説明

車室内用エレクトレットフィルター及びその製造方法

【課題】車室内に供給される空気が清浄化されるとともに、臭気も低減され、車室内を快適な雰囲気にすることができる車室内用エレクトレットフィルターを提供する。
【解決手段】メルトフローレートが1000〜3000g/10分であり、差動走査熱量分析において10℃/分の速度で昇温させた場合に、80〜120℃の温度範囲における発熱量が2.0〜10.0J/gであるポリオレフィン樹脂(アイソタクチックポリプロピレンが好ましい。)を含有する不織布を備える車室内用エレクトレットフィルター、及びメルトブロー法によって前記の不織布を製造する不織布製造工程と、この不織布をコロナ放電によって帯電させる帯電工程と、を備える車室内用エレクトレットフィルターの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内用エレクトレットフィルター及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、エアフィルターの通常の機能である濾過機能に加え、集塵機能を併せて備え、エアコンから車室内に供給される空気等の流路などに配設することにより、車室内の空気が清浄化されるとともに、車室内が快適な雰囲気となり、居住性を高めることができる車室内用エレクトレットフィルター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に乗用車、バス等の殆ど全ての自動車にエアコンが搭載されており、夏期、冬期、降雨時等にかかわらず、車室内の温度、湿度ともにコントロールされているが、車室内をより快適な雰囲気とし、より居住性を高めるためには、車室内の空気及び車室外から車室内に取り入れられる空気に含まれる微粒子等を除去する必要がある。そこで、エアコンからの暖気、冷気等の空気の供給流路には、フィルターが配設されているが、濾過機能のみでは、微細な粒子を十分に除去することができないことがある。そのため、フィルターをエレクトレット化し、静電気による吸着によって微粒子を除去する集塵機能を併せて有するエレクトレットフィルターが開発され、実装が試みられている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−225229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献1には、着色されたポリオレフィン系不織布からなる支持体層と、ポリオレフィン系エレクトレット化不織布からなる濾過層とを積層一体化してなるエアフィルター材が記載されている。また、このエアフィルター材を、車室内用等の空気清浄器などの、特に外観が重視される用途に用いること等が説明されている。しかし、エレクトレット化不織布に用いるポリオレフィンについては、ポリプロピレンという記載はあるものの、メルトフローレート等の樹脂の詳細は全く記載されていない。
【0005】
本発明は、前記の従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、エアフィルターの通常の機能である濾過機能に加え、集塵機能を併せて備え、エアコンから車室内に供給される空気等の流路などに配設することにより、車室内の空気が清浄化されるとともに、車室内が快適な雰囲気となり、居住性を高めることができる車室内用エレクトレットフィルター(以下、「エレクトレットフィルター」ということもある。)及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
自動車は寒冷地から酷暑地までの幅広い地域で用いられるため、車室内は、例えば、−30℃程度の低温になることもあり、80℃程度の高温になることもある。そのため、車室内用エレクトレットフィルターは、このような幅広い温度範囲で十分な除塵、集塵の性能が維持されることが必要とされる。しかし、現在のところ、特に80℃という高温下に、長時間使用したときの熱負荷による性能低下を防ぐための材料については明らかにされていない。そこで、エレクトレットフィルターの主材であるポリオレフィン樹脂について熱的性質の面で検討したところ、高温下の熱負荷による性能低下を抑えるためには、結晶と非晶の中間相(スメクチック構造)の生成が、有効であることが見出された。より具体的には、中間相がα相に相転移するときの発熱量(中間相転移発熱量)が多いと、性能低下が十分に抑えられることが見出された。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0007】
本発明は以下のとおりである。
1.車室内用エレクトレットフィルターであって、
メルトフローレートが1000〜3000g/10分であり、差動走査熱量分析において10℃/分の速度で昇温させた場合に、80〜120℃の温度範囲における発熱量が2.0〜10.0J/gであるポリオレフィン樹脂を含有する不織布を備えることを特徴とする車室内用エレクトレットフィルター。
2.前記不織布を形成する繊維の径が0.3〜150μmである前記1.に記載の車室内用エレクトレットフィルター。
3.車室内用エレクトレットフィルターの製造方法であって、
メルトフローレートが1000〜3000g/10分であり、差動走査熱量分析において10℃/分の速度で昇温させた場合に、80〜120℃の温度範囲における発熱量が2.0〜10.0J/gであるポリオレフィン樹脂を含有する不織布をメルトブロー法によって製造する不織布製造工程と、前記不織布をコロナ放電によって帯電させる帯電工程と、を備えることを特徴とする車室内用エレクトレットフィルターの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車室内用エレクトレットフィルターでは、多くの中間相を有し、差動走査熱量計(DSC)を用いた測定において80〜120℃の温度範囲で中間相転移発熱量が多いポリオレフィン樹脂を含有する不織布を備えるため、80℃程度にまで昇温することがある車室内でも、且つ長時間用いたときでも、除塵、集塵の性能低下が抑えられ、車室内の空気が清浄化されるとともに、車室内が快適な雰囲気に維持される。
また、不織布を形成する繊維の径が0.3〜150μmである場合は、より容易に、且つ十分に中間相が形成され、車室内の空気が清浄化されるとともに、車室内を特に快適な雰囲気にすることができる。
本発明の車室内用エレクトレットフィルターの製造方法によれば、不織布の製造に用いるポリオレフィン樹脂のMFRが極めて高く、メルトブロー法によって所要の中間相転移発熱量を有する不織布を作製することができ、この不織布を帯電させることにより、十分にエレクトレット化された車室内用エレクトレットフィルターを容易に製造することができる。また、樹脂のMFRが高いためメルトブロー時の紡糸が容易であり、不織布の生産性を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】集塵効率測定用装置を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
[1]車室内用エレクトレットフィルター
本実施形態に係る車室内用エレクトレットフィルターは、メルトフローレート(以下、「MFR」と略記する。)が1000〜3000g/10分であり、差動走査熱量分析において10℃/分の速度で昇温させた場合に、80〜120℃の温度範囲における発熱量が2.0〜10.0J/gであるポリオレフィン樹脂を含有する不織布を備える。
このエレクトレットフィルターが使用される車室内の温度は特に限定されず、極低温(例えば、−30℃)から高温までの温度範囲で用いることができる。本発明のエレクトレットフィルターは、80℃という高温でも用いることができる。
【0012】
不織布に含有される前記「ポリオレフィン樹脂」は、MFRが1000〜3000g/10分であり、このMFRは、1000〜2000g/10分、特に1000〜1800g/10分、更に1200〜1500g/10分であることが好ましい。このようにMFRが大きい場合、容易に中間相転移発熱量が多いポリオレフィン樹脂とすることができ、80℃にまで昇温することがある車室内でも、且つ長時間用いたときでも、除塵、集塵の性能低下が十分に抑えられるエレクトレットフィルターとすることができる。
尚、MFRはJIS K 7210により測定した値である。また、測定時の温度と荷重は、ポリオレフィン樹脂がポリエチレン樹脂である場合は、温度190℃、荷重21.18Nであり、ポリオレフィン樹脂がポリプロピレン樹脂である場合は、温度230℃、荷重21.18Nである。
【0013】
更に、DSCを用いて、10℃/分の速度で昇温させて分析した場合の、80〜120℃の温度範囲におけるポリオレフィン樹脂の発熱量は、2.0〜10.0J/gである。この発熱量は、2.5〜10.0J/g、特に3.0〜10.0J/g、更に3.5〜10.0J/gであることが好ましく、4.0〜10.0J/gであることがより好ましい。この発熱は、中間相のα相への相転移にともなうものであり、この中間相転移発熱量が多いことにより、80℃にまで昇温することがある車室内でも、且つ長時間用いたときでも、除塵、集塵の性能低下が十分に抑えられるエレクトレットフィルターとすることができる。
【0014】
差動走査熱量分析は、各種のDSCを用いて行うことができ、例えば、島津製作所製、型式「DSC−60」を用いることができる。前記の中間相転移発熱量は、このDSCを使用し、試料重量を5mg、加熱開始温度を40℃とし、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温させて測定される値である。また、中間相転移発熱量は、前記の条件で分析することにより、DSCに付設されたデータ解析装置により自動的に算出される。
【0015】
ポリオレフィン樹脂は特に限定されず、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体等のポリプロピレン系樹脂、高圧法低密度ポリエチレン、中低圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂などが挙げられる。このポリオレフィン樹脂としては、軽量であり、且つ強度及び剛性等が高いポリプロピレン系樹脂及び高密度ポリエチレンが好ましく、ポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
【0016】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、前記のように、プロピレン単独重合体でもよく、プロピレンと、プロピレンを除く他のα−オレフィンとの共重合体でもよいが、プロピレン単独重合体、特にアイソタクチックプロピレン単独重合体が好ましい。共重合体である場合、プロピレンを除く他のα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン等が挙げられ、エチレンが用いられることが多い。更に、共重合体では、用いる単量体の全量を100モル%とした場合に、80モル%以上、特に90モル%以上がプロピレンであることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の前記のMFR及び中間相転移発熱量を除く他の物性は特に限定されない。
【0017】
前記「不織布」は、エレクトレットフィルターの除塵、集塵層として機能する。この除塵、集塵層は、通常、帯状の不織布が長さ方向に折り畳まれて形成され、ひだ部を有し、除塵、集塵される微粒子等を、より広い面積で濾過し、吸着することができる構造となっている。また、この除塵、集塵層は、不織布等を用いてなる支持体層に取り付けられ、除塵、集塵層と支持体層とが一体となってエレクトレットフィルターが形成される。
【0018】
不織布を構成するポリオレフィン樹脂を用いてなる繊維の径は特に限定されないが、0.3〜150μm、特に1〜100μm、更に1〜50μmであることが好ましい。この繊維径は、特にメルトブロー法により不織布を形成する場合は、より小さくすることができ、例えば、0.3〜3μm、特に0.5〜3μm、更に1〜3μmとすることもできる。径の小さい繊維は、紡糸時、より急冷されるため、中間相が生成し易く、中間相転移発熱量がより多くなる。そのため、80℃にまで昇温することがある車室内でも、且つ長時間用いたときでも、除塵、集塵の性能低下が十分に抑えられるエレクトレットフィルターとすることができる。
【0019】
[2]車室内用エレクトレットフィルターの製造方法
本実施形態の車室内用エレクトレットフィルターの製造方法は、MFRが1000〜3000g/10分であり、差動走査熱量分析において10℃/分の速度で昇温させた場合に、80〜120℃の温度範囲における発熱量が2.0〜10.0J/gであるポリオレフィン樹脂を含有する不織布をメルトブロー法によって製造する不織布製造工程と、この不織布をコロナ放電によって帯電させる帯電工程と、を備える。
この製造方法において、ポリオレフィン樹脂の種類及び好ましいポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂のMFR及び中間相転移発熱量については、前記[1]における各々に係る記載をそのまま適用することができる。
【0020】
前記「不織布製造工程」において、不織布はメルトブロー法により製造される。
前記「メルトブロー法」は、押出機から吐出された溶融樹脂に空気流を吹き付け、形成された小径の繊維をコンベア等に堆積させ、絡み合わせるとともに融着させて不織布を形成する方法であり、小径の繊維からなる不織布の製造に好適である。
【0021】
メルトブロー法におけるノズル孔径、ノズル温度、ポリマー吐出量、牽引空気温度及び牽引空気圧等の成形条件は特に限定されないが、吐出される繊維を急冷することにより、ポリオレフィン樹脂に中間相が生成し易く、中間相転移発熱量が多くなるため、牽引空気温度は低いことが好ましい。一方、牽引空気温度を低くすると繊維間が融着し難くなるため、ノズルとコンベアとの距離を縮める等の条件設定が必要になることもある。
【0022】
また、不織布に含有されるポリオレフィン樹脂のMFRは、原料樹脂と不織布に形成した後とで実質的に同じであり、前記のMFRを有する原料樹脂を用いることにより、中間相が生成し易く、中間相転移発熱量を多くすることができる。更に、メルトブロー法により不織布を形成するときの、繊維径を小さくすること、及び前記のように、溶融樹脂(溶融繊維)を、例えば、牽引空気温度を低くすることで急冷することによっても、より多くの中間相を生成させることができる。繊維の径は特に限定されないが、前記[1]に記載した繊維径とすることができ、小径であれば、より急冷されることになり、より多くの中間相が生成する。
【0023】
不織布を帯電させるための前記「コロナ放電」に用いる装置、条件等も特に限定されないが、例えば、接地された電極上を走行する不織布に、上方から針電極又はワイヤー電極によって高電圧を印加し、コロナ放電を発生させ、帯電させることができる。この帯電、言い換えれば、エレクトレット化の程度は、不織布の表面電荷密度を指標として表すことができる。帯電処理後の不織布の表面電荷密度は特に限定されないが、2×10−10クーロン/cm以上、特に5×10−10クーロン/cm以上であることが好ましい。この表面電荷密度が2×10−10クーロン/cm以上であれば、空気中の微粒子等を分離し、捕集する性能が優れており好ましい。
【0024】
ポリオレフィン樹脂のMFRが高ければ、より多くの中間相を生成させることができる一方で、帯電効率は低下する傾向がある。この帯電効率の低下、即ち、初期の除塵、集塵の効率の低下を抑えるため、ポリオレフィン樹脂には各種の添加剤を含有させることができる。この添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光剤等が挙げられる。
【0025】
酸化防止剤は特に限定されず、例えば、N−フェニル−1,1,3,3−テトラメチルブチルナフタレン−1−アミン、ジフェニルアミン誘導体(ジフェニルアミンと2,4,4−トリメチルペンテンとの反応生成物)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−di−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−,C7−C9側鎖アルキルエステル等が挙げられる。これらの酸化防止剤のうちでは、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が好ましい。これらの酸化防止剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
耐光剤も特に限定されず、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系等の紫外線吸収剤、及びヒンダードアミン系等の光安定剤などが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−メトキシ−1−メチルエチルアセテート5%とベンゼンプロパン酸,3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステル95%との混合物、オクチル−3−[3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−[3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートとの混合物、2−メトキシ−1−メチルエチルアセテート5%とベンゼンプロパン酸,3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステル95%との混合物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル9−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコール300との反応生成物等が挙げられる。これらのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
また、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤としては、2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヒドロキシフェニル85%とオキシラン[(C10−C16、主としてC12−13アルキルオキシ)メチル]オキシラン15%との反応生成物と1−メトキシ−2−プロパノール15%との混合物、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと(2−エチルヘキシル)−グリシド酸エステルとの反応生成物、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。これらのヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
更に、ヒンダードアミン系等の光安定剤としては、コハク酸ジメチル50%と4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、N,N',N'',N'''−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、シクロヘキサンと過酸化N−ブチル2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジンアミン−2,4,6−トリクロロ1,3,5−トリアジンとの反応生成物と2−アミノエタノールとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート70〜80%とメチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート20〜30%との混合物等が挙げられる。これらのヒンダードアミン系等の光安定剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂における添加剤の含有量は特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂と添加剤との合計を100質量%とした場合に、0.1〜5質量%、特に0.2〜5質量%とすることができる。添加剤の含有量が0.1〜5質量%であれば、除塵、集塵の効率が向上し、通気抵抗を低くすることもできる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
[1]実験例1〜4(ポリプロピレン樹脂のMFRと中間相転移発熱量との相関)
MFRが200g/10分、1000g/10分、1500g/10分、1800g/10分の4種類のアイソタクチックプロピレン単独重合体を用いて試験片を作製し、DSC(島津製作所製、型式「DSC−60」)により、試料重量を5mgとし、昇温速度10℃/分で、加熱開始温度40℃から200℃まで昇温させた。このときの中間相転移発熱量は、DSCに付設されたデータ解析装置により自動的に算出された。結果を表1に記載する。
【0031】
【表1】

【0032】
表1によれば、ポリプロピレン樹脂のMFRが200g/10分である実験例1では、中間相が生成せず、中間相の転移による発熱はなかった。一方、MFRが1000〜1800g/10分である実験例2〜4では、中間相転移発熱量は3.0J/g以上であり、特にMFRが1500g/10分以上である実験例3、4では、発熱量が4.1J/g以上であり、より多いことが分かる。これらの結果から、不織布に含有されるポリプロピレン樹脂のMFRが高ければ、発熱量が多く、高温で長時間用いたときでも、除塵、集塵の性能低下が十分に抑えられることが推察される。
【0033】
[2]実験例5〜8(繊維の冷却速度と中間相転移発熱量との相関)
前記[1]で用いたポリプロピレン樹脂のうちのMFRが1500g/10分の樹脂を使用し、この樹脂を温度230℃で溶融させ、径が4〜6μmの繊維状となるように引き伸ばし、この繊維を0℃、20℃、40℃、60℃の雰囲気温度で固化させた。このようにして作製した繊維を用いて試験片を作製し、前記[1]と同様にして中間相転移発熱量を測定した。結果を表2に記載する。
【0034】
【表2】

【0035】
表2によれば、水温が20℃以下である実験例5、6では、中間相転移発熱量は6.2J/g以上であり、特に水温が0℃である実験例5では、発熱量が8.3J/gとより多いことが分かる。これらの結果から、不織布に含有されるポリプロピレン樹脂が急冷されるほど、発熱量が多く、高温で長時間用いたときでも、除塵、集塵の性能低下が十分に抑えられることが推察される。
【0036】
[3]実験例9〜14(繊維径と中間相転移発熱量との相関)
前記[1]で用いたポリプロピレン樹脂のうちのMFRが1500g/10分の樹脂を使用し、この樹脂を温度230℃で溶融させ、径が3〜250μmの繊維状となるように引き伸ばし、雰囲気温度(20〜25℃)で自然冷却させ、固化させた。このようにして作製した繊維を用いて試験片を作製し、前記[1]と同様にして中間相転移発熱量を測定した。結果を表3に記載する。
【0037】
【表3】

【0038】
表3によれば、繊維径が250μmである実験例14では、中間相の生成が少なく、中間相転移発熱量も1.2J/gと少なかった。一方、繊維径が3〜100μmである実験例9〜13では、中間相転移発熱量は5.2J/g以上であり、高温で長時間用いたときでも、除塵、集塵の性能低下が十分に抑えられることが推察される。また、繊維径が100μmと250μmとで発熱量に大差があり、繊維径が3〜100μmの間では差がそれほど大きくはないため、特に必要でなければ極細の繊維でなくてもよいと考えられる。
【0039】
[4]実験例15〜17(中間相転移発熱量と集塵効率低下率との相関)
前記[1]で用いたポリプロピレン樹脂のうちのMFRが200g/10分の樹脂(実験例15)、又はMFRが1500g/10分の樹脂(実験例16、17)を使用し、冷風ユニットを装着したメルトブロー成形機により不織布を作製した。実験例16と17とでは、メルトブロー時の条件設定の変更により発熱量を変化させた。このようにして作製した不織布をコロナ放電装置によって帯電させ、前記[1]と同様にして中間相転移発熱量を測定した。その後、帯電させた不織布から試験片を切り出し、この試験片を使用し、径0.3〜0.5μmの微粒子の集塵効率を図1の装置1により測定した。具体的には、ダクト11の上流側Uから下流側Lに向けて、径0.3〜0.5μmの微粒子を含む空気を30mm/秒の風速で流通させ、流路に介装させた試験片2の上流側U及び下流側Lの各々における微粒子数をパーティクルカウンター12により測定し、上流側U及び下流側Lのそれぞれの測定値に基づいて集塵効率を算出した[集塵効率(%)={(上流側粒子数−下流側粒子数)/上流側粒子数}×100]。次いで、80℃で50時間熱を負荷させ、同様にして集塵効率を測定し、下記の式により集塵効率低下率を算出した。結果を表4に記載する。
集塵効率低下率(%)=[(熱負荷前の集塵効率−熱負荷後の集塵効率)/熱負荷前の集塵効率]×100
【0040】
【表4】

【0041】
表4によれば、中間相の転移による発熱がなかった不織布を用いた実験例15のエレクトレットフィルターでは、熱負荷によって集塵効率が40%も低下した。一方、発熱量が2.0J/gの不織布を用いた実験例16では、効率の低下率は25%、発熱量が4.0J/gの不織布を用いた実験例17では、効率の低下率は15%と、発熱量の増加とともに効率の低下率が小さくなり、優れた集塵効率が維持されることが分かる。また、この実験例17のように、効率の低下率が15%と低いことは、エレクトレットフィルターの寿命が5倍以上に延びることに相当する。
【0042】
[5]実験例18〜21(添加剤の効果)
前記[1]で用いたポリプロピレンのうちのMFRが1500g/10分の樹脂を使用し、この樹脂に酸化防止剤[ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)]を表5の含有量となるように配合し(実験例19〜21、実験例18は配合していない。)、その後、前記[4]と同様にして不織布を作製し、コロナ放電により帯電させ、この帯電した不織布から6枚の試験片を切り出して除塵、集塵層とし、支持層に取り付けてエレクトレットフィルターを製造した。次いで、前記[4]と同様にして集塵効率を測定した。結果を表5に記載する。
【0043】
【表5】

【0044】
表5によれば、6枚の試験片の平均値により表される集塵効率は、添加剤が含有されていない不織布を用いた実験例18では26%である。これに対し、酸化防止剤が0.1質量%含有される不織布を用いた実験例19では、効率が少し向上している。また、添加剤が0.3質量%含有されている実験例20、及び0.5質量%含有されている実験例21では、添加剤の増量とともに効率はより向上していることが分かる。このように、不織布に添加剤を含有させることによる集塵効率に対する作用効果が裏付けられている。
【0045】
尚、前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施態様の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その態様において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施態様を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、車室内の空気が清浄化されるとともに、車室内が快適な雰囲気となり、居住性を高めることができる車室内用エレクトレットフィルターの技術分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1;集塵効率測定装置、11;ダクト、12;パーティクルカウンター、2;試験片、U;上流側、L;下流側。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内用エレクトレットフィルターであって、
メルトフローレートが1000〜3000g/10分であり、
差動走査熱量分析において10℃/分の速度で昇温させた場合に、80〜120℃の温度範囲における発熱量が2.0〜10.0J/gであるポリオレフィン樹脂を含有する不織布を備えることを特徴とする車室内用エレクトレットフィルター。
【請求項2】
前記不織布を形成する繊維の径が0.3〜150μmである請求項1に記載の車室内用エレクトレットフィルター。
【請求項3】
車室内用エレクトレットフィルターの製造方法であって、
メルトフローレートが1000〜3000g/10分であり、
差動走査熱量分析において10℃/分の速度で昇温させた場合に、80〜120℃の温度範囲における発熱量が2.0〜10.0J/gであるポリオレフィン樹脂を含有する不織布をメルトブロー法によって製造する不織布製造工程と、
前記不織布をコロナ放電によって帯電させる帯電工程と、を備えることを特徴とする車室内用エレクトレットフィルターの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12743(P2012−12743A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152449(P2010−152449)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】