説明

車載レーダ装置、及びターゲット認識方法

【課題】対向車からのレーダを直接受信するような強い干渉電波が生じる場合においても、干渉波の影響を最小限に抑えて、正確な測距や測角ができるレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置の送受信部100は、アンテナ素子101と、アンテナ素子101に対する信号の位相又は振幅の少なくとも一方を調整するウエイト調整部102と、加算部103とを備え、制御部104は、アンテナ部におけるレーダの送信又は受信を切り替える送受信制御部104cと、アンテナ部が受信した干渉波を検出する干渉波検出部104aと、干渉波検出部104aにおいて干渉波が検出された場合には、ウエイト調整部102を制御してアンテナ部における指向性のヌル点の方向を調整するヌル方向制御部104bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載レーダ装置に関し、特に、電波信号を送受信してターゲットの認識処理を行う車載レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載レーダ装置が搭載されている車が増加しており、将来的には運転の安全性をさらに向上させるためレーダ装置が標準化して装備される可能性もある。
【0003】
そして、レーダ装置を搭載した車両間では、互いのレーダ装置からの電波干渉や不要な電波である外来波の受信が生じて、この干渉波の影響を受けて、角度や距離等のターゲット検出が正確に行われなくなる可能性がある。
【0004】
このような干渉波の妨害を低減するために従来のパルスレーダ装置において、図8(a)に示すように、観測期間804において信号を受信後、次の送信を行うまでの期間に予め定めた閾値を越えた妨害電波を判定する妨害電波判定期間805を設け、妨害電波が検出された場合には、次のレーダ観測期間804において、その検出された妨害信号を除去するレーダ装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、不要な干渉波を除去する他の方法として、干渉波が存在する方向のみに指向性レスポンスの低いヌルを形成するヌル制御パターンがある(例えば、特許文献2参照)。このヌル制御パターンを実現する開口分布の算出アルゴリズムには種々の方法があり、位相のみを制御する方式と、位相及び振幅を制御する方式とがある。
【0006】
この特許文献2に示すレーダ装置においては、送信アンテナ、受信アンテナ共にデジタルビームウォーミングを使用する。その場合、送信アンテナのメインビームの向いている方向から所望の信号が反射され、受信アンテナに入るため、レーダ装置は、その他の方向から到来する電波を妨害電波と判断し、その方向にヌルを向ける。
【0007】
なお、この特許文献2に示すレーダ装置においては、到来波推定方法である最小ノルム法におけるLagrangeの未定定数法における拘束条件の項での条件を「受信アンテナのメインローブの方向が送信アンテナのメインローブに向いている方向と一致している」とし、その条件下で、最小電力になるための条件を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−111773号公報
【特許文献2】特開平3−148081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、干渉電波として対向車のレーダと干渉を起こした場合、干渉電波の到来方向、レベルや周波数等が検知できる場合でも、干渉電波の強度が所望の信号よりもはるかに強い場合、所望の信号が干渉波に埋没してしまい検出ができないという問題がある。
【0010】
図8(b)は、自車801と対向車803とがすれ違う場面での干渉電波を説明する図である。この場合、自車801が送信し先行車802に反射して返ってくる所望波801aよりも、対向車803が送信する干渉信号803aの方が車体801のレーダ装置が直接受信するために、強度レベルが強くなる。
【0011】
また、図7(a)は、このような自車が対向車とすれ違う場面での、所定の周波数帯域における所望の信号701と、妨害電波702と、実際に受信する妨害電波と所望信号との重ね合わせ信号703との強度レベルの関係を示す図である。
【0012】
所望の信号701は、強度の強い妨害電波702に完全に埋没し、さらに実際に受信する妨害電波と所望信号との重ね合わせ信号703にも完全に埋没している。この場合、後処理によって所望の信号701のみを再現することは非常に困難であるという問題がある。
【0013】
また、上記の特許文献2に示すレーダ装置においては、送信アンテナ側だけでなく、受信アンテナ側も位相器等の部品を数多く必要とするため、コストがかかり、さらに、メインローブを高速に振っている時に、送信アンテナと受信アンテナのメインローブが確実に同じ方向を向いているようにしなければならないという問題がある。
【0014】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであり、対向車からのレーダを直接受信するような強い干渉電波が生じる場合においても、干渉波の影響を最小限に抑えて、正確な測距や測角ができるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するために、本発明に係るレーダ装置は、送信信号及び受信信号を用いて障害物の検知を行う車載レーダ装置であって、アンテナ部と、前記アンテナ部に対する信号の位相又は振幅の少なくとも一方を調整するウエイト調整手段と、前記アンテナ部におけるレーダの送信又は受信を切り替える送受信制御手段と、前記アンテナ部が受信した干渉波を検出する干渉波検出手段と、前記干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、前記ウエイト調整手段を制御して前記アンテナ部における指向性のヌル点の方向を調整するヌル方向制御手段とを備え、前記送受信制御手段は、所定条件でレーダの送信を中止して、干渉波のみの受信を開始し、前記干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、前記ヌル方向制御手段は、干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整手段を制御し、前記送受信制御手段は、前記ヌル方向制御手段における前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開することを特徴とする。
【0016】
この構成により、所定条件において送受信制御手段は干渉波のみの検出を開始して、干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、ヌル方向制御手段において干渉波の到来方向にアンテナの指向性のヌル点を向け、その後送受信を再開できる。従って、強度の強い干渉波の影響を受けずにターゲットの認識処理を行うことが可能となる。
【0017】
また、本発明に係るレーダ装置の前記送受信制御手段は、前記所定条件として、測距を行っていない期間でレーダの送信を中止して干渉波の検出を開始し、前記干渉波検出手段は、受信波の位相から干渉波を検出し、前記ヌル方向制御手段は、前記干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整手段を制御し、前記送受信制御手段は、前記ヌル方向制御手段における前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開することを特徴とする。
【0018】
この構成により、送受信制御手段において干渉波の検出を開始する所定条件として測距を行っていない期間でレーダの送信を中止して干渉波の検出を開始して、干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、ヌル方向制御手段において干渉波の到来方向にアンテナの指向性のヌル点を向け、その後送受信を再開できる。
【0019】
また、本発明に係るレーダ装置の前記車載レーダ装置は、さらに、外部からの情報を取得する情報取得手段を備え、前記送受信制御手段は、前記情報取得手段において取得した情報に基づいて、電波干渉を起こす車両が近隣に存在すると判定した場合には、レーダの送信を中止して干渉波のみの検出を開始し、前記干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、前記ヌル方向制御手段は、干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整手段を制御し、前記送受信制御手段は、前記ヌル方向制御手段における前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開することを特徴とする。また、前記情報取得手段が取得する情報には、GPS情報又は車両周辺監視カメラの画像情報が含まれることを特徴とする。
【0020】
この構成により、送受信制御手段は、情報取得手段で取得するGPS情報又は車両周辺監視カメラの画像情報に基づいて干渉波の検出を開始して、干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、ヌル方向制御手段において干渉波の方向にアンテナの指向性のヌル点を向け、その後送受信を再開できる。従って、強度の強い干渉波の影響を受けずにターゲットの認識処理を行うことが可能となる。
【0021】
また、本発明に係るレーダ装置は、前記ヌル方向制御手段は、最小ノルム法又はMUSIC法を用いて干渉波の到来方向を検出して、前記ウエイト調整手段の位相及び振幅を調整することにより、前記検出された干渉波の方向に指向性のヌル点を向けることを特徴とする。
【0022】
この構成により、ヌル方向制御手段は、最小ノルム法又はMUSIC法を用いて干渉波の到来方向を検出して、アンテナの指向性のヌル点を干渉波の方向に向けることができ、干渉波の影響を受けずにターゲットの測距等を行うことが可能となる。
【0023】
なお、本発明に係る車載レーダ装置を構成する処理手段をステップとするターゲット認識方法として実現したり、それらステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、当該プログラムをDVD、CD−ROM等の記録媒体や通信ネットワーク等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るレーダ装置においては、所定条件やGPS情報等を用いて干渉波の検出を開始し、干渉波を受けていると判定される場合には干渉波到来方向に受信アンテナの指向性のヌルを向けることができるために、対向車等からの強い干渉電波の影響を受けずに、適切に障害物の測距及び測角を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態1に係るレーダ装置の説明図
【図2】実施の形態1に係るレーダ装置の送受信部及び制御部の機能ブロック図
【図3】実施の形態1に係るレーダ装置の動作手順を示すフローチャート
【図4】実施の形態2に係るレーダ装置の機能ブロック図
【図5】実施の形態2に係るレーダ装置の動作手順を示すフローチャート
【図6】実施の形態3に係るレーダ装置の動作手順を示すフローチャート
【図7】(a)従来の電波干渉を説明する図(b)最小ノルム法を説明する図
【図8】従来の電波干渉を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るレーダ装置の実施の形態に関して図面を参照しながら説明を行う。
(実施の形態1)
【0027】
図1は、本実施の形態1に係るレーダ装置の説明図である。なお、レーダ装置は、例えば、車載に搭載されるミリ波レーダ等であり、ミリ波を用いて、障害物までの距離を測定する距離測定機能や、障害物に対する速度を測定する速度測定機能を備える。
【0028】
図1(a)に示すように、送受信部100は、アンテナ素子101、ウエイト調整器102、及び加算器103を備えている。なお、本実施の形態1では例示のため3つのアンテナ素子101を図示したが、アレーアンテナでは複数(K個)のアンテナ素子を有している。
【0029】
そして、本実施の形態1に係るレーダ装置は、所定条件で干渉波の検出を開始し、干渉波200が検出された場合には、図1(b)に示すように、制御情報に従ってウエイト調整部102において位相調整や振幅調整することにより、干渉波200の到来方向に受信アンテナの指向性201のヌルを向けるものである。
【0030】
図2は、本実施の形態1に係るレーダ装置の送受信部100及び制御部104の機能ブロック図を示す。なお、本図においては、A/D変換部や、高速フーリエ変換により受信信号の周波数や到来方向を検出する信号処理部の図示は省略している。
【0031】
送受信部100は、アンテナ素子101、ウエイト調整器102、及び加算器103を備えている。
【0032】
アンテナ素子101は、複数(本図では3個)設けられて直線状リニアアレーアンテナを構成し、反射波及び干渉波を受信する。
ウエイト調整器102は、受信信号の位相を調整すると共に、制御部104からの制御情報に基づいて位相及び振幅を調整(ウエイト調整)することにより受信アンテナの指向性のヌル方向を変化させる。
加算器103は、ウエイト調整器102からの出力信号を加算して出力信号として制御部104側に出力する。
【0033】
制御部104は、干渉波検出部104a、ヌル方向制御部104b、及び送受信制御部104cを備えている。
【0034】
送受信制御部104cは、通常のレーダの送受信後に干渉波のみを受信する期間を開始するため、例えば所定期間において、送信波を送信せずに干渉波のみの検出を開始するように送受信部100のアンテナ切換を制御する。また、干渉波が検出されてアンテナの指向性のヌル点が干渉波方向に向けられた後においては、レーダの送受信を再開すべく送受信部100のアンテナ切換の制御を行う。
【0035】
干渉波検出部104aは、送受信制御部104cにおいて干渉波の検出が開始された後、干渉波の受信を検出すると共に、実際に干渉波が検出された場合に、後述する最小ノルム法等を用いて干渉波の到来方向を検出する。
【0036】
ヌル方向制御部104bは、干渉波検出部104aにおいて干渉波が発生していると検出された場合に、受信アンテナの指向性のヌル点を干渉波の方向に向けるための制御を行う。具体的には、ヌル方向制御部104bは、ウエイト調整器102に対する振幅及び位相の調整を、例えば以下のアルゴリズムを用いて行う。なお、受信部においてウエイト調整をして、到来電波の方向へヌルを向ける処理はレーダのターゲットの角度検知で行われている一般的な技術である。
【0037】
次に、アンテナが受信する干渉波(到来波)の方向を検出する方法について説明する。
ここではアレーアンテナによる測定データに信号処理を施すことによって、各到来波の到来方向を検出する。この到来波の方向推定方法には、例えば、アレー入力の相関行列の固有展開に基づく最小ノルム法(Min-Norm)やMUSIC法がある。
【0038】
なお、到来波推定方法の基本原理は、主としてビーム走査とヌル走査に分かれる。これはアレーアンテナのメインローブを使って到来波の方向サーチをするかヌル点を使って方向サーチをするかの違いである。
本実施の形態1に係るレーダ装置のヌル方向制御部104bは、例えば最小ノルム法やMUSIC法を用いて干渉波が来る方向を推定する。
【0039】
ここで、指向性のヌル点を干渉電波の方向に向けるための最小ノルム法について簡単に説明する。
K列のアンテナである複数の電波を受信する場合を考えると、任意のアンテナであるK番目のアンテナが受信する電波をXkと置くと(重み成分であるwを無視すると)アレーアンテナの出力yは式(1)となる。
【0040】
【数1】

しかし実際には個々のアンテナの振幅や位相といった重み成分を考える必要があり、その重み成分を複素数wで表すと、下記の式(2)となる。
【0041】
【数2】

なお、添え字(*)は複素数の虚数部の符号を反転することを意味している。
従って、電力は振幅の2乗になるために平均出力電力は、下記の式(3)となる。
【0042】
【数3】

次に、最小ノルム法の論理について説明を行う。
【0043】
到来波全てに対して、アンテナの指向性のヌルを向けるということは、出力電力が0になれば良いということになる。これを簡単に満たす条件としては、式(4)となれば良い。
【0044】
【数4】

しかし、この式(4)の条件では意味をなさないので、上記の条件以外に出力電力が最小になる条件を見つけるために、Lagrangeの未定乗数法を用いる。
【0045】
次に定義するQを最小にするwを見つけるため下記の式(5)を用いる。
【数5】

上記のように定義されたQを最小とするために条件は、下記の式(6)となる。
【0046】
【数6】

これは行列の固有値問題となり、wはRijの固有ベクトルとなっていることが分かる。従って、図7(b)に示すように、全ての到来波に対してヌルを向けるためには、Rijの固有ベクトルを求め、その固有ベクトルを重みとして、振幅と位相を調整することとなる。
【0047】
本実施の形態1においては、ヌル方向制御部104bがウエイト調整部102の位相や振幅を最小ノルム法のアルゴリズムを用いて調整することにより、図1に示すように、全ての干渉波(到来電波)の方向に指向性のヌル点を向ける処理を適切に行うことができる。
【0048】
また、到来波の方向を検出する他の手法として、MUSIC法がある。このMUSIC法とは、アレーアンテナに同時に到来する複数の電波の方向を測定できるアルゴリズムである。
【0049】
このMUSIC法による到来方向測定を簡単に説明すると、まずアレーアンテナ受信信号から得られる相関行列の固有値を求める。求めた固有値は到来電波によって信号固定値と雑音固定値に分けられ、雑音固定値に対応した雑音固定ベクトルを求める。求めた雑音固定ベクトルから角度スペクトラムを求めそれらの並列平均してMUSICスペクトラムを求め、電波の到来方向を推定することが可能となる。
【0050】
そして、このMUSIC法を用いても、干渉波の到来方向を推定して、ヌル方向制御部104bがウエイト調整部102に対して振幅や位相を調整する制御を行うことで、全ての干渉波に対してアンテナの指向性のヌル点を向けることが可能となる。
【0051】
図3は、本実施の形態1に係るレーダ装置の動作手順を示すフローチャートである。
最初に、送受信制御部104cは、規定された所定期間において、送信を中止して、干渉波のみの検出を開始する(ステップS301)。
次に、干渉波検出部104aは干渉波を受信したか否かを判定する(ステップS302)。
【0052】
そして、干渉波検出部104aが干渉波を受信したと判定した場合には(ステップS302でYES)、ヌル方向制御部104bは最小ノルム法等のアルゴリズムに基づいて干渉波の到来方向を検出してウエイト調整部102の位相及び振幅を調整して、干渉波の方向に受信アンテナの指向性のヌルを向ける処理を行う(ステップS303)。
【0053】
そして、指向性のヌル点を干渉波の方向に向けた後、送受信制御部104cは、通常のレーダの送受信を再開する(ステップS304)。なお、干渉波を受信していないと判定する場合には(ステップS302でNO)、アンテナにおける指向性のヌル点の制御を行わずに通常のレーダ送受信を再開する。
【0054】
以上の説明のように、本実施の形態1に係るレーダ装置は、通常のレーダ送受信の間、次の送信までの間の所定期間等において、レーダの送信を中止して干渉波の検知を開始する。
【0055】
そして干渉波検出部104aにおいて干渉波を検出した場合、最小ノルム法等の適用信号処理を行い干渉波の方向を検出して、ヌル方向制御部104bは受信アンテナの指向性のヌルを干渉波の来る方向に向けるようにウエイト調整部102を調整する。そして、ウエイト調整後に送受信制御部104は通常のレーダ送受信の処理を再開する。
【0056】
従って、対向車両から直接干渉波を受信する強い電波干渉が生じるような場合においても、干渉波の方向に指向性のヌル向けるため、強い干渉波の影響を無くして、干渉波を除去する演算処理を行わないで済む。また、ターゲットの認識に必要な所望波が強い干渉波に埋没してしまうことを防止し、所望波のみを取り出すことが可能となる。このため、本実施の形態1に係るレーダ装置においては、より正確なターゲットへの測距や測角が実現できる。
【0057】
(実施の形態2)
以下、本発明に係るレーダ装置の第二の実施の形態に関して説明を行う。
【0058】
図4は、本実施の形態2に係るレーダ装置の機能ブロック図を示し、上記実施の形態1と異なる処理部としてGPS(Global Positioning System)情報を取得する情報取得部401を有している。なお、その他の処理部に関しては、上記の実施の形態1に係るレーダ装置と同様のため、その説明を省略する。
【0059】
送受信制御部104cは、情報取得部401において取得したGPS情報(例えば車種や位置情報)に基づいて、近隣の車体が電波干渉を起こすレーダ装置を搭載している車種かどうかを判定して干渉波の検出を開始するように送受信部100を制御する。
【0060】
図5は、本実施の形態2に係るレーダ装置の動作手順を示すフローチャートである。
最初に、送受信部100は、通常のレーダの送受信を行い(ステップS501)、情報取得部401は、GPS情報を取得する(ステップS502)。
【0061】
そして、送受信制御部104cは、近くに電波干渉を起こす可能性のある車両が存在するか否か判断する(ステップS503)。
そして、干渉波を生じる可能性がある車両が存在する場合には(ステップS503でYES)、送受信制御部104cは、レーダの送信を中止して干渉波の受信を開始するように送受信部100の制御を行う(ステップS504)。
【0062】
次に、干渉波検出部104aが干渉波を受信したと判定した場合には(ステップS505でYES)、ヌル方向制御部104bは最小ノルム法等のアルゴリズムに基づいてウエイト調整部102の位相及び振幅を調整して、干渉波の方向に受信アンテナの指向性のヌルを向ける処理を行う(ステップS506)。
【0063】
そして、指向性のヌル点を干渉波の方向に向けた後、送受信制御部104cは、通常のレーダの送受信を再開する(ステップS507)。なお、近くに電波干渉を起こす可能性がある車両が存在しない場合や(ステップS503でNO)、干渉波を受信していないと判定する場合には(ステップS505でNO)、アンテナにおける指向性のヌル点の制御を行わずに通常のレーダ送受信を再開する。
【0064】
以上の説明のように、本実施の形態2に係るレーダ装置においては、送受信制御部104cは、情報取得部401からGPSの情報から自車の近くに電波干渉を起こす可能性のある車両が存在するという情報を取得した場合に送信を一旦中止して、干渉波のみを受信する制御を開始する。そして、干渉波検出部104aにおいて干渉波が検出された場合に、ヌル方向制御部104bはウエイト調整部102を調整して受信アンテナの指向性のヌル点を変化させる。
【0065】
このため、対向車両等からの強い干渉波の影響を無くして、干渉波を除去する演算処理を行わないで済むと同時に、所望波が干渉波に埋もれてしまうことを防止し、所望波のみを取り出すことが可能となり、本実施の形態2に係るレーダ装置を用いて、より正確なターゲットへの測距等が可能となる。
【0066】
(実施の形態3)
以下、本発明に係るレーダ装置の第三の実施の形態に関して説明を行う。なお、本実施の形態3に係るレーダ装置の機能ブロック図に関しては上記の実施の形態2に係るレーダ装置に示す図4と同様であるためにその説明を省略する。
【0067】
なお、本実施の形態3に係るレーダ装置は、情報取得部401が取得する情報が、周辺監視用カメラからの画像情報であることを特徴としている。これは、車載用ミリ波レーダのみを用いるのではなく、周辺監視用カメラとの組み合わせによって多様なアプリケーションに対応できるためである。
【0068】
図6は、本実施の形態3に係るレーダ装置の動作手順を示すフローチャートである。
最初に、送受信部100は、通常のレーダの送受信を行い(ステップS601)、情報取得部401は、周辺監視カメラから画像情報を取得する(ステップS602)。
そして、送受信制御部104cは、近くに電波干渉を起こす可能性のある車両が存在するか否か判断する(ステップS603)。
【0069】
そして、干渉波を生じる可能性がある車両が存在する場合には(ステップS603でYES)、送受信制御部104cは、レーダの送信を中止して干渉波の受信を開始するように送受信部100の制御を行う(ステップS604)。
【0070】
次に、干渉波検出部104aが干渉波を受信したと判定した場合には(ステップS605でYES)、ヌル方向制御部104bは最小ノルム法等のアルゴリズムに基づいてウエイト調整部102の位相及び振幅を調整して、干渉波の方向に受信アンテナの指向性のヌルを向ける処理を行う(ステップS606)。
【0071】
そして、指向性のヌル点を干渉波の方向に向けた後、送受信制御部104cは、通常のレーダの送受信を再開する(ステップS607)。なお、近くに電波干渉を起こす可能性がある車両が存在しない場合や(ステップS603でNO)、干渉波を受信していないと判定する場合には(ステップS605でNO)、アンテナにおける指向性のヌル点の制御を行わずに通常のレーダ送受信を再開する。
【0072】
以上の説明のように、本実施の形態3に係るレーダ装置においては、送受信制御部104cは、情報取得部401から周辺監視カメラの画像情報から自車の近くに電波干渉を起こす可能性のある車両が存在するという情報を取得した場合に送信を一旦中止して、干渉波のみを受信する制御を開始する。そして、干渉波検出部104aにおいて干渉波が検出された場合に、ヌル方向制御部104bはウエイト調整部102を調整して受信アンテナの指向性のヌル点を変化させる。
【0073】
このため、対向車両等からの強い干渉波の影響を無くして、干渉波を除去する演算処理を行わないで済むと同時に、所望波が干渉波に埋もれてしまうことを防止し、所望波のみを取り出すことが可能となり、本実施の形態3に係るレーダ装置を用いて、より正確なターゲットへの測距等が可能となる。
【0074】
なお、情報取得部401が取得する情報は、GPS情報や周辺カメラの画像情報に限定されるものではなく、ETC車載器、電波ビーコンや光ビーコンの車両感知器等を用いたVICS(Vehicle Information and Communication System)により提供される情報、車載情報サービス向け携帯電話機を用いた情報等も考え得る。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係るレーダ装置は、移動体である車載用のレーダ装置として、例えば、パルスレーダ装置、CWレーダ装置やFM−CWレーダ装置に適用できる。
【符号の説明】
【0076】
100 送受信部
101 アンテナ素子
102 ウエイト調整器
103 加算器
104 制御部
104a 干渉波検出部
104b ヌル方向制御部
104c 送受信制御部
401 情報取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号及び受信信号を用いて障害物の検知を行う車載レーダ装置であって、
アンテナ部と、
前記アンテナ部に対する信号の位相又は振幅の少なくとも一方を調整するウエイト調整手段と、
前記アンテナ部におけるレーダの送信又は受信を切り替える送受信制御手段と、
前記アンテナ部が受信した干渉波を検出する干渉波検出手段と、
前記干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、前記ウエイト調整手段を制御して前記アンテナ部における指向性のヌル点の方向を調整するヌル方向制御手段とを備え、
前記送受信制御手段は、所定条件でレーダの送信を中止して、干渉波のみの受信を開始し、
前記干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、前記ヌル方向制御手段は、干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整手段を制御し、
前記送受信制御手段は、前記ヌル方向制御手段における前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開する
ことを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項2】
前記送受信制御手段は、前記所定条件として、測距を行っていない期間でレーダの送信を中止して干渉波の検出を開始し、
前記干渉波検出手段は、受信波の位相から干渉波を検出し、
前記ヌル方向制御手段は、前記干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整手段を制御し、
前記送受信制御手段は、前記ヌル方向制御手段における前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開する
ことを特徴とする請求項1記載の車載レーダ装置。
【請求項3】
前記車載レーダ装置は、さらに、
外部からの情報を取得する情報取得手段を備え、
前記送受信制御手段は、前記情報取得手段において取得した情報に基づいて、電波干渉を起こす車両が近隣に存在すると判定した場合には、レーダの送信を中止して干渉波のみの検出を開始し、
前記干渉波検出手段において干渉波が検出された場合には、前記ヌル方向制御手段は、干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整手段を制御し、
前記送受信制御手段は、前記ヌル方向制御手段における前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の車載レーダ装置。
【請求項4】
前記情報取得手段が取得する情報には、GPS情報又は車両周辺監視カメラの画像情報が含まれる
ことを特徴とする請求3記載の車載レーダ装置。
【請求項5】
前記ヌル方向制御手段は、最小ノルム法又はMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いて干渉波の到来方向を検出して、前記ウエイト調整手段の位相及び振幅を調整することにより、前記検出された干渉波の方向に指向性のヌル点を向ける
ことを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の車載レーダ装置。
【請求項6】
送信信号及び受信信号を用いて障害物の検知を行う車載レーダ装置に用いるターゲット認識方法であって、
アンテナ部に対する信号の位相又は振幅の少なくとも一方を調整するウエイト調整ステップと、
前記アンテナ部におけるレーダの送信又は受信を切り替える送受信制御ステップと、
前記アンテナ部が受信した干渉波を検出する干渉波検出ステップと、
前記干渉波検出ステップにおいて干渉波が検出された場合には、前記ウエイト調整ステップを制御して前記アンテナ部における指向性のヌル点の方向を調整するヌル方向制御ステップとを含み、
前記送受信制御ステップにおいては、所定条件でレーダの送信を中止して、干渉波のみの受信を開始し、
前記干渉波検出ステップにおいて干渉波が検出された場合には、前記ヌル方向制御ステップにおいては、干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整ステップを制御し、
前記送受信制御ステップにおいては、前記ヌル方向制御ステップにおける前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開する
ことを特徴とするターゲット認識方法。
【請求項7】
前記送受信制御ステップにおいては、前記所定条件として、測距を行っていない期間でレーダの送信を中止して干渉波の検出を開始し、
前記干渉波検出ステップにおいては、受信波の位相から干渉波を検出し、
前記ヌル方向制御ステップにおいては、前記干渉波検出ステップにおいて干渉波が検出された場合には干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整ステップを制御し、
前記送受信制御ステップにおいては、前記ヌル方向制御ステップにおける前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開する
ことを特徴とする請求項6記載のターゲット認識方法。
【請求項8】
前記ターゲット認識方法は、さらに、
外部からの情報を取得する情報取得ステップを含み、
前記送受信制御ステップにおいては、前記情報取得ステップにおいて取得した情報に基づいて、電波干渉を起こす車両が近隣に存在すると判定した場合には、レーダの送信を中止して干渉波のみの検出を開始し、
前記干渉波検出ステップにおいて干渉波が検出された場合には、前記ヌル方向制御ステップは、干渉波の方向に前記アンテナ部における指向性のヌル点を向けるよう前記ウエイト調整ステップを制御し、
前記送受信制御ステップにおいては、前記ヌル方向制御ステップにおける前記ヌル点の制御の後に、レーダの送受信を再開する
ことを特徴とする請求項7記載のターゲット認識方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−181182(P2010−181182A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22747(P2009−22747)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】