説明

車載機器の搭載構造

【課題】車載機器に外力が作用して車体から離脱した後、車載機器を確実に移動させることが可能な車載機器の搭載構造を得る。
【解決手段】インバータ30が離脱可能に取り付けられるインバータトレイ20は、トレイ前部20Fとトレイ前部20Fよりも大きく傾斜したトレイ後部20Bを備えている。トレイ前部20Fは車体14に固定され、トレイ後部20Bは後端部がブレーキユニット70から所定寸法離間している。インバータ30に前方から外力が入力すると、インバータ30がインバータトレイ20から離脱してトレイ後部20Bに接触してトレイ後部20Bの傾斜角度が小となるので、インバータ30は車両後方へ移動し易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に対し、たとえばインバータ等の車載機器を搭載するための車載機器の搭載構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体に対しインバータ等の車載機器を搭載するための構造として、たとえば特許文献1には、インバータトレイがインバータを離脱させる離脱構造を備え、側面視で、車両前後方向後側が、鉛直上方に傾斜しながら延在するように傾斜されて、後端がエンジンマウントに固定されている構造が開示されている。この構造では、車両衝突時にインバータがインバータトレイから離脱してインバータトレイの上を車両後方に移動するようになっている。
【0003】
このように、衝突等の外力がインバータに作用した場合には、インバータを車体から離脱させて退避させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−173568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インバータトレイの車両後端が固定されていると、例えば、車体の構造等によってサイドメンバやエプロン等の位置関係から、インバータトレイの車両後方側の傾斜角度が大きい場合、インバータが離脱した後の移動について制限される可能性がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、車載機器に外力が作用して車体から離脱した後、車載機器を確実に移動させることが可能な車載機器の搭載構造を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の車載機器の搭載構造は、車載機器の搭載用として車体に取り付けられ、車両前方側に位置する搭載台前部の車両後方側に後端側が前記搭載台前部よりも上方となるように傾斜した搭載台後部が形成されていると共に、前記搭載台前部のみが前記車体に固定され、前記搭載台後部の後端が車両後方側の車体または車体取付部品から離間されている搭載台と、前記搭載台に固定され、前記車載機器が取り付けられるブラケットと、前記ブラケットに設けられ、車両前方側からの外力により前記搭載台から前記ブラケットを離脱させる離脱手段と、を有する。
【0008】
請求項1に記載の車載機器の搭載構造では、車載機器が車体に取り付けられた搭載台に搭載されている。この車載機器は、搭載台に取り付けられたブラケットに固定されており、ブラケットには、車両前方側からの外力により搭載台からブラケットを離脱させる離脱手段が設けられている。すなわち、車載機器は、ブラケットを介して搭載台に搭載されることで車体に搭載される。
【0009】
したがって、例えば、車両が前面衝突等して車両前方側(斜め前方も含む)から車載機器に対して外力が加わると、搭載台から車載機器に固定されたブラケットが離脱する。
離脱した車載機器は車両後方へ移動し、搭載台の搭載台後部に接触する。
搭載台は、搭載台前部のみが車体に固定され、搭載台後部が車体に固定されておらず、さらに、搭載台後部の後端は車両後方側の車体または車体取付部品から離間しているので、車両前方から移動してきた車載機器が搭載台後部に当ることで搭載台後部は倒されて、傾斜角度が小さくなる。搭載台後部の傾斜角度が小さくなることで車載機器が搭載台後部上で滑りやすくなる。
これにより、車載機器に入力する衝突時の外力を減少させることができ、車載機器を適切に保護することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車載機器の搭載構造において、前記ブラケットは、前記搭載台の車両前後方向両側に設けられ、前記搭載台は、車両前方側の前記ブラケットと車両後方側の前記ブラケットとの間で前記車体に取り付けられている。
【0011】
請求項2に記載の車載機器の搭載構造では、搭載台が、車両前方側のブラケットと車両後方側のブラケットとの間で車体に取り付けられている。

即ち、車載機器の車両前側の離脱位置が、搭載台の車体への支持位置(取付位置)よりも車両前側に位置するため、車載機器の車両前側の離脱位置を搭載台の車体への支持位置よりも車両後側に位置させた場合に比較して、前面衝突時に車載機器が車両前側から先に外力を受けるため、車載機器が搭載台から離脱し易くなる。
また、車載機器の車両後側の離脱位置が、搭載台の車体への支持位置よりも車両後側に位置するため、車載機器が搭載台から離脱した後に搭載台後部がたわみ易くなり、車載機器の移動をコントロールし易くなる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の車載機器の搭載構造において、車両後方側の前記ブラケットは、前記搭載台の前記搭載台後部に設けられている。
【0013】
車両後方側のブラケットを搭載台の搭載台後部に設けることで、搭載台の車両前後方向の寸法を大きくせず、車両前後方向の寸法の大きな車載機器を搭載台に搭載することができる。
車両後方側のブラケットを搭載台の搭載台後部に設けない、即ち、車両後方側のブラケットを搭載台の搭載台前部に設けると、搭載台前部の後端から更に搭載台後部を車両後方へ向けて延ばさなくてはならず、搭載台が車両に取り付けられなくなったり、搭載台後部の傾斜角度を大きくしなければならなくなる等の問題が生じる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車載機器の搭載構造において、前記搭載台前部はサイドメンバとエンジンマウントに固定されている。
【0015】
請求項4に記載の車載機器の搭載構造では、搭載台前部が車体の中でも剛性の高い部分であるサイドメンバとエンジンマウントに固定されているため、搭載台を車体に安定して支持することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記構成としたので、車載機器に外力が作用して車体から離脱した後、車載機器を確実に移動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を車体の一部として示す通常状態の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を通常状態で示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を通常状態で示す側面図である。
【図4】本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を構成する後側ブラケットを拡大して示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を構成する後側ブラケットを拡大して示す分解斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を構成する防振ゴムブッシュ及びその近傍を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造をブラケットがインバータトレイから脱離した直後の状態として示す平面図である。
【図8】(A)は本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を示す車両右側から見た側面図であり、(B)は本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を示す車両上方から見た平面図であり、(C)は本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を示す車両左側から見た側面図であり、(D)は本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造を示す車両前側から見た正面図である。
【図9】(A)〜(C)本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造をブラケットがインバータトレイから脱離して車両後方側へ移動した状態で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には、本発明の一実施形態の車載機器の搭載構造12が車体14の一部として示されている。また、図2及び図3にも、車載機器の搭載構造12が示されている。各図面において、車体14の前方を矢印FRで、車体幅方向左側を矢印LHで、上方を矢印UPでそれぞれ示すこととする。
【0019】
この車載機器の搭載構造12は、たとえばハイブリッド車等において、インバータ30を車体14に搭載するために適用されるものである。
【0020】
車載機器の搭載構造12は、本発明に係る搭載台の一例である鋼板等の金属板で略板状に形成されたインバータトレイ20を有している。インバータトレイ20は、車両前後方向の略中央において屈曲されており、搭載台前部としてのトレイ前部20Fと搭載台後部としてのトレイ後部20Bとが構成されている。
図1、及び図2から分かるように、本実施形態において、トレイ前部20Fは車両後方側が車両前方側よりも上方となるように全体が若干傾斜している。一方、トレイ後部20Bは、車両後方側が車両前方側よりも上方となるように傾斜しているが、トレイ前部20Fよりも大きく傾斜している、即ち、トレイ後部20Bはトレイ前部20Fよりも傾斜角度が大となっている。
【0021】
トレイ前部20Fには、固定用脚部22が下方に向けて突設されると共に、3箇所の固定部24が設定されている。
【0022】
図8(B),(D)に示すように、車両前後方向に延びる左側フロントサイドメンバ16Lと右側フロントサイドメンバ16Rとの間に、エンジン18A及びエンジン18Aと連結されたトランスアクスル18Bが配置されている。
図8(D)に示すように、インバータトレイ20は、トランスアクスル18B、及び左側フロントサイドメンバ16Lの上方に配置されている。
【0023】
図3に示すように、インバータトレイ20の車両後方側には、インバータトレイ20の後端とは予め設定した所定の間隙(距離K)を開けて、車両部品としてのブレーキユニット70が配置されている。なお、ブレーキユニット70の車両後方側には、ダッシュパネル(図示省略)が配置されている。
【0024】
図3、及び図8に示すように、左側フロントサイドメンバ16Lには、左側エンジンマウント72Lが取り付けられている。図3に示すように、左側エンジンマウント72Lのサイドメンバ側のブラケット72Laは、左側フロントサイドメンバ16Lの上面の車両前後方向2箇所及び内側面の車両前後方向2箇所でボルト73にて固定されている。
【0025】
左側エンジンマウント72Lは、振動吸収用の弾性体(図示せず)を介して取り付け部材72Lbを備えており、この取り付け部材72Lbにトランスアクスル18B(図3では図示せず。)が吊り下げられる格好でボルト等によって固定されている。
【0026】
図8に示すように、右側フロントサイドメンバ16Rには、右側エンジンマウント72Rが配置されている。図示は省略するが、右側フロントサイドメンバ16Rのサイドメンバ側のブラケットが、右側フロントサイドメンバ16Rの上面の車両前後方向2箇所及び内側面の車両前後方向2箇所でボルトにて固定されている。
この右側エンジンマウント72Rも、左側エンジンマウント72Lと同様に、振動吸収用の弾性体(図示せず)を介して取り付け部材(図示せず)を備えており、この取り付け部材にエンジン18Aが吊り下げられる格好でボルト等によって固定されている。
また、トランスアクスル18Bには、トルクロッド74が連結されている。
【0027】
図1,3,8(C)、(D)に示すように、インバータトレイ20の固定用脚部22は下端部が図示しないボルト等で左側フロントサイドメンバ16Lの上部に固定され、3箇所の固定部24は図示しないボルト等で左側エンジンマウント72Lのブラケット72La上部に固定されており、これらによって、インバータトレイ20が車体14に対して強固に固定される。
【0028】
図1〜図3に示すように、トレイ前部20Fの前端近傍には、固定用脚部22及び固定部24よりも車両前側に前側ブラケット26が取り付けられており、トレイ後部20Bの略中央には、固定用脚部22及び固定部24よりも車両後側に後側ブラケット28が取り付けられている。これらの前側ブラケット26及び後側ブラケット28上にインバータ30が取り付けられている。
【0029】
図1及び図2から分かるように、前側ブラケット26は、車幅方向に延在する略長尺状に形成されている。前側ブラケット26には、車幅方向中央においてインバータトレイ20に近接配置される取付片部26Aと、車幅方向両端において、取付片部26Aよりもインバータトレイ20から離間した位置(上方)に配置される2つの固定片部26Cが形成されている。
【0030】
固定片部26Cには円形のボルト孔32が形成されている。これに対し、インバータ30の前辺からは、固定片部26Cのそれぞれの上方に位置する2つの前側突出部34Fが突設されている。
前側突出部34Fに形成された図示しないボルト孔と、固定片部26Cに形成されたボルト孔32とに前側固定ボルト36が挿通され、この前側固定ボルト36にナット(図示省略)が螺合されている。
これにより、インバータ30はその前部において、車幅方向に所定距離だけ離間した2箇所で前側ブラケット26に対し固定されていることになり、ボルト孔32の位置が前側固定位置40Fとなっている。
【0031】
図2に示すように、前側ブラケット26の取付片部26Aには、車幅方向に離間した2箇所に、切欠48が形成されている。図7からも分かるように、切欠48は、平面視にて車両前方側に開放された略U字状に形成されている。
この切欠48と、インバータトレイ20に形成されたボルト孔(図示省略)とに前側取付ボルト42が挿通され、さらに前側取付ボルト42にナット(図示省略)が螺合されて、前側ブラケット26がインバータトレイ20に取り付けられている(図1〜図3参照。)。
【0032】
ここで、たとえばインバータ30に、図2及び図3に示すような車両後方側への成分を有する所定以上の外力F1が作用した場合を考える。
上記したように、切欠48は車両前方側に開放されているので、インバータ30にこのような外力F1が作用すると、切欠48が前側取付ボルト42から外れる(図7参照。)。すなわち、切欠48は、本発明における前側離脱手段46F(図1,2参照。)を構成している。
【0033】
図1、図4及び図5に詳細に示すように、後側ブラケット28は、インバータトレイ20(トレイ後部20B)に接触配置又は対向配置される下プレート50と、この下プレート50の上方に配置されて、スポット溶接等により下プレート50に一体化される上プレート52と、を有している。上プレート52の車幅方向中央には、上方へと部分的に屈曲された固定片部28Cが形成されている。また、固定片部28Cの車幅方向両側の部分では、上プレート52と下プレート50とが接触されてスポット溶接等により接合されており、2つの取付片部28Aが構成されている。
【0034】
固定片部28Cには円形のボルト孔54が形成されている。これに対し、図2に示すように、インバータ30の後辺からは、固定片部28Cの上方に位置する後側突出部34Rが突設されている。
図2及び図3に示すように、後側突出部34Rに形成された図示しないボルト孔と、固定片部28Cに形成されたボルト孔54とに後側固定ボルト44が挿通され、この後側固定ボルト44が後側ブラケット28のナット60(図6参照)に螺合されている。これにより、インバータ30はその後部において、後側ブラケット28に対し移動不能に固定されていることになる。ボルト孔54の位置は、後側固定位置40Rとなっている。
【0035】
図1に示すように、後側ブラケット28の取付片部28Aのそれぞれには、切欠56が形成されている。切欠56も、前側ブラケット26の切欠48と同様に車両前方側に開放された略U字状に形成されている。この切欠56と、インバータトレイ20に形成されたボルト孔(図示省略)とに後側取付ボルト58が挿通され、さらに後側取付ボルト58にナット(図示省略)が螺合されて、後側ブラケット28がインバータトレイ20に取り付けられている(図1参照)。
【0036】
ここで、たとえばインバータ30に、上記した外力F1(図2及び図3参照。)が作用した場合を考えると、図7に示すように、切欠56は車両前方側に開放されているので、前側ブラケット26と同様に、切欠56が後側取付ボルト58から外れる。すなわち、切欠56は、本発明における後側離脱手段46R(図4参照。)を構成している。
【0037】
そしてその結果、前側ブラケット26の切欠48が前側取付ボルト42から外れると共に、後側ブラケット28の切欠56が後側取付ボルト58から外れることになるので、前側ブラケット26及び後側ブラケット28がインバータ30と一体で車両後方側へ移動可能となる。
【0038】
図5から分かるように、後側ブラケット28の下プレート50は、車両前後方向の略中央において屈曲されており、下プレート前部50Fと下プレート後部50Rとが構成されている。そして、下プレート前部50Fの底面50Bと、下プレート後部50Rの後面50Cとによって、後ろ向き部28Sが構成されている。後ろ向き部28Sは、車両後方側に向く部分を有する面である。そして本実施形態では、後ろ向き部28Sは、全体として平坦状に形成されており、局所的な凹部や凸部が存在しない形状とされている。
【0039】
インバータ30の前側突出部34Fと前側固定ボルト36の間、及び後側突出部34Rと後側固定ボルト44の間には、図6に詳細に示す形状の防振ゴムブッシュ62が配置されている。なお、図6では後側突出部34Rと後側固定ボルト44の間における防振ゴムブッシュ62を示しているが、前側突出部34Fと前側固定ボルト36との間における防振ゴムブッシュも略同様の構造である。以下では、後側突出部34Rと前側取付ボルト42の間における防振ゴムブッシュ62を例示する。
【0040】
防振ゴムブッシュ62は、外筒64及び内筒66と、これらの間に配置された略円筒状のゴム本体68とを有している。外筒64の下端及び内筒66の下端には、それぞれフランジ部64F、66Fが形成され、このフランジ部64F、66Fの間にも、ゴム本体68が位置している。
【0041】
実質的に、前側取付ボルト42の径方向及び軸方向の双方において、インバータ30と後側ブラケット28との間にゴム本体68が存在していることになる。そしてこれにより、インバータ30と後側ブラケット28とが相対移動した場合の異音や振動の発生が抑制されている。なお、前述したように、前側凸部と前側ブラケット26との間にも、防振ゴムブッシュ62が備えられている。したがって、インバータ30は前側ブラケット26及び後側ブラケット28に対し、防振ゴムブッシュ62によって防振支持されていることになる。
【0042】
(作用)
次に、本実施形態の車載機器の搭載構造12の作用を説明する。
上記したように、インバータ30は、通常状態では、前側ブラケット26及び後側ブラケット28を介してインバータトレイ20に搭載されている。そして、インバータトレイ20が車両左側の左側フロントサイドメンバ16L及び左側エンジンマウント72Lに固定されることで、インバータ30が車体14に搭載される。なお、インバータ30と前側ブラケット26及び後側ブラケット28の間には防振ゴムブッシュ62が配置されているので、これらの相対移動に伴う異音や振動が抑制される。
【0043】
ここで、図2及び図3に示すように、車両前方から外力F1がインバータ30に作用した場合を考える。本実施形態の車載機器の搭載構造12では、インバータトレイ20からより確実に離脱させて、インバータ30を車両後方側へ移動(退避)させることが可能とされている。
【0044】
以下に、衝突時の挙動の一例を詳細に説明する。
例えば、車両が前面衝突してインバータ30の車両前方側に配置されているラジエータ等の車載機器が車両後方へ移動し、車両前方側からインバータ30に対して外力F1が加わると、衝突開始直後には、インバータトレイ20から前側ブラケット26及び後側ブラケット28が離脱を始め、インバータ30がインバータトレイ20の上を車両後方へ移動を始める(図7、図9(A)参照。)。
【0045】
その後、車両後方へ移動したインバータ30の後端がトレイ後部20Bに当接し、インバータトレイ20はトレイ後部20Bの傾斜角度が小となる変形を始める。
【0046】
さらに時間が経過すると、トレイ後部20Bは図9(B)に示すようにブレーキユニット70に接触して寄り掛かり、狭いエンジンコンパートメント内でトレイ後部20Bを急な傾斜角度で収めたインバータトレイ20は、トレイ後部20Bの傾斜角度を小さくする。
このように、トレイ後部20Bの傾斜角度が小となることで、トレイ後部20Bは緩やかな滑り角度の滑り台を形成し、インバータ30は滑り易くなったトレイ後部20Bの上を車両後方側へスムーズに滑り始める。
【0047】
さらに時間が経過すると、図9(C)に示すように、左側フロントサイドメンバ16Lが左側エンジンマウント72Lよりも車両後方側で変形(曲がる等して潰れる。図9(C)にて斜線で図示部分。)を生じる。そして、左側フロントサイドメンバ16Lは、左側エンジンマウント72Lよりも車両前方側部分が左側エンジンマウント72Lと共に車両後方向側へ移動する。このため、左側エンジンマウント72Lに固定されているインバータトレイ20も同時に車両後方側へ移動する。
【0048】
インバータトレイ20が車両後方側へ移動すると、傾斜角度が小となっていたトレイ後部20Bがブレーキユニット70に押され、図9(C)に示すようにサイドメンバの変形(斜線部分)を阻害しないようにトレイ後部20Bは柔軟に立ち上がる変形(傾斜角度が大となる変形)をする。このため、フロントサイドメンバによる衝撃吸収を適切に行うことができる。
また、トレイ後部20Bが立ち上がって傾斜角度が大となることで、インバータ30は、傾斜角度が大となったトレイ後部20Bにガイドされて斜め上方へ移動することとなり、ブレーキユニット70を車両後方(車室側)へ移動させる力を減少させることができる。これにより、ブレーキユニット70の車室内への突出を抑えることができる。
【0049】
このように、衝突等により外力F1が入力したインバータ30を、インバータトレイ20のトレイ後部20Bでもって適切かつスムーズに移動させることができるので、インバータ30に作用する外力F1を減少させることができ、インバータ30を適切に保護することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態の車載機器の搭載構造12では、インバータトレイ20が剛性の高いインバータ30に取り付けられているため、インバータトレイ20に過剰な剛性は必要なく、非常に簡素な構造とすることができ、インバータトレイ20のコストを大幅に低減することができる。
さらに、本実施形態の車載機器の搭載構造12では、インバータトレイ20車両後方を開放形状としており、締結を不要とすることでも車体への締結構造も不要となり、組み付け時の工数も削減することが可能となっている。
【0051】
本実施形態の車載機器の搭載構造12では、インバータトレイ20が、車両前方側の前側ブラケット26及び前側離脱手段46Fと、車両後方側の後側ブラケット28及び後側離脱手段46Rとの間で車体に取り付けられている、即ち、インバータ30の車両前側の離脱位置が、インバータトレイ20の固定されている位置よりも車両前側に位置するため、前面衝突時、車両前側からインバータ30が外力F1を受けた際にインバータ30を離脱し易くなっている。
また、インバータ30の車両後側の離脱位置が、インバータトレイ20の固定されている位置(固定用脚部22、固定部24)よりも車両後側に位置しているため、衝突時におけるインバータ30の移動をコントロールし易い構造となっている。
【0052】
さらに、本実施形態の車載機器の搭載構造12では、車両後方側の後側ブラケット28及び後側離脱手段46Rをインバータトレイ20の傾斜したトレイ後部20Bに設けているので、車両前後方向の寸法の大きなインバータ30をインバータトレイ20の車両前後方向の寸法を大きくせずインバータトレイ20に搭載することができる。
【0053】
通常は、インバータトレイ20に強固に作られた筐体を有するインバータ30が固定されているため、インバータトレイ20は該筐体で補強されて剛性も高くなっており、変形が抑えられている。一方、衝突によりインバータトレイ20からインバータ30が離脱すると、インバータトレイ20は変形し易くなり、インバータ30がトレイ後部28に接触してトレイ後部28の傾斜角度を小とする変形をもたらし、また、衝突時の衝撃吸収を行うための車体(左側フロントサイドメンバ16L、右側フロントサイドメンバ16R等)の変形を阻害しないようにできる。
【0054】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、本発明に係る車載機器として、インバータ30を挙げているが、車載機器はこれに限定されない。インバータ30等の高電圧部品では、外力F1が作用した場合に、その破損を防止すべく、インバータトレイ20から短時間で離脱させて車両後方側へ移動可能とすることが望まれる。すなわち、本発明の車載機器の搭載構造は、このような高電圧部品を車載機器として車体に搭載する場合に、好ましく適用できる。
【0055】
本実施形態では、インバータトレイ20の車輌後方側にブレーキユニット70が配置されており、インバータトレイ20の後端とブレーキユニット70との間に所定の隙間を設けたが、インバータトレイ20の車輌後方側には、ブレーキユニット70以外の部品が配置される場合もあり、部品が配置されない場合もある。
【0056】
上記実施形態のインバータトレイ20は、トレイ前部20F及びトレイ後部20Bが共に傾斜していたが、少なくともトレイ後部20Bが傾斜していれば良く、トレイ前部20Fは水平に配置されていても良い。
【0057】
上記実施形態のインバータトレイ20はトレイ後部20Bが一定角度で傾斜していたが、車両前方側から車両後方側へ向けて傾斜角度が増大するように傾斜していても良い。
【符号の説明】
【0058】
12 車載機器の搭載構造
14 車体
16L 左側フロントサイドメンバ(車体、サイドメンバ)
20 インバータトレイ(搭載台)
20B トレイ後部(搭載台後部)
20F トレイ前部(搭載台前部)
26 前側ブラケット(ブラケット)
28 後側ブラケット(ブラケット)
30 インバータ(車載機器)
46R 後側離脱手段(離脱手段)
46F 前側離脱手段(離脱手段)
70 ブレーキユニット(車体取付部品)
72L 左側エンジンマウント(エンジンマウント)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載機器の搭載用として車体に取り付けられ、車両前方側に位置する搭載台前部の車両後方側に後端側が前記搭載台前部よりも上方となるように傾斜した搭載台後部が形成されていると共に、前記搭載台前部のみが前記車体に固定され、前記搭載台後部の後端が車両後方側の車体または車体取付部品から離間されている搭載台と、
前記搭載台に固定され、前記車載機器が取り付けられるブラケットと、
前記ブラケットに設けられ、車両前方側からの外力により前記搭載台から前記ブラケットを離脱させる離脱手段と、
を有する車載機器の搭載構造。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記搭載台の車両前後方向両側に設けられ、
前記搭載台は、車両前方側の前記ブラケットと車両後方側の前記ブラケットとの間で前記車体に取り付けられている、請求項1に記載の車載機器の搭載構造。
【請求項3】
車両後方側の前記ブラケットは、前記搭載台の前記搭載台後部に設けられている、請求項1または請求項2に記載の車載機器の搭載構造。
【請求項4】
前記搭載台前部はサイドメンバとエンジンマウントに固定されている、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車載機器の搭載構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−86680(P2013−86680A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229887(P2011−229887)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】