説明

車線逸脱警報装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は車線逸脱警報装置に関し、特に車両の直前の路面状態をラインカメラ等によって監視することにより車両の車線(白線、黄線)からの逸脱を警報する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】特開昭59-128693 号公報又は特開平3-273498号公報等により従来から知られている車線逸脱警報装置においては、車線検出手段としてのカメラにより車両の前方を撮影し、得られた画像信号を信号処理手段が2値化することにより路面上の車線を抽出し、この車線と該車両との距離が一定値以下の危険な状態になったとき方向指示操作が行われていなければ警報装置を付勢して警報を発するようにしている。
【0003】このような車線逸脱警報装置が搭載される車両の前照灯は通常、図5(1) 及び(2) に示すようにドライバーの肉眼点EPによる夜間走行視野aを確保する目的で設計・装着されており、その前照灯2の照射範囲b(斜線部)は同図に示すようにドライバーの視野a内に限定されている。
【0004】一方、このような車線逸脱警報装置では、車両10の車線からの逸脱を精度良く確実に検出するためには車線検出手段1のセンサ視野cは車両前部の真近(直前)に設定することが必要である。
【0005】このため、夜間走行中は、車線検出対象となる車両前端から真近の数mの範囲は偶然に漏洩する光のみを頼りに警報処理を行わざるを得ない。
【0006】従って、このような従来例では、車両前部の真近の範囲は偶然の漏洩光でしか照明されないため、夜間での車線検出が正確に行えず車線逸脱警報装置の機能が達成できない。
【0007】このような問題に対してはフォグランプ等の補助前照灯(補助照明)を増設する方法があるが、可視光の灯火では車両の保安基準により補助前照灯は数及び取付位置等の制約があり、また、近年流行の主前照灯と補助前照灯とが一体となっている形式の車両では物理的にもコスト的にも増設が事実上困難である。
【0008】このような点に鑑み、本出願人は、夜間でも車両の車線逸脱警報を行うことができる装置を実現することを目的とした特願平5-71942 号を開示しており、これにおいては、車両の主前照灯が、その照射ビームの一部を漏洩させ該車線検出手段によって撮影される車両の直前を照射する手段を有するように改造されている。
【0009】即ち、夜間走行時、車両の主前照灯が点灯されると、この主前照灯の照射ビームは車両前方の遠方路面を照らすが、この場合に照らし出される路面は車線検出手段が検出しようとする直前視野による路面位置とは異なる。
【0010】そこで、主前照灯には、その照射ビームの一部の照射方向を変化させる手段を設け、この手段で照射ビームから漏洩ビームを発生させることにより車両直前の車線検出手段が撮影しようとする視野に対する路面を照らし出し画像信号を出力するようにしていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような特願平5-71942 号による従来例は次のような問題点があった。
(1)車両のデザイン上の都合により、主前照灯がバンパー前端よりも後退した位置に取付けられている場合、主前照灯から見て車線検出手段の視野範囲がバンパーの影となり、主前照灯の漏洩ビームでは車線検出手段の全ての視野範囲を照射できない。
【0012】(2)主前照灯のガラスレンズ部は型により成形されるが、商業車の様に多種の派生車型に共通の主前照灯を流用する場合、車高や取付寸法等が異なる各車型に対して共通のガラスレンズ形状で最良の漏洩ビームを形成する事が困難である。
【0013】(3)また、上記(2) の場合、派生車型毎にガラスレンズ型を設定して対応する事は、型投資が高額となる為、現実的でない。
【0014】(4)さらに、既に市場に出回り、ユーザが使用している車線逸脱警報装置を装着していない車両に、後付けで車線逸脱警報装置を取付ける場合、車線逸脱警報装置の装着を前提に設計・製造された車両の場合と異なり、個々の車両に対して主前照灯に漏洩ビームを形成する様に対応する必要が有り、車線逸脱警報装置の汎用性が低くなってしまう。
【0015】従って本発明は、車両の直前を撮影する車線検出手段から得られた画像信号から路面上の車線を抽出し、該車線と該車両との距離が一定値以下になったとき方向指示操作が行われていなければ警報を発する車線逸脱警報装置において、車両の主前照灯を改造することなく夜間でも車両の車線逸脱警報を行うことができるようにすることを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明に係る車線逸脱警報装置においては、図1(1) 及び(2) に原理的に示すように、車線検出手段1によって撮影される車両10の直前の路面を照射できるように該車両10に設置され該車両10の主前照灯2の点灯と連動して非可視光線Bを発射する補助照明灯2と、該非可視光線を検知する手段と、該非可視光線が検知されなかったとき該補助照明灯2の故障として警報を発する回路と、を設けたことを特徴としている。
【0017】また上記の補助照明灯2は、該非可視光線として紫外線又は赤外線を発射することができる。
【0018】
【0019】
【作用】本発明では、非可視光線の紫外(UV)線或いは赤外(IR)線を補助照明灯2から照射ビームBとして車両10の前部から路面に向けて発射する(図1(1)参照)。
【0020】この非可視光線は、車両10の主前照灯2に連動して点・消灯するものであり且つ車線検出手段1によって撮影される車両10の直前の路面を照射できるように該車両10に設置されている(図1(2) 参照)。
【0021】従って、このような非可視光線は車線で反射されることにより車線検出手段1に与えられる。
【0022】この場合、非可視光線としての紫外線/赤外線により、車線検出手段1は以下の如く車線を検出する。
【0023】■紫外線灯火の場合:紫外線には紫外線蛍光作用が有り、車線ペイントに用いられている白色顔料内の元素・分子を励起して、可視光が輻射される。従って、紫外線照射により車線ペイント部から可視光が発せられ、車線検出センサで検出が可能となる。
【0024】■赤外線灯火の場合:車線検出手段1に通常用いられるCCD素子は、一般的特性として可視光域のみではなく赤外光域にも感度を有する為、赤外線は、可視光の場合と同様に、路面上の車線ペイント部で反射し、車線検出手段1に到達し、その存在が検出できる。
【0025】そして、従来と同様にして車線を抽出し、該車線と該車両との距離が一定値以下になったとき方向指示操作が行われていなければ警報を発する。
【0026】但し、非可視光線は可視光とは異なり、その点灯状況は肉眼では確認出来ず、補助照明灯2からの紫外線或いは赤外線灯火の点検・整備の際に支障をきたす為、その近傍に光検知手段を設けて補助照明灯2の点灯状況を監視する。
【0027】そして、補助照明灯2が本来点灯すべき場合に、光検知手段によりその点灯が確認されない場合には、補助照明灯2の故障と判断し、故障警報をドライバーに報知する。
【0028】
【実施例】図2は、図1に示した本発明に係る車線逸脱警報装置をより具体的に示したもので、本発明に係る車線逸脱警報装置を実際に車両10に取り付けたときの配置を示している。
【0029】図2において、車線検出手段としてのラインカメラ1は車両10の前部のルーフに設置されて路面を検出視野Cに基づき検出しており、車両10の前部に設置された主前照灯2からは照射ビームAによって路面前方を照らしている。従って、検出視野Cは路面上において照射ビームAと一致する面積が無い。
【0030】また、非可視光線としての紫外線又は赤外線を発射する補助照明灯3は例えば車両10のバンパーBPに取り付けられて照射ビームBを路面に対して出力する。
【0031】この補助照明灯3の動作故障を検出するために、即ち補助照明灯3からの紫外線又は赤外線の路面からの反射光を検出するために、やはり該非可視光線検知手段としての光検知センサ4がバンパーBPに取り付けられている。
【0032】光検知センサ4は監視回路5に接続されており、この監視回路5は更に故障警報を発するウォーニングランプ6に接続されている。このウォーニングランプ6はドライバーが目視できるように例えば運転席に設置される。
【0033】また、信号処理手段としてのCPUを搭載したコントローラ7は例えば運転席の座席下部に設けられ、ラインカメラ1の出力信号を入力すると共に車速センサ及び方向指示器(図示せず)からの出力信号も同時に入力するようになっている。
【0034】また、車線逸脱警報をドライバーに与えるための警報装置8は、コントローラ7によって駆動されるアクチェータ駆動回路81と、この駆動回路81によって駆動されるステアリングアクチェータ82とで構成されている。尚、このアクチェータ82は警報発生時にステアリング83を振動させることによってドライバーに対して警報を与えるものである。
【0035】図3は図2に示した本発明に係る車線逸脱警報装置の電気系統図を示しており、車両バッテリ11にはキースイッチ(SW)12及びランプスイッチ(SW)13が接続されており、このランプスイッチ13には更に車幅灯14とディマスイッチ(SW)15と補助照明灯3と光検知センサ4と監視回路5とが接続されている。
【0036】そして、ディマスイッチ15には、主前照灯2を構成する左側前照灯21と右側前照灯22が接続されてそのH位置又はL位置に応じて前方照明方向を上下に切り替えるようにしている。
【0037】また、光検知センサ4は左側光検知センサ41と右側光検知センサ42とで構成されており、それぞれ紫外線或いは赤外線の内、目的とする光のみを透過させるフィルタ41a,42aをそれぞれ備え、対象光の入射量に比例した電圧を出力するものである。これらのセンサ41,42の各出力信号は監視回路5に与えられ、監視回路5にはキースイッチ12との間にウォーニングランプ6が接続されている。
【0038】なお、上記の部品のうち、補助照明灯3と光検知センサ4と監視回路5とウォーニングランプ6を除いては通常の車両に設けられている周知のものであり、主前照灯2は左側前照灯21と右側前照灯22とを含んでいる。
【0039】次に図3の動作を説明すると、バッテリ11の電源B11はランプスイッチ13に接続されており、またキースイッチ12を閉じてこの電気回路系統以外の車両電装回路(図示せず)にバッテリ11の電源VBを供給する。
【0040】この状態でドライバーがランプスイッチ13を「OFF」状態から例えば「SMALL」状態に切り替えると、図示のようにこのランプスイッチ13からは車幅灯14に対してのみバッテリ電源が供給されることとなり、車幅灯14が点灯する。
【0041】ドライバーが更にランプスイッチ13を「H/L」状態に切り替えると、ディマスイッチ15と左右の補助照明灯31,32と左右の光検知センサ41,42と監視回路5とにもバッテリ電源が接続される。そして、ディマスイッチ15の位置に応じて主前照灯2の照明方向が切り替えられる。
【0042】このように、ランプスイッチ13を操作して主前照灯2を点灯させると同時に補助照明灯3を連動させて点灯させる。
【0043】従って、図1に関して上述した如く、補助照明灯3からの紫外線又は赤外線が路面に与えられると、路面上の車線で可視光が反射されてラインカメラ1に与えられるので、このラインカメラ1からの出力画像信号を受けてコントローラ7が車線逸脱の判定を行い、車線逸脱していると判定したときには警報装置8における駆動回路81を介してステアリングアクチュエータ82を駆動し、ステアリング83を振動させることによってドライバーに対して警報を与える。
【0044】なお、補助照明灯3が点灯すると光検知センサ4はその出力信号を監視回路5に与えるので、監視回路5は補助照明灯3が正常に動作しているとしてウォーニングランプ6を点灯させない。
【0045】しかしながら、補助照明灯3が故障すると上記の警報動作は正しく与えられなくなって危険であるので、光検知センサ41,42の出力信号により監視回路5は故障状態であることを知らされ、以てウォーニングランプ6を点灯させてドライバーに警報を与える。
【0046】図4は、このような監視回路5の実施例を示しており、この実施例では、光検知センサ41,42にそれぞれ反転入力端子が接続されたコンパレータ51,52と、これらのコンパレータ51,52の出力信号を入力するORゲート53と、このORゲート53の出力信号と電源54に接続された定電圧源55の出力信号とを入力するANDゲート56と、このANDゲート56の出力信号により駆動されてウォーニングランプ6を点灯させる出力トランジスタ57とで構成されている。なお、コンパレータ51,52の非反転入力端子には常に基準電圧VREF が与えられている。
【0047】この監視回路5の動作においては、光検知センサ41,42の出力は絶えずコンパレータ51,52にそれぞれ入力されて基準電圧VREF と比較される。
【0048】この場合、ランプスイッチ13が「H/L」状態に切り替えられているときに補助照明灯31,32が点灯していない場合には、コンパレータ51,52の反転入力端子への光検知センサ41,42からの出力電圧は、基準電圧VREF より低くなるので、補助照明灯31,32は消灯していると判断して電圧レベル「H」の出力信号を発生する。
【0049】このコンパレータ51,52の出力信号はORゲート53を介してANDゲート56に与えられるが、定電圧源55の出力電圧が存在していれば、即ち補助照明灯31,32が点灯すべき状態になっていれば、ANDゲート56はイネーブル状態となっているのでORゲート53の出力信号はそのまま出力トランジスタ57に与えられてウォーニングランプ6を点灯させることとなる。
【0050】なお、補助照明灯31,32が正常に点灯している場合には、コンパレータ51,52の反転入力端子への光検知センサ41,42からの出力電圧は、基準電圧VREF より高くなるので、コンパレータ51,52の出力信号は「L」レベルとなり、出力トランジスタ57及びウォーニングランプ6を駆動することはない。
【0051】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る車線逸脱警報装置によれば、車線検出手段によって撮影される車両直前路面を照射できるように該車両に設置され該車両の主前照灯の点灯と連動して非可視光線を発射する補助照明灯と、該非可視光線が検知されなかったとき該補助照明灯の故障として警報を発する回路を設けたので、灯火類に関する車両の保安基準に抵触すること無く、夜間の車線逸脱警報機能を正常に確保する事ができる。
【0052】また、既設主前照灯の漏洩ビームの有無に関係無く車線逸脱警報機能を確保できるので、個々に仕様の異なる車両に対しても、簡単に車線逸脱警報装置の適用が可能であり、警報装置の汎用性を向上することが可能となる。
【0053】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車線逸脱警報装置の原理説明図である。
【図2】本発明に係る車線逸脱警報装置を実際の車両に組み込んだ時の構成概略図である。
【図3】本発明に係る車線逸脱警報装置に用いる電気系統を示した回路図である。
【図4】本発明に係る車線逸脱警報装置に用いる監視回路の実施例を示した図である。
【図5】従来例を説明するための概略図である。
【符号の説明】
1 車線検出手段
2(21,22) 主前照灯
3(31,32) 補助照明灯
4(41,42) 光検知センサ
5 監視回路
6 故障ウォーニングランプ
7 コントローラ
8(81,82) 警報装置
10 車両
A 主前照灯照射ビーム
B 補助照明灯照射ビーム
C 検出視野
図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両の直前を撮影する車線検出手段から得られた画像信号から路面上の車線を抽出し、該車線と該車両との距離が一定値以下になったとき方向指示操作が行われていなければ警報を発する車線逸脱警報装置において、該車線検出手段によって撮影される該車両直前路面を照射できるように該車両に設置され該車両の主前照灯の点灯と連動して非可視光線を発射する補助照明灯と、該非可視光線を検知する手段と、該非可視光線が検知されなかったとき該補助照明灯の故障として警報を発する回路と、を設けたことを特徴とする車線逸脱警報装置。
【請求項2】 該補助照明灯が、該非可視光線として紫外線及び赤外線のうちのいずれかを発射することを特徴とした請求項1に記載の車線逸脱警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【特許番号】特許第3203957号(P3203957)
【登録日】平成13年6月29日(2001.6.29)
【発行日】平成13年9月4日(2001.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−116877
【出願日】平成6年5月30日(1994.5.30)
【公開番号】特開平7−320200
【公開日】平成7年12月8日(1995.12.8)
【審査請求日】平成12年6月13日(2000.6.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【参考文献】
【文献】特開 平6−76200(JP,A)
【文献】特開 昭59−47663(JP,A)
【文献】実開 平3−121499(JP,U)