説明

車載無線LANシステム及び車載無線LANの制御方法

【課題】車内及び車外に無線LANアクセスポイント用のアンテナを設置した場合に、走行中の車外への電波の発射が資源の無駄であるのみならず、走行途中の車輌の周辺地域に不要な電波干渉を生じさせるおそれを解消する。
【解決手段】無線LANアクセスポイントと、インターネット接続手段と、無線LANアンテナとを有し、車輌に搭載される車載無線LANシステムであって、車輌の現在の状態を検出する車輌状態検出手段と、その検出結果に基づいて車輌の状態を判定する車輌状態判定手段と、その判定結果に基づいて車外用の無線LANアンテナの動作を制御する信号を生成する制御信号生成手段と、生成された制御信号に基づいて車外用の無線LANアンテナの出力を制御するアンテナ制御手段と、を有することにより、走行中に車外に無駄な電波を放出することなく、停車中には車輌の内外にて無線LANのサービスを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌等の移動体に搭載される車載無線LANシステムに関し、特に、移動体の走行状態に基づいて制御動作を変更可能な車載無線LANシステム及び車載無線LANの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車載用の無線LANシステムが実用化されている。これは、列車、バス、航空機等の交通機関の室内にて無線LANを利用できるようにしたもので、一例として、株式会社NTTドコモにより、「つくばエクスプレス列車内」における無線LANの商用サービスが2006年8月24日より開始されている(非特許文献1参照)。なお、本明細書において、「車載」とは、列車、車輌、船舶、航空機などの移動体全般に搭載されることを指すものとする。
【0003】
また、別の例として、日本電気株式会社では、高速移動中の乗り物からのブロードバンドインターネット接続を可能にする「BBRideシステム」の実証実験を開始している。これは、車内に設置した無線LANアクセスポイントに、車外のインターネットとの接続手段及びこの車外のインターネットと無線LANクライアント側との通信を中継する手段を備え、車内の乗客が手持ちの無線LANクライアントを用いてこの無線LANアクセスポイントと接続することにより、インターネットと接続することができるというものである。
【0004】
図3で説明すると、従来の車載無線LANシステムは、インターネット接続手段310と、無線LANアクセスポイント320と、アンテナ330とで、構成されており、車輌370に搭載される。そして、車内の乗客等の無線LANクライアント360との無線通信は、アンテナ330を経由し、無線LANアクセスポイント320にてインターネット340へと中継される。
【0005】
従来の例として、公共交通機関として観光バスを想定し、車載無線LANインターネットシステムが構築されていた場合について、図4を参照しながら説明する。当初走行中のバス400内の乗客の端末420は車中において、車載無線LANシステム経由でインターネットに接続していたとする。観光バスが途中休憩の為にバスを休憩箇所470にて停車した場合、乗客の中にはバス車内に留まる者もあれば(440)、車外に出てバス車外周辺で休憩する者もいる(450)。乗客はバス車内では無線LANと接続しているが、バス車外に出ようとして、バスより離れると車内の無線LANの電波は急速に減衰するので届かなくなり、その結果インターネットサービスとの接続が切れてしまうことになる。
【0006】
公開されている従来技術例としては、車内外のアンテナを介して通信を行った通信状態に基づいて、携帯端末が車内に存在するのか又は車外に存在するのかを判別する位置判別手段を有することにより、短距離無線通信が可能な携帯端末の存在位置について車室内と車室外とを区別することができる「車載通信装置」がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−124863号公報
【非特許文献1】インターネット<URL:http://www.nttdocomo.co.jp/service/data/mzone/tsukuba/index.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した車載無線LANシステムの問題点としては、車載無線LANシステムが車内の客のみを対象としており、無線用のアンテナも車内のみに設置されていた。従って、車外に出た場合に車輌より離れると、車内からの電波は急速に減衰し、無線LANとの接続が切れてしまうという問題があった。
【0008】
そこで、図5に示すように、車内のみならず車外にも無線LANアクセスポイント用のアンテナを設置するということが考えられるが、ここで以下のような問題が発生する。すなわち、車外に無線LANアクセスポイント用のアンテナを設置することにより、走行中であり乗客が外に出ることがあり得ない状態でも、車外に無線LANの電波が発射され続けることになり、無駄な電波を発射することになる。これは取りも直さず無駄な電力を消費することに繋がり、更には走行途中の車輌の周辺地域に不用意な電波干渉を生じさせるおそれがある、という不具合を発生させる。
【0009】
なお、特許文献1記載の発明は、車載通信装置であるものの、車外への電波の発射が不要な時に、電波の発射を抑えることができるものではない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、上記の不具合、すなわち、単に車内及び車外に無線LANアクセスポイント用のアンテナを設置した場合に、走行中の車外への電波の発射が資源の無駄であるのみならず、走行途中の車輌の周辺地域に不要な電波干渉を生じさせるおそれがある、という不具合を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、無線LANアクセスポイントと、インターネット接続手段と、無線LANアンテナとを有し、車輌に搭載される車載無線LANシステムであって、車輌の現在の状態を検出する車輌状態検出手段と、車輌状態検出手段の検出結果に基づいて車輌の状態を判定する車輌状態判定手段と、車輌状態判定手段の判定結果に基づいて車外用の無線LANアンテナの動作を制御する信号を生成する制御信号生成手段と、制御信号生成手段で生成された制御信号に基づいて車外用の無線LANアンテナの出力を制御するアンテナ制御手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項1記載の各手段は次のように動作する。
車輌状態検出手段により、現在の車輌の速度、加速度、位置、ドアの状態、サイドブレーキの作動状態を検出する。次に、車輌状態判定手段により、車輌状態検出手段からの情報を基に車輌の状態を判定する。例えば、速度からは走行中か否か、加速度からは異常な負の加速度が検出されていないか(衝突事故等による停止を判別するなど)、位置からは停留所付近か或いは単に信号待ちか、ドアの開閉状態からは乗客の乗降の可能性が判定できるので、更に動作の精度を高めることができる。次に、制御信号生成手段により、車輌状態判定手段からの情報に基づき、車外部の無線LANアンテナ出力を制御するための信号を生成する。例えば、明らかに車輌が走行中で有れば車外無線LANアンテナの出力を断とする為の信号を生成しアンテナ制御部に送出する。そして、アンテナ制御手段により、制御信号生成部からの信号に基づき実際の車外部の無線LANのアンテナ出力の制御を行う。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、車輌状態検出手段は、車輌に掛かる加速度を検出する加速度検出手段(図1の101)及び加速度検出手段で検出された加速度に基づいて所定の物理量を算出する物理量演算手段(図1の102)、車輌の車速計からの信号を利用して車輌の速度を検出する車速検出手段(図1の103)、車輌の現在位置を取得する現在地情報取得手段(図1の104)、車輌のドアの開閉状態を検出するドア開閉検出手段(図1の105)、車輌の手動ブレーキが動作しているか否かを検出する手動ブレーキ状態検出手段(図1の106)、のうちの少なくとも1以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、アンテナ制御手段は、可変ゲインアンプ、RFスイッチ、アンテナの指向性を制御するアンテナ指向性制御手段、アンテナの方向を制御するアンテナ方向制御手段、無線LANアクセスポイントの電源をオンオフする手段、のうち少なくとも1以上を備えたことを特徴とする。
【0015】
上記アンテナ制御手段によるアンテナ出力制御の方法としては、次のような方法が考えられる。本発明では、以下の〈a〉〜〈e〉のうち少なくとも1以上を行うことが可能である。
〈a〉車内外にアクセスポイント2台を設置している場合は、車外のアクセスポイント自体に電源断の指示を行う(図11参照)。
〈b〉アンテナに接続されているスイッチのON/OFF制御を行う様指示を行う(図7参照)。
〈c〉アンテナに接続されている高周波増幅器の利得の制御を行う様指示を行う(図8、図11、図12参照)。
〈d〉無線のアンテナがアンテナアレイ等の技術で指向性が制御できる構成の場合、走行中は車内のみにビームを向け、停車中はビームの幅を拡げ車外にも電波が届くような制御を行う(図9参照)。
〈e〉無線のアンテナが指向性アンテナであり、機械的な手段で指向性が制御できる構成の場合、走行中は車内のみにビームを向け、停車中はビームを車外にも電波が届くような向きに制御を行う(図10参照)。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項2または3記載の発明において、加速度検出手段は、加速度センサを用いることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項2から4のいずれか1項に記載の発明において、現在地情報取得手段は、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を用いることを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の発明は、車輌に搭載された、無線LANアクセスポイント、インターネット接続手段、及び無線LANアンテナを用いて行われる車載無線LANの制御方法であって、車輌の現在の状態を検出する車輌状態検出ステップと、車輌状態検出ステップの検出結果に基づいて車輌の状態を判定する車輌状態判定ステップと、車輌状態判定ステップの判定結果に基づいて車外用の無線LANアンテナの動作を制御する信号を生成する制御信号生成ステップと、制御信号生成ステップで生成された制御信号に基づいて車外用の無線LANアンテナの出力を制御するアンテナ制御ステップと、を行うことを特徴とする。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、車輌状態検出ステップは、車輌に掛かる加速度を検出し、検出された加速度に基づいて所定の物理量を算出する物理量演算ステップ、車輌の車速計からの信号を利用して車輌の速度を検出する車速検出ステップ、車輌の現在位置を取得する現在地情報取得ステップ、車輌のドアの開閉状態を検出するドア開閉検出ステップ、車輌の手動ブレーキが動作しているか否かを検出する手動ブレーキ状態検出ステップ、のうちの少なくとも1以上であることを特徴とする。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項6または7記載の発明において、アンテナ制御ステップは、可変ゲインアンプ、RFスイッチ、アンテナの指向性を制御するアンテナ指向性制御手段、アンテナの方向を制御するアンテナ方向制御手段、無線LANアクセスポイントの電源をオンオフする手段、のうち少なくとも1以上を用いて車外用の無線LANアンテナの出力を制御することを特徴とする。
【0021】
請求項9記載の発明は、請求項7または8記載の発明において、加速度検出ステップは、加速度センサを用いて車輌に掛かる加速度を検出することを特徴とする。
【0022】
請求項10記載の発明は、請求項7から9のいずれか1項に記載の発明において、現在地情報取得ステップは、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を用いて車輌の現在地を取得することを特徴とする。
【0023】
以上、上記各請求項に示す構成及び手順により、本発明は、車輌の状態に基づき車外への電波の出力を制御することができ、上記本発明の目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、車載無線LANシステムにおいて、車輌の走行中等車外への無線LAN電波の発射が不要な時には電波の発射を抑える一方、停車中等の車外への無線LANの電波の発射が適当であるときには電波が発射、或いは指向性が車外にも及ぶように制御することにより、資源が効率的に利用でき、また、不要な電波干渉を与えることを防止できる。
【0025】
その理由は、加速度センサ等の車輌状態検出手段と、この車輌状態検出手段により検出された情報に基づいて車輌の状態を判定する車輌状態判定手段と、を有することにより、車輌の走行状態等を判定した上で、走行中には車外への電波発射を停止する等の制御を行うようにできるようにした為である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
〔第1の実施形態〕
図1を参照すると、本発明の第1の実施形態である車載無線LANシステムは、現在の車輌の状態の検出を行う車輌状態検出手段100と、車輌状態検出手段100からの情報に基づいて車輌の状態を判定する車輌状態判定手段110と、車輌状態判定手段110からの情報に基づいて車外無線LANの動作を制御する信号を生成する制御信号発生手段120と、制御信号に基づいて車内外、特に車外の無線LANアンテナ出力の制御を行うアンテナ制御手段130と、車載無線LANアクセスポイント部140と、インターネット接続手段160と、アンテナ部150と、を有して構成される。
【0028】
次に、これらの各手段について以下に詳細を説明する。
【0029】
車輌状態検出手段100は、加速度検出手段101、物理量演算手段102、車速検出(測定)手段103、現在地情報取得手段104、ドア開閉検出手段105、手動ブレーキ状態検出手段106と、で構成されている。
【0030】
車輌状態検出手段100は、車輌の状態判定の元となる情報の収集を行う部分である。図1では、5種類の車輌状態検出手段(加速度検出手段101及び物理量演算手段102、車速検出手段103、現在地情報取得手段104、ドア開閉検出手段105、手動ブレーキ状態検出手段106)からの情報が、車輌状態判定手段110に入力されているように記載されているが、これら5種類全てが必要とは限らず、動作精度とコストとの兼ね合いにより、実施においては、任意の1種類以上の検出手段の組み合わせとしてもよい。
【0031】
加速度検出手段101は、車輌に掛かる加速度を検出する手段であり、一般的には「3軸加速度センサ」と呼ばれ、3次元方向の加速度が検出できるセンサであり、市販されているものである。
【0032】
物理量演算手段102は、加速度検出手段102で検出された加速度情報を基に演算(積分)を行って、速度、相対位置を算出する手段であり、一般的にCPUやDSP等の演算素子にて構成される。
【0033】
車速検出手段103は、車輌のスピードメータ(車速計)からの信号を取り込む手段である。なお、速度(車速)は、加速度検出手段101及び物理量演算手段102でも得られるが、相互に補完して情報を利用できる。
【0034】
現在地情報取得手段104は、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)等を想定しており、地図上の位置情報が得られる。この現在地情報取得手段104より得られる位置情報(地図情報、現在場所の情報)は、例えば、車輌が停留所(鉄道なら駅)付近に位置するか、などを判断するのに用いることができる。
【0035】
ドア開閉検出手段105は、車輌のドアが開いた状態か又は閉じた状態かを示す開閉情報を検出して出力する。この開閉情報は、例えば、この無線LANシステムが車輌の乗降客のみを対象とすると、ドアが開かない時には車外無線LANの電波を送信しないように設定しておけば、車輌が単に交差点で信号待ちをして停車した時に、誤動作で車外側の無線LANの電波が送出されてしまうことを防止する等に利用できる。
【0036】
手動ブレーキ状態検出手段106は、車輌のサイドブレーキが動作しているか否かを検出する手段である。
【0037】
車輌状態判定手段110は、車輌状態検出手段100からの各情報を基に、車輌の走行状況、現在位置を判定し、車外無線LANアンテナ151からの送信出力の制御(ON/OFF、出力の調整)を行うか否かの判定を行う部分である。例えば、物理量演算手段102から得られる速度が零以上、つまり“走行中”であり、車速検出手段103からの信号も“走行中”であり、現在地情報取得手段104からの位置情報が“停留所の付近では無い(走行経路の途中)”であり、かつ、ドア開閉検出手段105からの開閉情報が“ドアが閉まっている”であり、かつ、手動ブレーキ動作検出手段106からの信号が“サイドブレーキが動作していない”という条件の組み合わせの場合は「車外の無線LANアンテナからの送信は行わない」と判定する。このような制御動作によって、最終的には不必要な状況における車外への電波の放出を防ぐことができ、資源の無駄を防止することができる。
【0038】
制御信号生成手段120は、車輌状態判定手段110からの判定情報に基づき、後述のアンテナ制御手段130への制御信号を生成し送出する部分である。上述した例で言えば、車輌状態判定手段110から「車外の無線LANアンテナからの送信は行わない」と判定された信号が送られてきた場合には、後段のアンテナ制御手段130に対して「外部の無線LANアンテナからの送信を行わない」ように指示する信号を生成し送出する。
【0039】
アンテナ制御手段130は、制御信号生成手段120からの制御信号に基づき、アンテナ制御手段130にて制御されているアンテナの出力の制御を行う。例えば「車外の無線LANアンテナからの送信を行わない」という制御信号を受信した場合は、アンテナ制御手段130に接続されているアンテナ151,152のうち、車外に取り付けられているアンテナ151からの送信を断とする、という制御を行えばよい。
【0040】
車載無線LANアクセスポイント部140は、一般的な無線LANアクセスポイントであり、アンテナ制御手段130に接続されているアンテナ部150を介して無線LAN端末と接続し、通信を可能とする一方で、他端は、インターネット接続手段160を介してインターネット170に接続し、無線LAN端末との通信を中継し、インターネット通信を可能とするという機能を持つ。
【0041】
アンテナ部150は、アンテナ制御手段130に接続され、1つ以上のアンテナで構成されている。ここでは、一例として、車外用(外部)アンテナ151、車内用(内部)アンテナ152で構成されている。
【0042】
次に、図1及び図2のフローチャートを参照して、本実施形態の全体的な動作について詳細に説明する。
【0043】
まず、車輌状態検出手段100は、車輌状態の検出を行う。すなわち、現在の、加速度、走行速度(車速)、ドアの開閉状況、位置情報(地図情報)、サイドブレーキの動作状況、を示す情報の取得を行う(図2(a)のステップA1)。
【0044】
次に、車輌状態判定手段110は、車輌状態検出手段100で取得された各種情報を基に車輌の状態を判定し、車外の無線LANアンテナの制御方法(ON/OFF、出力調整等)を判断する(図2(a)のステップA2)。
【0045】
最後に、制御信号生成手段120は、車輌状況判定手段110にて判断された判断結果に従い、アンテナ制御手段130に対して動作指示を行う信号を生成し、送出する(図2(a)のステップA3)。
【0046】
ここで、図2(a)のステップA2における車輌状態判定手段110の車輌状態判定方法の例について、図2(b)を参照して詳細に説明する。
【0047】
まず、加速度検出手段101及び物理量演算手段102からの情報に基づいて、車輌衝突に起因する異常な値の加速度が掛かっていないかを判定する(ステップA21)。次に、車速検出手段103からの情報(もしくは、車速検出手段103からの情報、並びに、加速度検出手段101及び物理量演算手段102からの情報の両方)に基づいて、車輌の速度を判定し(ステップA22)、車速が零、つまり停車中であると判断した場合は、次のステップで現在地情報取得手段104からの車輌位置を示す地図情報に基づいて、車輌が停留所付近か否かを判定し(ステップA23)、車輌が停留所付近にいると判断した場合は、次のステップでドア開閉検出手段105からの情報に基づいて、ドアの開閉状況を判定し(ステップA24)、ドアが開いていると判断した場合は、次のステップで手動ブレーキ状態検出手段からの情報に基づいて、手動ブレーキの動作状況を判定し(ステップA25)、手動ブレーキが動作中、つまり“作動ON”であると判断した場合は、最終的に、車輌の外部の無線LANシステムのアンテナ151の送信を行うべきであると判断し、その旨を制御信号生成手段120に通知する(ステップA26)。その後、通知を受けた制御信号生成手段120により、制御信号生成及び送出のステップ(図2(a)のステップA3)が行われる。
【0048】
なお、図2(b)において、上記各判定処理は必ずしも図示した順番に行う必要はなく、車輌状態検出手段100からの情報の組から各検出手段の状態のマトリックス表を作成し、その組み合わせ結果から制御方法を決定するとしてもよい。
【0049】
本実施形態の効果について説明する。
本実施形態では、車輌状態判定手段の各種センサにより車輌の状態(状況)を収集し、その収集されたデータに基づいて現在の車輌の状態を車輌状態判定手段にて判断し、外部アンテナの制御方法(電波送信のON/OFFや出力調整等)を判断し、その判断に基づき制御信号生成手段より所定の制御信号をアンテナ制御手段に対して送出し、アンテナ制御手段では実際のアンテナ出力の制御を行う、というように構成されているため、車輌の状況に応じて柔軟に車外への電波の送信を制御できるようになっている。よって、図6に示すように、車輌の走行中等車外への無線LAN電波の発射が不要な時には電波の発射を抑える一方、停車中等の車外への無線LANの電波の発射が適当であるときには電波が発射、或いは指向性が車外にも及ぶように制御することにより、資源が効率的に利用でき、また、不要な電波干渉を与えることを防止できる。
【0050】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明を実施するための最良の形態についての別の実施形態(第2の実施形態)について、図面を参照して詳細に説明する。既に説明した、図1におけるアンテナ制御手段130、アンテナ部150及び車載無線LANアクセスポイント部(以下、アクセスポイントという)140の構成については、詳細には複数通りの方法が考えられる。そこで、第2の実施形態として、図1のうち、アンテナ制御手段130、アンテナ部150、車外アンテナ151、車内アンテナ152、及びアクセスポイント140の様々な構成例について、以下に詳細に説明する。
【0051】
図7に示す構成例1は、車外アンテナ制御の為に車外アンテナ731とアクセスポイント720との間にスイッチ710が挿入された構成である。制御信号生成手段700からの制御信号にてこのスイッチ710をON/OFFすることにより、車外アンテナ731からの出力のON/OFFを行う。単純に切断するだけなので消費電力の節約にはならないが、制御も単純で、非常に簡単に実現可能という利点がある。
【0052】
図8に示す構成例2は、車外アンテナ制御の為にスイッチの代わりに可変ゲインアンプ810,811が実装され、制御信号生成手段800からの制御信号にて車外(必要に応じて車内も)の送信出力を制御できるものである。この構成例2の利点は、図7のような単なるスイッチによる出力の切断とは異なり、アンプの増幅ゲインを制御して減少させるため、単純なON/OFFだけでなく、送信出力を柔軟に変化させることができる。また、その分の消費電力を減少させることができるという利点を生ずる。
【0053】
図9に示す構成例3は、アンテナ制御手段をさらに別の構成とする形態である。この形態では図7の構成と異なり、アンテナ部930として931,932の2本のアンテナからなるアレイアンテナを構成しており、指向性制御手段910によるアンテナ制御の方法として、指向性(アンテナビーム)を変化させることができるようになっている。アレイアンテナの指向性制御の為には通常2本以上のアンテナを用意し、アンテナ毎にアンテナに入力される電気信号の位相振幅を制御することにより、電波の指向性及び出力を制御することができる(アレイアンテナ技術)。この構成例3により、例えば走行中は車内のみにビームを向けておき、停車中等はビームパタンを変化させて車外にも電波を到達させるように制御することにより、他の方法とほぼ同様の効果を得ることができる。また、アンテナ数としては3本以上も考えられ、その場合、アンテナ数が多い分、自由度が増す為、よりきめ細かなビームパタンの制御を行うことができる。
【0054】
図10に示す構成例4は、アンテナとして指向性アンテナ1030を用意し、指向性制御手段1010により物理的にアンテナの方向を回転させることにより、指向性の制御を行うものである。この構成例4では、例えば走行中は主に車内のみに電波が届くようアンテナの向きを車内向けにする一方、停車中にアンテナを外側に回転させて車外にも電波が届くようにする、という制御を行うことができる。この構成例4を実現するためには、アンテナ回転のための機械的な機構が必要になるが、構成例3のアレイアンテナのようなビームパタン形成のための複雑な信号処理が不要という利点がある。
【0055】
図11に示す構成例5は、アンテナ制御手段をさらに別の構成とする形態である。この形態は他の構成例1〜4までの形態、すなわち、アクセスポイント1台から複数本のアンテナが出ていて制御されている構成とは異なり、アクセスポイント自体が複数用意され(1120,1121)、これら複数のアクセスポイントは、インターネット側ネットワークインターフェース側がHUB1140経由でインターネット接続手段1150と接続されている一方、アンテナ部1130側は車外用アンテナ1131が可変ゲインアンプ経由でアクセスポイント1120と接続されている、という構成である。この構成例5は、例えば車内用のアクセスポイント1121と、車外用のアクセスポイント1120とが独立して用意され、これらのアクセスポイントからの送信出力を制御することにより、所望の効果を得るという方式である。制御方法としては、可変ゲインアンプ1110のゲインを調整するとしてもよいし、アクセスポイント1120自体の動作を制御(例えば電源をON/OFF)するとしてもよいし、その両方でもよい。この構成例5の利点は、車内外でアクセスポイントが独立なので、クライアントの収容数を増大することができるという利点がある。
【0056】
図12に示す構成例6は、他の構成例1〜5とは逆に、最も単純な構成例であり、アンテナとして車内外と区別せず、単にアンテナ出力を制御するものである。この構成例では、例えばバスの走行中は専ら車内の乗客だけに提供するに必要十分な電波の強度に抑えておき、停車中、車輌周辺にまで電波到達範囲を拡げたい場合には出力を増大させるように、可変ゲインアンプ1210のゲインを調整することにより、上記目的を達成するものである。
【実施例】
【0057】
次に、上記本発明の実施形態の具体的な例として、実施例の動作を説明する。
図13は、バスに本実施形態の車載無線LANシステムを搭載した実施例を示している。
【0058】
本発明の車載無線LANシステムは、
1300が車輌の現在の状態の検出を行う車輌状態検出部であり、1301が加速度センサ、1302が加速度センサからの信号を基に、バスに掛かる加速度、速度を計算する物理量演算部、1303がバスの車速計からのバスの現在速度を示す信号を受信する車速計インターフェース、1304が位置情報(地図情報、現在場所の情報)を取得するGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)、1305がドア開閉の情報をバスのドア部から取り込むドア開閉検出インターフェース、1306がサイドブレーキの動作状況を取り込むサイドブレーキ状態検出インターフェースである。これら1300の各信号(情報)が1310の車輌状態判定部1310に入力され、それら情報を基にバスの状態を把握し、車外のアンテナの動作の決定を行う。この決定方法は、ここでは図14の判定テーブルに示すように、車輌状態検出部1300からの各信号の組み合わせによって、後段の制御信号生成部1320に送られる信号を決定する。
【0059】
例えば、図14の1400のように、「負の加速度がa以下(衝突でない)、速度(2種類)が一定以上、GPSによる位置が停留所付近でない、ドアは閉、サイドブレーキ作動OFF」の場合は、「車外アンテナOFF」と判定する。
【0060】
また、例えば、図14の1410のように、「負の加速度がa以下(衝突でない)、速度(2種類)が一定以下、GPSによる位置が停留所付近である、ドアは開、サイドブレーキ作動ON」の場合は、「車外アンテナONかつアンテナ出力100%」と判定する。
【0061】
また、例えば、図14の1420のように、「負の加速度がa以下(衝突でない)、速度(2種類)が一定以下、GPSによる位置が停留所付近である、ドアは閉、サイドブレーキ作動OFF」の場合は、「車外アンテナONかつアンテナ出力50%」と判定する(ドアが閉まっている為)。
【0062】
また、例えば、図14の1430のように、「負の加速度がa以上(衝突と推定)」の場合は、他の条件は判断せず、「車外アンテナOFF」と判定する(異常な加速度より衝突による停車と思われる為)。
【0063】
次に、図13に戻り、これらの車輌状態判定部1310からの判定結果が次段の制御信号生成部1320に入力され、1330の可変ゲインアンプのゲインを先の判定結果通りになるよう制御する信号を生成する。このようにして、バスの動作状態に応じた車外アンテナ出力の制御を行うことができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、上記記載に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、車輌の走行状態を基に車外のアンテナの出力を変更させることができる車載用無線通信システムの用途に適用できる。また、車輌の種類としては、バス、列車はもとより、船舶、航空機等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態である車載無線LANシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態である車載無線LANシステムの動作を示すフローチャートである。
【図3】従来の車載無線LANシステムの例を説明するための図である。
【図4】従来の車載無線LANシステムを観光バスに搭載した例を説明するための図である。
【図5】従来の車載無線LANシステムを観光バスに搭載した例での問題点を説明するための図である。
【図6】本発明の第1実施形態である車載無線LANシステムの効果を説明するための図である。
【図7】本発明の第2実施形態である車載無線LANシステムのアンテナ制御に係る構成例1を示すブロック図である。
【図8】本発明の第2実施形態である車載無線LANシステムのアンテナ制御に係る構成例2を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2実施形態である車載無線LANシステムのアンテナ制御に係る構成例3を示すブロック図である。
【図10】本発明の第2実施形態である車載無線LANシステムのアンテナ制御に係る構成例4を示すブロック図である。
【図11】本発明の第2実施形態である車載無線LANシステムのアンテナ制御に係る構成例5を示すブロック図である。
【図12】本発明の第2実施形態である車載無線LANシステムのアンテナ制御に係る構成例6を示すブロック図である。
【図13】本発明の実施例である車載無線LANシステムの構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の実施例である車載無線LANシステムで使用さる判定テーブルを示す図である。
【符号の説明】
【0067】
100 車輌状態検出手段
101 加速度検出手段
102 物理量演算手段
103 車速検出手段
104 現在地情報取得手段
105 ドア開閉検出手段
110 車輌状態判定手段
120 制御信号生成手段
130 アンテナ制御手段
140 車載無線LANアクセスポイント部(アクセスポイント)
150 アンテナ部
151 車外(外部)アンテナ
152 車内(内部)アンテナ
160 インターネット接続手段
170 インターネット
310 インターネット接続手段
320 アクセスポイント
330 アンテナ
340 インターネット
350 電波の発射エリア範囲のイメージ
360 無線LANクライアント
370 車輌
400 走行中のバス
410 車内の電波の発射エリア範囲のイメージ
420 車内の無線LANクライアント
430 停車中のバス
440 車内の無線LANクライアント
450 車外の無線LANクライアント
460 バスのドア
470 観光スポット
700 制御信号生成手段
710 スイッチ
720 アクセスポイント
730 アンテナ
731 車外アンテナ
732 車内アンテナ
800 制御信号生成手段
810、811 可変ゲインアンプ
820 アクセスポイント
830 アンテナ
831 車外アンテナ
832 車内アンテナ
900 制御信号生成手段
910 指向性制御手段
920 アクセスポイント
930 アンテナ
931、932 アレイアンテナ
1000 制御信号生成手段
1010 指向性制御手段
1020 アクセスポイント
1030 指向性アンテナ
1100 制御信号生成手段
1110 可変ゲインアンプ
1120、1121 アクセスポイント
1130 アンテナ
1131 車外アンテナ
1132 車内アンテナ
1140 HUB
1150 インターネット接続手段
1200 制御信号生成手段
1210 可変ゲインアンプ
1220 アクセスポイント
1230 アンテナ
1300 車輌状態検出部
1301 加速度センサ
1302 物理量演算部
1303 車速計インターフェース
1304 GPS
1305 ドア開閉検出インターフェース
1310 車輌状態判定部
1320 制御信号生成部
1330 可変ゲインアンプ
1340 アンテナ
1341 車外アンテナ
1342 車内アンテナ
1350 アクセスポイント
1360 インターネット接続手段
1370 インターネット
1400、1410、1420、1430 判定テーブルにおける判定例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線LANアクセスポイントと、インターネット接続手段と、無線LANアンテナとを有し、車輌に搭載される車載無線LANシステムであって、
車輌の現在の状態を検出する車輌状態検出手段と、
前記車輌状態検出手段の検出結果に基づいて前記車輌の状態を判定する車輌状態判定手段と、
前記車輌状態判定手段の判定結果に基づいて車外用の無線LANアンテナの動作を制御する信号を生成する制御信号生成手段と、
前記制御信号生成手段で生成された制御信号に基づいて前記車外用の無線LANアンテナの出力を制御するアンテナ制御手段と、
を有することを特徴とする車載無線LANシステム。
【請求項2】
前記車輌状態検出手段は、前記車輌に掛かる加速度を検出する加速度検出手段及び該加速度検出手段で検出された加速度に基づいて所定の物理量を算出する物理量演算手段、前記車輌の車速計からの信号を利用して前記車輌の速度を検出する車速検出手段、前記車輌の現在位置を取得する現在地情報取得手段、前記車輌のドアの開閉状態を検出するドア開閉検出手段、前記車輌の手動ブレーキが動作しているか否かを検出する手動ブレーキ状態検出手段、のうちの少なくとも1以上であることを特徴とする請求項1記載の車載無線LANシステム。
【請求項3】
前記アンテナ制御手段は、可変ゲインアンプ、RFスイッチ、前記アンテナの指向性を制御するアンテナ指向性制御手段、前記アンテナの方向を制御するアンテナ方向制御手段、前記無線LANアクセスポイントの電源をオンオフする手段、のうち少なくとも1以上を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の車載無線LANシステム。
【請求項4】
前記加速度検出手段は、加速度センサを用いることを特徴とする請求項2または3記載の車載無線LANシステム。
【請求項5】
前記現在地情報取得手段は、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を用いることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の車載無線LANシステム。
【請求項6】
車輌に搭載された、無線LANアクセスポイント、インターネット接続手段、及び無線LANアンテナを用いて行われる車載無線LANの制御方法であって、
車輌の現在の状態を検出する車輌状態検出ステップと、
前記車輌状態検出ステップの検出結果に基づいて前記車輌の状態を判定する車輌状態判定ステップと、
前記車輌状態判定ステップの判定結果に基づいて車外用の無線LANアンテナの動作を制御する信号を生成する制御信号生成ステップと、
前記制御信号生成ステップで生成された制御信号に基づいて前記車外用の無線LANアンテナの出力を制御するアンテナ制御ステップと、
を行うことを特徴とする車載無線LANの制御方法。
【請求項7】
前記車輌状態検出ステップは、前記車輌に掛かる加速度を検出し、検出された加速度に基づいて所定の物理量を算出する物理量演算ステップ、前記車輌の車速計からの信号を利用して前記車輌の速度を検出する車速検出ステップ、前記車輌の現在位置を取得する現在地情報取得ステップ、前記車輌のドアの開閉状態を検出するドア開閉検出ステップ、前記車輌の手動ブレーキが動作しているか否かを検出する手動ブレーキ状態検出ステップ、のうちの少なくとも1以上であることを特徴とする請求項6記載の車載無線LANの制御方法。
【請求項8】
前記アンテナ制御ステップは、可変ゲインアンプ、RFスイッチ、前記アンテナの指向性を制御するアンテナ指向性制御手段、前記アンテナの方向を制御するアンテナ方向制御手段、前記無線LANアクセスポイントの電源をオンオフする手段、のうち少なくとも1以上を用いて前記車外用の無線LANアンテナの出力を制御することを特徴とする請求項6または7記載の車載無線LANの制御方法。
【請求項9】
前記加速度検出ステップは、加速度センサを用いて前記車輌に掛かる加速度を検出することを特徴とする請求項7または8記載の車載無線LANの制御方法。
【請求項10】
前記現在地情報取得ステップは、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を用いて前記車輌の現在地を取得することを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の車載無線LANの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−153773(P2008−153773A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337351(P2006−337351)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】