカソードと触媒燃焼装置とを接続し、燃料ガスの供給量の調整により燃料電池が低効率運転を行う際に燃料電池のカソードにおいて発生する水素であるポンピング水素を触媒燃焼装置に供給するポンピング水素供給路と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を搭載した車両における車室内の暖房に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を電力原とする車両において、燃料電池から排出される水素ガス(パージ水素ガス)と空気との混合ガスを触媒燃焼させ、燃焼時に生じる熱を用いて冷却水を過熱し、加熱した冷却水によりヒータコアを温めて、車室内の暖房に利用する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−38952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車室内の暖房にパージ水素を用いる技術では、暖房要求があった場合にパージ水素量を増加させねばならず、燃費の悪化を招くという問題があった。
【0005】
本発明は、燃料電池を備えた車両において、暖房時の燃費を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]水素ガス及び空気を燃料ガスとして用いる燃料電池を有する車両の車室内を暖房する車室内暖房システムであって、水素と酸素とを用いた触媒燃焼により熱を発生させる触媒燃焼装置と、前記触媒燃焼装置において発生した熱を用いて前記車室内を暖める暖房部と、前記燃料電池のカソードと前記触媒燃焼装置とを接続し、前記燃料ガスの供給量の調整により前記燃料電池が低効率運転を行う際に前記燃料電池のカソードにおいて発生する水素であるポンピング水素を、前記触媒燃焼装置に供給するポンピング水素供給路と、を備える車室内暖房システム。
【0008】
適用例1の車室内暖房システムでは、低効率運転により燃料電池のカソードにおいて発生するポンピング水素を、触媒燃焼装置における触媒燃焼に用いることができるので、燃料電池用の燃料ガスである水素ガスのみを触媒燃焼用の水素ガスとして用いる構成に比べて、暖房時の燃費を向上させることができる。なお、低効率運転とは、発電効率が最も高い状態での運転に比べて低い効率での運転状態を意味し、例えば、急速暖機の際の運転が該当する。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の車室内暖房システムにおいて、前記暖房部は、前記触媒燃焼装置において発生した熱により、前記車室内の空気を直接温める、車室内暖房システム。
【0010】
このような構成により、触媒燃焼装置において発生した熱により車室内を間接的に暖める(例えば、触媒燃焼装置において発生した熱により冷却媒体を温め、温められた冷却媒体を用いて車室内を暖める)構成に比べて、熱の利用効率を向上させることができる。したがって、車室内の空気を間接的に暖める構成に比べて、車室内を同じだけ暖めるために要する燃料ガスの量を抑えることができ、燃費を向上させることができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の車室内暖房システムにおいて、さらに、前記燃料電池のアノードと前記触媒燃焼素装置とを接続し、前記燃料電池から排出される水素ガスであるパージ水素を前記触媒燃焼装置に供給するパージ水素供給路と、前記触媒燃焼装置において所定の発熱量を得るために用いられる水素ガス量を決定する使用ガス量決定部と、前記ポンピング水素の発生量を推定するポンピング水素量推定部と、前記使用ガス量決定部により決定された水素ガス量と、前記推定されたポンピング水素の発生量と、に基づき、前記触媒燃焼装置に供給する前記パージ水素の供給量を決定するパージ水素量決定部と、前記決定されたパージ水素量となるように、前記パージ水素の前記触媒燃焼装置への供給量を調整するパージ水素供給量調整部と、を備える、車室内暖房システム。
【0012】
このような構成により、低効率運転により発生するポンピング水素の量が、触媒燃焼装置において所定の発熱量を得るために用いられる水素ガス量に満たない場合であっても、不足分の水素ガスを、パージ水素により補うことができるので、触媒燃焼装置に必要な量の水素ガスを供給することができる。したがって、触媒燃焼装置において所定の発熱量を得ることができる。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の車室内暖房システムにおいて、さらに、前記燃料電池のカソードに空気を供給する空気供給路と、前記空気供給路と前記ポンピング水素供給路とを接続し、前記燃料電池を介さずに前記触媒燃焼装置に空気を供給するバイパス空気供給路と、を備える、車室内暖房システム。
【0014】
このような構成により、燃料電池を介さずに触媒燃焼装置に空気を供給することができる。したがって、触媒燃焼装置への空気の供給に伴う燃料電池におけるストイキ比の増加を抑制できるため、低効率運転を実現しつつ、触媒燃焼装置への空気の供給が可能となる。
【0015】
[適用例5]適用例4に記載の車室内暖房システムにおいて、さらに、前記触媒燃焼装置内における水の貯留量を推定する貯水量推定部と、前記推定された水の貯留量が所定量に達した場合に、前記触媒燃焼装置に供給される空気量を増加させる供給空気量調整部と、を備える、車室内暖房システム。
【0016】
このような構成により、触媒燃焼装置内に所定量以上の水が貯留した場合に、触媒燃焼装置に供給される空気の流速を上昇させることができるので、この空気の流れを利用して触媒燃焼装置の触媒表面への水の付着を抑制でき、触媒表面における反応面積の低減を抑制できる。したがって、触媒燃焼装置における燃焼効率の低下を抑制できる。なお、触媒燃焼装置に貯留する水としては、例えば、急速暖機時に、アノード側からカソード側へのプロトンの移動に伴って移動する水(電気浸透水)や、アノード側及びカソード側の水分圧差に起因してカソード側からアノード側に移動する水(逆拡散水)などがある。
【0017】
[適用例6]水素ガス及び空気を燃料ガスとして用いる燃料電池と、水素と酸素とを用いた触媒燃焼により熱を発生させる触媒燃焼装置とを有する車両の車室内を暖房する方法であって、(a)前記燃料電池のカソードと前記触媒燃焼装置とを接続する工程と、(b)前記燃料ガスの供給量の調整により前記燃料電池が低効率運転を行う際に前記燃料電池のカソードにおいて発生する水素であるポンピング水素を、前記触媒燃焼装置に供給する工程と、(c)前記触媒燃焼装置において、前記供給されたポンピング水素と酸素とを用いた触媒燃焼により熱を発生させる工程と、(d)前記工程(c)において発生した熱を用いて前記車室内を暖める工程と、を備える、車室内暖房方法。
【0018】
適用例6の車室内暖房方法では、低効率運転により燃料電池のカソードにおいて発生するポンピング水素を、触媒燃焼装置における触媒燃焼に用いることができるので、燃料電池用の燃料ガスである水素ガスのみを触媒燃焼用の水素ガスとして用いる構成に比べて、暖房時の燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車室内暖房システムを適用した燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】図1に示す燃料電池システムを搭載した電気車両における燃料電池スタック及び水素燃焼ヒータの配置状態を示す説明図である。
【図3】燃料電池システムにおいて実行される暖房制御処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】第2の実施例における燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図5】水素燃焼ヒータ内部の貯留水量と触媒燃焼部における燃焼効率との関係を模式的に示す説明図である。
【図6】第2の実施例における燃焼効率低下抑制処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.第1の実施例:
A1.システム構成:
図1は、本発明の車室内暖房システムを適用した燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。本実施例において、燃料電池システム100は、駆動用電源を供給するためのシステムとして、電気車両に搭載されて用いられる。燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、水素ガス供給路51と、アノードオフガス排出路52と、パージ水素供給路56と、大気連通路57と、空気供給路53と、空気排出路54と、空気バイパス路55と、水素タンク31と、遮断弁42と、水素ガス供給弁43と、エアコンプレッサ32と、バイパス弁44と、エア調圧弁45と、三方弁46と、水素燃焼ヒータ20と、電流センサ15と、制御ユニット60とを備えている。
【0021】
燃料電池スタック10は、固体高分子型燃料電池であるMEA(Membrane Electrode Assembly)を有する単セルが複数積層された構成を有し、アノードガスとしての純水素と、カソードガスとしての空気に含まれる酸素が、各電極において電気化学反応を起こすことによって起電力を得るものである。
【0022】
水素ガス供給路51は、水素タンク31と燃料電池スタック10とを連通し、水素タンク31から供給される水素ガスを燃料電池スタック10に導くための流路である。アノードオフガス排出路52は、燃料電池スタック10と三方弁46とを連通し、燃料電池スタック10のアノードから排出されるアノード側オフガスを、大気中又は水素燃焼ヒータ20へ導くための流路である。アノード側オフガスには、燃料電池スタック10において電気化学反応に用いられなかった余剰水素ガス(パージ水素ガス)が含まれる。パージ水素供給路56は、三方弁46と水素燃焼ヒータ20とを連通し、燃料電池スタック10から排出されるパージ水素ガスを水素燃焼ヒータ20に導くための流路である。大気連通路57は、三方弁46と大気とを連通し、燃料電池スタック10から排出されるパージ水素ガスを大気中に放出させるための流路である。
【0023】
空気供給路53は、エアコンプレッサ32と燃料電池スタック10とを連通し、エアコンプレッサ32から供給される圧縮空気を燃料電池スタック10に導くための流路である。空気排出路54は、燃料電池スタック10と水素燃焼ヒータ20とを連通し、燃料電池スタック10のカソードから排出されるカソード側オフガスと、空気バイパス路55を介して供給される空気とを水素燃焼ヒータ20に供給する。通常運転時には、カソード側オフガスには、燃料電池スタック10において電気化学反応に用いられなかった余剰空気と、燃料電池スタック10における電気化学反応により生じた水とが含まれる。急速暖機時において、カソード側オフガスにはポンピング水素が含まれる。ポンピング水素とは、燃料電池スタック10が低効率運転している際にカソード側において生じる水素を意味する。なお、ポンピング水素の詳細については後述する。
【0024】
空気バイパス路55は、空気供給路53と空気排出路54とを連通させ、エアコンプレッサ32により供給される空気を、燃料電池スタック10を介さずに空気排出路54に供給するための流路である。
【0025】
水素タンク31は、高圧水素ガスを貯蔵している。遮断弁42は、水素タンク31の図示しない水素ガス排出口に配置されており、水素ガスの供給及び停止を行う。水素ガス供給弁43は、水素ガス供給路51に配置されており、弁開度を調整することにより、燃料電池スタック10に供給される水素ガスの圧力および流量を調整する。
【0026】
エアコンプレッサ32は、空気供給路53に配置され、外部から取り込んだ空気を加圧して燃料電池スタック10に供給する。エアコンプレッサ32としては、例えば、インペラが回転して圧縮を行う遠心式のコンプレッサや、動翼(ロータ)が回転して圧縮を行う軸流式のコンプレッサを用いることができる。なお、エアコンプレッサ32の駆動電力は、燃料電池スタック10から供給される。
【0027】
バイパス弁44は、空気バイパス路55に配置され、空気バイパス路55を流通する空気量を調整する。エア調圧弁45は、空気排出路54に配置され、燃料電池スタック10のカソード出口側圧力を調整することにより、カソード側オフガスの流通量を調整する。三方弁46は、アノードオフガス排出路52とパージ水素供給路56とを連通させる状態と、アノードオフガス排出路52と大気連通路57を連通させる状態を切り替える。各弁42,43,44,45,46は、電磁弁である。
【0028】
水素燃焼ヒータ20は、下記式(1)に示す水素と酸素とを用いた触媒燃焼反応により、熱を生じさせる。
【0029】
【数1】

【0030】
水素燃焼ヒータ20は、金属製のケース22と、触媒燃焼部21と、排気路24とを備えている。ケース22は多数の開口が形成された放熱面23を有する。ケース22は、パージ水素供給路56と、空気排出路54と、排気路24とに、それぞれ接続されている。ケース22には、パージ水素供給路56を介してパージ水素が供給され得る。また、ケース22には、空気排出路54を介して余剰空気及びポンピング水素が供給され得る。排気路24は、触媒燃焼で用いられなかった水素ガス及び空気や、触媒燃焼により生じた水や、パージ水素供給路56を介してケース22内部に流入した水を排出する。
【0031】
触媒燃焼部21は、ケース22の内部に配置されている。触媒燃焼部21は、多孔質のベース部材に白金やパラジウムなどの酸化触媒を担持した構成を採用することができる。触媒燃焼部21では、多孔質のベース部材によって空気排出路54から供給される水素(ポンピング水素)及びパージ水素供給路56から供給される水素(パージ水素)がトラップされ、触媒において水素と酸素とを用いた燃焼(触媒燃焼)が起こり、燃焼熱が発生する。この燃焼熱によりケース22内の空気が温められ、温められた空気は放熱面23を介してケース22の外部へと放出される。
【0032】
電流センサ15は、燃料電池スタック10と駆動用モータ200との間の電気回路に接続されており、燃料電池スタック10の出力電流値を測定し、制御ユニット60に通知する。
【0033】
制御ユニット60は、エアコンプレッサ32及び各弁42〜46と電気的に接続されており、これら各要素を制御する。また、制御ユニット60は、電流センサ15において測定された電流値を取得する。
【0034】
制御ユニット60は、CPU(Central Processing Unit)61と、RAM(Random Access Memory)62と、ROM(Read Only Memory)63とを備えている。ROM63には、燃料電池システム100を制御するための図示しない制御プログラムが格納されており、CPU61は、RAM62を利用しながらこの制御プログラムを実行することにより、エアコンプレッサ制御部61a,弁制御部61b,暖房制御部61c,急速暖機制御部61dとして機能する。
【0035】
エアコンプレッサ制御部61aは、エアコンプレッサ32の回転数を制御することにより、供給する空気量を調整する。弁制御部61bは、各弁42〜46の開度を調整する。暖房制御部61cは、後述する暖房制御処理を行う。
【0036】
急速暖機制御部61dは、燃料電池スタック10を、各単セルにおける発電効率が高い状態にある温度範囲(例えば、72℃〜80℃)に達するまで急速に昇温(急速暖機)させる。このようにすることにより、低温環境下(例えば、0℃以下)において電気車両を始動する場合に、短時間のうちに各単セルを発電効率が高い状態にすることができる。急速暖機の方法としては、例えば、通常運転に比して燃料電池スタック10への空気の供給量を絞る(例えば、エアストイキ比を1.0付近に設定する)ことにより、発電効が率最も高い運転状態に比べて低い発電効率で運転させ、発電損失(熱損失)を高めて昇温させる方法を採用することができる。
【0037】
燃料電池スタック10への空気供給量を絞って急速暖機を行う場合、各単セルのカソードでは、下記式2に示す水の生成反応は起こらず、式3に示す水素イオン(プロトン)の還元反応が起こる。
【0038】
【数2】

【0039】
【数3】

【0040】
上記式3に示すように、急速暖機の際に各単セルのカソードでは、プロトンの還元反応により水素が発生する。急速暖機の際に各単セルのカソードにおいて式3に示す化学反応によって発生する水素を、本実施例では「ポンピング水素」と呼ぶ。燃料電池システム100では、後述する暖房制御処理において、ポンピング水素を水素燃焼ヒータ20における触媒燃焼に利用することで、燃費を向上させる。
【0041】
なお、この急速暖機において用いる水素ガス量及び空気量は、予めROM63に記憶されている。急速暖機制御部61dは、燃料電池スタック10に供給される水素ガス及び空気がROM63に記憶されている各量になるように、エアコンプレッサ制御部61aを制御してエアコンプレッサ32の回転数を調整すると共に、弁制御部61bを制御して水素ガス供給弁43の開度を調整する。
【0042】
ROM63には、前述の制御プログラム及び急速暖機における供給水素ガス量及び供給空気量に加えて、回転数マップ63a,必要水素量/酸素量マップ63b,要求発熱量63cが記憶されている。各マップの詳細については後述する。
【0043】
図2は、図1に示す燃料電池システムを搭載した電気車両における燃料電池スタック及び水素燃焼ヒータの配置状態を示す説明図である。電気車両EVは、車室CAと、前部座席111と、後部座席112と、操作パネルSPとを備えている。前部座席111及び後部座席112は、車室CAの内部に配置されている。燃料電池スタック10及び水素燃焼ヒータ20は、車室CAの底面を形成するフロアパネルFPの下方に配置されている。水素燃焼ヒータ20は後部座席112の鉛直下方に位置している。フロアパネルFPのうち、水素燃焼ヒータ20の鉛直上方に相当する領域には、多数の開口が設けられた開口部P1が形成されている。水素燃焼ヒータ20により温められた空気は、開口部P1を介して車室CA内部に供給され、車室CAの内部は、開口部P1を介して供給される空気によって暖められる。操作パネルSPは、運転席前面に配置され、水素燃焼ヒータ20を利用した暖房のオン/オフを切り替える暖房スイッチSWを有する。
【0044】
前述の水素燃焼ヒータ20と、エアコンプレッサ制御部61aと、弁制御部61bと、暖房制御部61cと、エアコンプレッサ32と、空気供給路53と、空気バイパス路55と、バイパス弁44と、空気排出路54と、エア調圧弁45とは、請求項における車室内暖房システムに相当する。また、水素燃焼ヒータ20は請求項における触媒燃焼装置に、開口部P1は請求項における暖房部に、空気排出路54は請求項におけるポンピング水素供給路に、アノードオフガス排出路52と三方弁46とパージ水素供給路56とは請求項におけるパージ水素供給路に、暖房制御部61cは請求項におけるポンピング水素推定部,パージ水素量決定部,貯水量推定部に、暖房制御部61c及び水素ガス供給弁43は請求項におけるパージ水素供給量調整部に、空気バイパス路55は請求項におけるバイパス空気供給路に、暖房制御部61cとエアコンプレッサ制御部61aとエアコンプレッサ32は請求項における供給空気量調整部に、それぞれ相当する。
【0045】
A2.暖房制御処理:
図3は、燃料電池システムにおいて実行される暖房制御処理の手順を示すフローチャートである。電気車両EVが急速暖機中において、乗員が図2に示す暖房スイッチSWをオンすると、燃料電池システム100において暖房制御処理が開始される。
【0046】
図1に示す暖房制御部61cは、ROM63から要求発熱量63cを読み出し、水素燃焼ヒータ20を利用した暖房において要求される発熱量を決定する(ステップS105)。要求発熱量63cは、水素燃焼ヒータ20を利用した暖房により車室CA内の温度をどの程度上昇させるかに応じて予め設定されている規定値である。
【0047】
暖房制御部61cは、ステップS105において決定した要求発熱量に基づき、必要水素量/酸素量マップ63bを参照して、水素燃焼ヒータ20における必要水素量及び必要酸素量を決定する(ステップS110)。必要水素量/酸素量マップ63bは、水素燃焼ヒータ20における発熱量と、かかる発熱量を得るために上記式(1)の反応において要する水素量及び酸素量とを対応付けたマップである。必要水素量/酸素量マップ63bは、水素燃焼ヒータ20に供給する水素量及び酸素量と得られる熱量とを、予め実験(または所定の換算式)により求めて設定される。
【0048】
暖房制御部61cは、ステップS110において決定した必要酸素量に基づき、回転数マップ63aを参照して、エアコンプレッサ32の回転数を決定する(ステップS115)。回転数マップ63aは、エアコンプレッサ32のインペラの回転数とエアコンプレッサ32から供給される空気量とを対応付けたマップであり、予め実験等により求めて設定される。大気中の酸素の割合はおよそ21%であるので、暖房制御部61cは、ステップS110において決定した必要酸素量を0.21で除算することにより、水素燃焼ヒータ20に必要な空気量を算出する。前述のように、燃料電池スタック10の急速暖機に必要な空気量は予めROM63に記憶されているので、暖房制御部61cは、水素燃焼ヒータ20に必要な空気量とROM63から読み出した急速暖機に必要な空気量とを足し合わせて、得られた合計空気量に基づき回転数マップ63aを参照することにより、エアコンプレッサ32の回転数(目標回転数)を決定することができる。なお、急速暖機のために、ステップS115実行時点においてエアコンプレッサ32は既に回転している。したがって、ステップS115で決定されるエアコンプレッサ32の回転数は、燃料電池スタック10に加えて水素燃焼ヒータ20に空気を供給するため、ステップS115実行時点における実際の回転数よりも大きな値となる。
【0049】
暖房制御部61cは、ステップS115で決定した目標回転数でエアコンプレッサ32が動作した場合において、水素燃焼ヒータ20に必要な空気量を空気バイパス路55に流入させるためのバイパス弁44の開度を決定すると共に、急速暖機に必要な空気量を空気供給路53に流入させるためのエア調圧弁45の開度を決定する(ステップS120)。
【0050】
暖房制御部61cは、急速暖機により発生するポンピング水素量を推定する(ステップS125)。上記式(3)に示すように、1molのポンピング水素を発生するのに、電子(e−)が2mol必要となる。そこで、暖房制御部61cは、電流センサ15から通知される電流値I(A)を96500(ファラデー定数)で除算してカソード側への流入電子量(mol/sec)を求め、得られた流入電子量(mol/sec)を1/2倍することにより得られる値を、発生するポンピング水素量(mol/sec)として推定することができる。なお、かかる推定においては、燃料電池スタック10を構成するすべての単セルにおいて上記式(3)に示す反応が生じることを前提としている。
【0051】
暖房制御部61cは、ステップS110において決定した必要水素量が、ステップS125において推定されたポンピング水素量よりも多いか否かを判定する(ステップS130)。必要水素量がポンピング水素量以下である場合には、急速暖機により生じたポンピング水素により、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼により要求発熱量を得ることができる。これに対し、必要水素量がポンピング水素量よりも多い場合には、ポンピング水素だけでは、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼によって要求発熱量を得ることはできない。そこで、この場合、以下に説明するように、パージ水素を、パージ水素供給路56を介して水素燃焼ヒータ20に供給することにより、不足分の水素を補う。
【0052】
前述のステップS130において、必要水素量がポンピング水素量よりも多いと判定した場合、暖房制御部61cは、必要水素量からポンピング水素量を減ずることにより、水素燃焼ヒータ20に供給すべきパージ水素量を決定すると共に、決定したパージ水素量に基づき燃料電池スタック10に供給すべき水素量を決定し、決定した供給水素量に基づき、水素ガス供給弁43の開度を決定する(ステップS135)。暖房制御部61cは、弁制御部61bを介して、三方弁46を調整してアノードオフガス排出路52とパージ水素供給路56とを連通状態にすると共に、バイパス弁44及びエア調圧弁45の開度をステップS120において決定した開度となるように調整し、また、水素ガス供給弁43の開度を、ステップS135において決定した開度となるように調整する(ステップS145)。
【0053】
前述のステップS130において、必要水素量がポンピング水素量以下であると判定した場合、暖房制御部61cは、弁制御部61bを介して、バイパス弁44及びエア調圧弁45の開度をステップS120において決定した開度となるように調整する(ステップS140)。
【0054】
前述のステップS140,S145が実行された後、暖房制御部61cは、エアコンプレッサ制御部61aを介して、エアコンプレッサ32の回転数をステップS115において決定された回転数となるように調整する(ステップS150)。
【0055】
ステップS140,S150を実行することにより、水素燃焼ヒータ20には、バイパス弁44を介して必要酸素量を含む空気が供給され、燃料電池スタック10には、急速暖機に必要な酸素量を含む空気が供給される。また、水素燃焼ヒータ20には、必要水素量に相当するポンピング水素が、空気排出路54を介して燃料電池スタック10より供給される。したがって、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼により、ステップS105において決定された要求発熱量を得ることができる。
【0056】
ステップS145,S150を実行することにより、水素燃焼ヒータ20には、バイパス弁44を介して必要酸素量を含む空気が供給され、燃料電池スタック10には、急速暖機に必要な酸素量を含む空気が供給される。また、水素燃焼ヒータ20には、空気排出路54を介してポンピング水素が供給されると共に、パージ水素供給路56を介してポンピング水素では足りない量の水素(パージ水素)が供給される。したがって、この場合も、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼により、ステップS105において決定された要求発熱量を得ることができる。
【0057】
以上説明したように、燃料電池システム100(車室内暖房システム)では、急速暖機中において暖房要求があった場合に、燃料電池スタック10のカソードから排出されるポンピング水素を水素燃焼ヒータ20における触媒燃焼に用いるので、水素燃焼ヒータ20における触媒燃焼用のすべての水素を水素タンク31から供給する構成に比べて、暖房時の燃費を向上させることができる。加えて、ポンピング水素量が要求発熱量を実現するために必要な水素量に満たない場合には、不足分の水素をパージ水素により補うので、ポンピング水素の発生量が少ない場合であっても、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼によって要求発熱量に相当する熱を発生させることができる。
【0058】
また、水素燃焼ヒータ20において発生した熱により、車室CA内の空気を直接温めるので、車室CA内の空気を間接的に温める(例えば、水素燃焼ヒータ20により冷却媒体を温め、温められた冷却媒体を用いて車室CA内を暖める)構成に比べて、熱の利用効率を向上させることができる。したがって、車室CA内の空気を間接的に温める構成に比べて、車室CA内を同じだけ暖めるために要するパージ水素量やエアコンプレッサ32の回転数を低減できるので、燃費を向上できる。
【0059】
また、エアコンプレッサ32から排出される空気を、バイパス弁44を介して水素燃焼ヒータ20に供給しているので、燃料電池スタック10を経由せずに水素燃焼ヒータ20に空気を供給することができる。したがって、水素燃焼ヒータ20への空気の供給に伴う燃料電池スタック10におけるストイキ比の増加を抑制できるため、急速暖機を実現しつつ、水素燃焼ヒータ20への空気の供給が可能となる。
【0060】
B.第2の実施例:
図4は、第2の実施例における燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。第2の実施例の燃料電池システム100aは、3つの水流計17,18,19が設置されている点と、燃焼効率低下抑制処理を実行する点とにおいて、図1に示す燃料電池システム100と異なり、他の構成は、第1の実施例と同じである。
【0061】
図4に示すように、空気排出路54には、水流計18が配置されている。同様に、パージ水素供給路56には水流計17が、排気路24には水流計19が、それぞれ配置されている。これら3つの水流計17〜19は、いずれも、各流路を流れる水の量を計測し、得られた水量を制御ユニット60に通知する。
【0062】
通常運転時において、水素燃焼ヒータ20には、燃料電池スタック10における電気化学反応によりカソード側で生成される水が空気排出路54を介して流入する。急速暖機時には、水素燃焼ヒータ20には、アノード側からカソード側へプロトンと共に移動する電気浸透水が空気排出路54を介して流入する。また、燃料電池スタック10のアノード側及びカソード側の水分圧差に起因してカソード側からアノード側に移動した水(逆拡散水)が、パージ水素供給路56を介して水素燃焼ヒータ20に流入する。水素燃焼ヒータ20では、余剰ガス(触媒燃焼に用いられなかった空気や水素)と共に、これら流入した水が排気路24から排出される。しかしながら、排気路24から排出される水量Woutが、パージ水素供給路56を介して水素燃焼ヒータ20に流入する水量Wan及び空気排出路54を介して水素燃焼ヒータ20に流入する水量Wcaとの合計量よりも少ない場合には、水素燃焼ヒータ20の内部に次第に水が貯留されていくこととなる。水素燃焼ヒータ20の内部に水が溜まると、図4に示すように、触媒燃焼部21(触媒)表面に水90が付着するために反応面積が低減し、触媒燃焼部21における燃焼効率が低下してしまう。
【0063】
図5は、水素燃焼ヒータ内部の貯留水量と、触媒燃焼部における燃焼効率との関係を模式的に示す説明図である。図5において、横軸は水素燃焼ヒータ20内部の貯留水量Whを示し、縦軸は触媒燃焼部21における燃焼効率を示す。貯留水量Whが増加すると触媒燃焼部21の触媒表面に徐々に水が付着することとなり、触媒燃焼部21の燃焼効率は徐々に低下する。貯留水量Whがしきい値Wthを超えると、触媒燃焼部21の触媒表面の多くに水が付着することなり、燃焼効率が急激に低下する。この場合、水素燃焼ヒータ20では、要求熱量を生じさせることが困難となり、車室CA内を十分に暖めることができない。そこで、第2の実施例の燃料電池システム100aでは、後述の燃焼効率低下抑制処理を実行することにより、触媒燃焼部21における燃焼効率の低下を抑制する。
【0064】
図6は、第2の実施例における燃焼効率低下抑制処理の手順を示すフローチャートである。燃料電池システム100が始動すると、燃焼効率始動処理が開始される。
【0065】
暖房制御部61cは、各水量計17〜19から得られた水量に基づき、水素燃焼ヒータ20内の貯留水量Whが図5に示すしきい値Wthに達したか否かを判定する(ステップS205)。貯留水量Whは、下記式(4)により求める。式(4)において、Whは、水素燃焼ヒータ20内部の貯留水量を示す。また、Wanはパージ水素供給路56を介して水素燃焼ヒータ20に流入する水量を、Wcaは空気排出路54を介して水素燃焼ヒータ20に流入する水量を、Woutは排気路24から排出される水量を、それぞれ示す。なお、しきい値Wthは、予め実験により求めてROM63に記憶されている。
【0066】
【数4】

【0067】
貯留水量Whがしきい値Wthに達しない場合には、ステップS205を繰り返し実行する。一方、貯留水量Whがしきい値Wthに達した場合には、暖房制御部61cは、エアコンプレッサ制御部61aを介して、エアコンプレッサ32の回転数を所定期間だけ上昇させる(ステップS210)。エアコンプレッサ32の回転数を上昇させると、バイパス弁44及び空気排出路54を介して水素燃焼ヒータ20に流入する空気の流速が上昇する。その結果、触媒燃焼部21の触媒表面に付着した水90は、流入する空気により吹き飛ばされるため、触媒燃焼部21の反応面積が増加して燃焼効率の低下が抑制される。なお、ステップS210における所定期間としては、例えば、5秒など、比較的短期間を設定することができる。これは、触媒燃焼部21の触媒表面からの水の除去を実現できると共に、エアコンプレッサ32の回転数増加に伴う燃料電池スタック10及び水素燃焼ヒータ20への供給空気量の大きな変化(増加)を抑制でき、燃料電池スタック10及び水素燃焼ヒータ20における運転条件の大きな変化を抑制するためである。
【0068】
以上の構成を有する第2の実施例の燃料電池システム100a(車室内暖房システム)は、第1の実施例の燃料電池システム100(車室内暖房システム)と同じ効果を有する。加えて、水素燃焼ヒータ20の貯留水量Whがしきい値に達した場合に、所定期間だけエアコンプレッサ32の回転数を上昇させるので、水素燃焼ヒータ20に流入する空気の流速を上昇させることができるため、触媒燃焼部21の触媒表面に付着した水を水素燃焼ヒータ20に流入する空気により吹き飛ばすことができる。その結果、触媒燃焼部21の反応面積の低減を抑制できるので、触媒燃焼部21の燃焼反応の低下を抑制できる。なお、第2の実施例において、暖房制御部61cは、請求項における貯水量推定部に相当する。また、暖房制御部61c,61a及びエアコンプレッサ32は、請求項における供給空気量調整部に相当する。
【0069】
C.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0070】
C1.変形例1:
上記各実施例では、暖房制御処理のポンピング水素量の推定(ステップS125)において、燃料電池スタック10を構成するすべての単セルにおいて上記式(3)に示す反応が生じることを前提としていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、燃料電池スタック10を構成するすべての単セルのうち、所定割合のセルにおいて上記式(3)に示す反応が起こり、残りの他のセルにおいては上記式(2)に示す反応が起こる場合にも、以下のようにしてポンピング水素量を推定することができる。
【0071】
上記式(2),(3)から理解できるように、同じ量のプロトン(H+)がアノードからカソードに移動した場合に、式(2)の反応に要する電子量(mol数)と、式(3)の反応に要する電子量(mol数)とは同じである。したがって、燃料電池スタック10を構成するすべての単セルのうち、式(3)に示す反応が起こる単セルの割合を割合Rとすると、電流センサ15から通知される電流値I(A)に割合Rを乗じた値が、式(3)に示す反応による電流値となる。そこで、電流値I(A)に割合Rを乗じた値を96500(ファラデー定数)で除算して、式(3)に示す反応が起こるカソード側への流入電子量(mol/sec)を求め、得られた流入電子量(mol/sec)を1/2倍することにより得られる値を、発生するポンピング水素量(mol/sec)として推定することができる。なお、割合Rについては、予め実験により求めてROM63に記憶させておくことができる。
【0072】
圧力損失が高い単セルでは、カソードに流入する空気量が少ないため、式(3)に示す反応が起こり易い。各単セルにおける圧力損失にはバラツキがあるため、一般には、急速暖機の際に燃料電池スタック10に供給する空気量として、圧力損失が平均値以上となる単セルにおいて式(3)に示す反応が起こるような量が実験等により定められる。一般には、圧力損失の分布は正規分布であるので、燃料電池スタック10を構成するすべての単セルのうち、およそ半数の単セルにおいて式(3)に示す反応が発生することとなる。そこで、一般には、上記割合Rとして「1/2」が設定され得る。
【0073】
なお、各単セルにおける圧力損失は、燃料電池スタック10における電気化学反応により生じた水により次第に増加する。これは、電気化学反応により生じた水によってカソードにおける空気の拡散が妨げられるからである。そこで、上記割合Rを変数として設定することもできる。例えば、燃料電池システム100を起動してからの期間(起動期間)と割合Rとの関係を予め実験により求めて、起動期間と割合Rとを対応付けたマップをROM63に格納しておく。なお、起動期間が長いほどカソードにおける生成水の量は増加して圧力損失は増加するので、割合Rは大きくなる。そして、暖房制御部61cは、ポンピング水素量を推定する際に、起動期間を求め、得られた起動期間に基づきマップを参照して割合Rを取得することもできる。なお、起動期間に代えて、電流積算値と割合Rとを対応付けたマップを用いることもできる。
【0074】
C2.変形例2:
上記各実施例の暖房制御処理では、ポンピング水素では不足する水素量を補うために供給される水素は、燃料電池スタック10から排出されるパージ水素であったが、本発明はこれに限定されるものではない。燃料電池スタック10への供給系とは別に、水素燃焼ヒータ20に対して水素タンク31から水素を直接供給する供給系を設け、かかる供給系を介して不足分の水素を供給することもできる。かかる構成においても、ポンピング水素量が、要求発熱量を実現するために必要な水素量に満たない場合であっても、水素タンク31から水素を供給できるので、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼によって要求発熱量に相当する熱を発生させることができる。
【0075】
また、各実施例の暖房制御処理において、必要水素量が推定されたポンピング水素量よりも多い場合であっても、不足分の水素を、水素タンク31から供給しない構成とすることもできる。この場合、要求発熱量を実現することはできないが、ポンピング水素を利用して水素燃焼ヒータ20における触媒燃焼を実現できるので、車室CA内を暖めることができる。また、かかる構成では、水素燃焼ヒータ20への水素供給系(三方弁46及びパージ水素供給路56)を省略できるので、燃料電池システム100(車室内暖房システム)の製造コストを抑えることができると共に、暖房制御処理において水素タンク31の水素を用いないので、燃費の悪化を抑制できる。
【0076】
C3.変形例3:
各実施例では、水素燃焼ヒータ20への空気の供給は、空気バイパス路55を介して行われていたが、バイパス弁44を介さずに行うこともできる。具体的には、空気バイパス路55及びバイパス弁44を省略して、水素燃焼ヒータ20における必要酸素量を含む空気を燃料電池スタック10に供給して、かかる空気を、燃料電池スタック10のオフガスとして空気排出路54を介して水素燃焼ヒータ20に供給することもできる。このような構成により、空気バイパス路55及びバイパス弁44を省略できるので、燃料電池システム100(車室内暖房システム)の製造コストを抑えることができる。
【0077】
C4.変形例4:
各実施例では、水素燃焼ヒータ20は、フロアパネルFPの下方であって、後部座席112の鉛直下方に配置されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、前部座席111の鉛直下方や、操作パネルSPよりも前方のエンジン(モータ)ルーム内や、前部座席111又は後部座席112の内部(座席シート内部)など、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼により得られた熱を用いて車室CA内の空気を加熱可能な任意の場所に配置することができる。
【0078】
また、各実施例では、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼により得られた熱を、車室CA内の空気を直接温めることにより、車室CA内の暖房を実現していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ヒータコアを有し車室CA内を暖めるヒータを、水素燃焼ヒータ20とは別に設け、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼により得られた熱を利用して、ヒータコアに供給する冷却媒体を加熱する構成とすることもできる。この構成では、加熱された冷却媒体によりヒータコアを温めることができるので、水素燃焼ヒータ20とは別に設けたヒータにより車室CA内部を暖めることができる。なお、この構成では、冷却媒体と、冷却媒体をヒータコアまで流通させる流通路と、ヒータコアを有するヒータとが、請求項における暖房部に相当する。すなわち、一般には、触媒燃焼装置において発生した熱を用いて車室内を暖める任意の暖房部を、本発明の車室内暖房システムに採用することができる。
【0079】
C5.変形例5:
各実施例では、暖房制御処理のステップS105において参照される要求発熱量63cは、固定値であったが、これに代えて、車室CA内を所定温度にするために必要な発熱量として異なる値が設定され得る構成とすることもできる。暖房制御開始時における、車室CA内部の温度,外気温度,換気率(室内気と室外気との利用率),日射量,窓からの放熱量等のパラメータによって、車室CA内を所定温度にするために必要な発熱量は異なる。そこで、これらのパラメータと車室CA内を所定温度にするための必要発熱量とを対応付けたマップを、予めROM63に記憶させておき、ステップS105では、これらパラメータを取得すると共に、得られたパラメータに基づきマップを参照して要求発熱量を決定することができる。
【0080】
C6.変形例6:
各実施例では、水素燃焼ヒータ20に供給するパージ水素量の調整を、水素ガス供給弁43の開度を調整することにより実現していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、パージ水素供給路56に開状態又は閉状態のいずれかの状態となり得る弁(仮に、パージ弁と呼ぶ)を配置し、このパージ弁のデューティ比(開状態の期間の比率)を調整することにより、パージ水素量を調整することができる。また、上記パージ弁として任意の開度に調整可能な弁を採用し、かかるパージ弁の開度を調整することにより、パージ水素量を調整することもできる。
【0081】
C7.変形例7:
上記第2の実施例では、燃料効率低下抑制処理において、貯留水量Whがしきい値Wthに達した場合に、エアコンプレッサ32の回転数を増加させていたが、これに代えて、燃料電池システム100の始動後において、定期的にエアコンプレッサ32の回転数を増加させる構成とすることもできる。かかる構成では、定期的に水素燃焼ヒータ20に供給する空気の流速を上昇させることができるので、水素燃焼ヒータ20への水の付着を予防できる。したがって、この構成においても、触媒燃焼部21における燃焼効率の低下を抑制することができる。なお、かかる構成では、燃料電池スタック10が停止状態においても実行することができる。すなわち、燃料電池スタック10が停止状態であっても、バイパス弁44を開き、エアコンプレッサ32を高回転運転することにより、水素燃焼ヒータ20に流速が高い空気を供給することができる。
【0082】
C8.変形例8:
各実施例では、燃料電池システム100(車室内暖房システム)は、電気車両に搭載されて用いられていたが、これに代えて、ハイブリッド自動車,船舶,ロボットなどの各種移動体に適用することもできる。また、燃料電池スタック10を定置型電源として用い、燃料電池システム100(車室内暖房システム)をビルや一般住宅等の建物における暖房システムに適用することもできる。
【0083】
C9.変形例9:
各実施例では、水素燃焼ヒータ20の触媒燃焼に用いるポンピング水素は、急速暖機を目的とした燃料電池スタック10における低効率運転により発生する水素であったが、急速暖機に限らず、任意の目的により燃料電池スタック10が低効率運転する際に発生するポンピング水素を用いることができる。
【0084】
C10.変形例10:
上記実施例において、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。また、これとは逆に、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…燃料電池スタック、15…電流センサ、17,18,19…水量計、20…水素燃焼ヒータ、21…触媒燃焼部、22…ケース、23…放熱面、24…排気路、31…水素タンク、32…エアコンプレッサ、42…遮断弁、43…水素ガス供給弁、44…バイパス弁、45…エア調圧弁、46…三方弁、51…水素ガス供給路、52…アノードオフガス排出路、53…空気供給路、54…空気排出路、55…空気バイパス路、56…パージ水素供給路、57…大気連通路、60…制御ユニット、61…CPU、61a…エアコンプレッサ制御部、61b…弁制御部、61c…暖房制御部、61d…急速暖機制御部、62…RAM、63…ROM、63a…回転数マップ、63b…必要水素量/酸素量マップ、63c…要求発熱量、90…水、100,100a…燃料電池システム、111…前部座席、112…後部座席、200…駆動用モータ、P1…開口部、CA…車室、SP…操作パネル、FP…フロアパネル、EV…電気車両、SW…暖房スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス及び空気を燃料ガスとして用いる燃料電池を有する車両の車室内を暖房する車室内暖房システムであって、
水素と酸素とを用いた触媒燃焼により熱を発生させる触媒燃焼装置と、
前記触媒燃焼装置において発生した熱を用いて前記車室内を暖める暖房部と、
前記燃料電池のカソードと前記触媒燃焼装置とを接続し、前記燃料ガスの供給量の調整により前記燃料電池が低効率運転を行う際に前記燃料電池のカソードにおいて発生する水素であるポンピング水素を、前記触媒燃焼装置に供給するポンピング水素供給路と、
を備える車室内暖房システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車室内暖房システムにおいて、
前記暖房部は、前記触媒燃焼装置において発生した熱により、前記車室内の空気を直接温める、車室内暖房システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車室内暖房システムにおいて、さらに、
前記燃料電池のアノードと前記触媒燃焼素装置とを接続し、前記燃料電池から排出される水素ガスであるパージ水素を前記触媒燃焼装置に供給するパージ水素供給路と、
前記触媒燃焼装置において所定の発熱量を得るために用いられる水素ガス量を決定する使用ガス量決定部と、
前記ポンピング水素の発生量を推定するポンピング水素量推定部と、
前記使用ガス量決定部により決定された水素ガス量と、前記推定されたポンピング水素の発生量と、に基づき、前記触媒燃焼装置に供給する前記パージ水素の供給量を決定するパージ水素量決定部と、
前記決定されたパージ水素量となるように、前記パージ水素の前記触媒燃焼装置への供給量を調整するパージ水素供給量調整部と、
を備える、車室内暖房システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車室内暖房システムにおいて、さらに、
前記燃料電池のカソードに空気を供給する空気供給路と、
前記空気供給路と前記ポンピング水素供給路とを接続し、前記燃料電池を介さずに前記触媒燃焼装置に空気を供給するバイパス空気供給路と、
を備える、車室内暖房システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車室内暖房システムにおいて、さらに、
前記触媒燃焼装置内における水の貯留量を推定する貯水量推定部と、
前記推定された水の貯留量が所定量に達した場合に、前記触媒燃焼装置に供給される空気量を増加させる供給空気量調整部と、
を備える、車室内暖房システム。
【請求項6】
水素ガス及び空気を燃料ガスとして用いる燃料電池と、水素と酸素とを用いた触媒燃焼により熱を発生させる触媒燃焼装置とを有する車両の車室内を暖房する方法であって、
(a)前記燃料電池のカソードと前記触媒燃焼装置とを接続する工程と、
(b)前記燃料ガスの供給量の調整により前記燃料電池が低効率運転を行う際に前記燃料電池のカソードにおいて発生する水素であるポンピング水素を、前記触媒燃焼装置に供給する工程と、
(c)前記触媒燃焼装置において、前記供給されたポンピング水素と酸素とを用いた触媒燃焼により熱を発生させる工程と、
(d)前記工程(c)において発生した熱を用いて前記車室内を暖める工程と、
を備える、車室内暖房方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−162076(P2011−162076A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27469(P2010−27469)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】