説明

車載レーダ装置

【課題】付着物検知手段で、レドームの付着物が検出された場合に、付着物が一時的にレドームに付着している状態か、定常的にレドームに付着している状態かを判別する車載レーダ装置を得る。
【解決手段】付着物検知手段16はレドーム6の付着物7による反射波の時間的変動を検出するレドーム反射変動検出部を備え、付着物検出手段16によりレドーム6の付着物7が検出された場合に、レドーム反射変動検出部により、レドーム6の付着物7による反射波の時間的変動が大きいときは、レドーム6に一時的に付着物7が付着したと判断し、レドーム6の付着物7による反射波の変動が小さいときは、レドーム6に定常的に付着物7が付着したと判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車載レーダ装置に関し、レドームの付着物で反射された反射波からレーダの付着物による性能低下を検知する付着物検知手段を有するものに係わる。
【背景技術】
【0002】
車両などに搭載される車載レーダ装置は、他車との車間距離や相対速度を計測し、ACC(Adaptive Cruise Control)、先行車との衝突軽減・防止装置などのために利用され
ている。前記用途の車載レーダ装置には、周波数変調連続波(FMCW:Frequency Modulated Continuous Wave)を多く利用している。このような従来の車載レーダ装置は、非
特許文献1や非特許文献2に記載されている。車載レーダ装置では、レーダ前面に設置されたカバー(以降レドーム:radomeと称す)に雨や雪又は汚れ等の電波を吸収・反射する付着物が付着した場合、レーダ性能が低下し、システムを正常に動作させることができなくなる。
【0003】
レドームに雨や雪又は汚れ等の付着物が付着しレーダ性能が低下したことを検知する装置として、特許文献1のような装置が知られている。この装置では、レドームに対する雨や雪又は汚れの付着時にはレドームによる反射波の受信レベルが増加することを利用して、低周波成分の受信レベルが一定値を超えた場合に付着物を検知し、このような場合にはACCなどのシステム動作を停止し、ユーザーに汚れを落とすように通知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−160836号公報
【特許文献2】特開2009−250640号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Introduction to Radar Systems M.I.SKOLNIK, McGRAW-HILL BOOKCOMPANY, INC. (1962)
【非特許文献2】RADAR HANDBOOK M.I.SKOLNIK, McGRAW-HILL BOOK COMPANY, INC. (1970)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、雨や雪などが降り続いている場合には、一時的にレドームにこれらの付着物が付着し、レーダ性能が低下するが、雨や雪又は汚れ等であれば、走行時の風圧により、雨や雪が止めば自然にこれらの付着物はレドームから吹き飛ばされ、レーダ性能が元に戻る。また、ユーザーに汚れを落とすよう通知し、ユーザーが汚れを落としたとしても、雨や雪が降り続いている状態であれば、また雨や雪がレドームに付着して、再度レーダ性能が低下し、また付着物を落とすよう通知することになり、ユーザーはわずらわしさを感じることとなる。
【0007】
また、雨や雪が止んでいた場合には、風圧で自然に吹き飛ばされるため、やはり付着物を落とす作業は不要となることが多い。このようなわずらわしさを改善するため、例えば、特許文献2のように、付着物を落としてから、再度付着物が検知されるまでの経過時間により、付着物を落とすように通知するか否かを判断する装置があるが、一度はユーザーが付着物を落とす作業が発生してしまう。また、特許文献1では、低周波成分の受信レベルが一定値を超えている時間が所定の判定時間以上となった場合に、付着物を検知するこ
とにより、様々なノイズなどによる誤検知を防ぐことが可能である。しかし一時的に付着物がレドームに付着し、すぐに風などで除去される場合、一時的な付着物による検知をしないようにするためには、判定時間を付着物がレドームに付着している時間よりも大きくする必要があるが、付着している時間は不定である。判定時間を大きくすればするほど、誤検知する確率を下げることができるが、真に検知すべき付着物においても、これを検知するまでの時間が長くなってしまう。
【0008】
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、雨や雪又は汚れ等の付着物が一時的にレドームに付着している状態を判別することで、真にユーザーが付着物を落とす作業が必要かどうかを判断することができる付着物検知手段を有する車載レーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係わる車載レーダ装置は、送信波を放射し対象物で反射された反射波を受信することにより対象物を検知し、本体を保護するレドームの付着物で反射された反射波から付着物検知手段でレーダの付着物による性能低下を検知する車載レーダ装置において、前記付着物検知手段は前記レドームの付着物による反射波の時間的変動を検出するレドーム反射変動検出部を備え、前記付着物検出手段により前記レドームの付着物が検出された場合に、前記レドーム反射変動検出部により、前記レドームの付着物による反射波の時間的変動が大きいときは、前記レドームに一時的に付着物が付着したと判断し、前記レドームの付着物による反射波の変動が小さいときは、前記レドームに定常的に付着物が付着したと判断するものである。
【0010】
また、この発明に係わる車載レーダ装置は、上昇・下降を繰り返す周波数をもった変調波である送信波を放射し、対象物で反射された反射波を受信し、送信波の周波数と反射波の周波数との周波数差を持つビート信号から前記対象物の距離と相対速度を算出し、本体を保護するレドームの付着物で反射された反射波から付着物検知手段でレーダの付着物による性能低下を検知する車載レーダ装置において、前記付着物検知手段は送信波の周波数と前記レドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の時間的変動を検出するレドーム反射変動検出部を備え、前記付着物検出手段により前記レドームの付着物が検出された場合に、前記レドーム反射変動検出部により、前記ビート信号の低周波成分の時間的変動が大きいときは、前記レドームに一時的に付着物が付着したと判断し、前記ビート信号の低周波成分の時間的変動が小さいときは、前記レドームに定常的に付着物が付着したと判断するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明の車載レーダ装置によれば、付着物検知手段で、レドームの付着物が検出された場合に、付着物が一時的にレドームに付着している状態か、定常的にレドームに付着している状態かを判別することで、真にユーザーが付着物を落とす作業が必要かどうかを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1における車載レーダ装置を示す構成図である。
【図2】レドームの付着物による反射波に変動があるときの、ビート信号のFET結果を示した図である。
【図3】レドームの付着物による反射波に変動がないときの、ビート信号の低周波成分の位相及び位相差を示した図である。
【図4】レドームの付着物による反射波に変動があるときの、ビート信号の低周波成分の位相及び位相差を示した図である。
【図5】実施の形態1の車載レーダ装置における付着物検知手段の信号処理を説明するフローチャートである。
【0013】
【図6】実施の形態2の車載レーダ装置における付着物検知手段の信号処理を説明するフローチャートである。
【図7】実施の形態3の車載レーダ装置における付着物検知手段の信号処理を説明するフローチャートである。
【図8】実施の形態4の車載レーダ装置における付着物検知手段の信号処理を説明する前半のフローチャートである。
【図9】実施の形態4の車載レーダ装置における付着物検知手段の信号処理を説明する後半のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における車載レーダ装置を示す構成図である。図1にお
いて、1は車載レーダ装置、2は車載レーダ装置を制御し、信号処理を行うCPU、3はCPU2からの指令により、送信信号の周波数の上昇、下降を制御するVCO、4はVCOが発生した送信信号を送信アンテナ5とミキサ10へ分配する分配器、5は送信波を車載レーダ装置1の外部に放射する送信アンテナ、6は車載レーダ装置を覆い保護するレドーム、7はレドーム6に付着した雨滴や雪又は汚れなどの付着物、8は車載レーダ装置1が検出する対象物、9は対象物8で反射した反射波を受信する受信アンテナであり、ここでは2つの受信アンテナを持つ。
【0015】
10は受信アンテナ9で受信した受信信号(反射波)を分配器4で分配された送信信号(送信波)とミキシングし、対象物8の距離,速度,方位に応じたビート信号を発生するミキサ、11はミキサ10が発生したビート信号を増幅するアンプ、12は不要な高周波成分を除去するローパスフィルタ(LPF)、13はローパスフィルタの出力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するA/D変換器、14はA/D変換器13が出力したデジタル信号を各受信アンテナ毎に高速フーリエ変換(FFT)を行うFFT処理部、15はFFT処理部14が出力するFFT結果から対象物8の距離,速度,方位を算出する対象物算出部、16はFFT処理部14が出力されるFFT結果から付着物検知処理を行う付着物検知手段、17は対象物算出部15及び付着物検知手段16の処理結果を基にACC制御信号を演算するACC処理部、18は車載レーダ装置1からの情報に応じて、ユーザーへ情報を通知するユーザーインターフェース装置、19はACC処理部17が算出した処理結果に基づきエンジン制御を行うエンジン制御ECU、20はACC処理部17が算出した処理結果にもとづき、ブレーキ制御を行うブレーキ制御ECUである。21は車載レーダ装置1と各ECU間の通信を行う車内LANである。
【0016】
次にこの車載レーダ装置を利用したACCシステムの動作について説明する。CPU2からの制御信号にしたがい、VCO3は送信周波数を所定の周期で上昇と下降を繰りかえす。VCO3の出力信号は分配器4で分配され、送信アンテナ5に送られる。送信アンテナ5から送信波が発信され、レドーム6を通って車載レーダ装置1の外部へと発信される。送信波は対象物8で反射し、反射波が再びレドーム6を通って2つの受信アンテナ9(受信アンテナI,II)で受信される。また、一部の送信波はレドーム6や雨滴7で反射し、2つの受信アンテナ9で受信される。受信アンテナ9で受信した信号と分配器4で分配した送信信号をミキサ10でミキシングしビート信号を得る。ビート信号はアンプ11で増幅され、LPF12で不要な周波数は除去され、A/D変換器13でアナログからデジタル信号に変換され、CPU2へ入力される。
【0017】
CPU2内のFFT部14で各受信アンテナで受信したビート信号に対しFFTを行う。対象物算出部15では送信周波数上昇時のビート信号と送信周波数下降時のビート信号それぞれの周波数成分の組合せから、対象物の距離,速度を算出する。方位は受信信号間の位相差もしくは受信レベルの和と差から算出する。距離,速度,方位の算出方法については、非特許文献1,非特許文献2,特許文献1等に記載されている。ACC処理部17は対象物算出部15から出力される対象物の距離,速度,方位や車内LAN経由で得られる自車両の速度,進行方向などを元に車両制御信号を算出する。車内LANを通じて情報が送信され、エンジン制御ECU19やブレーキ制御ECU20が動作し、加減速制御が行われる。この際、付着物検知手段16の出力に応じて、ACC制御部17はACC制御を中断したり、ユーザーインターフェース部18に付着物を除去するようユーザーに促す通知を送ったり、ACC制御が中断したことをユーザーに通知したりする。以上の処理が一定周期毎に繰り返される。
【0018】
次に付着物検知手段16について説明する。雨や水分を含んだ雪又は汚れ等の付着物が、本体を保護するレドームに一時的に付着している状態を判別するために、実施の形態1ではレドームの付着物による電波の反射波が時間的に変化することを利用する。
【0019】
つまり、付着物が確実に付着しており、ユーザーが汚れを取り除く処置が必要な状態では、レドームへの付着物の付着は定常的となる。この場合は、送信波の周波数とレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の受信レベルが高く安定して時間的変動が小さくなる。もしくは前記ビート信号の低周波成分の位相の時間的変動が小さくなる。又は、第1,第2受信アンテナI,IIを有し、送信波の周波数
と第1の受信アンテナIで受信したレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差
を持つビート信号の低周波成分の位相と、送信波の周波数と第2の受信アンテナIIで受信したレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の位相との、位相差の時間的変動が小さくなる。
【0020】
前記ビート信号の低周波成分の位相は図3のように安定した値を取り、第1,第2受信アンテナI,IIを持つ車載レーダ装置の場合には、各受信アンテナで受信した反射波のそ
れぞれに基因した前記ビート信号の低周波数成分の各位相の位相差は反射波の到来方向に依存した値となるが、その位相差も図3のように安定した値をとることになる。
【0021】
これに対して、雨や水分を含んだ雪又は汚れ等の付着物がレドームに一時的に付着している状態では、レドームへの付着物の付着具合は不安定であり、レドームからの電波の反射波もレドームに付着している付着物の付着具合に応じて変化する。この場合は、送信波の周波数とレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分として現れ、図2のように低周波成分(周波数が0近傍)の受信レベルが変動して時間的変動が大きくなる。もしくは前記ビート信号の低周波成分の位相の時間的変動が大きくなる。又は第1,第2受信アンテナI,IIを有し、送信波の周波数と第1の受信アン
テナIで受信したレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号
の低周波成分の位相と、送信波の周波数と第2の受信アンテナIIで受信したレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の位相との、位相差の時間的変動が大きくなる。
【0022】
前記ビート信号の低周波成分の位相は図4のように不安定した値を取り、第1,第2受信アンテナI,IIを持つ車載レーダ装置の場合には、各受信アンテナで受信した反射波の
それぞれに基因した前記ビート信号の低周波数成分の各位相の位相差は反射波の到来方向に依存した値となるが、その位相差も図4のように不安定な値をとることになる。
【0023】
次に付着物検知手段16で行われる付着物検知処理について、図5のフローチャートに沿って説明する。まず、ステップS101で時刻tにおけるFFT結果のうち低周波成分
(領域)の受信レベルAmp[t]と、あらかじめ設定された閾値とを比較する。閾値より小さ
い場合、時刻tでの付着物検知処理は終了する。閾値以上の場合(レドームの付着物が検
出された場合)、ステップS102に進む。
【0024】
次にステップS102で時刻t及び前測定周期の時刻t-1での低周波領域の受信レベルの変化量AmpDiff[t]を式(1)のように算出する。
AmpDiff[t] = | Amp[t] ― Amp[t-1] | ・・・(1)
次にステップS103で過去n回の測定周期における“低周波領域の受信レベルの変化量の平均”AmpDiffAve[t]を式(2)のように算出する。
【0025】
【数1】

【0026】
この“低周波領域の受信レベルの変化量の平均”はレドームからの反射波の変動が大きいほど値が大きくなる。このとき雨や水分を含んだ雪又は汚れ等の付着物が一時的にレドームに付着している状態と推定される。
【0027】
次にステップS104で“低周波領域の受信レベルの変化量の平均” AmpDiffAve[t]とあらかじめ設定された閾値とを比較し、閾値以上の場合は、雨や水分を含んだ雪又は汚れなどの付着物が一時的に付着していると判断し、ステップS105でACCシステムを停止する(レーダを不動作状態にする)のみとする。
【0028】
また、ステップS104で“低周波領域の受信レベルの変化量の平均” AmpDiffAve[t]が閾値より小さいと判定された場合は、付着物が定常的にレドームに付着していると判断し、ステップS106でACCシステムを停止し、ステップS107でユーザーインターフェース装置18を通じてユーザーに付着物を除去するよう促す報知を行う。レドーム反射変動検出部は、ステップS102〜ステップS104のソフトウエアで構成される。
【0029】
また、レドームの付着物による反射の変動が大きいときは、前記“低周波領域の受信レベルの変化量の平均”AmpDiffAve[t]の変動は大きいと考えられるため、測定周期ごとに
閾値より大きくなったり、小さくなったりすることもあり得る。このような場合にも確実に反射の変動を検知するために、一旦閾値を超えた場合には一定時間は閾値より小さい場合にも変動が大きいとみなすようにしても良い。また、低周波領域の受信レベルの変化量の平均を閾値と比較するため、ノイズに対して強い。
【0030】
また、実施の形態1では、車載レーダ装置の方式としてFMCW方式を採用したが、FMパルスドップラ方式やその他の方式を採用しても良い。
また、実施の形態1では、アンプ11を一箇所のみ配置しているが、VCO3から送信アンテナ5間や、受信アンテナ9からA/D変換器13までの間にアンプをさらに配置しても良い。また、実施の形態1では、車載レーダ装置を利用したACCシステムについて記載したが、車載レーダ装置を利用した他の車両制御システムについても同様の方法をとっても良い。
【0031】
以上のように、実施の形態1における車載レーダ装置では、レドームの付着物が検出された場合に、レドームの付着物が定常的に付着しているときには、確実にACC制御を停止し、付着物を除去することをユーザーに通知し、雨や水分を含んだ雪又は汚れなどの付着物が一時的に付着しているときには、ACCなどのシステム動作を停止するのみで、付
着物を除去する通知はしないようにすることで、ユーザーのわずらわしさを軽減することができる。
【0032】
実施の形態2.
図6は実施の形態2の車載レーダ装置における付着物検知手段16の付着物検知処理を示すフローチャートである。実施の形態2の車載レーダ装置を利用したACCシステムのブロック構成は実施の形態1と同様である。
【0033】
まず、ステップS201で時刻tにおけるビート信号のFFT結果のうち低周波成分(
領域)の受信レベルAmp[t]と、あらかじめ設定された閾値とを比較する。閾値より小さい場合、時刻tでの付着物検知処理は終了する。閾値より大きい場合(レドームの付着物が
検出された場合)、ステップS202に進む。
【0034】
次にステップS202でビート信号のFFT結果のうち低周波領域について、受信アンテナI,受信アンテナIIに基因するビート信号の低周波領域の位相差Δθ[t]を式(3)より求める。ここで、θ1[t]は、送信波の周波数と受信アンテナIで受信したレドームの付
着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の位相であり、θ2[t]は、送信波の周波数と受信アンテナIIで受信したレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の位相である。
Δθ[t] = θ1[t] − θ2[t] ・・・(3)
【0035】
次にステップS203で時刻t及び前測定周期の時刻t-1での各受信アンテナI,IIに基
因したビート信号の周波数成分の低周波領域の位相差から、位相差の変化量Δθdiff[t]
を式(4)のように算出する。
Δθdiff[t] = Δθ[t] − Δθ[t-1] ・・・(4)
【0036】
次にステップS204で過去n回の測定周期における、位相差の変化量の平均ΔθdiffAve[t]を式(5)のように算出する。
【0037】
【数2】

【0038】
この“位相差の変化量の平均” ΔθdiffAve[t]はレドームの付着物からの反射波の変
動が大きいほど値が大きくなる。このとき雨や水分を含んだ雪又は汚れ等の付着物が一時的にレドームに付着している状態と推定される。
【0039】
次にステップS205で”位相差の変化量の平均”ΔθdiffAve[t]とあらかじめ設定された閾値とを比較し、閾値以上の場合は、雨や水分を含んだ雪又は汚れなど付着物が一時的に付着していると判断し、ステップS206でACCシステムを停止するのみとする。またステップS205で“位相差の変化量の平均”ΔθdiffAve[t]が閾値より小さいと判定された場合は、付着物が定常的にレドームに付着していると判断し、ステップS207でACCシステムを停止し、ステップS208でユーザーインターフェース装置18を通じてユーザーに付着物を除去するよう促す報知を行う。レドーム反射変動検出部は、ステップS202〜ステップS205のソフトウエアで構成される。
【0040】
実施の形態2において、受信アンテナが2個以上ある場合は、その中の2個の受信アンテナI,受信アンテナIIを選択すればよい。
以上のように、実施の形態2における車載レーダ装置では、レドームの付着物が検出された場合に、レドームの付着物が定常的に付着しているときには、確実にACC制御を停止し、付着物を除去することをユーザーに通知し、雨や水分を含んだ雪又は汚れなどの付着物が一時的に付着しているときには、ACCなどのシステム動作を停止するのみで、付着物を除去する通知はしないようにすることで、ユーザーのわずらわしさを軽減することができる。
【0041】
実施の形態3.
図7は実施の形態3の車載レーダ装置における付着物検知手段16の付着物検知処理を示すフローチャートである。実施の形態3の車載レーダ装置を利用したACCシステムのブロック構成は実施の形態1と同様である。
【0042】
まず、ステップS401で時刻tにおけるビート信号のFFT結果のうち低周波成分(
領域)の受信レベルAmp[t]と、あらかじめ設定された閾値とを比較する。閾値より小さい場合、時刻tでの付着物検知処理は終了する。閾値より大きい場合(レドームの付着物が
検出された場合)、ステップS402に進む。
【0043】
次にステップS402で時刻t及び前測定周期の時刻t-1での、送信波の周波数と受信アンテナ(I又はII)で受信したレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持
つビート信号の低周波成分の位相の変化量Δθdiff[t]を式(6)のように算出する。
Δθdiff[t] = θ[t] − θ[t-1] ・・・(6)
【0044】
次にステップS403で過去n回の測定周期における、位相の変化量の平均ΔθdiffAve[t]を式(7)のように算出する。
【0045】
【数3】

【0046】
この“位相の変化量の平均” ΔθdiffAve[t]はレドームの付着物からの反射波の変動
が大きいほど値が大きくなる。このとき雨や水分を含んだ雪又は汚れ等の付着物が一時的にレドームに付着している状態と推定される。
【0047】
次にステップS404で”位相の変化量の平均”ΔθdiffAve[t]とあらかじめ設定された閾値とを比較し、閾値以上の場合は、雨や水分を含んだ雪又は汚れなどの付着物が一時的に付着していると判断し、ステップS405でACCシステムを停止するのみとする。またステップS404で“位相の変化量の平均”ΔθdiffAve[t]が閾値より小さいと判定された場合は、付着物が定常的にレドームに付着していると判断し、ステップS406でACCシステムを停止し、ステップS407でユーザーインターフェース装置18を通じてユーザーに付着物を除去するよう促す報知を行う。レドーム反射変動検出部は、ステップS402〜ステップS404のソフトウエアで構成される。
【0048】
実施の形態3において、受信アンテナが2個以上ある場合は、その中の1個の受信アンテナI又は受信アンテナIIを選択すればよい。
以上のように、実施の形態3における車載レーダ装置では、レドームの付着物が検出された場合に、レドームの付着物が定常的に付着しているときには、確実にACC制御を停止し、付着物を除去することをユーザーに通知し、雨や水分を含んだ雪又は汚れなどの付着物が一時的に付着しているときには、ACCなどのシステム動作を停止するのみで、付着物を除去する通知はしないようにすることで、ユーザーのわずらわしさを軽減することができる。
【0049】
実施の形態4.
図8は実施の形態4の車載レーダ装置における付着物検知手段16の付着物検知処理を示すフローチャートの前半であり、図9はその後半である。図8のaと図9のaを結ぶことにより、その全体を示すフローチャートとなる。実施の形態4における車載レーダ装置を利用したACCシステムのブロック構成は実施の形態1と同様である。
【0050】
まず、ステップS301で前回測定周期である時刻t-1における検知物体(対象物)の
距離,速度,方位から今回すなわち時刻tでの検知物体の位置,速度,方位を予測する。
次にステップS302で、予測した距離と速度から、周波数上昇及び下降時のビート周波数を逆算する。次にステップS303で、予測した周波数上昇時のビート周波数が低周波成分(領域)と重なるかどうかを判定する。重なる場合はステップS304で周波数上昇時の付着物変動フラグ=OFF、周波数上昇時の付着物検知フラグ=OFFに設定してステップS321に進む、重ならない場合はステップS305に進む。
【0051】
ステップS305では、周波数上昇時の低周波領域の受信レベルAmp[t]と閾値とを比較し、閾値より以上のときは、ステップS306に進み、周波数上昇時の付着物検知フラグ=ONに設定する。閾値未満のときは、ステップS307に進み、周波数上昇時の付着物検知フラグ=OFFに設定する。
【0052】
次にステップS308では、実施の形態2と同様の方法で“過去n回の測定周期における“位相差の変化量の平均”ΔθdiffAve[t]を求め、閾値と比較する。閾値以上のときは、周波数上昇時の付着物変動フラグ=ONとし、閾値未満の場合には周波数上昇時の付着物変動フラグ=OFFに設定する。
【0053】
周波数下降時も同様で、ステップS321〜S328で周波数上昇時と同様の処理を実施し、周波数下降時の付着物検知フラグ及び周波数下降時の付着物変動フラグの設定を行う。
【0054】
次にステップS331で周波数上昇時の付着物変動フラグ=OFFかつ周波数下降時の付着物変動フラグ=OFFのときは終了し、そうでないときは、ステップS332へ進む。次にステップS332で周波数上昇時の付着物変動フラグ=ON又は周波数下降時の付着物変動フラグ=ONのときは、ステップS335へ、そうでないときはステップS333に進む。
【0055】
ステップS333では定常的な汚れがレドームに付着しているとして、ACCシステムを停止し、ステップS334でユーザーインターフェース装置18を通じてユーザーに汚れを除去するよう促す報知を行う。
【0056】
ステップS335では雨や水分を含んだ雪又は汚れなどの付着物が一時的に付着しているとして、ACCシステムを停止するのみで終了する。
【0057】
以上のように、実施の形態3における車載レーダ装置では、レドーム及びレドームに付着した付着物による反射波以外の反射波、すなわち対象物による反射波がビート信号の低
周波領域に混在している場合には、レドームの付着物による反射波を正確に測定することができない。この場合には付着物検知処理をしないことにより、付着物検知処理の誤動作を防ぐことができる。
【0058】
同様に、送信波の周波数上昇時と下降時のそれぞれにおいて、レドーム反射変動検出部は、自車両の速度から、路側の停止物による反射波のビート信号の周波数とレドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致するかどうかを予測し、送信波の周波数上昇時と下降時の一方において、前記路側の停止物による反射波のビート信号の周波数とレドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致すると予想される場合には、レドーム反射変動検出部を停止し、送信波の周波数上昇時と下降時の他方でのレドーム反射変動検出部のみの判断でレドームの付着物による反射波の変動を求め、送信波の周波数上昇時と下降時の両方で前記路側の停止物による反射波のビート信号の周波数とレドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致すると予想される場合には、両方でのレドーム反射変動検出部の判断を停止するようにすると良い。
【0059】
以上の実施の形態では、上昇・下降を繰り返す周波数をもった変調波である送信波を放射し、対象物で反射された反射波を受信し、送信波の周波数と反射波の周波数との周波数差を持つビート信号から対象物の距離と相対速度を算出し、本体を保護するレドームの付着物で反射された反射波から付着物検知手段でレーダの付着物による性能低下を検知する車載レーダ装置において、付着物検出手段は、送信波の周波数とレドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の時間的変動を検出するレドーム反射変動検出部を備えるものについて適用した。
【0060】
この発明は、さらに、送信波を放射し対象物で反射された反射波を受信することにより対象物を検知し、本体を保護するレドームの付着物で反射された反射波から付着物検知手段でレーダの付着物による性能低下を検知する車載レーダ装置において、付着物検知手段はレドームの付着物による反射波の時間的変動を検出するレドーム反射変動検出部を備えるものにも適用でき、付着物検出手段によりレドームの付着物が検出された場合に、レドーム反射変動検出部により、レドームの付着物による反射波の時間的変動が大きいときは、レドームに一時的に付着物が付着したと判断し、レドームの付着物による反射波の変動が小さいときは、レドームに定常的に付着物が付着したと判断するようにするとよい。
【0061】
そして、レドーム反射変動検出部は、レドームの付着物による反射波の受信レベル又は位相の時間的変動により、レドームの付着物による反射波の時間的変動を検出するようにするとよい。
さらに、第1,第2受信アンテナを有し、レドーム反射変動検出部は、第1,第2受信アンテナでそれぞれ受信したレドームの付着物による各反射波の位相の位相差の時間的変動により、レドームの付着物による反射波の時間的変動を検出するようにするとよい。
【符号の説明】
【0062】
1 車載レーダ装置 2 CPU
3 VCO 4 分配器
5 送信アンテナ 6 レドーム
7 付着物 8 対象物
9 受信アンテナ 10 ミキサ
11 アンプ 12 ローパスフィルタ
13 A/D変換器 14 FFT処理部
15 対象物算出部 16 付着物検知手段
17 ACC処理部 18 ユーザーインターフェース装置
19 エンジン制御ECU 20 ブレーキ制御ECU
21 車内LAN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を放射し対象物で反射された反射波を受信することにより対象物を検知し、本体を保護するレドームの付着物で反射された反射波から付着物検知手段でレーダの付着物による性能低下を検知する車載レーダ装置において、
前記付着物検知手段は前記レドームの付着物による反射波の時間的変動を検出するレドーム反射変動検出部を備え、
前記付着物検出手段により前記レドームの付着物が検出された場合に、前記レドーム反射変動検出部により、前記レドームの付着物による反射波の時間的変動が大きいときは、前記レドームに一時的に付着物が付着したと判断し、前記レドームの付着物による反射波の変動が小さいときは、前記レドームに定常的に付着物が付着したと判断するようにしたことを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項2】
前記レドーム反射変動検出部は、前記レドームの付着物による反射波の受信レベル又は位相の時間的変動により、前記レドームの付着物による反射波の時間的変動を検出するようにしたことを特徴とする請求項1記載の車載レーダ装置。
【請求項3】
第1,第2受信アンテナを有し、
前記レドーム反射変動検出部は、前記第1,第2受信アンテナでそれぞれ受信した前記レドームの付着物による各反射波の位相の位相差の時間的変動により、前記レドームの付着物による反射波の時間的変動を検出するようにしたことを特徴とする請求項1記載の車載レーダ装置。
【請求項4】
上昇・下降を繰り返す周波数をもった変調波である送信波を放射し、対象物で反射された反射波を受信し、送信波の周波数と反射波の周波数との周波数差を持つビート信号から前記対象物の距離と相対速度を算出し、本体を保護するレドームの付着物で反射された反射波から付着物検知手段でレーダの付着物による性能低下を検知する車載レーダ装置において、
前記付着物検知手段は送信波の周波数と前記レドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の時間的変動を検出するレドーム反射変動検出部を備え、
前記付着物検出手段により前記レドームの付着物が検出された場合に、前記レドーム反射変動検出部により、前記ビート信号の低周波成分の時間的変動が大きいときは、前記レドームに一時的に付着物が付着したと判断し、前記ビート信号の低周波成分の時間的変動が小さいときは、前記レドームに定常的に付着物が付着したと判断するようにしたことを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項5】
前記レドーム反射変動検出部は、前記ビート信号の低周波成分の受信レベル又は位相の時間的変動により、前記レドームの付着物による前記ビート信号の低周波成分の時間的変動を検出するようにしたことを特徴とする請求項4記載の車載レーダ装置。
【請求項6】
第1,第2受信アンテナを有し、前記レドーム反射変動検出部は、
送信波の周波数と前記第1の受信アンテナで受信した前記レドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の位相と、
送信波の周波数と前記第2の受信アンテナで受信した前記レドームの付着物による反射波の周波数との周波数差を持つビート信号の低周波成分の位相との、位相差の時間的変動により、前記レドームの付着物による前記ビート信号の低周波成分の時間的変動を検出するようにしたことを特徴とする請求項4記載の車載レーダ装置。
【請求項7】
送信波の周波数上昇時と下降時のそれぞれにおいて、前記レドーム反射変動検出部は、
前回に算出した対象物の距離と相対速度から、今回において、前記対象物による反射波のビート信号の周波数と前記レドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致するかどうかを予測し、送信波の周波数上昇時と下降時の一方において、前記対象物による反射波のビート信号の周波数と前記レドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致すると予想される場合には、前記レドーム反射変動検出部を停止し、送信波の周波数上昇時と下降時の他方での前記レドーム反射変動検出部のみの判断で前記レドームの付着物による反射波の変動を求め、送信周波数上昇時と下降時の両方で前記対象物による反射波のビート信号の周波数と前記レドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致すると予想される場合には、両方での前記レドーム反射変動検出部の判断を停止するようにしたことを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の車載レーダ装置。
【請求項8】
送信波の周波数上昇時と下降時のそれぞれにおいて、前記レドーム反射変動検出部は、自車両の速度から、路側の停止物による反射波のビート信号の周波数と前記レドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致するかどうかを予測し、送信波の周波数上昇時と下降時の一方において、前記路側の停止物による反射波のビート信号の周波数と前記レドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致すると予想される場合には、前記レドーム反射変動検出部を停止し、送信波の周波数上昇時と下降時の他方での前記レドーム反射変動検出部のみの判断で前記レドームの付着物による反射波の変動を求め、送信波の周波数上昇時と下降時の両方で前記路側の停止物による反射波のビート信号の周波数と前記レドームの付着物による反射波のビート信号の周波数とがほぼ一致すると予想される場合には、両方での前記レドーム反射変動検出部の判断を停止するようにしたことを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の車載レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−237322(P2011−237322A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110108(P2010−110108)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】