説明

車載用カーペット

【課題】 パイル糸固着用に別途の材料を使用することなく、且つ簡単な工程でパイル糸を基布に固着することが可能な、車載用タフテッドカーペットのパイル糸固着構造を提供する。
【解決手段】 自動車のフロアパネル上に敷設された下地用カーペット部材上に載置される車載用カーペットのパイル糸の固着構造であって、基布と、上記基布の表面側から裏面側に上記基布を貫通して植設され、熱可塑性樹脂からなるパイル糸とから形成され、上記基布の裏面側において、上記パイル糸のバックステッチ部には、加熱溶融後冷却されることにより溶融塊部が形成され、上記溶融塊部によって上記パイル糸と上記基布とが互いに固着された構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車室内の床面上に載置される車載用カーペットに係り、特に基布にパイル糸を植設したタフテッドカーペットのパイル糸の固着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車車室内の床面は、フロアパネル上に、所定の吸音部材が配置され、更に上記吸音部材の上面側にはいわゆるラインマットと称される下地用カーペット部材が敷設されている。
上記下地用カーペット部材の上面側には、車室内の外観品質の向上を目的として、いわゆるオプションマットと称される車載用カーペットが敷設されており、一般的に上記車載用カーペットとして、基布上にパイルがされた、いわゆるタフテッドカーペットが用いられている。
【0003】
タフテッドカーペットの場合、基布に植設されたパイル糸が抜け易いことから、基布の裏面側にてパイル糸の抜け落ち防止加工を行う必要がある。
抜け落ち防止処理としては、ラテックス等の接着剤を基布の裏面側に塗布することによってコーティングして固着する方法がとられるが、ラテックス材からは揮発性有機化合物(VOC)が発生するため、人体に有害であるという不具合を有していた。
裏打ち材を溶融させることによって、裏打ち材の溶融層を形成し、上記溶融層によってパイル糸を基布に固着した車載用カーペットが提案されている(特許文献1)。
【0004】
図3は、上記特許文献1に係る車載用カーペット70のパイル糸74の抜け落ち防止構造を示す厚さ方向断面図である。
図3に示すように、従来の車載用タフテッドカーペット70は、基布71の裏面側73に、予め不織布からなる裏打ち材76を圧着固着し、上記裏打ち材76が圧着された状態で、上記基布71の表面72からパイル糸74をタフティングする。
上記パイル糸74のタフティングが完了した後に、上記基布71の裏面側73から上記裏打ち材76を加熱することにより、上記裏打ち材75の裏面側繊維が溶融して融着層77が形成される。
上記融着層77によって、上記パイル糸74のバックステッチ部75が固着され、基布71からパイル糸74が抜け落ちることを防止している。
【0005】
特許文献1に係る車載用カーペットは、ラテックス等の接着剤を用いることなく、パイル糸の抜け落ち防止加工ができることから、製造過程において、ラテックスより発生する揮発性有機化合物(VOC)を削減することが可能となる。
しかしながら、パイル糸をタフティングする前に、予め裏打ち材を圧着しておく必要があることから、全体の製造工数が大きくなると共に、材料コストが高くなるという不具合を有していた。
【特許文献1】特許3659433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の技術的課題は、パイル糸の固着用に別途の材料を使用することなく、且つ簡単な工程でパイル糸を基布に固着することが可能な、車載用タフテッドカーペットのパイル糸固着構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した車載用タフテッドカーペットのパイル糸固着構造にあっては、自動車のフロアパネル上に敷設された下地用カーペット部材上に載置される車載用カーペットのパイル糸の固着構造であって、
基布と、上記基布の表面側から裏面側に上記基布を貫通して植設され、熱可塑性樹脂からなるパイル糸とから形成され、上記基布の裏面側において、上記パイル糸のバックステッチ部には、加熱溶融後冷却されることにより溶融塊部が形成され、上記溶融塊部によって上記パイル糸と上記基布とが互いに固着されることを特徴とする。
【0008】
従って、パイル糸は、基布の裏面側において、上記パイル糸のバックステッチ部が加熱により一旦溶融し、再び固化する過程において、上記基布の裏面側に溶融塊部が接着し、パイル糸と基布の裏面側とが互いに固着される。
【0009】
また、請求項2に記載した車載用タフテッドカーペットのパイル糸固着構造にあっては、上記パイル糸はポリエステルから形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載した車載用タフテッドカーペットのパイル糸固着構造にあっては、上記パイル糸はポリエチレンテレフタレートから形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載した車載用タフテッドカーペットのパイル糸固着構造にあっては、上記パイル糸はポリアミド樹脂から形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載した車載用タフテッドカーペットのパイル糸固着構造にあっては、上記パイル糸には、ポリ乳酸樹脂が含有されていることを特徴とする。
【0013】
ポリ乳酸樹脂とは、乳酸がエステル結合によって重合して形成された高分子であるポリ乳酸を原料とし、ポリエステル類に分類される樹脂である。
上記ポリ乳酸は、生分解プラスチックとして知られているが、その分解速度は極めて遅く、通常の環境下においては、他のプラスチック類と同様に安定である。
従って、焼却廃棄物の削減と言う観点においては、大きな二酸化炭素(CO2)削減の効果は無いが、植物由来の成分で生成できることから、製造過程におけるCO2と、植物が吸収する二酸化炭素とを相殺して考えることによって、削減すことが可能な、所謂カーボンニュートラルの素材として注目されている材料である。
本発明にあっては、パイル糸にポリ乳酸を含有させることによって、製造過程において発生する二酸化炭素の一部が、材料となる植物の生育過程において吸収される二酸化炭素によって相殺される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜5記載の発明にあっては、基布と、上記基布の表面側から裏面側に上記基布を貫通して植設され、熱可塑性樹脂からなるパイル糸とから形成され、上記基布の裏面側において、上記パイル糸のバックステッチ部には、加熱溶融後冷却されることにより溶融塊部が形成され、上記溶融塊部によって上記パイル糸と上記基布とが互いに固着されることから、パイル糸と基布とは、基布の裏面側に形成されたパイル糸の溶融塊部のみの接着作用によって固着される。
従って、パイル糸と基布との固着のために、別途の材料を一切使用することなく、且つ簡単な工程でパイル糸を基布に固着することが可能な、車載用タフテッドカーペットのパイル糸固着構造を提供することができる。
【0015】
特に、請求項5に記載の発明にあっては、パイル糸にポリ乳酸を含有させることによって、材料の一部をカーボンニュートラルな素材に置換できることから、製造時に発生する二酸化炭素を相対的に減少させることができるため、より環境負荷の低い車載用カーペットのパイル固着構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車載用カーペットのパイル糸の固着構造の一実施の形態を示し、実施例に形態における車載用カーペットの下方斜視図である。
【図2】(a)は、図1のA−A線断面図、(b)は基布の表面側のパイル糸がリング状に形成されている場合における、(a)と同様の構図の厚さ方向断面図である。
【図3】従来の車載用カーペットの厚さ方向断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、パイル糸がポリ乳酸を含有するポリエチレンテレフタレートで形成されている場合を例として、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る車載用カーペット10は、基布11と、上記基布11の表面側12から裏面側13に上記基布11を貫通して植設され、熱可塑性樹脂からなるパイル糸14とから形成されている。
上記基布11の裏面側13において、上記パイル糸14のバックステッチ部15には、加熱溶融後冷却されることにより溶融塊部16が形成され、上記溶融塊部16によって上記パイル糸14と上記基布11とが互いに固着されている。
また、上記パイル糸14には、ポリ乳酸樹脂が所定量含有されている。
【実施例1】
【0018】
上記形態による車載用カーペットのパイル糸の固着方法の形態について図面を用いて詳述する。
【0019】
図1は、本発明に係る車載用カーペット10のパイル糸14の固着構造の示し、本実施例に係る車載用カーペット10の下方斜視図である。
また、図2(a)は、図1のA−A線断面図、(b)は、基布の表面側のパイル糸がリング状に形成されている場合における、(a)と同様の構図の厚さ方向断面図を示している。
図2(a)は、基布11の表面側12において、パイル糸14のリング上端部がカットされた、所謂カットパイルの形態例を示し、(b)はパイル糸14の先端がリング状に形成された所謂ループパイルの形態例を示している。
上記図2(a)、(b)いずれの形態であっても、バックステッチ部15、及び溶融塊部16の構成は同様となることから、実施例の作用及び効果も同様である。
【0020】
本実施例の構成について添付図面を用いて説明する。
図1に示すように、基布11はポリエステル繊維の不織布からなり、厚さ寸法約1mmの薄板状に形成され、上記パイル糸14は専用のタフティング針(図示せず)により、上記基布11にタフトされている。
上記基布11の裏面側12において、タフトされた上記パイル糸14のバックステッチ部15は加熱により溶融後、冷却固化し、溶融塊部16が形成されている。
また、図1に示すように、上記溶融塊部16は、上記基布の裏面側において、パイル糸14のタフト列に沿って形成されている。
【0021】
上記パイル糸14のバックステッチ部15を加熱溶融させる方法としては、加熱したドラム(図示せず)にパイル糸14をタフトした基布11の裏面側13を巻装した上で、上方から圧接する方法、若しくは基布11の裏面側13を電熱線等の所定の加熱手段で溶融後、上下方向からプレスする方法等、任意の方法を選択することでき、いずれの手段で溶融塊部16を形成した場合であっても、本実施例の作用および効果に変化はない。
但し、何れの手段を選択する場合であっても、溶融したバックステッチ部15の溶融物を上記基布11の繊維中に確実に浸透させるために、溶融したバックステッチ部15が冷却されるまでの工程において、溶融したバックステッチ部15を基布11の裏面側12にプレス等によって圧着する工程は必須である。
【0022】
上記の通り、図2(a)、(b)に示すように、基布11の不織布繊維の中に上記パイル糸14を加熱溶融させることによって、溶融したパイル糸14が基布11の繊維内部に浸透し、その後、冷却されることによって、上記溶融物が上記基布11の内部に浸透したまま固化する。
従って、上記溶融塊部16によって、基布11と上記パイル糸14のバックステッチ部15とは、互いに強固に固着される。
【0023】
以上のように、パイル糸を基布に固着する為に、ラテックス等の接着剤は一切不要であり、且つ図3に示す従来の車載用カーペットとは異なり、パイル糸を固着するために、別途裏打ち材を準備する必要もないことから、車載用カーペットの製造時の材料コストが削減できると共に、製造工数も削減できるため、製造過程全体のコストを低減することが可能である。
また、裏打ち材が不要であるため、薄く、非常に柔軟な車載用カーペットを提供することができる。
【0024】
また、パイル糸の繊維中へ、ポリ乳酸の含有させる形態としては、ポリエチレンテレフタレート等で形成された円筒形の外郭の内部にポリ乳酸樹脂が注入された形態、若しくは、小粒子状に加工されたポリ乳酸樹脂をポリエチレンテレフタレート等の素材に練り込んで繊維化加工した形態等、任意の形態を選択することができる。
【0025】
また、パイル糸の素材としては、本実施例に示すポリエチレンテレフタレートの他、その他のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等、熱可塑性の合成樹脂であれば、適宜選択することができる。
【0026】
また、本実施例に示した基布の素材及び厚さ寸法はあくまで一例であり、必要に応じて最適な素材及び厚さ寸法を選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は自動車の車室内の床面上に載置される車載用カーペットに係り、特に基布にパイル糸を植設したタフテッドカーペットのパイル糸の固着構造に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 車載用カーペット
11 基布
12 基布の表面側
13 基布の裏面側
14 パイル糸
15 バックステッチ部
16 溶融塊部
70 車載用カーペット
71 基布
72 基布の表面側
73 基布の裏面側
74 パイル糸
75 バックステッチ部
76 裏打ち材
77 融着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のフロアパネル上に敷設された下地用カーペット部材上に載置される車載用カーペットのパイル糸の固着構造であって、
基布と、上記基布の表面側から裏面側に上記基布を貫通して植設され、熱可塑性樹脂からなるパイル糸とから形成され、
上記基布の裏面側において、上記パイル糸のバックステッチ部には、加熱溶融後冷却されることにより溶融塊部が形成され、
上記溶融塊部によって上記パイル糸と上記基布とが互いに固着されることを特徴とする車載用カーペットのパイル糸の固着構造。
【請求項2】
上記パイル糸はポリエステルから形成されていることを特徴とする請求項1記載の車載用カーペット。
【請求項3】
上記パイル糸はポリエチレンテレフタレートから形成されていることを特徴とする請求項2記載の車載用カーペットのパイル糸の固着構造。
【請求項4】
上記パイル糸はポリアミド樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1記載の車載用カーペットのパイル糸の固着構造。
【請求項5】
上記パイル糸には、ポリ乳酸樹脂が含有されていることを特徴とする請求項2から請求項4いずれか1項に記載の車載用カーペットのパイル糸の固着構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−65890(P2012−65890A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213906(P2010−213906)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(595032152)大伸工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】