説明

車載用カーペット及びその製法

【課題】 想定外の事態によって、運転者の靴の踵の支持部がアクセルペダル等に被さった状態で、アクセルペダルが踏み込まれた場合であっても、アクセルペダルの戻り操作を阻害することなく、車両の安全走行を確実に確保すると共に、全体の外観に統一性を有し、高い外観品質を備える、車載用カーペット、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットにおいて、上記パイル層には、上記パイル糸に合成樹脂が含浸されることにより、運転者の靴の踵の支持部が形成され、上記支持部は可撓性を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車室内のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペット、及びその製造方法であって、特に上記パイル層に運転者の靴の踵の支持部が形成された車載用カーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車の車室内のフロアパネル上には、所定の吸音部材が配置され、更に、上記吸音部材の上面側には、所謂ラインマットと称される下地用カーペットが敷設されている。
上記下地用カーペットの上面側には、車室内の外観品質の向上を目的として、いわゆるオプションマットと称される車載用カーペットが載置されている。
上記車載用カーペットとしては、基布層上にパイル糸が植設された、いわゆるタフテッドカーペットが広く用いられている。
【0003】
上記車載用カーペットは、運転席の下方において、下地カーペット上に載置される。
運転時において、アクセルペダルを踏む足の靴の踵は、通常、上記車載用カーペット上に常に当接した状態であり、ブレーキペダルとアクセルペダルの踏み替えを行う場合には、踵を軸に足首を回動させるか、若しくは踵を車載用カーペット上に当接したままスライドさせることによって、踏み込み位置を変更する。
このため、靴の踵の当接位置、及びその周辺は、上記靴の踵との摩擦によってパイル層が早期に磨耗し易く、他の部位が正常であっても、交換の必要が生じるという不具合を有していた。
【0004】
上記不具合を解決するため、図3に示すように、パイル層72の表面において、運転者の靴の踵が当接する位置含む所定の範囲に、透明樹脂シート73を溶着させることにより、運転者の靴の踵の支持部74を形成した、車載カーペット70が提案されている(特許文献1)。
図4に示すように、上記特許文献1に係る車載用カーペット70は、基布層71と、上記基布層71の表面側から裏面側に上記基布層71を貫通して植設され、合成樹脂製のパイル糸72aから形成されたパイル層72と、上記基布層71の裏面側に配設された裏面層75を備え、図3に示すように、上記車載カーペット70は、全体略長方形に形成され、図3中矢印Cの方向を、車両(図3には図示せず)の前方側に向け、運転席の下方の下地カーペット(図3には図示せず)上に載置されている。
【0005】
上記透明樹脂シート73は、横長長方形に形成された透明な塩化ビニル製シートから形成され、上記車載用カーペット70の長さ方向中央部の前端部寄りにおいて、運転者の足の靴の踵が当接しうる位置を含むように、外周縁部73a、及び上記車載用カーペット70の幅方向に沿って所定間隔寸法離間して配置された複数の溶着線73b、73b・・において、上記パイル層72の表面に溶着固定され、運転者の靴の踵の支持部74を形成している。
【0006】
従って、上記運転者の靴の踵の支持部74は、上記透明樹脂シート73によって運転者の靴の踵との摩擦から保護されることから、車載用カーペット70の耐久性が向上する。
しかしながら、図4に示すように、運転者の靴の踵の支持部74の表面においては、パイル層72が上記透明樹脂シート73によって押し潰されるため、上記運転者の靴の踵の支持部74は、上記パイル層72よりも低い位置に形成され、且つ上記運転者の靴の踵の支持部74の表面には、上記溶着線73b、73bによって、細畝上の凹凸が形成されている。
従って、上記透明樹脂シート73が透明であっても、上記運転者の靴の踵の支持部74は、上記パイル層72とは、明確に異なる外観を有し、車載用カーペット70全体としての色彩の統一感を阻害し、車載用カーペットの外観品質を低下させるという不具合を有していた。
【0007】
また、上記特許文献1に係る発明にあっては、上記運転者の靴の踵の支持部74は、透明樹脂シート73が上記パイル層72に強く圧接した状態で溶着され、これによりパイル層72が強く押し潰されていることから、剛性が極めて高く、可撓性をほとんど有していない。
【0008】
通常の使用状態にあっては、上記車載用カーペット70は、クリップ(図3、図4には図示せず)等によって、上記下地用カーペット(図3、図4には図示せず)上に固定されている。
従って、通常の使用状態において、上記車載用カーペット70が下地用カーペット上を滑動することは無い。
しかしながら、何らかの想定外の事態において、下地用カーペットとの固定が外れ、上記下地用カーペット上を、上記車載用カーペット70が滑動し、その結果、上記運転者の靴の踵の支持部74がアクセルペダル上に被さってしまう事象が発生する可能性を完全に否定することはできない。
上記のような、想定外の事態においては、アクセルペダルに上記運転者の靴の踵の支持部74が被さった状態のまま、上記運転者の靴の踵の支持部74の上から、アクセルペダルを踏み込んだ場合、上記運転者の靴の踵の支持部74が高い剛性を有していることから、運転席下の前端内壁、若しくは側内壁等に嵌り込んで固定され、アクセルペダルが踏まれた状態から戻る動作を阻害してしまい、車両が危険走行を行う可能性を否定できなかった。
【特許文献1】実開昭61−122129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、想定外の事態によって、運転者の靴の踵の支持部が、アクセルペダル等に被さった状態でアクセルペダルが踏み込まれた場合であっても、アクセルペダルの戻り操作を阻害することなく、車両の安全走行を確実に確保すると共に、全体の外観に統一性を有し、高い外観品質を備える、車載用カーペット、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した車載用カーペットは、自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットにおいて、上記パイル層には、上記パイル糸に合成樹脂が含浸されることにより、運転者の靴の踵の支持部が形成され、上記支持部は可撓性を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項1の発明にあっては、合成樹脂がパイル糸に直接含浸されることから、パイル層が押圧されて変形することは無い。
従って、上記運転者の靴の踵の支持部は、それ以外のパイル層と同等の柔軟な可撓性が保持され、何らかの想定外の事態が発生することによって、運転者の靴の踵の支持部がアクセルペダル等に被さり、そのままアクセルペダルを踏み込んだ場合であっても、上記運転者の靴の踵の支持部が、柔軟な可撓性を有することから、運転席下方の、車両前端内壁、若しくは側内壁等に嵌り込む可能性が無い。
また、上記パイル糸に合成樹脂を直接含浸させることから、上記運転者の靴の踵の支持部においても、パイル層の形状、及び色彩が大きく変化せず、上記運転者の靴の踵の支持部以外のパイル層と間で外観上の統一性が保持される。
【0012】
また、請求項2に記載した車載用カーペットは、上記運転者の靴の踵の支持部は、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が移動しうる範囲に亘って形成されていることを特徴とする。
【0013】
従って、運転操作中に、運転者の靴の踵が上記パイル層上を移動した場合であっても、上記運転者の靴の踵の支持部から外れることがない。
【0014】
また、請求項3に記載した車載用カーペットは、上記パイル糸に含浸される合成樹脂は、上記パイル層を形成する合成樹脂よりも低融点であることを特徴とする。
【0015】
従って、合成樹脂を加熱溶融させて上記パイル糸に含浸させた場合であっても、上記パイル糸が溶融することが無い。
【0016】
また、請求項4に記載した車載用カーペットは、上記液状化した合成樹脂は、液体アクリル樹脂であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載した車載用カーペットは、上記液状化した合成樹脂は、スチレンブタジエンゴムであることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載した車載用カーペットは、上記液状化した合成樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とする。
【0019】
また、請求項7に記載した車載用カーペットの製造方法は、自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットの製法であって、所定の合成樹脂を加熱、若しくは溶剤へ溶解させることによって液状化する合成樹脂液状化工程と、上記合成樹脂液状化工程によって液状化した合成樹脂を、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が当接する位置を含む所定の範囲に、塗布、若しくは噴霧することによって、上記パイル糸に含浸させる合成樹脂含浸工程と、上記合成樹脂含浸工程において上記パイル糸に含浸させた上記合成樹脂を乾燥させる乾燥工程とを備えることを特徴とする。
【0020】
従って、運転者の靴の踵の支持部の形成過程において、溶着工程が存在しないことから、複雑な製造装置は不要である。
上記パイル糸を押圧しないことから、パイル層が押し潰されることが無く、運転者の靴の踵の支持部を、柔軟な可撓性を保持した状態で形成することができる。
【0021】
また、請求項8に記載した車載用カーペットの製造方法は、自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットの製法であって、所定の合成樹脂を粒状化、若しくは粉末化し、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が移動しうる範囲に塗布する合成樹脂塗布工程と、上記合成樹脂塗布工程によって塗布された合成樹脂粉末を、加熱により溶融させ、上記パイル糸に含浸させる合成樹脂溶融含浸工程と、上記合成樹脂含浸工程において上記パイル糸に含浸させた上記合成樹脂を乾燥させる乾燥工程とを備えることを特徴とする。
【0022】
従って、含浸させる合成樹脂を予め加熱溶融等によって液状化しておく必要がない。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明にあっては、自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットにおいて、上記パイル層には、上記パイル糸に合成樹脂が含浸されることにより、運転者の靴の踵の支持部が形成され、上記支持部は可撓性を有していることから、上記支持部は、それ以外のパイル層と同様に柔軟な可撓性が保持され、何らかの想定害の事態が発生し、運転者の靴の踵の支持部がアクセルペダル等に被さった場合であっても、上記運転者の靴の踵の支持部が柔軟な可撓性を保持しているため、運転席下の前端壁若しくは側壁等に嵌り込む可能性が無い。
従って、アクセルペダルの戻り操作を阻害することないため、車両が危険走行を行う可能性がなく、極めて安全性が向上する。
加えて、パイル層の形状、及び色彩が大きく変化しないため、上記運転者の靴の踵の支持部とそれ以外のパイル層との間で外観上の統一性が保持され、高い外観品質を備えた車載用カーペットを提供することができる。
【0024】
また、請求項2の発明にあっては、上記運転者の靴の踵の支持部は、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が移動しうる範囲に亘って形成されていることから、運転時において、運転者の靴の踵位置が移動した場合であっても、上記運転者の靴の踵の支持部の範囲から外れることが無く、確実に上記パイル層を保護することができる。
【0025】
また、請求項3の発明にあっては、上記パイル糸に含浸される合成樹脂は、上記パイル層を形成する合成樹脂よりも低融点であることから、合成樹脂を加熱溶融させてパイル層に含浸させた場合に、上記パイル糸を構成する合成樹脂が溶融することが無いため、パイル糸の溶融によって、上記パイル層の可撓性が損なわれる事象が発生することが無い。
【0026】
また、請求項4から請求項6の発明にあっては、上記液状化した合成樹脂として夫々、液体アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリプロピレンを選択することができるから、パイル糸に含浸させる合成樹脂の素材を、上記パイル糸の素材に合わせて適宜選択することができる。
【0027】
また、請求項7の発明にあっては、自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットの製法であって、所定の合成樹脂を加熱、若しくは溶剤へ溶解させることによって液状化する合成樹脂液状化工程と、上記合成樹脂液状化工程によって液状化した合成樹脂を、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が当接する位置を含む所定の範囲に、塗布、若しくは噴霧することによって、上記パイル糸に含浸させる合成樹脂含浸工程と、上記合成樹脂含浸工程において上記パイル糸に含浸させた上記合成樹脂を乾燥させる乾燥工程とを備えていることから、運転者の靴の踵の支持部の形成過程において、溶着工程が存在しない。
従って、複雑な機械装置は不要であり、製造設備に大きな変更を加える必要が無いため、より製造コストが低い車載用カーペットの製造方法を提供することができる。
【0028】
また、請求項8の発明にあっては、自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットの製法であって、所定の合成樹脂を粒状化、若しくは粉末化し、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が移動しうる範囲に塗布する合成樹脂塗布工程と、上記合成樹脂塗布工程によって塗布された合成樹脂粉末を、加熱により溶融させ、上記パイル糸に含浸させる合成樹脂溶融含浸工程と、上記合成樹脂含浸工程において上記パイル糸に含浸させた上記合成樹脂を乾燥させる乾燥工程とを備えることから、含浸させる合成樹脂を予め液状化しておく必要が無い。
従って、製造工数が更に短縮され、製造コストを低減することが可能な、車載用カーペットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る車載用カーペットの一実施の形態を示し、実施例の形態における車載用カーペットの平面図である。
【図2】本発明に係る車載用カーペットの一実施の形態を示し、図1におけるB−B線の拡大断面図である。
【図3】従来の車載用カーペットの形態を示す平面図である。
【図4】図3のD−D線の拡大断面図である。
【図5】本実施例に係る車載用カーペットの製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、パイル糸に含浸させる合成樹脂としてアクリル樹脂を選択した場合を例に、添付図面を用いて説明する。
図2に示すように、本実施の形態に係る車載用カーペット10は、基布層11と、上記基布層11に植設された合成樹脂製のパイル糸12aにより形成されるパイル層12とを備え、上記パイル層12には、上記パイル糸12aにアクリル樹脂15が含浸されることにより、可撓性を有する運転者の靴の踵の支持部14が形成されている。
【実施例】
【0031】
上記形態の本実施例の構成について、添付図面を用いて詳述する。
【0032】
(1)車載用カーペット
図1は、本実施例に係る車載用カーペット10の平面図である。
図1に示すように、本実施例に係る上記車載用カーペット10は全体略縦長長方形に形成され、図中矢印Aの方向を車両前方に向け、車室内において運転席下方の下地用カーペット(図1には図示せず)上に載置されている。
【0033】
また、図2は、図1のB−B線拡大断面図を示している。
図2に示すように、上記基布層11は柔軟な不織布から形成されると共に、上記基布層11の裏面側11bには、可撓性を有するラバー材を等から形成された裏面層13が接着剤等を介して貼設固定されている。
また、パイル層12のパイル糸12aは、ポリプロピレンから形成され、上記基布層11の表面側11aから裏面側11bに、上記基布層11を貫通して植設されている。
【0034】
また、図1に示すように、上記運転者の靴の踵の支持部14は、上記パイル層12において、運転操作中に運転者の右足の靴の踵が移動する範囲に形成され、本実施例においては、上記車載用カーペット10の長さ方向中央部からやや前端部寄り、且つ幅方向中央部のやや右寄り位置において所定の長さ寸法、及び幅寸法の長方形状に形成されている。
【0035】
本実施例の作用について添付図面を用いて説明する。
図2に示すように、上記運転者の靴の踵の支持部14においては、アクリル樹脂15は、パイル層12のパイル糸12aの繊維内に含浸され、その後、乾燥させることによって、上記パイル糸12aが、上記アクリル樹脂15によって被覆された状態となる。
従って、上記アクリル樹脂15によって、上記パイル層12が保護され、靴の踵との摩擦に対する耐久性が向上する。
一方、図2に示すように、本実施例に係る車載用カーペット10は、運転者の靴の踵の支持部14において、パイル糸12aが押し潰されていないことから、上記運転者の靴の踵の支持部14においても、上記パイル層12の柔軟な可撓性が保持される。
【0036】
従って、何らかの想定外の事態の発生によって、上記車載用カーペット10が下地用カーペット上を滑動し、上記運転者の靴の踵の支持部14がアクセルペダルに被さった状態となり、その状態でアクセルペダルを踏み込んだ場合であっても、上記運転者の靴の踵の支持部14が、柔軟な可撓性を保持していることから、車室の前端内壁若しくは側内壁等に嵌り込んで固定されてしまう虞がない。
このため、アクセルペダルが元の位置に戻る付勢力によって、上記運転者の靴の踵の支持部14が上方に持ち上げられ、アクセルペダルは、速やかに元の位置に復帰することから、車両が危険走行をする虞がなく、走行時の安全性が向上する。
【0037】
また、上記アクリル樹脂15は無色透明であり、且つパイル糸12aに直接含浸させることから、上記運転者の靴の踵の支持部14において、パイル層12の形状及び色彩に大きな変化が発生しない。
従って、上記運転者の靴の踵の支持部14とそれ以外のパイル層12との間で、外観上の差が発生せず、車載用カーペット10の全体として、外観が統一され、高い外観品質を確保することができる。
【0038】
(2)車載用カーペットの製造方法
上記実施例に記載した車載用カーペットの製造方法40について、添付図面を用いて説明する。
図5は、本実施例に係る車載用カーペットの製造方法40の、製造工程を示すフローチャートである。
図5に示すように、パイル糸12aに含浸させるアクリル樹脂15(図5には図示せず)は、アセトン等の溶剤に溶解させることによって液状化される(合成樹脂液状化工程41)。
上記合成樹脂液状化工程41によって液状化されたアクリル樹脂15は、上記パイル層12(図5には図示せず)の表面において、運転者の靴の踵の支持部14を形成する所定範囲に亘って塗布若しくは噴霧され、上記アクリル樹脂15が、パイル糸12aの繊維内に含浸する(合成樹脂含浸工程42)。
更に、上記合成樹脂含浸工程42で上記パイル糸12aに含浸されたアクリル樹脂は、揮発溶剤を揮発させることによって乾燥される(乾燥工程43)。
【0039】
なお、図5に示す、合成樹脂液状化工程41を、合成樹脂15を加熱溶融させることによって行うこともできる。
但し、この場合には、図2に示すように、溶融した合成樹脂15を、上記パイル糸12aに含浸させる際に、上記パイル糸12aを溶融させないため、含浸する合成樹脂15は、パイル糸12aを形成する合成樹脂よりも低融点の素材を選択する必要がある。
【0040】
一方、所定の溶剤に溶解させることによって、合成樹脂液状化工程41を行う場合には、アクリル樹脂の他、スチレンブタジエンゴム等、パイル層よりも高融点であり、且つ適切な溶媒を有する合成樹脂を選択することもできる。
【0041】
また、図2に示すように、上記パイル糸12aよりも、低融点の合成樹脂15を用いる場合には、図5に示すように、パイル糸12aに含浸させる合成樹脂15を、予め粒状化、若しくは粉末化して、上記パイル層12の表面において、運転者の靴の踵の支持部14を形成する所定範囲に塗布し(合成樹脂塗布工程44)、上記合成樹脂塗布工程44によって、塗布された合成樹脂15を、ヒーター等(図示せず)によって加熱溶融させて、上記パイル糸12aに含浸させ(合成樹脂溶融含浸工程45)、上記合成樹脂溶融含浸工程45で、含浸させた合成樹脂15を乾燥させることによって(乾燥工程43)、運転者の靴の踵の支持部14形成することもできる。
【0042】
また、ポリプロピレンのように、160℃前後の高い融点を有するホモポリマー(所謂高融点ポリプロピレン)と、比較的低い融点を有するコポリマー(共重合体、所謂低融点ポリプロピレン)のように、複数種類の素材がある場合には、同一系統の素材を、パイル層と、上記パイル層に含浸させる合成樹脂に、夫々適用することも可能である。
【0043】
本実施例に係る製造方法によれば、図2に示すように、アクリル樹脂15は、均一にパイル糸12aに含浸され、上記パイル糸12aの表面を均一に被覆することから、パイル層12は、柔軟な可撓性を保持しつつ、運転者の靴の踵の支持部14におけるパイル層12の耐久性のみを選択的に向上させることができる。
また、溶着工程等の複雑な工程が不要であるため、既存設備の変更が軽微であり、その結果、製造コストを低減することが可能となる。
【0044】
なお、運転者の靴の踵の支持部の大きさ寸法については、車室内形状、アクセルペダル及びブレーキペダルの設置位置、車載用カーペットの全体形状、及び運転者の体格等に応じて、最適な大きさに適宜調整することができる。
【0045】
また、基布層の裏面側に配設された裏面層は、必須構成ではなく、下地用カーペットに対して、所定の滑り止め効果を確保することが可能であれば、省略することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、自動車の車室内のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置される車載用カーペット及びその製造方法に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 車載用カーペット
11 基布層
11a基布層の表面側
11b基布層の裏面側
12 パイル層
12aパイル糸
13 裏面層
14 運転者の靴の踵の支持部
15 合成樹脂(アクリル樹脂)
40 車載カーペットの製造方法
41 合成樹脂液状化工程
42 合成樹脂含浸工程
43 乾燥工程
44 合成樹脂塗布工程
45 合成樹脂溶融含浸工程
70 車載用カーペット
71 基布層
72 パイル層
72aパイル糸
73 透明樹脂シート
73a透明樹脂シートの外周縁部
73b溶着線
74 運転者の靴の踵の支持部
75 裏面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットにおいて、
上記パイル層には、上記パイル糸に合成樹脂が含浸されることにより、運転者の靴の踵の支持部が形成され、上記支持部は可撓性を有していることを特徴とする車載用カーペット。
【請求項2】
上記運転者の靴の踵の支持部は、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が移動しうる範囲に亘って形成されていることを特徴とする請求項1記載の車載用カーペット。
【請求項3】
上記パイル糸に含浸される合成樹脂は、上記パイル層を形成する合成樹脂よりも低融点であることを特徴とする請求項1記載の車載用カーペット。
【請求項4】
上記パイル糸に含浸される合成樹脂は、アクリル樹脂であることを特徴とする請求項1記載の車載用カーペット。
【請求項5】
上記パイル糸に含浸される合成樹脂は、スチレンブタジエンゴムであることを特徴とする請求項1記載の車載用カーペット。
【請求項6】
上記パイル糸に含浸される合成樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1記載の車載用カーペット。
【請求項7】
自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットの製法であって、
所定の合成樹脂を加熱、若しくは溶剤へ溶解させることによって液状化する合成樹脂液状化工程と、
上記合成樹脂液状化工程によって液状化した合成樹脂を、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が移動しうる範囲に、塗布、若しくは噴霧することによって、上記パイル糸に含浸させる合成樹脂含浸工程と、
上記合成樹脂含浸工程において上記パイル糸に含浸させた上記合成樹脂を乾燥させる乾燥工程とを備えることを特徴とする車載用カーペットの製造方法。
【請求項8】
自動車のフロアパネルに敷設された下地用カーペット上に載置され、基布層と、上記基布層に植設された合成樹脂製のパイル糸により形成されるパイル層とを備えた車載用カーペットの製法であって、
所定の合成樹脂を粒状化、若しくは粉末化し、上記パイル層の表面において、運転者の靴の踵が移動しうる範囲に塗布する合成樹脂塗布工程と、
上記合成樹脂塗布工程によって塗布された合成樹脂粉末を、加熱により溶融させ、上記パイル糸に含浸させる合成樹脂溶融含浸工程と、
上記合成樹脂含浸工程において上記パイル糸に含浸させた上記合成樹脂を乾燥させる乾燥工程とを備えることを特徴とする車載用カーペットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131450(P2012−131450A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287314(P2010−287314)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(595032152)大伸工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】