説明

車載バッテリの冷却構造

【課題】側面衝突に対するクラッシャブルストロークとバッテリ搭載量とをともに確保した車載バッテリの冷却構造を提供する。
【解決手段】ケース内にバッテリセルを収容して構成され、車体の下部に搭載されるバッテリパック10,20と、バッテリパックに冷却用空気を導入する吸気ダクト110と、バッテリパックから出た冷却用空気を排出する排気ダクト120とを備える車載バッテリの冷却構造100を、吸気ダクトと排気ダクトとの少なくとも一方の一部114,115をバッテリパックの車幅方向における端部に沿って配置するとともに、車幅方向の入力に対する破壊強度をバッテリパックよりも低くした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載バッテリの冷却構造に関し、特に側面衝突に対するクラッシャブルストロークとバッテリ搭載量とをともに確保したものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン−電気ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車等の電動車両においては、リチウムイオン電池等の2次電池セルをケース内に収容したバッテリパックが搭載される。
車両が乗用車である場合には、このようなバッテリパックをキャビン床下部に搭載することによって、車両の低重心化を図るとともに、ラゲッジスペース等を確保することが提案されている。
【0003】
このような車載用のバッテリパックにおいては、充放電時の温度を適性範囲に維持してバッテリの劣化を防止する目的で、冷却装置を設けることが一般的である。
車載用バッテリパックの冷却に関する従来技術として、例えば特許文献1には、複数のバッテリを、間隔をおいて車両床下に搭載されるボックス内に収容するとともに、ボックスの前端部に外気導入口を設け、後端部に複数のファンを設けた電気自動車のバッテリ冷却装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、複数の電池モジュールからなる組電池の両側端部に吸気ダクト及び排気ダクトを設けて、組電池に水平方向に空気を流すようにした車載用の電池パックが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、複数の蓄電素子からなる蓄電モジュールを並べて配置し、その外側に空気の吸気ダクトを設けるとともに、内側に各蓄電モジュールの排出ダクトを隣接して配置した蓄電装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−99745号公報
【特許文献2】特開2006−324041号公報
【特許文献3】特開2010−33799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車載用バッテリパックは、車両の衝突時であっても圧壊することなく、バッテリセルを守ることが要求される。
しかし、バッテリパックを床下に搭載した場合、サイドフレームからバッテリパックまでのクラッシャブルストロークを確保しようとすると、バッテリパックの容量(車幅方向寸法)がクラッシャブルストローク分だけ小さくなり、車両の性能上必要となるバッテリセルを搭載することができなくなる。
【0008】
これに対し、バッテリパックの容積を確保しようとすると、バッテリパックの寸法を高さ方向に拡大しなければならず、車体の最低地上高の低下、あるいは、車体フロア面の高さを上げることによる居住性、積載性の悪化などが懸念される。
また、車高を上げた場合、最低地上高は既存の非電動車両並みであるにも関わらず、重心位置が高くなって走行性能が低下してしまう。
【0009】
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、側面衝突に対するクラッシャブルストロークとバッテリ搭載量とをともに確保した車載バッテリの冷却構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、ケース内にバッテリセルを収容して構成され、車体の下部に搭載されるバッテリパックと、前記バッテリパックに冷却用空気を導入する吸気ダクトと、前記バッテリパックから出た冷却用空気を排出する排気ダクトとを備える車載バッテリの冷却構造であって、前記吸気ダクトと前記排気ダクトとの少なくとも一方の一部を前記バッテリパックの車幅方向における端部に沿って配置するとともに、車幅方向の入力に対する破壊強度を前記バッテリパックよりも低くしたことを特徴とする車載バッテリの冷却構造である。
これによれば、車両の側面衝突時に吸気ダクト又は排気ダクトを圧壊させて、これらが配置されていたスペースをクラッシャブルスペースとすることによって、バッテリパックを保護しつつ車体のクラッシャブルストロークを確保することができる。
これによって、バッテリパックの幅を小さくしてクラッシャブルストロークを確保する必要性が小さくなり、バッテリパックの上下方向の寸法増大を防止し、最低地上高の低下、重心の向上、車室スペースの減少等を防止できる。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記バッテリパックは、前記車体の左右に分散して配置される左バッテリパック及び右バッテリパックを有し、前記吸気ダクトと前記排気ダクトとの一方は、少なくとも一部が前記左バッテリパック及び前記右バッテリパックの車幅方向外側の端部に沿って配置されるとともに、車幅方向の入力に対する破壊強度を前記バッテリパックよりも低くされることを特徴とする請求項1に記載の車載バッテリの冷却構造である。
これによれば、プロペラシャフト等を挟んでバッテリパックを左右に搭載する場合に、上述した効果を得ることができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記吸気ダクトと排気ダクトとの他方は、少なくとも一部が前記左バッテリパック及び前記右バッテリパックの車幅方向内側の端部に沿って配置されることを特徴とする請求項2に記載の車載バッテリの冷却構造である。
これによれば、各バッテリパック内に車幅方向に冷却風を流すことによって、各バッテリセルを通過する風量を均等化し、各バッテリセルの温度管理を適切に行なうことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、側面衝突に対するクラッシャブルストロークとバッテリ搭載量とをともに確保した車載バッテリの冷却構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した車載バッテリの冷却構造の実施例1の構成を示す模式図である。
【図2】本発明を適用した車載バッテリの冷却構造の実施例2の構成を示す模式図である。
【図3】本発明を適用した車載バッテリの冷却構造の実施例3の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、側面衝突に対するクラッシャブルストロークとバッテリ搭載量とをともに確保した車載バッテリの冷却構造を提供する課題を、バッテリパックの車幅方向における側端部に、破壊強度をバッテリパックのケースよりも低くした吸気ダクト又は排気ダクトを配置し、側面衝突時にこれを圧壊させてクラッシャブルストロークを確保することによって解決した。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明を適用した車載バッテリの冷却構造の実施例1について説明する。
図1は、実施例1の車載バッテリの冷却構造の構成を示す模式図であって、図1(a)は床下側から見た図を示す平面図であり、図1(b)は図1(a)のb−b部矢視断面図である(図2、図3において同じ)。
実施例1において、車両1は、例えば左右一対の前輪FW及び後輪RWを有する4輪の乗用車である。
車両1は、例えば、図示しないエンジン及びモータジェネレータを有し、モータジェネレータによる駆動アシスト及び回生発電を行うエンジン−電気ハイブリッド車である。
【0017】
車両1は、ホイールベース間においてフロアパネルの下部に吊り下げて搭載された左バッテリパック10、右バッテリパック20等を有する。
左バッテリパック10、右バッテリパック20は、モータジェネレータが発電する電力によって充電されるとともに、駆動アシスト時にモータジェネレータに電力を供給する2次電池を備えている。
左バッテリパック10、右バッテリパック20は、それぞれケース内に例えばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池等のバッテリセルを複数収容して構成されている。
【0018】
左バッテリパック10、右バッテリパック20は、車体の左右中央部に設けられ、プロペラシャフト、エキゾーストパイプ等を収容するフロアトンネルを挟んで左右に配置されている。
左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向外側の端部には、図示しない車体のサイドフレームが隣接して配置されている。
【0019】
また、左バッテリパック10、右バッテリパック20には、内部のバッテリセルを強制空冷する冷却装置100が設けられている。
なお、冷却装置100によって形成される冷却用空気の流れを図1に矢印で図示する。
冷却装置100は、吸気ダクト110、排気ダクト120を備えている。
吸気ダクト110は、外気を取り入れて左バッテリパック10、右バッテリパック20に供給する管路である。
排気ダクト120は、左バッテリパック10、右バッテリパック20内を通過した空気を外部に排出する管路である。
また、吸気ダクト110と排気ダクト120の少なくとも一方には、空気を強制的に搬送するブロワ装置が設けられる。
【0020】
吸気ダクト110は、空気取入部111、左前部112、右前部113、左側部114、右側部115等を備えている。
空気取入部111は、車体の床下側から外気を導入する管路である。
空気取入部111は、左バッテリパック10及び右バッテリパック20の前方側であって車幅方向中央部に、車両前後方向にほぼ沿って配置されている。
空気取入部111の前端部には、外気を取り入れる開口が設けられている。この開口端は、水等の侵入を防止するため、例えば他部よりも高い位置で上向きに配置する等の防水対策を施してもよい。
【0021】
左前部112、右前部113は、それぞれ空気取入部111の後端部から左右方向へ延びて形成されている。
左前部112、右前部113は、空気取入部111から導入された空気を、左側部114、右側部115の前端部に導く空気流路である。
左前部112、右前部113は、それぞれ左バッテリパック10、右バッテリパック20の前端部に隣接して配置されている。
【0022】
左側部114、右側部115は、それぞれ左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向外側の端部に沿って、車両1の前後方向にほぼ沿って配置されている。
左側部114、右側部115は、左前部112、右前部113の車幅方向外側の端部から、車両後方側へ突き出している。
左側部114、右側部115の車幅方向内側の部分と、左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向外側の部分とは、複数の連通孔を介して連通している。冷却用空気は、これらの連通箇所から各バッテリパック内に供給され、車幅方向にほぼ沿ってほぼ水平に車幅方向内側へ流れる。
【0023】
左側部114、右側部115は、車幅方向に作用する圧縮荷重に対する破壊強度が、左バッテリパック10、右バッテリパック20のケースに対して低くなるように材料、形状等を設定されている。
また、左側部114、右側部115の車幅方向に沿った横幅は、車体が側面衝突時に必要とするクラッシャブルストロークを考慮して設定される。
【0024】
排気ダクト120は、左側部121、右側部122、集合部123等を備えて構成されている。
左側部121、右側部122は、左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向内側の端部にほぼ沿って前後方向に延びている。
図1(b)に示すように、左側部121、右側部122は、車両前方に搭載される変速機から左右後輪RWの中央部に設けられるリアディファレンシャルに駆動力を伝達するプロペラシャフトSを挟んで配置されている。
【0025】
左側部121、右側部122の車幅方向外側の部分と、左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向内側の部分とは、複数の連通孔を介して連通している。
左側部121、右側部122には、これらの連通箇所を介し、左バッテリパック10、右バッテリパック20から出たセル冷却後の空気(排気)が導入される。
集合部123は、左側部121、右側部122の後端部に接続され、これらから出た排気を集合させて、車体の左右中央部近傍に設けられた排気口から外部へ排出するものである。
【0026】
以上説明した実施例1によれば、車両の側面衝突時に吸気ダクト110の左側部114又は右側部115を圧壊させて、これらが配置されていたスペースをクラッシャブルスペースとすることによって、左バッテリパック10、右バッテリパック20を保護しつつ車体のクラッシャブルストロークを確保することができる。
これによって、バッテリパックの幅を小さくしてクラッシャブルストロークを確保する必要性が小さくなり、バッテリパックの上下方向の寸法増大を防止し、最低地上高の低下、重心の向上、車室スペースの減少等を防止できる。
【実施例2】
【0027】
次に、本発明を適用した車載バッテリの冷却構造の実施例2について説明する。
なお、以下説明する各実施例において、従前の実施例と実質的に共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図2は、実施例2の車載バッテリの冷却構造の構成を示す模式図である。
実施例2においては、実施例1の冷却装置100の吸気ダクト110の空気取入部111、左前部112、右前部113に換えて、左側部114、右側部115の前部にそれぞれ独立した空気取入部116,117を設けている。
空気取入部116,117は、車両の前後方向にほぼ沿って延びた管路であって、前端部は開口するとともに、後端部は左側部114、右側部115の前端部に接続され連通している。
空気取入部116,117の後端部はクランク状に屈曲しており、空気取入部116,117の本体部は、左側部114、右側部115に対して車幅方向内側にオフセットして配置されている。
以上説明した実施例2においても、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0028】
次に、本発明を適用した車載バッテリの冷却構造の実施例3について説明する。
図3は、実施例3の車載バッテリの冷却構造の構成を示す模式図である。
実施例3においては、実施例1の冷却装置100の吸気ダクト110における左前部112、右前部113、左側部114、右側部115に換えて、空気取入部111の後端部に接続され連通した左側部118、右側部119を介して、左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向内側から車幅方向外側に向けて冷却用空気を流している。
左側部118、右側部119は、車両の前後方向にほぼ沿って延びるとともに、左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向内側の端部に沿わせて配置されている。
【0029】
また、排気ダクト120は、左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向外側の端部にそれぞれ設けられた左側部124、右側部125と、左側部124、右側部125の後方にそれぞれ設けられた左排気部126、右排気部127を有して構成されている。
左側部124、右側部125は、車両の前後方向にほぼ沿って延びるとともに、左バッテリパック10、右バッテリパック20の車幅方向外側の端部に沿わせて配置されている。
【0030】
左排気部126、右排気部127は、車両の前後方向にほぼ沿って延びるとともに、全端部が左側部124、右側部125の後端部に接続されている。
左排気部126、右排気部127の前端部は、クランク状に屈曲して形成され、左排気部126、右排気部127の本体部は、左側部124、右側部125に対して車幅方向内側にオフセットして配置されている。
左バッテリパック10、右バッテリパック20から出た排気は、左側部124、右側部125、左排気部126、右排気部127を通過して、左排気部126、右排気部127の後端部から外部に排出される。
以上説明した実施例3においても、側面衝突時に排気ダクト120の左側部126、右側部127を圧壊させることによって、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0031】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車載バッテリの冷却構造を構成する各部材の形状、構造、配置、材質、製法等は、上述した実施例のものに限定されず、適宜変更することが可能である。
例えば、バッテリパックの形状、配置や、冷却装置の吸気ダクト、排気ダクトの引き回し配置などは適宜変更することができる。
(2)実施例では、フロアトンネルを挟んで左右にバッテリパックを搭載しているが、車体の中央部にバッテリを搭載する構成としてもよい。この場合、車幅方向における一方に吸気ダクトを設け、他方に排気ダクトを設けて、これらを側面衝突時に圧壊させるようにしてもよい。
(3)実施例における車両は、例えばエンジン−電気ハイブリッド車であったが、本発明はこれに限らず、電源設備からの充電機能が付加されたプラグインハイブリッド車や、モータのみを走行用動力とする電気自動車等の他種の電動車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 車両 FW 前輪
RW 後輪 S プロペラシャフト
10 左バッテリパック 20 右バッテリパック
100 冷却装置
110 吸気ダクト 111 空気取入部
112 左前部 113 右前部
114 左側部 115 右側部
116 空気取入部 117 空気取入部
118 左側部 119 右側部
120 排気ダクト 121 左側部
122 右側部 123 集合部
124 左側部 125 右側部
126 左排気部 127 右排気部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内にバッテリセルを収容して構成され、車体の下部に搭載されるバッテリパックと、
前記バッテリパックに冷却用空気を導入する吸気ダクトと、
前記バッテリパックから出た冷却用空気を排出する排気ダクトと
を備える車載バッテリの冷却構造であって、
前記吸気ダクトと前記排気ダクトとの少なくとも一方の一部を前記バッテリパックの車幅方向における端部に沿って配置するとともに、車幅方向の入力に対する破壊強度を前記バッテリパックよりも低くしたこと
を特徴とする車載バッテリの冷却構造。
【請求項2】
前記バッテリパックは、前記車体の左右に分散して配置される左バッテリパック及び右バッテリパックを有し、
前記吸気ダクトと前記排気ダクトとの一方は、少なくとも一部が前記左バッテリパック及び前記右バッテリパックの車幅方向外側の端部に沿って配置されるとともに、車幅方向の入力に対する破壊強度を前記バッテリパックよりも低くされること
を特徴とする請求項1に記載の車載バッテリの冷却構造。
【請求項3】
前記吸気ダクトと排気ダクトとの他方は、少なくとも一部が前記左バッテリパック及び前記右バッテリパックの車幅方向内側の端部に沿って配置されること
を特徴とする請求項2に記載の車載バッテリの冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−67335(P2013−67335A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208833(P2011−208833)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】