説明

車椅子用ウインチ装置

【課題】ウインチ装置を左右に分離して設置することで、比較的狭い車室内のスペースの有効活用を図り、少しでもスペースの確保を図り、また、利用者や介護者の邪魔にならないようにすること。
【解決手段】車椅子をスロープを介して引き上げたり引き下ろしたりするためのベルト11と、前記ベルト11が巻回されるドラムと、前記ドラムを正逆転に回転させて前記ベルト11を引き出し方向または巻き取り方向に作動させるモータ31とでウインチ装置12を構成している。そして、ウインチ装置12は、左右に分けて設置すると共に、該左右に分けて設置したウインチ装置からそれぞれベルトを引き出し、巻き取り可能としている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトを引き出したり、巻き取ることで、該ベルトを係止した車椅子をスロープを介して車室内から引き下ろしたり、車室内へ引き上げたりする車椅子用ウインチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車椅子を車内に乗り入れる場合、図7に示すように、地面と車内のフロアにスロープを掛け渡して、車内に設置されている補助装置としてのウインチ装置(図示せず)からベルトを引き出し、該ベルトの先端に設けられているフック等を車椅子1に引っ掛け、ウインチ装置によりベルトを巻き取ることで、車椅子1は介護者に補助されながらスロープを経て車内に収容されるようになっている。
【0003】
ウインチ装置により車椅子を地面からスロープを介して車室内へ引き上げるこの種の従来例として、例えば下記に示す特許文献1〜3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−271661号公報
【特許文献2】特開2006−271662号公報
【特許文献3】特開2006−280400号公報
【0005】
上記特許文献1〜3に記載のウインチ装置は、図8に示すような構成となっている。すなわち、左右にウインチ装置71L、71Rを備えた駆動装置70が車室内のフロアーに設置されており、この駆動装置70は、車椅子収納スペースの横幅より長い長尺物で構成されている。そして、駆動装置70の両側のウインチ装置71L、71Rからベルト72L、72Rが車椅子収納スペースの両側に位置するように引き出され、該ウインチ装置71L、71Rにベルト72L、72Rの引き出し、巻き取りを行なっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この図8に示す従来例(上記特許文献1〜3)では、左右のウインチ装置71L、71Rに対して駆動装置70を一体にしているため、駆動装置70が大型となり、しかも車両のフロアーの中央に設置しているために、スペースが無駄になり、車椅子の収納スペースが狭くなるという問題があった。
また、駆動装置70が車椅子収納スペースの前部ないし前方に設置されているために、利用者の足に当たったり、介護者が補助する場合でも、邪魔になるという問題があった。
【0007】
本発明は上述の問題点に鑑みて提供したものであって、ウインチ装置を左右に分離して設置することで、比較的狭い車室内のスペースの有効活用を図り、少しでもスペースの確保を図り、また、利用者や介護者の邪魔にならないようにした車椅子用ウインチ装置を提供することを目的としているものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の車椅子用ウインチ装置では、車椅子1をスロープを介して引き上げたり引き下ろしたりするためのベルト11と、前記ベルト11が巻回されるドラム32と、前記ドラム32を正逆転に回転させて前記ベルト11を引き出し方向または巻き取り方向に作動させるモータ31とでウインチ装置12が構成されており、
前記ウインチ装置12は、左右に分けて設置すると共に、該左右に分けて設置したウインチ装置12L、12Rからそれぞれベルト11L、11Rを引き出し、巻き取り可能としていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
(1)本発明の車椅子用ウインチ装置によれば、ウインチ装置12は、左右に分けて設置すると共に、該左右に分けて設置したウインチ装置12L、12Rからそれぞれベルト11L、11Rを引き出しまたは巻き取り可能としているので、左右のウインチ装置12L、12R間のスペースを有効に確保でき、そのため、比較的狭い車室内のスペースの有効活用を図ることができる。また、車椅子1の利用者や介護者にとっても邪魔にならず、利便性を向上させることができる。
【0010】
(2)本発明の車椅子用ウインチ装置によれば、引き出されたベルト11L、11Rの引き出し量に基づいて、ウインチ装置12L、12Rにより巻き取られていく際の減少していく引き出し値を算出し、この引き出し値からベルト11L、11Rを巻き取っていく際に、該ベルト11L、11Rが引き出されている引き出し値が同じとなるようにベルト11L、11Rを巻き取っていくことになり、そのため、最初に左右のベルト11L、11Rの引き出し値が異なっている場合でも、引き上げ時や引き下ろし時での左右のベルト11L、11Rの同期をとることができ、そのため、車椅子1の傾きを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態におけるウインチ装置本体にて車椅子を引き下ろす場合の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるウインチ装置を左右に分けて設置した場合の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるウインチ装置本体のブロック図である。
【図4】(a)(b)は本発明の実施の形態におけるウインチ装置の側面図及び平面図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるロック機構の拡大図である。
【図6】本発明の実施の形態における制御動作を示すフローチャートである。
【図7】車椅子をスロープを介して引き下ろす場合の説明図である。
【図8】従来例の問題点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。本発明は、車室内のフロアーのスペースを有効に確保するために、図1及び図2に示すように車椅子収納スペースの奥方にウインチ装置12L、12Rを左右に分けて設置したものであり、このウインチ装置12L、12Rを制御する制御装置20を車椅子収納スペース以外の箇所に設けるようにしている。
【0013】
図1は本発明のウインチ装置本体10の左右のベルト11L、11Rの先端に設けられているフック(図示せず)を車椅子1に係止して、該車椅子1を引き上げている状態を示している。
このウインチ装置本体10は、ベルト11L、11Rの引き出し、巻き取りを行なう左右一対のウインチ装置12L、12Rと、これらウインチ装置12L、12Rのモータを回転制御する制御装置20とで構成されている。
【0014】
図3は、ウインチ装置本体10のブロック図を示しており、主に本発明の関連している部分のブロック図を示している。左右のウインチ装置12L、12Rは同一の構成なので、左ウインチ装置12Lについて説明すると、この左ウインチ装置12Lは、モータ31と、このモータ31の回転軸に接続されている後述する減速部や、ベルト11を巻回しているドラム32と、例えばドラム32側に設けられているモータ31(ドラム32)の回転をモニタする回転センサ33と、後述するロック機構をロック状態としたり、アンロック状態にする後退防止ソレノイド34等で構成されている。
なお、右ウインチ装置12Rは、左ウインチ装置12Lと同様なので、添字にRを付けて説明は省略する。
【0015】
ここで、上記左右の回転センサ33(33L、33R)として、例えば、ホール素子(ホールICを含む)で構成し、ドラム32に多数のマグネットを周方向に配置して、モータ31(31L、31R)の回転、つまりドラム32の回転によりベルト11(11L、11R)の引き出し、巻き取りをパルスをカウントすることで、ベルト11の引き出し量(引き出されている量)に応じた引き出し値を算出している。
このパルスカウント量を、ベルト11をすべてドラムに巻き取った状態を0とし、その後のパルスカウントでベルト11が引き出された量をカウントアップしていくようにしており、ベルト11の引き上げ(巻き取り)時は、カウントダウンして、ベルト11の引き出し値を算出している。
【0016】
そして、回転センサ33から出力されるパルスのカウントが1増えた時のベルト11の引き出し量を予め設定しておき、例えば、パルスカウントが1増えた時に約3mmとした場合、パルスカウントが200であれば、200×3=600mmベルト11が引き出されていると認識できる構成となっている。
また、ベルト11が巻き取られる場合は、パルスカウントが1個ずつ減少していき、パルスカウントが0となった時、ベルト11が完全に巻き取られた状態となる。前記引き出し値は、ベルトが引き出されている量を示す値であればよく、パルスカウント量をそのまま引き出し値としてもよいし、パルスカウント1当たりのベルト引き出し量を掛けた実際のベルト引き出し量であってもよい。このとき引き出し値の算出は、直前のパルスカウント数など直前の引き出し値を記憶部に記憶しておき、該記憶部から読み出した直前の引き出し値に対してベルト巻取り部の回転方向に応じてパルスカウントを増減させて現在の引き出し値を算出するなどの方法により適宜算出することができる。なお、記憶部は各ベルト引き出し値算出部に設けても良いし、各ベルト引き出し値算出部と独立させて制御装置に設けても良い。
【0017】
制御装置20は、引き出し値比較判断部27及び補正量算出部28を有する制御部21、記憶部22、左右のベルト引き出し値算出部23L、23Rと、別個に設けられた左右一対のモータ駆動制御部24L、24R、左右のソレノイド駆動回路26L、26R等で構成されている。
CPUにて構成される制御部21は、所定のプログラムの手順に沿って全体を制御するものであり、また、記憶部22は、前記プログラムを格納しているROMや、回転センサ33からのデータを一時的に保存するRAM等で構成されている。
【0018】
左右のベルト引き出し値算出部23(23L、23R)は、左右の回転センサ33から入力されるパルスをカウントしてそのパルスカウントからベルト11の引き出し値を算出するものである。また、引き出し値比較判断部27は、ベルト11を巻き取る場合において、左右のベルト引き出し値算出部23からパルスカウント数を受けて左ベルト11Lの引き出し値と、右ベルト11Rの引き出し値を比較して、左右のモータ31L、31Rで同期がとれているか否かを判断するものである。
【0019】
引き出し値比較判断部27にて左右のベルト11L、11Rの引き出し量に差があると判断された場合、補正量算出部28において、左モータ31Lのパルスカウントと右モータ31Rのパルスカウントとを同じカウントにするための補正量を算出する。
この補正量算出部28では、上記の補正量に応じて左右のモータ31L、31Rへの出力に補正を加えて(例えば、左右のモータ駆動制御部24L、24Rでのモータ31L、31Rの制御をPWM制御としている場合は、デューティ比を可変する)、左右のベルト11L、11Rの引き出し値が同じになるように(つまり、左右のベルト11L、11Rが巻き取られていく際に、実際にウインチ装置12L、12Rから引き出されているベルト11L、11Rの引き出し量が同じになるように)補正量算出部28が左右のモータ駆動制御部24L、24Rを制御する。なお、この補正量は、カウント差によって変動させることで、素早く安全に車椅子1の引き上げ作動、引き下ろし作動を可能とする。
【0020】
また、補正量算出部28からの出力信号によりモータ駆動制御部24がモータ31を正逆転に回転制御する。ソレノイド駆動回路26は、後退防止ソレノイド34に電源を印加して、該後退防止ソレノイド34を通電状態や非通電状態に駆動制御するものである。
上記後退防止ソレノイド34が通電されていない状態(非通電)が、ロック機構のロック状態であり、後退防止ソレノイド34が通電されている状態が、ロック機構がアンロック状態となる。
【0021】
また、操作スイッチ14は車椅子1を車室内からスロープを介して引き下ろしたり、車室内へ引き上げたりする際のスイッチであり、アップ信号、ダウン信号、ストップ信号等が操作スイッチ14から制御装置20へ出力される。
また、この操作スイッチ14からの信号により制御部21がウインチ装置12の後退防止ソレノイド34をオン駆動、オフ駆動して、ロック機構をロック状態やアンロック状態に制御するようになっている。
【0022】
図4はウインチ装置12を示し、図4(a)はウインチ装置12の側面図を、図4(b)はウインチ装置12の平面図をそれぞれ示している。骨格を形成しているケーシング30には、モータ31が配設されており、このモータ31の出力軸は、平歯車減速部35が接続されている。さらに平歯車減速部35の出力軸は遊星減速部36が接続されており、この遊星減速部36の出力軸にドラム32が接続され、このドラム32に上記ベルト11が巻回されている。
【0023】
また、平歯車減速部35の出力軸(回転軸)にはマグネット37が設けられていて、平歯車減速部35の回転、つまりドラム32が回転することで、マグネット37も回転し、このマグネット37の磁力をホールIC40が検出するものであり、このホールIC40からの信号、つまりパルスをベルト引き出し値算出部23がカウントする。このホールIC40及びマグネット37にて回転センサ33を構成している。
なお、ドラム32自体の回転から回転センサ33によりパルスカウントをしているのではなく、ドラム32を回転させる遊星減速部36の減速前の平歯車減速部35の回転により回転センサ33にてパルスカウントをしていることで、ドラム32の回転量の検出精度を上げている。もちろん、ドラム32自体の回転を回転センサ33により直接検出してパルスカウントするようにしても良い。
【0024】
一方、ドラム32の側面にはドラム32の外径とほぼ同径のラチェット部42が配置されており、該ドラム32の回転と共に、回転するようになっている。略円板状のラチェット部42の周縁には歯部43が連続して形成されていて、この歯部43に係合爪44の先端の爪部45が離脱自在に係合するようになっている。
【0025】
上記ラチェット部42、係合爪44及びこの係合爪44を駆動する後退防止ソレノイド34とでロック機構を構成しており、図5はこのロック機構の拡大図を示している。図4及び図5に示すように、係合爪44は軸46により回動自在に配置されており、係合爪44の基部は連結軸47を介して後退防止ソレノイド34のロッド50の先端と回動自在に連結されている。
後退防止ソレノイド34のロッド50にはコイル状のバネ51が該ロッド50の先端側に固定したCリングのような金具52との間に介装されている。図示するように後退防止ソレノイド34の非通電状態では、バネ51が復帰して金具52を弾発することで、ロッド50が突出し、この突出したロッド50により係合爪44を軸46を中心として反時計方向に付勢する。
【0026】
係合爪44が反時計方向に回転すると、係合爪44の先端の爪部45がラチェット部42の歯部43に係合して、ラチェット部42の時計方向の回転を防止する。なお、図5に示す矢印5がベルト11の引き出し方向であり、矢印6がベルト11の巻き取り方向である。
操作スイッチ14の操作によりベルト11の引き出し、巻き取りの場合には、後退防止ソレノイド34が通電されて、ロッド50をバネ51のバネ力に抗して吸引して係合爪44を軸46を中心にして時計方向に回転させて、係合爪44の爪部45は歯部43から離脱してラチェット部42の回転をフリー状態とし、モータ31が正転、あるいは逆転駆動される。また、ベルト11の引き出し、巻き取りを停止する場合には、モータ31を停止させると共に、後退防止ソレノイド34の通電を停止して係合爪44を反時計方向に回転させる。
【0027】
ここで、後退防止ソレノイド34が非通電状態であり、係合爪44の爪部45がラチェット部42の歯部43に係合している状態をロック状態とし、ベルト11の不用意な引き出しを防止している。また、後退防止ソレノイド34が通電されて、係合爪44の爪部45がラチェット部42の歯部43から離れて係合が解除される状態をアンロック状態とし、ベルト11の引き出し、巻き取りを行なえるようにしている。
【0028】
ここで、本発明では、左右にウインチ装置12L、12Rを設置し、また左右のウインチ装置12L、12Rからそれぞれベルト11L、11Rの引き出し、巻き取りをしているので、左右のベルト11L、11Rの引き出し量、巻き取り量を同じにすべく同期をとる必要がある。そこで、本発明では以下のようにしている。
【0029】
次に、図6のフローチャートを用いて車椅子1の引き上げ時の同期をとるたの制御動作について説明する。先ず、車室内に設置されているウインチ装置本体10からベルト11を引き出し、地面上にある車椅子1にベルト11の先端のフックを係止する。なお、ベルト11を引き出す際の操作スイッチ14の操作により制御部21がソレノイド駆動回路26を介して後退防止ソレノイド34をオン駆動してロック機構をアンロック状態とする。
かかる場合、ウインチ装置本体10のウインチ装置12L、12Rは左右に設置されていることから、同時にベルト11を引き出すことは無理があるため、先の一方のベルト11Lを引き出してから、他方のベルト11Rを引き出すことになる。
【0030】
ベルト11を手で片方ずつ引き出した場合はもちろん、仮に2つのベルト11を同時に引き出したとしても、ベルト11の引き出し量は同一になることはなく、2つのベルト11の引き出し量は異なることになる。左右のベルト11L、11Rをそれぞれ引き出していくと、左右の回転センサ33L、33Rによりそれぞれのベルト11L、11Rの引き出し量に応じたパルスが出力される。
左右の回転センサ33L、33Rから左右のベルト引き出し値算出部23L、23Rにそれぞれパルスが入力されて、該ベルト引き出し値算出部23L、23Rにてパルスがカウントアップされることで、引き出したベルト11L、11Rの引き出し値が算出される。
【0031】
このように本発明では、左右のベルト11L、11Rをそれぞれ引き出した時点で制御装置20では、左右のベルト11L、11Rの引き出し量をそれぞれ認識している。
【0032】
操作スイッチ14の操作により左右のモータ31L、31Rはモータ駆動制御部24L、24Rにて駆動されて、左右のモータ31L、31Rにて左右のベルト11L、11Rが巻き取られていく。左右のモータ31L、31Rが回転してベルト11L、11Rが巻き取られていくと、図6のステップS1に示すように、左右のウインチ装置12L、12Rの回転センサ33から出力されるパルスにて制御装置20の左右のベルト引き出し値算出部23L、23Rによりパルスがカウントダウンされて、左右のベルト11L、11Rの引き出し値がそれぞれ算出される。
【0033】
次に、ステップS2において、制御部21の引き出し値比較判断部27にてパルスカウント数に一定値以上の差があるか否かが判断され、一定値以上の差が無い場合には、補正量は算出されず、モータ駆動制御部24L、24Rは現在のデューティ比で左右のモータ31L、31Rを駆動し続ける。
パルスカウント数に一定値以上の差がある場合には、ステップS3に移行してカウント差に応じた補正量を補正量算出部28にて算出する。
なお、上記の「一定値以上の差がない場合」とは、車椅子や車椅子を収納する空間により適宜設定されるものであり、何らかの障害が出る程度の車椅子の姿勢に変化が生じる場合をいう。
【0034】
ここで、補正量算出部28において、パルスカウント数が一定値以上であって、差が大の場合では、引き出し量が多いベルト11に対応したモータ31へのデューティ比を大きくするようにモータ駆動制御部24を制御すると共に、引き出し量が少ないベルト11に対応したモータ31へのデューティ比を0%となるようにモータ駆動制御部24を制御する(ステップS4参照)。
これにより、一方のモータ31は停止し、他方のモータ31は回転数が上がることで、車椅子1の傾きを素早く是正することができる。
なお、上記の「差が大の場合」とは、車椅子や車椅子を収納する空間により適宜設定されるものであり、車椅子の姿勢に大きな変化を生じ、収納空間への収納が困難となることや、引き上げに危険が生じる可能性があることなどの大きな障害が生じる場合をいう。
【0035】
また、パルスカウント数の差が小の場合では、補正量算出部28が引き出し量が多いベルト11に対応したモータ31へのデューティ比を少し大きくするようにモータ駆動制御部24を制御すると共に、引き出し量が少ないベルト11に対応したモータ31へのデューティ比を少し小さくなるようにモータ駆動制御部24を制御する。
これにより、一方のモータ31は少しだけ早く回転し、他方のモータ31は少しだけ遅く回転することで、車椅子1の傾きを素早く是正することができる。
なお、上記の「差が小の場合」とは、車椅子や車椅子を収納する空間により適宜設定されるものであり、車椅子の姿勢に変化を生じ、車輪の回転に支障をきたすなどの引き上げへの軽度な障害が生じる場合をいう。
【0036】
ステップS4において上述した補正を加えてモータ31を駆動制御していき、さらにステップS2に戻って左右のモータ31からのパルスカウント数に一定値以上の差があるかを監視し、これを繰り返す。
モータ31にてベルト11を完全に巻き取った状態では、この状態をパルスカウントの0にて検知したり、あるいはリミットスイッチ等にて完全引き上げ状態を検知して、モータ31を停止させる。
【0037】
このように本実施形態では、引き出されたベルト11L、11Rの引き出し量に基づいて、ウインチ装置12L、12Rにより巻き取られていく際の減少していく引き出し値を算出し、この引き出し値からベルト11L、11Rを巻き取っていく際に、該ベルト11L、11Rが引き出されている引き出し値が同じとなるようにベルト11L、11Rを巻き取っていくことになり、そのため、最初に左右のベルト11L、11Rの引き出し値が異なっている場合でも、引き上げ時や引き下ろし時でのベルト11L、11Rの同期をとることができ、そのため、車椅子1の傾きを確実に防止することができる。
特に、引き上げ時での車椅子1の左右の傾きを確実に防止することができるので、車椅子1に乗っている人に不安感を与えることがない。
【0038】
なお、上記の説明では、車椅子1をスロープを介して車室内に収容する場合について説明したが、車椅子1をスロープを介して車室内から地面まで引き下ろす場合も同様に左右のベルト11の引き出し時での同期制御が行なわれる。
また、ウインチ装置12を左右に設置する場合、車だけに適用されるものではない。例えば、階段やスロープを介して家の玄関等に入る場合でも本発明を適用できるものであり、玄関先の両側に左右一対のウインチ装置12L、12Rを設置し、上記と同様に車椅子1を傾きなく引き上げ作動、引き下ろし作動を行なうことができる。
【0039】
このように、本実施形態では、ウインチ装置12を左右に分けて設置しているので、左右のウインチ装置12L、12R間のスペースを有効に確保でき、そのため、比較的狭い車室内のスペースの有効活用を図ることができる。また、車椅子1の利用者や介護者にとっても邪魔にならず、利便性を向上させることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、ウインチ装置12を該ウインチ装置12とは別個に設けた制御装置20にて制御を行なっていたが、ウインチ装置12を制御する制御部としての制御装置20の機能をウインチ装置12に設けて制御を行なうようにしても良い。
【0041】
また、ベルト11L、11Rの引き出し量、巻き取り量の同期をとる同期手段を、回転センサ33L、33Rと、ベルト引き出し値算出部23L、23Rと、引き出し値比較判断部27と、モータ駆動制御部24とで構成している。
【符号の説明】
【0042】
1 車椅子
11 ベルト
12 ウインチ装置
20 制御装置
21 制御部
23 ベルト引き出し値算出部
24 モータ駆動制御部
27 引き出し値比較判断部
28 補正量算出部
31 モータ
32 ドラム
33 回転センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子(1)をスロープを介して引き上げたり引き下ろしたりするためのベルト(11)と、前記ベルト(11)が巻回されるドラム(32)と、前記ドラム(32)を正逆転に回転させて前記ベルト(11)を引き出し方向または巻き取り方向に作動させるモータ(31)とでウインチ装置(12)が構成されており、
前記ウインチ装置(12)は、左右に分けて設置すると共に、該左右に分けて設置したウインチ装置(12L)(12R)からそれぞれベルト(11L)(11R)を引き出し、巻き取り可能としていることを特徴とする車椅子用ウインチ装置。
【請求項2】
前記左右のベルト(11L)(11R)の引き出しまたは巻き取りを行なう際に両ベルト(11L)(11R)の引き出し量、巻き取り量の同期をとる同期手段として、
前記左右のベルト(11L)(11R)の引き出し量に応じた信号をそれぞれ個別に出力するセンサ(33L)(33R)と、
前記ウインチ装置(12L)(12R)により前記ベルト(11L)(11R)を巻き取っていく際に、前記センサ(33L)(33R)からの信号により前記左右のベルト(11L)(11R)の減少していく引き出し値をそれぞれ個別にそれぞれ算出するベルト引き出し値算出部(23L)(23R)と、
前記ベルト引き出し値算出部(23L)(23R)にて算出された前記ベルト(11L)(11R)の引き出し値を比較して前記ベルト(11L)(11R)の引き出し量に差があるか否かを判断する引き出し値比較判断部(27)と、
前記引き出し値比較判断部(27)により前記ベルト(11L)(11R)の引き出し値に差がある場合に該引き出し値を同じにすべく補正量を算出する補正量算出部(28)と、
前記補正量算出部(28)により算出された補正量に基づいて前記モータ(31L)(31R)を個別にそれぞれ駆動制御する左右のモータ駆動制御部(24L)(24R)と
で構成していることを特徴とする請求項1に記載の車椅子用ウインチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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