説明

車載器

【課題】測位誤差を良好に除去して精度の高いGPS測位結果を安定的に取得する。
【解決手段】所定の基準値に対する車両の高度方向の変位量を推定する高度変位推定手段と、推定される変位量の絶対値が所定の閾値よりも大きいか否かを判定する変位量判定手段とを備え、該変位量が該閾値よりも大きいと判定され且つGPSにより少なくとも高度の測位が成されたとき、カルマンフィルタの機能をリセットする車載器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS(Global Positioning System)を用いた測位で取得されるGPS測位結果に含まれる誤差をカルマンフィルタにより除去して車両の位置測位を行う車載器に関する。
【背景技術】
【0002】
GPSは、地球を周回するGPS衛星から発信されるGPS信号を用いて位置情報を取得する測位システムである。このシステムは、例えば車両に搭載されるナビゲーション機能を有した車載器などに利用されている。
【0003】
このような車載器には、複数のGPS衛星を捕捉・追尾し、それらから得られる信号を用いて位置及び速度測位を行うGPSレシーバが備えられている。GPSレシーバは、少なくとも四つのGPS衛星を捕捉・追尾して「緯度」、「経度」、「高度」、及び、「GPSレシーバの内蔵時計の誤差」の四つの未知数の解を得ることにより、自己の三次元位置を測位することができる(以下、これを三次元測位と記す)。
【0004】
車両は様々な場所に移動するため、車載されたGPSレシーバはマルチパスやノイズ等の影響を頻繁に受ける。従ってその受信状況は比較的変化し得る。このような受信状況の変化に伴って、例えば測位に利用可能なGPS衛星の数や組み合わせも変化する。ところが、このような変化が多いとGPS測位解が不安定になることがあり、その結果、瞬間的な位置飛びや方位ずれ等が多く発生し得る。
【0005】
本出願人は、例えば下記特許文献1において、カルマンフィルタを有したGPSレシーバを提案している。カルマンフィルタは、単位時間毎の測位で発生し得る誤差を吸収(低減)する作用を有している。瞬間的な位置飛びや方位ずれ等はカルマンフィルタにより良好に除去され得る。GPSレシーバは、カルマンフィルタの作用によって精度の高いGPS測位結果を得ることができる。
【0006】
ここで、GPSレシーバは、受信状況が良好でないために例えば三つのGPS衛星だけしか捕捉・追尾できないこともある。この場合、上述した四つの未知数の解を得ることができないため、三次元測位を行うことができない。例えば下記特許文献2には、このような事情を鑑みて想起されたGPSレシーバが開示されている。下記特許文献2に開示されたGPSレシーバは、以前取得した「高度」を今回の「高度」として援用し、残りの三つの未知数を、GPS信号を用いて解いている。GPS信号により「緯度」、「経度」、及び、「GPSレシーバの内蔵時計の誤差」を解いて測位を行うことから、以下、これを二次元測位と記す。
【特許文献1】特開2001−337150号公報
【特許文献2】特公平3−34034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば車両が山道を走行しているときは周囲の山や木々が障害となり、GPS信号が遮断されたり大幅に減衰したりして、捕捉・追尾可能なGPS衛星の数が限定的になり易い。このような場合、GPSレシーバは二次元測位を行う機会が必然的に多くなる。しかし山道は高度変化の多い場所である。従ってこのような場所で過去の測位で得られた高度を援用して二次元測位を行った場合、高度だけでなく、過去の高度と実際(現在)の高度との誤差に起因して、GPS信号を用いて算出される二次元位置(高度に直交し且つ地表面に沿った互いに直交する二軸から成る平面上の位置)にも大きな誤差が含まれ得る。
【0008】
カルマンフィルタを用いることにより、上記高度変位に起因する測位誤差を吸収することができる。ところが、カルマンフィルタは単一のGPS測位解に関する誤差を良好に吸収することができる一方で、継続的に算出される測位解に対して以下に示される問題を含んでいる。
【0009】
例えば山道を走行することにより二次元測位が継続してカルマンフィルタの推定値に比較的大きな誤差が含まれてしまった場合、その後、三次元測位可能な状態に復帰したとしても、カルマンフィルタの作用により、その推定値に含まれる誤差は直ぐには除去されない。これは、カルマンフィルタが推定値を算出するために過去のGPS測位結果を参照するからである。このようにその推定値に大きな誤差が一旦含まれてしまった場合、ある程度の期間(又はある程度の頻度で)三次元測位を行って高精度のGPS測位解を継続的に(又は多数)取得しない限り、その推定値に含まれている誤差は除去されない。このため、例えば山道の走行軌跡を測位結果に基づいてプロットすると、実際の走行路に対して平行にずれた軌跡が描かれ得る。
【0010】
例えばカルマンフィルタの時定数を短くすることにより、上記推定値に含まれる誤差を除去するのに掛かる時間を短くすることが可能である。しかしそのトレードオフとして、カルマンフィルタ本来の能力(すなわち瞬間的な位置飛びや方位ずれ等の除去)が低下してしまう。従って、時定数を短くすることは望ましい解決手段とは言えない。
【0011】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みて、測位誤差を良好に除去して精度の高いGPS測位結果を安定的に取得することができる車載器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する本発明の一態様に係る車載器は、GPSを用いた測位で取得されるGPS測位結果に含まれる誤差をカルマンフィルタにより除去して車両の位置測位を行うものである。この車載器は、所定の基準値に対する車両の高度方向の変位量を推定する高度変位推定手段と、推定される変位量の絶対値が所定の閾値よりも大きいか否かを判定する変位量判定手段とを備え、該変位量が該閾値よりも大きいと判定され且つGPSにより少なくとも高度の測位が成されたとき、カルマンフィルタの機能をリセットすることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、高度方向の推定変位量に大きな誤差が含まれる可能性が高くなり且つGPS測位により高度情報が取得されたときにカルマンフィルタの機能がリセットされる。従って以降の測位において、カルマンフィルタの時定数の影響を受けることなく、直ちに高精度な値に収束した三次元測位結果を取得することが可能となる。
【0014】
なお、上記車載器においてカルマンフィルタがリセットされたとき、該変位量を所定の基準値にリセットしても良い。
【0015】
また、上記車載器において変位量判定手段により該変位量が該閾値よりも大きいと判定された後、GPSによる三次元測位が行われるまでの期間、GPS測位結果を位置測位に用いないことが好ましい。
【0016】
また、上記車載器は、自律航法を実施するためのセンサを更に備えたものであっても良い。この場合、高度変位推定手段は、センサ出力に基づいて高度方向の変位量を推定することができる。
【0017】
また、上記車載器は、高度情報を含んだ地図データを更に備えたものであっても良い。この場合、高度変位推定手段は、地図データに基づいて高度方向の変位量を推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車載器を採用すると、測位誤差を良好に除去して精度の高いGPS測位結果を安定的に取得することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態の車載器の構成及び作用について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態の車載器200の構成を示したブロック図である。車載器200は、車両(不図示)に搭載された所謂ナビゲーション装置である。車載器200は、GPSレシーバ100、ジャイロセンサ102、車速センサ104、加速度センサ106、CPU(Central Processing Unit)108、ROM(Read Only Memory)110、RAM(Random Access Memory)112、モニタ114、スピーカ116、及び、操作部118を備えている。
【0021】
ジャイロセンサ102は、車両の方位に関する角速度を計測する。車速センサ104は、車両の左右の駆動輪の回転速度を検出してその平均速度に応じた車速パルス信号を生成する。加速度センサ106は、車両の勾配に関する情報を計測する。これらのセンサは自律航法を行うための手段である。
【0022】
CPU108は、車載器200全体の制御を統括して実行する。ROM110は、地図データやプログラム等の各種データを格納したメモリである。RAM112は、例えば上記データやプログラム等が一時的に展開されるメモリである。モニタ114は、例えば地図や目的地へのルート等のナビゲーション用画像を表示する。スピーカ116は、例えば分岐地点での進行方向の報知等のナビゲーション用音声を出力する。操作部118は、ユーザ・オペレーションが成されるユーザ・インターフェースである。
【0023】
図2に、本発明の実施の形態のGPSレシーバ100の構成をブロック図で示す。GPSレシーバ100は、複数のGPS衛星を捕捉・追尾し、その捕捉・追尾数に応じて二次元又は三次元測位演算する。大別して、受信されたGPS信号をダウンコンバートするRF(Radio Frequency)部1と、信号の捕捉から追尾・測位までを実行するデジタル処理部2とを備えている。
【0024】
RF部1は、GPSアンテナ10、RF入力部11、BPF(Band Pass Filter)12及び14、LNA(Low Noise Amplifier)13、ダウンコンバータ15、AGC(Auto Gain Control)16、TCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)17、周波数シンセサイザー18、及び、A/D変換部19を有している。
【0025】
GPSアンテナ10がGPS衛星から発信されるGPS信号を受信すると、その受信信号は、RF入力部11を介してBPF12に入力される。そして所定の帯域のみを通過させる電子フィルタであるBPF12、低雑音増幅器であるLNA13、BPF14を経てGPS帯域外のノイズが減衰され、ダウンコンバータ15に入力される。
【0026】
TCXO17は、ダウンコンバータ15に入力された受信信号の周波数よりも低い周波数を発振する局部発振器である。周波数シンセサイザー18は、TCXO17からの出力に基づいて局部発振器信号を生成し、ダウンコンバータ15に出力する。ダウンコンバータ15は、周波数シンセサイザー18からの局部発振器信号を用い、受信信号であるRF信号を、AGC16のコントロール下で、安定動作や選択特性が改善される中間周波数すなわちIF(Intermediate Frequency)信号に変換する。変換された信号はA/D変換部19でサンプリングされ、デジタル処理部2に出力される。なお、TCXO17は、GPS衛星とGPSアンテナ10との疑似距離を算出するためにも用いられる。TCXO17は、GPS衛星に搭載されている原子時計と異なり、誤差を含んでいる。上記「GPSレシーバの内蔵時計の誤差」とはTCXO17の誤差を示している。
【0027】
デジタル処理部2は、CPU20、RTC(Real-Time Clock)21、ROM22、RAM23、及び、DSP(Digital Signal Processor)24を備えている。CPU20は、周波数シンセサイザー18から出力されるクロックに基づいて動作し、デジタル処理部2全体の制御を統括して実行する。RTC21は、水晶発振器(不図示)によって動作する時計IC(Integrated Circuit)であり、例えばTTFF(Time To First Fix)を高速化させるための機能を果たす。ROM22には、例えば測位演算を行うためのプログラムを始めとする各種データが格納されている。RAM112には、例えば高速で処理されるべきデータやプログラムが一時的に展開される。DSP24は、RF部1からのIF信号に基づいて測位演算を行う。なおROM22には、例えば上記特許文献1に開示されているカルマンフィルタと同様のフィルタリング処理を行うソフトウェアが含まれている。このソフトウェアすなわちカルマンフィルタにより、例えば瞬間的な位置飛びや方位ずれ等の除去が良好に行われる。
【0028】
A/D変換部19からのIF信号はDSP24に入力されて処理を施される。ここで、GPSレシーバ100は、より精度の高いGPS測位演算を行うため、複数(好ましくは四つ以上)のGPS衛星を同時に捕捉・追尾しようと動作する。
【0029】
DSP24は、複数系統のチャンネルを備えており、IF信号をそれぞれ別個のチャンネルで処理する。各チャンネルでは、IF信号のドップラーが除去されて、少なくとも1つのコリレータによるコード相関検出及び積算処理が実行される。DSP24は、各チャンネルによる処理信号を用いてGPS測位演算を行う。DSP24によるGPS測位演算後、精度向上ためカルマンフィルタが掛けられる。なお、DSP24は、捕捉・追尾したGPS衛星が二つ以下の場合には測位演算を行わず、三つの場合には二次元測位演算を行い、四つ以上の場合には三次元測位演算を行う。二次元測位演算は例えば過去の高度を援用して行われる。
【0030】
フィルタリング処理後の信号は、位置測位結果、及び、速度測位結果としてCPU108に出力される。位置測位結果は、複数のGPS衛星の各々とGPSアンテナ10との疑似距離に基づいて算出される。速度測位結果は、少なくとも三つのGPS衛星(好ましくはより多くのGPS衛星の各々)とGPSレシーバ100との相対速度によるドップラーシフト量に基づいて算出される。なお、各チャンネルは、PRN(Pseudo Random Noise)コードのリファレンスコードとIF信号との相関ピークを検出することにより、GPS衛星を捕捉する。更に、捕捉されたGPS衛星のGPS信号のキャリア、コードへのトラッキングエラーを補正し、GPS衛星の追尾を続行する。GPS衛星はこのように捕捉・追尾され、それらの情報が測位に用いられる。
【0031】
CPU108には、GPSレシーバ100からの信号以外に、ジャイロセンサ102、車速センサ104、及び、加速度センサ106からの信号が入力される。CPU114は、各DR(デッドレコニング)センサ(すなわちジャイロセンサ102、車速センサ104、及び、加速度センサ106)から出力されるデータに基づいてDR演算(すなわち車両の進行方向、距離の演算、移動速度)を行う。
【0032】
CPU108は、演算したDR測位結果及びGPSレシーバ100からのGPS測位結果と、夫々の測位結果に対する誤差推定値とを比較することにより、高精度と判定される測位結果を選択し、選択された測位結果をマップマッチングする。また、CPU108は、各測位結果に基づいて、現在位置周辺のデジタル地図データをROM110から抽出し、地図データと共に車両の現在位置を示す自車位置マークをモニタ114に出力する。これにより、モニタ114にナビゲーション情報を含む各種情報が表示される。
【0033】
なお、ここでいうマップマッチングとは、モニタ114に表示されている地図中の道路から外れた位置に自車位置マークが表示されるなどの誤差を補正することを示す。マップマッチングを行うことによって自車位置と地図との整合性が取れ、運転手は自車の現在位置を正確に知ることができる。
【0034】
次に、図3及び4に示されるフローチャートを参照して、本実施形態において精度の高いGPS測位結果を取得するために実行される処理について詳説する。以下に示される処理を実行することにより、例えば二次元測位が継続したときに従来発生し得た測位誤差が良好に除去される。なお、本実施形態において、図3及び4に示されている処理は、例えば毎秒一回実行されるものとする。
【0035】
図3は、GPSレシーバ100のCPU20の制御下で実行される処理である。先ず、GPSレシーバ100において上述した一連の処理が行われて複数のGPS衛星が捕捉・追尾され、GPS測位演算が行われる(ステップ1、以下の明細書及び図面においてステップを「S」と略記)。次いで、この測位が三次元測位であるか否かを判定する(S2)。以下の条件を満たす場合、S1の処理において三次元測位が行われる。
(A)捕捉・追尾中のGPS衛星の数が四以上
(B)複数のGPS衛星の幾何学的配置がある程度分散(例えばHDOP(Horizontal Dilution Of Precision)が所定値以下)
【0036】
(A)の条件は、上述した理由から、三次元測位を行うために必要とされる条件である。(B)の条件は、GPS測位精度をより向上させるための条件である。HDOPが十分に良くない(ここでは上記所定値よりも大きい)場合、二次元測位結果の方が三次元測位結果よりも精度が高くなる。従って、例えば(A)の条件を満たしても(B)の条件を満たしていなければ、三次元測位よりも二次元測位を行った方が精度の高い結果を期待することができる。
【0037】
S2の処理において三次元測位であると判定されるとき(S2:YES)、CPU108からの高度検出信号を受信済みであるか否かを判定する(S3)。GPSレシーバ100が高度検出信号を受信済みであるとき、前回のGPS測位結果に大きな誤差が含まれている可能性が高いことを意味する。またGPSレシーバ100が高度検出信号を未受信であるとき、前回のGPS測位結果に大きな誤差が含まれている可能性が低いことを意味する。
【0038】
S2の処理において三次元測位でない(すなわち二次元測位又は未測位)と判定されるとき(S2:NO)、又は、S3の処理において高度検出信号が未受信であると判定されるとき(S3:NO)、例えば瞬間的な位置飛びや方位ずれ等を良好に除去するために、S1の処理で演算したGPS測位解に対してカルマンフィルタを掛けて(S6)、S7の処理に進む。
【0039】
またS3の処理において高度検出信号を受信済みであると判定されるとき(S3:YES)、カルマンフィルタをリセットして(S4)、高度検出信号の受信状態を「未受信」に設定する(S5)。次いで、S1の処理で演算したGPS測位解に対してカルマンフィルタを掛けて(S6)、S7の処理に進む。ここで実行されるフィルタリング処理は、S4の処理でカルマンフィルタがリセットされた直後である。従ってここでのフィルタリング処理後の出力は、カルマンフィルタを掛けないときの出力と実質的に同一となる。すなわちここでのフィルタリング処理後の出力は、カルマンフィルタの影響を実質的に受けていないものとなる。
【0040】
S4のリセット処理を行うことにより、前回のGPS測位結果に大きな誤差が含まれている場合であってもカルマンフィルタの影響(カルマンフィルタの時定数の制限)を実質的に受けないため、GPS測位結果が正確な値に迅速に収束し得る。
【0041】
S7の処理において、S6の処理を経たGPS測位結果がCPU108に出力される。GPS測位結果出力後、処理はS8に進む。なお、S7の処理においてGPSレシーバ100は、GPS測位結果以外に、GPS測位情報(例えば三次元測位であるか等)やカルマンフィルタの設定情報(例えばリセットの有無等)をCPU108に出力する。以下、説明の便宜上、GPSレシーバ100からCPU108に出力されるこれらの信号を「測位結果信号」と記す。
【0042】
測位結果信号出力後、高度検出信号を受信したか否かを判定する(S8)。高度検出信号を受信していないと判定されるとき(S8:NO)、図3のフローチャートの処理を終了させる。また高度検出信号を受信したと判定されるとき(S8:YES)、高度検出信号の受信状態を「受信済み」に設定してから(S9)、図3のフローチャートの処理を終了させる。なお、図3のフローチャートの処理は毎秒実行されるよう設定されているため、所定時間経過後再び開始される。
【0043】
次に、図4のフローチャートの処理について説明する。このフローチャートの処理はCPU108の制御下で実行される。
【0044】
図4のフローチャートの処理は、GPSレシーバ100からの測位結果信号の受信をトリガーとして開始される。CPU108は、先ず、受信した測位結果信号に以下の情報が含まれているか否かを判定する(S11)。
(1)三次元測位を実施したことを示す情報
(2)フィルタリング処理をリセットしたことを示す情報
【0045】
S11の処理において(1)及び(2)の両方の情報が測位結果信号に含まれていると判定される場合のみS12の処理に進み(S11:YES)、それ以外の場合にはS14の処理に進む(S11:NO)。
【0046】
S12の処理において高度変化の累積値Hacが初期化される(すなわちHac=0)。累積値Hacは、CPU108のDR測位演算により算出される車両200の高度方向の推定変位量Hの累積値である。なお、S12の処理と同様の初期化処理は、車載器200の電源(不図示)投入直後にも実行される。
【0047】
S12の初期化処理に次いで、測位結果信号に含まれるGPS測位結果の採用を「許可」に設定する(S13)。「許可」設定後、S14の処理に進む。
【0048】
S14の処理においてGPS測位結果の採用が「許可」に設定されている場合、各DRセンサ出力に基づいたDR測位結果及びGPS測位結果と、夫々の測位結果に対する誤差推定値とが比較され、高精度と判定される測位結果が選択される。そして選択された測位結果がマップマッチングされてモニタに出力される。また後述の処理によりGPS測位結果の採用が「禁止」に設定されている場合には、DR測位結果を用いてマップマッチングを行う。
【0049】
S14の処理に次いで、単位時間当たりの高度方向の推定変位量Hを算出する(S15)。なお、本実施形態において図4のフローチャートの処理は上述したように毎秒一回実行されるため、ここでいう単位時間とは一秒に相当する。
【0050】
推定変位量Hの算出方法には、例えばDRセンサを用いる方法やROM110の地図データを参照する方法等が挙げられる。前者の方法によれば、例えば加速度センサ106が検出する車両の傾斜角度と、車速センサ104が出力する車速パルスに基づいて単位時間当たりの推定変位量Hが算出される。また後者の方法によれば、地図データに含まれる例えば数十m単位の高度のメッシュデータを参照して現在のマップマッチング位置の高度を取得し、前回のマップマッチング位置の高度と比較することにより単位時間当たりの推定変位量Hが算出される。なお、これらの方法で算出される推定変位量Hに含まれるGPS測位誤差の影響は極めて軽微であり、実質的に影響を及ぼすものではないと言える。
【0051】
S15の処理に次いで、今回算出された推定変位量Hが前回の累積値Hacに加算され、累積値Hacが更新される(S16)。次いで、この更新後の累積値Hacの絶対値が所定の閾値Sよりも大きいか否かが判定される(S17)。この閾値Sは例えば以下の要件を考慮して決定される。
(C)GPS測位結果の高度誤差が、二次元測位解に基づいて算出される二次元位置に対して与える影響の大きさ
(D)車載器200の仕様がどの程度の二次元位置精度を要求するものであるか
(E)カルマンフィルタのリセットの頻度がGPS測位結果を不安定にさせない程度に収まるか
【0052】
なお、二次元測位では、前回の三次元測位で取得された高度が現在の車両の高度として援用される。
【0053】
累積値Hacの絶対値が閾値Sよりも大きい判定されるとき(S17:YES)、累積値HacすなわちDRセンサ出力に基づいた高度変化の推定値が過大であり、大きな誤差が含まれている可能性が高いと判断される。累積値Hacに大きな誤差が含まれていると、それに基づいて算出される二次元測位の結果にも大きな誤差が含まれてしまう。従ってCPU108は、その旨を報知する高度検出信号をGPSレシーバ100に出力する(S18)。
【0054】
S18の処理に次いで、GPS測位結果の採用を「禁止」に設定する(S19)。これは、例えば上記要件(C)で示された影響が過大であり、算出される二次元位置に許容できない誤差が含まれる可能性が高いためである。なお、ここでの「禁止」設定はS13の処理の「許可」設定のみで解除される。すなわちGPS測位結果の採用が一旦「禁止」に設定されると、GPSレシーバ100において三次元測位が行われ且つカルマンフィルタがリセットされない限り、GPS測位結果はマップマッチングに用いられない。GPS測位結果の採用禁止期間中、マップマッチングには、上述したようにDR測位結果が用いられる。
【0055】
GPSレシーバ100において三次元測位が行われ且つカルマンフィルタがリセットされた場合、その三次元測位の結果が大きな誤差を含んだものでなく、カルマンフィルタの時定数に依存することなく直ちに高精度な値に収束したものであるとして、S13の処理においてGPS測位結果採用の「許可」設定が成される。
【0056】
S17の処理において累積値Hacの絶対値が閾値S以下であると判定されるとき(S17:NO)、又は、S19の処理後、図4のフローチャートの処理を終了させる。図4のフローチャートの処理は、新たな測位結果信号を受信したときに再び開始される。
【0057】
図5は、図3及び4のフローチャートの処理を補足説明するための図である。横軸は時間を示し、縦軸は高度を示す。また実線は累積値Hacを示し、破線は車両が実際に位置する高度を示す。
【0058】
図5に示される例では、時刻Tに車両のエンジンが掛けられると共に車載器200の電源が投入されて車両が発進するものとする。次いで、時刻Tに初回の三次元測位が行われるものとする。本実施形態では、初回の三次元測位においてカルマンフィルタがリセットされて、フィルタリング処理の影響が実質的に除去された状態で処理が開始される。従って、累積値Hacは時刻Tまで「0」である。なお、初回が二次元測位である場合、前回の車載器200の動作で最後に算出された高度を援用してGPS測位が成される。
【0059】
時刻T後、車両は破線で示される高度変化のある道路を走行する。CPU108は、DR測位結果や地図データ等を参照し、累積値Hacを算出して例えばRAM112に保持する(図4のS15、16等参照)。
【0060】
時刻Tにおいて累積値Hacの絶対値が閾値Sよりも大きくなる。これは、上述したように、累積値Hacに大きな誤差が含まれている可能性が高く、それに基づいて算出される二次元測位の結果にも大きな誤差が含まれてしまう可能性が高いことを示す。従ってCPU108は、高度検出信号をGPSレシーバ100に出力し、次いで、GPS測位結果の採用を「禁止」に設定する(図4のS18、19等参照)。GPSレシーバ100側では高度検出信号の受信状態が「受信済み」に設定される(図3のS8、9等参照)。
【0061】
ここで、閾値Sの設定について説明する。例えば閾値Sを低い値に設定した場合、上記要件(C)で示された影響を軽減することができる。また上記要件(D)を良好に満たし得る。ところが上記要件(E)を良好に満たさない可能性がある。これは、GPS測位結果を不安定にさせて航路を乱し、良好なマップマッチングを阻害し得る。これに対して例えば閾値Sを高い値に設定した場合、上記要件(E)を良好に満たし得る。しかし、上記要件(C)で示された影響が増大し、上記要件(D)を良好に満たさない可能性がある。従って、設計者は、閾値Sを、上記条件(C)〜(E)を全て良好に満たし得るバランスの良い値に設定すべきである。
【0062】
なお、平坦な道が多い市街地(すなわち高度変化が少なく二次元測位の頻度も限定的な)道路では、累積値Hacの絶対値が閾値Sより大きくなり難いと考えられる。換言すると、高度の推定値に大きな誤差が含まれる可能性が低い状況では、カルマンフィルタのリセットが殆ど行われない。これは、GPS測位結果を安定させるという観点から、大きなメリットであると言える。
【0063】
図5の説明に戻る。時刻以降、三次元測位が行われるまでの期間、GPS測位結果をマップマッチングに用いない状態が継続する。時刻において三次元測位が行われると、GPSレシーバ100は、カルマンフィルタをリセットする。これにより、以降の測位において、カルマンフィルタの時定数の影響を受けることなく、直ちに高精度な値に収束した三次元測位結果を取得することが可能となる(図3のS5等参照)。
【0064】
GPSレシーバ100は、測位結果信号をCPU108に送信して、三次元測位の実施及びフィルタのリセットを報知する(図3のS7等参照)。CPU108は、この報告を受けることによりGPS測位結果が高精度な値に収束したと判断して、GPS測位結果の採用を「許可」に設定する。また累積値Hacを「0」にリセットする(図4のS11〜13等参照)。
【0065】
以上が本発明の実施の形態である。本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく様々な範囲で変形が可能である。例えば本実施形態において図3及び4に示されている処理は例えば一秒に一回実行されるが、別の実施形態では一秒よりも短い周期で実行されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態の車載器の構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態のGPSレシーバの構成をブロック図で示す。
【図3】本発明の実施の形態において精度の高いGPS測位結果を得るために実行される処理を示したフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態において精度の高いGPS測位結果を得るために実行される処理を示したフローチャートである。
【図5】図3及び4のフローチャートの処理を補足説明するための図である。
【符号の説明】
【0067】
20、108 CPU
100 GPSレシーバ
200 車載器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPSを用いた測位で取得されるGPS測位結果に含まれる誤差をカルマンフィルタにより除去して車両の位置測位を行う車載器において、
所定の基準値に対する車両の高度方向の変位量を推定する高度変位推定手段と、
推定される変位量の絶対値が所定の閾値よりも大きいか否かを判定する変位量判定手段と、を備え、
該変位量が該閾値よりも大きいと判定され且つGPSにより少なくとも高度の測位が成されたとき、前記カルマンフィルタの機能をリセットすること、を特徴とする車載器。
【請求項2】
前記カルマンフィルタがリセットされたとき、該変位量を所定の基準値にリセットすること、を特徴とする請求項1に記載の車載器。
【請求項3】
前記変位量判定手段により該変位量が該閾値よりも大きいと判定された後、GPSによる三次元測位が行われるまでの期間、GPS測位結果を位置測位に用いないこと、を特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の車載器。
【請求項4】
自律航法を実施するためのセンサを更に備え、
前記高度変位推定手段は、前記センサ出力に基づいて高度方向の変位量を推定すること、を特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の車載器。
【請求項5】
高度情報を含んだ地図データを更に備え、
前記高度変位推定手段は、前記地図データに基づいて高度方向の変位量を推定すること、を特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の車載器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−225459(P2007−225459A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47608(P2006−47608)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】