説明

車車間通信装置および車車間通信方法

【課題】CSMA方式によって車車間通信を行う場合に、互いにセンシングができない車両対の間でパケットが連続して衝突する確率を低くする。
【解決手段】車車間通信装置は、自車両の車速を取得する車速取得手段と、車速に応じた送信周期を格納する送信周期テーブルと、自車両の車速に応じた送信周期で無線通信を行う通信制御手段と、を備える。前記送信周期テーブルには、車速を複数のレベルに分けて、各レベルについて送信周期が格納されており、車速が遅くなるほど送信周期は長く、異なる車速レベルにおける送信周期の最小公倍数が、最も長い送信周期よりも大きい。また、各車速レベルの幅を5km/時以下とすることも好ましい。また、複数の異なる送信周期テーブルを有し、ランダム選択された送信周期テーブルに基づいて送信周期を決定することも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車車間通信装置および車車間通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車車間通信では、各車両が現在位置、走行速度、走行方向などの情報を周囲の車両に定期的に送信する。車車間通信のメディアアクセス制御方式の一つとしてCSMA(Carrier Sense Multiple Access)方式がある。CSMA方式は、各車両が共通の通信路(周波
数)を利用して通信路が空いているときに送信を開始する通信方式である。
【0003】
一定の周期でデータの送信を行う場合、交通量の多い環境ではきわめて大きな通信トラフィックが発生してしまう。そこで、通信量の削減を図るために、状況に応じてデータ送信頻度を変化させる技術が開示されている。特許文献1では、車両速度が遅い場合にデータ送信頻度を低くし、車両速度が速い場合にデータ送信速度を高くするアルゴリズムが提案されている。
【0004】
また、移動速度が遅い車両はそれほど頻繁に情報発信する必要がないことを考慮して、車両の移動速度に応じて送信周期を制御することも検討されている。ASV3検討資料(非特許文献1)では、車速に応じて図6Aに示すような送信周期を採用することを推奨している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−165806号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「先進安全自動車(ASV)推進計画報告書−第3期ASV計画における活動成果について」、国土交通省自動車交通局先進安全自動車推進検討会、平成18年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CSMA方式では、送信端末同士が隠れ端末の関係にあるなどして互いにセンシングできないときは、パケットの衝突が発生しうる。図6Aに示すような送信周期を採用した場合、高速時の送信周期と低速時の送信周期とが倍数関係にあるため、一度パケットの衝突が発生すると、連続して衝突が発生することになる(図6B)。たとえば、時速60kmの車両Aは150ミリ秒おきに送信し、時速20kmの車両Bは300ミリ秒おきに送信し、時速10kmの車両Cは600ミリ秒おきに送信する。そうすると、車両Aと車両Bの間では300ミリ秒おきに衝突が発生し、車両Aと車両Cの間では600ミリ秒おきに衝突が発生することになる。
【0008】
そこで、本発明は、CSMA方式によって車車間通信を行う場合に、互いにセンシングができない車両対の間でパケットが連続して衝突する確率を低くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る車車間通信装置は、自車両の車速を取得する車速取得手段と、車速に応じた送信周期を格納する送信周期テーブルと、自車両の車速に応じた送信周期で無線通信を行う通信制御手段と、を備える。ここで、送
信周期テーブルには、車速を複数のレベルに分けて、各レベルについて送信周期が格納されており、車速が遅くなるほど送信周期は長く、異なる車速レベルにおける送信周期の最小公倍数が、最も長い送信周期よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
互いの状態をセンシングできない装置間でパケットの衝突が発生した場合、再度パケットの衝突が発生するのは、両方の送信周期の最小公倍数の時間経過後である。そこで、上記のように異なる車速レベルに対する送信周期の最小公倍数を最も長い送信周期よりも大きくすることで、送信周期の最小公倍数が経過するまでは同一装置間で再びパケットの衝突が発生することを避けられる。
【0011】
なお、異なる車速レベルの送信周期の最小公倍数が大きいほど、再度の衝突が発生するまでの時間を長くとれる。したがって、送信周期の最小公倍数が、最大の送信周期の10倍以上となるようにすることが好ましい。なお、任意の2つの送信周期の組み合わせについて、その最小公倍数を最大送信周期の10倍以上となるような設計は困難な場合もある。したがって、全ての送信周期の組合せの80パーセント以上、より好ましくは90パーセント以上について、最小公倍数が最大送信周期の10倍以上とすれば、同一装置間でパケットの衝突が連続する確率を低減できる。
【0012】
また、本発明において、複数の車速レベルのそれぞれが、その幅を時速5km以下とすることが好ましい。すなわち、ある車速レベルが時速Vkm〜時速V+akmと定義される場合に、0<a≦5とすることが好ましい。なお、車速レベルの幅は全て一定にする必要はなく、互いに異なっていてもかまわない。
【0013】
互いの状態をセンシングできない装置が互いに同じ速度レベルで移動している場合には、送信周期が一致するため、次回以降の送信においてもパケットが衝突してしまう。そこで、同じ送信周期をとる速度の範囲(速度レベルの幅)を小さくすることで、異なる車両間で同一の送信周期をとる確率を小さくでき、連続してパケットが衝突する可能性を低くできる。なお、車速レベルの幅は時速5km以下としてもよく、例えば、時速1km単位で異なる送信周期をとるようにしても良い。
【0014】
さらに、本発明に係る車車間通信装置は、複数の異なる送信周期テーブルを有し、前記通信制御手段は、ランダムに選択された送信周期テーブルに基づいて得られる、自車両の車速に応じた送信周期で無線通信を行うことも好ましい。
【0015】
このようにすることで、各車車間通信装置の送信間隔はランダムな値をとることになり、したがって、パケットが連続して衝突する可能性を低くすることができる。
【0016】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する車車間通信装置として捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む車車間通信方法、およびこの方法を実行するプログラムとして捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、CSMA方式によって車車間通信を行う場合に、互いにセンシングができない車両対の間でパケットが連続して衝突する確率を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車車間通信装置の機能ブロック図
【図2】本発明の実施形態に係る車車間通信処理のフローチャート
【図3】第1の実施形態に係る送信周期テーブルの例
【図4】第2の実施形態に係る送信周期テーブルの例
【図5】第3の実施形態に係る送信周期テーブルの例
【図6】(A)従来技術に係る送信周期テーブルと、(B)その問題点
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
まず、本実施形態に係る車車間無線通信システムの概要を説明する。本実施形態における車車間無線通信システムでは、各車両に搭載された無線通信装置(車車間通信装置)が定期的に情報を送信する。送信する情報は、例えば、自車両に関する情報であり、自車両の位置、走行方向、走行速度などが含まれる。これらの情報は安全運転支援などに用いられる。ただし、車車間通信においてどのような情報がやりとりされ、また、それがどのような目的で利用されるかは、本発明においては限定されない。
【0021】
本実施形態における車載無線通信装置の構成を、図1を参照して説明する。車載無線通信装置は、アンテナ1、送受信部2、送信周期設定部3aを含む通信制御部3、車速センサ4、送信周期テーブル5を備える。
【0022】
送受信部2はアンテナ1を介して他車両からの車両情報を受信する受信手段として機能するとともに、周囲の車両に対して車両情報を送信する送信手段として機能する。この送受信部2は、具体的には、変復調処理やデジタル−アナログ変換処理、周波数変換処理などを行う。また、送受信部2は定期的に(一定周期で)車両情報の送信を行う。後述するように、この送信周期は自車両の車速に応じて変化するものである。
【0023】
本システムにおける各車両は、無線通信方式としてCSMA方式を採用している。CSMA方式では、パケットの送信に先立ってキャリアセンスを行い、通信路が空いていることが確認できてからパケットの送信が行われる。
【0024】
通信制御部3は、通信に関する制御全般を行うものであり、例えばCPU,ROM,RAMを含むコンピュータを主体として構成される。この通信制御部3は、送受信部2と接続され、送受信部2に車両の情報を送信させる制御を行う。例えば、キャリアセンスを行い、通信部2を通じて他車両の送信状態を検知し、通信チャネルがアイドルであれば送信を開始するよう制御する。
【0025】
また、通信制御部3は、送信周期を決定する送信周期設定部3aを備える。送信周期設定部3aは、車速センサ(車速取得手段)4から自車両の速度を取得し、送信周期テーブル5を参照して自車両の速度に応じた送信周期を取得する。通信制御部3は、送信周期設定部3aが取得した送信周期で送信を行うように送受信部2を制御する。
【0026】
図2は、本実施形態に係る車車間通信装置の通信処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートの処理は定期的に実行される。まず、送信周期設定部3aは、車速センサ4から自車両の速度を取得する(S10)。そして、送信周期テーブル5を参照して、自車両の速度に対応する送信周期を決定する(S20)。そして、通信制御部3が、決定された送信周期でパケット送信を行うように、送受信部2を制御する(S30)。なお、この一連の処理は、パケット送信を1回行う度に実行しても良いし、パケット送信を複数回(例えば、10回程度)行う度に実行しても良いし、定期的(例えば、1秒おき)に実行しても良い。
【0027】
図3は、本実施形態における送信周期テーブル5を示す。図に示すように、車速を複数
(ここでは7つ)のレベルに分けて、それぞれの車速レベルについて送信周期を格納している。図6(a)(ASV3検討資料)と比べると、車速が遅くなるほど送信周期が長くなる点と、車速を10または20km/時と荒く区切っている点は同様であるが、送信周期の値が任意のペアについて最小公倍数が大きくなるようにテーブルを定義している点で異なる。すなわち、2つの送信周期が倍数関係になることを避けるようにテーブルが定義されている。ここでは、任意の2つの送信周期についてその最小公倍数が、最も長い送信周期(時速10km未満の1199ミリ秒)よりも大きくなるようにしており、ほぼ全ての組合せについて最大送信周期の約10倍以上となるように定義している(例外は、99ミリ秒と119ミリ秒の組合せと、99ミリ秒と1199ミリ秒の組合せ)。すなわち、全21通りの組合せのうち19通り(約90%)において、送信周期の最小公倍数が、最大送信周期の10倍以上となっている。
【0028】
以上のように送信周期を設定することで、互いに相手の電波をセンシングできない状況で、隠れ端末問題が起因となる連続的なパケットの衝突を避けることができる。これにより、より品質の高い車車間通信を実現することができる。
【0029】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、送信周期テーブルの定義の仕方が第1の実施形態と異なり、その他の構成については第1の実施形態と同様であるので、共通する部分の説明は省略する。
【0030】
図4に本実施形態における送信周期テーブル5を示す。本実施形態においては、時速1km区切りで、それぞれの車速に対して送信周期が設定されている。このように車速レベルを細かく区切ることで、近い速度で走行する車両の間でも送信周期を異ならせることができ、連続的なパケットの衝突を回避できる。ここでは、車速を時速1kmごとに区切っているが、これは必ずしも必要ではなく、1つの車速レベルの幅にある程度の幅(例えば、時速5km以下)があっても同様の効果が得られる。なお、全ての車速レベルについて、その幅が一定である必要はなく、レベル幅が変動してもかまわない。
【0031】
本実施形態における送信周期テーブル5においても、異なる車速レベルにおける送信周期の最小公倍数が十分に大きな値となることが好ましい。大多数(80パーセント以上、さらに好ましくは90パーセント以上)の車速レベルのペアについて、最小公倍数が最大送信周期の約10倍以上となることが好ましい。
【0032】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、互いに相手の電波をセンシングできない状況で、隠れ端末問題が起因となる連続的なパケットの衝突を避けることができる。さらには、品質の高い車車間通信を実現できる。
【0033】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態は、送信周期テーブルの定義および利用の仕方が、第1および第2の実施形態と異なり、その他の構成については第1および第2の実施形態と同様であるので、共通する部分の説明は省略する。
【0034】
図5に本実施形態における送信周期テーブル5を示す。本実施形態においては、各車速レベルについて複数個との送信周期テーブル(ここでは5a、5b、5c、5dの4つ)が定義されている点に特徴がある。なお、図5では第1の実施形態と同様に車速レベルの幅を時速20kmごとに区切っているが、第2の実施形態と同様により細かく区切ってもかまわない。
【0035】
本実施形態においては、送信周期決定の際(図2のS20)に、複数の送信周期テーブ
ル5a,5b,5c,5dのうちどのテーブルを参照するかをランダムに選択することで、送信周期にランダム性を持たせる。例えば、時速90kmで走行中の車両は、送信周期として、117ミリ秒、119ミリ秒、121ミリ秒、123ミリ秒のいずれかをランダムに選択する。
【0036】
このように送信タイミングにランダム性を持たせることで、互いに相手の電波をセンシングできない状況で、隠れ端末が起因となる連続的パケットの衝突を避けることができる。従って、品質の高い車車間通信が実現できる。
【0037】
(その他)
上記では送信周期テーブルを用いた実装としているが、テーブルを持たずに速度の関数を保持して、この関数に従って送信周期を算出してもかまわない。また、上記で説明した実施形態は適宜組み合わせて実施しても良いことはもちろんである。
【符号の説明】
【0038】
1 アンテナ
2 送受信部
3 通信制御部
3a 送信周期設定部
4 車速センサ
5 送信周期テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の車速を取得する車速取得手段と、
車速に応じた送信周期を格納する送信周期テーブルと、
自車両の車速に応じた送信周期で無線通信を行う通信制御手段と、
を備え、
前記送信周期テーブルには、車速を複数のレベルに分けて、各レベルについて送信周期が格納されており、
車速が遅くなるほど送信周期は長く、
異なる車速レベルにおける送信周期の最小公倍数が、最も長い送信周期よりも大きい、
車車間通信装置。
【請求項2】
異なる車速レベルにおける送信周期の最小公倍数が、最も長い送信周期の10倍よりも大きい、
請求項1に記載の車車間通信装置。
【請求項3】
前記複数の車速レベルのそれぞれは、その幅が5[km/時]以下である、
請求項1又は2に記載の車車間通信装置。
【請求項4】
複数の異なる送信周期テーブルを有し、
前記通信制御手段は、ランダムに選択された送信周期テーブルに基づいて得られる、自車両の車速に応じた送信周期で無線通信を行う、
請求項1〜3のいずれかに記載の車車間通信装置。
【請求項5】
車速に応じた送信周期を格納する送信周期テーブルを備える車車間通信装置が、
自車両の車速を取得し、
自車両の車速に応じた送信周期で無線通信を行う
車車間通信方法であって、
前記送信周期テーブルには、車速を複数のレベルに分けて、各レベルについて送信周期が格納されており、
車速が遅くなるほど送信周期は長く、
異なる車速レベルにおける送信周期の最小公倍数が、最も長い送信周期よりも大きい、
車車間通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−120093(P2012−120093A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270360(P2010−270360)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】