説明

車載用アンテナ装置

【課題】コモンモードノイズの影響を低減して安定したアンテナ特性が得られる車載用アンテナ装置を提供する。
【解決手段】車載用アンテナ装置200は、アンテナユニット210とコネクタ付き同軸ケーブル120を接続した構成となっている。アンテナユニット210は、給電エレメント111と無給電エレメント112を備え、給電エレメント111はアンプ回路113の+入力に接続され、無給電エレメント112はアンプ回路113の地板115に接続されている。アンプ回路113の出力はフィルタ216を介して同軸ケーブル120の中心導体121に接続されており、地板115もフィルタ216を介して同軸ケーブルの外導体122に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車載用アンテナ装置に関し、特にアンテナエレメントと受信器とが離れた位置に配置されてケーブルで接続された車載用アンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車載用アンテナ装置においても、地上デジタルTV等に用いる広帯域なUHFアンテナに対するニーズが高くなっている。車載用のアンテナ装置では、小型化することが強く要求されるとともに、設置可能な場所も極めて限定されている。そのため、アンテナエレメントを電波の受信に好適なフロントガラスまたはリアガラスに設置する一方(例えば特許文献1)、受信器はアンテナエレメントから離れた別の位置に設置されるのが一般的である。アンテナエレメントと受信器の間は、同軸ケーブルで接続される。
【0003】
アンテナエレメントと受信器との間を接続する同軸ケーブルは、車体の底部等の目立たない場所に配索されるため、同軸ケーブルが車体の金属部分(以下では、車体金属部という)に近接または接した状態で配索される。UHFアンテナの多くは平衡型であるのに対し、同軸ケーブルや受信信号を増幅するためのアンプ回路は非平衡回路であることから、両者にミスマッチが生じて同軸ケーブルにコモンモード電流が生じる。このコモンモード電流により同軸ケーブルのシールド特性が著しく劣化し、車体金属部からのノイズが同軸ケーブルに流入しやすくなる。従来より、同軸ケーブルの外導体に車体金属部からコモンモードノイズが混入してアンテナ特性が劣化してしまうといった問題があった。このコモンモードのノイズによるアンテナ特性への影響は、同軸ケーブルの配索位置等によって大きく変動するといった問題もあった。
【0004】
従来の車載用アンテナ装置の一例を図7に示す。図7(a)、図7(b)及び図8を用いて説明する。図8は従来の車載用アンテナ装置900を車体金属部10に近接させて配置したときの等価回路図である。図7(a)、図7(b)は共に従来の車載アンテナ装置900を構成するアンテナユニット910の概略構成図であり、図7(a)は正面図、図7(b)は背面図である。また、アンテナユニット910が受信器から離れた位置に設置され、その間を接続する同軸ケーブルが車体金属部に近接して配索されたときの等価回路を、図8に示す。
【0005】
アンテナユニット910は、一例としてUHF周波数帯で用いる広帯域な車載用アンテナとしている。アンテナユニット910は、給電エレメント911と無給電エレメント912を有しており、給電エレメント911がアンプ回路913に接続され、無給電エレメント912が回路基板914の裏面に設けられた地板915に接続されている。さらに、アンプ回路913が同軸ケーブル920の中心導体921に接続され、地板915が同軸ケーブル920の外導体922に接続されている。
【0006】
図8では、同軸ケーブル920が車体金属部10に近接して配索されて受信器930に接続されているとき、車体金属部10から同軸ケーブル920に混入したノイズが、車載用アンテナ装置900内をどのように伝播するかを示している。同軸ケーブル920及びアンテナユニット910は、車体金属部10に近接して配置されることから、車体金属部10との間で容量(浮遊容量)が形成される。すなわち、車体金属部10と同軸ケーブル920の外導体922との間に容量C1、C2が形成され、車体金属部10と給電エレメント911及び無給電エレメント912との間にそれぞれ容量C3、C4が形成される。
【0007】
図8では、車体金属部10と同軸ケーブル920の外導体922との間に形成される容量をC1とC2に分けているが、ここでは、ノイズが外導体922に混入した位置での容量をC1とし、それ以外の位置で形成される容量をC2としている。コモンモードノイズとして、電流I1が容量C1を介して外導体922に混入したとき、この電流I1が外導体922を経由して車載用アンテナ装置900内を流れる電流をI2〜I5で示している。
【0008】
コモンモードノイズの電流I1は、一部(電流I2)が容量C2を介して外導体922から車体金属部10に戻り、残りの電流I3が回路基板914に流入する。アンプ回路913の+側入力と−側入力の間には、入力インピーダンスZ_A(50Ω)がある。そのため、電流I3は、アンプ回路913が載置された回路基板914の地板915を経由して一部(電流I4)が無給電エレメント912に流入し、残りの電流I5が入力インピーダンスZ_Aを経由して給電エレメント911に流入する。
【0009】
電流I4、I5は、無給電エレメント912及び給電エレメント911と車体金属部10との間のそれぞれの容量C3、C4を介して車体金属部10に戻る。ここで、入力インピーダンスZ_Aと電流I5とで生じる電圧降下分がアンプ回路913に対する電圧入力となり、アンプ回路913で増幅されてノーマルモードのノイズとして受信器930に受信されてしまい、アンテナ特性を劣化させてしまう。
【0010】
そこで、受信器930に受信されるノーマルモードのノイズを低減するには、入力インピーダンスZ_Aを通過する電流I5を低減させるのがよい。電流I5を低減させるには、同軸ケーブル920の外導体922を通過する電流I3を低減させる(第1の方法)か、あるいは、無給電エレメント912側に流入する電流I4を増加させることで電流I5を低減させる方法(第2の方法)が考えられる。
【0011】
上記の第1の方法では、従来より、電流I3を低減させるために同軸ケーブル920を車体金属部10に近接させる対策が取られている。これにより、外導体922と車体金属部10との間の容量C2が大きくなることで外導体922から車体金属部10に至るまでのインピーダンスが小さくなる。その結果、電流I2が大きくなる一方I3(=I1−I2)が小さくなり、電流I5も小さくなる。
【0012】
また、上記の第2の方法では、電流I3を変えずに、無給電エレメント912側に流入する電流I4を増加させることで電流I5(=I3−I4)を低減させる。給電エレメント911と車体金属部10との間のインピーダンスをZ_Fとし、無給電エレメント912と車体金属部10との間のインピーダンスをZ_Gとするとき、電流I5は、電流I3との間に、
I5=I3・Z_G/(Z_A+Z_F+Z_G)
の関係が成り立つ。
【0013】
上式より、インピーダンスZ_Gを(Z_A+Z_F)に対して相対的に小さくすることで、電流I5を低減させることができる。Z_Gを小さくするために、従来より、無給電エレメント912を大きくしたり、車体金属部10に近接させて容量C3を増加させる対策が知られている。あるいは、無給電エレメント912を車体金属部10に直接接続することで、Z_Gを0にする方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−153738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記の第1の方法では、同軸ケーブル920の配策の仕方によって容量C2が大きく変化し、その結果、ノイズ特性も変動することになって安定したアンテナ特性を得ることはできない。また、上記の第2の方法でも、アンテナユニットの小型化が困難になったり、アンテナユニットの形状、搭載位置および搭載条件が大きく制約される、等の問題がある。
【0016】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、コモンモードノイズの影響を低減して安定したアンテナ特性が得られる車載用アンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の車載用アンテナ装置の第1の態様は、給電エレメントと無給電エレメントとを有するアンテナユニットと、裏面に地板を備える回路基板と、前記回路基板に搭載されて前記アンテナユニットで受信した受信信号を増幅するアンプ回路と、前記アンプ回路と受信器とを電気的に接続する同軸ケーブルと、を備える車載用アンテナ装置であって、前記同軸ケーブルの外導体に混入するコモンモードノイズを低減するためのフィルタをさらに備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の車載用アンテナ装置の他の態様は、前記フィルタは、前記アンプ回路と前記同軸ケーブルとの間に接続され、前記給電エレメントが前記アンプ回路に接続され、前記無給電エレメントが前記地板に接続されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の車載用アンテナ装置の他の態様は、前記フィルタは、前記アンプ回路と前記アンテナユニットとの間に配置され、前記給電エレメントが前記フィルタを介して前記アンプ回路に接続され、前記無給電エレメントが前記フィルタを介して前記地板に接続されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の車載用アンテナ装置の他の態様は、前記給電エレメント及び前記無給電エレメントは、前記同軸ケーブルが前記アンプ回路に接続される接続方向に略平行に配置されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の車載用アンテナ装置の他の態様は、前記フィルタは、前記同軸ケーブルの外導体に混入するコモンモードノイズを遮断するコモンモードチョークコイルであることを特徴とする。
【0022】
本発明の車載用アンテナ装置の他の態様は、前記フィルタは、前記同軸ケーブルの外導体から見た前記回路基板側のインピーダンスを高くするためのチョークコイルであることを特徴とする。
【0023】
本発明の車載用アンテナ装置の他の態様は、前記アンテナユニットは、UHF周波数帯において広帯域な受信特性を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
コモンモードノイズの影響を低減して安定したアンテナ特性が得られる車載用アンテナ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第2実施形態に係る車載用アンテナ装置の概略構成を示す構成図である。
【図2】第2実施形態の車載用アンテナ装置を車体金属部に近接させて配置したときの等価回路図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る車載用アンテナ装置の概略構成を示す構成図である。
【図4】第1実施形態の車載用アンテナ装置を車体金属部に近接させて配置したときの等価回路図である。
【図5】走行実験における車載用アンテナ装置の配置を説明する説明図である。
【図6】走行実験により測定され受信電力差分対CNR差分の実験結果を示すグラフである。
【図7】従来の車載用アンテナ装置のアンテナユニットの一例を示す平面図及び背面図である。
【図8】従来の車載用アンテナ装置を車体金属部に近接させて配置したときの等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の好ましい実施の形態における車載用アンテナ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0027】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る車載用アンテナ装置を図3、4を用いて説明する。図3は、本実施形態の車載用アンテナ装置200および受信システム240の概略構成を示す構成図であり、図4は、本実施形態の車載用アンテナ装置200を車体金属部10に近接させて配置したときの等価回路図である。
【0028】
本実施形態の車載用アンテナ装置200は、アンテナユニット210と、アンテナユニット210と受信器130とを電気的に接続するコネクタ付き同軸ケーブル120からなる構成である。図3に示すように、アンテナユニット210は、給電エレメント111と無給電エレメント112と、回路基板114とを備えている。回路基板114の表面にはアンプ回路113が実装され、裏面にはアンプ回路113の地板115となる電極パターンが配置されており、回路基板114の同軸ケーブル120側にフィルタが配置されている。給電エレメント111はアンプ回路113の+入力に接続され、無給電エレメント112はアンプ回路113の地板115に接続されている。アンプ回路113の出力はフィルタ216を介して同軸ケーブル120の中心導体121に接続されており、地板115もフィルタ216を介して同軸ケーブルの外導体122に接続されている。車載用アンテナ装置200の信号は、同軸ケーブル120を介して受信器130に伝送される。本実施形態ではフィルタ216がアンプ回路113と同軸ケーブル120との間に接続されることを特徴としている。
【0029】
アンテナユニット210は、車両の電波の受信に好適なフロントガラスやリアガラス等に設置されるのに対し、受信器130はアンテナエレメントから離れた別の位置に設置されるため、両者を接続する同軸ケーブル120は、比較的長い距離を配索される。同軸ケーブル120は、中心導体111と外導体112を有し、車体の底部等の目立たない場所に配索される。そのため、同軸ケーブル120の少なくとも一部が車体金属部10に近接しており、車体金属部10から外導体112にコモンモードノイズが混入しやすい。
【0030】
図4では、アンテナユニット210及び同軸ケーブル120を車体金属部10に近接して配置することにより形成される浮遊容量(以下では、単に容量とする)を、容量C1〜C4で示している。車体金属部10と同軸ケーブル120の外導体122との間には、ノイズが混入した位置での容量C1と、それ以外の位置での容量C2が形成される。また、車体金属部10と給電エレメント111及び無給電エレメント112との間には、それぞれ容量C3、C4が形成される。
【0031】
コモンモードノイズについては、容量C1を介して外導体122に混入されるノイズの電流をI1とし、この電流I1が外導体122を経由して車載用アンテナ装置200内を流れる電流をI2〜I5で示している。電流I1は、そのうちの一部の電流I2が容量C2を介して外導体122から車体金属部10に戻り、残りの電流I3がフィルタ216を経由して回路基板114に流入する。回路基板114に搭載されたアンプ回路113の+側入力と−側入力との間には、入力インピーダンスZ_A(50Ω)がある。そのため、電流I3は、回路基板114の地板115を経由して一部の電流I4が無給電エレメント112に流入し、残りの電流I5が入力インピーダンスZ_Aを経由して給電エレメント111に流入する。
【0032】
電流I4、I5は、無給電エレメント112及び給電エレメント111と車体金属部10との間のそれぞれの容量C3、C4を介して車体金属部10に戻る。ここで、入力インピーダンスZ_Aと電流I5によって生じる電圧降下分がアンプ回路113に電圧入力として流入すると、アンプ回路113で増幅されてノーマルモードのノイズとして受信器130に受信されてしまい、アンテナ特性を劣化させてしまう。本実施形態の車載用アンテナ装置200では、このようなノーマルモードノイズを低減するために、アンプ回路113と同軸ケーブル120との間に、フィルタ216を接続している。
【0033】
ノーマルモードノイズの発生源となる電流I5を低減するためには、電流I3を低減するのが良く、I3を低減するにはI3が流れる線路(導通線路)のインピーダンスを高くするのがよい。但し、外導体122のインピーダンスを高くすると、アンテナユニット210から受信器130へ向かう信号の伝送も妨げてしまうため、信号の伝送に影響を与えることなく電流I3の導通線路のインピーダンスを高くする必要がある。そこで、本実施形態では、同軸ケーブル120とアンプ回路113との間にフィルタ216を接続している。
【0034】
フィルタ216は、コモンモードノイズ由来の電流であるI3に対してインピーダンスが高く、アンテナユニット210から受信器130へ向かうノーマルモードの信号に対しては影響を与えないものが望ましく、本実施形態ではコモンモードチョークフィルタを接続している。これにより、フィルタ216は、ノーマルモードの信号に対して影響を与えずに、回路基板114と同軸ケーブル120の接続点でコモンモードを遮断することができ、同軸ケーブル120を経由するコモンモードノイズがアンプ回路113に流入するのを阻止することができる。
【0035】
アンプ回路113と同軸ケーブル120との間にフィルタ216を接続することで、同軸ケーブル120の外導体122からみたアンプ回路114側のインピーダンスが、フィルタ216のインピーダンスZ_CMCの分だけ増加することから、回路基板114の地板115を流れる電流I3が低減される。これにより、同軸ケーブル120の配索位置に影響されることなく、従来のノイズ対策(第1の方法)と同様に、電流I3を低減させる効果を得ることができる。 また、電流I4に対するインピーダンスには変化を与えないため、従来のノイズ対策(第2の方法)を併せて行うことも可能である。
【0036】
さらに、同軸ケーブル120からアンプ回路113へ向かうコモンモード電流はフィルタ216により阻止されるが、アンプ回路113の地板115からアンテナエレメント111及び112でのコモンモード電流は阻害されないため、地板115を無給電アンテナエレメント112の一部として動作させるように設計することが可能となり、空間を効率よく有効利用することが出来るため、限られた搭載スペースの中でアンテナサイズを最大限に大きく設計することができ、良好なアンテナ特性が得られるようにすることができる。
【0037】
本実施形態の車載用アンテナ装置200では、アンテナエレメント111、112の平衡、非平衡型に関わりなく、フィルタ216によりコモンモードノイズを低減させることができる。また、コモンモードに対する高インピーダンス特性は波長に依存しないため、フィルタ216の小型化やアンテナエレメント111、112の広帯域化にも容易に対応することができる。さらに、アンテナユニット210の形状や搭載位置に制約が加えられることもない。
【0038】
上記のように、本実施形態の車載用アンテナ装置200によれば、アンプ回路113と同軸ケーブル120との間にフィルタ216を接続することにより、同軸ケーブル120の配索位置やアンテナユニット110の設置位置に影響されることなく、アンプ回路113へ流入するコモンモードノイズ電流I3を低減することができる。その結果、アンプ回路113から受信器130へ伝送されるノーマルモードノイズを低減することができ、さらに限られた搭載スペースの中でアンテナサイズを最大限に大きく設計することが出来るので、アンテナ利得も高くすることができるため、良好なアンテナ特性が得られる。本実施形態の車載用アンテナ装置200は、同軸ケーブル120の配策位置等に影響されず、安定したアンテナ特性が得られる。また、アンテナユニット210の形状や搭載位置に制約が加えられることもない。
【0039】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る車載用アンテナ装置を図1、2を用いて説明する。図1は、本実施形態の車載用アンテナ装置100の概略構成を示す構成図であり、図2は、本実施形態の車載用アンテナ装置100を車体金属部10に近接させて配置したときの等価回路図である。
【0040】
第1の実施形態の車載用アンテナ装置200では、フィルタ216を同軸ケーブル120とアンプ回路113との間に配置していたが、本実施形態では、アンプ回路113と給電エレメント111及び無給電エレメント112との間に、フィルタ116を接続している。フィルタ116は、電流I5を低減しアンプ回路113へのコモンモードノイズの流入を阻止することができる。
【0041】
ノーマルモードノイズの発生源となる電流I5を低減するためには、電流I5が流れる線路(導通線路)のインピーダンスを高くするのがよい。但し、給電エレメント111のインピーダンスを高くすると、所望のアンテナ特性が劣化してしまうため、アンテナ特性に影響を与えることなく電流I5の導通線路のインピーダンスを高くする必要がある。そこで、本実施形態では、アンプ回路113と給電エレメント111及び無給電エレメント112との間にフィルタ116を接続している。フィルタ116として、バランを用いることができる。
【0042】
UHF帯あるいはそれより長波長を対象とするアンテナでは、金属が近接していると完全な平衡状態で動作することはできない。本実施形態の車載用アンテナ装置100でも、車体金属部10が近接しているため、完全な平衡状態で動作することはほとんどない。完全な平衡状態で動作できない条件で強制バランを用いると、アンテナエレメントの非平衡動作を阻害して良好なアンテナ特性が得られなくなる場合がある。
【0043】
そこで、本実施形態では、フィルタ116としてフロートバラン(チョークコイル)を用いている。フィルタ116として、アンテナエレメント111及び112とアンプ回路113との間にフロートバランを接続することにより、電流I4及びI5に対するインピーダンスが高くなり、電流I4及びI5が減少する。それにより外導体122から見たアンプ回路113側のインピーダンスが高くなり、電流I3も低減させることができる。これにより、同軸ケーブル120の配索位置に影響されることなく、従来のノイズ対策(第1の方法)と同様に、電流I3を低減させる効果を得ることができる。その結果、アンプ回路113から受信器130へ伝送されるノーマルモードノイズを低減することができ、良好なアンテナ特性が得られる。
【0044】
電流I3と電流I5との関係を次式に示す。
I5=I3・(Z_B+Z_G)/(Z_A+2・Z_B+Z_F+Z_G)
ここで、Z_Aはアンプ回路113の+側入力と−側入力との間の入力インピーダンス、Z_Bはフィルタ116のインピーダンス、Z_Fは給電エレメント111と車体金属部10との間のインピーダンス、及びZ_Gは無給電エレメント112と車体金属部10との間のインピーダンスである。
【0045】
フィルタ116によるノイズ低減効果を高めるためには、外導体122から見た回路基板114側のインピーダンスが高くなるようにフィルタ116のインピーダンスZ_Bを大きくするのがよい。その結果、I3を低減させることができる。ただし、Z_Bが十分大きい場合、上式より、インピーダンスZ_F、Z_Gの影響が相対的に小さくなることがわかる。これにより、従来のノイズ対策(第2の方法)であるインピーダンスZ_Gを小さくして電流I4を増加させる方法との併用は出来ないので、第一の実施形態に比べると、効果は限定的である。また、第一の実施形態の様に地板115を無給電エレメントの一部として設計することも出来ないためアンテナサイズも第一の実施例よりも小さくなる。
【0046】
上記のように、本実施形態の車載用アンテナ装置100によれば、回路基板114とアンテナエレメント111、112との間にフィルタ116を接続することにより、同軸ケーブル120の配索位置やアンテナユニット110の設置位置に影響されることなく、アンプ回路113が接続された線路側に流れる電流I5を低減することができる。その結果、アンプ回路113から受信器130に流れるノーマルモードノイズを低減することができ、良好なアンテナ特性が得られる。本実施形態の車載用アンテナ装置100は、同軸ケーブル120の配策位置等に影響されず、安定したアンテナ特性が得られる。また、アンテナユニット110の形状や搭載位置に制約が加えられることもない。
【0047】
本実施形態の車載用アンテナ装置200によるコモンモードノイズの低減効果を検証するために、車載用アンテナ装置200を車両に搭載して走行実験を行った。以下では、走行実験による検証結果について説明する。走行実験では、図5に示すように、アンテナユニット210をダッシュボード11に搭載し、受信器130を後部座席下に設置しており、その間を同軸ケーブル120で接続している。アンテナユニット210による受信信号を、ここでは東京タワーDTV放送電波27chとしている。
【0048】
走行実験を、図5(a)に示すように、同軸ケーブル120を車体金属部10に接触させて配索した場合(以下では、配索条件Aとする)と、同軸ケーブル120をダッシュボード11の近傍で長さ20cmだけ車体金属部10から浮かせ(この部分を、ケーブルたわみ部分12とする)、それ以外は車体金属部10に接触させて配索した場合(以下では、配索条件Bとする)について行っている。
【0049】
配索条件Bの場合には、同軸ケーブル120のケーブルたわみ部分12が、アンテナエレメント111、112と同様に、電波を受信する状態になっている。その結果、配索条件Bの場合には、配索条件Aの場合よりも受信電力が増大する。ダッシュボード11内には様々の電気配線が配索されており、その近傍では電磁ノイズレベルが高いことから、配索条件Bの場合にはノイズが受信されやすくなる。
【0050】
また、比較対象として、フィルタ216を有さない車載用アンテナ装置(以下では、比較例のアンテナ装置とする)を、本実施形態の車載用アンテナ装置200と同じ条件で車両に搭載して走行実験を行っている。各走行実験とも、車両の位置情報を得るためにGPSを搭載している。
【0051】
走行実験では、上記の条件に従って車載用アンテナ装置200を搭載した車両と、比較例のアンテナ装置を搭載した車両を、同一コースでそれぞれ走行させ、そのときの各アンテナの受信電力とCNR(Carrier vs. Noise Ratio)を測定している。そして、車載用アンテナ装置200と比較例のアンテナ装置のそれぞれについて、同一地点(GPS情報で判定)における配索条件Aの場合と配索条件Bの場合との受信電力及びCNRのそれぞれの差を算出している(それぞれ受信電力差分及びCNR差分とする)。
【0052】
同一、地点iにおける受信電力差分及びCNR差分は、それぞれ次式で算出される。
受信電力差分(地点i)=受信電力(配索条件B、地点i)
−受信電力(配索条件A、地点i)
CNR差分(地点i)=CNR(配索条件B、地点i)
−CNR(配索条件A、地点i)
上式の受信電力差分及びCNR差分が、車載用アンテナ装置200を搭載した場合と比較例のアンテナ装置を搭載した場合のそれぞれについて算出される。
【0053】
上記の受信電力差分を横軸にし、CNR差分を縦軸としてプロットした実験結果を図6に示す。受信電力差分及びCNR差分は、配索条件Bの場合のケーブルたわみ部分12による受信電力及びCNRの変化の影響の大きさを示していると考えられる。同図において、原点を通る傾き1の直線Cは、受信電力変化とCNRの変化が同じ場合にプロットされる位置である。つまり、直線C上からのプロットずれ量が、ケーブル配索条件AとBとの間のノイズ流入の差を示している。すなわち、プロットが直線C上に分布するときケーブルたわみ部分12によるノイズ変化の影響がないことを示している。
【0054】
図6(a)は、フィルタ216を有さない比較例のアンテナ装置を搭載したときの実験結果であり、図6(b)は、本実施形態の車載用アンテナ装置200を搭載したときの実験結果を示している。図6(a)より、フィルタ216を有さない場合には、実験データが直線Cよりも5dB程度右側に分布している。すなわち、同一の受信電力が得られた場合、ケーブルのたわみ部12によってCNRが5dB程度劣化することを意味している。フィルタ216を有さない場合には、ケーブルのたわみ等の配策条件によるノイズの流入を防げないことを示している。
【0055】
これに対し、フィルタ216を有する本実施形態の車載用アンテナ装置200では、直線Cの周辺にプロットが分布している。これは、フィルタ216を用いることで、ケーブルたわみ部分12でケーブルが受信したコモンモードノイズのアンプ回路への流入が低減されていることを示している。すなわち、アンプ回路113と同軸ケーブル120との間にフィルタ216を配置した本実施形態の車載用アンテナ装置200では、車体金属部10から流入するコモンモードノイズの影響を低減することができ、これにより同軸ケーブル120の配策条件等に影響されない安定したアンテナ特性を得ることが可能となる。
【0056】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る車載用アンテナ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における車載用アンテナ装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 車体金属部
11 ダッシュボード
12 ケーブルたわみ部分
100、200 車載用アンテナ装置
110、210 アンテナユニット
111 給電エレメント
112 無給電エレメント
113 アンプ回路
114 回路基板
115 地板
116、216 フィルタ
120 コネクタ付き同軸ケーブル
121 中心導体
122 外導体
130 受信器
140、240 受信システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電エレメントと無給電エレメントとを有するアンテナユニットと、裏面に地板を備える回路基板と、前記回路基板に搭載されて前記アンテナユニットで受信した受信信号を増幅するアンプ回路と、前記アンプ回路と受信器とを電気的に接続する同軸ケーブルと、を備える車載用アンテナ装置であって、
前記同軸ケーブルの外導体に混入するコモンモードノイズを低減するためのフィルタをさらに備える
ことを特徴とする車載用アンテナ装置。
【請求項2】
前記フィルタは、前記アンプ回路と前記同軸ケーブルとの間に接続され、前記給電エレメントが前記アンプ回路に接続され、前記無給電エレメントが前記地板に接続されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項3】
前記フィルタは、前記アンプ回路と前記アンテナユニットとの間に配置され、前記給電エレメントが前記フィルタを介して前記アンプ回路に接続され、前記無給電エレメントが前記フィルタを介して前記地板に接続されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項4】
前記給電エレメント及び前記無給電エレメントは、前記同軸ケーブルが前記アンプ回路に接続される接続方向に略平行に配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項5】
前記フィルタは、前記同軸ケーブルの外導体に混入するコモンモードノイズを遮断するコモンモードチョークコイルである
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項6】
前記フィルタは、前記同軸ケーブルの外導体から見た前記回路基板側のインピーダンスを高くするためのチョークコイルである
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項7】
前記アンテナユニットは、UHF周波数帯において広帯域な受信特性を有している
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の車載用アンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−151623(P2011−151623A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11281(P2010−11281)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】